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『L.A.ノワール』濃い顔の連中が生々しくわめく、怒る、嘘をつく! 現代的ノワールを実現したR★的刑事捜査アドベンチャー

Text by ミル☆吉村

公開日時:2018-08-30 12:00:00

 大都市ロサンゼルスの優雅な顔の裏に潜む退廃、灰皿からたちのぼるタバコの煙、路地を逃走する男、夜を切り裂くクラクション、線路沿いに転がる変死体、群がる野次馬、漂うジャズの余韻、激昂する参考人、暗がりにたたずむ女、捨てられた薬莢。

 『L.A.ノワール』は、タールのような“ノワール”度を誇るアクションアドベンチャーゲームである。

 本作が発売されたのは2011年。プレイステーション3とXbox 360向けに発売されたのち、海外ではPC版が発売。そして2017年にリマスターされたプレイステーション4版とXbox One版、さまざまな操作モードなどが追加されたNintendo Switch版や、厳選した事件をVRに対応させたバージョン『L.A.ノワール:VR事件簿』も発売されている。

 舞台は1947年、戦後間もない混乱期のロサンゼルス。ロス市警(LAPD)でさまざまな事件の捜査に挑むコール・フェルプスの活躍を描く。ゲームは事件ごとに進行する形となっており、まずは新米警官として赴任するフェルプスの昇進・転属に合わせてパトロール課、交通課、殺人課、風紀犯罪課、放火特捜課の5つの章立てで進行していく。

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“警察版『GTA』”ではなく、むしろ“R★的刑事捜査アドベンチャー”

 そのゲーム内容、本作がロックスター・ゲームスのタイトルであり、その代表作『グランド・セフト・オート』(以下、『GTA』)シリーズ同様にフィールドがオープンワールドで構築されていることもあって、意外と“1940年代警察版『GTA』”的な勘違いをされることが多かったのは否めない。

 しかし、『L.A.ノワール』はあくまで警察官としての推理アドベンチャー的な要素が強いゲームだ。話の進行も犯行現場などの訪れるロケーションも、圧倒的に事件中心で進んでいく。事件と直接関係のない場所について、ランドマーク訪問などの実績解除以外で寄り道するゲーム的メリットはあんまりない。自由度の高いクライムアクションゲームとしてミッション外で広大なフィールドをフリーロームして気ままにいろんなアクティビティに挑める『GTA』と『L.A.ノワール』とは、作りもコンセプトも基本的に異なるのだ。

 ちょっとランダムなものとして、事件の調査途中に発生した強盗犯などに対処する“路上犯罪”というプレイ要素があるが、これもあくまで各章の進行と連動したサイドミッション的な扱いのもの。本作にはカーチェイスも銃撃戦もあるが、それらはすべて大なり小なり事件解決のためにやるものなんである。

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 というわけで、もし『L.A.ノワール』をやったことがない人に本作を説明するなら、「刑事ものの連続ドラマのエピソードのように、正義に燃える刑事コール・フェルプスとしてロールプレイしながら毎回ノワール的事件に挑んでいくアクションアドベンチャーゲーム」だと言うのが適切だろう。

ノワールな濃い顔たちが、語る、怒る、嘘をつく。

 本作のもっともユニークな特徴は、演者による体の動きの演技を取り込むモーションキャプチャー以外に、表情の演技を取り込む“MotionScan”技術を採用し、微細な表情の変化や呼吸の間さえも伝わってきそうな表現可能にしたことにある。

 ”フェイシャルキャプチャー”などと呼ばれ、現在では超大作ゲームで見ることも増えたこの手法だが、当時は画期的なもの。事件のたびに濃いぃノワール面(ヅラ)の信用ならない面々が登場し、ツバが飛んできそうな生々しさでわめきまくるのが個人的に実に最高だった。

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 本作ではさらにその長所を活かしたゲームプレイとして、その生々しい表情の変化を読み取りながら進めていく取り調べシーンがフィーチャーされているのだが、これはジャンル的にもマッチしていた。

 というのも、推理モノのゲームで「都合の悪いことを聞かれた参考人の表情が変わる」といった表現は珍しくないが、これまではゲーム的にハッキリわからせるために大げさで、時にコミカルなものにならざるをえなかった。でも本作では、表情のわかりやすい変化だけに頼らずとも、ちょっとした話の間や勢いや視線のそらしなんかも使って違いを伝えることができる。

 フェルプスの問いかけに対し「刑事さん、俺は関係ねぇって言ってんだろ!」とかなんとかわめいていたのが、別の質問で微妙にトーンが変わったりするんだから、「さっきまでの勢いはどうした? 待てよ、確か聞き込みした中にホシの矛盾を立証できるものがあったはずだ……」とロールプレイにも精が出るってもんである。

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ノワール的漆黒が生み出す犯罪に立ち向かえ

 そもそも「ノワール」とはなんだろうか? この言葉は“黒”を意味するフランス語から来ており、一般的には1940年代前後のアメリカの犯罪映画(フィルム・ノワール)や、ハードボイルドな暗黒小説(ロマン・ノワール)の世界などがイメージされる。

 そしてこれらの作品で(時にそこで描かれる犯罪そのものよりも)重要なのが、それを引き起こす人間の闇や軋轢、華やかな影の虚飾、翻弄する妖艶な運命の女(ファム・ファタール)と破滅、そしてさまざまな思惑の渦巻く嘘や裏切りといった、虚無的な世界の描写だ。

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 これに従って解釈し直すと、『L.A.ノワール』とはつまり、正義心に燃えるフェルプスを通じて、華やかなLAの裏に潜むノワール的漆黒が生み出す犯罪に立ち向かっていく物語だ。だからこそMotionScanによる一癖も二癖もありそうな濃い人物表現が、テーマ的にも重要だったのである。

 あくまで個人的推測だが、オーストラリアにあったTeam Bondiによる本作をロックスター・ゲームスがプロデュースするに至ったのは、MotionScanによってノワール映画的な深く複雑なキャラクター表現が可能となるだけでなく(ロックスター・ゲームスの制作陣が映画好きで知られるのはご存知の通り)、それが同時にちゃんと推理アドベンチャーゲームとしての新しい挑戦にもなっていたからではないだろうか。

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 なお、フィルム・ノワールとしては後期の作品になるが、オーソン・ウェルズ監督による1958年作品『黒い罠』(原題: Touch of Evil)がNetflixで配信されていたりするので、気になる人はチェックしてみてはいかがだろうか。

 ちなみにこの作品の舞台はメキシコとの国境近くという設定なのだが、撮影が実際に行われたのはロサンゼルスのヴェニス地区。現在はダウンタウンの喧騒から離れた高級リゾートとして知られる一帯だが、当時は不況で荒れ果てており、ちょうど国境付近の寂れた街に見えたので問題なかったらしいという、何か縁を感じるエピソードもあったりする。

 また『L.A.ノワール』同様にノワール作品に影響された新時代の作品(ネオ・ノワール)の中でLAを舞台にしたものとして、ジェイムズ・エルロイの同名小説を原作にした1997年の映画『L.A.コンフィデンシャル』も欠かせない。昨年に20周年記念のブルーレイ盤が出ているほか、こちらもNetflixで配信されているので手に取りやすい作品だ(同原作のドラマ版の話もあったが、どうも制作が難航しているそうである)。

VR版や初の携帯機版も登場したリマスター世代の『L.A.ノワール

 冒頭で2017年に現行機に対応したリマスター版などが登場したことに触れたが、この世代の『L.A.ノワール』についても触れておきたい。

 まずプレイステーション4/Xbox One版は、ライティングの改善やテクスチャーの高解像度化などが施された、いわゆるリマスター版となる。PS4 Pro/Xbox One Xでは4K解像度でのプレイにも対応している。

 そしてNintendo Switch版は、ジェスチャー操作やタッチでの項目選択など、ハードに合わせてさまざまな操作方法を追加したバージョン。TVモードでは1080P、携帯モードでは720Pの動作となる。

 やはり携帯モードでどこでもプレイできるというのは魅力的だ。GTAシリーズとは異なり事件ごとにきっちり区切られて進んでいくゲームなので、スリープ機能を使いながらちょっとした空き時間にプレイしていくのもアリなんじゃないだろうか。

 そして、体験できる機会があれば遊んでみるのをオススメしたいのが、PC用VRヘッドマウントディスプレイのHTC ViveとOculus Riftに対応したVR版だ。こちらはほかのリマスター版とは異なり、完全にVRに合わせて作り直されているバージョンで、VR化に合わせて事件の展開が微妙に異なっていたり、そもそもVR設計にしやすいものを厳選して収録する形となっている。

『L.A.ノワール: VR事件簿』クリップ

 これまで三人称視点だったのも一人称視点に直されていて、取り調べシーンも目の前のキャラがこっちに向かって語りかけてくる。ここまで語ってきたような“濃い顔のキャラが濃い演技をする”『L.A.ノワール』の世界にVRならではの実在感が加わることで、さらに一段階上の特濃バージョンになっているのだ。

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 もちろん取り調べシーンだけでなく、銃撃シーンやステゴロの喧嘩シーンまでもが、ちゃんと自分の手(ハンドコントローラー)を使って撃ったり殴ったりするようになっているというファンキーぶり。「俺がLAPD○○課のフェルプスだ!」という気分で暴れよう。

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 VRに合わせた調整はそのほかにもいろいろあって、移動モードが複数用意されていたり、あまり動き回らなくてもいいモードや、物を取ったり動かしたりしやすいオプションが用意されていたりと、快適性や酔い対策がいろいろ考慮されている。クルマの運転も、運転席をよくみると「WARP」と書かれたワープ用の札が下がっていたりして、オリジナル版同様に省略可能だ。

 まぁVRになると捜査で詰まったりしたときの「これ以上どこで何見つければいいワケ?」という困惑もパワーアップしたりするし、そもそも要素を絞ったバージョンなので万人にオススメできるわけではないが、ベテラン捜査官諸氏には一度トライしてみて欲しいノワール体験だ。

いい警官と悪い警官

 話が変わるが、本作での取り調べシーンでは、取り調べ対象の反応に対して「信じる」、「疑う」、「反証する」という3つの選択肢を取ることができる。ここで「疑う」を選んだ時に“それまで穏やかに話を聞いていたフェルプスが突然切れてエグい罵倒をし始める”といった展開になる事があり、これに違和感を感じる人も少なくなかった。

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 実はこの3つの選択肢、海外リマスター版やVR版ではそれぞれ“GOOD COP”、”BAD COP”、”ACCUSE”となっていて、前者ふたつは警察モノの伝統的な心理的トリック「いい警官/悪い警官」になぞらえたものとなっている。

 「いい警官/悪い警官」とは昔の刑事ドラマでよくある表現で、暴力的だったり侮辱的な言葉を使う「悪い警官」が心理的に追い詰めたあとで、優しげな「いい警官」が「郷里の母さんが悲しむぞ」とかなんとか諭し、その落差を使って自白などを引き出すというもの。

 その逆バージョンもあり、一線を越えることのない「いい警官」が離席すると「悪い警官」による拷問が始まるといったような描写がそれ。例えばバットマン映画『ダークナイト』では、ジョーカーの尋問シーンで突然バットマンがバッドコップ(悪い警官)ならぬ”バットコップ”とばかりに登場し、手荒に扱われるというジョークシーンにもなっている。

 本題に話を戻すと、どうも本作の取り調べパートは元から「信じる」と「疑う」というゲーム的な選択に、「いい警官」と「悪い警官」の役割を重ねてセリフが書かれていたんじゃないかと思う。実際、「疑う」の時の態度も「疑わしい相手から証言を引き出すために強めの態度を取ってみせているんだ」という見方をすればある程度、納得がいく。

 しかし、本来は複数人で役割分担する「いい警官/悪い警官」がフェルプスひとりに重ね合わされているので、彼が事件解決のためにそうしているのだと察知できないと、「いい警官」モードから「悪い警官」モードになったフェルプスに驚くのも当然だ。そこで海外リマスター版ではストレートに「いい警官/悪い警官」のメタファーで選ばせることにしたんだろう。

 個人的にはこのパートの設計、『L.A.ノワール』では相棒がいることも多いのだから、そもそも一人二役にしないで、「悪い警官」を選んだときにフェルプスの代わりに罵倒してくれる「悪い警官」キャラを分ければよかったような気がしないでもない。

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過去の闇が男たちを追いかける

 『L.A.ノワール』では、冒頭からその回の事件とは直接関係のなさそうなフェルプスの士官学校時代の回想シーンがたびたび再生され、また“新聞”を拾う度にとある元兵士や精神科医についてのストーリーが挿入される。なぜそれが流れるのか、困惑する人もいるだろう。しかしこれらのエピソードこそが、まさに『L.A.ノワール』の最深部に流れる真のノワール的暗部なのだ。

 ロックスター・ゲームスのほとんどの作品において、決定的な栄光を掴み取る者はあまりいない。それは『L.A.ノワール』においても同様だし、むしろ本作がノワール作品であるからにはある意味当然と言えるだろう。物語の終盤、正義漢として描かれていたフェルプスが沖縄に置いてきたはずの過去が、彼を追い詰めていく。誰もノワールの漆黒から簡単に逃げることはできないのである。


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