2023年4月24日に5周年を迎える、アイドル育成&ライブ対戦ゲーム『アイドルマスター シャイニーカラーズ』(以下、『シャニマス』)。それを記念して、『シャニマス』プロデューサーの高山祐介氏と開発スタッフの稲垣敬也氏へのインタビューをお届け。プランナーやデザイナーとして活躍している稲垣氏と高山氏が本作の制作で大切にしていることを聞いた。

※本インタビューは3月下旬に実施しました。
※本インタビューは4月6日発売の週刊ファミ通(2023年4月20日号 No.1792)に掲載した内容に加筆、修正を行ったものです。

高山祐介(たかやまゆうすけ)

『シャニマス』のプロデューサーとして、ゲーム内外で多数のコンテンツを手がける。お気に入りの楽曲は、杜野凛世の『常咲の庭』。(文中は高山)

稲垣敬也(いながきよしなり)

プランナー/デザイナーとして、『シャニマス』のさまざまな企画のほか、サウンドやロゴデザインの作成とディレクションなども担当。Xbox360版『アイドルマスター』からのプロデューサー(※『アイドルマスター』シリーズのファン)でもあるそう。(文中は稲垣)

アイドルたちをより魅力的に描く世界観設定

――稲垣さんはさまざまな部分でシナリオ班やアート班をサポートしているとお聞きしています。ユニット名や楽曲の方向性に関しての提案も行っているとか。 新しい設定の考案にあたって、大切にしている点を教えてください。

稲垣ユニット名提案の際に意識しているのは、彼女たちの個性や性格、見た目、そしてユニットの関係性にフィットするような設定を行うことです。ユニット名とアイドルの組み合わせの第一印象がこちらの世界のプロデューサーさんにスッとなじみ、好きになってもらえるような魅力をユニット名と見た目から感じられるようにすることを重要視しています。

 またゲームの中の世界で言いますと、彼女たちがその名前で活動するにあたって違和感がなく、ファンの皆さんに自分たちでコンセプトなどを説明できるように意識して考えています。ユニットロゴのデザインも私がディレクション、5つほど作成も担当していたので、彼女たちの見た目、ユニット名、ロゴデザインをまとめて見たときにひとつにまとまって見える違和感のないものを目指しました。

――なるほど。高山さんは『シャニマス』の世界設定について、どのようにお考えですか?

高山基本的に稲垣さんがおっしゃったところとそこまで相違はありませんが、新ユニットを生み出すにあたっては、どういった楽曲やコンセプトが283プロに加わるといいのか、というところから着想をスタートさせることが多いです。ですので、ユニット名やコンセプトを考える際には“狙いがもっとも端的に表現できること”を重要視していましたね。

稲垣ユニット名の作成の例を挙げると、ノクチルのときは、ユニット名の案を80個近く挙げて制作していました。

――相当ご苦労があったのですね。

稲垣そうですね。会議をくり返して案出しを行い、高山さんやシナリオ班にフィードバックいただいたのですが、なかなか決まらず。ですが、会議の際、ポッと高山さんの口から“生物発光”という単語が出てきまして。「この単語はよさそう」という話になり、“生物発光”をキーワードに考えていくことになりました。ですが、“生物発光”から幼なじみ4人組のユニットの名前をどのようにつなげていけばいいのか、正直、頭を抱えました。

 そうした中で、ある日、夜に音楽を聴きながら散歩をしつつユニット名を考えていたのですが、プレイリストの中にあった一曲にピンときまして。その曲にノクチルカという単語がでてくるのですが、この単語は夜光虫という意味で、夜光虫は光に照らされて光るのではなく、自分たちで発光する生き物です。まわりに照らされて光るだけではなく、自分たちの持っているものから光り輝くという意味で彼女たちにピッタリなのではないかと思い、そこに“chill out”、落ち着く・リラックスするという幼なじみの空気感を感じさせる単語を組み合わせてノクチルという名前になりました。

『シャニマス』5周年記念開発スタッフインタビュー。アイドルたちや衣装、楽曲を生み出すにあたって大切にしていることを、高山祐介制作プロデューサーと稲垣敬也ゲームプランナー/デザイナーに聞く

――お話をお聞きしていると、ノクチルの4人にピッタリな名前だと感じます。ユニット名を考えられるときは、ご自身が親しまれているエンタメコンテンツからフレーズや名前を考案されることは多いのですか?

稲垣そうですね。自分の中にある引き出しを開けて考えることは多いです。それは、たとえばほかの『アイマス』ブランドもそうですし、別のゲームやアニメ、邦楽や洋楽、そして自分が知っている言葉など、そういったものをつなげて組み合わせることは多いです。

――なるほど。ところで、稲垣さんはユニット衣装や全体衣装などの衣装名も考案されているとお聞きしています。

稲垣衣装名はほとんど私が命名していますね。なぜこのデザインになったか、ラフの段階で衣装やその衣装が登場するカードの世界観、コンセプトなどをイラストチームの方からお伝えいただくので、それをもとに衣装のストーリーを想像して名前を付けています。

 また、衣装とその衣装が登場するプロデュースアイドルSSRのムービー演出は紐づいているので、それらを参考に衣装名で違和感がないよう意識して作っています。

 ほかにも語感をかなり大切にしています。口で発音して心地いいものですね。一方で、人は文字を見るときに自然と頭の中で発声しているので、口に出すだけでなく、文字として少しひねった書きかたも意識して、頭の中でその発声をしてもらって気持ちがいいようにということも大事にしています。たとえば、芹沢あさひの衣装名“スペイスアテンダント”は、言葉として正しく書くと、スペースとなりますが、あえてスぺイスにしています。「スペースなのでは?」と違和感を覚えると思いますが、頭の中で発音した際に、少し詰まったように発音できるので、語感として気持ちいいかなと思い、“スペイスアテンダント”と名付けました。

――語感や頭の中で変換したときに気持ちいいものというものをこだわっていらっしゃるのですね。そういえば、『シャニマス』の初期のプロデュースアイドルSSRムービーの撮影を担当されていたとお聞きしているのですが、稲垣さんが担当されたムービー演出の中で、とくに印象深いものはありますか?

稲垣私が担当したものは13個あり、そのすべてについて語りたいところですが、いくつか例を挙げると、“【それなら目をつぶりましょう】三峰結華”では、三峰が持っているカメラの絞り値などもしっかり考えて現実感を増幅させていたり、“【とびっきりジンジャー】西城樹里”の私服衣装では、樹里の気持ちを反映した画面の明るさ、手前と奥行きのライティングをこだわったりしています。

『シャニマス』5周年記念開発スタッフインタビュー。アイドルたちや衣装、楽曲を生み出すにあたって大切にしていることを、高山祐介制作プロデューサーと稲垣敬也ゲームプランナー/デザイナーに聞く
【それなら目をつぶりましょう】三峰結華

稲垣また、とくに印象深いのは、“【夏に恋するピチカート!】八宮めぐる”のフェスアイドル衣装のムービー演出です。私自身、Xbox 360のころから『アイマス』を追い続けている身で、これまでライブで摂取してきたあのキラキラや、ワクワク、ドキドキ感をなんとかムービーの中で表現したいという想いで作りました。

 それを表現するためにこだわったポイントとして、ムービーが止まる部分のイラストと、カードイラストのカットで、背景の寄り具合やライトの位置を微妙に変えています。ライブの臨場感をより強く見せたい、受け取ってもらいたいと思い、絵的に嘘をついて、ムービー演出では少しカメラを寄せています。ほかにも、背景に星が流れていたり、星の形の紙吹雪の降りかたにもこだわったり、少しでもめぐるのライブを感じてもらえるよう意識しました。私のプロデューサーとしての経験も活用した演出ですので、思い出深く、大切な演出のひとつとなっています。

楽曲の制作にあたっては、ユニットのカラーを明確に表現することを意識

――絵的な嘘を用いることで、ライブの臨場感も演出されたと。ライブといえば、稲垣さんは各ユニットやアイドルの楽曲のご提案もされていると伺っています。

稲垣ユニットの楽曲を提案するとき、とくにユニットが登場して間もないころは、「このユニットはこういった雰囲気です」とすぐに理解いただけるように各ユニットのカラーが出せるような曲を提案することを心掛けていました。やはり、曲のコンセプトが決まっているのとそうではないのとでは、ユニットへのとっつきやすさが違うと思っていまして。

 プロモーション的にも、彼女たちのカラーを出すためという意味でも、最初のユニット曲はわかりやすくテーマを決めることでユニットの方向性を理解していただきやすいものにすることを意識しています。そうして、彼女たちユニットのカラーを明確に表現することで『シャニマス』を知らない方に曲単体で楽しんでいただき、そこから『シャニマス』にも触れていただけたらとも考えておりました。

 そして、先ほどもお話ししましたが、CDジャケットのイラストになる衣装の名前も私がつけているので、各ユニットの楽曲コンセプトがある程度浸透した時期からは、その衣装名に込めた想いを踏まえて「この衣装を着て歌うなら、こういう楽曲がいちばん合うだろうな」と、衣装と関連付けて楽曲を提案しています。

――なるほど。高山さんはアイドルたちの楽曲を生み出すにあたって、大事にしているポイントはありますか?

高山まずは同じような曲を作らないということを前提に、狙いやコンセプトは変えることを意識しています。その中で、各ユニットの曲の方向性は大切にしつつ、そこから他ジャンルに一歩派生して楽曲の幅を広げていくというところを心掛けています。そうすることでアイドルの見せる表情、そして表現の幅も広がるのではないかと。

 それと稲垣さんもおっしゃっていましたが、とくにCDのリード曲と呼ばれる1曲目の楽曲については、楽曲のジャケットや衣装とリンクするようなものを考えていまして。アイドルたちがその衣装を着て、リード曲をライブで披露しているところが想像できるような楽曲になるといいなと想像しながら制作していますね。

――そんなおふたりの中で、個人的に印象深い楽曲、あるいは最近お気に入りの楽曲があればお聞かせください。

稲垣すべて印象深く、大好きな楽曲たちなのですが、最近のお気に入りの楽曲は、アルストロメリアの『Give me some more...』ですね。私は昔から“エレクトロスウィング”というジャンルが好きで、いつか『シャニマス』でも同ジャンルの楽曲を作りたいと考えていたところ、アルストロメリアで“マジーク・アルーア”という魔女のような妖しくてかわいらしくも艶っぽい衣装が登場し、「やるならいましかない!」と提案した結果、最高の楽曲に仕上げていただきました。

『シャニマス』5周年記念開発スタッフインタビュー。アイドルたちや衣装、楽曲を生み出すにあたって大切にしていることを、高山祐介制作プロデューサーと稲垣敬也ゲームプランナー/デザイナーに聞く

稲垣あとは、歌詞が印象深い楽曲がありまして、こちらもアルストロメリアの楽曲なのですが、『VERY BERRY LOVE』です。本楽曲で3人が着ている衣装のデザインを見たときに、楽曲のストーリーがなんとなく思い浮かんできました。内容としては、恋に悩める女の子に魔女の姿のアルストロメリアが魔法のメイクを施して、呪文をかけてあげる。すると、女の子はその魔法の呪文のおかげでレディになれたと思っているけれども、じつは魔法ではなく、少しのメイクアップで女の子のあと一歩の勇気の後押しをしてあげた……というものです。

 こちらの内容をお伝えして仕上げていただいたところ、アイドル自身としても、メイクをしてあげた女の子の気持ちとしても取れる素敵な歌詞に仕上げていただき、感動しました。歌詞としては、当初は「リラリリラ」が1番のサビにあったのですが、サビの歌詞を読むと「唇を重ねて」、「ティッシュオフ」とあったので、「リラリリラ」が1番のサビだと唇が合わさらずリップがなじまないのでもったいないと感じました。ですので、作詞家さんの意向を聞きつつ、2番の「ベリベリラ」と逆にしていただいたのですが、リリース後にその意図通りプロデューサーの皆さまが受け取ってくれていて本当にうれしかったですね。

 なんだかアルストロメリアの話ばかりになっていましたが、全ユニット、全曲こういったことをたくさん考えて提案を行わせていただいております!

――歌詞の文脈まで読み込んで確認、調整をされているのですね。高山さんはいかがですか?

高山最近は“我儘なまま(※)”もあるのでソロ曲をよく聞くのですが、改めて杜野凛世の『常咲の庭』が最近のトレンドですね。凛世といえば和風で雅といったイメージが浮かびますが、ソロ楽曲を作るときのこちらのイメージを狙ったときに三味線や尺八といった和楽器を用いて、いわゆる和ロックな構成でも狙えたと思います。

※7月22日・23日開催予定の“283 PRODUCTION SOLO PERFORMANCE LIVE 我儘なまま”のこと。

 でも、そうではなくて、雅な雅楽の方向性が作れたのはすごくよかったなと思っていまして。凛世の楽曲を雅でおしとやかなで、かつそれだけではなく、どこか厳かで清廉な雰囲気もあるという楽曲の雰囲気がほかにはなかったので、好きですし、印象深いですね。

『シャニマス』5周年記念開発スタッフインタビュー。アイドルたちや衣装、楽曲を生み出すにあたって大切にしていることを、高山祐介制作プロデューサーと稲垣敬也ゲームプランナー/デザイナーに聞く

――凛世らしいイメージがありつつ、ほかの楽曲にはない新鮮な雰囲気に仕上がったのが『常咲の庭』なのですね。ほかにも稲垣さんは、エイプリルフールイベントなど、季節系施策の企画も担当されていると伺っています。ご担当された中で、とくに印象深かったものを教えてください。

稲垣“World x Code”はかなり印象深いです。エイプリルフールの施策は、高山さんとシナリオチームで「こういうことがしたい!」というベースが固まったタイミングで共有をいただいて、私がシナリオの意図通り体験してもらえるよう仕様を作り、実装していただくという流れとなっています。“World x Code“は、4つの選択肢を組み合わせで設定するのと、選択肢の解放回数でメインストーリーが進んでいくという仕組みだったので、本当に膨大な量の分析条件などのデータを書くことになり、とてもたいへんでしたが、あのときのプロデューサーの皆さんのお祭り騒ぎは見ていて本当に楽しかったです。

『シャニマス』5周年記念開発スタッフインタビュー。アイドルたちや衣装、楽曲を生み出すにあたって大切にしていることを、高山祐介制作プロデューサーと稲垣敬也ゲームプランナー/デザイナーに聞く
“World x Code”。

283プロの事務所名の誕生秘話も判明!

――ここまでのお話含め、おふたりは数多くの業務をともにされているとお聞きしていますが、お互いに関することでとくに思い出深かったエピソードを教えてください。

稲垣高山さんが覚えていらっしゃるかわかりませんが、283プロの事務所名を決める会議を開発スタッフの皆さんと高山さんといっしょに行ったことがあったのですが、その際なかなか案が出ず、煮詰まっていまして。

 そこで、ふと私が「283で、283(ツバサ)プロはどうですか?」と提案したときの高山さんの湧きかたが尋常ではなくて(笑)。「うおお!? いいじゃないですか!!」と、そのときの煮詰まっていた部分がいい方向に向かったときの高山さんの腑に落ちた感と言いますか、すっきりした感じがとても印象的でした(笑)。

高山283(ツバサ)という名前から、「私たちは空に羽ばたいていくんです」というアイドルからのメッセージが想像でき、さらに「アイドルたちがトップアイドルを目指すところを例える、そのための“翼”」という『シャニマス』が大切にするものが、そのときに見えたんですよね。確か、事務所名を考える会議が行われたのは、2017年でしたっけ?

稲垣そうですね、タイトル名を決める前だったので、開発のかなり初期の段階でした。

高山そうですよね。開発の初期に意味のある事務所名を付けることができたので、その後の開発も軸がブレずに進めることができた印象があります。

――283プロの事務所名には、そのような誕生秘話があったのですね。それでは最後に稲垣さんからプロデューサーの皆さんにメッセージをお願いします。

稲垣いつも応援してくださっているプロデューサーの皆様、本当にありがとうございます。『シャニマス』は片手で数えられる限界になるまで時が過ぎましたが、つぎは両手で数えられなくなるまでを目指して、これからもお付き合いいただけましたら幸いです。