バンダイナムコグループによる“第1回 GYAAR Studioインディーゲームコンテスト”は、外部の幅広いクリエイターを支援し、ゲーム市場のさらなる活性化につなげるための企画として実施されるコンテスト。

 コンテストでは、応募作品の中からプラチナ賞1作品+入賞7作品(いずれも最大)を選出し、総額最大1億円の支援金を贈呈。さらに、開発・パブリッシュ支援なども行うなど、インディーゲームクリエイターにとって、極めて魅力的な内容となっている。(コンテストの応募期間は2022年12月8日から2023年1月25日まで)。

 ファミ通.comではその意義に関して2組のクリエイターにインタビューを実施してきたのだが、最後はバンダイナムコエンターテインメントの富澤祐介氏にお話をうかがった。富澤氏と言えば『ゴッドイーター』や『テイルズ オブ』シリーズといった、バンダイナムコエンターテインメントの看板シリーズのIP総合プロデューサーとしておなじみ。“第1回 GYAAR Studioインディーゲームコンテスト”に対する率直な感想はもちろん、富澤氏のインディーゲームに対する考えやゲーム作りに対する想いなどもお話しいただいた。

バンダイナムコ富澤祐介氏が語る、インディーゲームの可能性とゲーム作りに対する想い。“GYAAR Studioインディーゲームコンテスト”に寄せて

富澤祐介(とみざわゆうすけ)

バンダイナムコエンターテインメント 『テイルズ オブ』シリーズIP総合プロデューサー

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※本記事は“GYAAR Studioインディーゲームコンテスト”の提供でお届けしています。

コンテストにはワクワクする思い

――今回のコンテストが開催されると聞いたときはどう思われました?

富澤私はコンテストの立ち上げなどに関わっているわけではないので、あくまでいちプロデューサーとしての感想になりますが、話を聞いたときはすごくワクワクする思いでした。

 GYAAR Studioができたとき、バンダイナムコスタジオのメンバーが小規模で自分たちの作りたいゲームを作ること自体がおもしろいと思っていたんですよ。そのころから、その取り組みが開かれた形で行われたら……という想像もしていたので、今回コンテストという形式でそれが実現したのは、すごく意義あることだと感じました。

――バンダイナムコエンターテインメントはIPを扱う作品や大型タイトルを多く手掛けていますが、インディーゲーム的なモノ作りに取り組むことにも意義は大いにあるということですね?

富澤あると思います。大きなタイトルの場合は、大人数で分業化して進めるので、全体像というよりは担当箇所に特化していく傾向があります。それに対してインディーゲームは、ひとりの担当範囲が広くなり、裁量を持ってモノを作ることができます。そのぶん自分が決める難しさや楽しさも増しますよね。

――プロデューサー目線から見ても、違いがあるのですか?

富澤ユーザーさんに作品を届けるということを考えたときには、インディーゲームと大型タイトルとでは規模が違うので尖らせかたが変わってくるでしょうね。自分が携わっているゲームが比較的コンパクトな企画だったら、いちばん尖っている部分をハッキリさせて、それが好きな人はどこにいるかを探し、そこにアプローチしていきます。プロデュースワークとしても大型タイトルとは違ったものになると思うので、そういった意味では、ふだんの仕事とは違った体験になると思います。

――“尖らせかた”というのはとても興味深いですね。たしかに、何百万人という広いターゲットを持つタイトルとは打ち出しかたも変わってきそうですね。

富澤もちろん、大型タイトルだからと言って浅く広く刺せばいいという話でもなくて、コアユーザーはどこにいるのかを探す、という意味では同じ作業とも言えると思います。ただ大型タイトルの場合は、「まず世界で売るためにはどうすればいいのか?」という発想や要件から入りがちなのですが、インディーゲームの場合はもう少し自由に、まずはコアユーザーへのアプローチに特化した考えかたになっていくとは思います。

 ですので、コンテストに通った作品を仮に自分がプロデュースするとしたら、いい意味ですごく悩むでしょうし、刺激になるでしょうね。

――インディーゲームクリエイターがタイトル作りに集中する一方で、バンダイナムコサイドがパブリッシュを行っていくというのは、いいマッチングと言えそうですね。

富澤そうですね。ふだん作っているゲームとはベクトルが違いますが、“ゲームをユーザーさんに届ける”という意味では同じだと思うので、インディーゲームクリエイターの方が何年間もかけて作ってきたものは、それを求めている方のところにしっかり届けたいですね。

 今回のコンテストは単純に応募されてきた作品を評価するだけではなくて、その企画やプロトタイプから、「作り手がどうしたいのか」、「本当にやりたいことは何か」というのを感じ取っていくことが大事で、そのきっかけを作るというのがコンテストの意義になるのかなと思います。

――プロデューサーという立ち位置は、「おもしろそう」だけではなくて、俯瞰的な視点で見ているということでしょうか。

富澤おもしろそうな仕様があれば、その人の発想の原点をたどり、それが実現の判断が難しいような悩ましい仕様であれば、本当にやりたいことの本質を聞きだして、真意を形にしていかないといけないんです。そうしないと、お客さんに届かなかったり、中途半端なものになってしまったりすることもある。

――作品自体の個性を大事にしていく、ということですね?

富澤そうですね。やはり原石的なものだと思うので、変に丸めたり引き延ばしたりせず、まずはありのままのサイズで出すのがいいと思います。コンパクトだからこそ光っているものを中途半端に広げても、逆にぼやけてしまうこともあると思います。まずは光っている部分をより光らせて、結果としてじつは同じ趣味趣向の人が、世界中にこれだけいたんだよというふうに訴求していくのが、インディーゲームの広げかたのひとつになるのかなと思います。

ディレクターたちの、ある意味での“深み”に触れるのが好き

富澤やはりゲーム作りは簡単なことではないですよね。もちろんインディーゲームでも、完全にひとりで作ることはそうそうないわけですよね。そうなったときに、どこかで我を通さなければならない部分って絶対に出て来ると思うのですが、その通しかたが人それぞれなので、僕はディレクターを見ていて、そこがおもしろいなと思っています。

 たとえば、完全に我が道を行くような、「お前ら俺についてこい」という強さで引っ張っていく人も中にはいますし、チームも立てながら、「みんなでこのゲームを完成させるんだ」という山の登りかたをする人もいます。とはいえ、後者がいいという話でもありません。

 どこまで自分が抱えるかの差はあれども、大規模タイトルの船頭を取るという時点で、強靭なハートがないとなかなか務まらない仕事だと思いますが最後までこだわっていくのは、大規模タイトルになればなるほど、スキルや耐性は求められますね。

――タイトルの規模が大きくなるほど、負担も大きくなりそうですね。

富澤そうですね。まずどんな山にするのか、その山をどれだけかけてどのような方法で登るか、というところに事業的な制約はありません。ただしすべてが単独行となることには別の負担があるでしょう。大型タイトルのディレクションとは方向性が大きく違うのかなと思います。

 だからこそ、大型タイトルを担当しているディレクターたちにもインディーゲーム的なモノ作りに憧れがあるのではないかと思いますし、僕自身にしても、そういうクリエイターたちがほぼ個人で作ったゲームを見てみたいという気持ちはあります。ディレクター経験者は、本当に自分が作りたいものと、大型タイトルの作品作りとのバランスを取りながら、日々仕事をしているのだと思います。

 僕は、そういうディレクターたちの、ある意味での“深み”に触れるのがわりと好きなんですよ。それはゲームに限らず、映像の監督さんたちに対してもそうです。みんな芯を持っていると思うので。そこに触れたときとか、それが表出したときに、「これはプロデュースし甲斐があるぞ!」とか、「これはどうしたものか」、「深いけど狭いな」みたいな思いもあったりします。大型タイトルだと、そのよさが埋もれてしまったり見えにくくなったりすることで悩むこともあるんです。

 インディーゲームだと、そこの悩みはシンプルかもしれませんね。すでにその人の芯となるものがたぶんに表現されているわけですから。より純度や濃度が高く表現されているものを、皆さん作られていると思うんですよね。最初から自分の中にないものを作りますというインディーゲームクリエイターはなかなかいないと思うので、その純度にみんな憧れるし、僕も興味を持つひとつの理由かもしれないです。

――深みに触れるというのもすごそうですね……。ゲーム作りの業のようなものなのかしら……。ところで、ディレクターさんでいうと、反論されてすぐに意見を翻してしまうようだとダメですか?

富澤いえ、それでまたつぎの企画をいくらでも持ってきてくれる人は、それはそれでありがたい存在です。

 ただ、多くの人は、やはり1回で引き下がりはしないですね。たとえば、オリジナルタイトルの企画を考えるとなったときに、一度でスッと通る企画なんて基本的にはありません。

 それこそプロデュース側の目線で、「こうしたほうがいいのでは?」と意見させてもらって、フィードバックを何度かくり返しながら形になっていくのもあれば、「この土台は消したくないけど、スケールするのが難しいなあ」というようなことも何度かありました。バンダイナムコエンターテインメントのいまのビジネスの規模にハメにくいというところですね。

 それで泣く泣く、アイデアはいいけど製品にするにはこのままだときびしいという話で企画として止まってしまったということも何度もありました。とはいえ、それはインディーゲームがいまのような盛り上がりを見せる前の話ですが。

――GYAAR Studioが、そういうタイトルの受け皿になり得るということですね?

富澤そうなればいいなという想いはありますね。たとえば、GYAAR Studioからリリースされた『サバイバルクイズシティ』はアイデアが秀逸だと感じました。クイズに正解した側が間違えた側を好きなように妨害して、間違えた側は本気で這い上がっていくというコンセプトは、ゲームをしなくてもお互いの感情がわかりますよね。それくらい明確なコンセプトを感じる1作でした。

 それでも、バンダイナムコエンターテインメントで……となると、短期的な事業性やスケール的に実現するのがなかなか難しい、となるかもしれないですが、GYAAR Studioならフットワーク軽くリリースできるわけです。

――それがGYAAR Studioの意義のひとつなわけですね。

富澤GYAAR Studioがこれから布石をしっかりと作っていけたり、ユーザーやクリエイター自身にも「こういう方法があるんだ」、「こういう結果が出ている」というところで勇気づけられるようなものになってくれれば、内部や外部から、「ここに相談してみようかな」という流れになってくれるかなと。それが、これから必要になってくるんだろうなと思います。

バンダイナムコ富澤祐介氏が語る、インディーゲームの可能性とゲーム作りに対する想い。“GYAAR Studioインディーゲームコンテスト”に寄せて
GYAAR Studioブランド第1弾タイトルとなる『サバイバルクイズシティ』。

インディーゲームはグラデーション。あまり定義しないほうがいい!?

――富澤さんから見て、“第1回GYAAR Studioインディーゲームコンテストの意義はどんなところにあると思いますか?

富澤参加者と主催者、両方にそれぞれの意義があると思うのですが、バンダイナムコエンターテインメントとしては、先ほどもお話したように、インディーゲームに触れることで、プロデューサーとしての知見を広げられるというのもあると思います。

――改めてのご質問となりますが、富澤さんから見て、インディーゲームの魅力とは何でしょうか?

富澤僕は学生時代、映画を作っていて、映像畑に近い立場からゲーム業界に入って来たので、個人でゲームを作るということはしたことがなかったんですが、映像であってもやはり個人製作は短編や中編という尺で表現の勝負をしていたんですよね。

 そんな僕の目線で思うのは、インディーゲームはフルプライスのゲームに課されるような、30時間、40時間遊べないといけないみたいな期待値からは自由であるところに可能性があるな、ということです。映像で言えば、いわゆるパッケージのゲームが全13話のドラマだとすれば、インディーゲームは30分の短編ドラマみたいなものもありますよね。

――そのたとえはわかりやすいですね。

富澤フルプライスのゲームは2時間で終わらせるわけにもいかないですよね。もしその2時間がものすごく濃密な体験だったら……と想像することはあるのですが、いまはまだそういうカテゴリもないので受け入れられにくい。でも、インディーゲームはその点が自由ですよね。プレイ時間にとらわれない魅力的なゲーム作り、というのがひとつのよさかなと思います。ですので、いっしょにゲームを作るとなれば、そのコンパクトさを武器にしていくというのは考えるかもしれないです。

――そういう自由度の高さがインディーゲームの強みだということですね。

富澤お客さんの受け入れかたにしても、価格帯の設定にしても、柔軟性が高いですよね。作る側にも買ってくださる側にも、決められたサイズ感がないというか。

 そんなことを言えばインディーゲームの定義自体もそうで、一般的に小規模開発を指してインディーゲームとは言いますが、具体的な定義は明確にはなくて、グラデーションなんですよね。

――そういう意味では、インディーゲームとメジャーの線引きはあまりハッキリしないというか、その定義がないからこそ、インディーゲームが自由でいられるのかもしれないですね。

富澤定義はしないほうがいいと思いますね。グラデーションの中で作っていって、両側から少しずつ空白を埋めていくような商品ラインアップやパッケージ文化が生まれてくるといいのかなと思います。

 たとえば、3500円の新作ゲームが出たら、いまはまだ「この作品はどっちだろう?」って思いますよね。その垣根を崩していくようなクオリティーやアイデア、売りかたが出て来て、新しい受け入れかたになっていく……。いまはその途中だと思います。そのバリエーションが増えていけば、もっと自由度も高まってチャレンジの幅も増えていくのではないでしょうか。

「バンダイナムコとのつながりを作ってやろう」くらいの気持ちで応募してほしい

――本コンテストでどのような作品が出てくることに期待していますか?

富澤本当に想像がつかないのですが、今回は突然発表されて応募期間もそんなに長くないので、すでにある程度動いていたものが応募されてくるのかなと思っています。自分の芯を表現した、「これを見ろ!」という作品が来てほしいのですが、逆に言うと、いま作っていて悩んでいるようなものも応募してしまっていいのではないかと思います。

――迷っている最中の作品でもいいということですか?

富澤作品を作る過程で、最後まで悩まずにやり切れる人ってなかなかいないと思うんですよ。ゲーム作りにはいろいろな目線が必要ですし、それを売ることを考えるとなると、ますますわからないことだらけです。

 募集を開始して1ヵ月程度でその人の最高傑作が出てきたらベストですが、そんなこともないと思うので、「まずは、何か意見を聞きたいから応募してみてみよう」、「バンダイナムコとのつながりを作ってやろう」くらいの気持ちでもいいと思います。

――つながりを作るために応募する、というのはおもしろい発想ですね。

富澤僕としては、多くの作品が集まることで、「こういう発想の人がいるのか」みたいな発見や出会いの機会として機能するとうれしいなと思っています。コンテストでは支援金などが目につきますが、それを勝ち取るんだという気持ちだけでなくて、「この機会に寸評のひとつでももらっておくか」くらいでもいいのではないかと。送っていただいた作品は審査員がプレイするでしょうし、そこで何か気になることがあれば、審査員側も「話を聞いてみたい」と心が動かされると思うんです。

――たとえ入賞できなかったとしても、そこでお話を聞けたとしたら、それは貴重な体験になりますね。

富澤作品がすぐに形になるかどうか、というのはまた別の話ですが、3~5年はかけて制作・プロデュースしている作品も増えていますし、IP単位で見たらもっと長い目線で見ていますので、ロングスパンで考えていきたいですよね。コンテスト自体には通らなくても、そこをきっかけにつながりができて、3年後には何かいっしょに作っているかもしれませんし。それくらいライトに向き合っていってもいいのではないかと考えています。

――今回のコンテストは、審査する側の目利き的な部分も問われることになりそうですね。

富澤難しそうですね。ただ、プロデューサーたちはゲームを判断することを仕事にしているので、例えば応募作品の中にまだ粗々だけど光るものがありそうなときにどう対処できるか、それを試す場になるという意味でも、お互いにとって意義のある取り組みだと思います。ですので、未完成だから、恥ずかしいからというのは気にせずに応募していただきたいです。もちろん、コンテストとしては誰かを選ぶということは、ほかの方が選ばれないというわけですが、それも何らマイナスではないと思います。

――ここで落選しても終わりではないということですね?

富澤できる限り、応募してきた方全員にとってもプラスになるようなコンテストになってほしいですね。

バンダイナムコ富澤祐介氏が語る、インディーゲームの可能性とゲーム作りに対する想い。“GYAAR Studioインディーゲームコンテスト”に寄せて

作品の応募自体をコミュニケーションだと思ってほしい

――コンテストへの応募を考えている方にアドバイスをするとしたら、どんなことを伝えますか?

富澤作品の応募自体をコミュニケーションだと思ってほしい、というのはベースにありつつ、まず手元にあるものを全部出していくのはひとつ手段としてあるかもしれません。並行でいくつも作品を作っている人はあまりいないかもしれないですが、数を撃てば当たるかもしれないですし、数を撃っている人には、おのずと目がいきますよね。いわゆるミニゲーム集といった、「10個のアイデアをひとつにまとめました」みたいなのもアリでしょうし、それくらいいい意味で緩やかなコンテストだと思うので、応募要項は勝手に解釈してしまっていいのではないでしょうか。

――勝手に解釈というのはいいですね(笑)。では、「この要素が入っているといいのでは?」といったものはありますか?

富澤IP化の支援をするとも銘打っているので、そういう意味では広がりやすい作品は審査する側としても目に留まりやすいかなと思います。たとえば、同じカードゲームジャンルでも、世界観を感じさせるようなものだと広がりがありますし、そこはインディーゲームが得意とする部分ですよね。シンプルなルールだけど深みがあって、世界観などでものすごく刺してくる、みたいな合わせ技があるといいのかなと思います。

――ゼロからは難しいかもしれませんが、応募までの期間で世界観の部分を補強するというのは手段としても有効そうですね。

富澤いまから世界観を練ったりゲームに盛り込んだりするのが難しいと思うので、企画書で「こんな世界観です」という説明を添えるのもアリかなとは思います。ゲームデザインだけは構築してあるという方は、誰か友だちを巻き込んでもいいので、それと掛け算する何かを考えてみてほしいですね。

“作品の魅力を伝えるには30秒しかない”という目線でつねに考えている

――せっかくの機会ということで、ゲーム開発において富澤さんが大切にしていることを教えてください。

富澤難しいご質問ですね(笑)。プロデューサーとしての仕事柄、お客さんによりビビッドに伝わる作りかたがあると思っていて、そこに対しての研ぎ澄ませかたを突き詰めていきたいと考えています。それこそオリジナルタイトルだと、開発者の想いとお客さんが見たいものは、同一にならないこともあるんですよ。関わるメンバーが増えるほどやりたいことも増えていって、ぱっと見てそこがぼやけていってしまう。

 ですので、僕は“作品の魅力を伝えるには30秒しかない”という目線でつねに考えています。たとえば5年後にリリースするとしても、開発初期の段階から30秒で作品の魅力を伝えられるように設計しています。

――その作品の魅力を伝える映像を、開発の初期段階から想定しているということですか?

富澤開発中に出てくるこの場面とこの曲、このキャラクターのこの表情とこのモーション、みたいなものを勝手に脳内で組み立てるんです。そのイメージに足りないものがあれば作って入れてもらって、逆に謎のままにしたい要素は絶対に出さないようにして、ある意味でゲームを元に1本の映像作品を作っているようなイメージです。体験版も同じで、買ってもいいかなと思っていただくためには、映像と体験版は最低限必要なセットだと思っています。アウトプットとしては当たり前の存在ですが、どれだけ早くにそのアウトプットで脳内のお客様の笑顔が勝ち取れるか、は重要視しています。

――ある程度作品ができあがってから考えるのではないんですね。

富澤できあがったものから映像や体験版を作っていくのって、ものすごくしんどくて、最高のものが出せるとは限らないんですよ。せっかく5年も作ってきたのに、その段階でつまずいてしまったらもったいないですよね。映像を作る段階でこういう要素があれば、と思っても遅いですからね。ですので、僕は初期段階から発売時期に刺さる要素をいっしょに設計して、チームと相談しながらゲームと映像作品、そして体験版のコンセプトをいっしょに作るようにしています。

――おもしろいスタイルですね……。ユーザーに刺さるようにということですが、とくに重要なことは何でしょうか?

富澤ゲームで言えば、やはりコンセプトとターゲットですね。そこがハッキリしていれば、何年先だろうとPVはイメージできます。逆にそれがないとたいへんなことになるので、誰向けの作品でどんなよさがあるゲームなのか、それを発売までブレずにいさせることが大事です。開発を進めていると、大抵はブレていってしまうのですが……(笑)。ただ、プロデューサーの中でスタートとゴールが同一であることは大事だと思います。

――いずれにせよ、先を見据えて動くことが大事ということですね。

富澤ゲーム作りのスタートとして、「作っているものが何だかわからないけどおもしろい」みたいな始まりかたはあると思います。これはメジャーでもインディーゲームでもあると思うのですが、それを早い段階で「どんな人に刺さるか」とか「これならどんな作りかたをしたらいいか」と考えるのが僕らの仕事です。たとえば美少女を入れてみよう、というのはすごく雑に聞こえますが、それもロジカルに突き詰めた結果であれば、趣味としてではなくマーケットに合わせてそういう要素を入れる、というのは実際にあり得ることです。そういう目線で製品としての成功に近づける、というのも大事だと思っています。

――富澤さんのお話しは、応募を考えているインディーゲームクリエイターにとっても、大いに参考になったかと思います。最後に、本コンテストに応募を考えているクリエイターへの激励のメッセージをお願いします!

富澤ふだんインディーゲームクリエイターの皆さんは、ひとり、あるいは数人の仲間たちと根を詰めてゲームを作っていると思うのですが、せっかくの機会なので「一度外の空気を入れてみよう」くらいの気持ちで気軽に応募していただきたいです。

 その先に何が待っているかはまだわかりませんが、間違いなくお互いにプラスになるセッションになると思います。総額1億円と聞くと身構えてしまうかもしれませんが、そこで別にかしこまる必要はないので、いま目の前にあるものから応募していただければと思います。締め切りまで時間は短いですが、自分だけの企画ですから、最後まで貪欲に作り込んだりプレゼン強化したり、楽しんで挑戦していただけたらと思います。皆さんの魂を感じる企画を楽しみにしています!

バンダイナムコ富澤祐介氏が語る、インディーゲームの可能性とゲーム作りに対する想い。“GYAAR Studioインディーゲームコンテスト”に寄せて