すでにお伝えしている通り、バンダイナムコグループは、外部の幅広いクリエイターを支援し、ゲーム市場のさらなる活性化につなげるための企画として、“第1回 GYAAR Studioインディーゲームコンテスト”を開催する。

 コンテストでは、応募作品の中からプラチナ賞1作品+入賞7作品(いずれも最大)を選出し、総額最大1億円の支援金を贈呈。さらに、開発・パブリッシュ支援なども行うなど、インディーゲームクリエイターにとっては、極めて魅力的な内容となっている(応募期間は2022年12月8日から2023年1月25日まで)。

 そんな“第1回 GYAAR Studioインディーゲームコンテスト”の意義って何だろう……と思った取材陣は、同コンテストに運営協力として参加する、Phoenixx(フィーニックス)の代表取締役・坂本和則氏と、『不思議の幻想郷-ロータスラビリンスR-』や『東方ダンマクカグラ』など、東方二次創作タイトルを手掛けるAQUASTYLE(アクアスタイル)の代表・JYUNYA氏にインタビューを実施。坂本氏にはおもに運営サイドの目線から、JYUNYA氏にはインディーゲームクリエイターの立場から、それぞれ今回のコンテストの意義を、極めて率直に語ってもらった。

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坂本和則(写真左)

Phoenixx 代表取締役

JYUNYA(写真右)

AQUASTYLE 代表

“第1回 GYAAR Studioインディーゲームコンテスト”の詳細はこちら

※本記事は“GYAAR Studioインディーゲームコンテスト”の提供でお届けしています。

“第1回 GYAAR Studioインディーゲームコンテスト”はインディーゲームの手塚賞や赤塚賞のようなもの!?

――Phoenixxは“第1回 GYAAR Studioインディーゲームコンテスト”の運営協力を担当していますが、こういったコンテストを開催したいという想いはあったのでしょうか。

坂本ありました。2年半前にPhoenixxを立ち上げたときに、バンダイナムコエンターテインメントの宮河さん(宮河恭夫氏 バンダイナムコエンターテインメント 代表取締役社長)に、「10年後に向けてクリエイターを育てていくような目線でゲームを作っていきたい」という話はしていました。そのころから、宮河さんも「そういったサポートはしたい」とおっしゃってくれていたんです。

――それがいま実現することになったということですね。

坂本僕は以前から、「ゲームのトキワ荘(※)を作りたい」と言っていました。オフィスの5階にプログラマーがいて、4階には音楽家がいて、3階にはグラフィッカーがいるような……。

※手塚治虫や藤子不二雄、石ノ森章太郎、赤塚不二夫など巨匠マンガ家たちが、若手時代を過ごしたアパート。

――夢があっていいですね(笑)。

坂本そんな、インディーゲームクリエイターが集まるような場所を作りたかったんです。それを宮河さんが覚えてくれていて、「いよいよそういうことを実現してみたい」というお話を受けて、そこからはトントン拍子で進んでいきました。内山さん(内山大輔氏 バンダイナムコスタジオ 代表取締役社長)がバンダイナムコスタジオ内にインディーパッションを持つゲームレーベルとしてGYAAR Studioを立ち上げられたので、クリエイターを発掘するために使ったらいいのでは……ということで、“第1回 GYAAR Studioインディーゲームコンテスト”の座組になったんです。

――インディーゲームパブリッシャーとして、今回のコンテストの意義をどう捉えていますか?

坂本いままで、さまざまなインディーゲームクリエイターの方々とお仕事をさせていただきましたが、学生さんもいれば働きながら休みの日に制作を進めている社会人の方もいて、生活の中で時間やお金をやりくりして作っている方が多いです。それが、生活の心配をせずに24時間、365日を自分の作りたいゲームにつぎ込めるなら、こんなにいいことはないと思います。若手の才能に可能性を感じて投資をするわけなので、忖度とかを抜きにしてすごくいい企画だと思いました。

――クリエイター目線から見て、JYUNYAさんはいかがですか?

JYUNYA昨今はインディーゲームを対象にしたコンテストが増えていますよね。いろいろな会社さんがインディーゲームを応援してくれるようになってきているというのは、いい風向きだなと思います。それと同時に、インディーゲームに関わるクリエイターたちの体質が変化してきているなと感じますね。

――体質ですか?

JYUNYA開発費の支援などはクリエイターも助かりますし、インディーゲームは昨今注目を集めているので、よい作品を世に出していきたいという企業側との思惑とも合致するところもあるのではないでしょうか。その結果として、新たな作品が世に出るのはお互いにとってすごくいいことだと思います。いい悪いではないですが、インディーゲームが賞やビジネスといったものから切り離せなくなってきたという印象は受けますね。

――インディーゲームのありかたが変わってきたということでしょうか。

JYUNYA僕個人の側面から見たうえで、インディーゲームはそもそも、“個人的に何か作りたいものがあるから作る”、くらいのものだったと思うんですよね。完成させること自体が目標だったのが、賞レースなどに入賞することもひとつの目標になってきているので、個人制作のありかたが変わってきたな、とは率直に思いました。ある意味で、進化したとも言えるかもしれないです。

坂本いまはインディーゲーム自体がブームになっていますよね。

JYUNYA僕が初めてゲームを作りたいと思ったのは中学生のころで、当時は『RPGツクール』みたいなソフトでゲームを作ってネットで配布して……みたいな感じでした。そのときにこのようなコンテストがあったら、絶対に応募したいと思ったでしょうね。マンガでも、手塚賞や赤塚賞(※)などを目標に作品を描いて、そこからデビューする流れがありましたよね。

※集英社主催によるマンガの新人募集企画。手塚賞はストーリーマンガ、赤塚賞はギャグマンガが対象。

――ああ、たしかに。今回のコンテストに年齢制限とかはありませんが、マンガの新人賞などはイメージが近いかもしれませんね。

JYUNYAいま自分が学生だったら新人賞からの成り上がりストーリーを思い描いていたかもしれません。「ガッツリ賞金をもらって、東京行くぞ!」みたいな(笑)。インディーゲームを作って賞を獲ったら、大きなメーカーが自分の作品を扱ってくれるかもしれないというのは、わかりやすいですよね。そういう意味で、ゲーム作りの階段がはっきり見えるというか、将来的な展望が見えやすくなったのはとてもいいことだと思います。

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たとえコンテストに入賞しなくても、最後まで作り続けてほしい

――今回のコンテストが開催される意義についてということでいうと、やはり資金面で援助してもらえるのが大きいのでしょうか。

坂本そうですね。クリエイター側の選択肢が増えた、というのはひとつあるのではないでしょうか。僕が以前関わっていた、とある会社のパブリッシングブランドでは、JYUNYAくんの作っていたタイトルに開発支援金を提供するという話があったんですね。 でも彼は、「お金はいらないから好きなものを作らせてもらう」という考えだったんです。

――それは潔いですね。

坂本ただ、そう言えるのは、すでにヒットを出しているからだと思うんです。いいゲームを作っているけどヒットはしていない、あるいはこれから作りたい人は、資本面での不安がもとでゲーム制作を止めてしまうという選択肢もあります。それが、今回のような取り組みがあれば、そこで制作を止めずに続けていくこともできる。その選択をクリエイターたちが自分たちで取捨選択できるようになるので、クリエイターの幅が広がるのではないでしょうか。

――自分の資本だけではきびしいという人にはうれしいですよね。

坂本引いてはそれが2作目、3作目につながっていきますよね。日本のインディーゲームシーンでは、せっかく1作目をリリースしたのに、そこで個人制作を卒業してゲームメーカーに就職していくというケースも往々にしてあります。

 もちろんゲーム業界に関わってくれるということなのでよいことではあるのですが、せっかく熱いパッションで1作目を出したのだから、そこからまた反省や勉強を重ねて、セカンドを作ってほしいという思いがあります。ただ、それをサポートする体制が日本には不足気味であるという認識もありました。欧米では政府が大きく援助するようになっていて、クリエイターの経験値も上がっているんです。2作目、3作目を創り続けていけられるという選択肢ができたのは、日本のクリエイターのボトムアップにもつながると思います。

JYUNYAクリエイターの選択肢が広がる、インディーゲーム業界のやりかたが進化していっている、という意味では、今回のコンテストはすごくいいことだと思います。ただ一方で、コンテストを目標としてゲームを作っていた場合に、コンテストに通らなかった時点で制作を止めてしまって、世に出てこないタイトルも増えてくるだろうなあ……ということも考えなくはないです。

――ああ、目標がハッキリしているぶん、そこに届かなければ意味がない、と考えてしまう可能性はあるかもしれないですね。

JYUNYA僕らのころはこんな大手エンタメ企業が主催するような派手なコンテストもなかったので、完成したらとりあえずどこかでフリー配布してみるとか、同人イベントで販売してみるとか、自己満足のためにも何かしらの形で世に出していました。でも、こういったコンテストの入賞を目標とした場合、応募して通らなかったら、「このゲームは世の中に受けないんだな」という判断をして、別の企画をするか、企画の練り直しを延々としてしまう気がするんです。少なくとも自分がコンテストに夢を抱いて応募する場合はそうしたかもしれません。

 ですので、このインタビューを読んでいるクリエイターの方は、たとえコンテストには受からなくても、最後まで自分の中のゲームを作り上げてほしいと思います。

坂本そうだね。コンテストがゴールだとは思ってほしくないです。

JYUNYAもしダメだったら、「このコンテストの選考メンバーは、俺のゲームが理解できなかったんだな」くらいに思ってほしいです。もしかしたら僕も、第2回、第3回で応募するかもしれないので、落ちたらそういうふうに思えるよう、いまのうちに言っておきます(笑)。

――(笑)。

坂本これがクリエイターの発想ですね(笑)。

JYUNYA賞って、上から順位が付くじゃないですか。そこを目標にしてしまうと、ゲームが完成して世に出る前に評価をくだされてしまうんですよね。本当はすごくヒットした可能性があるゲームも、コンテストに通らなかったから違うゲームにしよう、となってしまったら残念なので、たとえ今回がダメでも、めげずに完成させて世には出してほしいです。

坂本開催前から落選したときの話をするとネガティブに聞こえるかもしれませんが、とくに今回はかなりスピーディーに動いているので、応募したいと思っても、準備が間に合っていないクリエイターもいるかと思います。そういう意味では、コンテストが発表されてから動き出した人の作る企画の可能性を見抜けるのかというのは、選考する人たちの責任になってくると思いますし、可能性が見えない状態で応募してくる可能性も十分にあります。今回は開催する側にとっても実験的な部分が大きいので、いまの話はとてもよくわかります。

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技術的な支援を受けられるのは、本当に大きい

――今回のコンテストで、おふたりが注目しているのはどのようなポイントですか?

坂本僕としては、バンダイナムコスタジオのクリエイターさんたちから、それぞれ知見やノウハウをインディーゲームクリエイターに提供してもらえるということが最大の目玉だと思っています。ゲームのクリエイター、とくにインディーゲームのクリエイターは、それぞれ得意分野には強くても、わからないことも多いと思うので、そこを専門のクリエイターに支援してもらえるのは大きいと思いますね。

――専門のゲームクリエイターが支援するというのは、エンタメ企業が主催するコンテストの大きな特徴かもしれませんね。

坂本そうですね。僕らも少人数のチームと契約したときに、外部にいるクリエイターをご紹介することはできますが、バンダイナムコさんには全分野の人材が揃っていますよね。誰にどう聞いたらいいか、その答えをピンポイントで教えてくれるのではないかと思っています。資金面での援助も大きいのですが、ゲーム開発目線での技術的サポートが受けられるのは、非常に大事だと思います。

JYUNYA本当に坂本さんの言う通りですね。お金も大事ですが、制作技術を集めるのは本当にたいへんです。僕がゲームを作ってきたときにも、制作の一環としてのゲーム制作経験を持つ仲間集めが大きかったです。それこそ、“この冒険に必要なことは何か?”という話ではあります。

――このミッションをクリアーするためには、どのような旅の仲間を集めるべきか? ということですね。

JYUNYAさきほど坂本さんからゲームのトキワ荘を、というお話がありましたが、インターネット黎明期のころ、実際に“デジタルトキワ荘”というウェブサイトがあったんですよ。バンドマン募集みたいに、「当方絵が描けます。メンバー募集」なんてことを書いていたりして。日夜、こんなにおもしろい俺のゲーム制作を手伝う益荒男は居ないか! という熱気で盛り上がっていました(笑)。

――“デジタルトキワ荘”なんてあったんですね。

JYUNYA自分自身で能力を蓄えていくのも制作のひとつですが、自分にできないことをつけてくれる仲間集めも個人ゲーム制作では魅力でしたね。でも当時は本当にたいへんでした。自分も若いからよく仲間と揉めるし、失踪もするし……(笑)。

 ですので、プロに質問ができるという環境があるのは、すごく大きいと思います。僕自身、“Play,Doujin!”という、同人ゲームを家庭用ゲーム機のプラットフォームでリリースするプロジェクトで初めて、家庭用ゲーム機向けにゲームを出したのですが、当初はわからないことだらけでした。

――さすがにPCでゲームを作るのとは勝手が違うということですね。

JYUNYA家庭用ゲーム機の技術やSDK(開発キット)のことは、PCのようにググっても出てこないですからね(笑)。どう実装するのかをプログラマーとひたすらにテストして、少しでも開発経験を持っている人がいれば、ご飯をご馳走していろいろノウハウを教えてもらったりして、習得していきました(笑)。そういうこともあり、とくに家庭用ゲーム機向けの技術を手に入れるのは本当にたいへんでした。家庭用ゲーム機で出すとなった途端にフィールドが変わりますし、メーカーさんに質問して教えてもらえることでもないので、今回のコンテストでそのサポートを受けられるのはとても大きいと思います。

――コンテストの入賞者は、開発拠点“GYAAR Studio Base”のフリー利用も可能みたいですね。

坂本“GYAAR Studio Base”に関しては、僕はPhoenixxのある吉祥寺に作ってほしいとお願いしているんです。頻繁に行き来がしやすいから(笑)。まあ、バンダイナムコスタジオがある門前仲町と2箇所にできるといいなあという話はしています。

 開発拠点ということで思うのは、お互いのシナジーが生まれる可能性があるということです。たとえばインディーゲームの開発では、開発期間が延びたり行き詰まったりすることが往々にしてあると思うのですが、開発拠点には受賞した人たちが集まるので、いっしょに仕事をすることで、大いに刺激を受けるでしょうし、行き詰まりの突破口を見つけられるかもしれない。もしかしたらチームどうしがコラボする可能性もあるでしょうし、そういう展開も楽しみですね。

――ちなみに、自由に動いていいけど、“いつまでも好きに作っていい”とはしない?

坂本それはやらないほうがいいと思います。どのクリエイターもそうですが、「ずっと作っていい」と言われたら、本当にずっと作ってしまうと思うので(笑)。もちろん、全員が同じ期間で作る必要はまったくなくて、1年以内に出すゲームもあれば、2年くらいで出すものもあるかもしれない。ですが、期間的にはそれぐらいの範囲でいきたいな、と。

JYUNYAクリエイターは、心の中では無限に作りたいんですけどね(笑)。締め切りや予算も気にせず好きなだけ作れたらいいなと願いつつ、いざそうなったら僕は一生出せないだろうなとも思います。コンテストに入賞したら締め切りをズルズル延ばすわけにもいかないでしょうし、メリハリをつけるというのは、選択肢としていいのではないかと。

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実際のところ、海外からの問い合わせがものすごく多い

――応募は日本語と英語を受け付けるとのことですが、“第1回 GYAAR Studioインディーゲームコンテスト”には海外からの反響もあるのですか?

坂本非常に多いです。海外のほうがインディーゲームが活発なこともあって、問い合わせは日本よりも海外のほうが多いです。ですので、本当にどんな作品が出てくるかわからなくて、すごく楽しみですね。

――JYUNYAさんとしては、どんなタイトルが来たら楽しそうですか?

JYUNYA個人的には、あまり誰も作らなくなったジャンルのゲームを作ってほしいです。僕らもローグライクの作品を出しているので偉そうなことは何ら言えないのですが(笑)、最近なかなか見ないもの、一周して斬新なジャンルなどが増えてほしいです。まあ、それが売れるかどうかはまた別ですが……(笑)。

――コンテストなので、新しい挑戦ができる余地はあるかもしれないですね。

JYUNYAでも難しいのが、コンテストの先には契約があって、ゲームのリリースを見据えているということですね。そうなったときに、“売れそうもないけれどおもしろいゲームがどう評価されるのか”、というのは個人クリエイターとして興味深く見守りたい点ではありますね。尖ったタイトルをどこまで許容できるか、というのは今回のコンテストのテーマにもなると思います。

――ちなみに、コンテストの選定基準などは、もう話し合われているのですか?

坂本現在絶賛調整中です。ただ、選べるのが1本だけだったらすごく難しいですが、今回はある程度タイトル数を選べるので、そういう意味では審査する側としても比較的やりやすいですよね。いわゆるポップな、売れ線のゲームでもいいと思います。売れるに越したことはないですから(笑)。一方で、エッジの効きまくった、刺さる人には伝説になるようなゲームも、賞として選ばれてくると思います。審査員にもそれぞれ好みがあるので、自分で好きと言える作品があれば、そこに投票していくのが大事かなと思います。

――応募作品と同時に、選定する側も審査されるような感がありますね。

坂本絶対に問われる部分はあると思います。お笑いのコンテストでもそうですが、「なんでこの人はこのコンビに高い点数をつけるの?」という、みんなの基準からズレていてビックリするみたいな、そういうことも出てくると思います。

JYUNYA氏が応募するとしたら、30分で遊べる低価格のゲーム

――せっかくの機会なので、応募を考えているクリエイターにアドバイスをお願いします!

坂本初めてゲームを作ろうとしている方や作品に自信がないという方も、今回のコンテストは主観で審査していくものなので、経験などを気にせずに、とにかく門を叩いてほしいです。別にトリプルA級のゲームを求めているわけではなくて、むしろこれから出てくる才能を発掘したいという側面があるので、そこは自信を持って応募してみてほしいです。クオリティーが高いゲームだけが選ばれるものでもないでしょうし、“将来有望で賞”みたいなものもあるかもしれません。

JYUNYA僕からは、そうですね……。じゃあ尖ったいいゲームを作るので、僕の作品は入賞させておいてください(笑)。

坂本出すんだ!(笑)。 まあ、「出してみたら?」とは、お話しはしているんですけどね(笑)。

JYUNYA今回は見守りますが、機会があれば第2回、第3回では参加していきたいなとは思います。

――JYUNYAさんは知名度もあって実績もありますが、それでもコンテストに参加してみたいと思うものなのですか?

JYUNYAそうですね。その知名度も作品も、いまのチームのいまの規模感で作った結果ですので。もしかしたら、いきなり僕ひとりでゲームを作るかもしれないですし、新しいチームを作るかもしれません。何なら、本当に自分ひとりしか遊ばないようなゲームを思いつくかもしれないので、そういうチャレンジはしていきたいです。

――コンテストは、そういう受け皿にもなり得るということですね。ちなみに、JYUNYAさんがいま応募するとしたら、どんなタイトルで勝負しますか?

JYUNYA30分で終わるゲームです。個人的な体感ですがいまって、インディーゲームであっても見た目や規模がAAAっぽいものがやっぱり目立ったり、値段以上のコストパフォーマンスがいいことを求められる傾向がありますよね。だからこそ、低価格で、グラフィックや音もそんなにすごくない、けど中毒性があって、1日30分遊ばないと気が済まない……そんなタイトルを考えたいなと思います。

 いまの時代はそういうハイパーカジュアルのようなものがいいのではないかなと。30分程度でサクッと終わって、いつの間にか忘れられるようなゲームを作ってみたいです。自分自身も飽きたり忘れて次のゲームをサクッとまた作りたい(笑)。

――ジャンルなどは想定しているのですか?

JYUNYAできるジャンルはたくさんあると思います。数百円で売るようなゲームは、人件費なども考えると、いまの企業では簡単には出せないと思うんです。だからこそ、低価格で簡単に作って簡単に出して、簡単に遊ばれて、簡単に忘れられていくゲームを作れるのは、インディーゲームの強さになると思います。もし僕がやるなら、そういうチャレンジをしてみたいです。

――そういったタイトルが応募してきたときに、どう評価されるかも気になるところですね。

坂本バンダイナムコエンターテインメントも、バンダイナムコスタジオも、インディーゲーム魂を持っているプロデューサーがたくさんいるんですよ。ですので、そういう部分の考えは柔軟なんじゃないかなと思います。

JYUNYAそもそもこのコンテストを企画して開催しているわけですよね?(笑)

――そういう意味では、バンダイナムコが“インディーゲームに取り組む”というのも不思議な感覚ではありますね。

JYUNYA個人制作は大企業が来ない隙間のようなものだと思っていたので、不思議な感覚ですね。ある意味、バンダイナムコさんはゲームを規模ではなく、おもしろさでしか見ていないのかなと思いました。「おもしろければ人は動くし、遊んでくれるし、お金も出してくれる。だからいいゲームを作ってほしい」というのが今回のコンテストの主旨だと思うので、その流れには共感します。

坂本そもそもの話にはなりますが、もしかして“インディーゲーム”という言葉自体がなくなるのではないかとも思います。音楽業界では、1990年代にはインディーバンドが流行って、誰かがメジャーでないバンドを見つけて友だちに紹介して……みたいな流れがありました。でもいまだと、インディーバンドという枠自体がないんですよね。

JYUNYA音楽で言えば、動画配信サイトなどでデビューしたアーティストも増えていて、インディーとかではないですよね。デビューした場所は関係なくて、シンプルにいいものが流行っています。ゲームも同じで、コミケ出身、同人出身とかも分け隔てなく、それぞれのプラットフォームが持つオンラインストアにタイトルが並んでいますよね。

坂本そもそもユーザーはインディーゲームであるかどうかは、そこまで気にしていないと思いますしね。

JYUNYAただ今回のコンテストに関して言えば、組織などに関係なく作りたいという人たちも支えていきますよ、と優しくラッピングしているものなのかな、と思います。少し矛盾しているかもしれないですけれど。

インディーゲームはおもしろいもおもしろくないも、全部自分の責任

――せっかくの機会なのでお聞きしたいのですが、おふたりがゲーム作りで大切にしていることは何ですか?

坂本僕はプロデューサーなので、“ゲームを作る”というよりは、“僕がゲームを見るときは”という視点でお話しさせていただきたいのですが、僕が必ずチェックするのは、“作っている本人がそのゲームのおもしろさを言葉にできるかどうか”です。それが言えないと、自分の作りたいゲームすらわかっていないということなので、そこは必ず最初に聞きます。もちろん口下手な人もいるので、言いたいことが言葉にならない場合もありますが、拙くてもいいから、そこは口に出してほしいです。

――なるほど……。では今回のコンテストに引きつけて考えてしまいますが、今回のコンテストでも、“この作品のおもしろさはこれだ”、みたいなことが書いてあると大きな評価になるのですか?

坂本評価になると断言はできませんが、それを自分でしっかりと言えるのは大事だと思います。JYUNYAくんもよく、「深くゲームをやり込むタイプじゃない坂本にもおもしろいと思わせるゲームを作らないとダメだ」って、失礼なことを言うんですよ(笑)。でも実際そういうことで、ジャンルや難しさがどう、ではなくて、このゲームは何がおもしろいのかをちゃんと言える。これはけっこう大事にしています。

――JYUNYAさんはいかがですか?

JYUNYA僕は、最近逆によくわからなくなってきているんですよね……。20年近くゲームを作ってきたので、自分のほしいものはあらかた作ってしまったし、インディーゲームが発達したことで、尖ったタイトルも世の中にたくさん出てきていますよね。

 けっきょく何を大切にして作るかと言ったら、模範的な回答になってしまいますが、“自分の好きなタイトルを最後まで作る”ということになってしまうかなあ。

――大事になってくるのは、やはりその部分ですか。

JYUNYAいまってゲームの販売マーケットがすごくて、自分しか遊ばないんじゃないかと思うようなタイトルも、世界に出してみたら遊んでくれる人が1000人、10000人といたりするんですよ。「意外と世の中捨てたものではないな」という(笑)。

坂本何十億というマーケットに出すと、興味を持ってくれる人も一定数出てくるんですよね。

JYUNYAそういう奇特な人もたくさん出てくるので、世のインディーゲームクリエイターには、恐れずに好きなものを最後まで作ってほしいと思います。

 少し変な話になりますが、自分の好きなものを作って完成させて、マスターアップして世に出したものを自分でまたジャッジしてほしいんです。客観的に遊んでみて初めて気づけることもあって、それがまたつぎの改善につながることもありますから。ここがまたインディーゲームと商業作品の違う部分だと思うのですが、インディーゲームはおもしろいもおもしろくないも、全部自分の責任なんです。

――それは、“自分の好きなタイトルを作っている”からですか?

JYUNYAそうです。たとえば100人、200人で作っているタイトルだと、どうしても責任が薄まってしまう部分がありますよね。「ここは自分の関わった部分ではないからな」、みたいに言い訳のレイヤーが増えてしまうんです。だから、おもしろくないという評価になって、「悔しいな」とは思っても、「俺がやらかした、これは一生の失態だ」みたいな、人生をかけた失敗みたいにはなりにくいんです。でもインディーゲームの場合、誰がつまらなくしたかと言えば、「それは作った自分」みたいなことがたくさんあるんです。というか、すごくいっぱいありました…。

――手柄や責任の比重は、確かに商業タイトルと比べて大きく異なるかもしれませんね。

JYUNYAだからこそ、最後まで作って出してみて、おもしろいかつまらないかを自分自身で判断してほしいと思います。僕自身、自分の作品をリメイクするのは大好きですから(笑)。遊んでみてつまらなかったら改善点を考えて、それをリメイク版やリマスター版に入れ込んだりしていて、それはそれで楽しいですよ。

――とても興味深いですね。本日は貴重なお時間をありがとうございました。最後に、“第1回 GYAAR Studioインディーゲームコンテスト”への応募を考えているクリエイターへ、激励のメッセージをお願いします!

坂本先ほども触れたように応募期間が短い中での開催となりましたので、“これからよくなっていくであろう”という可能性も含めて作品を見ていきたいと思っています。開発支援なども非常に恵まれた環境だと思うので、ぜひたくさんの人に、あきらめずに応募していただきたいです。

JYUNYA本当に、“自分の好き”を具現化した作品を作って応募してほしいです。どんな作品が集まるかこのコンテストは個人的にも楽しみにしてますね!

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