世界的な人気を誇るタクティカルFPS『VALORANT』の公式国際大会“VCT Masters”が、2023年6月に日本で開催される。

 2022年12月24日(土)、この情報がライアットゲームズのオンライン・オフライン統合イベント“Riot Games ONE”の会場でサプライズ発表されると、会場には大歓声が巻き起こり、キャスターやファンが涙を流した。

 筆者は20年近くシーンを追いかけているが、日本eスポーツが世界で評価される時代がやってきたこと、それを後押ししたのがタクティカルFPSというのは非常に感慨深いと感じている。

『VALORANT』ダウンロードページ(『VALORANT』公式サイト)

後進国、弱小国と言われてきた日本

 日本は20年近いeスポーツの歴史において“後進国”、“弱小国”という評価を受けてきた。

 2000年代に日本代表が世界大会に出場した時、海外のeスポーツサイトやフォーラムに反応を見に行くと「日本にeスポーツしているヤツなんているんだ」、「日本が相手だから1勝は確実」といった書き込みが並んでいた。

 海外プロゲーマーが来日した際に「日本のeスポーツについて知っていることはありますか?」と質問すると、困ったような顔をした後に「正直ほとんど知らないのだけど、格闘ゲームがすごく強いよね」というような反応がほとんどだった。

 日本はお家芸の格闘ゲームでは圧倒的な強さを誇るものの、トップティアと呼ばれる『Counter-Strike』シリーズ、『League of Legends』、『Dota 2』などでは世界大会の舞台に立つことすら出来ていないタイトルもある。『League of Legends』では、DetonatioN FocusMeがようやく世界の強豪チームに勝利をおさめるなどの実績を見せてきている状況だ。

 そして、このトップティアのタイトルとして近年において世界的人気を集めているのが『VALORANT』だ。この『VALORANT』で日本のZETA DIVISIONが2022年4月に開催された国際大会で世界3位という奇跡の大躍進を見せたことが、日本の存在を世界中に知らしめることにつながった。

世界中から注目されようになった日本のeスポーツシーン

 ZETA DIVISIONの快挙を筆頭に、近年の日本eスポーツは様々な点で世界が無視できない存在となりつつある。

 実績面では、ZETA DIVISIONが『VALORANT』世界3位に加えて『ブロスタ』(Braws Stars)世界1位・2位と独占、『Apex Legends』世界大会ALGS: 2022 ChampionshipではFnaticがベスト4、世界最高峰のeスポーツトーナメント『League of Legends』2022 World ChampionshipではDetonatioN FoucusMeが躍進、『チームファイトタクティクス』世界大会ではtitle選手が準優勝、『ストリートファイターV』ではEVO 2022にてカワノ選手優勝など、日本が世界大会で存在感を示す頻度が格段に増えた。

 世界的な格闘ゲームの祭典“EVO”や世界最大のゲーミング・ライフスタイル・フェスティバル“DreamHack”の日本進出、海外プロチームが日本のeスポーツ選手やストリーマーと契約するといった展開も目立つ。

 VTuber渋谷ハルさんがTSM、ストリーマーSPYGEA氏がFnatic、モデルの黒田瑞貴さんがTeam Liquidに加入に加入し話題となった。日本のプロeスポーツチームSCARZには、海外のApex Legendsプロとして有名なEuriece(ユリース)氏がストリーマーとして加入したことも記憶に新しい。

 日本はインフルエンサーを集めたeスポーツイベントが人気で、中には数10万を超える配信視聴数を集めるものもあり、関連のSNSエンゲージメントも信じられないような数字を見せている。海外プロがこのようなコラボで出演した際に大注目を集め、日本シーンの魅力に気づくケースもある。

 近年のeスポーツにおいては、インフルエンサーたちの配信を通じて観戦を楽しめるウォッチパーティーが公式配信を超える視聴数を叩き出しており、ここから派生する切り抜き動画がYouTubeに大量アップされ、それをノンゲーマー層が視聴しeスポーツシーンに関心を持つという、いいサイクルがeスポーツの人気と認知を押し上げている様子が見受けられる。

日本は後進国から憧れの国へ、世界が無視できない存在に

 『VALORANT』は、このインフルエンサーを中心とするマーケティングのトレンドをうまく活用しており、2022年6月25~26日に行なわれた世界大会日本予選では、ウォッチパーティーなどの導入で国内の配信同時接続数が50万超えを記録、試合会場のさいたまスーパーアリーナには有料ながらも2日間で2万6000人を動員するほどの人気となった。

『VALORANT』国際大会“VCT Masters”が2023年6月に日本で開催。“後進国”と言われた日本が世界に注目される存在へ飛躍的に成長した2022年を振り返る

 会場には世界大会に引けを取らない規模の観客が詰めかけ、これを見た海外ゲーマーからは「日本のeスポーツはすごい」、「こんな会場で試合をしたい」、「つぎの国際大会は日本で」といった声が聞こえてくるようになった。

そして、『VALORANT』日本代表ZETA DIVISION、Crazy Raccoon、NORTHEPTION、FENNEL HOTELAVAといったチームが世界の舞台で悔し涙を見せながら積み重ねてきた実績、大規模会場を埋め尽くすほどの日本ファンによる熱狂、海外からの注目などの要素が評価され、Riot Gamesは2023年に公式国際大会を日本で開催をするという決断を下した。

 『League of Legends』と『VALORANT』という世界的に人気のeスポーツタイトルを展開するRiot Gamesが、日本はeスポーツにおいて無視できない存在まで成長したと認めた格好だ。

 日本での国際大会開催が発表されると、いくつもの世界トップeスポーツチームが祝福のメッセージと国際大会に向けた意気込みを日本語でSNSに投稿した。有名チームが続々と日本語でツイートするのは驚きで、あまりにもたくさん目にするものだから「Twitterって自動翻訳機能が付いたんだっけ?」と思ってしまったほどだ。

 ついに、日本がeスポーツ後進国と評価される時代は終わりを告げた。日本は、世界から憧れのまなざしを受ける存在となったのだ。

eスポーツは何が起こるかわからないから面白い

 個人的には、日本のeスポーツをつぎのレベルに引き上げるきっかけを作ってくれたのが、筆者が最も追いかけてきたジャンル・タクティカルFPSということも感慨深い。

 日本でeスポーツといえば格闘ゲームという認識が強かったり、MOBA『League of Legends』やバトルロワイヤル『PUBG』、『Apex Legends』が圧倒的な存在感を示した。一方で、タクティカルFPSは世界では絶大な人気を誇るものの、国内ではこれらのタイトルに遠く及ばない存在だった。

 日本のeスポーツを発展させるのは残念ながらタクティカルFPSではないのだろうと思っていたところ、2020年にリリースされたばかりの『VALORANT』がわずか2年で日本のeスポーツを次のステージへと躍進させる足がかりを作ってくれた。

 eスポーツシーンの成長は目覚ましく、予想もできないことがつぎつぎと起こる。『VALORANT』はリリース当初から注目タイトルだったが、国内で『League of Legends』を上回る人気になるとは思いもしなかった。2022年にさいたまスーパーアリーナや横浜アリーナに10000人規模の観客が集まることも予想できなかった。「いつになるかはわからないけど、将来的には世界大会が日本で行なわれる日がやってきてくれたらうれしい」と思っていた。

 eスポーツは何が起こるかわからないから面白い。2023年も『VALORANT』、そしてeスポーツシーンから目が離せない。

『VALORANT』ダウンロードページ(『VALORANT』公式サイト)