世界的に人気のタクティカルFPS『VALORANT』において、日本チーム“ZETA DIVISION”がとんでもない快挙を達成した。国際大会“2022 VALORANT Champions Tour Stage 1 - Masters Reykjavík”(以下、VCT)で3位に輝いたのだ。

 日本はこれまで世界の舞台で実績を残すことができず、長年に渡り弱小国として低い評価を余儀なくされてきた。その状況を一変させ、日本タクティカルFPSの実力を世界に知らしめたのが、今大会におけるZETA DIVISIONの活躍なのである。

ZETA DIVISIONが『VALORANT』世界大会VCTで3位の快挙を達成、日本FPS界の20年の挑戦がついに実を結ぶ。弱小国が生んだ英雄たちの軌跡
ライアットゲームズのPC用FPS『VALORANT』。

20年前に始まった、タクティカルFPSにおける日本の世界挑戦

 タクティカルFPSにおける日本の世界挑戦は、2001年に韓国で開催された国際大会“World Cyber Games 2001”の『Counter-Strike』部門に日本代表“GoG”が出場したことからスタートした。

 以降、多くの日本代表チームがこれまでの20年間で世界に挑んできた。そのすべてを挙げることは難しいため、ここでは『Counter-Strike』の代表例をピックアップして紹介する。

 2001年当時としては前例がない世界で戦うことを目的とする競技志向のFPSチーム“Deadly Drive”、日本初のFPSプロチーム“4dimensioN”(2005)、テレビでドキュメンタリー番組が放送されるほど注目された“Team Speeder”(2008)、いまではレジェンドと呼ばれるnoppo氏が伝説の5人抜き「とんでもないプレー」をくり出してアジア王者となった“myRevenge”(2012)など、枚挙にいとまがない。

とんでもないプレー

 『Counter-Strike』シリーズの人気タイトル『Counter-Strike: Global Offensive』(以下、CS: GO)において、2016年頃から日本代表選考大会で無敗の活躍を見せてきたチーム“Absolute”。そのメンバーが2020年に『VALORANT』へと戦いの場を移したのが、ZETA DIVISIONの『VALORANT』部門となる。

ZETA DIVISIONが『VALORANT』世界大会VCTで3位の快挙を達成、日本FPS界の20年の挑戦がついに実を結ぶ。弱小国が生んだ英雄たちの軌跡
当時はAbsolute JUPITERとして活動していたメンバーたち(2020年)。

 『VALORANT』は、ラウンドごとに付与されたマネーで武器を購入しつつ、キャラクター固有のアビリティを併用して戦うタイトルだ。武器の購入システムは『CS: GO』にも採用されている。開発会社は異なるが、同系譜のタクティカルFPSとしてとらえられており、『Counter-Strike』シリーズからタイトル移行するプロゲーマーも少なくない。

 “タクティカルFPS”というジャンルにおいて、日本代表チームは世界大会のグループステージ突破はおろか、1勝を上げることすらも難しい状態が続いてきた。歴代の日本代表チームは、心ない人たちから「日本の恥」、「スポンサーのお金で海外旅行とはいい身分」、「引退しろ」などという罵詈雑言を浴びせられ続けてきている。

 そんな状況を一変させ、世界中を日本チーム応援ムード一色に塗り替えるほどの一大事が発生した。それこそがZETA DIVISIONの躍動である。

世界中のFPSファンの心を掴んだZETA DIVISIONの快進撃

 ZETA DIVISIONは、なぜ世界中から応援されるチームとなったのか?

 その理由は彼らの姿にある。世界の有名eスポーツチームをつぎつぎにジャイアントキリングし、戦うごとに強くなるような姿、そして何よりも選手たちが情熱を持って取り組む姿勢だ。

ZETA DIVISIONが『VALORANT』世界大会VCTで3位の快挙を達成、日本FPS界の20年の挑戦がついに実を結ぶ。弱小国が生んだ英雄たちの軌跡
ZETA DIVISIONが『VALORANT』世界大会VCTで3位の快挙を達成、日本FPS界の20年の挑戦がついに実を結ぶ。弱小国が生んだ英雄たちの軌跡

 ZETA DIVISIONは世界から全12チームが出場した今大会の下馬評において、もっとも評価の低いチームだった。世界から見れば、日本はこれまでに確固たる実績を残していないFPS弱小国。評価が低いのも当然と言える。中には、現在世界大会に付与されている日本の出場枠ひとつを返上するべきだという厳しい意見もあった。

 逆風の中、ZETA DIVISIONは初戦で韓国“DRX”と対戦。手も足も出ない完敗という結果だった。DRXはアジア地域を代表する強豪。『CS: GO』からタイトル移行した選手達が在籍しており、ZETA DIVISIONとは長年のライバルでもある。

 日本のファンは、日本予選を通じて今年はこれまで違うと思われていたZETA DIVISIONの大敗に衝撃を受けた。やはり韓国DRXは強く、「今回もダメか」と諦めかけた人が大半だっただろう。

 しかし、ZETA DIVISIONの選手と運営陣は違っていた。敗北を振り返り、チームの改善点を洗い出し、敗者復活戦で対戦するチームを分析。あくまでストイックに、勝利を目指す姿勢を崩さない。

 その結果が、有名eスポーツチーム相手の連戦連勝だ。敗者復活トーナメントにあたるロワーブラケットを決勝戦まで進み、勝てば決勝戦に進出という破竹の勢いを見せた。

 この間に倒したのは、“Fnatic”、“Ninjas in Pyjamas”、“Team Liquid、“Paper Rex”といった世界でも名の知れたチームばかり。一度は敗れたDRXの打倒も果たしている。敗北した試合でも、“OpTic Gaming”や“G2 Esports”という世界トップクラスの有名チームを苦しめており、多くの人の心にZETA DIVISIONの名を強く刻み込んだ。

ZETA DIVISIONが『VALORANT』世界大会VCTで3位の快挙を達成、日本FPS界の20年の挑戦がついに実を結ぶ。弱小国が生んだ英雄たちの軌跡

eスポーツ最大の魅力“情熱”を体現し、世界に示したZETA DIVISION

 ZETA DIVISIONの選手達が諦めずに強敵に挑む姿は非常に情熱的だった。タクティカルFPSでは、ラウンドを取る度に「ナイス!」と声を出して仲間のプレーを賞賛し、チームを鼓舞することが定番となっている。

 ZETA DIVISIONが「ナイス!」と叫ぶ姿からは、勝ちへのこだわりや諦めない姿勢が伝わってきた。当然のように観戦者たちの心を惹きつける。その姿が配信映像に抜かれる回数は勝利を重ねるごとに増していき、SNSや配信コメントにも「NICE!」のコメントがあふれるようになった。

ZETA DIVISIONが『VALORANT』世界大会VCTで3位の快挙を達成、日本FPS界の20年の挑戦がついに実を結ぶ。弱小国が生んだ英雄たちの軌跡

 心を動かされたのはファンだけではない。選手が発する「ナイス!」の声をサンプリングしたオリジナル楽曲が大会公式で作成され、勝利のBGMとして流れたのにはさすがに驚いた。

 最終的には、世界中からZETA DIVISIONを応援する流れができ上がっていた。大会キャスターはZETA DIVISIONを推し、ZETA DIVISIONに敗れた世界の有力選手からも激励のメッセージやユニフォームを着て応援する姿がSNSを通じて寄せられる。

 eスポーツ最大の魅力は、真剣にプレーして勝利を目指すという選手の情熱だ。ZETA DIVISIONは、プレーを通じてその魅力を体現し、世界中から応援されるチームとなったのである。

世界3位でも満足しないZETA DIVISION。目指すはあくまで世界一

 タクティカルFPSで世界大会3位というのは、先にも説明した通りこれまでの20年で初の快挙である。サッカー日本代表がワールドカップで3位になったようなもの、と例えたらそのすごさが伝わるだろうか。

 世界3位というZETA DIVISIONの躍進を誰もが賞賛した。しかし、世界からの祝福を受けてなお、チームの受け止めかたは違っていた。

 敗者復活トーナメント決勝戦でOpTic Gamingに敗北した後のインタビューにて、Laz選手は「全然満足していない」、crow選手は「本当に悔しいので、つぎはもっと強くなって帰ってきます」とコメント。チームコーチのXQQ氏も、自身のSNSにて「誰1人としてこの結果に満足してない」と投稿している。

 チームは世界一になることが目標であると宣言して活動しており、今回の3位はあくまで通過点にしか過ぎず、満足していないということだ。

 プロゲーマーが、プロとなるのに必要な素養として質問される際に“負けず嫌い”を挙げることが多い。世界3位で悔しがるZETA DIVISIONのメンバーはまさにプロであり、この状況でも満足せず世界一を目指すという鉄の意志を持っている。

 大会実況を担当した岸大河氏が「これは奇跡じゃない、Champions(年間王者決定戦)への軌跡だ」と発したように、ZETA DIVISIONはこの通過点を経て、日本チームのタクティカルFPS世界一を実現してくれるだろう。

ZETA DIVISIONが『VALORANT』世界大会VCTで3位の快挙を達成、日本FPS界の20年の挑戦がついに実を結ぶ。弱小国が生んだ英雄たちの軌跡

ZETA DIVISIONの活躍に刺激された人はぜひプレーしてほしい『VALORANT』の魅力

 『VALORANT』は5対5で戦う競技性の高いタクティカルシューターだ。高い精度が要求される銃撃戦と、エージェント(キャラクター)固有の特殊能力を組み合わせた、本格派の銃撃戦が特徴で、プレイヤーの戦略的選択や柔軟なアイデア、そして一瞬のひらめきから産まれるチャンスがチームを勝利に導く。そして、この『VALORANT』は無料でプレイすることができる。

 eスポーツにおいて“人気があり競技人口が多い”タイトルをプレイすることは重要だ。競技人口が多いほど対戦しやすく、レベルも高くなり、シーンを支援するスポンサーが集まりやすくなる。そのような環境で活躍すれば注目を集め、高い評価を得ることができるというのがその理由だ。

 『VALORANT』は、VCTのZETA DIVISION戦において、国内での大会配信同時接続数が過去最大の29万人を記録した(2022年4月24日時点)。『CS: GO』で2019年に行なわれた日本代表決定戦の大会配信同時接続数は、サードパーティの統計データによると約3000人。『VALORANT』の注目度はおよそ100倍ということになる。

ZETA DIVISIONが『VALORANT』世界大会VCTで3位の快挙を達成、日本FPS界の20年の挑戦がついに実を結ぶ。弱小国が生んだ英雄たちの軌跡
パブリックビューイングでZETA DIVISIONを応援するファンたち。

※『CS: GO』自体は世界的に人気のタイトルだ。2021年の公式世界大会で歴代最高270万越えの視聴数を記録している。ただ、日本では開発元による運営サービスが提供されていないことから、人気に差が出ているという状況がある。

 『VALORANT』の公式大会配信では、人気ストリーマーやVTuberによる公認ミラー配信が平行して行なわれている。これらは視聴者が『VALORANT』や競技シーンについて初めて知るきっかけとなり、プレーヤーや視聴人口の拡大に貢献していると考えられている。

 かつてはプロゲーマーの技術や知識は門外不出だった。現在ではゲーム配信やYouTubeが旺盛ということもあり、プロゲーマーが自身の配信やYouTubeでそれらを惜しげもなく公開する時代となっている。これらを通じて技術や知識を磨きやすい環境が整っており、『VALORANT』はプレーヤーが学び、遊びやすいタイトルとなっている。

 日本のFPS界隈では、2000年代の無料オンラインFPSの台頭がプレーヤーと競技人口の拡大に貢献してきた。現在は驚異的な人気注目度を持つ『VALORANT』がその役割を担っている。

 これまで、その時代を牽引する日本代表チームのメンバーに憧れてFPSを始めたプレーヤーが、次世代のトッププレーヤーになるというサイクルが続いている。ZETA DIVISIONの活躍に刺激を受けた人は、ぜひとも『VALORANT』をプレーしてみてほしい。

 数年後に『VALORANT』世界大会で活躍し、歴史に名を刻むのはあなたかもしれない。

ZETA DIVISIONが『VALORANT』世界大会VCTで3位の快挙を達成、日本FPS界の20年の挑戦がついに実を結ぶ。弱小国が生んだ英雄たちの軌跡
VCT配信ページ(Twitch)