2022年12月23日(金)・24日(土)、ライアットゲームズのオンライン・オフライン統合イベント“Riot Games ONE”が横浜アリーナで開催された。

 2023年に日本で公式国際大会“VCT Masters 2023”の実施が決定するなど、大躍進を続ける『VALORANT』eスポーツシーンについて、公式キャスターとして携わるOooDa氏・岸大河氏に話を聞いた。

 なお、このインタビューは12月23日(金)に実施しており、OooDa氏、岸大河氏は国際大会が2023年に日本で開催されることは知らない状態で話をしていただいたものであることを最初に補足させていただく。

『VALORANT』ダウンロードページ(『VALORANT』公式サイト)
OooDa・岸大河
左からOooDa氏(文中はOooDa)、岸大河氏(文中は岸)

――2022年の『VALORANT』のeスポーツは予想も付かないような大躍進を見せたと思っています。公式キャスターとして関わってきたふたりは、この1年をどのように感じていますか?

OooDa『VALORANT』シーンの成長というところでいくと、各チームや選手を応援するファンの熱気、チームの投資によって選手が間違いなく強くなれたと思いますし、いいことしかない現状だと感じています。ファンの応援があるからこそ選手もしっかり活動できていますし、この横浜アリーナのような大きな舞台に出演したり、自分たちもごいっしょさせていただいて「夢を見させていただいてありがとうございます」くらいの感じはありますけどね。

選手もコミュニティーも、みんながんばってくれたなという1年でしたね。ZETA DIVISIONの世界3位達成という結果が大きくて、それによってメディアで取り上げられて、下半期はより大会を見てくれる人が増えたり、インフルエンサーのみなさんがVALORANTの配信をしてくれたり、イベントも増えたりと、こういった飛躍的成長が多くの視聴者を集めたのかなと思います。

 2023年はその高まったところを維持、もしくはそれ以上にしていくことが出来るかなというのは課題ではありそうですね。

――VALORANTの躍進に合わせて、ふたりも大きく飛躍した年になったのではないかと感じています。最近だとOooDaさんがガレリアのアンバサダーに就任しましたよね。自分達を取り巻く環境の変化は感じましたか?

OooDaたくさんの反響をいただくようになって、とてもありがたいと思っています。ただ、我々キャスターは裏方……ではないけど、主人公ではないと思うんですよ。料理でいえば調味料くらいだと思うので、その調味料を応援してくださったり、この調味料は合うよね、この料理といえばマヨネーズだよねみたいな風に思って頂けてすごくうれしくて。

 もともとはNegitaku.org(筆者の運営するeスポーツサイト)の年間ランキングに名前が載って喜んだり、東京ゲームショウ2014で“HOUNDS”のブースでコスプレをして「OooDa隊長が行く!」みたいな企画をやらせていたただいて、「OooDaさん、東京ゲームショウに出るくらいビッグになって!」、「いえいえ!」なんて会話をしていたのが、いまでは横浜アリーナにいますから。

――“HOUNDS”懐かしいですね。確かにそんなこともやっていました。規模も何もかも変わりましたけどね。

OooDaでも、自分がやっていることは変わっていないっすね。

これまでといっしょだね。やることはあまり変わっていないし、成長しなくてはならないという自分の中のマインドは変わっているんですけど。まわりが盛り上げてくれて、押し上げてもらっているという感じで、例えばフォロワー数が増えたり、配信の視聴数が伸びたり、SNSの投稿に対するリプライの頻度が増えたり、視聴者の皆さんからのアプローチいただくことが格段に多くなったと思いますね。

 あとは、僕らの実況が海外で取り上げられたり、国内でもまとめていただいたり、SNSでバズったりとか。僕らはあまり気にしていない部分でも、昔からやっていたことが最近になってピックアップされるようになったのかなと思いますね。

OooDaちょっと悔しいところがあって、昔から競技シーンって「やっぱり海外だよね」、「海外の実況すげえ」、「海外の実況はやっぱり違うな」と散々言われてきていて、“日本は微妙”みたいな。それがいまは逆に海外でも評価されているのがうれしいですね。いま、どこの現場にいっても「VALORANTっぽく」とリクエストいただきますからね(笑)。

――日本が評価されるようになったという点でいうと、自分は、eスポーツシーンにおける日本の存在がより大きなものになっていくと思っています。ふたりはそのような兆候を感じたり、もしくは日本のeスポーツがこんな風になって欲しいということはありますか?

日本のeスポーツがどうかはわからないですが、『League of Legends』のEvi選手みたいな、日本の競技シーンから離れて海外で活躍する選手というのが増えてほしいなと思っています。

※Evi選はTeam Hereticsに移籍し、2023年はメジャーリージョンと言われるヨーロッパでプレイする。

そのくらいのチームにまず所属する、それなりの結果を出していく、海外から欲しがられる選手になる、アイコニックな選手になったりとか。そういう選手が『VALORANT』から誕生してほしいなと思いますし、ヨーロッパ・アメリカとかの強豪チームに入るというのはぜひ見てみたいですね。

 “そういうチャンスもあるんだ”ということで国内でがんばる選手も増えていって、より競争力の上がる競技シーンも見てみたいですね。

OooDa僕も同じですね。これまでガラパゴスみたいなイメージがありましたけど、日本の選手が外に出て行くというのを見てみたいですね。ブラジルの選手をアメリカのチームが獲得したりということもあるので、日本の選手がということもあるかもしれない。逆にヨーロッパやアメリカの選手が日本シーンを魅力に思って移籍してきたりとか。Fnaticなどの海外チームが日本で盛りあげてくれたりしているので、日本と海外がお互いに内外に展開を広げていって欲しいですね。

あとは、2023年のインターナショナルリーグに選ばれなかったチームの選手達の一部は、甘えている可能性があるのではないかと思っています。パシフィックリーグを勝ち抜いてインターナショナルリーグに昇格するのは無理だろう、でもある程度お金を稼げるから国内でなんとなくやっていこうという、そういう人たちはたぶん、数年後には競技シーンにいなくなっていると思うんですね。

 全選手に危機感をもってもらいたいですし、そこで競争力が発生しないとファンにもなってもらえないし、選手生命が短くなってしまうし。なんならつぎのキャリアすらない状態になってしまうので、いま競技シーンにいる選手は、まだまだきびしい環境だと思ってがんばって欲しいと思っていますし、若い選手はそういう環境にもまれながら、インターナショナルリーグの出場権を持つZETA DIVISIONやDetonatioN FocusMeに加入できるような選手になってほしいと思っていますね。

――これまで、王道だと思われていたタイトルの競技シーンが急に人気を失ったり、開催がなくなってしまっていたということが何度もありました。どんなタイトルでも、今後どうなるかは誰にもわからないですね。

そう、わからないです。いまはある程度給料をもらえているけど、ちょっとシーンが小さくなったりして、いま払えている給料が払えないチームが増えていって、全体的な国内の平均給与額が落ちていくこともゼロではないですから。それでもあなたは選手を続けますか、というところもあると思うので。本当にストイックな選手がどんどん出てきてほしいなと思います。

――2023年はどんな年にしたいなど、考えていることはありますか?  ふたりは『VALORANT』の公式キャスターで忙しくなるのではないかと思いますが、どうでしょうか。

僕は目標というよりは活動の一環で、ひとりキャスターを育成というよりは雇おうという予定をすでに立てていて。

――おお、それは岸さんの会社で?

そうです。いつ発表するかはまだわからないですけど、多分2023年の春くらいには良い発表が出来るのかなという風に思っていまして。9割くらいは進んでいて、わりと名前を聞いたら驚くかもしれないですね。

――じゃあ、すでにシーンにいるような方なのかな……。

かもしれないし、まったくシーン外からかもしれないということで。僕自身は、正直2023 VCTの公式キャスターをやるかやらないかは、現時点では悩んでいるというのが本音です。100%やめるか、続けるか。

――個人で南米シーンを追いかけたいと言っていましたが、そういうことも関係ありますか?

単純に、僕が『VALORANT』だけじゃなくてほかのゲームの実況もやりたいという意向もあって。『VALORANT』に軽く関わってほかのタイトルもやるとなると、それはそれで選手に失礼だし、本気で取り組まなければならないと思っているので。今年は無理やりバランスを取ってやっていましたけど、来年とれるのかというとそうではなくて、不安な部分もちょっとありながら答えを探しているところではありますね。

OooDa僕は個人の活動としてはそれほど変わらず、いつもどおりやっていこうかなという感じです。けど、ずっとやりたいと思っていてできていないことで、いままで選手活動をしていた人たちが、いま何をしているのかというのはスポットライトを浴びせたくて。個人的な話を聞きたかったりとか、くすぶっている人と一緒に何かできないかなとか思っています。

 僕のイベント会社での経験を活かして、ゲーム会社にそういう人を紹介したり、コンサルではないですけど、「こういう風にしたら?」みたいなことが少しずつ進んでいるので、色々な人をつなぐパイプになれればとも思っていますね。

 そして、僕も2023 VCTをどうするか悩んでいます(笑いながら)。

――ええ~!?

僕とは違って、どこまで寄せるってところじゃない?

OooDaそうだねぇ。

僕は、0を取るか、100を取るかなみたいな。OooDaさんは、0はないでしょ?

OooDa0はないんですけど、関わりたいんだけど、どう関わっていくかという感じなんだよ僕は。ちょっと難しいんですけど。でもやりたい気持ちはめっちゃあるんですよ。VALORANTめっちゃ好きだもん。ふたりともね。

――ふたりとも大前提として『VALORANT』が大好きでVCTをやりたいけど、ほかの仕事とのバランスがあるということですか?

お世話になった企業の案件を常に断り続けるというのも、すごく申し訳ない気持ちもあるし。

OooDaそうだね。

あとは有名な人が『VALORANT』にも関わるようになって、『Apex Legends』にもいて、『フォートナイト』にもいてというところで、じゃあもっと新しいタイトルが出た時に「誰が担当するの?」とか、そういうところのスキマも埋めていかないといけないと思いますし。『VALORANT』のキャスターはこれからある程度、潤沢に増えていくと思いますし。そういうところもちょっと考えていますけどね。

――これはトップキャスターならではの悩みですね。勢いのある人気タイトルに関われるなら、断る理由はないと思ってしまいますが、業界やお世話になっている人のことも考えてということで悩んでいる。昔から考えたら、選択肢があるだけでも贅沢な悩みかもしれないですね。そして、このタイミングで時間になってしまいました。ありがとうございました!

記者の目

 短い時間のインタビューではあったが、ふたりがトップキャスターとして走り続けている理由を垣間見ることができたと感じた。現状に満足していないし、いつシーンがなくなるかわからないという危機感を持っており、eスポーツは自分だけよければOKでは成り立たないことを知っている。

 2023 VCTへの関わりかたについて悩んでいるのは驚きだったが、このインタビューの翌日に発表された公式国際大会“VCT Masters 2023”の日本開催という情報が、彼らの心をさらに揺れ動かすものとなることは間違いないだろう。