『FANTASIAN』に全身全霊を捧げたメンバーが語る開発秘話

 坂口博信氏率いるミストウォーカーが手掛ける、Apple Arcade向けのRPG『FANTASIAN』(ファンタジアン)。

 2021年8月13日にアップデートが実施され、ついに完成を迎えた『FANTASIAN』。これを記念して、本作の魅力を語るにはこれ以上ないメンバーが揃ったスペシャルインタビューをお届けしよう。

 インタビューに参加してくれたのは、プロデューサーとして培ってきたすべてを『FANTASIAN』に捧げたミストウォーカーの坂口博信氏、ディレクター兼メインプログラマーとして開発をけん引した中村拓人氏のおふたり。そして、その旋律で『FANTASIAN』の世界を唯一無二のものに仕上げた作曲家・植松伸夫氏と、植松氏のメロディーを比類なき歌声で彩ったYuria Miyazonoさん。本作は、この4人から誰かひとりでも欠けたとしたら“完成”していなかった。そう断言できる理由は、このインタビューを読めばご理解いただけるだろう。

『ファンタジアン』後編配信まであと1日。「これが最後の作品となったとしても恥ずかしくない」と坂口博信氏・植松伸夫氏が語った、開発メンバーによるスペシャルインタビュー!

 さまざまな“縁”で結びつき、『FANTASIAN』完成の大きな原動力となった4人にしか語れないエピソードが満載の、ここでしか読めないテキストとなっている。

『ファンタジアン』後編配信まであと1日。「これが最後の作品となったとしても恥ずかしくない」と坂口博信氏・植松伸夫氏が語った、開発メンバーによるスペシャルインタビュー!
坂口博信氏(さかぐち・ひろのぶ、文中は坂口)。ミストウォーカー代表にして、『FANTASIAN』ではプロデューサーを担当。過去のインタビューでは本作が「最後の作品になってもいい」という覚悟で開発に臨んだことを明言している。
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中村拓人氏(なかむら・たくと、文中は中村)。『FANTASIAN』ではディレクター兼メインプログラマーとして活躍。ゲーム全体のディレクションから、ボス戦をメインにしたバトルシステムの構築など、プログラマーとして大きな役割を果たす。
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植松伸夫氏(うえまつ・のぶお、文中は植松)。『ファイナルファンタジー』シリーズを始め、数多くのゲーム音楽を手掛ける作曲家。『ブルードラゴン』、『ラストストーリー』など、坂口氏の作品には欠かせない“盟友”でもある。
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Yuria Miyazono(ユリア ミヤゾノ、文中はミヤゾノ)。作編曲家、歌手。『FANTASIAN』といったゲーム以外にも、ドラマやアニメーションの音楽担当、オーケストレーション、楽曲提供や劇中音楽のボーカル参加など、幅広い分野で活躍。

我ながら「詰め込みすぎた」と思うくらいのボリュームに

――後編が配信されて『FANTASIAN』は完成となりましたが、いまのお気持ちをお聞かせください。

坂口やっと発表できました。結果として、5000グラムくらいの大きな子どもになりましたね(笑)。前編の2倍くらいのボリュームで、なかなか歯応えのあるものになったので、ぜひ楽しんでいただきたいです。

植松音楽はけっこう前に終わっていたのですが、坂口さんから「後編ももうすぐできるよ」と言われてからけっこう時間が経ったので、「これは相当気合が入っているな」と思っていました。そうしたら、Twitterで「完成した」と発表されたので、「やっと終わったのか」と。落ち着いたら打ち上げしたいですね(笑)。

――これでゲームは完全に坂口さんの手を離れたということでよろしいでしょうか?

坂口じつはリリース後にも考えていることがあって、中村はまだ全力で働いています。詳細はまたあらためてお伝えしますが。

――リリース後にも展開があるのですね! その内容は話せるときが来たらお聞かせください。中村さんは、今回はディレクターとメインプログラマーを兼任されました。

中村ここまで長かったですね(笑)。ようやく世に出せたので、皆さんの反応が楽しみですが、このボリュームで皆さんに最後まで遊んでいただけるのか、ちょっと不安もあります。でも、ボリュームがすごくても中身がスカスカではありませんし、かなり密な内容になっているので、じっくりプレイしていただけるとうれしいですね。

『ファンタジアン』後編配信まであと1日。「これが最後の作品となったとしても恥ずかしくない」と坂口博信氏・植松伸夫氏が語った、開発メンバーによるスペシャルインタビュー!

――いままでもお伝えしていますが、あらためて後編はどのように展開するのか、お聞かせください。

坂口後編は、離れ離れになった仲間たちを探索する旅から始まります。そして、ヴァムと“神機”の秘密、前編の最後に出てきたジャスという神の存在、ジニクルが“タロス”と呼ばれる理由など、前編に散りばめられていた謎が明らかになりつつ、神にまつわる物語が展開する中で、さらなる世界が登場します。それに合わせて新しいジオラマが登場して、植松さんの楽曲も新たに30曲くらいが流れることになります。

 仲間たちも“神機”を手に入れて覚醒することで成長マップがさらに開放され、多彩なスキルを身に付けられます。ボス戦はかなりの数を用意していて、それぞれ工夫を凝らしているので、スキルや装備をどのように組み合わせて戦うのか、攻略のし甲斐がある戦闘を楽しめると思います。後編では、前編でお見せした要素がさらに濃くなるということです。

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――前編はストーリーを体験する1本道の内容でしたが、後編はまず仲間を探し出すことから始まります。そこからプレイヤーはどのようにゲームを進めればいいのでしょうか?

坂口後編の流れは、自由度の高いクエスト方式となります。たとえば、ヒントのある場所に行くとクエストが生まれたり、何かしらのクエストをクリアーすることでさらなるクエストへと繋がっていくような流れです。徐々に行ける場所が増えていく中で、同時並行で各所にクエストが発生するのですが、プレイヤーは好きな順番でクエストに挑戦できます

 ただ、推奨レベルという形である程度の道筋を表示しているので、進行の目安にしてください。もちろん、必ず推奨レベルに合わせて進めなければ物語がわからなくなることはありません。言ってしまえば、仲間全員を探し出さなくともラストまで進められます。

――ラストまで行けちゃうんですか?

坂口ゲームの構造上では可能ですが、ボスに勝てるかな……。相当難しいとは思います。

――それぞれの能力が違うので、仲間が増えるほど攻略の深さが変わりますし、何より物語を体験しないのはもったいなさすぎますから、そこはじっくり遊んでほしいですね。ゲームをプレイしていると、やはり『ファイナルファンタジーVI』(以下、『FFVI』)を思い出しました。

坂口自分の原点であったり、素直におもしろいと思えるゲームを考えたら、この形になりました。自分が30年以上前に作ったゲームから影響を受けるというのも不思議な話なのですが、あのワクワク感を最新の技術で、素直にきっちり作ってみたいと思ったことが『FANTASIAN』のきっかけです。

 まずは物語を追う中でキャラクターの生い立ちや性格を知り、後半は世界が崩壊して散り散りになった仲間を好きな順番で集めていく。この『FFVI』の流れは『FANTASIAN』と同じです。スクウェア・エニックスから“ファイナルファンタジー ピクセルリマスター”が発売されたことで、当時の開発スタッフたちと話す機会があったのですが、彼らが『FANTASIAN』をプレイして「これは『FF“6.5”』みたいな空気感のあるゲームですね」と言ってくれたんです。あの『FFVI』のノリをそのまま進化させたら『FANTASIAN』になったのでは? と。それはすごくうれしかったですね。

『ファンタジアン』後編配信まであと1日。「これが最後の作品となったとしても恥ずかしくない」と坂口博信氏・植松伸夫氏が語った、開発メンバーによるスペシャルインタビュー!

――内容は本当に濃いですよね。

坂口予想外のボリュームになりました。後編はショートストーリーが積み重なっていくイメージでしたが、そのショートストーリーそれぞれにダンジョンが用意してあって、ボスがいて……結果、前編の2倍にまでボリュームが膨れ上がりました。

 テストプレイでも前編が20時間で終わった人が後編でエンディングを迎えるまでに40時間かかっていましたが、自分がいままで作ってきたゲームにも総プレイ時間が60時間を超えるものはなかったので、我ながら「詰め込みすぎたな」と(笑)。とは言いながら、ボスなりダンジョンなり、攻略の過程もさまざまで、濃い時間を楽しめると思います。

――後編になると、前編にはなかったゲームシステムも登場しますし。

中村仲間が増えることで、戦闘中にノーコストで仲間を切り換えられる“チェンジ”というシステムが追加されます。状況に合わせて仲間を切り換えることで、とくにボス戦などで効果を発揮すると思います。成長マップが完全に開放されることも大きな変化ですね。仲間それぞれが異なる成長マップを持っているので、プレイヤーが自分に合ったスキルを獲得することで攻略の幅がかなり広がります

坂口前編が体験版かと思えるくらい、後編のボス戦は数も手応えも大きく増します。成長マップだけでなく、装備の強化なども加わってくるので、カスタマイズする楽しさは段違いになると思います。ボスがなかなか倒せなくとも、絶対に攻略法があるので、いろいろと工夫して挑戦してほしいですね。スキルを取り直したり、装備を見直したりすると意外とサクッと進めるような、絶妙なバランスになっていますので。

『ファンタジアン』後編配信まであと1日。「これが最後の作品となったとしても恥ずかしくない」と坂口博信氏・植松伸夫氏が語った、開発メンバーによるスペシャルインタビュー!

やさしさに満ちた音楽と世界観を代表する歌声

――植松さんの音楽も、先行で配信・発売されたサウンドトラック『植松伸夫×坂口博信 作品集 ~Music from FANTASIAN』で聴かせていただきましたが、ゲームで聴くとまた印象が変わりますね。とくにYuria Miyazono(ユリア ミヤゾノ)さんの歌が乗った曲は、耳に残りました。

植松ゲームをプレイする中で初めて音楽を聴いてもらうのがゲーム音楽としてはベストなので、先にサントラで後編の音楽を聴けるのはちょっともったいない感じもしましたが(笑)。でも、ミヤゾノさんの歌声がゲームで流れるときは、サントラで聴くのとはまた違う感動があると思うので、そこは楽しみにしてゲームを遊んでほしいですね。

『ファンタジアン』後編配信まであと1日。「これが最後の作品となったとしても恥ずかしくない」と坂口博信氏・植松伸夫氏が語った、開発メンバーによるスペシャルインタビュー!
全59曲を収録したサウンドトラックのデジタル版はApple MusicやiTunes Storeなどで配信中。特製ブックレットや『ブリコの物語』の朗読入りCD&絵本ブックレット、 『想い・独奏』のピアノ譜面を封入したパッケージ版も発売中。

――『キーナ(運命)』のミヤゾノさんの歌声は、とにかくすばらしい。

植松ミヤゾノさんとは何度もお仕事をさせていただいていて、今回も歌モノを作ろうとなったとき、仮歌をミヤゾノさんにお願いしたんです。その音源を坂口さんに送ったら「すごくいいじゃん!」と。

 実際、タイアップで有名な歌手にお願いするという可能性も考えていたのですが、いろいろ熟考したうえで「やっぱりミヤゾノさんの声がいい」と決めましたし、ミヤゾノさんに決めた判断は正解だったと思います。ゲームにしろ映画にしろ、オープニングからエンディングまでがひとつの作品だと思うのですが、その意味でもミヤゾノさんの声は『FANTASIAN』という世界観を代表するにふさわしい、これ以上ない歌声でした

ミヤゾノいま、自分が歌えるようになった経緯を初めてお聞きして、驚いているんですけれど(笑)。仮歌を入れてから半年くらい経って、「ミヤゾノさんに正式にお願いしたい」と連絡を受けて、すごくうれしかったのを覚えています。

――レコーディングでは、植松さんからのオーダーなどはありましたか?

ミヤゾノ坂口さんのタイトルにアレンジなどで参加したこともあって、植松さんとは何度もお仕事をさせていただいているのですが、植松さんは語彙力が豊かなので、ハッとイメージを掴めるような言葉をたくさんいただきます。『キーナ(運命)』の歌入れのときは、「手のひらにある卵をそっと巣に返すようなイメージで」と言われました

――それはステキですね。

ミヤゾノそんなやさしさを歌に込めるというイメージができましたし、きっとそういうお気持ちで作曲されたんだろうな、と理解できました。植松さんの音楽とは『FFIX』で初めて出会ったのですが、素朴だったりやさしかったり勇壮だったりと、その音楽が大好きで。『キーナ(運命)』の曲をいただいたときも、そんなやわらかいやさしさを感じました。

『ファンタジアン』後編配信まであと1日。「これが最後の作品となったとしても恥ずかしくない」と坂口博信氏・植松伸夫氏が語った、開発メンバーによるスペシャルインタビュー!

――『意味なき流転』もミヤゾノさんが歌を担当されているんですよね。

植松最初はボーイソプラノでやろうと思っていたんですけれど、うまくイメージにはまらない。でも、スタジオでの作業は今日しかできない。どうしようか悩んでいたら、ちょうど歌入れが終わったミヤゾノさんがスタジオにいたんです。で、「ちょっとやってみない?」と。譜面もその場で渡したくらいのぶっつけ本番でしたが、そうは思えないくらいの歌を聴かせてくれました。

ミヤゾノ歌入れも落ち着いてスタジオの控え室で休んでいたら、急に「歌ってみない?」と(笑)。『キーナ(運命)』で体力を使い果たしたと思っていたんですけれど、何とかがんばりました。

植松ミヤゾノさんが『キーナ(運命)』の歌入れが終わったからと、すぐにスタジオを出ていたら『意味なき流転』は生まれていなかったかもしれません。

坂口僕がお願いする植松さんの曲は、メロディーを長く伸ばして聴かせる場合が多くて、歌い手さんによっては声がぶれてしまうこともある。だけど、ミヤゾノさんは音程を外さない。“神様の音楽”というイメージにピタッとハマるんです。

植松シャングリラ』や『旅立ち』のスキャットもミヤゾノさんです。合唱や『死械の果てに』の佐々井さん(佐々井康雄氏)以外は、ほとんどミヤゾノさんの声だと思います。

――皆さんの想いが呼応しているかのような印象を楽曲から受けました。

植松モノづくりに携わる人ならみんなそうだと思うのですが、作ったモノが完成したら、しばらくうれしいけれど、時間が経つと「あそこはああすればよかった」と思っちゃうんですよね。『FANTASIAN』も作曲が終わってからしばらく経つので、いまは100点満点とは言えないのですが、いいモノを作ったという自負はあります

 いつかは忘れちゃったけれど、坂口さんと「『FFVI』の進化版を作ったらどうだったろうね」という話をしたことがあって。『FFVI』まで音楽を作ってきて「ここまで来たか」と感慨深かったのを覚えていて、そこから『FFVII』でハードがプレイステーションになったのは転換点でしたね。表現が大きく変わったので『FFVI』の進化版を作ることはできなかった。だから、先ほど坂口さんが「『FANTASIAN』は『FF6.5』の空気感があると言われてうれしかった」と言っていましたが、僕も同じ気持ちです。そういう意味でも、『FANTASIAN』をやってよかった。

『ファンタジアン』後編配信まであと1日。「これが最後の作品となったとしても恥ずかしくない」と坂口博信氏・植松伸夫氏が語った、開発メンバーによるスペシャルインタビュー!

――個人的にはメインテーマ、オープニングから戦闘まで続くシンセサウンドに痺れました。

植松ゲーム音楽をオーケストラで演奏するのがかっこいいというか、ゲーム音楽のライバルは映画音楽であり、ゲームに映画のような音楽が流れると、みんなが「おお!」と思った時期があったじゃないですか。オーケストラは好きですけれど、それ一辺倒になるのは違うと思いますし、『FANTASIAN』では電子楽器を使った音楽をやってみたかったんです。
 
 アナログシンセサイザーから始まった電子楽器は、いつからか電子楽器の音を実際の楽器に近づけるように技術を進歩させた結果、サンプリングと言う手法に行き着きました。そこからシンセサイザーはストリングスのボタンを押せばストリングスの音が流れ、フルートのボタンを押せばフルートの音が流れるような楽器になった。

 『FANTASIAN』の作曲をするころには、僕が学生のころに初めて触ったアナログシンセサイザーのような音はやっぱりおもしろいと思うようになりました。メインテーマをオーケストラのような曲調にすることも考えたのですが、いつまでも同じようなことをやるのはおもしろくない、過去にすがっても仕方がないからシンセサイザーをメインにした曲にしようと決めたら、ふっと肩の力が抜けたんです。そうなるまでには時間がかかりましたが、今回の作曲では、安全牌を積み重ねるくらいなら楽しく苦労したいと思いました

――楽曲を受け取る立場の坂口さんは、いまの植松さんの話を受けてどう思われますか?

坂口楽曲を受け取って、もちろん「いい曲だ」と思いましたけど、「これまでとはひと味違うな」と感じる曲もあって。植松さんにそれを伝えたら、「『マシン戦』なんかはシンセがメインだけど、ティンパニが入っているから」と言われたんですよね。それだけでこんなに印象が変わるのかと驚きました。

植松電子音に、生音を一音でも組み合わせると、説得力が違ってくるんです。『FANTASIAN』ではそういった挑戦をたくさんしています。

――『マシン戦』で思い出したのですが、『FANTASIAN』の楽曲名は坂口さんが付けられたのですよね。

植松僕は昔から曲名にあまりこだわりがなくて。『FFVII』の『片翼の天使』というカッコいい曲名も、僕は付けていないんですよ。自分で付けたのは『FFX』の『ザナルカンドにて』くらいじゃないかな。だから、『FANTASIAN』の楽曲名も坂口さんが付けたと思います。

――『森』や『王都』など、シンプルな曲名が多いなと思ったのですが……。

坂口すみません、シンプルで(笑)。最近のゲーム音楽の曲名は凝っているものが多くて、今回の“素直に作る”というゲームの開発コンセプトとは違うなと思ったんです。また、交響曲“第一楽章「森」”みたいな、章節が分かれているクラシック音楽のイメージもあって。手を抜いたわけではなく、いろいろ考え抜いた結果として曲名がシンプルになったということです。

植松クラシック音楽のイメージね……わかります。でも、「『森』ってシンプルすぎない?」とは思いましたが(笑)。

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――植松さんによる楽曲がゲームのキャラクターやイベントに影響を与えたことはありますか?

坂口曲の力ってすごいんですよ。グラフィックやテキストからプレイヤーが受け取った感情を、さらに揺さぶる効果を発揮します。曲によってキャラクターに対する印象だけでなく、ダンジョンやボス戦などではプレイヤーの感情さえも変える。だから、植松さんの楽曲の展開に合わせてイベントの演出を変えたこともありました。グラフィック、シナリオ、システムなどがあって、最後のピースを音楽が埋めることでゲームは完成すると言ってもいいと思いましたね。

中村戦闘曲は迷いましたね。「この戦闘にはこの曲がいいよね」と、坂口さんも最後まで戦闘にあてる曲を悩んでいました。とくにボス戦は曲で印象が変わるので、最後まで音楽との相乗効果が上がるよう調整しましたし、ボス戦を作っているほうもテンションが上がりました。

 ラスボス戦を作る前に、植松さんが「ラスボス戦の音楽は4部構成のオペラにしたい」とおっしゃっていると聞きまして、「ラスボス戦は相当なものにしないとヤバい! 4回も変化させるのか!?」とあわてたこともありました(笑)。結果として4部構成にはならなかったのですが、バトルディレクターの井上(井上雅仁氏)とかなり悩んで、気合を入れておもしろいものに仕上げました。音楽ともぴったりの熱いラスボス戦になったので、ぜひプレイしていただきたいです。

――音と言えば、ゲームの効果音を手掛けられたのは中村栄治さんなんですね。

坂口はい。僕とも植松さんとも長い付き合いですね。ゲームの効果音は難しくて、曲とぶつかってはいけないし、映像にインパクトを与えないといけない。それでもいちばん効果が上がる効果音をつけてくれました。ゲームのボリュームを考えても相当な数を作ってもらったと思います。これを言ったら怒られるかもしれないけれど、「ほかの仕事を差し置いてでも全力でやる」と言ってくれたので、渾身の効果音にも注目していただけたら。

『ファンタジアン』後編配信まであと1日。「これが最後の作品となったとしても恥ずかしくない」と坂口博信氏・植松伸夫氏が語った、開発メンバーによるスペシャルインタビュー!

――難しいかもしれませんが、あえて選ぶとしたら、坂口さんと植松さんが好きな曲は何でしょうか?

坂口通信網』、『意味なき流転』、『つながり』です。ネタバレになるので詳細は説明できませんが、『つながり』はこのシーンで使うと、最初から決めていました。コンサートをやるならエンディングの曲は、ぜひ植松さんに演奏してほしいです。

植松絞りにくいけれど、『キーナ(運命)』は絶対に外せません。自分の理想通りにできた楽曲なので。先ほど話に出た『マシン戦』もそうですね。こういう路線のバトル曲もアリなんだなと、いまになって気づかされた楽曲です。エンディングに流れる曲は、長いんですけれど、ファミコンのときと違って音をループさせる必要がないので、しっかりと展開のある楽曲にできました。あと、『想い』もいつかコンサートで演奏したいですね

坂口僕も『想い』をピアノで練習しているので、コンサートをやるならステージに乱入しますよ(笑)。

植松ピアノで思い出したのですが、おもしろいエピソードがあって。『想い』のピアノアレンジは、『FF』シリーズでもアレンジを手掛けてくれたショパン(ピアニスト・中山博之氏の愛称)が担当したんだけど、ミヤゾノさんはショパンの教え子なんだよね。

ミヤゾノ十代のころに作曲の基礎などを教えていただきました。そのころに、ショパン先生が植松さんのコンサートでピアノを担当していて、コンサートについていって一度だけ植松さんにごあいさつをさせていただいたことがあります。

植松それは知らなかった。 

ミヤゾノそれから、ドッグイヤー・レコーズで実施されている“第二の成田勤を探せ!”プロジェクトにアレンジャーとして応募して、デモをお送りしたのが植松さんとのお仕事のきっかけになりました。そのときに〝「私はショパン先生の教え子です」と言うのは違うな”と思って、お伝えしませんでした。

植松さらに言うと、『テラバトル』のテーマソング『High Sky』を歌ってくれた河野暁子さんはミヤゾノさんの知り合いで。ショパンの件もそうですし、全部偶然なんですよ。

――不思議な縁が重なっていますね……。以前のインタビューでもお聞きしましたが、植松さんの『ブリコの物語』が『FANTASIAN』のどこかで見られるようになったことも、ひとつの“縁”を感じました。

植松海外のツアーでホテルと飛行機が退屈で、なんとなく始めたことだったのですが、10数年を経て日の目を見るとは思いませんでした。ウズラ号に劇場があるのですが、当初はそこでオペラを上演するという話があったんです。でも、コロナ禍で難しくなって実現できなかったのですが、その劇場で『ブリコの物語』を上演できないかと相談したら、「おもしろい」となって。

坂口当初から小説形式のストーリーテリングを入れることは決まっていましたし、チクッタとハクッタというロボットも登場するので、『ブリコの物語』は違和感なくゲームにハマるだろうと思いました。ゲームの世界観に合わせて少し描き直していただいた部分はありますが、『FANTASIAN』というゲームに登場する形で『ブリコの物語』を楽しめるのは、植松さんのファンの方々にもうれしいんじゃないかな、と。

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よく言えば素直に、悪く言えばわがままに作ったゲーム

――Apple Arcadeに初めて登録したら最初の1ヵ月は無料で遊べるのもポイントですよね。

坂口無料トライアルの期間中にクリアーしてもいいわけですし。ほかにも『World of Demons - 百鬼魔道』や『太鼓の達人 Pop Tap Beat』、『CLAP HANDZ GOLF』など、おもしろいゲームがたくさんあって、遊び応えのあるプラットフォームですから。

――Apple Musicに入れば、植松さんのサウンドトラックもストリーミングで聴けます。

坂口iPhoneで撮った写真が溜まりすぎてiCloudのストレージを拡張するためにApple Oneに入ったけれど、じつはApple OneならApple ArcadeにApple Music、Apple TV+まで体験できることに気づいていない方もいるそうなので。ぜひApple Arcadeで『FANTASIAN』を遊んで、Apple Musicで『FANTASIAN』のサントラを聴いてください

――中村さんはApple Arcadeという新しいプラットフォームで、しかも坂口さんに植松さんという黄金タッグによる新作RPGをディレクションするという立場でしたが、プレッシャーは感じませんでしたか?

中村坂口さんには『ブルードラゴン』や『ラストストーリー』の開発からお世話になっているのですが、『FANTASIAN』はいままでのプロジェクトよりもかなり自由に開発できました。植松さんの楽曲を聴いて「この音楽に合わせればどれだけすごいゲームになるのか」と感覚的にわかるようになって、開発として自分が成長したことを実感できたのですが、逆にそれがプレッシャーになったときもありました。

 でも、坂口さんの『FANTASIAN』に懸ける情熱がすごくて、開発チームもその勢いを止めることなく、楽しく開発できました。ゲーム的に尖った部分もあるのですが、それを無理やり平坦にするのではなく、坂口さんのフィルターを通してまとめられたので、開発チームの熱が伝わるゲームになったと思います

坂口補足すると、中村はプレッシャーを感じるような男ではありません(笑)。でも、開発チームにはほかのプロジェクトではリーダーを務めるようなメンバーが揃ったので、おかげでいいゲームになりましたね。

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――いままさに多くのプレイヤーがゲームを楽しんでいると思いますが、あらためていまのお気持ちをお聞かせください。

植松正直、まだ『FANTASIAN』が終わったという実感は湧いていないんです。後編が配信されて、皆さんが最後までゲームを遊んで、ゲームはおもしろかったのか、音楽はどうだったのか。その反応を知るまでは終わらないと思っています。

 やるだけはやりましたし、これからは自分の楽曲をオーケストラなどで演奏するのではなく、自分ひとりだけで音楽を表現することに注力したいと考えていて。1年以上かかるような、ゲーム全編の音楽を担当することはしばらく止めて、ソロライブをやっていこうと。まあ、口説き文句次第ではありますが(笑)。

坂口いままでは、あくまでエンターテインメントとしておもしろいゲームを作ろうと俯瞰から見ていた部分があるのですが、今回は表現したいこと……たとえばプレイヤーがやさしい気持ちになれる瞬間があったりと、自分の伝えたいことを詰められたと思っています。仮に『FANTASIAN』が最後の作品になったとしても、恥ずかしくないものになりました

 実際、エンターテインメントとして完璧な作品かと言われると、そうではありません。我を作品に入れるのはよしとしていなかったのですが、よく言えば自分に素直に、悪く言えばわがままに作ったゲームだと思います。そういう意味では、すごくかわいい作品になりました。

植松「『FANTASIAN』が最後の作品になったとしてもいい」ってフレーズ、すごくいいね。僕もそれをもらおうかな(笑)。

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坂口氏と植松氏も出演! 『FANTASIAN』完成記念スペシャル番組

 『FANTASIAN』の後編配信を記念して2021年8月14日20時より配信される、“FINAL FANTASY PIXEL REMASTER(ファイナルファンタジー ピクセルリマスター)”と『FANTASIAN』をフィーチャーしたスペシャルコラボ番組には、坂口氏と植松氏に加えて、“ファイナルファンタジー ピクセルリマスター”でキャラクターのフルマスタリングを手掛けたスクウェア・エニックスの渋谷員子氏が出演。

 『FANTASIAN』の概要やボスバトルの実演など、後編の見どころをばっちり紹介する予定。“ファイナルファンタジー ピクセルリマスター”についても、この3人だからこそ話せるエピソードが飛び出すことは間違いない。サプライズ企画もある……かもしれないので、ぜひご視聴を!

『ファンタジアン』後編配信まであと1日。「これが最後の作品となったとしても恥ずかしくない」と坂口博信氏・植松伸夫氏が語った、開発メンバーによるスペシャルインタビュー!

【番組名】
FINAL FANTASY PIXEL REMASTER x FANTASIANスペシャルコラボ番組

【配信日時】
2021年8月14日(土)20:00~22:00

【出演者】
ゲスト:坂口博信氏(ミストウォーカー)、植松伸夫氏(ドッグイヤー・レコーズ)、渋谷員子氏(スクウェア・エニックス)
MC:林克彦(ファミ通グループ代表)

【配信媒体】
YouTube(ファミ通TUBE)
ニコニコ生放送(ファミ通チャンネル)

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『FANTASIAN』
配信日:2021年4月2日 ※後編パートは2021年8月13日配信
対応プラットフォーム:Apple Arcade
対応端末:Apple Arcadeに対応しているiPhone、iPad、iPod touch、Apple TV、Mac
※iPhone/iPod touch:iOS 13.0以降、iPad:iPadOS 13.0以降、Mac:macOS
11.0以降、Apple TV:tvOS 13.0以降
価格:Apple Arcade月額600円/Apple One月額1100円
※Apple Arcadeは1ヵ月のフリートライアルあり
コントロール:キーボード+マウス(タッチパッド)/ゲームコントローラー言語:日本語/英語
想定プレイ時間:60~90時間(後編は40~60時間)