2019年12月11日、バンタンが主催するeスポーツのビジネスに関するカンファレンス“ESCONF TOKYO”が開催された。

 本稿では、西村あさひ法律事務所の松本祐輝弁護士によるセッション“eスポーツにおける法的課題の解決と今後の展望”のリポートをお届けする。

 ESCONF TOKYOの最後の登壇者となったのは松本祐輝弁護士だ。もともとは同事務所の高木智宏弁護士の登壇予定だったが、体調不良により急遽松本弁護士が代打として登場した。

西村あさひ法律事務所 弁護士 松本祐輝

2014年に東京大学法学部卒業。2017年に国内大手証券会社M&Aアドバイザリー部門へ出向。その後、株式会社アカツキへ出向し、eスポーツ事業を担当。現在は、西村あさひ法律事務所にてM&A、コーポレート業務をおもに取り扱っている。2019年はeスポーツのリーガル面のセミナーに登壇し、書籍“1億3000万人のためのeスポーツ入門”を共同で出版した。このほか、eスポーツチームやeスポーツ事業に関連する法的アドバイスや、慶應義塾大学等におけるセミナー・講演や執筆の実績も豊富であり、日本におけるeスポーツ法務の第一線で活躍している。

弁護士がeスポーツの事業モデルとリーガルリスクを解説「eスポーツにおける法的課題の解決と今後の展望」【ESCONF TOKYO】_02

 西村あさひ法律事務所はJeSU(日本eスポーツ連合)の顧問弁護士を務めており、eスポーツ関連の法律整備に尽力。先に発表されたJeSUによるノーアクションレター関連についても大きく関わっている。

 日本のeスポーツのムーブメントはある種、法律問題、とくに高額賞金問題から拡大したという側面もある。現状において、法律がeスポーツにどのように関わってくるのか、足かせとなるのか、追い風となるのか、不明瞭な点が多い。そこで、松本弁護士は数々の課題についての現状と対応策などを解説した。

 松本弁護士が用意したテーマは大きく分けて3つ。“刑法と景品表示法”、“風適法”、“事業領域の拡大”の3つだ。これからeスポーツに参入しようと考えている人、もしくは参入したがいまいち法律関係がわかっていない人には重大な課題だ。

刑法と景品表示法

刑法

 海外のeスポーツ大会の中には、プレイヤーから徴収した参加費を賞金に充てるものも少なくない。たとえば、対戦格闘ゲームの総合イベントであるThe Evolution Championship Series(エボリューション・チャンピオンシップ・シリーズ、略称:EVO)がそれだ。参加者が多いほど賞金額も上がり、参加者が少なくても少額ながら必ず賞金を出せるシステムである。しかし、日本で参加費から賞金を捻出してしまうと、刑法賭博罪(賭博及び富くじに関する罪)に引っかかる恐れがある。

 eスポーツ大会は賞金額が人気バロメーターのひとつとなり、注目度も変わってくる。そのためにも高額賞金は必要だが、参加費から捻出できない以上、日本はスポンサー頼りになる。

 また、刑法賭博罪では、少しでも偶然性があるものも対象とされてしまう。たとえば、囲碁や将棋は技量によって勝敗が左右され、運の要素はほぼないため、刑法の対象になることは考えにくい。かたや麻雀は多分に運の要素があり、こちらは刑法の対象になる可能性は高い。

 参加費を取り、かつ賞金が出る大会がないわけではない。日本の場合はゴルフがそれにあたる。しかし、参加費はあくまで大会運営費として扱われ、賞金はスポンサーから提供されたものとすることで問題をクリアにしている。したがって、EVOのように純粋な参加費が賞金になるものとは話が違う。

 これら現状において、法律に抵触しない方法で大会を運営したうえで、賞金を出すことが安全な策であると言える。しかし、それらがeスポーツの現状に適しているかどうかは別の話。参加費から賞金に充てることについて本当に賭博性があるのか、eスポーツに関しては賭博性が薄いというのであれば、法改正も視野に入れ、賭博制度の見直しも必要になるかもしれない。

 また、現状ではeスポーツを用いた賭博は認められない見込みだ。いま、横浜や大阪などが誘致合戦をくり広げている統合型リゾート(カジノ)ではどう扱われているのだろうか。

景品表示法

 景品表示法は商品に対してオマケをつけることに対する規制。eスポーツに関しては、大会の賞金が大会で扱われるゲームタイトルのオマケにあたるのでは、と言われている。もし、eスポーツ大会の賞金に景品表示法が適用されるのであれば、主催するゲームメーカーは、ゲームの価格の20倍、もしくは10万円までしか賞金が出せなくなる。

 ただし、これに関しては紆余曲折があったものの、ほぼクリアとなっており、現状では10万円を超える高額賞金を出せると言う見解だ。

 その理由はいくつかある。ひとつは大会で扱われたタイトルが基本無料のFree to Playモデルであり、かつアイテム課金による結果が大会の勝敗を左右しなければ問題ないというもの。勝つために商品の購入が不要なのであれば優位性がなくなる。商品を買わせる、課金させるという目的を達せないため、景品表示法違反にはあたらないということだ。

 もうひとつが、賞金はオマケではなく、試合でのパフォーマンスに対する仕事の報酬としてみなされるという見解。大会側はプロもしくはプロと同レベルの技量をもって大会に参加している選手に報酬を支払っているのであり、一般消費者への景品提供にはあたらないという考えかただ。プロと一般消費者は、大会自体に興行性があり、人に見せることを前提にしているかどうかなどで区別される。また、JeSUは認定したタイトルにプロライセンスを発行することで、大会での活動を仕事として認定。ただし、現在ではライセンスがなくても、先の興行性があれば認められるとしている。

弁護士がeスポーツの事業モデルとリーガルリスクを解説「eスポーツにおける法的課題の解決と今後の展望」【ESCONF TOKYO】_01

 実際、プロライセンスが発行されていない『リーグ・オブ・レジェンド』の選手には高額賞金が発生しており、それに対して問題は起きていない。ほかに、『シャドウバース』では100万ドルという高額優勝賞金の大会が開かれているが、こちらも問題はおきていない。

 いまのところ、仕事の報酬とすることでこの問題はクリアされているが、課題も残されている。松本弁護士が挙げたのは2点。ひとつは完全オープン大会での線引きや海外での大会開催について。『ストリートファイター』シリーズで大会を展開するカプコンの場合は、海外の大会でも日本人選手は高額賞金の授受にライセンスが必要としている。しかし、海外選手は日本の大会であってもライセンスは必要としていない。もうひとつは、日本のeスポーツ大会で高額賞金が出せないというニュースの衝撃が強く、それらが解決に至った現在でも、正しい情報が広まっている点だという。

風適法と著作権法

風適法

 eスポーツを行う施設としてゲームセンターを使用すると、風適法により賞金が出せなくなるという問題がある。そこで、競技大会の会場にイベントホールを選ぶとする。この場合、参加費(プレイ料金)を取るとゲームセンター扱いになるのだろうか。また、ネットカフェでゲームをプレイした場合、ネットカフェの利用料金はゲームのプレイ料金にあたり、ゲームセンター扱いになるのだろうか。このような懸念がある。なお、ゲームをプレイせず、大会の観戦だけを行う観客から入場料として徴収するのなら、ゲームセンター営業には当たらないと考えられる。

 このように、ゲームセンターに関する風適法による規制がeスポーツ施設に影響しており、eスポーツ施設がゲームセンターとして扱われるかどうかが争点となる。現状でも、ホテル内部の施設や大型ショッピングセンターは、アミューズメントマシンを置いてゲームセンター的な営業をしていても、風適法の対象外とされている場合もある。ほかにも、2016年6月にダンスホール等の営業を規制対象から外し、2018年9月にデジタルダーツ、シミュレーションゴルフは遊戯設備に該当しないという風適法の改正もあった。

 ゲームセンターに対する風適法の見直しが必要な時期に入ったとも言える。風適法が適用された当時と現在ではゲームセンターの営業背景の違いがあるからだ。以前は不良の溜まり場として扱われることも多かったが、現在はひとつのアミューズメントスポット。立ち位置は大きく異なるので、風適法が昔のまま適用されるのが正しいかは検討しなおす必要があると、松本弁護士は語る。

著作権法

 ゲームセンターやeスポーツ施設でのeスポーツイベントの開催について、もうひとつ問題がある。それが著作権だ。

 ゲームは“映画の著作物”だという見解がある。このため、eスポーツ大会を開催すると著作権に抵触する恐れがあり、権利者からの許諾が必要だ。

 これらはIPホルダーとeスポーツ施設が個別に利用許諾契約を締結することで解決できるが、全国規模の施設で許諾申請が行われるとなると、対応だけで飽和状態になりかねない。そこで、ある程度は利用していい範囲、してはいけない範囲を明確化することでクリアするのが望ましい。『ハースストーン』や『オーバーウォッチ』などを展開するBlizzard Entertainmentや『クラッシュ・ロワイヤル』や『ブロスタ』などのSUPERCELLはガイドラインを制定し、コミュニティやeスポーツ施設によるイベント開催を後押ししている。

 ガイドラインには、賞金の有無、スポンサーからの資金提供、観客や参加者からの参加費の徴収、動画配信や放送について、ロゴの使用可否など、eスポーツイベントを開催するために必要な要項がまとめられている。とはいえ、多くはコミュニティ向けに作られたものなので、商用としての大会運営をする場合は、そのまま使えない可能性もある。個別に相談するのが無難だろう。

弁護士がeスポーツの事業モデルとリーガルリスクを解説「eスポーツにおける法的課題の解決と今後の展望」【ESCONF TOKYO】_03

 ここでも残された課題はある。配信した動画に関する権利問題だ。いかにIPホルダーが権利を所有しているゲームタイトルで配信したとしても、その動画の魅力は配信者のものによるところが大きい。選手自体が映し出されることはもちろん、キャラクターを操作する選手(画面には映ってなくても)にも、歌手や俳優と同様の法的保護が必要となるかどうかなどが挙げられる。

ガバナンス・事業領域の広がり

ガバナンス

 eスポーツチームと選手の関係性は、ほかのスポーツとは違い、チーム主導による芸能タレント的でもある。野球やサッカーのように、細かなルールが確立されたプロリーグが不在なことも影響してか、チームと選手のパワーバランスは悪いと言える。

 たとえば、契約終了後の過度な競業禁止は、独占禁止法に抵触する恐れがある。選手によるSNSの発言で炎上した際は簡単に契約解除ができるのか。契約期間と移籍金はどうなっているのか。また、それらが曖昧になっている現状で、契約途中での移籍は誰が違約金を払うのか。いまはまだ選手が弱い立場にある。しっかりした契約がないことで、チームも大きな損失を出す可能性もある。

 現状、日本のeスポーツ市場規模は100億円前後と見られる。そのほとんどが賞金やスポンサー料になるが、先の選手契約のことを組み込むと、もっと大きくなる。今後はeスポーツにおいても資金調達やM&Aが重要だ。日本が海外のeスポーツチームを買う、もしくは海外のチームが日本に進出してくる。その結果、チームの統合や売却などが行われる。そのとき、契約が曖昧なまま話が進むと、せっかくチームを買収したところで、有力選手が抜けたら価値が下がってしまう。選手と長期契約を結んでいたほうが、M&Aの際にもチームの価値は高くなると、松本弁護士は指摘する。

事業領域の広がり

 最後のテーマはeスポーツと事業領域の拡大について。その最たるものがIR(統合型リゾート)だ。IRには、観光客の来訪及び滞在の促進に寄与する施設の設置が必要となる。そこで多くはカジノを解禁するのだが、eスポーツ施設も観光客の滞在、来訪の促進につながる。IR側としてはエンターテイメントの幅の広がりや客層の拡大が見込め、eスポーツ側としてはeスポーツにおける施設問題の解消にもつながると解説し、松本弁護士はセッションを締めくくった。