2019年12月11日、バンタンが主催するeスポーツビジネスに関するカンファレンス“ESCONF TOKYO”が開催された。

 本稿では、“仕事”をテーマにしたセッション“eスポーツ業界で働くということ ~企業側・社員側からの視点~”のリポートをお届けする。

Epulze(イーポルズ)共同創設者/CMO ポンテュス・ロブグレン

兄弟とともに2015年にEpulzeを創設。マーケティング部門の責任者として、Epulzeが拠点を置く各地域マネージャー(スウェーデン、ブラジル、ウクライナ、ドイツ、クアラルンプール)を統括している。

Epulze(イーポルズ)キャスター/コンテンツクリエイター リチャード・ガルシア

幼少の頃からFPS『カウンターストライク1.6』をプレイしており、大学ではeスポーツ部を運営。『リーグ・オブ・レジェンド』の北米最大級の大学対抗リーグ“ナショナルチャンピオンシップ”に連続して出場した。2019年にEpulzeに入社し、クアラルンプールを拠点にキャスターとして活躍。これまでの担当は“ESL Qualifiers”や“Major Qualifiers”、“WESG S.E.A”、“NA Finals”など。

【おもな講演内容】

  • リチャード・ガルシア氏のキャリア
  • 大会配信プラットフォームの運営に大切なこと
大会プラットフォーム運営者とキャスターが“仕事”を語るセッション「eスポーツ業界で働くということ ~企業側・社員側からの視点~」【ESCONF TOKYO】_01

 eスポーツ業界はまだまだ黎明期。eスポーツを専門として働いている人は多くない。

 そこで世界最高の賞金額で一気に注目を浴びた『Dota 2』のトーナメント出場以外で賞金を稼ぐプラットフォームを構築したEpulze(イーポルズ)の共同創設者兼CMOのポンテュス・ロブグレン氏と、同社でeスポーツキャスターを務めるリチャード・ガルシア氏のふたりが登壇。企業側、社員側から見たeスポーツの現状が語られた。

リチャード・ガルシア氏のキャリア

 リチャード・ガルシア氏はこれまでのキャリアを語った。リチャード氏はイーポルズの看板キャスターとして活躍している。まだ22歳ながらゲーム歴は長く、自分の楽しみのため、競争のため、ときには自慢をするために続けてきた。そんなどこにでもいる少年のゲームライフを一変させたのが、2010年に開催された『Dota 2』の大会。その大会は2000万ドルの賞金を掲げていた。この大会をきっかけにリチャード氏は大会運営に関わるようになり、大学進学後は大学間のトーナメントを企画。キャスターとしても活動するようになった。

 eスポーツの仕事で初めて給料をもらったのは2010年1月のこと。eスポーツイベント開催のため、運営側とお金の話をすることになったとき、大会を企画したリチャード氏側から資金を出さないといけないと思っていたところ、相手側から報酬の提示があったという。それがプロのeスポーツキャスターとしてのキャリアのスタート地点だ。

大会プラットフォーム運営者とキャスターが“仕事”を語るセッション「eスポーツ業界で働くということ ~企業側・社員側からの視点~」【ESCONF TOKYO】_02

 最初から順風満帆とはいかなかったものの、プロとして活動するようになってからは仕事への向き合いかたが変わったそうだ。その後、バーテンダーとして働くことになり、多忙によってeスポーツから足が遠のくことに。しばらくして、もう一度eスポーツに関わることになったとき、副業でできることではないという考えに至り、eスポーツ一本に絞ることを決意した。

 イーポルズからオファーをもらうようになったのは、“World Cyber Games”の大会に参加したときからだという。eスポーツイベントの現場では、カメラに映らないところでも大勢の人が働いている。イーポルズに入る前はフリーランスとして活動していたが、それではフルタイムで稼ぐのは難しい。会社に入ればマネージメントを受けられ、安定して仕事が供給される。また、医療保険などに加入できるのも大きなメリットだ。

 いまは昔と違い、eスポーツ界隈は無法状態ではない。自発的に参入して有名になることもできる。アメリカにおいて、国民がいちばん関心のあるイベントのひとつとして挙げられるのは、アメリカンフットボールの“スーパーボウル”だ。ライブで1億人以上が観戦するビッグイベントだが、かたや『リーグ・オブ・レジェンド』の視聴者は2億人。「いまの私の仕事は、ほかの(一般的な)仕事と同様に責任がある。eスポーツがこれだけ騒がれるようになったのはうれしいことだ」と、リチャード氏は胸を張った。

大会配信プラットフォームの運営に大切なこと

 つぎに、イーポルズの創設者兼CMOのポンテュス・ロブグレン氏が登場した。ポンテュス氏は兄弟とともにスウェーデンでイーポルズを起業。いまや世界各国に事業所を構えるeスポーツ企業に成長させている。

 ポンテュス氏もリチャード氏と同様にゲーマーとして育った。5歳からゲームに触れ、幼い頃は『スーパーマリオブラザーズ』や『ポケットモンスター』などで遊んでいたという。10代の頃はさまざまなスポーツにも取り組んだが、結局ゲーマーとしての活動に落ち着いたとのこと。

 『Dota 2』を1日10時間以上プレイし、競技シーンにも関心があった。そこで違和感を覚えたのが、優秀な一部の選手だけが多くの賞金を稼ぎ、お金が広く行きわたっていない現実だ。ポンテュス氏自身もeスポーツのプレイで収入を得るようになりたかったが、残念ながら断念。自分には才能がないと気づいたことが、イーポルズの設立につながったそうだ。

大会プラットフォーム運営者とキャスターが“仕事”を語るセッション「eスポーツ業界で働くということ ~企業側・社員側からの視点~」【ESCONF TOKYO】_03

 ゲーマーの世代は若い。ゲーマーはゲーマーのプレイを観ることが好きだが、もちろん自分でプレイすることも好き。こういった嗜好はリアルスポーツとは少々事情が異なる。自分でもプレイすることを好むスポーツ観戦ファンはいないわけではないが、eスポーツと比べるとその比率はかなり低い。

 若い世代はテレビや新聞にはあまり興味を示さず、YouTubeやTwitchなどの動画配信サイトや、Facebookのようなソーシャルメディアをよく観る。もはやラジオというメディアの存在すら知らない人もいるくらいだ。

 したがって、これまでのマーケティング手法では、若い世代にリーチすることもアピールすることも難しい。そこに気づいた企業がeスポーツに参入し始めているとのこと。そういった流れも影響してかeスポーツ自体は急成長しているが、残念ながら有効なマネタイズはできていない。

 そこで、「いまのうちに投資するのが賢明」と、ポンテュス氏は指摘する。市場が確立する前に投資すれば、より収益性が高くなる。リアルスポーツへの投資よりも大きな利益を得られるという。

大会プラットフォーム運営者とキャスターが“仕事”を語るセッション「eスポーツ業界で働くということ ~企業側・社員側からの視点~」【ESCONF TOKYO】_04

 イーポルズはeスポーツにおけるマネタイズの仕組みを構築するべく動いている。オフライン大会を開催し、インフルエンサーと手を組み、リチャード氏のようなキャスターを育てていく。そういった事業で利益を生み出している。

 大会の多くは参加費が無料だ。一部、有料化しているものもあり、その場合は高額な賞金を出すこともできる。また、大会はどこでも開催可能なもの。ショッピングモールでもいいし、学校でもいい。オフラインで体験できることが重要だという。

 ポンテュス氏はこの状況を音楽にたとえた。クルマでの移動中にカーオーディオで、自宅のくつろぎ時間にYouTubeで、音楽を聴く手段は多種多様にあるが、それでもライブコンサートに出かけ、現地で聴いたほうが楽しいのは言わずもがな。eスポーツも同様だ。

 イーポルズが力を入れているのはオフライン大会の開催だけではない。オンラインでもいろいろなトーナメントを開催し、ストリーミングも行う。配信には複数のプラットフォームを使い、多言語化し、全世界に届ける。何もコンテンツは大会だけではない。リチャード氏がeスポーツについて語るトークショウなども制作している。

 とにかく、一部の選ばれし人間だけがeスポーツで稼げるのではなく、誰でも少しは稼げるようなプラットフォームを作ったと、ポンテュス氏は語った。さらに、現在はエージェントとしてプラットフォーム以上の活動をしているという。

質疑応答

【Q.】(イーポルズが考える)eスポーツのマネタイズは、スポンサー収入がメインなのでしょうか。
【A.】スポンサー収入はこれからも続きますが、プラットフォーム自体が収入源となります。

【Q.】視聴者を獲得するための課題はありますか?
【A.】東南アジア以外ですが、あまりコミュニティがありません。コミュニティが多くある地域でトーナメントを開くときは、それぞれにアピールすればいいのでやりやすいですね。(大会の開催者として)トップに立つのではなく、草の根運動的に小規模の大会をたくさん開きたい。1回の大会の視聴者は少ないかもしれませんが、大会の数を増やすことで、大勢の人に見てもらいたいと思っています。

【Q.】スポンサーへの働きかけで苦労した点はありますか?
【A.】スポンサーの中には(eスポーツに)無理解な人もいます。ただ、数字を見せることで多くの人に納得してもらえています。スポンサーになっていただくときには、できるだけ長期のパートナーシップをしてもらいたいと考えています。それには小さく始めて実績を積み、納得をしてもらうしかありません。そうすることで古い考えの企業も理解していただけます。継続することで正常化していくのです。