2019年12月11日、バンタンが主催するeスポーツのビジネスに関するカンファレンス“ESCONF TOKYO”が開催された。

 eスポーツ・ゲーム業界の起業家にして投資家であるブルーノ・サントス氏による講演は、投資スキームとビジネスモデルについてが中心で、タイトルは“世界におけるeスポーツの発展~次の100年の基盤づくり~”。日本のeスポーツ市場は魅力のあるものなのか、またどういった点に期待しているかなど、海外投資家の視点で語られた。

Ultimate Media Venture(アルティメイト・メディア・ベンチャー)CEO ブルーノ・サントス

eスポーツ・ゲーム業界の起業家及び投資家。プロスポーツのエージェントとして活躍後、eスポーツ業界に転身。過去にアメリカのチームFaZe Clanのeスポーツ事業の運営を担当。2017年にeスポーツの国際団体Gorilla Coreを創設。現在はUltimate Media Ventureのシニア・バイスプレジデント(SVP)として活躍し、アメリカのゲーム会社Blizzardとゲーム配信会社Activisionのライフスタイル・ライセンスを扱っている。

日本で大事なことは大会の規模より“一貫性”。投資家目線で語る“世界におけるeスポーツの発展~次の100年の基盤づくり~”【ESCONF TOKYO】_02

 ブルーノ・サントス氏は、開口一番「私からも質問するので答えてください。みなさんはなぜ、ここにいるのですか? 日本の方に、eスポーツについて何を知りたいのか、聞いてみたいと思います」と逆に質問を投げかけることを宣言。日本の状況にも興味があるようだ。

 eスポーツへ投資をするうえで、ブルーノ氏はつねに念頭に置いていることがあるという。それは“いままでの投資で何がうまくいったのか”だ。リアルスポーツであれば、アメリカンフットボールだったりサッカーだったり、多数の投資先がある。これがeスポーツに置き換わったとしても、何かしらのビジネスモデルになると考えているそうだ。

 そういった前提条件があるうえで、eスポーツの10年先、20年先にまで学んでいけるかどうかを検討するわけだ。eスポーツは業界自体が新しい。エコシステムもでき始めたばかり。いい循環ができれば、新しい人材が参入してくる。全体が成長するには、その新しい人がトップを目指せるような環境が大切だ。「すべてのチームが成長する環境でなくてはならない」とブルーノ氏は語る。

 これまでに、ブルーノ氏は高校を対象に新しいプログラムを提供してきたという。eスポーツをプレイするゲーマーは若いうちから成功する可能性を秘めているが、その反面、生活するためのスキルを身に着けていないことが多い。プロとしての重要なスキルで言えば、大勢の前でスピーチすることは難しい。

 「いまはeスポーツの関係者も選手も、目の前のお金を稼ぐことに注力してしまっているが、20年後を考えなくてはならない」と、ブルーノ氏。リアルスポーツでは安定した循環構造ができているが、それも短期間でできるようになったわけではない。アメリカンフットボールのプロリーグ“NFL”だって、現在の姿になるまでに100年ほどかかっている。

日本で大事なことは大会の規模より“一貫性”。投資家目線で語る“世界におけるeスポーツの発展~次の100年の基盤づくり~”【ESCONF TOKYO】_01

 eスポーツはひとつの国に収まらない展開ができるコンテンツだ。仮にグローバル展開を見据える場合、世界の文化や経済圏を混ぜることを考慮すべきだとブルーノ氏は語った。アメリカはPCゲームがメインだが、南アフリカでは主力はモバイル。文化の違いのみならず、経済の差(プレイヤーの経済力も含めて)を考えていかないと、世界規模で発展しないと指摘する。

 それとは逆に、チーム単位で考えるべきこともある。特定の地域で新たなチームを作る場合、その国にはどういうプレイヤーがいるのか。どういうチームを見つけられるのか。もちろん、その地域で勝てるのかどうかも重要だ。流行っているゲームの強いプレイヤーを漠然と集めるだけでは、環境とマッチしない可能性もある。

 重要なのはeスポーツが続くための基盤を作ること。『Dota 2』では世界大会はひとつしかなく、そこで活躍できるチームはほんのひと握りだ。投資の機会を生むために肝要なのが、ローカル大会。規模の大小はともかく、多くのチームに活躍できる場を提供することが大切だという。

日本で大事なことは大会の規模より“一貫性”。投資家目線で語る“世界におけるeスポーツの発展~次の100年の基盤づくり~”【ESCONF TOKYO】_03

質疑応答

【Q.】海外から見て日本はどれくらい遅れていますか。
【A.】日本は有望に見えます。テクノロジーの国ですし、現在開催されているeスポーツトーナメントに目を向けると、世界の強豪が参加していることもある。成長の可能性があります。

【Q.】日本がeスポーツで発展するにはどうすることが考えられますか。
【A.】いま現在、eスポーツイベントでやるべきことは、拡大よりも“一貫性を大事にすること”だと思います。世界規模の大きなトーナメントを開催したり、誘致したりすることよりも、小さくても大会の数を増やすことが重要。続けることで、各地域から関心を得られます。最低でも1年間に15回のトーナメントが行われることで、結果的に大きなトーナメントもできるようになるでしょう。

【Q.】eスポーツに参加するために、いいスポンサーを得るにはどのようなアプローチをすればいいと思いますか?
【A.】重要なのは、“どこにリーチしたいのか”、“どこをターゲットにしているのか”です。最初から大きなスポンサーを得ようとしたり、大きな大会を開こうとせず、小さく始めることを前提とすれば、多くの機会があると思います。

日本で大事なことは大会の規模より“一貫性”。投資家目線で語る“世界におけるeスポーツの発展~次の100年の基盤づくり~”【ESCONF TOKYO】_04

【Q.】FaZe Clanと仕事をしているとのことですが、どのような活動をしているのでしょうか。
【A.】チームのオペレーションはゲームによって変わります。『CS:GO』の場合は、コーチとアナリストがいて、チームリーダーが練習内容を決めます。心理学者やセラピスト、フィットネスコーチなども必要。スポーツ選手ほどでなくても、活発に動かなくてはなりません。

【Q.】投資家としてご自身は活躍されていますが、フランチャイズされたチームとそうじゃないチームはどちらがいいとお考えですか?
【A.】チーム投資家としては、フランチャイズされたチームのほうがいいと思います。ただ、管理はたいへんですね。

【Q.】一流のチームでメンバーがやめたときはどう補填しているのでしょうか。
【A.】抜けた人のスキルがチームに足りない場合、教える必要がありますが、ひとりの人に教えるにはひとりの人が必要で、育てるのはコストがかかります。実力がありつつ、ほかのメンバーとうまくやっていける人を見つけるのはたいへんですね。

【Q.】障害者の参画についてはいかがでしょうか。
【A.】障害者の参画(への対応)は将来的に出てくる課題です。誰でもできるのがeスポーツ。そういった人も活躍できるのがゲームですから、トップになる人も出てくると思います。

【Q.】100年後の世界はどうなっていると思いますか。
【A.】映画『レディ・プレイヤー1』のような世界はやってくると思っていて、どうやって実現するか考えをめぐらせています。誰もやっていないことをやるのか、ほかの人が避けるリスクを取っていくとか。ビデオゲームの世界で何ができるか、考えていきたいですね。

日本で大事なことは大会の規模より“一貫性”。投資家目線で語る“世界におけるeスポーツの発展~次の100年の基盤づくり~”【ESCONF TOKYO】_05

【Q.】プレイヤーの組合は出てくると思いますか。
【A.】eスポーツの業界では、すでに組合はあります。『フォートナイト』にはひとつ組合があります。タレントエージェントもeスポーツ選手に注目をしています。

【Q.】選手が問題児だった場合について、どうお考えですか?
【A.】チームにも責任はありますが、教育の問題だと思います。(立ち居振る舞いやマナーは)学校で学ぶものです。サッカーでもそうです。ただ、ゲームプレイヤーの中には(さまざまな事情から)引きこもりになって、教育を受けていない人もいます。ですから、私はマナーなどについても教えていきたいと思います。

【Q.】セカンドキャリアについて、どうお考えですか。
【A.】(セカンドキャリアでつまづかないようにするには)価値観を教え、どうやってよりいい人間になるかを教えることです。多くの選手はよりよくなりたいと思っています。どうやって教育し、どうやって(人間としての)スキルを積ませるのか。コーチとして、キャスターとして、裏方として活躍する場はあるが、どうやってスキルを学ばせていくかが重要です。企業でビジネスにはげむ元選手もいますから。

【Q.】食、健康で手伝えることはないでしょうか。食にフォーカスを当てていることはありますか。
【A.】eスポーツプレイヤーは、ファーストフードのように、アスリートが避ける食べものを好む傾向があります。野菜やフルーツを嫌う若者に対して、それらをどう食べさせるかを考え、教えていかなければなりません。