2022年7月22日に発売となったNintendo Switch用ソフトリメイク版『ライブアライブ』。

 オリジナル版でディレクターを務めた時田貴司氏、楽曲監修を行った下村陽子氏、本作のディレクターを担当した佐々木瞬氏にインタビューを実施。

 1994年のスーパーファミコン版から約28年の時を経て発売されることになったリメイク版の制作に込めた想いや、原作版開発時の思い出話などをたっぷり語ってもらった。

※リメイク版発表時のインタビューは下記関連記事をチェック!

Switch『ライブアライブ』(Amazon.co.jp)

時田貴司 氏(ときたたかし)

オリジナル版『ライブアライブ』、『クロノトリガー』などでディレクターを担当。 リメイク版『ライブアライブ』ではプロデューサーを務める。

下村陽子 氏(しもむらようこ)

元スクウェアのサウンド部所属。当時は『ライブアライブ』や『フロントミッション』などの楽曲制作を担当。 リメイク版では全楽曲を監修した。

佐々木瞬 氏(ささきしゅん)

ヒストリア代表取締役であり、リメイク版『ライブアライブ』のディレクターを担当。若きスタッフたちと、新たな『ライブアライブ』を構築。

『ライブアライブ』は時田節溢れる舞台劇

『ライブアライブ』時田P、佐々木D、楽曲監修下村陽子氏にインタビュー。「ぜひ最後のエンディングまでお楽しみください!」(時田)

――約28年の時を経て、いよいよ『ライブアライブ』のHD-2Dリメイク版が発売となります。いまのお気持ちはいかがですか。

時田ようやく皆さんに遊んでいただけるのだなと、発売できる実感が沸いてきている最中です。ファンの声援のおかげで実現できたタイトルですから、本当に感謝でいっぱいの、感無量といった気持ちです。

下村「ついに来た!」といった想いです。ここ数年、周年イベントとしてライブなどを開催し、『ライブアライブ』が持つ熱気をつないできたつもりです。微々たる力だったかもしれませんが、それが本作に結びついていたらありがたいなと思いますし、作品ファンの方々の熱い想いが集結したように思います。本当にうれしいです。

佐々木私たちヒストリアはオリジナル版には関わっていませんが、開発担当としてはホッとひと息です。『ライブアライブ』は伝説的タイトルですから、それを担当するのは我々としてもかなりのプレッシャーでした。

――本作は、時田さんが浅野チーム(※)に合流し、『オクトパストラベラー』の流れでHD-2Dスタイルでリメイクすることが決まったとお聞きしました。そんな中、開発の話がヒストリアに来たとき、佐々木さんはどのようなお気持ちでしたか?

佐々木「マジで!?」って。

――(笑)。

※浅野チーム……『オクトパストラベラー』、『ブレイブリー』シリーズなどを手掛けるスクウェア・エニックスの開発部隊。

佐々木「『ライブアライブ』リメイクされるの!? というか、自分たちが制作できるの!?」と、とにかく驚きましたね。僕はゲーム系の専門学校出身なのですが、「『ライブアライブ』を遊んでゲームクリエイターを目指した」という人が身近にいたり、伝説的なタイトルであることや、ファンの熱量が非常に高いことは知っていました。

 そこに応えられるのか、というプレッシャーがありました。ただ、スタッフたちも『ライブアライブ』が大好きで、どうリメイクしようかみんなで盛り上がっているのを見て、これはたいへんだけど楽しい仕事になるだろうと予感しました。実際とても楽しかったです。

――下村さんは、「BGM監修を担当してほしい」と初めて聞いたときはいかがでしたか?

下村原作版当時の曲は若気のいたりと言いますか、20代ゆえの勢いで作った曲もいくつかあって。「パンドラの箱は開けたくないなぁ」と思っていたら、そもそも当時のデータがほぼ残っていなくて。当時の原曲はPC-9800というPCで、MIDI形式(※)で制作したのち、スーパーファミコン用にプログラミングしていました。

 そのもととなるデータがないので、これはアレンジャーの皆さんに耳コピしてもらうしかなく、作業量がたいへんなことになりそうだと予感していましたね。そして、ファンの方々が原曲を深く愛してくださっているのは重々感じていたので、それを裏切らないようアレンジをする必要がある。最初にお話をお聞きしたときはそういった面でプレッシャーを感じていました。

※MIDI……ミディ。電子音楽データの形式のひとつ。PCで作曲する際によく使用されていた。

――原作版の開発時は、楽譜などはなくゲーム用のデータを直接つくっていたのでしょうか?

下村はい。デジタルな楽曲データをテキストデータにコンバートするツールがあって、それをもとにスーパーファミコン用のプログラムテキストにするという形です。作曲からデータ化する作業も、当時のスクウェアではみんな作曲家自身でやっていました。

――ちなみに、若さゆえに勢いで作った曲というのは、具体的にどの曲ですか?

下村いやもう、ほぼ全部というか。

一同 (笑)。

下村改めて聴くと、当時の自分はかなり思い切りがいいなと感じました。当時、別の会社からスクウェアに転職したばかりで、プレッシャーを感じながらの制作でした。その中でも、楽曲を制作する喜びに溢れていますね。自画自賛ですが「いまの自分なら作れないほど、よくできているな」と。それくらい、若いころの勢いを感じました。

『ライブアライブ』時田P、佐々木D、楽曲監修下村陽子氏にインタビュー。「ぜひ最後のエンディングまでお楽しみください!」(時田)

――なるほど。下村さんは、初めてリメイク版の画面を見たとき、どう思いました?

下村たしか初めて見たのは、ちょうど楽曲の収録中だったと思います。時田さんがすごくウキウキしていたのを覚えています。「こんな感じになったんだよ!」と、もう見せたくてしょうがないという感じで(笑)。

 最初に見たときは、本当にきれいになったなと思いました。キャラクターの頭身はそんなに変わっていないのに現代風の見た目になっていて。そのときから「この画面に合わせるBGMを作るんだ」ということは意識していましたね。

――うきうき(笑)。

時田クリエイターとして、自分が作るものを見せたときにびっくりしたリアクションが欲しいんです(笑)。今回、いろいろなところで見せたとき、皆さん驚いてくださって「しめしめ」といった感じでした。

下村時田さんは冷静に見せている風なんですが、わかるんですよ。ウキウキしてる気分があまりにも漏れ出てました(笑)。

――佐々木さんは、時田さんとお仕事してみて、どんな印象でしたか?

佐々木とても勉強になりました。 ゲーム制作への熱量などはもちろんのこと、“時田さん流のゲームへのこだわりを知った”という感じでしょうか。本作は時田さんのエッセンスが非常に多く含まれているタイトルだと思います。

 時田さんを知ること、時田さんの持つ世界観や、ゲーム内で何を狙っていたのかなど、それを把握することこそが、今回のリメイクで重要なことだと感じていました。いっしょに作業する中で、こだわるところはこだわりを持って監修してくださりつつ、現場のことも考えていただいて、コストをどこに掛けるべきなのかも明言していただけました。はっきり言ってもらったほうが意図も汲みやすいのでありがたかったです。時田さんがいないときにも「時田さんならこうするだろう」と、考えられ、段階を経て“時田節”というものを出せていったように思います。

時田うれしいですが、恥ずかしい(笑)。

――時田節とはどのようなポイントになりますか?

佐々木たとえば、時田さんは“間”を大事にされていると感じました。時田さんは昔、劇団員だったこともあってか、本作には舞台のノリが含まれていると思います。ゲーム内の演出面でもケレン味の出しかたですとか、わかりやすくカッコイイんですよ。

 それが魅力になっていると感じて、それを生かす方針を取りました。ヒストリアは設立約8年で年齢層が若いこともあってか“何事もスマートに済ませよう”といった方向に走りがちです。ですが、本作はスマートさは捨て、熱さに振り切って制作することにしたのです。おかげで我々としても成長できたと思います。

――ケレン味あふれる舞台的なシナリオ展開というのは、当時の時田さんが意識して取り入れていった要素なのでしょうか。

時田当時のゲーム制作は、プロット(骨組み)はあっても、シナリオをかっちりと作ってからゲームに落とし込むという作りかたではありませんでした。プロットに沿ってマップを作って、それからシナリオを考えつつ、実装しながらディテールを整えたり、BGMを流してセリフに合わせてみたりと、本当にギリギリまでトライ&エラーのくり返しです。ゲームに落とし込みながらの制作だからこそできる演出やセリフ回しだったと思います。

 現在は、すべて作りきってから実装することが多いですね、本作はオリジナル版がありますから基本的にはその現代風の作りかたになりました。ただ、開発後半の半年ぐらいは、ヒストリアに行って全シーンを僕が監修しました。「このシーンはもう1秒空けましょう」ですとか、細かいところを突き詰めていきましたね。

佐々木“監修”とは言っていますが、もう開発メンバーと言っていいと思います。毎週のように来てくださって、完成したイベントを見ては秒数指定での調整や、BGMをどこで入れるのかなど、細かくチェックしていただきました。その中で、時田さんの当時の勢いというのも改めて感じましたね。

時田ファイナルファンタジー』シリーズなどもそうなのですが、当時はプロットはあっても「やっぱりこうしよう!」などと、現場のノリで演出やシナリオが変わっていくおもしろさがありました。

 作っていく中でキャラクターの方向性が固まり、「この人物ならこうするよね」みたいに決まっていくこともあります。その熱量の動きというのは、連載マンガやテレビアニメのテンションに近いように感じます。その勢いというのが作品に反映されているんですよ。

『ライブアライブ』時田P、佐々木D、楽曲監修下村陽子氏にインタビュー。「ぜひ最後のエンディングまでお楽しみください!」(時田)

より現代的な画面と遊びやすさを目指して

『ライブアライブ』時田P、佐々木D、楽曲監修下村陽子氏にインタビュー。「ぜひ最後のエンディングまでお楽しみください!」(時田)

――時田さんは、ヒストリアといっしょに開発してみていかがでしたか?

時田ヒストリアは皆さん非常に若い中、熱量が高くて優秀なスタッフたちが集まっていると感じました。それでいて、すごく真摯に『ライブアライブ』に向き合ってくださって。かつ、アートやプログラムなどいろいろな分野で全員がしっかりこだわりを持っていて。「そこはやらなくても大丈夫」という部分も「やらせてください!」とトライしてみるパワーもありました。ですので任せるところは、完全にお任せしました。

――たとえば、どのようなところを?

時田おもに遊びやすさの部分ですね。約28年前のゲームを現代らしく遊びやすくするといっても、僕も現代のゲームを遊び尽くしているわけではありません。そこは、いまゲームを遊んでいる、若い世代の人たちに見てもらったほうがいいですよね。若いスタッフたちだからこそ「ここがわかりにくいので、こういう仕組みを取り入れたい」と、フレッシュな意見をたくさんいただきました。たとえば、レーダー機能や幕末編の見取り図もそこから生まれました。

――幕末編は見取り図があることで、全体がぐっとわかりやすくなりましたね。とはいえ、SF編のような完全なマップではなく、補足的なガイド機能だと感じました。レーダー機能もそうなのですが、そのあたりのバランスというのはどのように考えたのでしょう。

佐々木幕末編は、忍者というモチーフや想像しやすいゲーム性により、最初に選ぶ人も多いと思います。ただ、幕末編は『ライブアライブ』の中でも、自由度が高く、難度も高めですよね。

 そこで最初に選んだとき、初めて遊んだ人には「難しいゲームだ」と感じてほしくなかったんですよ。とはいえ原作のよさとして、探索する楽しみもあります。その楽しみを残すため、現在いるエリアだけがわかるようにしました。

『ライブアライブ』時田P、佐々木D、楽曲監修下村陽子氏にインタビュー。「ぜひ最後のエンディングまでお楽しみください!」(時田)
幕末編の見取り図。

――探索のおもしろさを留めつつ、それを損なわないバランスを保つように。ほかに便利になっている部分も多くありますが、それらもヒストリアのスタッフたちから挙げられた要素ですか?

佐々木だいたいのところはそうですね。一部は開発を進めながら、“どこまで親切にするべきか?”という温度感を時田さんとも合わせていきました。

 じつは最初、スタッフの中にはオリジナル版のことが好きすぎて、「要素自体はほぼベタ移植にしよう」といった意見もあったんですよ。「わかりにくいのも昔のゲームの味だろう!」と。

――気持ちはわかります(笑)。

佐々木ただ、時田さんも僕も、やはり現代的にアレンジするところはしたほうがいいと考えていたので、バランスを整えて現在の方向性になりました。原作からどこを変えるべきかについては、かなり議論を重ましたね。現場も方針を理解してくれて、より遊びやすくブラッシュアップできたのかなと思っています。

時田本作について「追加要素や大きな変更点は、基本的にはありません」と以前お答えしましたが、そういったプレイフィールに関する部分や、ゲームの触りごこちという部分は、ものすごく調整しています。

佐々木ええ。一個一個の要素を、時田さんと相談しながら、徹底的に突き詰めました。

――原作からパワーアップした点で言うと、たったワンシーンのために作られているキャラクターアニメーションなどもあり作り込みに驚きました。これらはスタッフの愛で実現した要素と聞いていますが、時田さんはこれほどのリメイクになると最初から予想されていたのでしょうか。

時田いえ、まったく予想していませんでした。本当に、僕の想像の数倍は超えていて。僕からお願いしたアニメーションは、ほとんどないんですよ。何もお願いしていないのにバンバン入れてくれて、「やりすぎないでくれ!」と思いつつ(笑)。あまりにもやりすぎてしまうと全部のところで欲しくなってきてしまうので。

 要所要所で使うからこそ、メリハリが付きますし。ここぞというシーンはガッツリと描いてくださって、本当にすごいなと思います。「もういいですよ」と言っても、まだやろうとしているくらいだったんですが(苦笑)。

佐々木ありましたね。時田さんも僕も、スタッフたちが細部までこだわって期待のはるか上を目指してくれるので、ブレーキを掛ける役だったんですよ。開発スタッフの熱が高くて非常にありがたかったのですが、「それやるとゲームが完成しなくなるから!」って(苦笑)。

――あはは。とくにブリキ大王の動きはすごかったですね。

佐々木本作のドットは、別の会社の方々が制作しているんですが、それを統括しているリーダーの方が「ブリキ大王だけは自分で描きたい」と、情熱を持って制作してくれました。

 そのおかげもありブリキ大王のクオリティーの高さには僕も含めてスタッフ全員が素直に驚きましたね。本作の開発ではそういった個人個人のこだわりが発揮されて現場が盛り上がる瞬間が何度もありました。

『ライブアライブ』時田P、佐々木D、楽曲監修下村陽子氏にインタビュー。「ぜひ最後のエンディングまでお楽しみください!」(時田)
『ライブアライブ』時田P、佐々木D、楽曲監修下村陽子氏にインタビュー。「ぜひ最後のエンディングまでお楽しみください!」(時田)

――背景もHD-2Dならではのよさが詰まっていますが、背景の3D制作ではどのような点がポイントになりましたか?

佐々木『オクトパストラベラー』は被写界深度を巧みに使った、情緒に訴えかけるような画面作りが特徴的です。ですが、『ライブアライブ』は全体を通して熱い作品ですから、情緒に訴えかけるという部分は少なくなります。当時は『オクトパス』しか参考例がない中で、“『ライブアライブ』ならではのHD-2D”というところの模索は本当に苦労しながらやっていました。

 そこもやはり、時田さんに「ある程度は好きにやっちゃいなよ」と言っていただいたのがすごく大きかったと思います。

時田『オクトパストラベラー』や『トライアングルストラテジー』といった、HD-2D作品には、それぞれタイトルごとの色が背景に出せていると思います。ただ、それぞれ一本の軸をもとに、HD-2D化していると思うんです。『ライブアライブ』は、シナリオごとにすべてアプローチが違うので、軸を決めてしまうわけにはいかないんですよ。

佐々木HD-2Dという新しいスタイルの中で、どこまで変えていいのかもわかりませんし、『ライブアライブ』らしさがないといけません。そこをどのようにしていくのかが決まらず、最初かなり苦しみました。

時田“HD-2D”というスタイルは、一律の作りかたでできるものではありません。たとえば『トライアングルストラテジー』でしたら、往年のタクティクスRPGの延長線で考えて作品に合わせたHD-2D化をしていると思います。

 『ライブアライブ』も同様に、各編ごとに合わせた雰囲気づくりをしています。たとえばSF編でしたら背景を2Dっぽさにはこだわらず、3Dを強く押し出したような形にしています。

『ライブアライブ』時田P、佐々木D、楽曲監修下村陽子氏にインタビュー。「ぜひ最後のエンディングまでお楽しみください!」(時田)
『ライブアライブ』時田P、佐々木D、楽曲監修下村陽子氏にインタビュー。「ぜひ最後のエンディングまでお楽しみください!」(時田)

――HD-2Dのよさを出すために、そのほかにはどのようなことを心掛けていったのでしょう。

佐々木全体的にはライティングをとくに意識していました。たとえば火に近づくとライティングでキャラクターが赤く明るくなる表現などは、オリジナル版ではできなかったことですよね。

 また、ただライトを当てるのではなく、現実にはないような色使いもしています。さっき『ライブアライブ』は舞台的だ、というお話をしましたが、舞台照明のようなイメージで、各編のライティングや色味を決めていきました。

『ライブアライブ』時田P、佐々木D、楽曲監修下村陽子氏にインタビュー。「ぜひ最後のエンディングまでお楽しみください!」(時田)
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――ちなみに、アイテム名など一部表現が変わった部分がありますが、そこの完全再現はやはり現代的に難しく?

時田1990年代の開発当時から30年近く時代が変わっていますからね。今回は海外展開もありますから、あちこち変えざるをえなかった点はあります。とはいえ、気軽に表現を変えたわけではなく、スクウェア・エニックスのチェック部署を始め、プラットフォーマーともぎりぎりまで話し合い、折衝を重ねました。たとえば原始編は、服を着ていなくて、シンプルな露出度で言うとかなり高いんですよね。

 「ざきの意匠はちょっと……」という声も最初はあったのですが、「いやこれは原始の時代なんだ」と説明を重ねることで納得してもらえたということもありました。キャラクターもドット絵でしたので、3Dモデルだったらきびしかったかもしれません。

佐々木本当に最後の最後まで残せないかと粘っていた表現もありましたね。

行動ゲージシステムはじつはまったくの別モノ

『ライブアライブ』時田P、佐々木D、楽曲監修下村陽子氏にインタビュー。「ぜひ最後のエンディングまでお楽しみください!」(時田)

――バトルや育成などでは、原作のよさが残っていながら、とくにレベル上げなどをする必要性をさほど感じなくなっていたりと遊びやすくなっていました。経験値やエンカウント率などそういった点もより遊びやすくという観点で調整されたのでしょうか?

時田昔のゲームではありがちですが、オリジナル版『ライブアライブ』も“戦闘に詰まったらレベル上げをして仲間を強くして攻略していく”というゲーム性でした。

 最終編はとくにエンカウントが多く、いま遊ぶと戦闘が多すぎると感じると思います。当時だからそれもありでしたが、いま遊ぶと僕たちの感覚でもかなり辛いかなと(笑)。ステータスやエンカウント率も全体的に見直しています。

佐々木難易度のバランスは開発中にも何度かがらりと変えました。

 ゲーム制作あるあるですが、スタッフがレベル調整していくとどんどんゲームが難しくなりがちです。時田さんや僕が遊んでもやはりもう少しマイルドにしたほうが遊びやすいのかなと思いまして。本作はRPGではありますがシナリオをテンポよく読み進めたいゲームでもありますよね。
 
 バトルのおもしろさや歯応えは担保しつつシナリオの楽しさを損なわないように、全体的な改修は複数回行いました。

――各編のイベントにも、細かい調整が感じられるのも同じような理由で?

時田やはりわかりやすさを重視した結果ですね。原始編は言葉が基本ないこともあって、オリジナル版よりも説明を加えています。

『ライブアライブ』時田P、佐々木D、楽曲監修下村陽子氏にインタビュー。「ぜひ最後のエンディングまでお楽しみください!」(時田)

佐々木基本は変えていないのですが、遊びやすさの向上を図るため全体ルールを大きく変えたことで遊びが成立しなくなったものがいくつかあり、今回の形に置き換えたものがあります。

 あとは、オリジナル版で「これはたぶん意図していなかったことなのでは?」というような部分は時田さんと相談しながら入れたり入れなかったりしています。そこの判断は難しかったですね。隠し要素も多いゲームですから仕様自体を把握するのが大変でした。

時田当時は仕様書などは作らずに、いきなりゲームを作り始めていたので(笑)。

――では、オリジナル版を遊んで、いわゆる“目コピ”で作っていったのですか?

佐々木はい。「お前は『ライブアライブ』博士になれ!」というスタッフをひとり立てて全編をプレイしてもらい、イベントやバトルなどの仕様を体得してもらいました。

 そして開発時、わからないことが出てくるとその博士に聞くという(笑)。もし仕様書が残っていたとしても、当時の開発中、作っているあいだに仕様が変わることもあるので仕様書は頼れないんですよ。

――それはたいへんそうですね……。戦闘システムはオリジナル版を踏襲して内部パラメータなどを調整したのでしょうか?

佐々木じつは、バトルシステムの中身はオリジナル版とぜんぜん違います。リメイク版では、行動ゲージが表示されますよね。これは遊びやすさを向上させるために入れることになったのですが、オリジナル版のロジックを使うとこのゲージを表示させるのは不可能に近いような仕様でした。

 可視化すると破綻するので根本のシステムから変えています。そこはオリジナル版でバトルデザインを担当された井上信行さんにも相談して現在のシステムに落とし込みました。当時の井上さんの設計思想を踏まえて、原作の持つ面白さの最大化を模索しました。

 ですので、見た目はオリジナル版の行動ポイントがゲージとして見えるようになって戦えるようになった、という形ではありますが、実際はシステムを根本から変えているんです。

『ライブアライブ』時田P、佐々木D、楽曲監修下村陽子氏にインタビュー。「ぜひ最後のエンディングまでお楽しみください!」(時田)

ファンに喜ばれるアレンジ楽曲を

『ライブアライブ』時田P、佐々木D、楽曲監修下村陽子氏にインタビュー。「ぜひ最後のエンディングまでお楽しみください!」(時田)

――オリジナル版から引き続き、BGMが自由に聴けるモードも取り入れられています。

下村クリアーしたシナリオだけ聞ける仕様もそのままです。ただオリジナル版では、最後のほうの曲は聞けないようにしていて。ぶっちゃけ「全部聴けるなら、サウンドトラックCDが売れなくなる」と当時私ではない別の人が決めたわけですが(笑)。今回はゲーム内で全部聴けます。

――当時の楽曲からのアレンジはどんな苦労がありましたか?

下村スーパーファミコンの音源というのは独特というかクセがありましたね。しかも、8音しか鳴らない中、2音は効果音に使うので、だいたい6音で成立するBGMを作らないといけない。それでオーケストラみたいな曲をやろうとするわけで(笑)。

 オーケストラはふつう50人~100人とかで演奏するものですから、相当工夫しないといけなくて。

――1音で10人以上ぶんの音を鳴らさないと計算が合わない(笑)。

下村いま聴くと、6音の中で各音を入れ換えたりしてなんとか成立させようとしつつそれをバレないようにごまかしている工夫も感じられて。

 今回はそういった苦労はなく「本来はこういう音を鳴らしたかったんだよね」という振り返りの作業でもありました。ただ、スーパーファミコン音源の曲と現在の音源の曲と比べると、当時のものに勝てない部分も絶対にあると思います。それはオリジナル版のよさなので、そこを意識しつつも現代らしくアレンジしました。

――作業には複数のアレンジャーが関わっているそうですが、何か監修において柱や方針のようなものは立てていたのでしょうか。

下村自分自身がアレンジした曲は少ないです。監修という立場で「これはオリジナルに近づけましょう」とか、「これはやりすぎたほうがいい!」などと、曲ごとにアプローチは全然違いますね。

 それは考えて決めたわけではなく、感覚で決めていきました。自分の感性が優れていると言いたいわけではないですが、感性を頼りにしたほうがいいなと思いまして。プレイヤーの皆さんが気に入ってくれるとうれしいです。

――曲のアレンジは、変え過ぎるとファンから「これじゃない」と言われることもあり、とはいえ原曲のままでは意味がないというバランスの難しさがあると思います。今回はオリジナル版のイメージそのままに拡張されたアレンジのように思いました。

下村長年応援してくださっているファンの皆さんをガッカリさせない、喜んでいただけるアレンジをいちばんに考えていたので自分のエゴだけで決定はしませんでした。かつ、新たなプレイヤーの方々から「古臭いBGMだなあ」と思われないようにする必要もあって。

 いろいろとバンドアレンジやオーケストラなど、バリエーションを大胆に振っている部分もいくつかありますがどれも喜んでもらうことを念頭に置きました。

――ボス曲の『MEGALOMANIA』(メガロマニア)は人気も高いですが、ストレートにカッコよくループ部分もありグッときました。

下村そうしてくださいとお願いしたわけではないのですが、アレンジャーさんからデモを渡された時点で、2ループ目からのアレンジが入っていましたね。もう最初からそれがやりたいんだなという意図がすぐ感じられて。

 オリジナル版から逸脱したものでもありませんし雰囲気も崩れていないと思ったので、オーケーにしました(笑)。

――今回は『GO!GO!ブリキ大王!!』に歌が付き、しかも影山ヒロノブさんによる歌唱となりました。

下村影山さんの歌、最高でしたね。『Go!Go!ブリキ大王!!』に歌を付けると聞いたときは、この曲、時田さんが「俺が歌う」って言いだしたらどう反応すればいいんだろう!? と考えて震えていたので、違うと聞いてまずホッとしました(笑)。

――(笑)。

時田ライブのときは歌いましたがさすがに今回は(笑)。あと、カセットテープのプレゼント企画と、サントラ再販のときはオマケで付けたけど。

※時田氏が熱唱した『ライブアライブ』25周年ライブリポートは下記関連記事でチェック!

下村そんな実績があるから、今回いよいよかと!

時田あれはある意味ネタですから! さすがにゲーム本編で入れるのはきびしいかなと。歌うとなると、ボーカルスクールにみっちり通う必要も出てきちゃいますから。

下村ちょっと歌う気出してる(笑)。

――そのテープですが、当時読者プレゼントに当選した10名のうちひとりが見つかってお借りすることができました。

時田おお、それはすごい。

――中身は『Go!Go!ブリキ大王!!』を、時田さん始め当時の方々が歌っているというものでした。

下村えっそれ私もいるの?

時田そうそう、確か当時はスクウェアの開発室に録音ブースがあって、もちろんそこはちゃんとしたスタジオとはぜんぜん違う設備なんですけど、かんたんなものはそこで録音したりしていましたね。

下村ああ、そうだ思い出した。たしか私は声は入っていないんですけど、ジョムジョム弾の効果音などを演奏に合わせてキーボードを押してその場で鳴らす、という役割だったと思います。リアルタイム演奏。

知力などの表示は遊びやすさを優先

『ライブアライブ』時田P、佐々木D、楽曲監修下村陽子氏にインタビュー。「ぜひ最後のエンディングまでお楽しみください!」(時田)

――声優陣は時田さんがキャスティングされたそうですが、サブキャラクターもすべて時田さんによる配役でしょうか?

時田サブキャラクターはたくさん登場しますが、たとえば『ライブアライブ』が好きだという声優さんや、以前別の作品でお願いしたことのある方など、“無茶な役をたくさんお願いしても演じてくれそうな方々”を選びました(笑)。舞台を作るような感じで、劇団を作るイメージのキャスティングでした。ですので、兼ね役も多いです。短編集のような作品なので、皆さんいろいろなキャラクターを演じられることを喜んでいただけましたね。

 唯一、べるだけはオーディションをすることにしました。ほかのキャラクターは声のイメージがある中で、べるはセリフもないヒロインですから、声質の雰囲気を活かそうと思いました。そこで、『ライブアライブ』を知っているという方でオーディションをしまして、高森奈津美さんに決まりました。お姉さんっぽさの中に、芯のあるべるになったと思います。

――劇団というのはまさに『ライブアライブ』らしいですね。ボイスは“かなり多めのパートボイス”といった形になっていますが、完全なフルボイスにしなかった理由は?

時田やろうと思えばフルボイスにすることもできたと思います。ただ、今回遊びやすさを向上するために、テキストの調整や追加もあります。そこでボイスをどうしようか考えた際、メインストーリーはボイスを付けて、ちょっとした会話などはなしにするようにしました。そこで大きくメリハリを付けられたのかなと思います。

――ボイスでは主人公の名前が変更可能なので、名前は呼ばれないようになっているかと思います。ただ、やはり、主人公名を呼んでほしいなという気持ちもありました。そこはオリジナル版のよさを尊重して、あえて名前変更ありにしたのでしょうか。

時田それもありますし、入力するおもしろさやプレイヤーの思い出を優先した形です。たとえば功夫編は自分の好きなように拳法の名前を付けられます。あと中世編では「自分の名前を主人公に付けて遊んだらひどい目に遭った」という思い出を持つ方も多いようで(笑)。ただ、デフォルト名の場合は呼ぶようにふたつの仕様を用意しておけばよかったかなとも思いますね。

――SF編も入力画面がありますよね。名前を入れたり、パスワード入力ですとか。

佐々木そこはたくさん議論しましたね。現代的に遊びやすくするなら、たとえば自分の名前を入れずに済むように考えていましたが、やはり時田さんが入力するおもしろさを残したいということで。遊びやすくはなっているので、うまく落とし込めたのではないかと思います。そこはさりげなくも、こだわりの詰まっている場所ですので、ぜひ皆さん遊んで確かめてみてほしいです。

――ちなみにステータスの各パラメータ名称が“知力”から“特攻”などに変更となりましたが、これはわかりやすさを重視して? それとも高原がかわいそうだったから?

時田技や装備が、何がどう影響するのか、よりわかりやすく整理しました。“知力”というステータス名が消えてしまって、高原のアイデンティティーのひとつを奪ってしまい、申し訳なく思っていますが(笑)。

『ライブアライブ』時田P、佐々木D、楽曲監修下村陽子氏にインタビュー。「ぜひ最後のエンディングまでお楽しみください!」(時田)

――オリジナル版ではレベルが上がっても知力はずっと25のままだったという点がファンからも愛されていましたからね(笑)。ところで、現代編を始め『ライブアライブ』にはプロレスネタが多いですよね?

時田完全に僕の趣味です。

――(笑)。

時田1990年前後で、僕の中でも業界的にもいちばんと言っていいくらいプロレスが盛り上がっていた時期で、つい(笑)。

下村つい、じゃないですよ! そのとき私はプロレスはぜんぜん詳しくありませんでしたから、「お前は~プロレスがわかってないから~ダメだ~」って、時田さんに散々言われたことがあるんですから!(笑)

時田ええっ……それは……記憶にないなあ! ごめんなさい(笑)。

下村まあ、その後、私は“GLEAT”というプロレス団体のテーマ曲を作ることになったりもしたので、当時“プロレス魂”を注入されたのは巡り巡ってよかったのかもしれません。後年の芸の肥やしになったということで……?

時田当時のスクウェアはみんなプロレスが好きだったんですよね。最近でも、僕と祖堅(正慶氏)で、プロレスリング・ノアの稲村愛輝選手の入場曲を作ったりしましたし。ね、こう、やっぱりいろいろなことが最終的にはつながっていくわけですよ。

――今回、実装されなかったものの、じつは考えていた追加要素などはあったりするのでしょうか。

時田ないですね。やはり要素を増やすと、『ライブアライブ』ではなくなってしまうんじゃないかと。絶妙なバランスが崩れてしまう感じがして。情報量を増やしてしまうと、肝心なところが届かないような気がして。また、ひとつの編だけに何か追加するのもおかしいので、追加するとなると全部の編に用意すると思います。最初の段階から、追加はナシと決めていましたね。

佐々木物語の中で、どうしてもつなぎを入れたくなるところも多々ありましたが、そこはグッとこらえて、迷わないように道を塞いで誘導するなど、極力ガイドに留めました。そこを追加して、もとの味のよさやテンポが崩れるのは避けたかったので。ただ唯一、拡張した部分があります。メインメニュー画面ではそれぞれの編で、仲間たちの様子が見られるようになっています。仲間の数や状況によっても変わるので、そこは雰囲気を深く表現できたと思います。

時田あれはよかったね。字で説明していることもありますが、やはりドットで見て楽しめるし、わかることもありますから。

生まれ変わった『ライブアライブ』

『ライブアライブ』時田P、佐々木D、楽曲監修下村陽子氏にインタビュー。「ぜひ最後のエンディングまでお楽しみください!」(時田)

――新たな『ライブアライブ』の世界を体験する人へ向けて、ひと言お願いします。

下村スクウェアに入って、最初に関わったタイトルですから、すごく思い入れがあります。リメイクにも心を込めて関わらせていただきました。新たなサウンドトラックも7月26日に発売されるので、気に入ってくださったらぜひ買っていただきたいですね。

佐々木往年のファンの方々や、久しぶりに遊んでみようという人、今回は初めて触れる人もいるでしょう。当時のおもしろさを再解釈して、現代の人たちにどううまく伝えていくのか考えながらリメイクしました。スタッフ一同で『ライブアライブ』を愛して作りましたので、新鮮な気持ちで楽しんでいただけたらうれしいです。

時田当時の開発スタートから数えるとちょうど30年です。 そこからファンの応援が続き、ライブなどを経て、関係者の皆さん全員で30年かけて作り上げたのが今回のリメイク版『ライブアライブ』だと思います。

 皆さんの想いと、ヒストリアスタッフの努力のおかげで、熱くすばらしい作品に仕上がりました。ぜひ最後のエンディングまでお楽しみください!

『ライブアライブ』時田P、佐々木D、楽曲監修下村陽子氏にインタビュー。「ぜひ最後のエンディングまでお楽しみください!」(時田)
『ライブアライブ』時田P、佐々木D、楽曲監修下村陽子氏にインタビュー。「ぜひ最後のエンディングまでお楽しみください!」(時田)
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週刊ファミ通2022年8月4日号(No.1755)では、42ページの特集を掲載

 2022年7月21日(木)発売の週刊ファミ通2022年8月4日号(No.1755)では、本作の発売記念特集を掲載。オリジナルデザイン表紙やスクウェア・エニックスの時田貴司プロデューサー、ヒストリアの佐々木瞬ディレクター、全楽曲の監修を行ったコンポーザーの下村陽子氏による鼎談など、42ページにわたって本作の魅力を紹介している。

『週刊ファミ通』2022年8月4日号 No.1755(Amazon.co.jp)