Netflixの『ブラック・ミラー:バンダースナッチ』を始め、実写を使ったインタラクティブムービーなどが増えている。もはや選択肢を選び、それに応じて物語の展開が変化するといった形式のものならば、決してゲーム機ではなくとも実現できる時代になっているわけだ。一方、そんな時代に登場したこの『春ゆきてレトロチカ』は、インタラクティブムービーとは一線を画した、まさに王道の“犯人当て”ミステリに真正面から挑んだゲームになっている

『春ゆきてレトロチカ』レビュー。王道の“犯人当て”に真正面から挑んだ、大人ならばより楽しめるミステリアドベンチャー
『春ゆきてレトロチカ』レビュー。王道の“犯人当て”に真正面から挑んだ、大人ならばより楽しめるミステリアドベンチャー

 『春ゆきてレトロチカ』は、2022年5月12日にスクウェア・エニックスから発売された、新本格ミステリアドベンチャー(対応機種はNintendo Switch、PS5、PS4、Steam)。ディレクターは『428 ~封鎖された渋谷で~』を始め、数々のサウンドノベルやアドベンチャーゲームに携わった伊東幸一郎氏が担当。『全裸監督』で知られるたちばな やすひと 氏が撮影プロデューサーとシナリオディレクターを、ドラマ『あなたの番です』などの劇伴を担当した林ゆうき氏が音楽を担当するなど、実写のミステリを作るためのスタッフ陣が集結している。

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『春ゆきてレトロチカ 』 紹介映像

 本作は全編実写のフルムービーで展開。ドラマや映画そのままのクオリティーでストーリーが進んでいく問題編をベースに、問題編で見つけた手がかりから犯人やトリックを推理して仮説を組み立てる推理編、そして犯人を追い詰め、真相を追い求める解決編の3編で構成されている。それぞれの詳細な流れなどについては、以前のレビュー記事を読んでほしい。

『春ゆきてレトロチカ』レビュー。王道の“犯人当て”に真正面から挑んだ、大人ならばより楽しめるミステリアドベンチャー
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『春ゆきてレトロチカ』レビュー。王道の“犯人当て”に真正面から挑んだ、大人ならばより楽しめるミステリアドベンチャー

 本作のベースとなるのは100年の歴史をめぐる謎に挑むストーリー。各章では、その100年のいずれかの時代で発生した事件などが描かれることになる。それぞれの詳細についてはゲームで実際に見たほうが楽しめると思うのでここでは説明しないが、もし購入前に詳しく知りたい人は公式サイトなどをチェックしてほしい。

 その各章をつなぐ本作の特徴のひとつが、マルチロールシステムだ。マルチロールシステムとは、ひとりの俳優さんが複数の役柄を演じるシステムのこと。

 たとえば現代編で小説家を演じている桜庭ななみさんは、別の時代では異なる役柄として登場することになる。漫画のスターシステムなどに近く、どの時代にも同じ役者さんが出てくるのだが、桜庭ななみさんならばどの時代でも探偵に近い役柄を演じるため、新たに覚えることが少なくスムーズに飲み込めるといったメリットがある。一方、とある時代で頼れる存在だった人が、別の時代では怪しい容疑者のひとりになったりするので、思い込みは要注意。この「怪しく見えるのは前の時代のせいなのか?」と自問自答をするのも、なかなかに楽しいところだ。

『春ゆきてレトロチカ』レビュー。王道の“犯人当て”に真正面から挑んだ、大人ならばより楽しめるミステリアドベンチャー
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 そして本作の最大の醍醐味は、なんと言っても“犯人当て”だ。“犯人当て”というのは、簡単に言うとミステリ小説やドラマなどで終盤のシーンに入る際に、読者や視聴者に対して「ここまでで推理の条件は揃った。あなたは犯人がわかりましたか?」と挑戦状を出してくる展開のもの。ゲームでも犯人の名前を入力する場面が訪れるものがあるが、そういったものを想像してもらえればわかりやすいだろう。

 本作の場合、まさに問題編までを見たところで、“犯人当て”の条件が揃うことになる。プレイヤーは問題編で集めた手がかりや映像に散りばめられた怪しい箇所からいろいろと思考を巡らせつつ、つぎの推理編で数々の仮説を組み立てていき、解決編で実際に論理立てて犯人を追い込んでいくことになる。

『春ゆきてレトロチカ』レビュー。王道の“犯人当て”に真正面から挑んだ、大人ならばより楽しめるミステリアドベンチャー
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 この推理編で数々の仮説の中から自分なりの推理を組み立てて、解決編でドキドキしながら答え合わせをするのは本当におもしろい。記憶をなくさない限り一度しか味わえない貴重な体験である。ここで重要なのは、“推理が合っているからおもしろい”という点ではないところ。推理が間違っていても十分におもしろいし、正直に言えば、筆者が組み立てた推理が犯人からトリックまですべて合っていたことはほとんどないのだが、それでも推理をする楽しみも、解いたときの手応えも含めておもしろさが味わえるのが、ゲームで遊ぶ“犯人当て”の醍醐味だろう。

 というのも、前述の通り、犯人からトリックまですべてを見破ることは難しい(もちろんできる人もいるが)が、一部だけは見破っているという人なら多くいるのではないだろうか。そういった一部だけでもわかっている人にとっては、推理していた犯人が違っても、解決編で選択する仮説や手がかりなどが合っていれば、そこで一定の達成感が得られるわけだ。しかも、その正解をきっかけに、今度こそ真相につながる道筋が見えたりするので、それがまた楽しいところ。

 部分部分で達成感が得られ、かつ、ストーリーの真相に近づく中で推理が熟成され、「そうか!!!」と閃きを味わう瞬間こそ犯人当ての楽しさだが、ゲームの場合、その答え合わせとも言うべく選択を自らの操作で行うからこそ、達成感や楽しさがより実感できるというわけだ。

『春ゆきてレトロチカ』レビュー。王道の“犯人当て”に真正面から挑んだ、大人ならばより楽しめるミステリアドベンチャー
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 ちなみに、最後までプレイした筆者としては、前述の“犯人当て”などと同じくらい、本作のドラマ部分も見逃せないと伝えておきたい。

 正直、本作は“ド”が付くほど渋いゲームだと思う。見た目的に派手なゲームではなく、ストーリー展開や設定もとても渋い。しかし、最後までプレイしたときに得られる感情の動きは、このド渋なゲームだからこそ味わえるもの。その詳細については実際にプレイして味わってほしいが、本作はまさに大人が楽しめるゲームならではのミステリドラマ。最後まで遊んだうえで、再度本作を初めからプレイすると、また異なる感情が生まれるはずだ。