2020年を代表するインディーゲームの『Among Us(アマング アス)』を解体していくこのシリーズ。今回は、インディーならではともいえる紆余曲折があった開発の歴史、及び今後の展開を見ていこう。

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 『Among Us』を開発したのは、アメリカのInnerSlothという名前のとっても小さな会社。そこで働く人の数、なんとたった3人。会社というよりも、学生の同好会といってもよい組織体で、実質的にプログラムを行っているのはたったのひとりという、本当に小さな小さなインディーメーカーとなる。ただ、この中のひとりMarcus Bは、8歳のころからゲーム制作を目指し、『Henry Stickmin』シリーズのクリエイターPuffballs Unitedとして活動するなど、ゲームの知識や開発経験は積んでいるメンバーもいたりする。

 InnerSlothとしてこれまでにリリースした作品は、まず2015年に『Dig 2 China』(Android、iOS)、2018年に『Among Us』、そして2020年8月に最新作となる『The Henry Stickmin Collection』(Steam)の3本。最新作についてはパブリッシャーという立場であるため、メインの開発自体は別とはなるものの、図らずもその最新作のリリースタイミングに『Among Us』のブームが起き、InnerSlothメンバーは結果的に今年中盤から現在にかけて『Among Us』1本に振り回されるような状況になった。

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 家庭用ゲーム機向けでなかったり、小さな会社であるため、リリース当初からできあがった製品が提供できているわけではなく、ちょっとずつゲームとしてできあがった経緯があり、簡単に『Among Us』の開発の流れをみてみよう。

・2018年6月 Andoroid、iOSベータ版リリースから始まる
・2018年11月 Steamにて配信を開始
※継続的に、数週間、1ヵ月単位で機能追加や改善を実施。こまめにアップデートは重ねていた
・2020年1月 今後追加要素・改修は行わないと宣言
・2020年7月 人気が急上昇し始める
・2020年8月 要望や改善を実現するために2の製作を発表
・2020年9月 2の製作をキャンセル。強化や新要素追加は1で行うと方針転換。サーバー強化や対策の実施
・2020年10月 不正ユーザー・チーター対策の実施
・2020年11月 久しぶりとなる追加要素のアップデート
※新要素や機能改善を実施中

 少し長い開発期間に見えるが、それに合わせた人気はどうかというと、今年半ばまではとくに注目されることもなかったというのが事実。

 それを示すように、リリースからしばらくは制作活動を継続していたものの、最初のリリースから約1年半で開発終了を決意するという、どちらかというと小さなタイトルでは一般的、もしくはよく開発を継続していたタイトルとも言える。大多数のそのほかの似たようなタイトルと違ったのは、その開発終了を宣言して約半年経ち、尋常じゃないレベルの人気が出たことで、新規要素も踏まえた開発が再開されたところにある。

 こうしてみると、「爆発的に人気が出て売上も伸びているだろうからいいことだ!」と思えるかもしれない。だが、実際の話はそんなに簡単ではなく、ことさらそれは小さな会社だからこその問題・課題が先行したわけである。

 その具体的な要因となったのがオンラインゲームという『Among Us』のゲーム性。プレイする人数が増えるとその分サーバーを中心に負荷がかかる状況にあり、急激に増加したユーザーがそのままふつうに遊べる、もしくは単純に稼働サーバーを増やせばよいかというとそうではなく、人気が出てしばらくの8月から10月にかけて開発は苦虫を噛む思いだったようで、プレイヤーたちにはエラーによるプレイができない状態もよく見られていた。

 簡単に言うと、思想・基本設計が大規模のそれを踏襲できていたものではなく、またどちらかというとひとつひとつ機能を追加していった、いわば継ぎ接ぎによる開発経緯ゆえ、増強が難しい状況だったわけである。結果、作り直すより、新しく作ったほうが効果的で早いという判断で、一度『2』の開発宣言へとつながったわけである。

関連記事:『Among Us』公式サイトより

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一方で、目の前の過熱ぶりは尋常ではなく、Steamにおいて同時接続が40万を超え、時間帯ではトップ、1日においてもトップ3に入る状態が9月は続き、それに対応するサーバーの強化に終始せざるを得ない状態であった。もちろんプログラムできる人がひとりということもあったわけだが、そのたいへんな時間をチームメンバーと過ごし、ユーザーの声を多く目にする中で、「『1』を楽しんでいる人たちを見るとそのサポートによりつぎのレベルへと引き上げていきたい、『1』のユーザーを大切にしたい」という思いを強くし、『2』の制作のキャンセルと『1』での改善・コンテンツの追加に舵を大きく切ったのである。

秋からの変更点と今後の新規追加要素

 さて、形はどうであれ、人気の増加に合わせて開発を再開した『Among Us』ではあったが、図らずもベースがよいためか、機能や要素に対して不満のような声が少なかったというのが、これまた本作のよいポイントでもあり、人気が一過性で終わらなかった要因とも言える。

 そして夏から秋にかけて発表した開発の方針が以下のものとなる。

  • サーバー強化: ユーザー増加に合わせて、不正ユーザーの対応。8月から10月にかけて、ここが一番重要視され進められていたようで、事実サーバー安定化のアップデート、及びハッキング・チーター対応のサーバーサイドのアップデートが9月から10月に実施されている
  • 色覚異常のサポート: 古くから検討されていたが、長い間延期していたもの。プレイヤーの識別子として特定の色に焦点を当てることを検討しているとのことで、これにより多くの色の可能性が拓かれるとのことだ。これまではプレイヤーの区別が難しくなるため、単に色を増やすということができなったそう
  • フレンド機能: これも長く開発が実装したかった機能。オンラインゲームでは当たり前ともいえるもので、健全なゲームを楽しめるための仕組みを模索しているという。ただ、その機能の前に、まずは報告機能として不正ユーザーの対処という最重要のものを実装し、その後フレンドリストのようなものにつなげたいとのことだ
  • 翻訳・ローカライズ: 多くの国の人から声をもらっていて、専門的な翻訳家の力を借りた展開ができそうとのこと。ただ、現時点ではまだ対応できる言語の公表までには至っていないそうだ
  • 新しいステージ: 『Henry Stickmin』(同社最新作)をテーマにしたステージを検討しているとのこと

 実際に9月、10月においてはおもに多くの人が遊べるようなサーバー対応がなされ、同時に迷惑行為として発生していたスパム行為対策が行われている。また、その方針とは別に、11月4日にオプション機能の追加やいくつかの機能改善、及び不具合修正のアップデートも実施された。

 このように少しずつでも着実に改良を重ねており、この冬にかけて上記の要素も順次追加・アップデートされていく見込みだ。

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Switchでの展開がある?

 いまや家庭用ゲーム機でもインディーゲームに力が入っており、そういう面でNintendo Switchなどの家庭用ゲーム機への展開もユーザー間では期待される。実際その検討は行われていることを開発者自身が明らかにしている。これは、Twitchの特集で登場した際に語ったもので、ライトなユーザー層やソフトの価格、そしてハードメーカーの姿勢から、その考えに至るのは自然であったとのこと。

 ただし、すでにAndroid、iOS、PCでのクロスプレイを実装していることも含め、その端末を増やすことによる技術的な問題・課題が浮上し、これまでの経験を含めてほかのサポートがなければ難しいとも語っている。また、同時に現在は“大元”の抜本的な機能追加・改善を行っている状態にあり、かつ対応できるメンバーに限界があることから、それ以上の言及には残念ながら至らなかった。

 実際にない袖は振れないわけでもあり、これまでの流れや開発者の言葉を見るに、早々に他機種展開が実現するのは考えづらいだろう。ただし、着実に進んでいる開発やこれほどの人気ゆえに周りが放っておくとも考えづらい。あくまでユーザー目線での希望を多く含む観測ではあるが、今後Nintendo Switchやプレイステーション、Xboxのいずれかでその展開があってもおかしくはないだろう(ぜひとも現実になってください!)。

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補足資料: 『Among Us』開発の歴史

2018年6月
AndroidとiOSでベータ版としてリリース
※以後2020年1月までバグ改修、ないし機能改善は月に1回から数回継続していた

2018年8月
PC版リリースととオンラインプレイを実装(無料で配布)

2018年11月
Steamでリリース開始。同時にSteam/PC版を有料に

2019年8月
新マップとしてMIRA HQを追加

2019年11月
新マップとしてPolusを追加

2020年1月
3人チームであり、やれることはやったため、以後バグ修正のみで新規要素追加は行わず、あとは自然な流れに任せることを宣言
しばらく沈黙の期間となる

2020年8月
『2』の制作開始を宣言

2020年9月
『2』の開発をキャンセルし、『1』のアップデート対応に方向転換したことを宣言

2020年10月
ハッキング、不正ユーザー対策の実施

2020年11月
新規オプションの追加を含むアップデートの実施

『Among Us』Steamページ
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■筆者:たむ爺
カセットビジョン時代からゲームを触ってきた古の人