世界を驚かせたデザインに秘められた想い
2020年11月12日、世界中のゲームファンが待ち望んだプレイステーションの次世代機、プレイステーション5(以下、PS5)が発売される。“Play Has No Limits”(遊びの限界を超える)をテーマに、従来のゲーム機を遥かに上回る性能と、いままでにないアイデアを取り入れて開発されたPS5は、どのようにして開発されたのか。
知られざる開発秘話を求めて、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)のシニアアートディレクター・森澤有人氏にインタビューを行った。ゲームファンの予想を、いい意味で裏切ったPS5の挑戦的なデザインはどのようにして生まれたのか。最後まで読み進めて確認してほしい。
森澤有人氏(もりさわ ゆうじん)
ソニー・インタラクティブエンタテインメント シニアアートディレクター。
フィラデルフィア芸術大学卒業後、アメリカのデザイン会社でプロダクトデザインのディレクションに従事。2002年からソニーで多数のヒット商品のデザインを手掛けた後、2017に年SIEに入社。現在はPS5関連製品のデザインディレクションを担当。
ストーリーをベースに構築されたデザイン
――PS5のデザイナーに抜擢されたときの、率直な感想を教えてください。
森澤僕は昔からゲームが大好きだったので、いつか自分でプレイステーションをデザインしてみたいと思っていました。今回、やっとチャンスが巡ってきたので、言葉にできないくらいうれしかったです。ちなみに、ファミ通も小さいころから読んでいましたよ(笑)。
――ありがとうございます(笑)。プレッシャーよりも喜びのほうが大きかったのですね。
森澤もちろん、ものすごいプレッシャーも感じました。プレイステーションは今回で5代目ですし、これまでいろいろなデザイナーさんたちが、力を振り絞ってデザインしてきていますから。ただ、プレッシャーを感じた以上に、楽しみで、非常にワクワクしました。
――森澤さんがPS5をデザインするにあたって、どのようなテーマを考えたのですか?
森澤プレイステーションがこれまで培ってきたユーザー体験……たとえば、プレイヤーの感情やエネルギーのようなものを、PS5で何とか表現できないか、というのがテーマを考えるうえでのスタート地点でした。そこで、プレイステーションとはなんだろう、というところから考え始めて、たどりついたのが“五次元”というテーマでした。
――五次元ですか!? その理由は……?
森澤超高速SSDを搭載したことで、ローディング速度が速くなり、現実世界とゲームの世界のつながりが、ますます強くなるのではないかと感じていて。さらに、PS5をプレイすることで、ある人は戦士になって、またある人はヒーローになってということが、同じ時間に世界中のあちこちで起こりますよね。
そうした、PS5が生み出す新世界が、僕は五次元的だなと思ったんです。それに5代目のプレイステーションなので、5という数字にも特別感のある“五次元”は、新しいプレイステーションにピッタリのテーマだと考えました。
――このテーマはすぐに決まりましたか?
森澤時間がかかりましたね。テーマを五次元という言葉に落とし込むのも苦労しましたし、五次元をデザインでどのように表現するか、形にするのがたいへんでした。
それにプレイステーションに関しては、ディテールはデザイナーに一任されています。まずは、デザイナーが考える、新しい機種のデザインを提案してほしい、と。チャレンジをさせてくれるので、やりがいがある一方で、ゼロから考えなければいけないので、非常に悩みました。
ただ、次世代のプレイステーションを生み出そうとする中で、プロダクトプランナーやエンジニアなど、開発スタッフ全員がまったく新しいことにチャレンジしようとしていて。周囲の強い意気込みを感じたので、デザインもみんなのやる気に応えるものでなければいけないと、思い切ってチャレンジすることにしました。そして考え抜いた末に、“箱からの脱却”をしたいと思ったんです。
――“箱からの脱却”とは、具体的にはどのようなことですか?
森澤ソリッドな塊ではなく、つながっていない場所があるというか……。バラけているように見えるけれど、ひとつの塊になっているような姿を想像したんです。それで、黒い本体を2枚の白い板で挟むことにしました。
――PS2以降、ポータブル機も含めて黒ベースのマシンが続きましたが、PS5が白ベースになったのも、大きな変化ですよね。
森澤白ベースというよりも、ツートーンにしたいと考えたんです。それで、色の組み合わせをいろいろ検討した結果、白と黒のツートーンに決まりました。
――最初から白ベースにしようと考えていたわけではなかったのですね。白と黒のツートーンを採用した理由を教えてください。
森澤五次元というテーマを決めた後、ストーリーを考えました。PS5は異次元世界から来たもので、黒色のメカニカルな部分はものすごいエネルギーを持っている。PS5は人間と触れ合いたいけど、内部がむき出しのままでは触ることができない。なんとかして人間とコミュニケーションを取るために、内部を包む白いカバーを生み出したんだ……と。
――おお、なるほど! そんなふうにストーリーをイメージしながらデザインするのは、森澤さんのいつものやりかたなのですか?
森澤そうですね。ソニーで別の製品のデザインを考えるときも、ストーリーを考えるようにしています。実際にPS5の箱を開けて取り出すときに、僕が想像したようなワクワク感を体験してもらえるとうれしいですね。そして、昂ぶった気持ちのままゲームをプレイして、ドキドキしてもらいたいです。
――PS5のデザインを初めて見たときの、社内の方々の反応はどうでしたか?
森澤おそらく、ユーザーの皆様と似たような反応だったのではないでしょうか。これまでのプレイステーションとは一線を画すデザインだったので、「こうきたか!」と驚いている人が多かったと思います。僕の気持ちを込めて全力でデザインしたものでしたから、もちろん自信はありましたが、反応を見るまでは正直、不安な気持ちもりました(苦笑)。
――ユーザーの反応も、好意的な意見が多かったと思います。
森澤非常にありがたかったですね。攻めたデザインにしていたので、どういう反応があるのか僕にも予想ができなくて。意見が半々に割れたり、ネガティブな意見が多かったりしたらどうしようと思っていましたが、多くの方がおもしろいと感じてくれたようなので、ホッとしました。
PS5のデザインは機能的にも優秀!
――白いパネルが持つデザイン的な意図はよくわかりました。ただこの構造は、生産コストの面では負担になりそうにも思いますが?
森澤僕たちプロダクトデザイナーは、量産製品のデザインを考えるので、コストもしっかり考慮しています。白いパネルは、デザイン性以外の面ではムダに見えるかもしれませんが、機能的にも必要不可欠なものなんです。内容物を支えるのに役立ちますし、取り外し可能なパネルにしたことで、内部のクリーニングが行いやすくなっています。
――パネルで挟む構造は、機能的にも優れたものなんですね。では、生産のしやすさはいかがでしょうか。パネルは曲線的な形状をしていて、作るのがたいへんなのかな、とも思えますが。
森澤おっしゃる通り、きれいな曲面にするには、高度な成形技術が必要だったと聞いています。パネルをきれいにつくるのは、エンジニアにとってはチャレンジだったようですが、やりがいを感じてワクワクしながら取り組んでくれました。
――曲面を採用しながら、同梱のベースを使うと、縦置きでも横置きでピタッと設置できることにも驚きました。
森澤同じベースで縦置きと横置きを両立させるのは、実現するのに相当な苦労がありました。縦置き用、横置き用にそれぞれスタンドを用意すれば楽なのですが、それだと余計なコストがかかってしまいます。ですので、ひとつで解決できるスタンドを作りたいという思いが、デザイナーとエンジニアの共通認識としてあったんです。
そこでエンジニアと相談し、試行錯誤をくり返す中で、回転させる方法にたどりつき、ひとつで縦置きと横置きに対応できるスタンドを作ることができました。手前味噌ですが、スタンドを別売りにせず同梱できたことも、妥協せず実現できてよかったなと思います。
――ベースひとつにも、ドラマが隠されているのですね。つぎにサイズについてもお聞きしたいのですが、PS5はPS4と比べてひと回り大きくなっています。これはデザインを考えるうえで枷にはなりませんでしたか?
森澤それはないですね。むしろ僕が最初に作ったPS5の模型は、エンジニアが考えていたサイズよりも大きかったくらいです。僕は大きなゲーミングPCを使っていた世代でもあるので、パワーのある次世代機といったらこれぐらい、という想定で作ってみました。でも、それでは大きすぎるということで(笑)、いまのサイズに落ち着きました。
――そんなやり取りがあったとは(笑)。
森澤僕はPCのデザインに設計から参加していたこともあったので、PS5のスペックを聞いたときに、ある程度大きくなることは予想できていました。PS4と比べて消費電力が上がっているから、これは熱量も上がるだろう。一方でファンも相当静かになると聞いていたので、サイズの大きなファンが搭載されるだろう……と。
――なるほど。デザインの前提として、PS5のスペックまで考慮されているんですね。
森澤はい。PS5の本体の曲線も、単なる自由曲線を描いているわけではなくて、排熱効率ができるだけよくなるような、内部のエアフローを意識した曲線になっています。
――PS5の曲線のように、マシンの性能に合わせてデザインすることは多いのですか?
森澤基本的には、デザイナーとエンジニアの思想を重ね合わせて、そこからバランスを取っていく手法が多いですね。PS5に関してお話すると、開発初期は図面がトップシークレットになっていて、僕も見せてもらえませんでした。
そのため、エンジニアの思想がわからないまま、形状をデザインするしかなかったんです。それが、いざコンセプトと形状を作り上げて、エンジニアと突き合わせてみると、彼らと思想がまったく同じだったんです。これは感動的でしたね。
――エンジニアと思想が通じ合えるのは、PCをデザインした経験が豊富な森澤さんならではのことなのでしょうね。
森澤それにエンジニアの考えを阻害しないデザインにしたいという、僕の思想も影響していると思います。今回に限って言えば、僕がゲーム好きなことも好作用したかな。いちプレイヤーとして、熱落ちは避ける必要がありますし、極力静かさを追求したかったので。
――ゲームファンの森澤さんだからこそ、排熱性と静音性にはこだわりたかったということですね。DualSenseワイヤレスコントローラーのデザインのこだわりも教えてください。
森澤PS5とデザインの世界観を統一したかったので、DualSenseのデザインも本体と同じ五次元をテーマに考えています。
――DualSenseは、表面に小さい△や○、×、□が施されています。初めて気づいたときに驚きましたが、これらを実装した意図は?
森澤白いパネルと同じく、DualSenseの白い部分もPS5の思いが形作ったものだとすると、PSを象徴する△や○、╳、□がテクスチャーとして垣間見えたらおもしろいと思ったんです。ちなみに、テクスチャーを作るにしても、ただ作るだけではなくて、機能を持たせたいという思いがあったので、グリップとして機能するように、じつはデザイナーが手作業でひとつひとつ高さを調整してデザインしているんですよ。
――なんと! たしかに、DealSenseは滑りにくく手に馴染むと感じましたが、裏にそんな配慮があったんですね。
森澤すごくたいへんな作業でした(笑)。それにイースター・エッグ(隠されたメッセージや画面の総称)に憧れていたので、遊び心で入れたという面もあります。ほかの周辺機器にも入っていますので、ぜひ見つけてみてください。
――発売に向けて、また楽しみが増えてしまいました(笑)。
森澤まだ僕自身もPS5を入手できるかどうかわからない状態なのですが(苦笑)、発売後は僕もいちプレイヤーとして、新しいゲームの世界に飛び出して行きたいと思います。オンラインでお会いする機会があるかもしれませんが、みんなでいっしょに楽しみましょう。
ファミ通.comのPS5特集記事
11月12日発売の週刊ファミ通でPS5を特集!
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