いよいよ2020年11月12日の発売日が迫ってきたプレイステーション5(以下、PS5)。プレイステーション4(以下、PS4)と比較すると、CPUやGPUが刷新され、メモリも倍増。そしてメインストレージがSSDへと変更になった。PS5ではこの“SSD”も話題のひとつとなっている。
なぜSSDが注目を集めるのか、2020年3月に発表された動画“The Road to PS5”で語られている内容をもとに、改めてその謎に迫る。
The Road to PS5
PS5の新規性はSSDにあり?
2020年3月にPS5のハードウェアに関する情報が公開された。設計に携わったMark Cerny氏は“The Road to PS5”と銘打たれたこの動画の中で、CPUでもGPUでもなく、標準のストレージとして採用されたSSDの話題をまっ先に取り上げている。
最新の家庭用ゲーム機を語るのに、いままでであれば美しい映像をより高速に紡ぎ出すGPUや、あるいは、さまざまなプログラムを処理するCPUが重要視されていたはずだ。なぜそのどちらでもなく、Cerny氏がSSDについて語ったのかといえば、ここにPS5の独自性が端的に表れているからだ。
プレイステーションシリーズはPS4以降、設計をPCに寄せてきている。PS5でも、CPUにはPCなどですでに大量に生産されているx86-64アーキテクチャを採用したAMD製のGPU内蔵カスタムチップが搭載されているのは周知の通りだ。逆に言えば、これらの実力は既存のPC用のCPUなどを見ることで、ある程度はその実力が想像できてしまう。
しかも、いくら量産効果でコストが低減できるとはいえ、家庭用ゲーム機では売価をかなり低く抑える必要がある以上、性能的にも最先端・最高速を追いかけるわけにはいかない。ライバルであるXbox Series Xが同じAMD製のかなり近い内容のCPU/GPUを採用していることもあり、“目新しさ”という点でいまひとつインパクトに欠けるのは致しかたない部分がある。
しかし、ゲーム体験という観点からハードウェアを見てみると、その性能はCPUやGPUだけで語れるものではないことがわかるはず。映像がより高精細になり表現力が増し、プレイフィールドも広くなっていくにつれ、プログラム本体やデータが保存されているストレージメディアから読み込むデータ量も膨大になっていく。
DVDやBlu-rayディスクからダイレクトにゲームを起動していた時代を経て、PS4ではHDDにインストールするのがもはや“常識”となり、さらには外付けのSSDを追加したり、内蔵HDDをSSDへと換装するのも流行った。HDDよりもデータの読み込みがはるかに高速なSSDは、より快適なゲームプレーを求めるユーザーにとって、ひとつのキーとなったワケだ。
PS5ではついにSSDが標準で搭載されるに至った。しかも往々にして“カスタムSSD”と表現されるように、ここにはPCなどには見られない、PS5ならではの仕掛けが組み込まれている。
より快適で没入感の高いゲーム体験を実現するうえでボトルネックとなっていた、データの読み込み。PS5ではここに着目し、単にSSDを標準で搭載するだけでなく、もう一歩踏み込んだ設計を施したのである。
PlayStation(R)5 分解映像
PS5用カスタムSSDのスピードはPS4の約100倍!
そもそも、なぜSSDはHDDよりも読み込みが速いのかといえば、その理由は、構造の違いにある。
HDDはHard Disk Drive(ハードディスクドライブ)の略。装置の中には高速で回転する複数の金属製の円盤が内蔵されていて、データはそこに同心円状に記録されている。読み込みの際にはヘッドと呼ばれる部品がデータのある場所まで移動し、円盤が回転することでヘッドが同心円をなぞり、データが読み込まれる仕組みだ。
ヘッドがデータのある位置へと移動する時間に加え、ヘッドが同心円をなぞってデータを読み取る時間が必要なうえ、読み込むべきデータは円盤の上でまとまった位置に記録されていなければ、それらをつぎつぎと拾って読んでいかなければならない。しかも、ディスクは一定の速度で回転しているため、円盤の内側は外側に比べてわずかだが読み込みが遅くなってしまうという特性も持っている。
先述の“The Road to PS5”という動画の中でCerny氏は「自分の経験則では」と断りを入れたうえで、HDDは読み込みに必要なデータがディスク上のどこにあるかを探すのに読み込みに要する時間の2/3を費やしていると説明。PS4のHDDでは平均して1GBのデータを読み込むのに約20秒かかるという。
一方、SSDはSolid State Drive(ソリッドステートドライブ)の略で、フラッシュメモリと呼ばれる不揮発性、つまり電源を切っても内容が消えない半導体チップのなかにデータを記録する。
HDDのように物理的な可動部が理由となるロスがないため、SSDではデータへのアクセスと読み出しをとても高速に行うことが可能だ。ただ、いくつかの難点もある。もっとも大きな問題は、容量あたりのコストがHDDよりかなり高い点。ただ、これも徐々に解消されつつあり、PS4 Proの1TBには及ばないものの、PS5のSSDは標準で825GBという容量を実現するに至っている。
Cerny氏は同じく“The Road to PS5”の中で、PS5のSSDでは「2GBを読み込むのに0.27秒しかかからない」と語った。各所の性能が向上した次世代機のPS5では扱うデータ量も肥大する。しかし、PS4の倍である2GBを読み込んでも、わずか0.27秒しかかからない。約0.5秒あれば4GB近くも読み込める計算だ。Cerny氏はその読み込みスピードの違いを“約100倍”と表現している。
高速化のための工夫が詰めこまれた“カスタムI/Oユニット”
先にも少し触れているが、PS5ではただ単に標準のストレージをHDDからSSDに置き換えただけではなく、高速化のためのいくつかの仕掛けが組み込まれている。
かんたんに言うと、PS5のCPUはカスタム化されたフラッシュコントローラとI/Oユニット(※)を介してデータをやり取りすることで、フラッシュメモリに記録されたデータを読み込む工程で生まれるボトルネックを解消しているのだ。PS5のSSDが“カスタムSSD”と称される理由がここにある。
※フラッシュコントローラ:ここではSSDの制御装置を指す。
※I/Oユニット:入力(Input)と出力(Output)を行う装置のこと。
PS5のSSD、つまりカスタムフラッシュコントロ-ラとフラッシュメモリは、CPUなどのメインカスタムチップ内の“カスタムI/Oユニット”と4レーンのPCI Express(PCIe)4.0で接続されている。このカスタムI/Oユニットにはいくつかの機能が搭載されているが、なかでも特徴的なのが“KRAKEN DECOMPRESSION”だろうか。
PS4のプログラムは“Zlib”と呼ばれる圧縮アルゴリズムでストレージに収納されている。50%ほどの圧縮率を誇るこのアルゴリズムのおかげで、Blu-rayディスクやHDD、SSDに実質的に2倍の容量のデータを詰め込めるのだ。
一方、PS5ではZlibに代わり、RAD GAME TOOLSが開発した“Oodle Kraken”という圧縮アルゴリズムが採用されている。カスタムI/Oユニットの“Kraken Decompression”は、Zlibよりもさらに圧縮率が約10%も向上したこのアルゴリズム専用の解凍回路で、同じくカスタムI/Oユニット内の作業用SRAMに高速にデータを展開可能だ。
圧縮されたデータの内容などにも左右されるが、このKRAKEN DECOMPRESSIONは通常は8~9GB/s、最高速で22GB/sという速度でデータを出力できるという。
カスタムI/OユニットにはふたつのI/Oコプロセッサ(※)も搭載されている。ひとつはカスタムフラッシュコントロ-ラとのあいだを取り持つことでSSDから読み込むときのボトルネックを回避し、もうひとつは16GBあるPS5のメインメモリとの入出力を制御する。後者のI/Oコプロセッサは読み込んできたデータをメインメモリのどこに書き込むかといった計算を行い、専用のDMA(Direct Memory Access)コントローラがそれに従ってデータをメインメモリ上に送り込む。
※コプロセッサ:演算を補助する装置。
これらの仕組みのおかげで、PS5のCPUは自らの処理能力を浪費することなく、圧縮されていない生データをSSDからメインメモリに直接読み込んでいるかのように扱うことができるわけだ。
たとえばPS4ではHDDをその10倍の読み込み速度を持つSSDへと交換したとしても、実質的に約2倍のスピードしか発揮できない。ところが、PS5ではこうしたSSDの読み込みを高速化する工夫のおかげで、“約100倍”というSSDのスピードを存分に活かせるのである。
SSDが速くなると何が変わるのか?
PS4までの感覚で言うと、SSDが速くなったところで、ゲームの起動が速くなったり、場面転換やゲームオーバーからの再スタートが速くなったりといった程度の影響しかないように思えるが、そんなことはない。“読み込みの遅いストレージメディアでも快適に遊ぶ工夫”がいらなくなるのだ。
PS4ではSSDの接続がSATAだったのに対し、PS5ではPCIe 4.0になったことで、カスタムI/Oユニットなどの効果を抜きにしても高速化が期待できる。とはいえ、カスタムSSDがその真価を発揮するのはやはりPS5専用タイトルだ。
まずは読み込み時間を軽減するためにあらかじめデータを読み込んでおくバッファを確保する必要がなくなるため、メインメモリをより広く使えるようになる。PS5では16GBとメインメモリの容量が倍増しているが、そのメモリ空間をより効率的に使えるようになるのである。
また、一度に読み込むデータ量を小さく抑えるために遠景のテクスチャーデータを簡略化したり、あるいはゲーム内のフィールドを小さな空間で分割したり、はたまたゲームオーバーからのリスタートで長い読み込み時間を意識させないためのTIPS表示を表示したりといった細かな工夫が必要なくなるだろう。
つまり、PS5では標準で高速なSSDが搭載されていることにより、単にゲーム起動時などの待ち時間が短縮されるだけでなく、開発者のムダな苦労が減っている。同時にゲーム開発のセオリーが変わり、少し大げさに言うならばゲーム体験が大きく変わってくるかもしれないのだ。
果たしてCerny氏が言うほどの違いをPS5のSSDは本当に生み出せるのかは、非常に気になるところではある。ぜひとも注目していきたい。
PS5とPS4 Proのロード時間比較動画が公開中
ファミ通.comの公式YouTubeチャンネルでは、PS5と標準状態のPS4 Proを使った読み込み速度の比較動画が公開されている。サンプルタイトルは『スパイダーマン:マイルス・モラレス』(PS4版/PS5専用版)と『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』(PS4版)。
当然のことながら、PS4 ProのHDDよりもPS5のSSDのほうが読み込みが速いため、PS4版の2タイトルをPS5でプレイした場合は、読み込み時間は短縮される。
ただ、Cerny氏の説明はあくまでも理論値であり、また、圧縮アルゴリズムの違いやPS5のハードウェアを考慮したプログラミングがなされていない点など、各種の制約がある。Cerny氏の言葉通りに何倍にもスピードアップするわけではないが、PS5用に開発されたタイトルではなくとも一定の効果はあるようだ。
PS5専用版『スパイダーマン:マイルス・モラレス』ではリスタート時にCerny氏の言葉通りにTIPSが表示されない。読み込み時間が短く、そこで感じるストレスを誤魔化す必要がないためだ。リスタートはとても快適。
【PS5】話題の爆速SSDの実力は!? PS5 vs PS4 Proロード時間比較
11月12日発売の週刊ファミ通でPS5を特集!
週刊ファミ通 2020年11月26日号(11月12日発売)では、いよいよ発売されるPS5を特集する。
いままでのゲーム機を遥かに凌駕するその性能や、それがもたらす次世代のゲーム体験を、開発者のインタビューを交えながら徹底解説。PS5でできること、遊べるタイトルなど、週刊ファミ通を読めばすべてがわかる!
週刊ファミ通 2020年11月26日号の購入はこちら (Amazon.co.jp)