【特別企画】『新サクラ大戦』新たな物語を生んだ男たちが語る!――イシイジロウ氏×鈴木貴昭氏×寺田貴治氏クロストーク

新サクラ大戦』の物語について、イシイジロウ氏(ストーリー構成)、鈴木貴昭氏(脚本)、寺田貴治氏(シリーズディレクター)のお三方にお話を伺いました。

公開日時:2019-11-28 12:00:00

そして新たな舞台が幕を開ける……!

 多くのファンからの熱い声に応え、『サクラ大戦』シリーズの完全新作『新サクラ大戦』が14年の時を経て始動し、ついに発売の時を迎える。この連載では、同作に関わるさまざまなキーマンに話を伺ったり、プレイインプレッションを通じて『新サクラ大戦』の魅力を紐解いていく。

 第2回は、本作の物語を作り上げた方々にお話を伺っていく。『サクラ大戦V ~さらば愛しき人よ~』から12年後の世界を舞台に、キャラクターを一新し、新たな物語が紡がれていく本作。それはいかにして生まれ、完成していったのか……?

 ご登場いただいたのは、イシイジロウ氏(ストーリー構成)、鈴木貴昭氏(脚本)、寺田貴治氏(『サクラ大戦』シリーズディレクター)のお三方。シナリオ発売前とあって、ネタバレを避けながらではあるものの、本作への期待がさらに高まるような興味深いお話をたっぷりと語っていただいている。ぜひ最後までご覧いただきたい。

KO7_5709

イシイジロウ氏(写真右)
ストーリーテリング代表。『428 ~封鎖された渋谷で~』(総監督)、『文豪とアルケミスト』(世界観監修)など多数のゲーム作品のほか、アニメ『ブブキ・ブランキ』(シリーズ構成・脚本)、アニメ『モンスターストライク』(ストーリー・プロジェクト構成)、舞台『龍よ、狼と踊れ』(原作)など多彩な作品を手掛ける。

鈴木貴昭氏(写真左)
脚本家。軍事考証・世界設定にも定評があり、『ストライクウィッチーズ』、『ガールズ&パンツァー』、『LAST EXILE』など数多くのアニメ作品を手掛ける。

寺田貴治氏(写真中央)
セガゲームス所属のゲームクリエイター。『サクラ大戦』シリーズディレクターとして、ファンには“T隊長”の愛称でおなじみ。

新サクラ大戦』につながった“世界的エンターテインメント大革命の潮流”

――『新サクラ大戦』には、イシイさんがストーリー構成、鈴木さんが脚本としてクレジットされていますが、具体的にはどのようなお仕事を担当されたのでしょうか?

イシイジロウ氏(以下、イシイ) おもな作業としては、セガゲームスさんからいただいた企画案を物語に落とし込む、プロット作りと呼ばれることをしていました。具体的には「全○話で、1話ではこういうキャラクターが出てきて、こういうことをして……」ということをまとめる、と言うとわかりやすいでしょうか。

 あとは、出来上がってきた脚本をチェックして、そのプロットとズレがあればそれを話し合って調整していく……なんてこともしています。また、アニメやマンガ、その他のメディアミックスについては、『新サクラ大戦』の世界観をどのように展開するか、ストーリー担当として参加していたりします。


鈴木貴昭氏(以下、鈴木) 僕はイシイさんが書かれたプロットをもとに、いわゆるアニメのシナリオ形式に落とし込む作業をしました。ゲーム全体の制作段階としては、ゲームに入っているシナリオの一歩手前に当たるものになります。プロットには個々のセリフだったり、細かいシーンについては書かれていないので、そういったものを書き起こしつつひとつのお話を作り上げていきました。

――そもそも、イシイさん、鈴木さんにはどのような経緯でオファーすることになったのでしょうか。

寺田貴治氏(以下、寺田) 大前提として、これまでとは違うパーソナリティーを持った方を起用したかったという思いがありました。同じような作風の方を起用するのだったら、続投してもらえばいいわけですし。

 それを前提にスタッフ間で話し合って、ストーリー構成として名前が挙がったのが、イシイさんでした。ロジカルな展開からミステリー系、ヒーローものも書ける作風の幅広さが決め手になりましたね。

 一方で脚本に関しては、これまで担当してくださっていた方々は歴史や軍事用語関係にも明るくて、それが条件のようなものになってしまってハードルがものすごく上がっていたんです。僕も「まさかそんな都合いい人材がすぐに見付かるわけないよな」と思っていたら、すぐに鈴木さんの名前が挙がって(笑)。

イシイ 最初にオファーをいただいたときのメモを見返すと、2016年2月9日、代々木のとある喫茶店でした。その時期は『ブブキ・ブランキ』のアフレコなどで忙しく、この日しか空いていないと話したら、「緊急で会いたいのでその日に行きます」と言われて。喫茶店でしゃべっても大丈夫な話なのかなと心配していたのですが、いきなり大丈夫じゃない話が出てきてビックリしました。

鈴木 僕が参加したのはもう少し後で、最初「軍事考証をお願いできないか」ということで声を掛けていただいたんです。それから何度かやり取りをしながら企画が固まっていったのですが、ある日突然「脚本も書いてください」と言われて……。もちろん引き受けましたが、内心「おいおい、話が違うぞ」と思っていました(笑)。

――そんなに早くから動き出していたんですね。その時点では、作品の内容はどこまで決まっていたのでしょうか?

イシイ 最初にお話をいただいた時点では、まだキャラクターデザインを始めとしたメインスタッフや具体的な企画も固まっていなくて、話の骨子としては「『サクラ大戦』を復活させるために、いっしょにアイデアを出してもらえないか」ということでした。

KO7_5593

寺田 その後1、2週間でイシイさんにストーリーのプロットを書いていただいて、会社の企画会議も通って、『サクラ大戦』の復活自体はそこで決まりました。ただ、そのストーリーはボツになってしまい、一度案を練り直しています。その後2016年11月ごろに“世界華撃団大戦編”というアイデアが生まれて、形になっていった感じですね。

――そうだったんですね。ストーリー制作においてとくに注意して進めていたことはありますか?

イシイ 前作から地続きの世界であるがゆえに、さまざまな制約はありました。

鈴木 そのうえで、今回は“華撃団”という組織が影のものではなくなり、人々にオープンになっているという大きな変化が生じていたのも大きいですね。その結果、現在の世界はどのような体制になっているのかだけではなく、整合性を取るためにそこに至るまでの経緯なども考える必要が出てきたので。

寺田 人や組織だけでなく、霊子甲冑がどのタイミングで霊子戦闘機に移行したのか、など技術的な進化もありますからね。

イシイ その一方で、ヒロイン以外のサポートキャラクターなどについても設定していくとなると、情報量が膨大になりすぎてしまって、新しいユーザーが入ってこられなくなってしまうというジレンマがありました。そのため、少なくない部分で“あえて触れない”という選択をしています。

――切り捨てたのではなく、今回の物語を集中して味わってもらうために触れなかった、ということですね。それにしても、華撃団がオープンな存在になったというのはかなり大きな変化ですね。

イシイ 僕はそのこと自体は、世界的なエンターテインメント大革命の潮流に乗った、ポジティブな変化だと捉えています。ここ十数年で世界のヒーロー像は劇的に変化していて、かつてのウルトラマンや仮面ライダーといった“正体不明の存在”ではなく、映画『アイアンマン』で登場し、その後『アベンジャーズ』シリーズなどで定着した“正体を隠さない、オープンな存在”が席巻しているんです。だから今回のこの設定はまさに英断だったと考えています。設定を作り直すのはたいへんでしたが(笑)。

寺田 われわれもそこまで深く考えて提案したものではなかったのですが(笑)。ただ、隠密部隊としての物語はもう書き尽くしてしまっていて、そこに大きな変化がないと新たなエピソードが生まれないと思ったんです。

描くのが難しかったキャラクターは……

――その中で、個々のキャラクター設定で気を付けたことはありますか?

寺田 神山を、過去作の主人公・大神と同じようなキャラクターにしないことには、かなり気を配ったと思います。

神山

鈴木 大神は非常に強いキャラクター性を持った男なのですが、それでいてハーレム構造になっても嫌われずに皆に愛された、希有な存在でもありますよね。『サクラ大戦』の後、数々のハーレム系作品が登場しましたが、大神は群を抜いて愛されたキャラクターでしたから。そんな彼と神山でどのように違いを出していくかは、シナリオ執筆のうえで最大の障壁となりました。

――とはいえ神山と大神は、置かれている状況はもちろん、士官学校を首席で卒業した海軍のエリートという出自もどこか似ていますよね。

鈴木 そこで出てきたのが、士官学校を卒業してすぐに帝国華撃団にやってきた大神と違い、特務艦の艦長まで務めたという背景です。そもそも海軍の軍人は船に乗ってナンボという矜持があるのですが、それが陸上勤務を命じられたということはどういう事情があったのか? そこに鬱屈したものを感じているのではないか、と。その立ち位置に据えることで大神とは異なる人物像が出来上がりました。

 ただ、それだけではつまらない人間になってしまうので、もともとの性分としてサバサバした一面を加えることで、主人公らしいニュートラルなキャラクターにできたと思います。

KO7_5605

寺田 あとは、大神が堅めのキャラクターだったので、神山にはくだけた一面を持たせるなどして、親しみやすく描いてもらいました。動画でも「俺と結婚してくれぇぇぇ!」などコミカルな部分が観られますよね。結果として、初めにビジュアルのみを発表したときは「ただのイケメンか」と言われていたのが、いまでは皆さんに気に入っていただけるようになりました。だいぶ苦労しましたが、キャラクター作りはうまくいったかなと思います。

――神山はかなりの難産だったようですが、ほかにたいへんだったキャラクターはいましたか?

寺田 やはり、すみれと夜叉は難しかったですね。今回の設定を作るにあたって、彼女たちは当初と現在とで話しかたもずいぶん変わりました。すみれはもう少し司令官ぽい雰囲気でしたし、夜叉はもっとクールなキャラクターとしてスタートしています。

夜叉

鈴木 今回、すみれのキャラクター作りをする際、僕は帝劇のトップになった彼女が立ち居振る舞いの参考にすべく意識するのは、(旧シリーズに登場した)米田ではなく藤枝あやめだろうと考えていました。団員、隊員に対して、家族としてときにはきびしく、ときにはやさしく接し、新米隊長に対しても母親のように相対する姿が意識の根底にあるのではないか。そして、あえて自分を殺しあやめのように振る舞うだろうと。

寺田 しかし、アフレコで富沢美智恵さん(神崎すみれ役)や横山智佐さん(夜叉役)から、“自分が声をあてる意味”を説かれたり、より深い打ち合わせを重ねたりしていくことで、設定を大きく変更し、現在のような形に落ち着きました。

イシイ 僕や鈴木さんは、脚本を納品し終わった段階でゲームの制作からは離れていたので、アフレコですみれや夜叉がどう変わったかを知ったのはだいぶ後になってからだったのですが、相当変わりましたね。

 実際に変更されたセリフを見て、「(キャストの)肉体を通すとこういう形になるのか」と、キャストも一体となってキャラクターを作り上げてきた『サクラ大戦』の歴史の分厚さを感じました。おかげで彼女たちのキャラクターをより深く掴むことができたので、漫画版やアニメでは僕の中の設定をアップデートして臨んでいます。

すみれさん

華撃団はほかにも……? “神山―さくら―初穂”の関係性にも注目

――世界各地の華撃団についても伺いたいのですが、上海、倫敦、伯林の3都市が選ばれたのはどういった経緯からなのでしょうか。

寺田 上海は、もともと旧シリーズでも候補地として出てきていた都市だったんです。伯林は『サクラ大戦』の世界観的につながりが強く、(旧花組の)レニの“ヴァックストゥーム計画”が行われていた場所でもあります。そういった背景もあって、“いちばん強い華撃団”ならここだろうということで決まりました。

 この2都市はすんなりと決まったのですが、もうひとつがなかなか決まらなかったんです。そんな中、他の都市よりも華撃団としての特徴がより強く出せるところがいいということで、“円卓の騎士”のイメージが強い倫敦が選ばれました。

伯林

イシイ この3都市以外は具体的にゲームでは描かれませんが、華撃団大戦には世界の予選を勝ち抜いた8つの華撃団が参加していますし、予選で敗れた華撃団もたくさんあります。ちなみに、帝国華撃団は開催国として参加しているという形です。

――今回のストーリーの、序盤の見どころを教えていただけないでしょうか?

イシイ 序盤は、道具も武器も揃っていない、メンバーも足りないダメ華撃団が、努力を重ねてどんどん強くなっていくさまを見守るのが気持ちいいと思います。街の人々の反応も最初は冷たいものですが、だんだんと励ましに変わっていきます。

寺田 個人的な見解なのですが、『サクラ大戦』では、序盤の女の子が主人公になびいていない状態のときがいちばんおもしろいと思っているんですよ。クラリスに話し掛けて「とんでもないところの隊長になってしまいましたね」と冷たく言い放たれるのも、第1作の序盤ならではです。

クラリス

――ファンのあいだでは、あのクラリスの塩対応が好評のようですね(笑)。

寺田 最初のうちは、何を言ってもネガティブな反応しかしてくれませんからね。でも、そんなクラリスがキャラクターエピソードを経て“俺にべったり”になってくれるわけですよ!

鈴木 いよいよ語り始めたぞ(笑)。

寺田 そこがこの作品のいいところのひとつですから! ちなみに、ストーリーが進むとクラリスに押し倒されてしまうなんてことも……。

(一同笑)

KO7_5662

寺田 神山とさくらの幼なじみという関係は、いままでのシリーズにはない設定で、新鮮に感じられるかもしれませんね。

イシイ 愛情ということだけでなく、そのふたりの関係性もおもしろいですよ。神山に足りないものをさくらが、さくらに足りないものを神山が持っている……という場面を序盤から見られるのですが、この“補完し合う”関係はこれまでなかったものです。

鈴木 もうひと組、さくらと初穂も幼なじみであり、補完し合う関係でもあります。しかし、神山と初穂はもともとの知り合いではないんです。さくらを軸にふたつの関係が交錯するわけですが、その中での初穂の態度の取りかたなども見どころのひとつです。

寺田 初めは神山と初穂も幼なじみにする案も出ていたのですが、幼なじみが増えすぎると、ひとつひとつがぼやけてしまうので採用しませんでした。もっとも、最初から関係値の良好なキャラクターがいると、物語を引っ張ってもらえるというメリットもあるので、少し悩んだんですけどね。

初穂

――最後に読者へひと言ずつメッセージをお願いします。

イシイ  “14年振りの『サクラ大戦』の復活”というテーマに向き合った作品でもあります。それを待っていた皆さん、初めて遊ぼうという皆さんにどう受け入れられていくか、戦々恐々としているところもあるのですが、皆さんといっしょに楽しみたいと思います。

鈴木  『サクラ大戦』は、いろいろなものに対して真っ正面から向き合った“王道”の作品だと思っています。われわれもお客さんに対して真っ正面に向き合ったつもりですので、ぜひお手に取って楽しんでいただければと思います。

寺田 シリーズファンの方だけでなく、新しく手に取ってくれるファンの皆さんに向けて作ってきました。『サクラ大戦』シリーズが受け継いできた思想やメッセージ性など、その魅力はシナリオの中に込めたつもりです。そんなスタッフの熱も感じてもらえたらうれしいです。

KO7_5668

この記事の個別URL

『新サクラ大戦』公式サイト

『新サクラ大戦』購入案内

『新サクラ大戦』2019年12月12日(木)発売

タイトル
新サクラ大戦
メーカー名
セガゲームス
価格
通常版・ダウンロード版 8800円[税抜](9680円[税込])
初回限定版・デジタルデラックス版 14800円[税抜](16280 円[税込])
ジャンル
アクション・アドベンチャー
CERO
15歳以上対象
備考
メインキャラクターデザイン:久保帯人、ゲストキャラクターデザイン:堀口悠紀子、BUNBUN、島田フミカネ、杉森建、いとうのいぢ、副島成記、音楽:田中公平、ストーリー構成:イシイジロウ、原作:広井王子、脚本:鈴木貴昭、キャラクタービジュアル設定:工藤昌史、メインメカニックデザイン:明貴美加、プロデューサー:片野 徹、ディレクター:大坪鉄弥、製作総指揮:里見治紀

©SEGA