謎を作る人は、謎を作る人が好きなのだと思います。

 おもしろい謎があれば解かずにはいられない。そんな人どうしの会話はやっぱり弾みます。

 自然と事件が発生し、謎がさらなる謎を呼び……という物騒なことはなかったものの“謎”にまつわるさまざまな会話がくり広げられました。

 2023年7月2日(日)、東京・新宿の“東京ミステリーサーカス”にて『ゴースト トリック』発売記念のトークイベントが行われました。本稿ではその模様をリポートします。

 これは本作の限定特装版である“『ゴースト トリック』謎解きキット トリツキBOX”をリアル脱出ゲームで有名なSCRAPが制作しているという縁によるもので、登壇者は以下の通りです。

  • 『ゴースト トリック』生みの親である巧舟氏
  • SCRAP代表取締役の加藤隆生氏
  • 女流棋士の香川愛生さん(司会)
『ゴースト トリック』巧舟氏とSCRAP加藤社長の対談が実現。デジタルゲームとリアル脱出ゲームの“ナゾ”作りにおける決定的な違いとは
SCRAP加藤隆生氏(左)、カプコン巧 舟氏(右)。
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司会を務めた香川愛生さん。

 1Fのイベントスペースに大勢の立ち見の方が出るほどに超満員となった会場では、 “解かせるためのナゾ”を考えるふたりのクリエイターが互いの創作観を語ったり、“謎解きキット トリツキBOX”制作秘話が明かされたりしました。

 なお、壇上イベントでは『ゴースト トリック』開発の経緯やリマスター版発売のいきさつも語られたのですが、ファミ通.comにて掲載中のインタビュー内容と重複する部分については割愛しておりますので、そちらの内容も気になる方はファミ通.comの関連記事をチェックしてください!

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“謎解きキット トリツキBOX”のプレイは必ずゲーム本編プレイ後に

――改めまして、『ゴースト トリック』リマスター版ならびに“謎解きキット トリツキBOX”の発売おめでとうございます。おふたりは今回のコラボ以前にもいっしょにお仕事をされたことがありますよね?

加藤そうですね。『大逆転裁判 -成歩堂龍ノ介の冒險-』とのコラボですかね、最初にやらせていただいたのは。

巧舟あれは2015年だったので……もう8年も前ですね。じつは、その前に一度、お話をしたことがあるんですよね。

加藤共通の知り合いをたどって、お食事に行かせていただきました。

 巧さんにたどりついたのは、「僕は『逆転裁判』が好きだ」と言い続けていたら届いたんですよね。だからみなさんも言ったほうがいいですよ。その結果、大好きなゲームを作った人といっしょにご飯を食べて、仕事もできていますからね。

――『ゴースト トリック』とSCRAPのコラボ、“謎解きキット トリツキBOX”の制作はどのような経緯で決まったのでしょうか?

加藤これはもう本当に単純で……カプコンさんから弊社にお声掛けをいただいて、「ぜひやらせてください!」って返して決まったという(笑)。

――『ゴースト トリック』はすでにプレイしていらしたと?

加藤それはもちろんです。

 個人的にも大好きなゲームで。こういう企画が持ち上がったとき、社内で「やりたい人?」と聞くんです。

 そのときひとりでも「やりたい」という手が挙がったら実現に向けて進んで行くんですけど、『ゴースト トリック』の場合は「やりたい人?」と聞いたら7人くらいの手が瞬時に挙がりまして……。

 初期のころはやりたい人が多すぎて、逆に企画がまとまりませんでしたね。大人気でした。

――これはうれしいお話ですよね、巧さん。

巧舟うれしいですね(笑)。今年の始めくらいに最初の資料が送られてきて、「あれ、もうできてるんだ」と思ったんですけど。

 あの段階までに時間が掛かっていたのですか?

加藤そうですね。でも最終的には本当に完成度の高い、“もうひとつの『ゴースト トリック』”と言えるくらいのものになったと思っていますので、アナログであの感じが出せたというのは、僕はひとつの正解だったなと思っています。

巧舟結果的に傑作ができたと思いますね。

加藤あ、これは声を大にして言っておきたいんですけど、“謎解きキット トリツキBOX”はゲーム本編を遊ぶ前に絶対開けちゃダメです。

 開いて2秒で本編のネタバレがありますから。人生の大切な驚きがひとつ減ってしまうので、絶対に本編をプレイしてから開けてください。

『ゴースト トリック』巧舟氏とSCRAP加藤社長の対談が実現。デジタルゲームとリアル脱出ゲームの“ナゾ”作りにおける決定的な違いとは

――制作過程についてもう少し詳しくお伺いしていきたいのですが、“謎解きキット トリツキBOX”はどのような工程で生まれたのでしょうか。

加藤僕のほうは、社内で企画書があがってきて「いいんじゃない」と通して、サンプルがあがってきて「いいんじゃない」と、巧さんのところに監修のお願いを送ったんです。

 すると、とんでもない量の赤(修正)が入った状態で返ってくるっていう……。

巧舟SCRAPさんとは何度目かのコラボになるのですが、僕はSCRAPさんとものを作るときは毎回戦いに行ってますね。勝負というか。

 「こうすればもっとおもしろいのでは? このキャラクター出しませんか? こんなオチは?」と、遠慮のカケラもない意見をぶつけます。

 今回も、最終調整期間には問い合わせのメールを連日10通ずつ送りつけたりしてました(笑)。返事がなくても送りますから。そちらのディレクターの方、嫌がってませんでしたか?

加藤いやいや、泣いて喜んでましたよ。

巧舟もしかしたら、別の意味で泣いていたのかも(笑)。

 SCRAPさんは「これは無理かな?」と思うこともキチンと受け止めてくれるので、いっさい遠慮しないことにしています。今回も、もちろん謎については全面的にお任せしていますが、設定や物語は、コンセプトの段階から参加してあれこれ言ってますね。キットのタイトルもいただいた案は『あるおもちゃ工場からの脱出』だったのですが、そこに『からの脱出』をつけ加えてみたり。

加藤関わりかたとしては“監修”と言うより“原作”という表現のほうが近いかもしれないですね。

 こちらから渡すシナリオにビッシリと赤を入れていただいて戻してもらったというレベルなので、キットのなかに書かれている言葉が、もう“巧さん”なんですよ。

 一読すればわかるというレベルじゃなくて、ひと目でわかる。デザインとして“巧配列”になっているので、本編がお好きな方はそこでも興奮していただけるんじゃないかなと思います。

巧舟ぼくが最終的にシナリオの文章を調整するのは、『大逆転裁判 -成歩堂龍ノ介の冒險-』のコラボリアル脱出ゲーム『倫敦大法廷殺人事件』のときからの伝統ですね。新作が生まれるみたいで、僕自身も楽しいです。

加藤あのときはうちのライターが書いて出したものが、まったく違うものになって返ってきたんですよ。そのとき考えていただいたセリフに「こんなに幸せな敗北があるだろうか」というセリフがありまして。

 本当にすばらしい脚本でそこにぴったりとハマる謎があって。『倫敦大法廷殺人事件』も機会があればぜひ遊んでみてください。

巧舟リアル脱出ゲームはリバイバル上演もありますからね。

加藤東京や大阪に限らずいろいろな地方でたくさん開催して、開催しては逃げたりという戦法でやっています。

巧舟なんで逃げるんですか(笑)。

加藤社長が語る、『ゴースト トリック』の“脚本のなかにシステムを持ち込む”ということ

――加藤さんがオリジナル版の『ゴースト トリック』をプレイされたのはいつごろなのでしょうか。

加藤ニンテンドーDS版の発売当初ですから、2010年ごろですね。

――『逆転裁判』を作った巧さんの新作ということで、実際にプレイしてみていかがだったのでしょうか。

加藤本人の前で言うのも緊張するんですけど……子どものころからアドベンチャーゲームが好きでプレイし続けていて、初めて『逆転裁判』をプレイしたときに、「こんな豊かな選択肢があるんだな」って思ったんですよね。

 自分の考える正しい選択というのがわかって、それを選ぶことのできるというシステムが完成されていました。だからこそ続編タイトルが、その完成されたシステムの上にどんどん続いていったわけですよね。

 『ゴースト トリック』をプレイするときに少し不安は感じました。あの『逆転裁判』のシステムを超えるものがこの世にあるはずがないっていう。

 そう思っていたんだけど、実際に『ゴースト トリック』をプレイしてみて思ったのは、システムと物語が融合しているということ。“トリツク”とか“アヤツル”とか、なぜそんなことができるのかというシステムが、物語のなかで全部説明されているんですよね。

 こんなすごいものがあるのかと衝撃を受けました。だから僕は、社内で「ゲームシステムって何ですか」と聞かれたときには『ゴースト トリック』をプレイするようオススメしています

――教材としても価値があるとのことですが、いかがですか巧さん。

巧舟それはもう、うれしいです。何しろアノSCRAPさんですから。『ゴースト トリック』は、企画コンセプトとして“パズルを解くなかで同時にストーリーを進行させる”という狙いがあったので、それを感じ取ってもらえるのはうれしいですね。

――いちプレイヤーとしても、きれいにまとまっていると言いますか、ストーリーを読むだけで完結する、みたいな部分は感じられます。

巧舟作り手としても、ああいう形で完成したのは奇跡だと思います。どうしてあんなものができたのか分からないというか。

――奇跡。

巧舟割とよくあることなんですけど。

――よくあること。

加藤ちょっと! いま聞き捨てならないひと言がありましたよ!(笑)。「奇跡」と言った後に「よくあること」とか言ってましたけど。

巧舟あれ。確かに(笑)。

 でも、考えてみるとそうなんですよね。ゲームを作っていて……自分の限界を超えるものを目指してがんばっていると“奇跡”が起きることがあるんですよね。それはやっぱり、ゲームはひとりで作るものではなくチームの共同作業だから、そこで自分の発想を超えたひとつレベルが上のものが生まれるのだと思います。

 これまで何度かそういうことがあったので、「奇跡だけどよくあること」だと(笑)。また、それがないと、奇跡で生まれた前作を超えることができないし。

『ゴースト トリック』巧舟氏とSCRAP加藤社長の対談が実現。デジタルゲームとリアル脱出ゲームの“ナゾ”作りにおける決定的な違いとは

――加藤さんは『ゴースト トリック』をプレイしてみて、お気に入りのシーンなどはありますでしょうか。

加藤ネタバレになるので詳しくは言えないのですが、パッと映像で思い浮かぶのは刑務所の脱獄シーンですね。あの、コロコロコロ……って転がるやつ、かわいいですよね。

巧舟あのコロコロ、じつは元ネタがあるんですよ(笑)。昔スーパーファミコンで遊んだ『アウターワールド』というゲームなんですけど。

※……1991年にフランスで発売された高難度のアクションアドベンチャーゲーム。日本ではスーパーファミコン、メガドライブ、Nintendo Switchなどに移植されている。

――それは巧さんも実際にプレイされて?

巧舟はい。カプコンに入社したころに同期のみんなで大騒ぎして遊びました。神谷英樹もいましたね。みんなで死にまくった、思い出のゲームです(笑)。

加藤そして、ものすごく感動して心動かされたのは、一度クリアーしたあとで2周目をプレイし始めて2分くらい経ったあたりのところです。シナリオテキストを読んで「1文字も矛盾なく“そう”だったんだな」と気づくんですよ。

『ゴースト トリック』巧舟氏とSCRAP加藤社長の対談が実現。デジタルゲームとリアル脱出ゲームの“ナゾ”作りにおける決定的な違いとは

――ああ~(納得げな表情)。巧さんも、『ゴースト トリック』のシナリオはそういった2回目のプレイで気づくことを想定して作られた、ということですよね?

巧舟そうですね。さすが加藤さん、いいところを突いてきますね(笑)。冒頭に仕掛けるのが好きで、『逆転裁判』の第一作でもそういう企みがありますね。

加藤世の中にはゲームの2回目を遊ばない人がたくさんいるとは思うんですけど、『ゴースト トリック』は、騙されたと思って最初の5分だけでもいいから、2周目をプレイしてほしいです

巧舟最初の5分と言わず、ぜひ2周目も最後まで遊んでいただきたいです(笑)。

加藤そうですね、2周遊んで、その後にトリツキBOXで遊んでいただくということで(笑)。

『ゴースト トリック』巧舟氏とSCRAP加藤社長の対談が実現。デジタルゲームとリアル脱出ゲームの“ナゾ”作りにおける決定的な違いとは

巧舟氏とSCRAPの脱出ゲーム

――巧さんはSCRAPさんの脱出ゲームを遊ばれたことはあるのでしょうか。

巧舟当然、いっしょに仕事をする前からSCRAPさんは知っていたのですが、僕が初めて遊んだのはリアル脱出ゲームじゃなくて書籍のほうだったんです。脱出ゲームブックというシリーズなんですけど。じつは僕、『大逆転裁判 -成歩堂龍ノ介の冒險-』制作の終盤に、人生で初めての入院をしてしまいまして、そのとき後輩がお見舞いに持ってきてくれたんです。

 それが、あの忘れもしない、『十人の…… なんだっけ?

加藤『十人の憂鬱な容疑者』ですね。

巧舟そう、それ。『十人の憂鬱な容疑者』!

加藤ちゃんと覚えておいてくださいよ! さっき楽屋で話したときはちゃんと覚えていたじゃないですか(笑)。

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巧舟まあまあ(笑)。とにかく、遊んでみたらすごくおもしろくて。

 すかさず「もう一冊!」ということで、買いに走ってもらって(笑)。立て続けに『人狼村からの脱出』を遊んだんですよ。

 アナログの本だからこそできる仕掛けというか、実際に手に取って触って解く感覚が斬新で。昔からあるゲームブックと違ってものすごく進化しているなと感じました。ちなみに、これをクリアーしたのが退院の日の朝だったという(笑)。 

加藤こちらとしてもうれしいお話ですね。最初に巧さんにお会いしたとき、確かに「ゲームブックがすごく好きだ」と褒めていただきまして。

 でも続けざまに「いや~病院で遊んだんですよ」って朗らかに言われたから、いったいどういうことなんだと(笑)。

巧舟そしてその2年後、『大逆転裁判2 -成歩堂龍ノ介の覺悟-』制作の終盤にじつは人生で二度目の入院をしたんですけど、そのときはもう最初から『ふたご島からの脱出』ともう1冊をカバンに詰めこんで、準備万端で入院しました。

加藤そうそう。「SCRAPさんには入院するたびにお世話になってます」と言われて、喜んでいいのか、悪いのかと(笑)。

巧舟病室って、外界から隔絶された世界なので、ものすごく集中できるんですよね。

――そんな巧さんに、加藤さんがいまオススメしたい謎解き、脱出ゲームはありますか?

加藤そうですね、ミステリー文脈で言えば、道尾秀介さんという稀代のミステリー作家と作った『DETECTIVE X CASE FILE #1 御仏の殺人』っていう、ゲームというか小説というか、とにかく捜査資料がパンパンに入った箱がありまして。その箱を開けると、供述調書やら当時の事件概要やらがどっさり入っているんですよね。それを見ながら事件の真相を探るっていう捜査キットがあるんですけど、そちらはぜひ遊んでいただきたいですね。

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巧舟氏と加藤社長の謎解き、脚本への向き合いかた

――巧さんの作品に登場するキャラクターは、ひとりひとりにエピソードが盛り込まれていて、悪役でも憎みきれないほど魅力的ですよね。加藤さんはどのように感じますか?

加藤“キャラクターがミステリーを織りなしていく”ということに僕も以前は気づいていなくて、巧さんに本を貸してもらったことがあるんですよね。

 「これが“キャラクターがミステリーを織りなす”ということの原点です」と言って渡されたのが『七人のおば』という本。性格も個性も違う7人のおばがいて、それぞれのおばたちの会話とか、ちょっとした日常の事件が起こるなかで、最終的に誰が何をしたのかがわかる……という。

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加藤プレイしているときはあまりに自然だったので気づかなかったんですけど、キャラクターがミステリーにおける仕掛けのひとつとして配置されているという作品でして、読み終えた後、内容を振り返ったときに「こんなに緻密に計算されていたんだ」と思いましたね。

巧舟僕の場合すべてをミステリーの発想で作っているので、キャラクターを考えるときも謎を持たせるよう作るわけです。だから、最初に見えていたものがちがう意味に変わるように仕掛けとして組みあげていく。

 必然的にキャラクターに二面性が生まれることになるわけですね。表の顔と裏の顔が出てくるというか、それはすべて根本にミステリーの考えかたがあるからだと思います。

――巧さんの作るゲーム、シナリオには、ふつうにプレイしていたら通らないところにもキャラクターの掛け合いや小話が配置されていますが、そういった遊び心のような部分はどういった思惑で作られているんでしょうか。

巧舟確かに『ゴースト トリック』にもそういう部分があるので、メインの物語を進めながら寄り道もしていただけたらうれしいですね。

 たとえば『逆転裁判』で言うと、調査をする場面で証拠品を手に入れるために現場を調べますよね。そこでハズレの場所を調べてしまったときの反応がつまらなかったら、プレイヤーにとって“試すこと”がおもしろくなくなってしまうんですよね。そうなると、ただ失敗を避けるプレイになってしまう。

 でも、もしそこでおもしろいことが起きたら「ハズレを引いても楽しいから、いろいろやってみようかな」と思えるじゃないですか。

 だから、じつはハズレのときこそおもしろいことが重要だと思いますね。ここで手を抜くと、ゲームのクオリティに関わるというか(笑)。

『ゴースト トリック』巧舟氏とSCRAP加藤社長の対談が実現。デジタルゲームとリアル脱出ゲームの“ナゾ”作りにおける決定的な違いとは

――おお、なるほど。これはデジタルゲーム特有のものなのでしょうか。加藤さんは、SCRAPの謎解きで、プレイヤーがハズレの推理をしてしまったときはどのようにしているのでしょうか?

加藤SCRAPの謎解きの場合、推理を間違えてしまうとカギが開かないだけなので……。

会場 (笑)。

加藤我々は間違いに対して残酷に沈黙を貫きます。だからいまの「ハズレのときこそおもしろく」というお話は刺さりましたね。

――巧さんのゲームはなるべく多くの人にクリアーしてもらおうという作りで、SCRAPの謎解きはみんながギリギリ解けるか解けないか、という瀬戸際な作りをしていると思うのですが、いかがですか?

加藤僕の場合、「大丈夫だよ~簡単だよ~」と誘ってからプレイしてもらって「はい、ダメでした」と振り払うようなゲームの作りをしているので……。

 きちんと最後まで物語もシステムも理解したうえでクリアーさせてくれる巧さんのゲームの作りかたは、本当にすごいなと思います。

巧舟加藤さんとゲームの作りかたの話をしていて「加藤さんはどういう基準で難易度を設定していますか?」と聞いたら、「自分がギリギリ解けないレベルです」と答えが返ってきて。

 あ、ギリギリ“解ける”レベルじゃないんだ、と軽く衝撃を受けました(笑)。

加藤リアル脱出ゲームの業界では“悔しい”という気持ちがエンタメとして大事なんです。

 「つぎこそは絶対に、どんな手を使ってでもクリアーしてやる」という気持ちが熱狂を生むとも思っているので。いかに良質な悔しさを作るか、というところですよね。そういう、プレイヤーにポジティブな悔しさを与える謎というのは、徹底して計算しないと生まれないと思います。

――最後となりますが、おふたりにひと言ずつ感想をお伺いしたいと思います。

巧舟13年前にオリジナルが発売されたゲームのイベントでこれだけの人が集まっていただけるというのは本当にありがたいことです。

 『ゴースト トリック』はいつの時代にも結びつかない、ときの流れから独立したゲームなので、13年前に遊んだ方も今回はじめて遊ぶ方も、同じ楽しさを味わえると思いますのでぜひ楽しんでいただきたいです。今日はお越しいただいてありがとうございました。

加藤こうしたイベントに呼んでいただけたことも光栄ですし、巧さんとお話ができてうれしかったです。『ゴースト トリック』の続編を望む声もあると思うのですが、個人的にはあれは完成されたゲームだと思っていて、あの本編のどこかを切り取って別のゲームに、とかはできないと思うんですよ。

 続編が出るほど素晴らしいゲームというのが世にはあって、続編がパッと思い浮かばないほど完成されたゲームというのもあるんですよね。

 『ゴースト トリック』は本当にすばらしいゲームなので、リマスター版をぜひ遊んでください。“謎解きキット トリツキBOX”もよろしくお願いいたします。絶対に本編をクリアーしてから遊んでくださいね!

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トークイベント後には巧氏によるサイン会も開かれた。集まったファンは『ゴースト トリック』のパッケージなど、思い思いのものにサインを入れてもらっていたぞ。