2010年のニンテンドーDS版『ゴースト トリック』発売から13年後のリマスター移植版発売を記念して、原作版ディレクターである巧 舟氏を始め、移植版のプロデューサーである和泉真吾氏とディレクターの丸山敦史氏にインタビューを実施。

 原作版の開発経緯から移植版の実現にいたる経緯、ミサイルの思い出や“テンテコの舞”が生まれたルーツまでさまざまに訊いた。

巧 舟 氏(たくみ しゅう)

原作版『ゴースト トリック』ディレクター。『逆転裁判』シリーズの生みの親でもある。

和泉真吾 氏(いずみ しんご)

移植版『ゴースト トリック』プロデューサー。

丸山敦史 氏(まるやま あつし)

移植版『ゴースト トリック』ディレクター。

シセルが令和にヨミガエル! ファンの熱意が後押しした移植版

――カプコン40周年おめでとうございます。

一同 ありがとうございます。

――いま取材場所の会議室の前に、記念のイラストが飾られていました。

あのイラスト、日経新聞と読売新聞の一面に掲載されたんですよね。すごい!

和泉じつはなるほどくんたちの背後にしっかりシセルもいるんですよね。

――えっ……本当だ!

さすがは塗くん(※)ですね。そのあたり、抜け目がない(笑)。

※塗和也氏。『レイトンVS逆転裁判』、『大逆転裁判』シリーズキャラクターデザイン。

――さて、干支1周ぶん+1年ぶりに移植版が出るという『ゴースト トリック』ですが、なかなかすごいことですよね。まずは移植が実現した経緯から教えてください。

発売10周年あたりの時期に、いろいろな巡り合わせが重なって盛り上がったんですよね。ファンの方々が移植希望の署名活動をしてくださったり。

 当時ぼくが個人的に印象に残っているのは、アニメ版『逆転裁判』(※)が終わった後、たまたま成歩堂役の梶 裕貴さんとお話しする機会があって、「最近、iOS版『ゴースト トリック』をひさしぶりに遊ぼうとしたら動かないんですよ」と教えていただいて。

 じつは当時、OSのバージョンアップの関係で、一時期iOS版が遊べない時期があったんです。それで初めて知って、懐かしい原作版のプロデューサーである竹下(博信)さんに「『ゴースト トリック』、なんとかなりませんか」と相談してみたり。じつは竹下さんとは、そのときすごく久しぶりにお話ししたんです(笑)。そんなキッカケにもなりました。

 そういういろいろなことが影響して今回の流れにつながったのかな、と。

※テレビアニメ『逆転裁判 ~その「真実」、異議あり!~』。2016年にシーズン1が、2018年~2019年にシーズン2が放送されたゲーム『逆転裁判』シリーズを原作としたアニメ作品。

――梶さん含む熱いファンの声がカプコンを動かしたというわけですか。

和泉それは実際にそうなんです。署名活動や10周年の2020年において、移植やリメイクのご要望の声をいただくタイトルの中で2位以下を大きく引き離しての1位だったんですね。もちろん、ご要望があればどんなタイトルでも必ず移植が実現するというわけではありませんが、本作の発売についてはファンの声と熱意がとても大きな役割を果たしたことは間違いありません。

――『ゴースト トリック』は作品としても移植が行いやすかったのでしょうか?

和泉そうですね、iOS版もありましたし。『ゴースト トリック』というタイトル自体がハードを選ばない、スマホ版でもちゃんとしたプレイができますし、いまのハードに移植するタイトルとしてストーリーも遊びの部分も普遍的なおもしろさがあると。そういったこともあって移植が決定して、2021年後半くらいから開発が始まりました。

――移植・復刻版タイトルの発売にはさまざまな要素が絡み合っているということですね。

和泉すごく昔のタイトルで、そもそも復元可能な形のデータが残ってないということもあったり、さまざまな理由で移植を断念するというタイトルもありますので、いろいろといい条件が重なって今回『ゴースト トリック』を移植できたという形ですね。

iOS版が遊べなくなったと聞いたときは、「これで終わりなのかな」って思いました。「『ゴースト トリック』はこのまま消えていくのだろうか」って。

和泉スマートフォンのゲームって、OSがアップデートされたりするとさまざまなことが変わったりするんですよね。iPhoneはマルチタスク画面を表示するのに画面下端から上にスワイプする操作をしますが、『ゴースト トリック』でコアをつなぐ操作をした場合に、その操作と認識されてしまって遊びにくいということがあったと思います。

――バージョンアップによって操作感というか、操作入力に対するリアクションが違うから、ちょっとずつ調整していかないといけない、と。

和泉スマートフォンのゲームには(家庭用ゲーム機向けの売り切り型作品と異なり)同じクオリティーを維持していく保守面でのたいへんさがあるんですよね。

――時計の針を原作版発売時に戻しますと、開発は2007年発売の『逆転裁判4』の後になるのかなと思います。遊びのジャンルがけっこう変わっていますよね。

じつは、最初のアイデアを考えたのは『逆転裁判3』発売直後(2004年)でした。でも企画書を作っていたら、社内で「『逆転裁判』を海外で展開しよう」という動きが生まれ『逆転裁判 蘇る逆転』を作ることになって、その流れで『逆転裁判4』も作る……となって、『ゴースト トリック』は数年間凍結されていたんです。

 企画当初、主人公は“探偵”より“スパイ”という方向性でしたね。

――主人公・シセルのサングラスにスーツ姿は、スパイ風味の名残りなのですかね。スパイというには真っ赤で派手ですけど。

祝発売!「ミサイルは『ゴースト トリック』そのものだったように思います」。巧舟&移植版プロデューサー&ディレクターに秘話満載のインタビュー
物語開幕直後、のっけから死せる主人公・シセル。

確かに(笑)。

 また、当初の企画では、一棟のマンションを舞台にした群像劇ミステリーを考えていました。奇妙な行動をする住人たちを観察して、「なぜこの人はこんな行動をしているんだろう?」という謎の答えが住人たちにトリツクことでじょじょに見えてきて、最後にはそれがひとつの大きな真実につながっていく……というイメージでした。

――ミサイルとマダムがいるマンションのあたりとか、残り香がある感じですよね。

そうですね。とくに刑務所のステージに初期のイメージが色濃く残っていると思います。

――プロトタイプ版はそれはそれでおもしろそうですね。

おもしろそうですよね(笑)。ただ、“人間にトリツク”というコンセプトが、企画を3~4年間寝かせた後に改めて見てみると、よくある感じというか自分の中であまりゲーム的に発想が広がっていかなかったんですね。

――時間が経ったこともあって、少し考え直す余裕が生まれたと。

それで「じゃあどうしよう」となったわけですが、当初は、トリツク能力に“成長の要素”を考えていたんですね。

 最初は小さなモノしか操れないけど、成長することで、最終的には生き物や人間を操れるようになる……みたいな。その成長要素をバッサリなくして“小さなモノを操る”ということだけに絞ったらどうだろうと考えたんです。これは『逆転裁判』を作ったときに学んだことなんですけど、ゲーム作りにおいて、アイデアを広げるのはもちろん必要だけど、そこから“切る”のが大事なんですよね。

 操れる対象をモノに限定することで、たとえばステージ内を移動すること自体にもゲーム性が生まれました。これはいいんじゃないかなと。

――移動すること自体が遊びに。

これは僕のゲーム作りの師匠の教えなのですが、ゲームを考えるとき、アクションのキモになる部分、たとえば銃で敵を倒す部分とかは当然みんな考えるけど、重要なのは銃を撃ってからつぎに撃つまでの“あいだ”をどう遊ばせるかだと。

 つまり“移動”ですよね。だから、操るアクションで移動自体がゲームにできればちょうどいいな、と思ったんです。

――なるほど。成長要素もあったという、開発当初の形というのはどのようなものだったのでしょう?

当初は、プロローグで死者の能力を手に入れた主人公がそのチカラを使ってつぎつぎに事件を解決していくという『逆転裁判』と同じような短編構成のゲームを考えていました。でも、「その“死者の能力”の正体ってなんだろう?」と考えていくうちにそれを語るストーリーが長くなってきて「いっそこれを一夜の物語にしちゃおう」ということになって、現在の形に落ち着いたんです。

――日をまたがずに一夜だけの物語にしたというのは何か理由はあるのですか?

やっぱり、ユーレイは夜のイメージですから。“昼間のゴースト”は、パッとしないし。

――(笑)。けっこう紆余曲折というか、かなり細かなステップがあって作り上げられていったわけですね。

最初に能力の正体から考え始めました。ほらあの最後に出てくる……って、これは言っちゃダメか(笑)。

丸山ダメです。シーッ!(笑)

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『ゴースト トリック』ならではのパズルと動きはどう作られたか

――『ゴースト トリック』は、『逆転裁判』とはまた違った形でロジカルな推理が必要になりますよね。ギミックを考えるのは『逆転裁判』のトリックと同様に難しかったのでは?

アイデアで難航したのは、個々のギミックより、ゲーム全体のルールやシステムができるまででしたね。“死の4分前に巻き戻る”、とか“4分間のドラマを利用してパズルを解く”といった外側の部分です。実際のパズルはやりたいことがハッキリしていたのでそこまで悩まなかった気がします。

 ステージのパズルは前半はぼくが考えていたのですが、後半はパズルが得意な頭のいい企画マンが仲間入りしてくれたので非常に助かりました。僕自身が考えていたのはレストランや刑務所あたりまでですね。

丸山ああ、そうだったんですか! 移植に際して遊んでいて、あそこで結構パズルの難度とか味が変わるな~と思っていたんですよ。

僕は文系な考えかたをするので“パズルを解きながらシナリオも同時に進行する”というコンセプトで考えていました。パズルを解いている途中、密談している連中がいて、それを盗み聞くことで物語とパズルが展開して……という作りかた。後半のパズルはわりとストロングスタイルですよね。

丸山ストロングスタイルのパズル(笑)。

パズル部分についてもう少しお話しすると、後半になって新しいパズル要素が加わるんですけど、最初はその予定はなかったんです。

 前半からゲームを作っていって、後半になってパズル担当の企画スタッフが入ってきたころにちょっと手詰まりのような状態になったことがあって(笑)。今回のパズルのシステムとしてやれることはひと通りやってしまったね、ということで「何か違う要素を入れませんか」という話になったんです。そこで、“新しい死者のチカラ”というアイデアが生まれたんですね。そのときに「じゃあ、あの小動物かな」となったわけです。

――それであの小動物がより活躍することになったわけですか!

なにしろ制作チームでも大人気でしたからね。おそらく彼自身も再登場の機会を狙っていたんじゃないかな。「やってやりますとも!」とか言って(笑)。そんなわけで、かなり後半になって、めでたく復活することになりました。

 ふつうのゲームの構成で考えると、「新しいチカラ」を登場させるのなら、もっと早いタイミングだと思いますよね。でも、制作後半になってから「何か足そう!」という感じで作ったので、当時遊んだみなさんも、かなり意表をつかれたみたいですね。「ここまで来て新しいチカラか!」みたいな(笑)。

 『逆転裁判』第1作の千尋さんの件もそうでしたが、作り手自身が予期しなかった偶然で生まれたものは強烈な意外性につながる、という例がまたひとつ増えました(笑)。

祝発売!「ミサイルは『ゴースト トリック』そのものだったように思います」。巧舟&移植版プロデューサー&ディレクターに秘話満載のインタビュー

――パズルの動きもそうですけど、キャラクターのアクションも本作は特徴的です。企画当初から、ハードとしてはゲームボーイアドバンスではなくてニンテンドーDSで出す想定だったのでしょうか。

じつは当初、会社から提示されたのは別の携帯ゲーム機での展開だったんです。

 だから、2004年に作った最初の企画では、3Dをベースにした絵作りを考えていたのですが、その後ハードがニンテンドーDSに変更されたので、それなら3Dより2Dのほうがいいだろうということになりました。

――キャラクター関連は3Dで作っているのでは?

基本はそうです。3Dで作ったモーションを1枚ずつレンダリングして“絵”の形式に出力するんです。それを、パラパラマンガのようにアニメで表示しているので、最終的には2Dなんです。ちょっと特殊な方法ですね。

――あっ、てっきり3Dモデルをそのままトゥーンシェイド的な技術で2D風に見せているのかと思っていました。

とくに今回のリマスター版だとそう見えるかもしれませんが、じつは2Dで表示されていたんですね(笑)。

――ハイテクなようなアナログなような力業のような。

オリジナル版を作ったニンテンドーDSの性能では、3Dのモデルを満足のいくクオリティーで表示することができなかったんです。

 そんなとき、メインプログラマーが「いっそ2Dのアニメにしましょうか」と提案してくれまして、「そんなことできるの!」と。それで試しに作ったのがカノンとミサイルの部屋でした。

――おお、ミサイル。

祝発売!「ミサイルは『ゴースト トリック』そのものだったように思います」。巧舟&移植版プロデューサー&ディレクターに秘話満載のインタビュー
とあるマンションの一室に住むリンネとミサイル(犬)。

そのテスト版のデキが本当にすばらしかった。これはもう、この方向で行くしかない! と。

 当時、プレイヤーのみなさんが見たことがない、ニンテンドーDSだとは思えないようなゲーム画面にしたいと思っていました。せっかくの新作だし(笑)。

 ニンテンドーDSのスペックでは表示できないレベルのキャラクターがいきいきと動いているインパクトは、作っている僕たちにとっても強烈でしたね。なるべくリッチにポリゴン数を使って精密に作った3Dモデルでアクションを作って、それを縮小して表示することで「どうやって作ったんだろう」と驚くようなグラフィックが実現できました。

 当時、リッチに作りこんだ3Dモデルを使ったことが、10年経ってリメイク版を作る際に、かなり役に立ったんじゃないかなと思います。

丸山今回の移植もオリジナル版と同じ方式で制作したのですが、当時作られたリッチなデータが残っていて、高解像度化する際にとても役立ちました。

 HD版を作るにあたって、画面を高解像度化するときに、細かくて汚い画像だと粗がすごいことになっちゃうんですよね。それが今回の場合、残っていた大きなデータがもともとキレイなので、それがとてもありがたかったんです。

 ただ問題もあって、解像度が大きくなり、それ掛ける全キャラ分のコマ数と考えると、グラフィックデータがかなりの容量になってしまって。そこは苦労してなんとかなったんですけれども。じつは容量問題が生まれるくらいにすごくキレイな画像で作っていますよというのを、ここでアピールしておきます(笑)。

キャラクターの表情も描き加えたんですよね。

丸山はい。キャラクターの顔も原作版ではある程度省略されていたものが、HD版になるとすごくキレイに見えてしまうので、キャラクターの顔もぜんぶ描き直しつつ、服装のデータも実際のイラストと違うところとかを改めて描き加えたりとかして、今回の移植に合う形にしています。

個人的に心配していたのが、10年前に作ったものをそのまま高解像度化することで細かいニュアンスや味が失われてしまうことでした。でも、ありがたいことに当時オリジナル版を制作したスタッフがカプコンに残っていたので、今回リマスター版に協力してもらうことができました。

丸山そういう意味でもラッキーでしたね。

ニンテンドーDSの限られた性能だからこそ生まれた表現もありましたね。ゲームボーイアドバンスで発売した『逆転裁判』のときもそうでしたが、ハードの限界によって、いろいろなことに工夫が必要になるからこそ生まれるアイデアがあるんです。

 絵作りが2Dになったことで、もっとも制約を受けたのがカメラワークを使った演出ができないことでした。3Dならば、カメラの動きでプレイヤーの視線を誘導することができるけど、その手が使えない。

 そこで思いついたのが、スポットライトの演出です。プレイヤーに注目してほしい対象にカメラが寄ることができないのなら、いっそ謎のライトを当ててしまえと(笑)。このゲームは、基本的に“舞台劇”を見ている視点なので、この演出は効果的な発明だったと思います。自分でも気に入ったので、以降の『大逆転裁判』シリーズでも存分に使っていますね。

祝発売!「ミサイルは『ゴースト トリック』そのものだったように思います」。巧舟&移植版プロデューサー&ディレクターに秘話満載のインタビュー
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『大逆転裁判 ~成歩堂龍ノ介の冒險~』(画面は『大逆転裁判1&2 ~成歩堂龍ノ介の冒險と覺悟~』のもの)

――最初に3Dで作ってから2D化するということは、もともとの人間の動きはモーションキャプチャーで作られているのですか?

じつは、キャプチャーはほとんど使っていないんですよ。ゲーム中のすべてのアクションのうちそれこそ1個とか2個のレベルですね。

――逆にモーションキャプチャーが使われているのはどこなんだろうと気になります(笑)。

ジョードさんが絵を描いているところですね。長いループのアクションなんですけど。あれは試験的に撮影したモーションキャプチャーのデータを使用しています。

――意外とふつうの動きのところで。

ふつうの動きのほうがモーションキャプチャーには合いますからね。

 ただ、本当に試験的に使ってみただけで、ほぼすべてのアクションはクリエイターの手作りです。だからこそ、独特の“味”があるのだと思います。最初に作ったのが先述のカノンとミサイルで、それがまた、非常にかわいらしく仕上がってしまったものだから、そのクオリティーに合わせるのがたいへんでしたね(笑)。

聞かずにはいられないテンテコの舞の謎

――動きで言うと印象的なのがやはり、刑務所の看守が踊っている“テンテコの舞”です。あの、こういう言いかたは失礼なのかもしれませんが、あれはいったい……なんなんです?

なんなんでしょうねえ。

――ちょっと(笑)。

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テンテコの舞。

“テンテコの舞”って、確かにシナリオの段階で書いていたんですよ。

 でも、具体的にどんな動きなのかはまったく考えていなかったわけです。そうしたら、ある日突然デザイナーから「明日からテンテコを作るので、仕様をください」と言われて。「テンテコの舞の仕様って言われてもなあ……」なんて言いながら絵コンテを描き、作ってもらったのがアレです(笑)。

――アレですか。

じつは、その絵コンテには着想のもとになったものがあって。それは、先ほど話に出たモーションキャプチャーに関係しているんですけど。ほかのチームが撮影していたテスト用のデータがあって。

――テスト用。

はい。当時の『バイオハザード』チームで、本番のデータを撮る前にチームのスタッフの誰かがテストのために適当に動いたのを撮影していて、それがたまたま残っていたんです。当然、本編では使われていませんけど(笑)。『バイオ』チームから来たスタッフに、そのデータを見せてもらったことがあって、それが記憶に残っていたんです。

――あの動きを実際に事前にやっていた人がいたと。

あのままではないですけど(笑)。とにかく、「明日までに仕様を用意しなきゃ!」というタイミングでそれを思いだして。とくにおもしろい部分をミックスしてコンテにまとめて、それをもとにけっきょく手作りで作ってもらったという……。以上、“テンテコの舞”誕生秘話になります(笑)。

――『バイオハザード』班のデータというのはまさかのルーツですね(笑)。

制作スケジュールに余裕があったわけではないし、カットしてもよかったんですよね“テンテコの舞”なんて(笑)。

 でも、「仕様をください」と言われたことで、「じゃあ」とコンテを描いた結果、あれが生まれた。そういう相乗効果というかチームワークでできたものなので開発チームにとってもすごく思い出深いですね。作ってもらって本当によかったです。

――そう思います。わけがわからなすぎてすごく印象に残ります。

そうですよね。僕がふつうにひとりで考えていたら、闇に消えていた可能性が(笑)。

――最終的に手で作ったけど、そのルーツは『バイオハザード』チームの誰か……サンプルデータになっているから素顔はわからないけれども、おそらく誰かがやったものだろうと。

たぶんそうだと思いますよ。

――キャプチャーされた動きが一旦手で付けられて、ぜんぜん別のゲームのところでまた復活するという不思議な。

本人もたぶん気づいていないと思います。誰なのかはわからないですね。

和泉その人探し出したいですよね。

確かになぁ。

和泉探偵ナイトスクープ』(※)に依頼しますか(笑)。

※朝日放送で放送中の長寿バラエティー番組。視聴者からの依頼を、探偵が調査して叶えるという内容。関西地方で絶大な人気を誇る。

――優秀な探偵さん、よろしくお願いしますということで(笑)。ちなみに作中の設定では“キリキリの舞”というのもあるというお話ですが、そちらの構想はどんなものなんでしょうか。

それは……どうなんでしょう。当時そのスタッフが「明日までに仕様をください」って言ったら考えましたけどね。残念ながら聞いてくれなかったので(笑)。

――ところで、“テンテコの舞”で検索すると、巧さんが踊っている動画がヒットします。あれは発売のときの打ち上げパーティーのような場所で?

原作版『ゴースト トリック』の打ち上げのひとコマで、若手のスタッフたちが「“テンテコの舞”を踊りま~す」と、隠し芸をやってくれたんですが、その直後「ディレクターのテンテコも見たい!」という流れになってしまい、あんな感じに(笑)。あのとき初めて踊ったんですけど、なかなかの“舞いっぷり”ですよね(笑)。みなさんもぜひ踊って、SNSに上げてもらえるとうれしいです。原作版の発売当時も呼びかけたのですが、誰もアップしてくれませんでしたね。

丸山いまはTikTokとかありますから!

いまならイケるかもしれない。

※なお週刊ファミ通2023年7月13日号(No.1804/2023年6月29日発売)では、テンテコの舞のダンスレッスン記事を掲載。こちらもぜひチェックを!

和泉あの白い警部……カバネラ警部の動きもやってほしいですね。

あのキレを再現できたら、天下をとれるかもしれない(笑)。

和泉モーションのもとの、絵コンテみたいなものが今回、コンテンツとして入っているので楽しんでいただければと思います。

 残念ながらテンテコの舞の資料は発見できなかったのですが、“イラストアツメ”にはいろいろなキャラクターの絵コンテが入っていますので、ぜひ集めてください。

丸山移植に際して、オリジナル版の開発スタッフの方に、「イラストアツメに掲載できそうな資料をお持ちではないですか?」と相談してみたらたくさん提供いただけたんです。

僕自身が「これは初めて見るなあ」というものもたくさんありましたね。

丸山開発資料がきれいに保管されていたのを見て、スタッフの皆さんの『ゴースト トリック』愛を強く感じましたね。

祝発売!「ミサイルは『ゴースト トリック』そのものだったように思います」。巧舟&移植版プロデューサー&ディレクターに秘話満載のインタビュー

移植版『ゴースト トリック』開発の苦労

――今回はアジア言語にも対応したグローバル展開ということで、特別難しかったところなどはあったでしょうか?

和泉タイトルまわりはちょっと悩みましたね。中国向けの場合、タイトルも『ゴースト トリック』は『幽霊探偵』みたいな感じになるのかしらって思っていたんですけど、意外と中国のユーザーさんって原題のままのほうが喜ばれるという話があり、中国向けのタイトルもそのまま『Ghost Trick』としました。

 そしてサブタイトルに『Phantom Detective』(Detective=探偵・刑事)。まんまです。たいへんだったなと思うところは、プロモーション面でPVや宣材などを9言語ぶん作らないといけなくて。

 先日配信しましたカプコンショーケースでも中国語版は巧さんがしゃべっている裏に中国語の吹き替えを入れたりと、いろいろな国で展開していくにあたってそれぞれの国にフィットした形でプロモーションを行っています。

 今回、丸山ディレクターにゲームの素材を撮ってもらってるんですけど、それも9言語。同じシーンを9言語ぶん撮影する必要があってたいへんだったかなと思いますね。

丸山まあ……(笑)。

――2つ3つならまだしも9個もあるとたぶん6個目くらいで心が折れそうになりますよね。

和泉そうですね。ローカライズ言語の追加に関しては、きちんとストーリーがあってテキストのボリュームが多いタイトルで、言語によって文字数も変わるので、それを同じ吹き出しに収めなければならないとなったときに……どうでした?

丸山文字サイズ的な問題とかは多少出てくるところありましたね。言語ごとに幅が広いからどう収めようかっていう苦労はありましたけど。そこまでややこしくはならなかったですね。

――カプコンショーケースは巧さんもご出演されてましたもんね。

そうですね。声を掛けてもらいました(笑)。

――英語でも『ゴースト トリック』のプレゼンをされたりして。あの撮影は社内で?

はい。それはもう、みっちり練習しました。

和泉日本語の収録よりもなぜか巻きで終わるっていう。

練習の成果が出すぎちゃいましたね(笑)。

 じつは原作版の『ゴースト トリック』は制作当時から国際派で、日本語を含めて6ヵ国語に対応していたんですよ。

 当時のPVも海外版を作って、それぞれの言語で雰囲気が変わるのがおもしろかったですね。英語は英語でいい感じだし、ドイツ語だとカッコよくなるし、スペイン語はラテンなムードが漂って、フランス語だとオシャレになる(笑)。とにかく海外の言語と相性がいいなと当時も思っていました。今回、アジアの言語にも対応すると聞いて、また新しいテイストになるのかなと想像しています。

――原作では基本的にタッチペンを使用して操作するっていう風に作られていたUI(ユーザーインターフェイス)でしたが、今回は基本的にコントローラ操作で遊ぶ想定での調整になっていると思います。そのあたりの調整やプレイヤーにストレスを感じさせないために工夫した点などはありますか?

丸山操作に関しては原作版もボタン操作ができたので、それを踏襲する形でそこまで難度は高くなかったんですね。

 それよりも、ニンテンドーDS版の2画面から1画面に対応するというのがきびしくて、UIを1画面に収めつつ現代風に調整するといった部分のほうが難しかったです。

和泉じつはSteam版もタッチ操作でできます。たとえばSurfaceみたいなディスプレイをタッチできるPCであれば、タッチで遊べるようになっています。あとはSteam Deckにも対応しているのでタッチ操作でプレイできますよ。

――それは当時のプレイ感覚にかなり近そうですね。作業的にはタッチ操作の機能をひとつ加えるだけで工数が増えたりはしないのです?

丸山タッチパネル対応のシステム自体はそこまで難しくないと思うんですけど、UIの調整のほうが難しいかなと。

――そのあたりも含めて、もともとのスタッフが残っていたというのが大きな力になったかもしれませんね。やっぱり原作を作っていた方々がいると違うものですか?

丸山今回モデルやサウンドはもともとのスタッフが多かったですが、UIまわりは新人スタッフもいたりしたので、巧さんにいろいろと話を聞きながら「どうですかね」と相談しつつ進めていきました。

――巧さんもいろいろとアドバイスをされていたのですか?

移植版の制作にはオリジナル版を作った者は呼ばれないことが多いんですよ。『逆転裁判』シリーズの移植版も僕は完全にノータッチだし。今回は声を掛けてもらったのでいつもよりは関わってますけど、基本的にはお任せしています。それが会社の方針のようで。

 今回は制作の初期段階で丸山さんたちと一度詳しい打ち合わせをしましたね。キャラクターの表情とか、画面構成の方向性とか、原作者として“守ってほしいところ”などをお話ししました。そのあとは、チームの方から質問があったときに相談に乗るような感じでした。

――キャラクターの表情を付けるようなときは巧さんに聞くのがいちばんいいですもんね。今回は音楽も杉森雅和氏のオリジナル版も入っているし、北川保昌氏によるアレンジ版も入っているし。

丸山楽しめると思います。

アレンジ版にはかなり力が入ってますよね。

和泉そうですよ、すごい力が掛かっています。

今回、音楽は原作版のものがそのまま使用されると思っていたんですけど、アレンジしたバージョンを作る話が出て北川さんが呼ばれたんですよね。そこで37曲すべてアレンジすることになって、北川さんから「巧さんに監修を」ということで、僕に声が掛かったんです。

――ほお。

僕としてもありがたい話だったので、飛びつきました(笑)。幸い時間ももらえたので、北川さんと1~2ヵ月掛けて納得がいくまで作り込みましたね。

和泉がっぷりやってましたね。がっつりじゃなくてがっぷり。

かなりの量のやりとりをして練りあげました(笑)。北川さんとの仕事は『大逆転裁判2 ~成歩堂龍ノ介の覺悟~』以来だったので、あの感じは懐かしかったです。

――あの感じ……かつて、北川さんが巧さんから“かっこいい曲”を求められて、「かっこいいって、何だろう」と、どこかのデパートの屋上で大阪の街を1日中眺めていたという逸話がありますが。あの感じですかね。

和泉(笑)。かなり哲学ですよね。

――その感じがまた出てきたということで。

そんなことあったかな(笑)。

 原作版の音楽はニンテンドーDSで作ったので、ハードの性能による制限が多かったんですよね。鳴らせる音の上限が厳しかったり使えるエフェクトにも制限があったりして。

 だから、欲しい効果を出すために、曲の作りかたで工夫をしているんですね。それをリアレンジする際、単純に最新のエフェクトを使っても原曲の持っている雰囲気が出なかったりするんです。だから、最新の機材を使いながらも、あえて当時のアナログな方法を使って再現してみたり。

 じつは北川さんは原作版のサウンドにも少しだけ関わっているんですよ。当時、杉森さんが作った曲を実際にニンテンドーDSで鳴らす際にデータを調整するお手伝いしてもらってるんですよね。そんなわけで、彼も『ゴースト トリック』の音楽作りを深いところまで把握していて。だから、今回のアレンジもスムーズに行ったんだと思います。

――原作版から北川さんも関わっていたのですね。アレンジではどのようなポイントにこだわったのでしょう?

ほかにアレンジで重視したのは空気感ですね。『大逆転裁判』のときもそうでしたけど、サウンドの広がりかたは重要なので、最初によく話し合いますね。音楽だけで考えれば、最新のエコーやリバーブを使えば豪華に聞こえるし、実際、最初にできていたアレンジ版はリバーブが深めだったんです。

 でも『ゴースト トリック』は基本的に閉鎖的な空間で展開する物語なので、音楽の響きもなるべくデッドにするべきだ、とか。初期段階でそんなやりとりを重ねて世界観に合ったアレンジ版に仕上げていきました。

 また、今回は好きなタイミングでBGMをオリジナル版とアレンジ版に切り替えられるんですよね。だから、楽曲ごとに持っているゲーム的な機能が変わってはいけないというのも重要なポイントでした。曲の印象は変えずに、最新のサウンドにリファインするというのが、今回のアレンジの方向ですね。

 原作のすばらしい楽曲が磨き上げられたいまの音でさらに魅力を増すよう北川さんが追求してくれたので、ぜひ聴いてほしいですね。

――タイトルに戻って切り替えるられるのはよくありますけど、随時に変えられるというのはすごいですね。

完全にシンクロしていて、いつでも変えられるそうです。僕もびっくりしました(笑)。

丸山尺も変わってないですよね。タイミングがぜんぶいっしょなんで。

――オリジナル版からサウンドに関わっていた北川さんがアレンジを担当して……。

はい、本当によかったです。アレンジについては、すんなり仕上がるものもあったけどシンプルなのになかなか決まらない曲もあって。

 ちなみに、最後まで残ったのが『別れを告げて』という曲で、7~8バージョン作りました。フルートの音がどうとか、ここの響きがおかしいとか……『別れを告げて』なのに、いつまでも別れが告げられないね、なんて言い合ったり(笑)。アレンジ版の思い出もいっぱいできました。

祝発売!「ミサイルは『ゴースト トリック』そのものだったように思います」。巧舟&移植版プロデューサー&ディレクターに秘話満載のインタビュー

――そのほか「じつは今回ここも注目だよ!」というようなところでは?

和泉謎解きキット トリツキBOXの話ってしましたっけ? リアル脱出ゲームなどSCRAPさんに制作をお願いしたのですが、音楽のリファインと同じくらい巧さんにがっぷり入ってもらって作ったので。“約束された問題作”というキャッチコピーで。

今回どういういきさつでSCRAPさんとコラボすることになったんですか?

和泉『ゴースト トリック』というゲームは完全な形で完結しているので、追加シナリオとか追加ステージみたいなものは難しい。けれどもオリジナル版をプレイされた方に何かエクストラ的な謎解きコンテンツをお届けしたいという思いと、SCRAPさんの功績もあって13年前に比べて謎解きがすごくメジャーになり、謎解きファンという方々がたくさんいらっしゃる中で、その方々に『ゴースト トリック』は絶対に刺さるだろう、ぜひ遊んでもらいたいぞという気持ちがあってお声掛けさせてもらいました。

 すると、SCRAPの加藤社長がもともと『ゴースト トリック』が好きだったということでトントン拍子でご快諾いただいて実現にいたったというわけです。

――『ゴースト トリック』とSCRAPの謎解きというのはすごくマッチしますよね。

これまでSCRAPさんと何度かイベントを作ってきましたけど、僕は毎回勝負のつもりで参加してますね(笑)。

――どちらがおもしろい謎を考えられるか勝負、というところですか?

設定や物語も含めてそんな感じですね。そっちがそうくるならこれはどうだ! みたいな(笑)。向こうは引いてるかもしれないです。

 今回も、そういう遠慮のないやり取りをして作ったので、世界観や物語も含めて“もうひとつの『ゴースト トリック』”と呼べるものに仕上がったと思います。シナリオや文章はぼくが自分で調整しているので、そのあたりも楽しんでもらえるとうれしいです。

 じつは僕、SCRAPさんの作品はリアル脱出ゲームのイベントよりも書籍のアドベンチャーゲームゲームブックを先に遊んでいたんです。それが非常にデキがよかったんですね。

 本という実際に手に取れるアナログなメディアだからこそ可能な仕掛けや楽しさが詰まっていて、昔からあるゲームブックから格段に進化していたんです。今回もそんな要素がふんだんに盛りこまれているので、楽しいと思いますよ。

――そこまで力を入れて作っているとなると、単品販売の予定は?

和泉謎解きキットをプレイされた方はわかると思うのですが、鉛筆で書き込んだりとか、いろいろするものなので、保存用とプレイ用みたいな感じで欲しくなる可能性はありますけど、いまのところ単体品はないですね。

――プレイしてみて「すごくおもしろかった! 友達にもプレイしてほしい! もうひとつ買おう!」となるわけですよね。

まあ、こういのうは何個あっても困りませんから(笑)。

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最近の巧さんのお仕事

――一旦『ゴースト トリック』以外の話になってしまうのですが、巧さん関連でいきますと『大逆転裁判』の朗読劇や宝塚などがありますが、そのあたりは最近いかがでしょう?

宝塚の舞台と朗読劇のイベントが、1週間違いで危うく重なってしまうところでした。あぶないあぶない(笑)。

※宝塚の神奈川上演が2023年8月1日~8日、東京・八王子での朗読劇が8月12日。

 最初に「やります」という話を聞いたのが朗読劇のほうで、当初はゲーム版のシナリオを再構成して台本にする……という企画だったんです。でも僕としては、それだけでは物足りないだろうと思ったので、「新作のエピソードが必要ですよ」と言ってみた結果、自分で書くことに(笑)。じつは今年2023年の年明け1発目の仕事はそれでした。

 新しいエピソードを書くことで久しぶりに『大逆転裁判』のキャラクターたちと再会できて、僕としてもよかったです。ぜひお楽しみに(笑)。

 そのあと宝塚の話を聞いて、こちらも『大逆転裁判』ということで驚くと同時にうれしかったです。宝塚版『逆転裁判』は、1作目と2作目が2009年、3作目が2013年上演だったので、まさに10年ぶりだったんですよね。それが今回、10年前と同じ作・演出の鈴木圭先生、同じ宙組で公演が決まったのは、これも運命なのかなと(笑)。

 今回は、脚本の最初の段階から鈴木先生とLINEでやりとりを重ねて、さらに何度か直接お会いして練り上げていきました。

 前回までは原作版のエピソードをベースにして脚色していたんですけど、今回は鈴木先生がアイデアを持ってきたことで、ほぼオリジナルエピソードになっているんです。だから、ゲームを遊んでくれたみなさんも知らない物語になっています。ちょうど明後日に読み合わせがあって稽古が始まるんですよ。

――ではこれから稽古場にも顔を出されて?

いえいえ(笑)。脚本のお手伝いはしましたけど、そこから先は先生にお任せします。こちらも楽しみですね。

――巧さんとしても完成したものを見るのを待つ、という感じなんですね。

そうですね。

――今年の夏は『逆転裁判』関連のイベントが豊富ですね。

重なるときは重なるもんだね、ってみんなで言ってます(笑)。

 そういえば宝塚版の1作目のタイトルが『逆転裁判 -蘇る真実-』で、2作目が『逆転裁判2 -蘇る真実、再び…-』、第3作は『逆転裁判3 検事マイルズ・エッジワース』ときて、今回のタイトルが『大逆転裁判 -新・蘇る真実-』なんですよね。

 4作のうち3つが『蘇る真実』ってちょっと蘇りすぎじゃないですか、って鈴木先生に突っ込んだんですけど(笑)。先生によればそういうつながりがいいのだそうで。ちなみに『蘇る真実』はテーマ曲のタイトルでもあって、きっと今回もあの名曲が歌われるのではないかと(笑)。こちらもぜひ、ご期待ください!

――“蘇る”つながりで『ゴースト トリック』も何か展開があればいいなと思いますけれども。

なるほど。となると……『ゴースト トリック 蘇る真実』かな?

一同 (笑)。

祝発売!「ミサイルは『ゴースト トリック』そのものだったように思います」。巧舟&移植版プロデューサー&ディレクターに秘話満載のインタビュー

――あと、巧さんが最近ハマっているものなどは?

そうですね。Netflixで韓国のドラマを観てます。『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』とか、『離婚弁護士シン・ソンハン』とか。あれ? 法廷モノばかりですね。これも職業病なのかな。

――(笑)。

「やってやりますともッ!」ミサイルよ永遠に

――──最後にまた『ゴースト トリック』の話に戻りまして、ミサイルの話をおうかがいできますか。当時ミサイルという名前のポメラニアンを巧さんが飼っていて、実在の愛犬をゲーム中に登場させていたという話は知る人ぞ知るエピソードかと思います。

気づけば人気者になっちゃって(笑)。

――LINEスタンプもかわいいですし。

気づけばスタンプになっちゃって(笑)。

かつて週刊ファミ通でも取材に来ていただきましたね。

祝発売!「ミサイルは『ゴースト トリック』そのものだったように思います」。巧舟&移植版プロデューサー&ディレクターに秘話満載のインタビュー
週刊ファミ通2018年2月1日号(通巻1520号)ゲームクリエイターの犬特集。

――いやあ、発売時からダントツで人気でしたでしょう。ミサイルを『ゴースト トリック』に登場させることになった経緯というのは?

初期段階のシナリオでは、じつはミサイルは存在していなかったんです。最初の被害者になるのはカノンちゃんの予定だったんですね。でも、いきなり少女が命を落とすのもどうなのかな、と思って。

――最初ではちょっとツライ展開ですね。

じゃあ、代わりに命を落としてくれる者は……と考えて、小犬かな……と。いや、もろちん「小犬ならいいのかよ!」という議論は当然あるわけです。ええ、それは僕ひとりの脳内会議での話ですけど。

 なんにせよすべての命は救われるわけですから、ここは小犬くんにがんばってもらうことにして。すると、つぎにデザイナーが聞いてくるわけですよ。「犬種はどうしましょう」と。それで、最初にパッと浮かんだのがポメラニアン。

――いつも目にしているから。

そうなんですよ。決して「僕のワンちゃんを出したい!」という不純な気持ちがあったわけではなくて。じつはこの当時、巧家にミサイルという小犬がいることはチームに言っていなかったんですけど、この一件のせいでよけいに言えなくなってしまって(笑)。

 ちなみに、後でスタッフに聞いたらポメラニアンは毛がフサフサなので、3Dモデルでの表現が非常に難しかったそうで。(なんであえてポメラニアンなんだろう……)と、疑問に思っていたそうです。

――「もっとツルッとした毛並みの犬なら作りやすかったのに!」って(笑)。

でも、そうやって作ってくれたおかげで、先ほども言いましたけど、スタッフみんなが心を打たれて「かわいい! これだ!」となったわけです。本当に、彼とカノンちゃんのインパクトは強烈でしたね。

 でも、そのあとふと「これって、自分の犬をゲームに出したと思われるのでは」と思い当たり……。

――公私混同かもしれないと。

そうなんです。だから、我が家のミサイルの存在は、ゲームが完成したあとまでチーム内で誰も知らなかったという。

一同 (笑)。

発売時期が近づいてきて、僕がプロモーションでTwitterを始めることになったんです。そこで「いましかない!」と思って、そっと彼を登場させたんです。それを見て、初めてみんなが「あれ?」ってなったという(笑)。

 僕自身、犬を飼ったのが初めてだったのですが、ミサイルの「~ですともッ!」という口調は、まさに我が家のミサイルのイメージそのままなんですよね。だから、彼がいなければあのキャラクターは生まれなかったし、そういう意味では、本物のリアリティがありますよね(笑)。

――リアルミサイルをそのまま描写したのがゲーム内ミサイル。

そうですね(笑)。じつは、ミサイルのおかけでゲームの方向性が大きく変わった部分もあるんですよ。

 おもにキャラクターの「動き」ですね。制作当初、僕のイメージは、ふつうだったんですよ。「今回はキャラクターがたくさん出てくるから、動きはなるべく汎用的に使えるように作ろう」という常識的な考えかたで。

 それなのに、テストで作ったミサイルの動きを見たらもう……。あれで悟りましたね。このゲームのキモは、個性的なキャラクターがイキイキと生活しているからこそ楽しいし、その動きの中にパズルで介入していくからおもしろいんだ……と。

 それ以来、ものすごい動きをするキャラクターが飛び交うゲームになっていったという(笑)。実際、我が家のミサイルは性格も本当にあのままで、僕が帰ると「ようこそッ!」と笑顔で尻尾を振って出迎えてくれるんです。

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――ちょっと番犬には向かない(笑)。YouTubeに、『僕はミサイル』(作詞・作曲・編曲:巧舟)がアップされているわけなんですけれども、こちらはどういった経緯で作られたのでしょう。原作版『ゴースト トリック』発売3周年で何か企画を、ということが発端だったのかと思いますが。

それが、じつは逆なんですよ。

 昔から音楽を作る趣味があって、定期的に何か作るんです。それで趣味で作っていたあの曲がよい感じだったので「どこかで公開できないかな」と思っていたら、ちょうど3周年の動きがあったので(笑)。それに乗っけて発表した感じですね。

 あれから何年も聴いていなかったんですけど、ミサイルがいなくなってから改めて聴いたら、なんだかべつの意味が重なって……泣いちゃいましたね。

 昔から、新しいプロジェクトが始まると自分でゲームのテーマソングを作るクセがあって(笑)。『ディノクライシス』(※)から始まって、『逆転裁判』も『ゴースト トリック』でも作りましたね。ほとんど誰にも聞かせたことがないんですけど(笑)。

 その流れでミサイルの歌も作ったんです。女の子が歌うイメージだったので有名な合成音声歌唱ソフトを買ってきて(笑)。例の北川さんに相談して、必要な機材を買って。

※……1997年9月1日発売のプレイステーション用アクションゲーム。巧氏はメインプランナーとして参加。

――へええ。

その機材の数々はあの曲を作ってからもう使ってないという(笑)。

――(笑)。

そういえば、まだ正式に言えないんですけど、あの歌に関して、近々なにかある……かもしれません。

――おお、楽しみにしています。

ともあれ。いまでもゲームのミサイルを見ると、やっぱり我が家のミサイルを思い出します。ちょっと言いかたは変かもしれませんけど、アイツは『ゴースト トリック』とともに生きた、『ゴースト トリック』そのものだったように思います。

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