『ゴースト トリック』先行レビュー。13年の時を経て名作が高解像度でヨミガエル。猪突猛進犬ミサイルがとにかくかわいい

　突然ですが、みなさんは犬派でしょうか、それとも猫派でしょうか。筆者は……。

　もちろんッ、犬派ですともッ！

　写真は『ゴースト トリック』に登場する愛らしいポメラニアン・ミサイルくんです。ご主人様第一で、キャンキャン吠えて回る姿がとてもかわいい。

　『ゴースト トリック』は2010年にニンテンドーDSで発売されたタイトル。『逆転裁判』シリーズの巧 舟氏が手がけた謎解きアドベンチャーが、13年の時を経て現行ハードで蘇ります。

　本稿では、2023年6月30日（金）についに発売を迎えるNintendo Switch、プレイステーション4（PS4）、Xbox One、PC（Steam）向け『ゴースト トリック』の先行レビューをお届け。

　ちなみにですが、猫派の方も安心してください。ミステリアスな雰囲気の美しい黒猫ちゃんも登場します。

すでに死んでしまった主人公が死後の世界と現実世界を行き来して“トリツク”

　『ゴースト トリック』のおもしろいところは、緻密に伏線が張られたストーリーと、ユニークなギミックにあります。

　主人公のシセルはオープニングの時点で死んでいます（死せる、という名の通り）。

　のっけから死んでしまった主人公・シセルが、なぜ死ぬことになったのか、自身の記憶を取り戻すために死後の世界と現実世界を行き来して奔走。しかも、シセルの魂は翌朝に消滅してしまうため、タイムリミットつきなのです。

　シセルにできるのは物に“トリツク”ことと、“アヤツル”こと。それから、死者の体にとりついてその死の4分前に戻ることと、電話線を伝って離れた場所に移動することです。

　シセルは物の“コア”を伝って移動するのですが、“手を伸ばせる”距離（移動範囲）は絶妙な長さで決まっています。「あともう少しで届くのに……！」というシーンでも、ほかの物をアヤツり操作することで近づき解決できたり、時間経過でも状況が変わったりします。

　死が訪れる前の4分間の世界は、何度でもやり直すことが可能。物にトリツク、コアを伝って移動する、物をアヤツルというギミックがユニークで、たとえ既プレイで正解を知っていたとしても繰り返しプレイしたくなるおもしろさです。

モブでさえキャラが立ってる個性的な登場人物たち

　冒頭で紹介したミサイルくんをはじめとして、本作にはかなり個性的なキャラクターたちが登場します。ここで筆者が気に入ってる、第6章までに登場するキャラクターたちを紹介しましょう。

一本気でうるさくてかわいいけどやっぱりうるさいポメラニアン

　ミサイルは、カノンという少女に飼われている2歳のポメラニアン。巧舟氏の飼い犬“ミサイル”くんがモデルになった愛され犬です。ちなみに『逆転裁判』にもミサイルという名前の犬が登場します（こちらは柴犬です）。

　主人公のシセルとは魂の状態で初対面を果たすのですが、この子、カノンちゃんを誘拐しにきた男を喜んで出迎えて、そのうえ殺されてしまったんですよね……。

　ミサイルはちょっとしたことでキャンキャン吠えて回りますが、それは威嚇しているからではなくて、楽しくてはしゃいでいるだけなのです。だから番犬としての役割は期待してはいけないのです。

　主人思いで、愛玩犬という概念をこれでもかと体現した犬だと思います。モデルとなった“ミサイル”くんも、こんな愛くるしい犬だったのでしょう。

度重なる臨死体験を経てもなおへこたれない精神力を持つヒロイン

　物語の冒頭で、シセルが初めてとりついた死者が刑事のリンネです。ヒロインです。たぶん。

　と言うのも、リンネはかなりたくましい性格をしています。二度あることは三度あるということわざがある通り、リンネは作中で何度も死を迎えてしまうのですが、そこでブルーになったり怯えたりする質ではありません。

　むしろ、死を迎えるたびにだんだんと図太くなっている気がします。

　もともと、すでに起こってしまったことは気にしない性格のリンネ。しかし、ここまで自分の死に無頓着なのは、リンネが刑事として、ひとりの人間として、必ず解決しなければいけない事件があるからです。それも今晩中に。

　朝になったら消滅してしまうシセルと、朝までに事件を解決しなければならないリンネ。死んでからゴミ捨て場で出会ったふたりは、それぞれが追い求める真相のため、何度も共同戦線を張ります。

　どんなにピンチでもくよくよせず、元気で明るい（ついでにすぐボケる）リンネは物語に欠かせないキャラクターです。冷静なシセルとの相性も抜群で、末永く見ていたいコンビだと思います。

暗殺に不向きな特性を持つクセが強い暗殺者たち

　本作で起こる事件の一部は、外国からやってきた謎の組織が暗躍しています。とある理由でリンネの暗殺を目論むこの組織は、“ド近眼のジーゴ”と“先回りのテンゴ”というふたりの暗殺者を送り込みます。

　このふたり、通り名が示している通りにクセが強いのです。

　先にリンネを殺害したのは、“ド近眼のジーゴ”。彼の視力はなんと、0.3だと言うのです。なのにメガネをかけないという謎のこだわりを持っています。裸眼で0.3は、わりと日常生活でも支障が出るレベルですよね。筆者は視力0.1以下なのでよくわかります。

　「そんなに目が悪いなら暗殺にも不利なんじゃ……」と思ったみなさん、安心してください。彼の持ち武器は近距離特攻のショットガンです。「あ、暗殺者のイメージっぽいナイフとかじゃないのね」と思ったのはここだけの話。

　ジーゴはリンネの殺害に成功したものの、時間を巻き戻したシセルによってなかったことにされてしまいます。

　そこでつぎに登場したのが“先回りのテンゴ”。彼はとにかく先回りをします。ターゲットが現れそうな場所へ先回り、上司の話の腰を折って結論を先回り、目が悪くならないようメガネをかけて先回り。

　一見すると暗殺者に向いている特性な気もしますが、テンゴの場合、先回りが先走りすぎて任務に支障を来しています。時代がテンゴに追いついていないぜ。

　リンネの自宅で彼女を待ち伏せようと思ったら留守でしたし、先回りして行動するせいでシセルにつぎの行動を読まれ、結局は暗殺に失敗してしまいます。

　たぶん歯車が噛み合えば仕事のできる方々なんでしょうが……いかんせん、ヒットマンとしてクセが強すぎる。

アヤしい雰囲気を漂わせる隣人

　リンネとカノンが住むアパートの隣人は、かなりアヤしい雰囲気を漂わせる奥さま。

　本当に同じアパートなのかと思うくらい、リンネたちが住む部屋と彼女の住む部屋は様子が違います。心なしか空気の密度も濃そう。

　奥さまのお仕事はどうも小説家らしいです。しかも、ややオトナ向けの。

　そしてどうやらこの部屋は別宅というか家出先らしく、夫婦喧嘩の末にひとり娘を連れて絶賛家出中の模様。電話越しに覗いた夫らしき人物はなんだか偉い人っぽいし、かなりワケありの奥さまです。

　とりあえず、ミサイルを壁ごと踏み潰すのはかわいそうなのでやめていただきたい。

優雅すぎて理解できないカバネラ警部

　カバネラ警部は、リンネの上司にあたる人物。真っ白なコートと赤いマフラーがトレードマークのダンディーな方です。

　この方、動作のひとつひとつがおかし……いえ、優雅で、常人には理解できない領域に達しているのです。

　とくに階段を上り下りするときのステップは到底真似できそうにありません。この人、いったいどんな体幹をしているんだ……。

　なんでも、カバネラ警部の動きを付ける際に参考にしたのは、かの世界的ポップスターであるマイケル・ジャクソンだったとか。なるほどと思わざるをえないキレのある動きを出てくるたびに披露してくれます。

　茶目っ気たっぷりのカバネラ警部ですが、こういうタイプの人が急に真顔になったり、真面目な雰囲気を醸し出したりすると途端に怖いんですよね。

上下関係がきびしい刑事たち

　本作には何人もの刑事が登場。モブっぽいキャラクターまでもれなくクセが強いです。たとえばこの刑事ふたり組。

　緑のスーツのほうが先輩、青いスーツのほうが後輩なのでしょう。青スーツくんがなにやらカバネラ警部の愚痴を言っているシーンがありますが……。

　本人を前にするとこの態度。権力にはめっぽう弱い様子です。そんな青スーツくんも、自分より役職が下の警官にはやたら態度がでかい。

　世知辛い世の中ですね……。

常時コントを繰り広げる看守コンビ

　名犬ミサイルに並ぶほど大人気（だと筆者は思っている）キャラクターがいます。ある特別な刑務所の看守を務めるふたり組、ボーズ係官とコボーズ係官です。

　ファンのあいだではボーズ係官が“センパイ”、コボーズ係官が“コウハイ”で浸透しているのではないでしょうか。

　このふたり、刑務所の雰囲気とあまりにそぐわないコントを常時展開していることで親しまれています。

　センパイは真面目で神経質な性格。コウハイはそれをなにかと揶揄し、センパイでおもしろがって遊んでいます。部下に正論パンチされて「ぐぬぬ……」となる上司の構図です。

　このふたりにはずっとくだらないことで言い合いをしていてほしいのですが、ここは刑務所。それなりにシリアスな空気になったりもします。

　センパイがコウハイをたしなめられる日は来るのでしょうか……。

ファンにうれしい設定集やスマホ版にあったミニゲームも収録

　現行ハードへ移植されるにあたり、キャラクターのプロフィールや設定資料集が閲覧できるコレクション機能が実装されています。

　また、スマートフォン版に収録されていたミニゲーム『ゴースト パズル』も収録。

　本作は、いままでに発信された『ゴースト トリック』のすべてが詰まった、ファン待望の移植作品と言えるでしょう。

推し作曲家がBGMアレンジを担当しているんだが⁉

　推し作曲家がBGMアレンジを担当しているんだが⁉（大事なことなので2回言いました）

　本作は杉森雅和氏によるオリジナルのBGMに加え、『大逆転裁判』シリーズなどのBGMを手掛けた北川保昌氏によるアレンジを加えた曲が37曲も実装。また、杉森氏による新曲も1曲追加されています。

　「好きな作曲家は？」と聞かれて必ず最初に名前を挙げるくらい、北川保昌氏の曲が大好きな筆者は大喜びしました。CDだいたい持ってます。いつも聞いています。本当にありがとうございます。

　BGMは設定からオリジナル版とアレンジ版の切り替えが可能。みなさんもぜひお好みで切り替えて遊んでみてください。

自分でプレイするにも布教するにも最強な移植版

　本作をプレイしてみて改めて感じたのは、発売当時にプレイしたときと大きく変わらないということ。作品をリメイクではなく移植するにあたり、変わらない、というのは本当に大事な要素だと思います。

　でも画面は高解像度になっていたり、ストーリーを補完するコレクション機能を実装したりと、進化するところはきちんと進化しています。

　なにより、「『逆転裁判』をプレイしてハマった～」と言ってる人間もれなくすべてに『ゴースト トリック』を布教しやすくなるというのが、本作最大のメリットではないでしょうかッ！　やはり現行ハードの力は偉大です。

　まだ『ゴースト トリック』をプレイしたことのない初見さんは、ぜひ「これから先、いったいどうなってしまうんだろう」というワクワク感を存分に味わってほしいです。

　ミサイルとまた会うことができて、そして北川保昌さんの音楽でも『ゴースト トリック』を楽しむことができて、本当にうれしかった！　発売されたらさっそく、友人に布教してまわろうと思います。

　最初にする質問は……やっぱり「犬派？　それとも猫派？」ですかね。