ゲーム開発者の国際カンファレンスであるGDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)会期中に行われるインディーの祭典、IGF(インディペンデント・ゲームス・フェスティバル)。超大作も表彰されるGDCアワードと同じ豪華な会場で行われるIGFは、海外インディーにとって非常に重要なイベントのひとつだ。

 今年もサンフランシスコで現地3月18日に行われるIGFアワードの本年度ファイナリスト作が発表されたので、例年通り全作を紹介していこう。ノミネート数で一歩リードしているのは、アドベンチャーゲーム『Mutazione』。それにガチョウゲー『Untitled Goose Game』や、ローグライクなカードゲーム『Slay the Spire』など日本でもおなじみのタイトルが続いている。

Seumas McNally Grand Prize(大賞)

Eliza』 (Zachtronics)

 以前本誌でも紹介した『Eliza』は、巨大IT企業が提供するカウンセリングAI“イライザ”の代弁者として働く女性を主人公にしたビジュアルノベル。さまざまな技術が引き起こすディストピアな未来を描いたSFドラマ『ブラック・ミラー』のようなテイストで、IT産業が抱える巨大データとエンジニアの倫理といった問題に切り込んでいく。PC英語版が配信中で、海外ではSwitch版も展開されている。

A Short Hike』 (Adam Robinson-Yu)

 ローポリなグラフィック&擬人化された動物たちの世界でゆるーくハイキングする探索ゲーム。“ショートハイク”というタイトルの通りに短編ながら、丁寧に作られたオープンフィールドを散策していくと心が洗われるような思いがする。PC英語版が配信中。

『Untitled Goose Game』 (House House)

 ゆるくてかわいいテイストで一世を風靡した、ガチョウが主人公のスニーキングアクションゲーム。村人たちからカギなどをちょろまかしたり、いたずらを仕掛けたりしながらお題をクリアーして進んでいく。PC/Switch/PS4/Xbox Oneで日本語版が配信中。

『Mutazione』 (Die Gute Fabrik)

 巨大隕石落下によって周囲から取り残された廃墟地域“Mutazione”にやってきた少女Kaiと、そこで暮らすミュータント化してしまった住人たちの交流を描いたアドベンチャーゲーム。

 絶妙に切なく美しい廃墟描写が印象的で、ガーデニングによって音楽が生成され、その内容によってキャラクターの琴線に触れるというユニークな要素も。海外ではiOS/PS4/PCで配信中で、以前開発者に取材した際には日本語化も予定しているとのことだった。

『Slay the Spire』 (Mega Crit Games)

 カードデッキを構築しながら敵を倒して進んでいく、ローグライクなRPGカードゲーム。いかに入手したカードを活かしたデッキを組み窮地を切り抜けるか悩ませる、絶妙な難度がプレイヤーの前に立ちはだかる。日本語にも対応したPC/PS4/Xbox One/Switch版が配信中で、今年iOS/Android版も予定されているようだ。

Anodyne 2: Return to Dust』 (Sean Han Tani & Marina Kittaka)

 壊れゆく世界で住人たちを蝕む“ナノダスト”を除去して癒やす““掃除屋””Novaが主人公のアクションアドベンチャーゲーム。PS1の頃を思い起こすローポリな歪んだグラフィックの表世界と、人々のトラウマなどが秘められたドット絵の心象世界をまたいで冒険が展開される。

 美しいシンセサウンドも印象的で、鎮痛剤(Anodyne)を飲んで祈るように横になった夜の静けさのような、“優しい痛み”とでも言うべき複雑な感情を抱かせる作品だ。PC英語版が配信中で、Switch版のリリースに合わせて日本語化の予定もある模様。

Excellence in Visual Art(美術賞)

Knights and Bikes』 (Foam Sword)

 自転車で突っ走る2人の冒険を描く青春アクションアドベンチャー。『Tearaway 〜はがれた世界の大冒険〜』などを手掛けた元メディアモレキュールの開発者によるタイトルとなっており、手書きアニメーションによる勢いのいい描写も特徴のひとつ。海外でPS4/PC版が配信中。

Void Bastards』 (Blue Manchu)

 漂着した宇宙船が並ぶ“サルガッソネビュラ”から脱出すべく、漂着船から漂着船へと攻略していく戦略的FPS。コミックスタイルのグラフィックや擬音描写が特徴で、PC/Xbox One版が日本語対応で配信中。

Creature in the Well』 (Flight School Studio)

 ピンボールのギミックを取り入れたダンジョン探索アクションゲーム。グラフィックスタイルはマットな塗りの見下ろし型3Dという構成。PC/Xbox One版が日本語対応で配信中で、海外ではSwitch版も配信されている。

Eastward』 (Pixpil)

 炭鉱作業員のジョンと、彼が見つけた謎の力を秘めた少女サンの冒険を描くアクションアドベンチャーゲーム。執念で描きこまれたドット絵のジャンク世界や、ファンキーな住人たちの豊かな描写は一見の価値アリ。2020年にPC/Switchでの発売が決まっており、日本語にも対応する。

Stone Story RPG』 (Martian Rex / standardcombo)

 文字でグラフィックが描写されるアスキーアートスタイルで構成され、戦闘などはAIが自動進行するという変則RPG。PC版が日本語対応で配信中。

『Mutazione』 (Die Gute Fabrik)

Excellence in Audio(音響賞)

Observation』 (No Code)

 国際宇宙ステーション“オブザベーション”の支援AIとしてプレイする、SFスリラーなアドベンチャーゲーム。SF映画の名作『2001年宇宙の旅』に多大な影響を受けた作品となっており、レトロ感あふれる船内システムのUIや、いかにも船内カメラっぽい微妙に白飛びした映像なども秀逸。PC/PS4で日本語版が配信中。

Vectronom』 (Ludopium)

 ハードなシンセのテクノに合わせて変化するステージをサウンドに合わせて操作することで切り抜けていくパズルアクションゲーム。PC/iOS/Androidの海外版が配信中で、海外ではSwitch版もある。

Astrologaster』 (Nyamyam)

 疫病の流行により医者がいなくなった中世ロンドンで、“医療占星術”により人々を救おうとする男を主人公としたコメディタッチのアドベンチャーゲーム。iOS/PC英語版が配信中。

『Knights and Bikes』 (Foam Sword)
『Mutazione』 (Die Gute Fabrik)
『Untitled Goose Game』 (House House)

Excellence in Design(ゲームデザイン賞)

Katana ZERO』 (Askiisoft)

 凄腕の殺し屋“ドラゴン”となり、自分も敵もほぼ一撃即死の条件下でマフィアの大群を始末していく、横視点版『ホットライン・マイアミ』的なスタイリッシュアクションゲーム。PC/Switch版が日本語対応で配信中。

Lonely Mountains: Downhill』 (Megagon Industries)

 マウンテンバイクでダウンヒルを駆け下りるレーシングアクションゲーム。マップはさまざまなルートを通れるオープンフィールドで構成されており、隠しエリアやルートなども存在。PC版が日本語対応しているほか、海外ではPS4/Xbox One版も配信中。

Elsinore』 (Golden Glitch)

 シェークスピアの悲劇『ハムレット』を題材に、エルシノア城の皆が死ぬという結末を避けるべく、4日間のタイムループを生きるオフィーリアが奔走するアドベンチャーゲーム。PC英語版が配信中。

Patrick's Parabox』 (Patrick Traynor)

 ブロックを押して行く『倉庫番』的ルールに、さらにブロックの中の通路も進めるというマトリョーシカ的なギミックを組み合わせたパズルゲーム。発売時期や対応プラットフォーム等は未定。

『Slay the Spire』 (Mega Crit Games)
『A Short Hike』 (Adam Robinson-Yu)

Excellence in Narrative(物語賞)

※ゲームならではのストーリー体験を重視した賞

Heaven's Vault』 (inkle)

 ファンタジックなSF世界を舞台に考古学者として冒険するアドベンチャーゲーム。失われた言語の意味を推測して解読していくパズル的な要素も含まれている。海外ではPC/PS4版が配信中で、2020年にSwitch版も予定されている。

Wide Ocean, Big Jacket』 (Turnfollow)

 若い夫婦と、中学生の姪とそのシャイなボーイフレンドのという微妙な関係の4人がキャンプに向かう短編アドベンチャーゲーム。PC英語版が今月配信予定。

LIONKILLER』 (Sisi Jiang)

 テキストベースのゲームエンジンTwineで開発された、アヘン戦争に徴兵されたレズビアンの女性を主人公にしたアドベンチャーゲーム。PC英語版のほか、Twineベースのゲームをモバイル向けに展開する“Tap by Wattpad”を通じてiOS/Android版も配信中。

『Mutazione』 (Die Gute Fabrik)
『Elsinore』 (Golden Glitch)
『Eliza』 (Zachtronics)

Nuovo Award

※新奇性のある取り組みを表彰する賞

Tales From Off-Peak City Vol. 1』 (Cosmo D)

 歪んだ3Dグラフィックのピーキーな世界で“元サクソフォン奏者でピザ職人”という主人公が奮闘する一人称視点アドベンチャーゲーム。PC英語版が配信中。

Infini』 (Barnaque)

 サイケデリックでラフなスケッチのコラージュで構成されたパズルアドベンチャーゲーム。2020年にPC/Switchで配信予定。

The Space Between』 (Christoph Frey)

 建築家が建設中の劇場で出会った女性とともに混沌に巻き込まれていく、一人称視点の短編アドベンチャーゲーム。PS1スタイルのローポリグラフィックがさらにノイズで揺らめくというアートスタイルがひたすら不穏。PC英語版が配信中。

Life Tastes Like Cardboard』 (Demensa)

 ラフに描かれた手描きイラストで展開される、自己憐憫や自傷、自殺といった開発者自身が抱えるテーマに取り組んだ私小説的なアドベンチャーゲーム。PC英語版が無料公開中。

Promesa』 (Julián Palacios)

 記憶や夢を表彰する、どこか抽象的な風景を歩いていく一人称視点のインタラクティブコンテンツ。2019年の完成を予定していたものの2020年にずれ込んだようだ。対応プラットフォーム等は未定だが、PCゲームを配信するitch.ioに開発ページが存在する。

Song of Bloom』 (Philipp Stollenmayer)

 プレイヤーの操作に応じてストーリーが語られ、またそれに従ってアートスタイルも変わっていくという、インタラクティブなストーリーゲーム。iOS版が配信されており、日本語にも対応している。

The Longing』 (Studio Seufz)

 “400日後に目覚める”とされる王の復活を待つよう命じられた主人公が地下の洞穴で暮らすアドベンチャーゲーム。2020年春にPC英語版が配信予定。

 画面上にはリアルに400日後までのカウントダウンが表示されており、起動していない間も進行するのでその時が来るまでプレイせずに放置するのもよし、洞穴を探索するもよし、収録された古典文学を呼んで時間をつぶすもよし……という内容。

PAGAN: Autogeny』 (Oleander Garden)

 “放棄されたMMORPG世界”という設定の空虚な世界で展開される、短編の実験的一人称視点オープンワールドRPG。PC英語版が配信中。

Best Student Game(学生部門)

Orbital Bullet』 (SmokeStab)

 横スクロールに合わせて回転する円形のフィールドで展開される、プラットフォームアクションシューティングゲーム。

A Juggler's Tale』 (kaleidoscube)

 女の子の操り人形アビーが冒険するアクションアドベンチャーゲーム。操作する糸がギミックに引っかかったりするパズル的な要素もあるようだ。

Forgotten』 (Mutiny Games)

 アルツハイマーにより記憶が曖昧になっている状態を体験する一人称視点ゲーム。周囲の人々を少しでも記憶に留めるために写真を集めて関係図を作る要素が泣ける。PC英語版が無料公開中。

Neon Beats』 (OKYO Games)

 ネオン色に輝く幾何学的ステージの中を進んでいくプラットフォームアクションゲーム。曲のテンポに合わせてステージギミックが変化するという要素も。PC版が無料公開中。

BORE DOME』 (Goblin rage)

 奇妙でサイケデリックな世界を進んでいくドラッギーな一人称視点の探索ゲーム。

Nothing In Sight』 (Nothing In Sight Team)

 第一次世界大戦下、ベルギーのイーペルの塹壕で耐える4人のフランス人兵士のサバイバルを描いたマネージメントゲーム。PC英語版が無料公開中。