かつてアーカイブ(公文書館)と呼ばれた建物の前のささやかな庭園から静かに音楽が流れ出し、ゆっくりと広大な廃墟を包んでいく。
研究所跡の秘密の水浴び場、最近できた新たな友達、気にしないことにした悩み、かすかに聞こえるテレビの音、窓の外の誰かの笑い声、忘れてたあの頃の事、ミュータントの少女の目からこぼれてくる涙。
海外インディースタジオDie Gute Fabrikによる新作アドベンチャーゲーム『Mutazione』は、きっと多くの人の琴線に触れる作品になるだろう。
本作は、海外で2019年9月19日にプレイステーション4/PC/Macで配信予定。なお関係者によると海外のローンチ段階では間に合わないものの日本語化も予定しており、年末頃の対応を目指しているようだ(Steamの配信ページの説明文などはすでに日本語化されている)。
今月頭にシアトルで行われたゲームイベント“PAX West”で本作のデモをプレイしてきたので、その内容をご紹介しよう。
ミュータントの住人たちが住む、周囲から取り残されてしまった世界
本作の舞台は、およそ100年前に降ってきた巨大隕石“月の竜/Moon Dragon”により壊滅的な被害を受け、以来周囲から取り残されてしまった地域“Mutazione”。
かつてのビル街に草木が生い茂る廃墟世界を舞台に、病に伏せる祖父Nonnoを助けるためにやってきた少女Kaiと、ミュータント化した住人たちとの交流が描かれる。
庭の手入れをしながら不思議な歌を歌うおばちゃんに、「またテレビを見ながら寝ちゃったよ」とこぼすおじさん、「目を覚ますぞぉ!」と全裸で水に飛び込む人。自然とともにのんびりと暮らす住人たちの様子を眺めるのは楽しい。
PAX Westでプレイしたデモでは、ミュータントの女の子Miuとの交流が描かれる第3章をダイジェスト的にプレイすることができた。
この章でKaiはMutazioneの集落から森へ抜け、Miuが教えてくれた秘密の水浴び場で過ごす。淡い色合いで描かれる廃墟の中の自然描写や、ゆったりと流れるサウンドが合わさって、絶妙に切なく、美しい。
音楽とガーデニング
サウンドは本作にとって非常に重要な要素で、Alessandro Coronas氏によるBGMはギターが叙情的な染みるいい曲ばかり。ちなみに住人たちによるバンドのライブシーンもあるようで、サントラのサンプル映像ではガレージロック風のボーカル曲も聴ける。
本作でKaiは探索中にさまざまな植物の種子を拾うことができ、それをMutazione周辺の庭に植えてガーデニングをすることができるのだが、それにも音楽が関わってくる。
というのも、種子それぞれに植えられる場所以外に楽器や曲調のテーマなどが設定されており、庭園が完成するとその構成に沿った音楽が生成されるようになっているのだ。
これは当然物語の流れとも関係しており、住人たちがふと口ずさんだ鼻歌などの曲調に合わせて植物を植えてみたり、あるいは思い入れのある花などを捧げてみたりすると、心のより深い部分に触れられるかもしれない。
インディーゲーム賞を席巻すること間違いなし、日本語化が待ち遠しい!
というわけで本作、質の高いストーリー、グラフィック、サウンドが融合した作りになっており、IGFアワードをはじめとする各国のインディーゲーム賞へのノミネートは少なくとも間違いなしの出来だと思う。ぜひ日本語対応の際には幅広い人にプレイしてみて欲しい作品だ。