『パラノマサイト』1周年対談 第四境界のストーリーノート代表・藤澤氏×SQEXディレクター石山氏 「受け継がれるスクエニ『DQ』遺伝子」元上司部下が語るストーリーテリング論

by藤川Q

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『パラノマサイト』1周年対談 第四境界のストーリーノート代表・藤澤氏×SQEXディレクター石山氏 「受け継がれるスクエニ『DQ』遺伝子」元上司部下が語るストーリーテリング論
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 2023年3月9日にスクウェア・エニックス(以下、スクエニ)からリリースされた、完全新作のミステリーアドベンチャー『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』(以下、『パラノマサイト』)。

 完成度の高さが話題となり、日本ゲーム大賞2023では“優秀賞”を受賞。ファミ通・電撃ゲームアワード2023では、“シナリオ部門”“アドベンチャー部門”“ルーキー部門”の3部門で最優秀賞に輝いた。発売から1周年を迎えたいまもファンの熱は冷めやまず、続編やシリーズ化を求める声も多い。

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 そんな
『パラノマサイト』の発売1周年を記念して、ディレクターの石山貴也氏とストーリーノート代表・藤澤仁氏の対談を企画。ふたりは藤澤氏がスクエニ在籍時代、同じ開発チームに所属していたこともある上司・部下の関係だった間柄だ。

 対談では、当時の思い出話から
『パラノマサイト』にいたるまで、いろいろな話題が飛び出した。なお、本稿には『パラノマサイト』のネタバレが満載なので、ゲームをクリアーしてから読み進めてほしい。

藤澤 仁ふじさわ じん

物語制作会社ストーリーノート代表。『ドラゴンクエスト』シリーズのシナリオに携わり、『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』でディレクターを、『ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オンライン』(Ver.1)ではディレクターとメインシナリオライターを務めた。2018年にスクウェア・エニックスを退社後、ストーリーノートを設立。『Project:;COLD』シリーズ総監督や『ドラゴンクエストモンスターズ3 魔族の王子とエルフの旅』シナリオ制作ばかりでなく、小説の執筆を手掛けるなど幅広い分野で活躍している。現在は“第四境界”ブランドから、参加型ARGミステリー作品を次々と展開。

石山貴也いしやま たかなり

スクウェア・エニックス所属。『パラノマサイト FILE 23 本所七不思議』、『スクールガールストライカーズ』などでディレクターおよびシナリオを担当。『ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オンライン』ではVer.1のライブプランナーチーフを務める。過去には『探偵・癸生川凌介事件譚』シリーズのディレクターのほか、シナリオ、演出、脚本から音楽に至るまでを手がける。


 
『パラノマサイト FILE 23 本所七不思議』が期間限定でセール中。

 セール期間は、Nintendo Switch版が2024年4月25日(木) ~ 5月8日(水)まで、Steam版は2024年4月26日(金) 午前2:00 ~ 5月8日(水)まで、スマホ版が2024年4月26日(金) ~ 5月6日(月・祝)までとなっている。

 未体験の方は、この機会に墨田区本所で呪い合いのミステリアスな体験に没入してみては?

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Nintendo Switch版購入サイト
Steam版購入サイト
App Store
Google Play

 藤澤氏のストーリーノートによる“第四境界”は現実と連動したミステリーを展開するプロジェクト。
『Project:;COLD』(プロジェクトコールド)シリーズや『人の財布』など、ARG(代替現実ゲーム)の謎解き作品で大きな話題を生んでおり最新作『かがみの特殊少年更生施設』については以下のサイトからいつでも謎解きに挑戦できる。
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[IMAGE]愛宝学園かがみの特殊少年更生施設


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 “第四境界”公式サイトでは、“かがみの特殊少年更生施設 令和6年度施設案内冊子”や、独自調査の内容がまとめられた冊子なども販売中なので、さらなる深層を探る人は併せてチェックしてみてほしい。

 
『Project:;COLD』シリーズのグッズのほか、大人気で品切れとなっていた、他人の財布の中身から始まるミステリーに挑む『人の財布』も再入荷されていて現在はまだ購入可能だ(2024年5月1日現在)。

第四境界 公式サイト

ひさびさに、サシで焼き肉

石山
 藤澤さんがスクエニを退社されたのは何年前でしたっけ?

藤澤
 2018年だったと思うから、6年前かな。

石山
 もうそんなに経つんですね。当時、おいくつでしたか?

藤澤
 覚えていないんだよね(苦笑)。でも、50歳になる前に独立しようと思っていたから、48歳ぐらいじゃないかな。

石山
 おお。じゃあ、ちょうどいまの自分と同じぐらいですね。

――自然と対談がスタートしていて、さすが旧知のお二人。ちなみに、こうやってお会いになるのは久しぶりなんですか?

藤澤
 3ヵ月ぶりだよね。そのときはサシで焼肉を食べました(笑)。

石山
 はい、実は最近会ってます。その少し前に『春ゆきてレトロチカ』の江原プロデューサー(江原純一氏)と、ちょっと飲む機会がありまして。彼は藤澤さんと仲がよくて、僕が「藤澤さんと久しぶりにお話したいんですよ」と話したら、「誘えば絶対にオーケーしてくれますよ」と言ってくれて。……でも不安で、「え、本当ですか? 大丈夫ですか?」って震えながらダイレクトメッセージを送ったのがきっかけです。

藤澤
 急に恐縮しているけど、『パラノマサイト』が発売されたときに「遊んでください。おもしろかったら宣伝してください」って連絡をくれたよね(笑)。いつも何かあると、「これ遊んでみてください」って連絡をしてくる。

石山
 ホントだ!(笑) 宣伝になるとなりふり構わないので積極的ですね!

藤澤
 なんでご飯だけそんなに恐縮しちゃうのよ(笑)。

石山
 いやぁ、藤澤さんはなんだか忙しそうだなって……。

――それで誘いにくかったと。

藤澤
 しかし、『パラノマサイト』は遊ぶ前からおもしろさが滲み出ていたよね。なかなかまとまった時間が取れなくてすぐにプレイできなかったけど、クリアーして実際におもしろかったので、僕なりにX(Twitter)で宣伝もしたつもりだったのに、急に恐縮しちゃって。そんなに誘いづらいオーラ出してたかな(笑)。

石山
 いやいや、時間も空いてたので……! でも快諾してくださって、ふたりで焼肉に行きました。

藤澤
 そうそう。去年の暮れにふたりで。

――そのときお会いしたのは何年ぶりだったんですか?

藤澤
 実際に会ったのは……何年ぶりだろう。

石山
 藤澤さんが退社された後に一度お会いしたことがありましたよね。

藤澤
 そうだっけ?

石山
 たしか、会社の……近くのお店だったような……?

藤澤
 ごめん、何にも覚えていない。

一同 (笑)。

――記憶が薄れるぐらい久しぶりだった。

藤澤
 たぶん6年ぐらいぶり?

石山
 それぐらいは経っていたかと。

――焼肉屋では、どんな思い出話に花が咲いたんですか?

藤澤
 「久しぶり、最近どうしてんの?」から話が始まって、とくに『パラノマサイト』の話をたくさんしましたね。ここでは言えないことも含めて(笑)。その時に気になることは根掘り葉掘り全部聞いたんですが、最初に感じたのは、『パラノマサイト』はスクエニから出なさそうなゲームじゃないですか。「このゲームがスクエニからどうして出たの?」って話を聞いたと思います。でも、その話は各所でしているよね?

石山
 あ、はい。みんなに聞かれます(笑)。

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『ドラゴンクエストX』のチームで上司・部下の関係に


――『パラノマサイト』の話題の前に、おふたりの関係を教えてください! 事前に、『ドラゴンクエスト』(以下、『DQ』)のチームでごいっしょされていたと伺っています。

藤澤
 そうなんです。初めて会ったときのこと覚えている?

石山
『DQX』のチームに僕がアサインされたんですよね。

藤澤
 Ver.1がリリースされる2年半前ぐらいにね。当時、僕は『DQⅨ』の開発が終わって、『DQⅩ』のチームに本格的に復帰したんですよ。そのときチームを再編成しなきゃいけないタイミングで、りっきー(齋藤力氏)がチーフプランナーになったんです。

 ただそうすると、ライブチームのリーダーが空席になるので、誰かいい人はいないかなって探していたとき、いい仕事をしている“活きのいい人がいる”みたいな話を聞いて……。そこでふたりでご飯を食べに行ったんだっけ?

石山
 藤澤さんとご飯に行ったのはチームに合流した後ですね。合流する前は吉田さん(吉田直樹氏)や齊藤陽介さんから『DQⅩ』のチームに誘われました。で、ゲーム業界、さらにスクエニに在籍しているなら、一度は『DQ』シリーズに携わってみたかったですし、自分にとってもいい経験になるだろうと考えて、すぐに「お願いします」と。

藤澤
 “しゃまくん”……あ、僕は石山くんのことをそう呼んでいたので、今日も“しゃまくん”でいい?

石山
 はい(笑)。あ、『DQⅩ』のチームは、同じ名字のスタッフがいる場合、後から合流した人が自分でニックネームを決めるというルールがありまして。

――なんと、そんなルールがあるんですか。

藤澤
 しゃまくんは、前にいたチームではシナリオを担当していましたが、『DQ』にはすでにシナリオチームがあったので、シナリオの仕事は振れませんでした。なのでプランナーとしてチームに入ってもらって。最初から才能を発揮してくれて、非常に助かった記憶があります。

石山
 うへへ、ありがとうございます。

――石山さんは藤澤さんと初めてお会いしたときのことを覚えていますか?

石山
『DQIX』でディレクターを担当した藤澤さんという方が、『DQⅩ』でもディレクターを担当されているとだけ聞いていましたが、実際にどんな方かは知りませんでした。印象としては……こういうと誤解を生むかもしれませんが、「わ、ちゃんとしたディレクターだ!」と……。

藤澤
 これまでのディレクターがちゃんとしてなかったみたいじゃん(笑)。

石山
 いやいや、決してそういうわけではなく!(笑) なるほど、『DQIX』『DQⅩ』のようなビッグプロジェクトを引っ張っていくディレクターって、こういう人なんだな、すごいなと感銘を受けたんです。なので、自分にしてはすごく珍しいんですけど、お会いしてすぐにメールで「藤澤さん、飲みに行きましょう!」とお誘いしました。

藤澤
 あ~、覚えてる、覚えてる。

石山
 そしたら、こちらはお近づきになりたくて思い切ってお誘いしたのに、「りっきーといっしょだったらいいよ」みたいな返事が来まして。

藤澤
 いやな返しをするやつだったなぁ(苦笑)。今改めて聞くと。

石山
 なんとなーく、女の子と仲よくなりたくて誘ったのに「友だちといっしょならいいよ」と言われたみたいな気持ちになったのを覚えてます(笑)。あ、なんか警戒されてるのかなって。いや、りっきーさんがいっしょでも全然よかったんですけども!

藤澤
 覚えている(苦笑)。りっきーを誘ったのは、しゃまくんのことをプレゼンしてくれたのがりっきーだったからだよ。「こういう人がいるんですよ。すごい人だから絶対にチームに入ってもらったほうがいいですよ」と言われて。だから何となく、しゃまくんのことをりっきーとセットで考えていたのかもしれない。

石山
 いや、ありがたいです。りっきーさんとは、自分がスクエニに入社する前からの知り合いでした。

抜群のテキストワーク


――『DQⅩ』でチームになられて、どれぐらいいっしょにお仕事をしたのですか?

石山
 自分はVer.1のリリースまでチームにいたので、だいたい2年半ぐらいです。

藤澤
 しゃまくんはシナリオが得意なのにシナリオではない仕事をお願いしてたんですが、やっぱり彼はテキストワークが抜群にうまいんですよ。『DQ』はシナリオ以外にも、システムメッセージなどのさまざまなテキストがあるじゃないですか。これらのテキストはシナリオチームやプランナーでも難しくて、上手に書けるのは彼しかいなかったんです。

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石山
 うへへへ。……いや、そこまで褒めてもらうと恐縮ですが……。

藤澤
 でも本当にそうじゃない? “旅人バザー”を担当したりしていたよね。

――旅人バザー?

石山
『DQⅩ』には新しい町の施設がたくさんあって、旅人バザーもそのひとつでした。プレイヤー同士でアイテムを売買できるバザーのシステムが必要だったのですが、オンラインRPGになった『DQ』として、どういうインターフェースで買い物や検索をさせるのがいいかというのをライブチームで担当していまして。で、僕が実際に動くサンプルを作ってみました。それがすごく褒められたのは覚えています。

藤澤
 彼が用意してくれたのはただのシステムメッセージではなくて、施設にはNPC(ノンプレイヤーキャラクター)がいるじゃないですか。旅人バザーもそうですが、『DQⅩ』にはシリーズで初登場の施設がたくさんあったので、それらの施設にいるNPCのセリフはゼロから作っています。しゃまくんは、このシステム会話テキストを任せられる数少ないスタッフだった。というか、初期のシナリオ以外のテキストは、僕と彼がふたりでほとんど書いたんじゃないかな。

――たったおふたりで!?

藤澤
 これは仕方がないことなんですが、シナリオチームのスタッフはゲームシステムに対する理解が深くないし、プランナーはテキストを書くのにあまり慣れていない。ゲームシステムをちゃんと理解してテキストも書けるのは、しゃまくんだけだったんですよね。だから、チーム内でも公言していました。「任せられるのはしゃまくんだけ」って。

石山
 いやいや、ありがとうございます。なので、当時の町の施設にいるNPCのセリフなんかも少し書かせていただいてました。

――そのセンスはどうやって身につけたんですか?

藤澤
 生まれ持ったものなんじゃないかな?

石山
 でも、自分は昔から『DQ』シリーズが大好きで、自然と『DQ』らしさとか文法が身に染みついていたのがよかったのかなと。それが根底にあるので、一方的に『DQ』イズムのようなものを受け継いでいるのかなと勝手に思ってます(笑)。

藤澤
 そうはいってもなかなかできないと思うよ。しゃまくんはセンスがいいから。旅人バザーも“旅のコンシェルジュ”も彼が名前をつけたんですよ。

――それはすごい。

石山
 あ、そのエピソードですごく印象に残っていることがありまして。旅のコンシェルジュというのは宿屋でさまざまな案内をしてくれるNPCなんですが、その施設の名前を決める際に、最初は「冒険コンシェルジュはどうでしょう」と提案したんです。

藤澤
 そうだっけ?

石山
 そしたら藤澤さんが、「いや、そこは冒険じゃなくて、旅で」と。その瞬間、ああああそうか、なるほど、『DQⅩ』は冒険じゃなくて旅なのか! って、ほかのいろいろなゲームシステムが脳内でピッタリとハマって、妙に腑に落ちたのを覚えています。

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――旅のコンシェルジュはふたりの合作だったんですね。

藤澤
 ごめん、まったく覚えていない(苦笑)。

石山
 いえいえ(笑)。でも旅だとわかったので、バザーについても“冒険者バザー”みたいな名前を想定していたんですけど、旅人バザーで提案しました。

藤澤
 どちらがいいかって、もはや禅問答みたいだけどね。

石山
 でもそういう“細部にもちゃんとこだわるべきなんだ”というところにも感銘を受けました。

藤澤
『DQ』シリーズは細かいところまで強いこだわりがあるから。

石山
 ファンとしてプレイしているときもこだわりは感じていましたが、実際に開発に携わることでよくわかりました。藤澤さんたちの仕事ぶりを見てからは、自分も細かいところまでちゃんとこだわろう、こだわっていいんだ、と考えるようになりました。

藤澤
 ちなみに、この話にはちゃんとクライマックスがあるんですよ。僕としゃまくんが立ち向かったラスボスがいて。

――ラスボス……ですか。

藤澤
『DQⅩ』はシリーズ初のオンラインゲームじゃないですか。なので、初めてオンライン接続をするまでの導入テキストがとても難しかったんです。で、ある日堀井さん(堀井雄二氏)にチェックをしてもらう日に、こっちはゲームの中身をチェックしてもらおうと思ってたんですが……堀井さんは、この“導入テキストが気になっちゃう”わけですよ。

――ゲームの中身に入る前に。

藤澤
 そう。「いや、これじゃあみんなオンラインの世界に入ってこれないよ」って。その日はたしかゲーム内容のチェックのために3時間ぐらい時間を取ってたんですが、2時間40分ぐらいは導入テキストの話をしていたと思います。けっきょくゲームの中身はチェックしてもらえなくて、最後は堀井さんも「とにかくわかりやすくしてよ」って。それで導入テキストも書き直すことになったんですが、時間がなかったからふたりで集中して作業したよね。

石山
 はい。オンライン接続をするために必要な手順をホワイトボードに書いて、アカウントの作成、クレジットカードの登録など、ハードルとなるものをひとつひとつ確認しながら。

藤澤
 これは本当に聞く必要があるのか。この説明は冗長じゃないか。一文字一文字チェックして、もう直すところはないだろうっていうくらいに仕上げて、再度チェックをお願いしたら、それは堀井さんに一発オーケーをもらえました。

――おお!

藤澤
 これは僕の誇りでもあるんですけど、そこまでこだわってオンライン接続の導入テキストを作ったから、『DQⅩ』の導入で引っかかったという話は聞いたことがなくて。

石山
 それでも、最後の最後にひとつだけ、堀井さんから指摘がありましたよね。細かいところで。

藤澤
 あったっけ?

石山
 手続きが全部終わった最後に、オンラインモードを始めますかという質問に対して、「はい/いいえ」で答えるんですが、堀井さんが「そこのデフォルトのカーソル位置だけ『いいえ』にしておいてほしい」と。

藤澤
 あぁ、あったね。プレイヤーが自分の意志で「はい」を選んで、オンラインの世界に入ってほしいからって。

――気遣いが底知れない……!

藤澤
 そう。『DQ』シリーズは本当に信じられないくらい細部までこだわっているんですよ。堀井さんとは何度も仕事をしていたので、ゲーム部分についてはある程度信頼してくれていたと思いますが、初めてのオンラインゲームということで、ユーザーがいちばん気になるであろう部分を、堀井さんはわかっていたんだなと思います。これがラスボスのエピソードで、いちばん印象に残った出来事だったよね?

石山
 チェックが厳しいという噂は聞いていたので、堀井さんからオーケーをもらえたときは、ものすごく安堵しました。

藤澤
 しゃまくんが、『DQ』シリーズの文脈を壊さずに、お客さんにわかりやすいテキストをまとめる勘所を持っていたから助かりました。シナリオチームのスタッフやプランナーとではできなかったと思うので、僕にとってしゃまくんは唯一無二の存在でしたね。

石山
 うへへ、光栄です! 当時はたいへんでしたが、『DQⅩ』での経験は次に開発した『スクスト』『スクールガールストライカーズ』)でも役立ちました。プレイを始めたときの導線や世界観の見せかたなどは、だいぶ影響があると思います。

藤澤
 (『スクスト』は)ユーザーが引っかかりそうなところがなかったもんね。

『パラノマサイト』のシナリオの完成度に藤澤氏も驚愕!


――そういえば、『パラノマサイト』でも同じでしたよね。案内人が登場して説明してくれますが、興味を惹かせるようになっていて。

石山
『パラノマサイト』はオンラインゲームやスマホゲームのようなめんどうな説明はしなくてもよかったので、プレイを始めた瞬間にゲームの世界に引き込んで、いきなりどっぷり浸ってもらおうと思って、最初にスクエニのロゴが表示されるところからタイトル画面もなくブラウン管テレビになってゲームが始まるという演出にしてみました。

藤澤
 僕は『探偵・癸生川凌介事件譚』シリーズをプレイしていなかったので、彼がいいテキストを書くのは知っていたけど、物語を作る力がどれぐらいあるのか知りませんでした。だから『パラノマサイト』をプレイして、本当にビックリしましたね。それによかったなって。当時、しゃまくんが『DQⅩ』のチームを離れて新しいことをやりたいって言ったときに、開発が佳境の時期だったので、彼が抜けることに反対するスタッフも多くいたんですよ。でも僕は、しゃまくんみたいに才能を持っている人が新しいゲームを作らないのは会社としてよくない、応援して送り出してあげようよと周囲を説得したんですよ。

石山
 その節は本当にありがとうございます。おかげさまで『スクスト』『パラノマサイト』もそこそこヒットしたので、そう言ってくださった藤澤さんの面目も立ったのかなと胸をなで下ろしています(笑)。

――『パラノマサイト』をプレイして、藤澤さんがとくに印象に残っているシーンやセリフは?

藤澤
 やっぱり“聡(さと)い”だね。

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一同 あぁ~。

藤澤
 うまいなぁって。絶妙にずらしてくるのが(笑)。

石山
 何とか流行らせたかったんですけど、そこまで流行りませんでした(笑)。

藤澤
 言葉遊びが好きというか、文学好きな身としては「聡い」は笑ったね。

――「聡い」はどうやって思いついたんですか?

石山
 あんまり使わない褒めかたをしたかったんです。それで調べていたら、「聡い」を見つけて、これだって。

藤澤
 わかっているな~。そうそうこういうのって。絶対に「聡い」だよなって。

石山
 心に引っ掛かる言い回しは意識していました。

藤澤
 興家と葉子の会話も冴えているよね。読んでいるだけで楽しい会話って、書こうと思って書けるもんじゃないので、彼は本当に物語を作るのが上手な人だったんだなって実感しました。

石山
 今回、ちょっと物語の導入としては、ややスロースタートになっちゃうなというのがありまして。できれば最初になるべくショッキングな出来事を起こしたほうが、つかみとしてはいいのですが、前提としてできるだけ早く本所七不思議の説明をしなければいけない。なので、物語が動き出すまでのふたりの会話をいかにおもしろくするか、退屈させないようにするかは気を遣いました。

藤澤
 力量のないライターが書いたら、本当につまんないシーンになってしまうのだと思う。だからこそ、そこはやっぱり卓越してるなと思いましたね。あとは、蝶澤が出てくるシーンで物語的には大転換するじゃないですか。同じ味が続くなっていうところでスッと薬味を入れてくる。うまいな~って。ここで場面転換しないとダメなんだよってところでちゃんとなっているんですよ。物語の作りかたをこんなにわかっている人だったんだなって、ここでも驚きました。

石山
 うへへへ、ありがとうございます。

――シナリオはかなり推敲されたんですか?

石山
 自分でプレイしてみて、単調だなと感じたら、後で起こそうと思った事件を早めに持ってくるなど、シナリオの起伏は意識しながら調整しています。

藤澤
 それもシナリオに対する正しい審美眼がないとできないよね。『DQⅩ』のオンラインに接続するまでの流れと同じで、自分の感性を信じて何度も繰り返し推敲しないといいものは絶対にできない。それができる人は本当に少ないからすごいと思う。

石山
 今回、自分でも発明だったと思っているのですが、“説明が面倒なことをシステムメッセージで言っちゃう作戦”というのがありまして。

藤澤
 あ~、やっていたね。

石山
 たとえば、最初に弓岡を殺したときに、入手した滓魂(さいこん)がごくわずかだったことを説明するとき、その場にいる興家のセリフで伝えようとすると「いま俺の滓魂が溜まった気がするが、とても少ない量だったようだ」といった不自然な感じになりますよね。

藤澤
 そうだね。

石山
 そうするとわざとらしいし、量がどの程度少ないのかもわかりにくい。それでしばらく悩んだ結果、システムメッセージで「1%得た」と言いきっちゃえばいいと思いついたんです。興家は感覚で理解してることなので、ユーザーにはその情報だけ端的に伝えられればいいんだって。

藤澤
 一切の説明の手続きを省略しちゃう。

石山
 そうなんです。あと、細かい説明はすべて資料ページにまとめていて、本編のシナリオでは最低限のことしか書かないようにもしています。キャラクターの関係性も、その時点で当人が隠していない情報についてはあらかじめ人物リストに書いてあって、先にちゃんと読んでいる場合は資料で得た情報によって想像がふくらむし、読んでいなくてもストーリー進行的に問題ないようにしています。そういった細かい設定や情報を資料に逃して本編をスッキリさせることができるのも、アドベンチャーゲームのスタイルでしかできない便利なシステムじゃないかなと。

藤澤
『街』『街 〜運命の交差点〜』)や『428』『428 封鎖された渋谷で』)にもTipsがあったじゃない。物語をちゃんと補完してくれるうえで、テンポを崩さないシステムが『パラノマサイト』でもちゃんとできている。

石山
 資料には見たい人だけが見ればいい情報をまとめていますが、しれっとそこに伏線を仕込んであったりもします。たとえば、逆崎約子の人物リストには“ちゃきちゃきの江戸娘で、短気で喧嘩っ早い”といったことが書かれていますが、最初に登場したときは物静かな感じで説明と合っていない。ストーリーを進めていくとその理由がわかるんですが、人物リストを読んだ人はそれに気づけるようにしてあります。楽しみかたがプレイヤーによって変わるのは、ゲームならではのおもしろさかなと思います。

藤澤
 人物リストのプロフィールが途中で更新されるので、見なきゃと思ってつい見ちゃう。資料を見れば物語が深まっていくけど、見たくない人は見なくてもいい。そのバランスがちょうどいい塩梅だよね。

――確かに。

物語を伝えるのに文字はいらない

藤澤
『パラノマサイト』はユーザーのモチベーション設計もうまい。文章を読むのって、文字量が多いと辟易するじゃないですか。読書好きでも集中力は削られていく。だから文章主体のアドベンチャーゲームは、文章を読むことにどれだけ前向きになれるのか、ユーザーのモチベーションをうまく設計する必要があるんです。まとまった文章を読ませるためにはテクニックも必要だけど、暮れに話を聞いたときに「『パラノマサイト』がうまくできたのは、しゃまくん自身が本を読むのが苦手だから」と教えてくれたよね。

――え!? シナリオライターの方は、本好きな人が多いと先入観で思っていました。

石山
 実は苦手で……。長い文章はできるだけ読みたくないです。

藤澤
 長い文章を読むのが好きな人はそこの感覚が鈍っているので、長い文章をよしとしちゃう。つらいと思う感覚に対して無頓着になってしまうけど、そこに細心の注意を払っているから読みやすいんだろうなって。

石山
 そんな自分でも読みやすいようにとは意識しています。

藤澤
 僕はいまストーリーノートというシナリオの会社をやっていますが、本来は“文字が一文字もない”ほうがいい、といつも社員に言っています。たとえば、『ICO』『ワンダと巨像』にはテキストがほとんどないじゃないですか。僕はこういう物語の伝え方が正しいと思っていて、とくにゲームではそうあるべきだと思います。

――物語が伝われば、文字はいらないと。

藤澤
 もちろん、アドベンチャーゲームはシナリオを読ませるゲームである以上、文字は必要になりますが、文章を読ませることは人にストレスを与える行為なんだということを正確に理解できていなければ、おもしろいアドベンチャーゲームは作れない。だから、“本を読めない”と聞いたときに腑に落ちたんですよ。実は本を読めない人のほうがシナリオライターに向いているのかもしれない。

石山
 そういう意味では、『パラノマサイト』は小説を読むのは苦手だという人にも遊んでもらいたいですね。SNSなどで、文章の多いゲームはしんどいけど、『パラノマサイト』はおもしろかったという意見を見るとうれしいです。

藤澤
 まだ遊んでない人から見ると、『パラノマサイト』は文学的に見えるかもしれないけど、これは小説ではなくてマンガに近いんだよってわかってほしいですね。

――会話シーンの見せかたもふつうのアドベンチャーゲームとは違いますよね。

藤澤
 そこも石山貴也の才能だと思います。『パラノマ』の演出は上手だったよね。みんなに褒められるでしょ?

石山
 あの演出に関しては、『スクスト』を長年担当した経験が活きていると思います。当時は毎週のようにイベントを作らなくてはならなかったので、四六時中キャラクターの基本モーションとカメラとテキストだけでおもしろい会話シーンを考え続けていましたから。

――なるほど。

藤澤
『パラノマサイト』は、シーンに応じてキャラクターの表情をアップにしたり、カメラを変えたりしたりしていて、とにかく演出は冴えていたね。

石山
 小林(小林元氏)には、キャラクターの顔をアップにするので、解像度は高めに描いてくださいとお願いしていました。絵のパターンが少なくても、ダイナミックさが出せるようにしたかったので。

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藤澤
 しかもカメラロールも的確に使うじゃない。心理描写を絵で表現するのが上手だな~って。

――表情もテキストにマッチしていていいですよね。

藤澤
 そうなんですよ。

石山
 ありがとうございます。それができているのなら、きっと“表情を見ながらテキストを書いているから”だと思います。先にテキストを書いてあとから演出を当てはめる方法だと、どんどんリソースが必要になってしまうので、限られたリソースの中でうまくやりくりするために、イラストを先に描いてもらいました。

藤澤
 キャラクター設定も考えられているよね。登場人物たちは、表情パターンが少なくても成立するように作られているから。

石山
 そうですね。基本ポーズは目差分や口差分を組み合わせてどうにかなるようにしています。

――『パラノマサイト』は登場人物も人気ですよね。人を呪い殺しちゃうキャラクターもいるのに、どこか憎めないといいますか。

石山
 ホラーミステリーでもキャラクターは大事だと思っているので、遊んでくれた方が「こいつイイな」と感じてくれるように気を使って描くようにはしています。実際に登場人物たちを好きになってくれた方も多いみたいで、グッズを購入して応援してくれるのはありがたいです。ほんとに。

藤澤
 グッズが売れるのは大事だよね。

石山
 ビジネス的なお話になりますが、グッズの売れ行きがよければ、新しいIPとして会社にもさらに認めてもらえますからね。

――大事ですよね。ところで、キャラクターを考えるときは、どこから考えていくのですか?

石山
 作劇上の役割から考えていきますが、どこかにギャップは出そうとか、何かしら引っ掛かるところは入れるようにしています。たとえば利飛太のようなルックスのキャラクターは、態度がデカいというか、俺様系のキャラクターになりがちなところを、あえて言葉遣いを穏やかにして一人称も“僕”にすると意外性が出るかな、といった感じに。利飛太の場合は、そんなふうに性格や設定をかためていったところ、いまのようなキャラクターになりました。

 逆に襟尾は大人しそうな優男系の見た目のキャラクターだったので、一人称を“僕”ではなく“オレ”にしてみたら、ああなりました(笑)。キャラクターの口調や性格を考えるときは、一人称から考えていくことが多いですね。

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藤澤
 勉強になりますね。最終的なゲーム画面を見ながらセリフを調整していく作りかたは正しいなと思います。

――藤澤さんは、セリフや表情はどのように決めているんですか?

藤澤
『DQ』チームにいたときはディレクターだったので、いろいろなやり方で決めていました。最近はシナリオに徹しているので、セリフにどの表情をつけるかは依頼主にお任せすることが多いです。でも、本来であれば、しゃまくんのようにシナリオを書いた人がセリフに合わせて表情を選ぶのが正しいやり方だと思う。『パラノマサイト』はそこがちゃんとできたので、完成度が高くなった要因かなと考えられますよね。

石山
 低予算の中でクオリティーを上げるために、そういう方法を取りましたが、『DQ』シリーズのように規模が大きくなると、作業を分担せざるをえないですよね。

藤澤
 それはそうだね。シナリオライターにカットシーンを作れとは言えないから。『DQ』シリーズのような分業が完璧にできていないようであれば、本来は担当者を同じにするべきなのだとは思う。

――石山さんは、シナリオを考えるイベントの映像も想像しながら書いているんですか?

石山
 そうですね。映像だけではなく、ゲーム体験すべてを通してユーザーが何を感じるのかを意識しています。どこでボタンを押させるかといったことから、どのタイミングでどの音を鳴らすか、情報を本編のシナリオと資料、システムメッセージにどう分けるのかまで、そういったところを全部しっかりとコントロールしてシナリオを表現したいタイプなので、例えば「テキストだけお願い」と言われても、絶対に演出とか表現には口を出したくなっちゃうと思います。

藤澤
 わかる、わかる。ここセリフを出す前に表情を変えるの1秒遅くしてくださいとか……エクセルに200行くらい赤字で修正指示を出すんでしょ。

石山
 そうなんですよ(苦笑)。

藤澤
『DQ』でも同じようなことをやっていたよね。すでにビデオテープが過去の遺物だった時代に、カットシーンをビデオテープに録画してチェックするんですよ。実機だと、チェック日に動かなかったりするので。ビデオテープを再生しながら、「ここはBGMを変えないで」、「ここは表情を変えて」とか、事細かくチェックして指定してたから、クオリティーを保てていたので。

石山
『パラノマサイト』では自分ひとりで同じことをやりましたね。小規模だからこそできたことですが。

――ヒットした要因のひとつがわかりました。

藤澤
 ただ、これは属人性が高いので、だれでもできるわけではないんですよ。

石山
 でもそういった細かすぎる調整ができなかったら、『パラノマサイト』はこれほどの評判は得られなかったかもしれないと思うと、難しいところですよね……。

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『パラノマサイト』流のシナリオ、音楽、キャラクターの作りかた



藤澤
 題材の“本所七不思議”も、絶妙に好奇心をくすぐられるネタだったよね。焼肉屋でも質問したんですよ。「なんで本所七不思議をモチーフにしたの?」って。

石山
 そこはもう、自分のネタの引き出しに本所七不思議はなくて、プロデューサーの奥州(奥州一馬氏)が「本所七不思議はどうか」と提案したのがきっかけです。墨田区さんも本所七不思議を観光資源にしていたので、プロモーションでうまく協力できたのもよかったです。

藤澤
 プロデューサーの目利きもあったと思うけど、題材が本所七不思議に決まってあのシナリオを書けるのがすごい。「僕は昔から本所七不思議が大好きで、やっとゲームの題材にできたんです」と言われたほうがしっくりくる。

――そうですよね。本所七不思議に陰陽道を絡めるようなマニアックな設定にも唸らされました。

石山
 やっぱり、オカルトが好きな方は陰陽道が好きじゃないですか。それに『パラノマサイト』の世界には霊感や霊能力があることを知ってもらうために、突拍子もない設定を考えるよりは、陰陽道をベースにしたほうが説得力は生まれるかなというのもあります。用語や設定は陰陽道などから引っ張ってきて、そこにオリジナルの要素を加えて。

――昭和の時代設定もいいですよね。当時のオカルトブームのような雰囲気にマッチしていて。

藤澤
 作中の時代の想定は昭和何年なの?

石山
 具体的には公表していませんが、1980年代前半のイメージです。

藤澤
 ファミコンと同じくらいの時期(1983年発売)なのか。音楽もレトロな感じがするもんね。音楽といえば、とくにオープンニングの曲がヤバかった。クオリティーが高いなって。シリーズ化するのかどうかはわかりませんが、シリーズ化するなら『DQ』シリーズの『序曲』のようになってほしいよね。

石山
 まさにそんなイメージで作ってます。

――狙い通りだったと。

石山
 はい。岩﨑(岩﨑英則氏)には、本所七不思議や墨田区みたいな、今回だけしか使わなそうなモチーフのイメージは、メインテーマには含めないでくださいとお願いしました。今後、どんなオカルトの題材を選んでも受け止められるテーマ曲にしたかったので。

藤澤
 そういう意味では、『パラノマサイト』の作品としての“芯”は何なの? “パノラマ”操作?

石山
 う~ん、自分としてはオカルトやミステリーのところだと思っています。パノラマ操作に関しては必須だとは思っていなくて、たとえばフル3Dにしても成り立つようにはしたいなと。

名付けの呪術?

藤澤
 そうなんだ。しかしタイトルも絶妙だよね。

石山
 いやあ……タイトルに関しては、多くの人からパラノマとパノラマが紛らわしいと言われて「あれ? コレもしかしてやっちゃった?」と思ったりもしましたが(苦笑)、そこは時間が解決してくれると信じてます。たぶん。きっと。

――そうですね。そしてキャラクターの名前もユニークですよね。名前はどうやって考えているのですか?

藤澤
 確かに独特だよね。

石山
 そこは、まず検索で探せるユニークな名前にしたいなとは思っていて、かつキャラクターのイメージに沿いつつ、調べてみたらちゃんと意味のある名前が理想ですが、奇抜すぎるとわかりにくいとか読みにくいとかになってしまうので、バランスを考えながら名付けました。漢字辞典や故事成語辞典などもチェックしてネタを探すこともありますし、単純に語感で決めることも多いです。でも、そんな理想を追い求めると、ぜんぜん決まらなくて……。だからキャラクターの名前を考える時間は、すごく嫌です!(笑)

[IMAGE]
石山氏はペットのネーミングセンスもかなりユニーク。葉子の犬の名前はなんと“オゴポゴ”。彼女はなぜこの名前にしたのだろうか……。謎は深まるばかり。

――石山さんはRPGの主人公の名前を決めるときも悩むタイプでしょうか?

石山
 めちゃくちゃ悩みますね。ちゃんと世界観に合った名前をつけたいので。デフォルトネームがある場合は、絶対それを使います。

――やっぱり(笑)。

藤澤
 あとプレイしていて思ったのは、『パラノマサイト』みたいな劇画調のデザインのゲームって懐かしいよね。昔、『クロス探偵物語』というアドベンチャーゲームがあって、すごく好きだったんだけど、その文脈が感じられてうれしかった。

石山
 等身大の、リアリティーのあるデザインにできたのは、小林がこの仕事を受けてくれたことが大きいですね。そういうイラストが描けるイラストレーターから探すとなると、途方もないことになっちゃうので……。

藤澤
 小林さんとは『スクスト』からいっしょに仕事をしているんだっけ?

石山
 はい。すごく器用な方で、いろいろな絵柄に合わせて描いてくれます。

藤澤
 確かに、『スクスト』『パラノマサイト』では絵柄が違うもんね。

石山
 小林は『すばらしきこのせかい』のイラストも描いていますからね。

藤澤
 劇画も美少女もポップなイラストも描けるのか。それはすごいな。

――劇画調のイラストにすることは最初から決まっていた?

石山
 いえ、劇画でいこうというふうには決めていなくて。小林が描きやすいタッチにしていったら、自然といまのテイストになりました。こちらとしても、頭身はリアル寄りが良かったので言うことなしです。

ふたりがシナリオでチャレンジする“メタ要素”

藤澤
『パラノマサイト』はメタの使いかたもよかったよね。僕の会社では、『Project:;COLD』『かがみの特殊少年更生施設』など、インターネットを使って展開するミステリー作品を作っていて。

――まさに、現実世界と地続きになっているかのように感じる謎解きですよね。

藤澤
 これはただのゲームではなくて、作中の時間軸と現実世界の時間軸を同じに設定して、フィクションなのかノンフィクションなのか際どいところをつくような物語なんですよ。だからメタフィクションについては、それこそ毎日のように考えているんですけど、『パラノマサイト』はまた、ものすごくうまいことをしているなって。

石山
 うへへ。藤澤さんにそういってもらえるとうれしいです。

――藤澤さんが指摘したメタ要素は、最初からやろうと考えていたのですか?

石山
 はい。シナリオライターなら、メタとタイムパラドックスはみんな一度はやってみたいネタじゃないかと(笑)。それに『パラノマサイト』は最初から海外での展開も考えていました。メタ要素は海外でも人気ですから。いわゆる“第四の壁”(舞台と客席を分ける一線。ゲームにおいてはプレイヤーとゲームの境目をなくすこと)については興味がありました。

――まさに主宰されている“第四境界”で仕掛けた『かがみの特殊少年更生施設』もSNSから大きなバズを巻き起こして話題になりましたが、藤澤さんもメタな仕掛けには昔から興味が?

藤澤
 僕は『予言者育成学園 Fortune Tellers Academy』もそうだったんですが、本来交わらないはずの現実世界とゲームを交えて、ひとつのコンテンツを作ってみたかったんです。それの進化系が『Project:;COLD』『かがみの特殊少年更生施設』でもあるんだけど。……メタをなんでやりたいのかって言われると、そこに“まだ見ぬおもしろさ”がある気がするからです。

 ゲームはハードが進化しない限り、新しい表現がだんだん行き詰まりになるじゃないですか。まだ誰もやっていない領域を考えたときに、メタだったらみんなに新鮮な驚きを作れるんじゃないかっていう思いがすごく強いんです。しゃまくんはどう?

石山
 僕は、フィクション作品はすべて“説得力との戦い”だと思っていて。

藤澤
 わかる。

石山
 「これ、うそじゃん」と思われてしまったらそこで終わりなんです。ファンタジーの世界であっても、ある程度リアリティーがないと感情移入ができなくなってしまうので、現実とゲームがリンクするメタの要素は、説得力という意味ではすごい重みを感じるというか。

 じつは
『スクスト』でも説得力を出すために、現実世界とゲームがリンクする仕掛けをふんだんに取り入れているんです。作中でのプレイヤーはカメラ機能をもったネコという設定で、作中に登場する女の子たちはカメラを通してスマホを見てるプレイヤー自身に話しかけているという体裁で物語が進んでいきます。スマホの暗い画面に自分の姿が映り込むことを想定した仕掛けなんかもありました。

藤澤
 おもしろいね。

――現実世界とゲームがリンクするとゾクゾクっとします。

藤澤
 小島監督(小島秀夫氏)の『メタルギアソリッド』でもあったよね。“パッケージの裏を見ろ”とかって。どこに仕込んでいるんだって実際にパッケージを手に取って隈なく探して驚いた。

――小島監督と言えば『ポリスノーツ』には、テレビの音量ネタもありましたよね。

藤澤
 あった、あった(笑)。そういえば『パラノマサイト』には、音声設定にまつわるネタがあったよね。

――気付いたときには驚きました。なるほどって。

石山
 あれは、この作品の構図を伝えるためにわりとベタなネタを使ったつもりだったのですけど、斬新に映った方もいたようで、だったらそれはそれでヨシと(笑)。ただ、最初からちゃんとヒントは入れてあって、気づく人はこのゲームはボイスがないのに、なんでボイス音量を調整できるんだろうって気づいていたと思います。

藤澤
 僕らのゲーム遍歴からすると、いまさらこのネタって思うものでも、いまの若い人たちには新鮮だったんじゃないかな。ホラーやオカルトって、同じことを繰り返しているところもあるから、僕らぐらいの世代になると、大抵「前も同じようなの見たな」って感じてしまう。でも、若い人にとっては初めての体験だからちゃんと刺さる。それで『パラノマサイト』は若い層にも受けたという要素もあると思うのだけれど、ユーザー層は実際どうだったの?

石山
 20代がいちばん多かったそうで、スクエニのタイトルの中でも若い層が多いみたいです。欲を言えば10代にも遊んでもらいたいんですが、CEROが“D”(17才以上対象)なので……(苦笑)。

――けっこうショッキングなシーンがありますもんね。

藤澤
 “置いてけ堀”が登場するシーンと、葉子が呪殺されたときの表情はビジュアルのインパクトがすごかったからね。とくに葉子の死に顔は、うちの会社で定型文になったくらいだからね。キャラクターの表情を聞かれたときに、「葉子の死に顔みたいにして」って(笑)。

[IMAGE]

一同 (笑)。

――葉子は座ったまま亡くなっていたのも衝撃的でした。

石山
 背景をパノラマで表現しているため倒れているとわかりにくくなってしまうので、座ったまま亡くなるようにしました。首をだらっとさせて、口から水を垂らして溺死だと見えるようにもして。

藤澤
 ヒロインかなって思った子が急に死んじゃう。さらに、BGMと置いてけ堀と葉子の死に顔で掴みは完璧。ホラーから入って、ちゃんとアドベンチャーゲームになって、ヒューマンドラマにもなって、満腹感とともに終わる。

――流れも完璧で大満足なんですよね。

石山
 おお、それはよかった!(笑) やれることは全部やっておこうと思って。

藤澤
 続編のアイデアは枯れていない?

石山
 ああ……たぶん大丈夫です。常にそんなに新しいことをやらなくてもいいのかもと思っているので。これをフォーマットにして作品のテーマやアプローチ方法は変えつつも、同じようなことをやっていく感じがいいのかなと。

藤澤
 案内人っていう作品を代表するキーキャラクターもいるしね。

石山
 はい。まさに『世にも奇妙な物語』のタモリさん的なイメージです。

一同 (笑)。

――発売してすぐに、エンディングまで配信オーケーにしたのも、若い世代に認知されるきっかけになったと思います。

藤澤
 エンディングまで解禁したのは思い切ったよね。ふつうに考えたら、ネタバレできないアドベンチャーゲームではやらないから。

石山
 そう考えますよね。でも、今回は予算が限られていて大きな宣伝はしてなかったんで。宣伝をたくさんしているゲームだったらマイナスが大きかったかもしれないですけども、『パラノマサイト』のように宣伝をしないのであれば、露出が少しでも増えればプラスになるかなと。

藤澤
 なるほど。

石山
 もちろん配信を見て満足する人はいるとは思いますが、せっかくだから続きは自分で遊んでみようと買ってくれる人もいる。ひとつの配信を見て、ひとりでも買ってくれる人がいたらこちらとしてオーケーだと考えました。配信を見なければ、絶対に知らなかった層にも認知させることができたんで。

藤澤
 その割り切りはすごいなあ。ここまでは見せてもいいけど、特定のエンディングはダメって制限を設ける方法もあったと思うけど。

石山
 でも制限があると配信されにくくなっちゃうんで……。

藤澤
 やっぱりそうだよね。

石山
 たとえゲームの購入につながらなくても、次回作が出たら買うと言ってくれている方もいますし、登場人物が気に入ってグッズを買ってくれるファンもいるので、いいのかなと。『Project:;COLD』のイベントにもたくさんのファンが集まって、グッズもたくさん売れているそうじゃないですか!

藤澤
 そうだね。行列ができるくらいに集まってくれるから、本当にファンはありがたいよね。ユーザーにどういうふうにゲームを好きになってもらうのか。根本的な考えかたが昔とは変わったんだろうね。

石山
 いやあ、でもグッズを集めるのは楽しいですよ。自分も『パラノマサイト』のグッズを集めてファイリングして眺めて「推し活って楽し-!」ってなってるので(笑)。ともあれ、『パラノマサイト』では、プロジェクトとしてのプロモーション方法やグッズ展開で新しい勝ち筋が見えたのもよかったと思います。

『パラノマサイト』のヒットで実現した石山氏の長年の野望

藤澤
『パラノマサイト』がヒットして本当によかったよね。当時、野望を教えてくれたじゃん。「僕は人気者になりたいんですよ」って(笑)。

石山
 りっきーさんと3人でご飯を食べたときですよね。藤澤さんに「お前、何がしたいの?」って聞かれて。

藤澤
 当時から口の聞きかたが失礼だな、俺は(笑)。

石山
 いや、実際はもう少し柔らかい聞き方だったと思いますし、自分もこだわりとか野望とかの暑苦しい話が大好物なので大丈夫です。で、そのときも確かに「チヤホヤされたいです」とか答えてたと思います(笑)。

藤澤
 そうそう。

石山
 「チヤホヤされたくてゲームを作っています!」って。だからいまはとても満足しています(笑)。

藤澤
 暮れに焼き肉屋で再会したときの第一声が、「遅咲きだったけどようやく少し夢が叶ったんです」だったよね。

――チヤホヤされたいと思っていたのは昔から?

石山
 たぶんずっと昔から(笑)。でも、手掛けたゲームが評価されて、ユーザーに喜んでもらえて褒め称えられるとうれしいじゃないですか。これは自分だけではなくて、多くのクリエイターがそうだと思います! みんなそうですよ!

藤澤
 これは究極のテーマだけど、褒められればいいわけでもないじゃない。ちゃんと自分のことを認められて褒められないとあまりうれしくないわけで。

石山
 あ、そうなんです。意図しないところを褒められてモヤッとしちゃうことはあります。

藤澤
 最近は、昔と違って特別な才能を持ったクリエイターがパッと出てくることが少なくなったじゃないですか。そういう中で、しゃまくんの属人的な才能が世の中にちゃんと認められたのは、僕もうれしいですよ。

石山
 うへへ、ありがとうございます。

ストーリーテリングの力

藤澤
 それで、これから先はどうするの?

石山
 当面は『パラノマサイト』を展開させていきたいですが、そもそも僕はRPGを作りたくてスクエニに入ったので、いつかRPGを作ってみたいという思いはあります。

藤澤
 “パラノマRPG”?

石山
 『パラノマサイト』がRPGになるかどうかはわかりませんが(苦笑)、もしRPGを作らせてもらえるなら、『DQ』イズムを勝手に継承してると自負する僕の考えた最強の『DQ』を目指してみたいです。これまで『DQ』シリーズをプレイした体験をベースに、自分のテイストで新たに体験できるようにしたRPGを作ってみたいなーと。野望の話なので勝手なことを言ってますけど。

藤澤
 いいね。今後もしゃまくんの書いたシナリオを体験してみたいから。“ストーリーテリングの力”って、どこかで潰えるかもしれないっていう不安があるじゃない。それが僕の中にもあるんだけど、自分の中でやれるなって思う間は、ちゃんとした物語を書いてもらいたいと応援しています。

石山
 藤澤さんはいつまで自身でシナリオを書いていきたいと思ってますか?

藤澤
 今年で54歳になるんだけど、この歳になってみても、なかなか歳を取らないなと感じていて。それがずーっと続いているんだよね。もしかしたら、あるタイミングから勘違いになってるのかもしれないけど、それでも自分がやれると思っている間はやったほうがいいんだろうなって。

石山
 いいと思います! 60代、70代でも活躍しているクリエイターはいますからね。

藤澤
 しゃまくんは、ゲーム業界では稀な物語をちゃんと書ける人なので、今後も期待しています。

石山
 うへへ、ありがとうございます。がんばります! がんばりましょう!

[IMAGE]『パラノマサイト』Nintendo Switch版購入サイト『パラノマサイト』Steam版購入サイト『パラノマサイト』App Store『パラノマサイト』Google Play

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