横スクロールアクション『スーパーマリオブラザーズ』(2Dマリオ)シリーズの完全新作としては、約11年ぶりとなるNintendo Switch用ソフト『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』。本作が如何にして秘密と不思議にあふれる新しい2Dマリオとなったのか、プロデューサーを務める任天堂の手塚卓志氏とディレクターの毛利志朗氏が講演を行った。

 講演が行われたのは、現地時間2024年3月18日~3月23日にアメリカ・サンフランシスコにて開催中のゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス(GDC)2024だ。講演の大きなテーマは以下の4つ。

  1. 2Dゲーム制作の魅力
  2. 新しい驚き。“ワンダー”で採用したもの採用しなかったもの
  3. ゲーム攻略とプレイヤーの自由度
  4. 新しいオンラインプレイ

 任天堂公式サイトの“開発者に訊きました”やファミ通.comにて2023年12月2日に掲載したおふたりのインタビューをおさらいしつつも補足する内容となっているので、どちらも読了済みの人もチェックしてほしい。

 なお、講演は手塚氏の「Here we go!」というマリオのおなじみの掛け声と、来場した多くの人の大歓声で幕を開けた。

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が不思議あふれる2Dマリオとして新生した方法。採用されなかったワンダーや開発資料も公開【GDC 2024】
『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が不思議あふれる2Dマリオとして新生した方法。採用されなかったワンダーや開発資料も公開【GDC 2024】
手塚卓志氏(左)と毛利志朗氏(右)が手掛けたおもな作品。
『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』(Switch)の購入はこちら (Amazon.co.jp)

2Dゲーム制作の魅力

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が不思議あふれる2Dマリオとして新生した方法。採用されなかったワンダーや開発資料も公開【GDC 2024】

 本作が約11年ぶりの新作2Dマリオになったことについて、手塚氏はファミ通.comのインタビューで以下のように答えている。

 作っている側としては11年のあいだに『スーパーマリオ ラン』や『スーパーマリオメーカー』を作っていましたし、横スクロールのアクションゲームでは『ヨッシー』のシリーズも関わったりと、いろいろなタイトルを開発しているうちに、気がついたら11年が経っていたという感じです。
出典:『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』開発者インタビュー

 このときに「こんなにも長く新作の2Dマリオがリリースされないと、時代が3Dマリオに置き換わったと思われてもおかしくない」と改めて気づき、2Dゲーム制作の魅力について話をしようと考えたという。

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が不思議あふれる2Dマリオとして新生した方法。採用されなかったワンダーや開発資料も公開【GDC 2024】

 2Dの『New スーパーマリオブラザーズ』も3Dの『スーパーマリオ オデッセイ』も、どちらも同じ“マリオを操作するアクションゲーム”である。しかし、手塚氏は遊びを作るときの手法が大きく異なり、制作期間が同じだったとしても、どこに労力を割くか、そして作り手の楽しさも違うと語る。

 2Dでも3Dでも、まず最初に作るのはプレイヤー、カメラ、マップの3つであると毛利氏。3Dではカメラが障害物にめり込まないように動かす必要があるため、作るのに時間がかかるという。一方の2Dはカメラに時間がかからないぶん、遊びの“核”作りに集中できるそうだ。

 ゲームデザインに関しても大きな差はないとしつつも、メリットとしてゲームデザインを意図した通りに体験してもらいやすい点を挙げた。

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が不思議あふれる2Dマリオとして新生した方法。採用されなかったワンダーや開発資料も公開【GDC 2024】

 ここで、もう少し2Dのよさについて深堀りしていくことに。任天堂のあるゲームデザイナーから届いた以下のコメントが紹介された。

「2Dでは現実では見られないアイデアや表現を作りだす。そのようなアイデアをどう盛り込もうかと考えるのが楽しいです」

 手塚氏いわく、ゲームの世界はすべて本物を真似たり、誇張したりした作り物。リアルな3D空間では違和感に繋がるような表現も、2Dゲームでは意外に自然に感じたり、ごまかしたりしてもバレにくいと語る。

 例えば、マリオがジャンプ中に逆方向にキーを入れると軌道が変化する。現実の物理では起こりえないが、遊んでいるプレイヤーにとっては自然に思える。

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が不思議あふれる2Dマリオとして新生した方法。採用されなかったワンダーや開発資料も公開【GDC 2024】

 さらにもうひとつ、任天堂のとあるレベルデザイナーのコメントが紹介された。

「2Dのゲームは制作者の意図が分かりやすく盛り込める。コースの作り直しが3Dに比べてよい」

 手塚氏は、かつて「2Dゲームは誰でも作れる」という話を“マリオの生みの親”である宮本茂氏としたエピソードを披露。扱いやすいコースデザインツールがあればセンス次第で誰でも作ることが可能としつつも、2Dマリオの場合はレベルデザイン自体がゲームの価値を大きく左右すると説明した。

 例に挙げられたのが、誰でも2Dマリオのコースを作れる『スーパーマリオメーカー』シリーズだ。

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が不思議あふれる2Dマリオとして新生した方法。採用されなかったワンダーや開発資料も公開【GDC 2024】

 注目ポイントは、用意されたパーツや敵を自由に使えるという、コースを作る際の条件が全員同じ点。しかし、実際に作成され公開されたコースのおもしろさは千差万別だった。

 よいサウンドやグラフィック、ワクワクする敵や仕掛けが重要であることは間違いないが、それらを生かすも殺すもレベルデザイナー次第となる。

 2Dマリオでは、時間の許す限り最後までコースを調整するという。開発における時間やコストを割り振る場合、レベルデザインが作りやすいことがとても重要になるとまとめた。

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が不思議あふれる2Dマリオとして新生した方法。採用されなかったワンダーや開発資料も公開【GDC 2024】

 ここで少し話題が変わり、手塚氏がふだんどのようなことを考えて『マリオ』を作っているのか語られた。

 時代とともにゲームの表現が進化してリアルな絵や音を作れるようになった一方で、“遊び”におけるゲームはどうのように進化するのだろうか。

 例えばマリオが敵に当たるときに痛いと感じる。高い場所を移動しているとお尻がムズムズする。ドキドキして慎重になる。遊ぶ人がそのように感じると、よりゲームに没入できるのではないかと手塚氏は語る。

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が不思議あふれる2Dマリオとして新生した方法。採用されなかったワンダーや開発資料も公開【GDC 2024】

 手塚氏が重要視しているのは“遊びの体系においてリアルを感じること”。表現のリアルさだけで達成感を求めるべきではないとし、表現がリアルでなくても、遊びをリアルに感じる方法はないかということを考えるべきだとコメント。

 そのためにも、アーティストやサウンド担当者がどのような考えで制作してきたか、皆で共有することをおすすめしたいと聴講者に伝えた。

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が不思議あふれる2Dマリオとして新生した方法。採用されなかったワンダーや開発資料も公開【GDC 2024】

 一例として、『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』で歩いているノコノコ同士がぶつかった際のアニメーションについて紹介された。

 このアニメーションに気付かずにレベルデザインをしてしまうと、プレイヤーはこのシーンをほとんど見ることができなくなってしまうかもしれない。

 ノコノコ同士がぶつかるシーンを意図的に作るにはどうすればいいかを考えたり、そのシーンを見たサウンド担当者がぴったりのSEを作りたくなったり……それぞれの担当者が影響しあうことで表現が活かされていくという。そうしなければ、せっかく作った仕様が活かされず“もったいない”ことになると手塚氏は語る。

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が不思議あふれる2Dマリオとして新生した方法。採用されなかったワンダーや開発資料も公開【GDC 2024】

 『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』にはプレイヤーキャラクターの性能を自由に切り替える“バッジ”という仕組みがある。これは頻繁に性能の変化を楽しんでほしい、時間をかけて制作したコースを違うバッジで何度も遊んでほしいという思いで生まれたシステムだという。

 一度クリアーすれば、次に進んでもう遊ばれなくなるのは“もったいない”。せっかく作ったバッジシステムを利用してもらえないのも“もったいない”。プレイヤーがミスするたびにバッジを変更する機会を提供することになった背景には、“もったいない”の精神があったからだそうだ。

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が不思議あふれる2Dマリオとして新生した方法。採用されなかったワンダーや開発資料も公開【GDC 2024】
毛利氏の胸には娘さんが作ったバッジがつけられている。このエピソードを聞いたときの聴講者全員から漏れた感嘆の声は、外国のイベントならではだった。

新しい驚き。“ワンダー”で採用したもの採用しなかったもの

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が不思議あふれる2Dマリオとして新生した方法。採用されなかったワンダーや開発資料も公開【GDC 2024】

 『スーパーマリオブラザーズ』を初めてプレイしたときに体験した驚きや不思議を『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』でも感じてもらうには、たくさんの“ワンダー”が必要だと考えた毛利氏。そこで“ワンダー会議”を開催し、アイデアをチーム全員で出し合うことにしたという。

 アイデアを出すのは職種や年次に関係なくチーム全員。任天堂はチーム全員がゲームデザイナーと考えているそうだ。

 最初は特に条件などを設定せず、ひらめいたアイデアをどんどん付箋に描いてもらったところ、約2000個もの“ワンダー”のアイデアが生まれた。条件を設定しなかった理由は、最初からルールがあると自由にアイデアを出せないからだ。

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が不思議あふれる2Dマリオとして新生した方法。採用されなかったワンダーや開発資料も公開【GDC 2024】
“ワンダー”のアイデアが描かれた実際の付箋の画像。

 生まれたアイデアをいろいろ見ていく中で、“いいワンダー”の条件が少しずつ絞られてきたという。そのひとつが、“ワンダー前とワンダー発動時に関連がある”こと。

 例えば、ワンダーでいきなりバルーンマリオに変身すると唐突感がある。しかし、最初に風船のような敵を登場させてからワンダーでバルーンマリオに変身させれば違和感がなくなる。

 ほかには、“いままでできなかったことができるようになる”、“ひと言で説明できる”ものが“いいワンダー”だ。ここから、チーム全員で該当するワンダーを試作していくことに。

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が不思議あふれる2Dマリオとして新生した方法。採用されなかったワンダーや開発資料も公開【GDC 2024】

 試作の流れは以下となる。

  1. ゲームデザイナー、アーティスト、プログラマー、サウンドが1名ずつで構成された小さなチームを結成
  2. 必要に応じて仮のデザインデータやサウンドデータを新たに作成
  3. 試作が終わったらチーム全員でプレイして意見を出し合う
  4. 意見に対してチーム全員でさらにアイデアを重ねがけする

 半分以上の試作が製品版に収録されなかったそうだが、試作会には以下の3つの効果があったという。

  1. 各自の制作の経験値を上げる
  2. モチベーションを上げる
  3. チームの一体感を向上させる
『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が不思議あふれる2Dマリオとして新生した方法。採用されなかったワンダーや開発資料も公開【GDC 2024】
『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が不思議あふれる2Dマリオとして新生した方法。採用されなかったワンダーや開発資料も公開【GDC 2024】

 ここで、試作会を経て採用されたふたつのワンダーが紹介された。ひとつ目は地形が傾くというワンダーだ。

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が不思議あふれる2Dマリオとして新生した方法。採用されなかったワンダーや開発資料も公開【GDC 2024】
『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が不思議あふれる2Dマリオとして新生した方法。採用されなかったワンダーや開発資料も公開【GDC 2024】
試作時の地形が傾くワンダー。
『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が不思議あふれる2Dマリオとして新生した方法。採用されなかったワンダーや開発資料も公開【GDC 2024】
製品版に収録された地形が傾くワンダー。

 もうひとつは、入社1年目のプログラマーが出したアイデア。任天堂では新人プログラマーであってもアイデアを出し、そのアイデアがよければ採用されるという。

 アイデアは付箋に「ワンダークイズが始まる?」と書かれているだけで、具体的なことは何も書かれていない。毛利氏から「これがいいアイデアと言えるでしょうか」と会場に投げかけられると、そこかしこから笑いが起こる。

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が不思議あふれる2Dマリオとして新生した方法。採用されなかったワンダーや開発資料も公開【GDC 2024】

 毛利氏は、このアイデアに可能性を感じたという。その理由として以下の3点を挙げた。

  1. マリオのアクションを活かしたクイズの答えにすることでユニークなワンダーになりそう
  2. クイズの問題によって世界観の補足ができる
  3. いろいろな問題を用意することで複数回遊びたくなる

 このアイデアを見たとき、手塚氏は唐突だしどうなんだろうと思ったという。

 しかし、これを見た人の中でさまざまなイメージが膨み実装されることに。「私からは決して出てこないアイデアだと思います」と絶賛し、多くの人と遊びを作っていくおもしろさが出たと振り返った。

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が不思議あふれる2Dマリオとして新生した方法。採用されなかったワンダーや開発資料も公開【GDC 2024】
製品版に収録されたワンダークイズ。

 続いて、採用されなかったふたつのワンダーが紹介された。

 ひとつはサウンドディレクター・近藤浩治氏のアイデアで、“ワンダーが起きると八頭身のリアルサイズの実写版マリオが登場し、BGMを鼻歌で歌いながら効果音は口真似になる”というもの。

 アイデアとしておもしろかったが、ワンダー前とワンダー発動時の関連性がよくわからず、実写の八頭身になると遊びがどう変わるのかもわからなかったため、不採用となってしまった。

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が不思議あふれる2Dマリオとして新生した方法。採用されなかったワンダーや開発資料も公開【GDC 2024】

 そんな近藤氏の不採用となったアイデアは、バッジの効果として採用された。

 採用理由は、いろいろな声を聞きたくなるため、さまざまなアクションを試したくなる点がよかったから。

 ちなみに、“ハナ歌効果音”バッジの声はアイデアを出した近藤氏のものだ。

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が不思議あふれる2Dマリオとして新生した方法。採用されなかったワンダーや開発資料も公開【GDC 2024】

 不採用となったもうひとつのワンダーは、“巨大ブロックマリオに変身してガシガシにブロックを食べられないようにしながら進む”というもの。

 一見するとインパクトがあっておもしろそうに感じるが、ブロックの面積が大きくて“どうやって敵を避けるのか”という戦略を立てることができないため、大雑把に突っ走る遊びにしかならなかったという。

 かと言ってブロックの面積を小さくするとインパクトがなくなるので、採用を見送ったそうだ。

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が不思議あふれる2Dマリオとして新生した方法。採用されなかったワンダーや開発資料も公開【GDC 2024】
『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が不思議あふれる2Dマリオとして新生した方法。採用されなかったワンダーや開発資料も公開【GDC 2024】

 これらのワンダーは最初から構想にあったわけではない。2Dマリオが抱える課題に向き合い、それを解決することで生まれたものだ。

 新しい要素の答えを最初は誰も知らない。毛利氏は答えはチーム全員で見つけていくものであり、誰も答えを知らないものを作るからこそ制作していて楽しいのだとまとめた。

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が不思議あふれる2Dマリオとして新生した方法。採用されなかったワンダーや開発資料も公開【GDC 2024】

ゲーム攻略とプレイヤーの自由度

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が不思議あふれる2Dマリオとして新生した方法。採用されなかったワンダーや開発資料も公開【GDC 2024】

 2Dマリオには“自由度が低い”という課題があったと毛利氏。

 過去の2Dマリオではワールドマップ上で最低限の分岐は存在したが、複数のコースから遊びたいコースを選んだり、クリアーできないコースを飛ばして先へ進んだりするような自由度は存在しなかった。

 また、プレイヤー性能としてファイアマリオ、しっぽマリオ、マントマリオといったさまざまなパワーアップ変身が存在。しかし、「このコースにはこの変身」というようにコースに性能が紐づいていたため、自分の好きな能力を選ぶこともできないでいた。

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が不思議あふれる2Dマリオとして新生した方法。採用されなかったワンダーや開発資料も公開【GDC 2024】

 自由度が低いという課題を解決するために、ワールドマップを自由に移動できるようにして、複数のコースの中から好きなコースを選択して進めるようにした。

 サムネイルを見ておもしろそうなコースからプレイしたり、難易度が低いコースからプレイしたり、お手軽なちょっと一息からプレイしたりと選択できるようになった。苦手なコースを飛ばして先に進むことも可能に。

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が不思議あふれる2Dマリオとして新生した方法。採用されなかったワンダーや開発資料も公開【GDC 2024】

 キーアイテムとなるワンダーシードを一定数を集めると、先に進めるという構造は最初に決めたという。

 ワンダーシードはコースをクリアーする、コース中のワンダーをクリアーする、なんでも屋で購入するなど、さまざまな入手方法を用意。ゲーム攻略の自由度につなげている。プレイヤー性能の面ではバッジシステムを採用し、それぞれの自由度が低いという課題を解決した。

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が不思議あふれる2Dマリオとして新生した方法。採用されなかったワンダーや開発資料も公開【GDC 2024】
『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が不思議あふれる2Dマリオとして新生した方法。採用されなかったワンダーや開発資料も公開【GDC 2024】

新しいオンラインプレイ

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が不思議あふれる2Dマリオとして新生した方法。採用されなかったワンダーや開発資料も公開【GDC 2024】

 2Dマリオを進化させるために、当初から“オンラインで遊んで楽しいマリオにする”という構想があったという。

 しかし、オンラインで世界中の人と遊ぶことは楽しい反面、いくつか課題も存在する。例えば以下の3点だ。

  • 対戦ゲームは初心者は負け続けて辞めてしまうかもしれない
  • 協力ゲームは苦手な人が足を引っ張ってしまうかもしれない
  • マナーが悪い人がいてトラブルになってしまうかもしれない

 こういった課題は以前から任天堂の社内でも言われているそうで、実際に“社長が訊く『大乱闘スマッシュブラザーズX』”にて岩田聡氏が以下のように発言している。

 たとえば親が自分の子どもに安心してオンラインの遊びを渡せるにはどうしたらいいんだろうとか、ハラスメントのない世界はどうやったらできるだろう、みたいなことを私たちはずっと議論していたんです。

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が不思議あふれる2Dマリオとして新生した方法。採用されなかったワンダーや開発資料も公開【GDC 2024】

 この課題を解決する方法はいろいろあったというが、『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』では他のプレイヤーが自分に直接干渉することなくミスをしたときに助けてくれたり、アイテムを分けてくれたりと、自分にとってよい行動しか起こさないようにしている。

 他のプレイヤーにブロックを壊されたり、敵を倒されたりしないことを明確にするため、他のプレイヤーを半透明のライブゴーストという形で実装した。

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が不思議あふれる2Dマリオとして新生した方法。採用されなかったワンダーや開発資料も公開【GDC 2024】

 しかし、ライブゴーストには“同じコースをプレイしている人が常に近くにいるとは限らない”という課題があった。これは、“自分の分身としてパネルを設置”できるようにしたことで解決した。

 自分が置いたパネルでは自分自身は復活できない仕様となっているため、パネルは自分のために置くのではなく、周りの人を助けるために置くことになる。

 この他、周りの人に隠し要素を伝えるために置くこともできる。

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が不思議あふれる2Dマリオとして新生した方法。採用されなかったワンダーや開発資料も公開【GDC 2024】

 ゲーム制作には多くの人が関わっている。毛利氏は、人と人とが関わるうえで大事なのは、“自分のためではなく周りの人のために行動すること”、“周りの人が困っていたら助けること”ではないかと語る。

 そういった人が多く集まったチームは、ゲームにおいてもよいものを制作できる可能性が高いという。本作のオンラインの遊びも自分のためではなく、周りの人のために行動するもの。そんな優しい世界を作り上げたいと考えての遊びだった。

 岩田氏の「親が自分の子どもに安心してオンラインの遊びを渡せるにはどうしたらいいんだろうとか、ハラスメントのない世界はどうやったらできるだろう」を、毛利氏たちはずっと議論していたというが、今回のオンラインの遊びが、その答えのひとつになったとコメントした。

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が不思議あふれる2Dマリオとして新生した方法。採用されなかったワンダーや開発資料も公開【GDC 2024】

2Dゲームの未来

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』が不思議あふれる2Dマリオとして新生した方法。採用されなかったワンダーや開発資料も公開【GDC 2024】

 講演の終わりに、手塚氏と毛利氏が2Dゲームの未来について語った。

 毛利氏は、長く続く2Dゲームのシリーズであっても、課題に向き合い解決していくことで新しい遊びが生まれ、進化し続けていくのではないかとコメント。

 手塚氏は、今後さまざまな新しい技術が生まれて2Dの表現と融合し、遊び自体が変化していくと未来を描いていた。手塚氏自身がその未来にいちばんワクワクしており、その時代ごとに新しい2Dゲームを作り続けたいと語る。

 そして最後に、「遊びを考えるのは、超楽しいです」という手塚氏のひと言により、万雷の拍手をもって本公演は終了となった。

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』(Switch)の購入はこちら (Amazon.co.jp) 『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』ニンテンドーeショップサイト

[2024年3月26日13時44分修正]
一部表記に誤りがあったため、該当の文章を修正いたしました。読者並びに関係者の皆様にご迷惑をおかけしたことをお詫びいたします。