『スーパーマリオブラザーズ』シリーズの完全新作としては、じつに約11年ぶりとなるNintendo Switch用ソフト『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』。2023年10月20日の発売からわずか2週間で、全世界累計430万本の販売本数を記録。このペースは、『スーパーマリオ』関連タイトルとして過去最高の販売ペースだという。

 本作には、“ゾウマリオ”を始めとするマリオたちの新たなパワーアップや、コースに不思議な変化が起こる“ワンダー”、バッジで広がる多彩なアクション、世界中のプレイヤーとゆるくつながるオンライン要素など、これまでのシリーズ作にはなかった新たな要素を多数追加し、とくにゾウマリオなどは発表時を含め、SNSで大きな反響を呼んだ。

 これらの新たな要素はいかにして生まれたのか。本作のプロデューサーを務める任天堂の手塚卓志氏と、ディレクターの毛利志朗氏にインタビューを実施。ゲームが発売して約2ヵ月が経過したいまだからこそ話せるスペシャルワールドなどのお話も含めて開発秘話を伺った。

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』開発者インタビュー。ワンダーやゾウ、そして最後のバッジ“ハナ歌効果音”の開発秘話まで、任天堂の手塚卓志氏と毛利志朗氏に訊いた

 本作をやり込んでいる人はもちろん、年末年始にプレイしようと楽しみにしていた人も、最後までじっくり読み進めてほしい。

手塚卓志氏(てづか たかし)

『スーパーマリオブラザーズ』や『ゼルダの伝説』などでグラフィックデザインを担当、その後ゲームデザインも担当した。現在はおもに横スクロールアクションの『ヨッシー』タイトルや『スーパーマリオ』シリーズなどの開発にプロデューサーとして携わる。

毛利志朗氏(もうり しろう)

プログラミングディレクターとして、『New スーパーマリオブラザーズ U』や『ゼルダの伝説 神々のトライフォース2』などを担当。『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』では、ディレクターを担当。胸の“おしゃべりフラワー”バッジは、娘さんによる手作り(!)。

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“今後の新たな2Dマリオのベースをつくる”に込められたふたつのテーマ

――『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』は、『New スーパーマリオブラザーズ』(ニンテンドーDSで2006年5月に発売)以降の3Dモデルを使った“2Dマリオ”(横スクロール型の2Dアクションの『スーパーマリオ』シリーズ)としては、グラフィックも含めてフルモデルチェンジをされているように感じます。任天堂公式サイトの“開発者に訊きました”では、“今後の新たな2Dマリオのベースをつくる”というお話がありましたが、改めて、今回の開発コンセプトをお教えください。

毛利“今後の新たな2Dマリオのベースをつくる”にはふたつの意味があります。ひとつ目は目に見えない部分のゲームエンジンです。『New スーパーマリオブラザーズ U デラックス』(以下、『New マリオ U デラックス』)までは同じゲームエンジンを使い続けてきましたが、このままでは新しい挑戦をしづらいということで、今回はゲームエンジンをゼロから作り直しました。

 ふたつ目が遊びの部分で、手塚より「新作は秘密や不思議がいっぱいのマリオにしてほしい」という課題が与えられていました。というのも、いま思うと初代『スーパーマリオブラザーズ』を初めて体験したときは秘密や不思議が満載のゲームだったと思うんです。たとえば、ブロックを叩くとコインが出てくる、スーパーキノコを取るとマリオの体が大きくなる……。

 ですが、長年『スーパーマリオブラザーズ』シリーズの開発を続ける私たちもそうですし、遊んでくださるお客様にとっても、いつの間にかふつうのものになってしまっていました。だからこそ新しい秘密や不思議がいっぱいの“2Dマリオ”にしたいというのが、手塚からの課題だったと思います。

 私自身、初代『スーパーマリオブラザーズ』を思い返してみて、土管に入ると地下のエリアを冒険できる、ブロックを叩くとツルが伸びて上空のエリアに行ける、といった要素が秘密や不思議の象徴だったのではないかと考えました。

 そこで最新作では、これらの新しいバージョンを生み出そうと考えて、ブロックを叩くと特別なアイテムが出てきて、このアイテムを取ると別のエリアに行ける、というものを作ってみました。それを手塚に見てもらったところ、「これは別のエリアにワープするだけで、いままでと変わってへんやん」と言われて(苦笑)。

手塚厳しいこと言っちゃったなぁ(笑)。

――(笑)。

毛利手塚に「別のエリアに行くんではなくて、その場が変化するようにできへんの?」と言われまして、「どうせだったら思いっきり変化させてやろう」と思って、土管がくねくね動いたり、地形が傾いたり、敵の大群が出てきたりとこれまでの『スーパーマリオ』ではなかったような思い切った変化を作ったんです。これがコースに不思議な変化が起こる、“ワンダー”が生まれたきっかけですね。

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』開発者インタビュー。ワンダーやゾウ、そして最後のバッジ“ハナ歌効果音”の開発秘話まで、任天堂の手塚卓志氏と毛利志朗氏に訊いた
『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』開発者インタビュー。ワンダーやゾウ、そして最後のバッジ“ハナ歌効果音”の開発秘話まで、任天堂の手塚卓志氏と毛利志朗氏に訊いた

――手塚さんが初めてチェックされた試作版は、あまり変化が感じられないようなものだったのでしょうか?

手塚はっきりと言ってしまえばそうですね(苦笑)。最初にお題を出したのは、取っ掛かりが何もない状態で好きなものを作るよりも、お題があったほうが考えやすいかなと思ったからです。

 先ほど毛利がお話したように、初代『スーパーマリオブラザーズ』には秘密や不思議がいっぱい詰まっていましたが、ネタをずっと使っていると標準化してきて新鮮味がなくなってしまう。だから、もっと新しいことをやらなきゃねと。

 『New スーパーマリオブラザーズ』を作っているころからも、新しいものを作っているつもりではいましたが、お客様に新鮮な気持ちで遊んでいただけているのかどうかという点は、ずっと気になるところではありました。ですので、今回はそこに焦点を当てましょうと。

――では“秘密や不思議がいっぱい”というのは、大きな変化というよりはきっかけを与えるためのお題だったと。

手塚はい。最初からワンダーのようなものをイメージしていたわけではありません。作りながらワンダーに行き着いた感じです。

――『スーパーマリオブラザーズ』シリーズとしては、2012年のWii Uソフト『New スーパーマリオブラザーズ U』(以下、『New マリオ U』)以来、約11年ぶりの完全新作となりました。ここまで期間が空いた大きな要因はどういった点にありましたか?

手塚じつはこれといって明確な理由はないんです。私自身も「ああ、そうか11年も経つんだ」というくらいの感想で(笑)。

 というのも、作っている側としては11年のあいだに『スーパーマリオ ラン』や『スーパーマリオメーカー』を作っていましたし、横スクロールのアクションゲームでは『ヨッシー』のシリーズも関わったりと、いろいろなタイトルを開発しているうちに、気がついたら11年が経っていたという感じです。もっとおもしろいことが言えたらよかったんですが(笑)。

――いえいえ! あっという間の11年ですね。いま『スーパーマリオメーカー』の名前が出ましたが、『スーパーマリオメーカー』では想像のつかない多種多様なコースが世界中で生まれています。あのようなユーザーが制作したコースはうれしい反面、クリエイターとしては超えるべき存在となっていた側面もあったのでしょうか?

手塚いえ、新作を開発するうえでの直接的なハードルになるとはあまり思いませんでした。というのも、『スーパーマリオメーカー』はあらかじめ用意しているパーツをうまく利用してエディットしていく遊びになります。それに対して、『スーパーマリオ』シリーズの新作は、新しいものをどんどん加えていくので、新作と『スーパーマリオメーカー』で作られたコースは自然と違ったものになりますから。

 『スーパーマリオメーカー』の発売後に、「これがあれば“2Dマリオ”の新作は出さなくていいんじゃないか」といったことをおっしゃる方もいらっしゃいました。それに対しては「つぎのマリオはちゃんと『スーパーマリオメーカー』と全然違うものになるから大丈夫ですよ」と言ってきたのですが、実際にできあがった物を見ないと伝わらないかなと思いますので、今回の『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』でぜひそれぞれのおもしろさの違いを体感していただければと思っています。

『スーパーマリオブラザーズ』の当たり前のルールを見直す

――今回ルールの面で大きく変わった点として、“2Dマリオ”シリーズとしては、初めてタイム制限やスコアの表示がなくなりました。当たり前だったものがなくなって驚きましたが、大きな判断だったのでしょうか?

毛利大きな判断というわけではありませんでしたが、新しいものを作るため、進化するために必要なことだったと思っています。今回、約11年ぶりに『スーパーマリオブラザーズ』の完全新作を作るにあたって、いままでのルールをすべて一度見直しました。

 一時期は、ゴールポールも変えたほうがいいんじゃないかという意見が出たりと、本当にゼロから考え直したんです。ゴールポールに関しては、マルチプレイに適したゴールとして最終的に残ったのですが、その中でタイム制限やスコアの表示をなくし、そのほかにも水中で敵を踏めるようにしたり、ミスしたときにワールドマップに戻らないようにしたりと、当たり前だった仕組みを検討していき、「ゼロから作るならこっちだよね」と、ひとつひとつ判断しました。

手塚開発チームには、ずっと『スーパーマリオ』に携わっているスタッフだけではなく、初めて関わるスタッフもたくさんいます。そういう人たちが、プレイヤーとして欲しいと思えるマリオはどんなゲームなんだろうというのを、けっこう時間をかけて議論しました。2Dマリオのこれまでのお作法だったり、大事にしたほうがよさそうなものだったとしても、今回変えてもいいものはないだろうか、とひとつずつ試して変えていきました。

――なるほど。とはいえ、たとえばタイム制限は初代『スーパーマリオブラザーズ』から一定時間内でコースをクリアーする、というゲームの前提となるルールだったかと思うのですが、そういった要素もすべて洗い出して見直していったのですか?

毛利そうですね。タイム制限に関して言うと、一部のワンダーでタイム制限のあるコースがあったので、タイマーが2重になってしまうという問題が発生しました。それをどうしようかという話をしているときに、そもそも「タイマーっているの?」という話が新たに参加したスタッフだけではなく、『スーパーマリオ』シリーズに長年関わっているスタッフからも出てきて、じゃあいったんコースのタイム制限を外してみようと、テストをしてみたんです。

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』開発者インタビュー。ワンダーやゾウ、そして最後のバッジ“ハナ歌効果音”の開発秘話まで、任天堂の手塚卓志氏と毛利志朗氏に訊いた
『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』開発者インタビュー。ワンダーやゾウ、そして最後のバッジ“ハナ歌効果音”の開発秘話まで、任天堂の手塚卓志氏と毛利志朗氏に訊いた

 その状態で一度プレイしてもらい、スタッフの意見を聞いてみましたが、タイム制限をなくすことで時間を気にしない探索の遊びになるかというとそうではなくて、やはりゴールを目指す遊びは変わらなかったんですよね。ただ自由に行動できることが増えたことは実感しましたので、これまでの“ゴールを目指す遊び”は守りつつ、今回はコースのタイム制限をなくそうという結論になりました。

――そういった要素をひとつずつ洗い出して議論をしていくと、開発に時間がかかりそうですね……。

毛利とてもかかりました(笑)。

――マリオやピーチに加えて、デイジーやヨッシーなどプレイアブルキャラクターがシリーズ最多の12種類に増えていて喜んだファンは多いと思います。メンバーはどのように選出されたのでしょうか?

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』開発者インタビュー。ワンダーやゾウ、そして最後のバッジ“ハナ歌効果音”の開発秘話まで、任天堂の手塚卓志氏と毛利志朗氏に訊いた

毛利今回は自由に遊んでもらいたいというテーマがありまして、自分の好きなキャラクターで遊んでほしいという思いから選べる種類を多くしました。

 あと、今回はオンラインでほかのプレイヤーとゆるくつながれる機能を実装しているのですが、オンラインで遊んだときにワールドマップにいろいろなキャラクターがいたほうがにぎやかで楽しいと考えて、そういう狙いもあって10種類以上のプレイアブルキャラクターを選出しています。

 選出の過程としては、『New スーパーマリオブラザーズ Wii』で操作できたマリオ、ルイージときいろキノピオ、あおキノピオ。そして、『New マリオ U デラックス』で追加されたキノピコ、トッテン。まずはこのメンバーを作ることにして、新たにピーチ、デイジー、色の異なる4種類のヨッシーを加えました。

 このメンバーなら、キャラクターの男女比や無敵キャラ(※ヨッシーとトッテンは、パワーアップアイテムで変身できないが、敵などに触れてもダメージを受けない)のバランスがいいのではないかと判断しました。

――キノピコは、『New マリオ U デラックス』でキノピーチに変身できる特別な能力を持っており、キノピーチは穴や毒沼などに落下しても一度だけ復帰できるので、足場の少ないコースでお世話になりました。でも本作ではマリオたちと同じ能力になっていますよね。

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キノピコは専用パワーアップアイテムのスーパークラウンを入手すると、ピーチによく似たキノピーチに変身できる。画像は『New マリオ U デラックス』のもの。

毛利キノピーチの一度だけ復帰できる能力は、バッジの復帰ジャンプに引き継ぎました。

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復帰ジャンプのバッジを装備していると、穴や毒沼、溶岩に落ちるたびに、一度だけジャンプして戻ってこられる。

手塚キノピーチだけ復帰ジャンプが使えると、好きなようにキャラクターを選びにくいですよね。それもあって、キャラクター固有の能力にするのではなく、バッジの能力にして、キャラクターとバッジをプレイヤーが自由に組み合わせられるようにしています。自分なりの楽しみや遊びかたを見つけてもらえるとうれしいですね。

――プレイアブルキャラクターでは、ヨッシーが特徴的です。無敵なうえに仲間を背中に乗せたり、敵を食べたり、ふんばりジャンプができたり……。ヨッシーならではのアクションが使えて楽しいです。

手塚ありがとうございます。ヨッシーのアクションで言うと、タマゴを投げられたほうがいいかなと思って試作版を作って検証してみたんです。でも、操作が難しくなってしまって、初めてプレイされる方にも楽しんでもらうことを考えると、いまの仕様にしたほうがいいだろうと判断して現在の能力になりました。

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ヨッシーはタマゴを投げるのが得意。タマゴを投げて敵キャラを倒したり、仕掛けを解除したりできる。画像は『ヨッシークラフトワールド』のもの。

――ヨッシーと言えば、仲間を背中に乗せたときの姿も印象的でした。

毛利ヨッシーがヨッシーに乗ることができますし、ゾウフルーツで変身した重そうなゾウの姿の仲間もちゃんと運べますからね。ものすごい量の汗をかいていますが(笑)。

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――(笑)。操作がシンプルという意味では、トッテンのほうが初心者は扱いやすいでしょうか。

毛利そのあたりは人によるかなと思います。たとえば、カベキックを使って上っていくコースの場合は、ヨッシーのふんばりジャンプが使いにくい場面もあります。そういうときは、トッテンを選ぶのがいいかもしれません。

 ただ、トッテンとヨッシーは同じ無敵キャラでも、ダメージを受けたときの反応が異なります。ヨッシーは少しのけぞるような感じで飛ばされますが、トッテンは飛ばされません。プレイヤーの好みに応じて使い分けてもらえたらなと思います。

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手塚トッテンやヨッシーのようなお助けキャラクターは、小さなお子さんやアクションゲームが得意でない人にオススメですが、久しぶりに“2Dマリオ”をプレイする人にも選んでもらいたいですね。

バラエティー豊かなコースはどのようにして生まれたのか

――ハナチャンレースなどの通常のゴールを目指すものと異なるコース構成は、“3Dマリオ”シリーズの遊びのように感じました。既存の“2Dマリオ”に“3Dマリオ”を取り込んだイメージもありましたが、意識はされましたか?

手塚そこまで意識はしていないよね?

毛利そうですね。確かに“3Dマリオ”では、『スーパーマリオ オデッセイ』にノコノコレース(ノコノコと追いかけっこをして、1位になるとパワームーンが入手できるミニゲーム)などの要素もありましたが、それよりは『New マリオ U』の “トッテンを捕まえろ”の遊びからヒントを得ています。

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制限時間内に逃げるトッテンを捕まえるのが目的のミニゲーム。トッテンに追いついて捕まえると、キノピオからお礼にパワーアップアイテムのPドングリがもらえる。画像は『New マリオ U』のもの。

手塚レースの遊びを作り始めたころは対戦相手がハナチャンと決まっていなくて、別のキャラクターでレースをしていましたね。

――ハナチャンレースで、木琴ブロックに乗ったときのハナチャンがモタモタする姿がかわいくて印象に残っています(笑)。

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手塚ハナチャンがもたつく動きは、じつは後から追加したものなんです。うまくダッシュができない人でもいい勝負ができるように、ハナチャンにちょっと待ってもらうために苦肉の策で入れたのですが、かわいらしい表情になったのでよかったです。

毛利3Dマリオシリーズをそこまで意識していないとは言え、私は『スーパーマリオサンシャイン』の開発に携わっていましたし、“3Dマリオ”シリーズの開発に参加したスタッフもいるので、自然と要素が入っているところはあると思います。

――なるほど。通常のコースも難易度の幅が広いように感じました。難易度に幅を持たせることを意識していたのでしょうか?

毛利先ほどもお伝えした通り、本作は“自由に遊べる”がテーマになります。ワールドマップもコースを自由に選べるエリアを設けていて、プレイヤーが好きな順番で攻略できるようにしています。

 好きなコースを選べるなら、難易度の異なるコースを選べたほうがいいですよね。それでコースの難易度は、意図的に幅を持たせるようにしました。たとえばワールド1でも★4のコースを、ワールド2でもあえて難しいバッジチャレンジを配置したりしています。

 上手な方は最初から難しいコースに挑戦できるし、アクションゲームがあまり得意でない方は、簡単なコースを選んでいただけるといいかなと。

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特定の場所では、エリア内を自由に移動してチャレンジできるコースを選択できる。そのとき目安となるのがコースの難易度で、★の数が多いほど難しくなる。

――その中でも、スペシャルワールドは非常に難しいように感じますが……。

手塚スペシャルワールドのコースに関しては、あえて私がクリアーできなくてもいいという方針で作っています。それもあって、コースの難易度に幅があると感じられるのかもしれません。

毛利確かにスペシャルワールドのコースは難しいですが、無敵キャラのヨッシーやトッテンを使ったり、オンラインプレイでライブゴーストに助けてもらったりするなど、いろいろな方法でクリアーを目指していただけるとうれしいです。

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オンラインに接続していると、コースにほかのプレイヤーのキャラクターがライブゴーストとして表示される。ミスしたときにタマシイでライブゴーストに触れれば、その場で復帰できる!

――スペシャルワールドの中でも最後のコースは本当に難しかったです……。取材日前日にぎりぎりクリアーできました(笑)。

手塚おめでとうございます(笑)。ひとりで遊ぶとけっこうたいへんですよね。

――心が折れかけました……(苦笑)。

手塚スタッフのウデも上達して、クリアーする人が増えたよね。

毛利そうですね。私もヨッシーやトッテン、オンライン機能を使わずに最後までクリアーできましたが、本当にうまいスタッフは片手で最終コースをプレイしていました。

――片手!?

毛利クリアーしたかどうかはわかりませんが、片手で進めていましたね(笑)。

――世界は広い……。

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やりたいことを実現させるモチーフは“ゾウ”しかなかった

――新たなパワーアップとして、ゾウ、アワ、ドリルが加わりました。おそらく多くのパワーアップのアイデアが生まれたと思いますが、それぞれが採用された理由や意図をお教えください。

毛利それぞれやりたい遊びがあって実装しています。ゾウは3つの理由があって、体が大きい、ブロックを横から叩く、水をまくというのがやりたくて作りました。

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』開発者インタビュー。ワンダーやゾウ、そして最後のバッジ“ハナ歌効果音”の開発秘話まで、任天堂の手塚卓志氏と毛利志朗氏に訊いた

 体が大きいと敵を踏みやすくなりますし、コインを取りやすくなります。さらに、ブロックを叩きやすくもなるので、マリオの基本の性能が変わることで、これまでの“2Dマリオ”とは違う感覚で遊べるのではないかと考えました。

 ブロックを横から叩くというのは、その姿になることでブロックを壊して行ける場所を増やすことができます。さらに、不思議や秘密がいっぱいの要素として水をまけるようにしています。枯れた花に水をまくと、何か不思議なことが起こる。そういった遊びを作りたいと思いました。

 この体が大きい、ブロックを横から叩く、水をまく……。これら3つの要素を満たすパワーアップをスタッフで考えたときに、「これはもうゾウでしょ!」と(笑)。

一同 (笑)。

――続いて、アワはいかがでしょう?

毛利アワは『New マリオ U』に登場した“アワちびヨッシー”の能力を参考にしました。“アワちびヨッシー”は、アワを出すことで敵を倒すだけではなく、アワを足場にできるところが魅力です。

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『スーパーマリオU』に登場したちびヨッシーの仲間。アワちびヨッシーを持っていると、アワを出して攻撃したり、アワを足場にしてジャンプしたりできる。画像は『New マリオ U』のもの。

 ただ、『New マリオ U』の“アワちびヨッシー”は、プレイアブルキャラクターが持ち運ばないといけないため、Yボタンを押し続ける必要があって。操作がやや難しいぶん、うまい人しか扱いにくい点が課題だったんです。そこでパワーアップにすれば、“アワちびヨッシー”の課題を解決できると思い、アワを採用しました。

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――最後のドリルは?

毛利ドリルは、これまでやっていない移動はなんだろうと考えたときに、そういえば地面の中を移動するのは、これまでのマリオでなかったんじゃないかなと思いました。それで地面を移動できる変身として、ドリルかモグラがモチーフにピッタリだなと考えましたが、モグラだと天井に潜ったり、上から来る敵を倒せたりする理由がよくわからなくなります。そこでモグラではなく、ドリルを採用しました。

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――ドリルは『スーパーマリオギャラクシー2』でも登場していましたよね。当時は変身するパワーアップアイテムという扱いではありませんでしたが。

毛利そうなんです。じつはアイデアを出したときは失念していたのですが、スタッフに指摘されて、そういえば『スーパーマリオギャラクシー2』にあったなと後で思い出しました(苦笑)。それでデザインは、『スーパーマリオギャラクシー2』に登場したドリルに近いものにしています。

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『スーパーマリオギャラクシー2』では、マリオがドリルを装着して地面を掘るアクションがあった。画像は『スーパーマリオギャラクシー2』のもの

――なるほど(笑)。ほかにもパワーアップの候補はあったと思いますが、ゾウ、アワ、ドリルの3つに決まった理由は?

毛利最終的に汎用性やバランスを考慮してこの3つに決めました。ひとつのパワーアップに人気が偏らないように、いずれのパワーアップも使ってもらえるようなバランスを考えて採用しています。

――制限時間内でバトルをくり広げるコロシアムのコースでは、パワーアップアイテムを自由に選べるので、自分はついついゾウを選びがちです。そういったコースで、プレイヤーの好みが出るのでしょうか?

毛利そうですね。確かにゾウは体が大きいので敵を倒しやすいですが、当たり判定が大きくなるという弱点もあるので、ゾウが最強というわけではありません。

 それにアワは倒しにくい敵を倒せる、ドリルは地中を移動して頭上の敵を攻撃できる、それにファイアは遠くの敵を攻撃できるといった強みがそれぞれあるので、戦いかただけでもパワーアップによって動きが異なります。プレイヤーの好みに応じて使ってもらえるとうれしいですね。

――ゾウマリオは、初公開時にとても大きな反響がありましたが、印象的な反応や実感された部分はありますか?

手塚我々が想像していた以上に、皆さんゾウを推してくれているなと思いました。ゾウは毛利さん推しだったのですが、僕は途中までゾウはマリオらしくないなと感じていたんです。開発が進んで水をまけるようになったり、鼻で敵を弾いて気持ちのいい音が鳴ったりするようになってから、一気にマリオらしくなってよくなったと手応えを感じました。

毛利ゾウを推していたとはいえ、ここまで大きな反響があるとは予想していませんでした。というのも、今作のメインとなるのはパワーアップではなく、ワンダーだと思っていて、ゾウもこれまでのパワーアップの一種で、見た目にちょっとインパクトがあるかなくらいの感覚だったので(苦笑)。

――たとえば、かつてプロペラキノコで使えたアクションが“フロートスピン”のバッジになるなど、パワーアップの名残りも見られます。バッジとパワーアップは、どのようにして取捨選択されたのでしょうか?

毛利ご指摘の通り、“フロートスピン”はプロペラのアクションに似ているところがありますが、プロペラとは上昇と下降の能力がかなり違うものになっています。どちらかというと、“フロートスピン”は空中スピンの延長のようなイメージで作りました。

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ヘルメットについたプロペラを使って空中を上昇、下降できる。急降下して敵キャラを倒したり、ブロックを壊したりするといったことも可能。画像は『New マリオ U デラックス』のもの。

 バッジとパワーアップの取捨選択に関しては、バッジはパワーアップした姿のときだけではなく、ダメージを受けてちび状態になったときも使えるという特徴があります。さらに、複数の機能を持っているパワーアップに対して、バッジはひとつの機能に特化しています。

 あとは操作性も意識していて、Yボタンで操作しやすいものはパワーアップ、Rボタンでシンプルに操作できるものはバッジにするように取捨選択をしました。

――なるほど。バッジは20種類以上と種類が豊富なうえ、攻略に役立つだけではなく、縛りプレイに使えるようなものもあります。バッジの能力は、どういった基準で選定をされたのですか?

毛利バッジはアクションバッジ、パワーアップバッジ、達人バッジに分類できます。アクションバッジは、やはり自由に遊んでもらいたいという思いから、自分の好きなアクションを選べるように能力を選定しました。

 また、アクションはそのままでいいので、救済されるような能力がほしいという方もいると考えて、パワーアップバッジも実装しています。さらに、トリッキーなプレイができるように達人バッジも用意しました。幅広い人に楽しんでもらえるように、24種類のバッジの能力を選定しています。

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――アイデアはもっと多く出たと思いますが、あえて24種類に厳選したと?

毛利はい。バッジは50種類ぐらいは試作をしたと思いますが、あまりにも強すぎるものは外しています。

手塚せっかくいろいろなバッジを用意したので、すべて試してもらいたい。そのためには、みんながこればかり使うというバッジがあるのはよくないですから。チャレンジするコースやプレイスタイルに応じて、バッジを使い分けてほしいですね。

毛利あとはくり返しになりますが、自由に遊んでもらいたいので、こちらが用意したレベルデザインをちょっと壊せるような能力のバッジも用意しています。

――バッジと言えば、バッジチャレンジも手応えがあるコースになっていますね。

毛利バッジチャレンジは、バッジを最大限活かせる遊びを作りたいという思いから生まれました。バッジの力を使ってクリアーするコースにしたかったので、どのような姿であっても、バッジチャレンジのコースに挑むときは、ちびの状態でスタートするようにしています。

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ワンダーの変化は2000ものアイデアの中から厳選して実装

――本作最大の特徴と言えるワンダーの種類は、じつにさまざまなものがあります。マリオたちが変身するものもあれば、影絵で身体が伸びるもの、歌うものなど、遊園地のようなバラエティー溢れるイメージでしたが、どういった発想でワンダーを考えていったのでしょうか?

毛利ワンダーのアイデアは、チーム全員で出し合いました。

手塚とてもじゃないですが、ひとりやふたりで考えられるものではありません。それに、ただアイデアを出すだけではイメージが伝わりにくいので、ある程度試作をして発表するようにしました。デザイナーとプログラマーが組んで、「こんなものを作ってみました」と提案してくれたこともあります。

毛利最初に出たアイデアの数だけで言うと、2000くらいは出ていたと思います。

――2000! とんでもない数のアイデアの中から選ばれたわけですね。

手塚最初はとくに条件などは考えずに、ひらめいたアイデアをどんどん出してもらいました。最初からルールがあると自由にアイデアを出せませんからね。

毛利出てきたアイデアをいろいろ見ていく中で、こういうワンダーがいいという条件がだいたい絞られてくるんです。そのひとつが、ワンダー前とワンダー発動時の関連があるもの。たとえば、いきなりバルーンマリオになっても唐突すぎて意味がわからないと思いますが、最初に風船のような敵を登場させておくと、違和感がないですよね。

 ほかには、これまで行けなかった場所に行けるようになる、できなかったことができるようになる。地形が傾く、土管が動くなど、ひと言で説明できる。こういったものがいいワンダーであることがわかってきたので、該当するアイデアのワンダーを試作したうえで、全員でさらに意見を出し合い、アイデアを重ねがけすることでいまの形に作りあげていきました。

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』開発者インタビュー。ワンダーやゾウ、そして最後のバッジ“ハナ歌効果音”の開発秘話まで、任天堂の手塚卓志氏と毛利志朗氏に訊いた

――ということは、ワンダーのアイデアありきで、コースの構成を考えていったのですか?

毛利ワンダーの最初の試作のときは、ひとまずコースの構成はいいので、ワンダーの部分だけ考えてもらうようにしていましたね。それで慣れてきてから、ワンダーといっしょにコースの構成も考えるようにしたりと、だんだん作りかたを広げていきました。

――ああ、やっぱりワンダーというアイデアをうまく使うためにも慣れが必要なんですね。

毛利そうですね。“開発者に訊きました”でも話題に挙がりましたが、近藤(近藤浩治氏。『スーパーマリオブラザーズ』シリーズや『ゼルダの伝説』シリーズの初期からサウンド制作を担当し、『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』ではサウンドディレクターを担当している)のアイデアで、ワンダーが起きると8頭身のリアルサイズの実写版マリオが登場して、BGMを鼻歌で歌いながら進むというものが出たんです(笑)。

 アイデアとしては非常におもしろいのですが、「ワンダー前とワンダーが発動したあとの関連性って何?」となりまして……。あと、実写の8頭身になると遊びはどう変わるのかとか。そういったワンダーの条件に満たさないアイデアもいろいろあって、慣れる中で精査されていきました。

――だんだんとワンダーのルールが設定されていったわけですね。でも、8頭身実写マリオが採用されていたら、いまのゲーム画面からワンダーで急に実写のおじさんが出てくる、といった可能性があったわけですね(笑)。

毛利はい。どう遊ぶのかわかりませんけど(笑)。

――そういえば、最後に入手できる“ハナ歌効果音”のバッジを装備すると、不思議な声が聞こえるようになりますよね。ジャンプのときに、「ぴよーんっ」って言ったり。これは、近藤さんが出された鼻歌などのアイデアから生まれた……とか?

毛利まさにそうです。アイデア自体はおもしろいので、ワンダーとしては使えないけど、バッジとしては使えるんじゃないかと。ただ、このバッジが最初に出てきても意味がわからないので、最後に入手できるバッジの効果にしようと(笑)。

――いきなり謎の声が聞こえてきたので驚きました(笑)。ちなみに、“ハナ歌効果音”の不思議な声の主は……?

毛利誰とは言いませんが、とあるスタッフの声です。

――……それはスタッフの中でも偉い人ですか?

毛利ご想像にお任せします(笑)。

――いろいろと想像して楽しみます(笑)。

Nintendo Switchの機能も活用し、サウンドを使った遊びが充実

――“おしゃべりフラワー”についてもお聞きします。“おしゃべりフラワー”は、ときにプレイヤーの代弁者や応援団であり、ときに思わせぶりなことやメタっぽいユニークな発言もする謎の存在ですが、あれはおしゃべりフラワーに固有の性格があるようなイメージなのでしょうか?

手塚おしゃべりフラワーの性格付けは、とくにしていません。そもそもおしゃべりフラワーは、実況を入れたいというアイデアから誕生したのですが、プレイヤーの気持ちを盛り上げる役割があります。セリフを聞いて共感しながら遊ぶことで、より楽しく遊べるのではないかと考えました。

 ただ、応援するだけではもったいないので、ヒントを言ったり、掛け声を出したり、いろいろな役割を持たせています。

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』開発者インタビュー。ワンダーやゾウ、そして最後のバッジ“ハナ歌効果音”の開発秘話まで、任天堂の手塚卓志氏と毛利志朗氏に訊いた

――役割が多岐にわたると、セリフを考えるのがたいへんそうですが……。

手塚セリフを考えるのは難しかったですね。プレイヤーが遊んでいて、共感できるセリフを考えないといけないので、想像力がないとなかなか成り立ちません。10ヵ国以上の言語で、同時進行で考えないといけないところも、初めての経験でたいへんでした。

 あと、コースがすべて完成していない段階で、セリフを決めてボイス収録をしないといけないところも苦労しましたね。録音してしまうとセリフを変更できませんから。おそらくコースがこうなるんちゃうかなっていう、セリフを考えた人の予想もうまく反映されたりしているんですよ。

――それはすごいですね。では多めに収録しておいて、使わなかったセリフなどもあるのでしょうか?

手塚収録したセリフはほとんど使いましたね。「このセリフ、どこに入れようかな」とスタッフが悩んでいるときもありましたが、収録した以上、使わないともったいないので。

――セリフの種類が多いですし、内容も的確ですよね。隠しゴールを探しているとき、おしゃべりフラワーに「探しものは見つかった?」と言われて、なんでこっちの考えていることがわかるんだと驚いたのを覚えています。

手塚その体験のように、セリフを聞いてプレイヤーがハッとしてくれるセリフを考えて設定するのが理想でした。どのようなセリフを言うかは、いろいろな作りかたをしているのですが、先ほどのケースだと、用意した複数のセリフの中から、プレイヤーの行動などをチェックして発言するセリフを選ぶように設定しています。

――おしゃべりフラワーは応援するオレンジ色のものと、鼓舞する赤色のものの2種類がいると思いますが、それぞれ種類が異なるのですか?

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』開発者インタビュー。ワンダーやゾウ、そして最後のバッジ“ハナ歌効果音”の開発秘話まで、任天堂の手塚卓志氏と毛利志朗氏に訊いた
赤色のおしゃべりフラワーは、バッジチャレンジのコースに登場。プレイヤーを鼓舞してくれる。

手塚同じ方が演じていますが、オレンジ色と赤色とで変えています。登場するおしゃべりフラワーを変えることで、バッジチャレンジのコースがふつうのコースとは違うことを印象付けたかったのと、新鮮な気持ちで遊んでいただきたいと思ったからです。

――なるほど。サウンドつながりで、“木琴ブロック”や“ダッシュレール”に触れると、コントローラーから音が流れてくる仕掛けも新鮮でした。任天堂のトピックスで振動することで音が鳴るというお話でしたが、これはどういう原理なのでしょうか?

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』開発者インタビュー。ワンダーやゾウ、そして最後のバッジ“ハナ歌効果音”の開発秘話まで、任天堂の手塚卓志氏と毛利志朗氏に訊いた

スーパーマリオブラザーズ ワンダー コントローラーから音が鳴る!?(任天堂公式YouTubeチャンネルより)

毛利Nintendo SwitchのHD振動は、細かい振動を出すことができます。ハードウェアとしてはスピーカーに似ていて、振動の波形をうまく調整することで、限られた音域の音が出せるんです。そこをうまく調整して、振動で音を鳴らしています。

 ただ、使いどころが多すぎると慣れてしまって驚きが薄れてしまう。ご指摘のあった“木琴ブロック”や“ダッシュレール”など、ここぞという一部のシーンで使用しました。

手塚木琴ブロックに触れても音が流れるのですが、けっこう凝った作りになっているんですよ。うろうろしているだけで楽しい場所になったらいいなと思い、動いているだけでメロディーになるようにしています。

――本作をプレイして、音を使った遊びが増えたなと感じました。

毛利そこはサウンドチームが早くチームに合流したのが大きいと思います。これまでのプロジェクトだと後半に入ることが多かったのですが、今回は早くに参加してもらって、サウンドに関連する遊びをかなり多く実装することができました。

手塚本作ではレベルデザインの段階から、サウンドチームとアイデアを出し合えたのが新鮮でした。サウンドチームからこうしてほしいと意見をもらうことも多くて。

毛利BGMの4拍目にジャンプすることで先に進める、“1,2,3,ジャンプ! ハックンダンサーズ”というコースも、サウンドチームのアイデアから生まれました。ふつうに考えると、4拍目にジャンプしないと先に進めないコースを作るのは怖いのですが、「おもしろいからやろう」と説得されたりして。

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』開発者インタビュー。ワンダーやゾウ、そして最後のバッジ“ハナ歌効果音”の開発秘話まで、任天堂の手塚卓志氏と毛利志朗氏に訊いた
“1,2,3,ジャンプ! ハックンダンサーズ”のコース。

 あと細かいことをお話しすると、Nintendo Switchを携帯モードでプレイしているときは、公共の場で遊んでいる可能性が高いですよね。周囲にいる方たちの迷惑にならないように、携帯モードのときは振動による音は鳴らないようにしています。

――なんと。気づかなかった……。オンラインプレイについてもお聞きします。ゆるいつながりのオンラインマルチプレイは、やられたときに助かるほか、パネルが隠しブロックなどのヒントにもなりました。『スーパーマリオメーカー』シリーズのやられた場所なども同様のヒントになったりしましたが、あのようなオンラインのつながりを目指したのでしょうか?

毛利最終的にパネルが設置される場所は、『スーパーマリオメーカー』シリーズのやられた場所に似ていたかもしれませんが、達成したかったことは違いました。

 やりたかったことはライブゴーストの遊びで、挨拶をすると返事が返ってくる、ミスをしたら助けてもらえる、アイテムをあげたら受け取ってくれる……。そういった双方向のやり取りをリアルタイムでやりたかったんです。

 しかも自分にとっていいことしか起きない。ほかのプレイヤーにコインを取られたり、ブロックを叩かれたりといったことはしたくなかったので、半透明のライブゴーストという形で実装しました。

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』開発者インタビュー。ワンダーやゾウ、そして最後のバッジ“ハナ歌効果音”の開発秘話まで、任天堂の手塚卓志氏と毛利志朗氏に訊いた

――たしかに、損することがないですね。

毛利ただ、ライブゴーストにはひとつ課題があると思っていて、それは同じコースをプレイしている人が、つねに近くにいるとは限らないという点です。ライブゴーストがいつでも助けてくれるわけではないので、この課題を解決するために、自分の分身としてコースにパネルを設置できるようにしています。

 パネルにはいろいろな使いかたがあって、ミスしやすいところに置いてもいいですし、隠しブロックの上に置いてもいい。自由に使えるようにしたところ、結果として、『スーパーマリオメーカー』シリーズのやられた場所を表示する機能に近くなりました。

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』開発者インタビュー。ワンダーやゾウ、そして最後のバッジ“ハナ歌効果音”の開発秘話まで、任天堂の手塚卓志氏と毛利志朗氏に訊いた

――助けた相手を待ちながらいっしょに進んだり、いっしょにゴールをしたときにリアクションボタンを連打して喜びあったりと、プレイヤーが思い思いにオンラインマルチプレイを楽しんでいるように感じています。発売後のプレイヤーの反応はいかがですか?

毛利我々が想像していた以上に多くの方に受け入れていただいたと思います。ゆるくつながるオンラインは、新しい遊びだったので、正直、不安もありました。

 オンラインってこういう遊びでしょと、皆さんが想像される遊びとはちょっと違っているので、市場に出したときにこちらの想定通りに遊んでもらえるのか不安はあったのですが、想像以上に好評でホッとしています。

いろいろな隠し要素には込められた意味も……?

――最初に “今後の新たな2Dマリオのベースを作る”というお話がありましたが、今後のベースになりえるものになった手応えはありますか?

毛利ゲームエンジンと遊びの両方とも手応えを感じていますし、本作をベースにさらなる進化を遂げた“2Dマリオ”を作っていけるのではないかと思います。

――手塚さんとしては、与えた課題をクリアーできたなという感じでしょうか?

手塚そんな偉そうなことは思ってないですよ(笑)。

一同 (笑)。

手塚最初に掲げたものがちゃんと形になってよかったのですが、できあがるまで、そして実際にお客様に手を取っていただくまで結果はわからないので、自信満々でリリースできたわけではありません。それでも多くの方に遊んでもらえたことはありがたい限りですし、マリオらしいオンラインを発明するという目標も達成できました。

――今後の“2Dマリオ”の展開が楽しみですが、まずは本作を遊び尽くしてほしいといった感じでしょうか。

毛利まだ遊んだことのない方は、ぜひ自分の好きなプレイスタイルで楽しんでもらいたいと思います。シングル、おすそわけ、オンラインと自由に遊ぶことができますが、オススメはオンラインプレイです。ほかのプレイヤーとゆるくつながりながら、自分のペースで冒険を進めてみてください。

 すでにクリアーしている人は、これまで使っていないバッジを使ってプレイしてほしいですね。たとえば、いちばん初めのコース(※フラワー王国へようこそ はじまりの花畑)は、“!ブロック出現”のバッジがないと行けない場所もあります。違うバッジをつけてプレイすれば、新たな発見が楽しめます。

 ほかにも、オンラインでハートポイントを最大まで溜めたり、コロシアムでパワーアップとバッジの組み合わせを見つけて最速タイムを目指したり、まだまだ見つかっていない秘密と不思議の要素があるかもしれませんので、引き続き楽しんでもらえるとうれしいです。

手塚本作のようなコースクリアー型のゲームは、一度プレイしたコースは遊ばれなくなることが多いと思います。本作は何度でも楽しんでもらえるように、いろいろな要素を仕込んでいます。コースをクリアーしたからといってそこで終わるのではなく、いろいろ試してほしいですね。そして、本作ならでのオンラインでのゆるいつながりを、遊んでいるプレイヤーが多いうちにぜひお試しください。

――そういえば、すべてのゴールを見つけたと思っていたら、最後の最後にワールド1のふたつ目のコースに隠しゴールがあったのを見逃していて、本当にいろいろな場所に隠し要素があるんだなと実感したところでした……。

毛利『スーパーマリオ』の1-2と言えば、隠しゴールですからね(笑)。

――ああああ、なるほど……。とても腑に落ちました! 本日はありがとうございました!

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