2023年8月27日に開催されたインディーゲームイベント“横浜ゲームダンジョン”。多くのインディーゲーム作家が自作ゲームを展示する中、フツララ氏の『CultureHouse』(カルチャーハウス)が放つ不穏な空気が気になったので紹介しようと思う。
本作をひと言で表すと“謎の生命体を育てるアドベンチャーゲーム”だ。プレイヤーは失踪した化学者が暮らしていた研究施設“カルチャーハウス”で、ある研究に関わることになる。
この施設はモダニズム住宅を題材としているとのことで、無機質さの中に秘めた機能美が非常に美しい。もっとも、そこには人類のほとんどを滅ぼした難病に関わる謎の生命体がいるのだが。
無機質で静寂。だからこそ活きる“たしかな違和感”
このカルチャーハウスは公益財団イプセ文化再生機構によって管理されている施設。目覚めた直後に主人公は、隣りにいた謎の女性・ノモス=ゾーイから3つの重要な事実を告げられる。
人類は99%以上が“コウニア”という病気(?)により滅んだこと。この研究施設はコウニアの抑制剤の基礎となるある生命体を培養するために存在していること。その研究をしていたイプセ博士は7年前にいなくなっていること。
そして、主人公はこの研究施設の研究員として、謎の生物の培養を行っていくらしい。ゾーイから7日間の労働契約書を結ぶ書類を手渡される……のだが、「財団は実験中に生じたいかなる事態、並びに身体的・精神的損害の責任を負わない。」という一文があまりにも不穏である。
財団と謎の生命体の管理。筆者は“SCP財団(※)”のような、無機質さが逆に恐怖をそそるSFホラーテイストを感じ取った。
※SCP財団:バケモノから超常現象まで、異常な存在を収容するための方法をまとめた報告書の体で、さまざまなストーリーを展開するコミュニティサイト。“意味が解ると怖い話”のような、無機質な報告書の中に隠されたゾッとする恐怖を描いた話が多く、多くのファンに支持されている。
危ない契約書にサインした後、ゾーイに研究施設を案内してもらう。その流れで謎の生物“ジェニオ”の培養実験をすることに。顕微鏡をのぞくと、生物の教科書に載っていそうな生命体を見ることができた。細菌のような姿、とでも言おうか。
この状態は“スポロゾア”と呼ばれ、特定の状況下で発芽したスポロゾアがジェニオになるのだそう。いまは顕微鏡がないと見えないサイズだが、個体によって成長度合いが大きく異なり、ときには人を越えるサイズにもなるのだとか。
そんな怪しげな生物には関わりたくないが、ピペットで“そいつ”を吸い出して培地に落としていく。培地の種類は、ミルク、トマトジュース、チョコレートと美味しそうな3種類から選べるそうで、その日の気分で筆者はチョコレートを選択してみた。
培養を待つ間、カメラが必要だと言うゾーイ。彼女は「カメラを取ったら、何か“違和感があるもの”を撮影してください。例えば、空中に浮かんでいるとか、常識的にそこにないはずのもの。」と口に出す。いよいよ冷たい空気が流れ始めた。そして、つぎに放たれたセリフがプレイ中の筆者の背筋を凍らせる。
「“向こう側”に気付かれないようにしてください」
向こう側って……?
居住区域に戻り、カメラを手に入れてから施設を探索してみる。筆者はにわかながらル・コルビュジエ氏のサヴォア邸などが好きなので、見応えのある建築を堪能。
すると、廊下にポツンと浮かんでいる傘が目に留まった。あまりにも当然のように、そして無機質にポツンと浮かんでいるその傘は、“ただ浮いているだけ”なのに、驚くほど、怖い。
写真を撮らなければならないので近づいてみると、ノイズのようなものが走って傘が急激に振動し始めた。離れた位置から撮影すると、カメラを下ろした瞬間に傘は重力に従うように落下。まるで「見られているから、きちんと常識に従おう」と傘自身が判断しているようだった。
気付くと写真の上に謎の物質が出現。ゾーイに見せると、これは“境界結晶”というもので、培養に必要な物質なのだそう。何なんだこれは。境界ってなんだ?
という感じで多くの謎を感じたところで、今回の試遊ではここまで。エンディングでは孵化(?)したジェニオがちらりと登場しており、卵程度のサイズから、人型、山をも越えるサイズまで成長している様子を確認できた。
プレイ中はずっと背筋がゾクゾクする恐怖をぬぐえず、不安がまとわりつく不思議な感覚を覚えた。思うに、建物やゾーイがあまりにもふつうで無機質だから、浮いている傘などの“違和感”が強烈に印象つけられたのだろう。
そして、ふつうの中に違和感があることを一度でも認識したのなら、ある種のミーム汚染のように、今度はふつうのことに違和感を覚えるようになる。
世界観の演出が秀逸な本作は、未知の生命体を描いたSFや精神を蝕んでいくようなホラーが好きな人におすすめしたい1本となっている。2023年9月21日より開催予定の東京ゲームショウ2023にも出展されるとのことなので、ふつうの世界が侵食される感触を味わってほしい。