2023年5月24日、KADOKAWAデジタルエンタテインメント担当シニアアドバイザーの浜村弘一氏によるオンラインセミナー“2023年春季 ゲーム産業の現状と展望 ~シーズン2に向かうゲーム産業~”が開催された。

 巣ごもり需要の終了や、ウクライナ侵攻による世界経済への影響など、さまざまな要因で初の“縮小”を経験したゲーム市場の現状について、さまざまな角度から分析。低迷からの脱却はもちろん、ここからさらに業界を活性化させるうえで必要な展開についても、最新のデータをもとに語られた。本稿では、この講演の概要をリポートする。

浜村弘一

『週刊ファミ通』編集長などを歴任し現在KADOKAWAデジタルエンタテインメント担当シニアアドバイザーを務める。

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世界のゲームコンテンツ市場規模

 セミナーではまず、世界のゲームコンテンツ市場について言及。2022年度の市場規模は2036億ドルで、前年度の2189億ドルから大きく減少する結果となった。そんな中、日本のゲーム市場規模はわずかに上昇していて、浜村氏はその要因を「プレイステーション5(PS5)の生産体制が整い、急速に普及し始めた点にある」と指摘。

23年度はPS5の売上がゲーム市場の活性化カギ、 “2023年春季ゲーム産業セミナー”リポート 記事編集に戻る
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 事実、PS5の販売台数は前期比の185.7%を記録したが、これまで市場を支えてきたNintendo Switchがピークアウトを迎えたため、爆発的な規模の拡大にはいたらなかった。2023年度は、いよいよ販売が正常化したPS5がどこまで売れ行きを伸ばすかが、市場の活性化において重要なカギになるという。

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 一方、「中国のゲーム企業の動向から目が離せない」とのことで、ネットイースやテンセントが日本のクリエイターと結びつき、新たな事業展開を模索していることを紹介。TikTokを運営するバイトダンスがゲーム市場に参入したことにも触れた。

各企業の動向について

 続いてここからは、プラットフォーマーを始めとした、各企業の動向についての言及をまとめて紹介する。

任天堂

 ピークアウトを迎えたとはいえ、Nintendo Switchはまだまだ健在。国内では間もなく販売台数が3000万台に到達する見込みで、世界での累計販売台数は2023年2月の時点で1億2255万台を突破した。

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 任天堂以外にもサードパーティから多数の期待作がリリース予定だ。新作タイトルだけでなく旧作がいまだに売れ続けている点も、Nintendo Switchの強みと言える。その理由は、発売後も定期的に追加DLCやエクスパンションパスが配信され、つねに新作同様のプロモーションがなされている点にある。

 その他、大ヒットを記録している映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』や、2023年夏にリリース予定の『ポケモンスリープ』も紹介された。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント

 PS5の販売体制が確立し、2022年後半より売り上げも一気に加速。それにともない、ソフトの売り上げも順調に伸びてきている。

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 また同社も、映像コンテンツの制作に注力していて、ドラマ版『The Last of Us』は海外で大ヒットを記録。

 SIEとしては、まずはPS5で先行して新規タイトルをリリース。その後、ほかのプラットフォームでも展開することで、作品の知名度をワールドワイドに広め、それをきっかけにPS5へと新規ユーザーを誘導する……という狙いがあるそうで、こうしたゲーム以外のコンテンツの展開もその一環だという。

その他

 Steamは2023年1月初旬、同時接続ユーザー数が3300万人を突破。

 Epic Games Storeにて自主パブリッシングを解禁。販売者は売上高の88%を収益として得られ、Unreal Engineで開発したソフトの場合は、エンジン利用料金も免除される。

 PCおよびコンソールゲームプレイヤーに対し、ゲーム内動画広告を視聴する報酬として、ゲーム内通貨やアイテムを提供するゲーム内広告プラットフォーム“PlayerWON”が台頭。

 Netflixがゲーム事業に本格参入してから1年が経過。すでに多数のタイトルがリリースされているが、2023年にはさらに40本のタイトルをリリース予定。現在16本を社内スタジオで、70本を外部のパートナーと開発中だ。

ゲーム市場を盛り上げるためのさらなる展開

 浜村氏は、ゲーム市場をより活性化させるためには、これまで以上にメタバースやAIとの結びつきが重要になるとも言及。そこで話題に上がったトピックがこちら。

 メタバースに注力する国内携帯キャリア。日本の携帯キャリア大手は、各社がそれぞれ、スマートフォンなどにおけるメタバースサービスを展開。ドコモは“XR World”と“MetaMe”、KDDIは“aU”、ソフトバンクは“ZEPETO”と“なにわ男子HOUSE”の提供を開始している。

 ゲーム開発会社、大手金融機関、大手ICT企業、商社など9社が協業し、“ジャパン・メタバース経済圏”創出に向けた基本合意書を締結。(2023年2月末)

 SEGA XDと電通がメタバースによるブランディング支援サービスを開始。オンラインゲーミングプラットフォームおよびゲーム作成システムである“Roblox”を活用。

 コロコロコミック(小学館)にて、Robloxを用いたゲームコンテスト“ROB-1グランプリ”を開催。(2023年3月)

 位置情報&MRゲームが続々登場。『Monster Hunter Now』、『信長の野望 出陣』なども発表され、ますますマーケットが活性化。

 AIによるゲーム制作の簡略化。AIを活用することで、ゲーム制作がよりスムーズに。今後はプログラムを知らなくても、ゲームが作れるようになるかも? その一例として、ユービーアイソフトが発表した、ゲームの脚本制作を補助するAIツール“Ghostwriter”を紹介した。

 全国各地でインディーゲームの展示会が開催。プラットフォーマーだけでなく、さまざまな企業が興味・関心を示しており、さらなる活性化が期待できる。

eスポーツが本格的に再開

 コロナ自粛が明けてきたことでeスポーツのリアル開催が本格的に再開。世界のeスポーツ市場規模は、2022年の時点で1384万ドルに。2025年には1866.2万ドルに到達すると予想されている。こちらのテーマでは、以下のトピックについても説明がなされた。

 2023年7月~9月にかけて、サウジアラビアで世界最大規模のeスポーツとゲームの祭典“Gamers8 : The Land of Heros”が開催。賞金は総額4500万ドル。

 スポーツ専門のビデオ・オン・デマンド・サービス“DAZN”にて、eスポーツの配信が開始。

 eスポーツの強豪チームとして知られる100 Thievesが、自社でのゲーム開発を発表。

 日本国内のeスポーツ市場規模も好調で、2024年には150億を超える予想。2022年後半からは大規模な大会も続々実施され、2023年3月31日~4月2日には東京ビッグサイトにて、“EVO Japan 2023 presented by Rohto”が開催された。

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 eスポーツに関する企画やプロデュース、運営、コンサルティング、配信、プロモーション、施設運営などを行なっているウェルプレイド・ライゼストが、東京証券取引所グロース市場へ上場。

 IOCが“オリンピック・バーチャル・シリーズ”を開催。オリンピックeスポーツシリーズ2023は、2023年3月1日に開幕。各競技の予選ラウンドが行われ、6月22日~25日にシンガポールで開催されるオリンピックeスポーツウィークにて、対面形式による決勝戦が実施予定。

 2023年9月から始まる“第19回アジア競技大会”にて、初めてeスポーツが公式メダル競技として実施されることに。

まとめ

 さまざまな要因があり、大きく低迷した状態からのスタートとなった2023年のゲーム市場。だがプラットフォーマーを始め、各企業は先を見据えた新たな動きを見せていて、ここから徐々に盛り返していくことが期待できる。

 そして、そこからさらに市場規模を拡大していくには、ゲームエンジンの普及、開発した作品への料率改定、開発者のサポートをするAI開発、パブリッシャー各社のインディー支援など、さまざまな挑戦のうえで成り立つ「“ゲームの民主化”が何よりも重要になってくる」と強調する形でセミナーは終了した。

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