オリジナル版の開発コアメンバー特別インタビュー

 “世界再生の旅”を経て成長するキャラクターたちの姿を、重厚なドラマを通じて描いた“君と響きあうRPG”『テイルズ オブ シンフォニア』。そんな名作が発売から20周年の節目に、現世代機で遊べるリマスター版として登場。

 ここでは、オリジナル版の開発コアメンバーである樋口義人氏、長谷川崇氏、実弥島巧氏を迎え、当時の苦労や開発の裏話など、多岐にわたる事柄について訊いた。

※本インタビューは、『テイルズ オブ シンフォニア』のネタバレを含んでいます。

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『テイルズ オブ シンフォニア リマスター』オリジナル版開発陣インタビュー。3D化、好感度システム、重いテーマ、シナリオ分岐……20年前のあくなき挑戦の軌跡を語る

樋口義人(ひぐちよしと)

バンダイナムコスタジオ所属。ゲームディレクター、ゲームデザイナー、企画職統括として精力的に活動中(肩書はオリジナル版開発時のもの)。

長谷川崇(はせがわたかし)

バンダイナムコスタジオ所属。ゲームデザイナー。『テイルズ オブ』シリーズでは『TOV』や『TOZ』のシナリオも担当している(肩書はオリジナル版開発時のもの)。

実弥島巧(みやじまたくみ)

ゲーム脚本や小説など、幅広く手掛けるフリーランスライター。『テイルズ オブ』シリーズでは『TOS』や『TOA』などのシナリオを手掛ける。

『テイルズ オブ』シリーズの未経験者が集結したからこそエネルギッシュな作品に!

――まずは皆さんが当時、どんな立場で『テイルズ オブ シンフォニア(TOS)』に関わっていたのか教えてください。

樋口当時、『テイルズ オブ』シリーズの開発はナムコと日本テレネットさんで行っていたのですが、僕はナムコ側の開発ディレクターとして参加しています。企画の立ち上げからではなく、ちょっと時間が経ってからの参加ですね。

長谷川私は、プランニングリードという形ですかね。

樋口メインプランナーですかね。実質的には当時は日本テレネット側のディレクターに近いのかな。

長谷川基本はメインゲームデザインを担当して、あとはその他もろもろフォローする、現場の取り仕切り役みたいなことをしていました。

実弥島私はシナリオ、世界観全般担当です。

――実弥島さんは当時からフリーランスのシナリオライターという形でご参加されていたのでしょうか?

実弥島そうですね。当時『TOS』と平行して『テイルズ オブ デスティニー2(TOD2)』も開発ラインがあって、脚本を月光さん(おもにゲームシナリオを手掛けるシナリオ工房)が担当していました。私は月光さんとお付き合いがあったので、「もう1本作るのですが、人数が足りないので実弥島さんがやりませんか?」とお声掛けいただいたのが始まりです。それで「ゲームは書いたことがないですけど」と言ったら「書けると思うからって大丈夫」って(笑)。

――それはなかなか無茶ぶりですね(笑)。

実弥島最初は月光さんが「大丈夫、横でいっしょに書きかたを教えますからお願いします」っておっしゃっていたのに、途中から『TOD2』で忙しいと、私ひとりで抱える形になったんです。「えー」って(笑)。

一同 (笑)

――いま考えると、2本同時に『テイルズ オブ』の開発を進めるなんて、すごく無茶がありますよね。

樋口だから僕は最初『TOS』用に増員されたんですけど、『TOD2』が忙しくなってほとんどメインになり、そちらの終わりが見えるくらいになって『TOS』に合流した感じです。

長谷川じつは制作ラインを初めて増やした1本目なんですよね。『テイルズ オブ エターニア(TOE)』まで日本テレネットが開発していた中で、ウルフチーム(日本テレネットの開発チーム)が丸々空いて「何かゲームを作らなきゃいけないよね」となりまして。「だったら『テイルズ オブ』シリーズのIPの3D化を目指そう」という話が出て、まずはナムコさんに企画書を出すところからスタートしました。

樋口TOE』で最後に増員されたのが長谷川さんとメインのエンジニアであるプログラマーで、このふたりがリードを取って立ち上がったのが『TOS』でしたよね?

長谷川合っています。そのときから実弥島さんはいたはず。

実弥島そうですね。私もほぼ最初からライターとして参加していました。

――そんな初期段階から参加されていたんですね。

長谷川多分、樋口さんより先ですよね。

実弥島最初は7人くらいしかなかったような?

樋口まだ制作体制ができなくて「やばいから誰かいないか」みたいな段階でした(苦笑)。

長谷川製品として「これを作ろう!」となる前に、2年ぐらい「シナリオを叩こう」と言ってそうしていなかった時間があったんです(笑)。『テイルズ オブ』シリーズを3Dにするというところで、越えなければいけないハードルがあり、その準備期間がわりと長かったですね。

――となると、技術的な挑戦で骨組み作りが先にあり、その後にシナリオなどの肉付けをしていったと?

長谷川というよりは、『テイルズ オブ』シリーズのIPとしてのブランドを、3D化するならばどう進んでいくべきかという部分ですね。当時、樋口さんたちとも話しながら、それこそ3D化をやるべきなのかどうか、と。もともと『テイルズ オブ』シリーズはずっと2Dでしたし、ドット絵が『テイルズ オブ』シリーズの魅力だというお客様もたくさんいましたから。「ああでもない、こうでもない」と検討しながら、結果的に3D化にシフトすることが確定しました。

樋口あとはゲームキューブが発売を控えたタイミングで、『TOS』をゲームキューブ向けに作るとなったときに「やはりそれは3Dにするべきでは」という意見も判断の過程であったはずで、それらがすべて一致したんだと思います。

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――そんな思い出深い『TOS』ですが、今回リマスター化の発表を受けていかがですか?

樋口じつは『ユニゾナントパック』(※2013年発売。『TOS』と続編の『TOS -ラタトスクの騎士-』の同梱作品)もあったので、そんなにいまさら感はなかったのですが、単純にうれしかったですね。やはり現行のハードで遊べる当時のタイトルが少ないですから。それと同時に「そのままやるの?」という嬉しくも恥ずかしいような想いはちょっとありました(笑)。でも、先ほども言いましたが「ありがたいです」という気持ちが大きいです。

長谷川橋口さんが言っていますけど、ゲームデザイナーとしてはシンプルに20年前のデザインと調整した作品がいま出されるのは、もうほとんど羞恥プレイだなと。

一同 (笑)

長谷川ゲームデザインは現在でも受け入れてもらえると思うんですけど、やはりさすがに当時の調整は……と言いたいけど、それをそのまま提供することが目的の製品ですからね。だからこの羞恥プレイに耐えなきゃいけないんだろうなと。

樋口当時のゲームとしてはだいぶ調整したけどね。やり切れていない部分はあるけど。

長谷川当時でも「やり直させてくれ」というくらいなのに(笑)。

――実弥島さんはいかがですか?

実弥島おふたりがおっしゃったように、20年前の作品を出されることは私にとっても、すごく羞恥プレイで(笑)。言葉の選びかたひとつにしてもいまでは時代が違いますよね。当時ならば許されていた表現が、いまだと引いてしまったり。あとは先ほども言いましたけど、私はゲームのシナリオを書くことが初めてだったので、つたない言葉選びなどいろいろと反省するところがいっぱいあるんですよ。直したい……でも今回はリマスターなので直せないんですよね。

 当時遊んでくださった方はいいんです。多分「懐かしいな」と感じてくださるでしょうし。でもリマスター版から遊ばれる方は、あくまで20年前のゲームだということを心の中に秘めて遊んでいただきたいなと。

――うれしさ半分、恥ずかしさ半分みたいな感覚でしょうか。

実弥島うれしいことは間違いないですね。いまの方に遊んでもらえて、しかもいろいろなハードでいちばん遊びやすいスタイルを選べますし。ただ、うれしさと個人的な恥ずかしさは別問題ですね(笑)。

――そうですよね。いまなお、キャラクター人気投票ではロイドやゼロスが上位にランクインし続けるなど、20周年を迎えてもファンから支持され続けている『TOS』ですが、たとえば「ここがあったからヒットした」というような点などが分析されていたなら教えてください。

樋口たくさんあって言い尽くせませんが、やはりキャラクターの個性が際立っていることでしょうか。それとゲームとしてもいまにないような仕掛けや物量なのに、けっこう丁寧に作っているなと、いまも思っています。当時はそういう部分の作り込みも、高い評価をいただけたのではないでしょうか。

――そうですよね。周回プレイをしたくなる仕掛けがたくさん用意されていたので、そういった意味でもゲーマーの心をギュッと掴んだのかなという印象があります。

樋口そう思いますね。

長谷川周回プレイでのやり込み要素がたくさんあると評されるけど、作っていたときは1周のプレイしか想定していなかったと思います。同時期に遊んでいる人と、どうやってゲーム体験を差別化にするのかという点にこだわっていました。そのためにマルチルートなど、いろいろ用意したんですよ。要は学校で友だちと「昨日、お前どこまで行った?」となったときに、それぞれが違う体験をしていれば「何それ?」と盛り上がりますよね。それこそがゲーム体験だろうと意固地に思っていたから、周回することなんて毛頭考えなかったです。ただ、いま冷静に離れてこのゲームデザイン見ると「そうだろうな」とは思いますが、まああの頃は青かったんだなと(苦笑)。

――たしかに1周プレイするだけでも、それこそ50時間くらいかかるボリュームでした。

樋口グレードショップなど周回前提のシステムはありましたよね?

長谷川そもそもグレードのシステムは『TOE』からあって、それはたいへん素晴らしいアイディアだと思ったので、システム的に伝統化していこうっていう考えで入れていました。

――実弥島さん的にはいかがですか?

実弥島『TOS』が発売された時期は「ボリュームがあるゲームがいいゲームだ」みたいな風潮が少なからずあったと思うんです。私もそんなゲームが好きでしたし。その中でメインキャラクターが9人いて、それぞれに好感度の分岐があり、ダンジョンの攻略順番もわりと自由である。そんな風にくり返し遊ぶための要素がたくさんあって、結果的にボリュームを求めているユーザーさんに満足していただけたのかなと。あとは意識して作ったわけではありませんが、いまにして思えば生きていくことを応援してあげたくなるキャラクターたちだったからこそ、ユーザーさんにも寄り添えていただけのではないでしょうか。

――そういった魅力たっぷりの『TOS』ですが、初の3D化や好感度によるシナリオ分岐などたくさんのチャレンジがなされています。本作がその後の皆さんのゲーム作りに影響を与えたことはありますか?

樋口僕はもともとナムコ出身で、PS2が出る直前くらいに入社しました。3Dも開発で関わったことがなく、チームに来たメンバーも『テイルズ オブ』シリーズが初めてという人も多かったんです。僕はそれまで手掛けていた仕事が『鉄拳』や『ソウルキャリバー』のように、ハイエンドでそのときの技術の粋を集めて豪華なものをとにかくギュッと詰めるタイトルでした。そんな経験しかなかったところに、そのようなタイプとは真逆で、たくさんの物量を長くプレイしてもらうRPGを作ることになり、最初はすごく戸惑ったんですよ。でもすべてに全力を注ぐのではなく、全体の長さの中での遊びを体験してもらうのがRPGであり、僕が気にするような細かい部分はそこまで気にしないでもいいことがわかり、「RPGはこういう感じなんだ」という感覚がこのときに身につきました。これはすごく貴重な経験で、いまでも『TOS』の制作で得た感覚は、ほかの仕事でふつうに使えることばかりです。

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――長谷川さんはいかがでしたか?

長谷川『TOS』の制作というよりもRPG制作という枠ですね。RPGのメカニクスって何だろうという。これまで私が作ってきたゲームはアクションゲームだったのですが、RPGはアクションゲームと違って、ストーリーを前から順番にクリアしていくための最適化がされていて、アクションに比べて無駄を徹底的にそぎ落としていました。RPGはそうした構成が内部からまるっきり違うんですよね。「RPGはこんな作りかたをしておかないと管理がより煩雑になる」とか、制作のノウハウは『TOS』、『TOD』、『TOE』とずっとシリーズに携わっているエンジニアがいて、十分に蓄積があるんですよ。だから、そこは全部整っている状態で、あとは新しく作るゲームを加えていく形だったのですが、その作りかた自体は多分いまは知らないゲームデザイナーの方が多いと思います。それを経験できたことは相当違うと思っています。

 いまだとゲームフレームワークのUnityあたりが出たことによって、作りかたのフォーマットがオブジェクト指向になっています。これは技術的な話になってしまいますが、たとえば起きる出来事、何を手に取ったとか、どんな会話をしたか、どこにいたかなどは、Aというキャラ=オブジェクトにスクリプトを記載していくのがオブジェクト指向のスタイルです。

 ただ、当時のRPGはマップにほぼ全てを記載する形で、ある意味逆なんですよ。カンタンに説明するとまずは机をドーンと用意して、机の上にどれだけの物が置けるのかっていうのをハンドルしていくっていう作りかた。これはやったことがない人からすると、もう無限に物が置けるような感じに思えてしまうんですよ。

 でもとにかく机のサイズ決まっているから、この中に何をどうしていくのかということをちゃんと設計できないと、やりたいことは全然できません。それこそ最近は青天井なゲームデザインがいくらでもできるようになってきています。だから枠の中に入れてゲームデザインするという、RPGの作りかたの下地の経験がいまではどんどんできなくなっているので、相当勉強になりましたね。

樋口バトルを例にするとロイドならば最終形態が先にあって、ゲームの進行に合わせてどう削ってどこで能力をオープンしていくかみたいな作りかたになります。机に乗り切らない部分は削らなきゃいけないわけですが、その削りかたを一歩間違うと操作していてつまらない時間が生まれてしまいます。これをどうにかできるかという設計が必要なのですが、その考えが僕の中ではルネッサンスでした。「そうなんだ」って(笑)。

 あとは先ほど長谷川さんからもありましたが、『TOS』は『テイルズ オブ』シリーズに初めて携わるスタッフでほぼ構成されているんですね。もちろん、本作の前からシリーズにかかわっていた人も、最終的にはたくさん合流していますが。

長谷川『TOS』のために組織されたチームですね。

樋口ナムコ側なら僕もそうだし、プロデューサーの吉積さん(現バンダイナムコセブンズ所属の吉積信氏)も営業プロモーションから移動してきて初のタイトルだし、全体的にフレッシュなので、いい意味で遠慮がないんです。もちろんリスペクトはしますが「自分たちなりに解釈して作ってやろうぜ!」という、すごく強くてエネルギッシュな雰囲気はありました。

――「シリーズはこうあるべきだ」みたいなガチガチに固まってないチームだったからこそ、遠慮なくはじけられたと?

樋口振り返るとそんな感じですね。遠慮がないことはわかっていましたが(笑)。

実弥島ただ「初めてだからわからない」と過去を無視するのではなく、手探りで「こうかな? こうかな?」と考えた結果なので、まったく『テイルズ オブ』を知らないから遠慮なく、というわけではないんです。

樋口なのにちゃんと『テイルズ オブ』になっていたのはすごいですよね。

実弥島むしろなぜあんな風にできたんだろうっていう。

長谷川シナリオの書きかたなどの文法は、実弥島さんが最初からゲームテキスト的な感覚を持っていてくださったので助かりました。

――具体的にはどういった部分ですか?

長谷川やはり尺間ですね。とにかく最近凝ったテキストを書くと、どうしてもイベントが長くなるじゃないですか。最近の家庭用ゲームは大体7~8分でゲーム機側がスリープモードになり、そうなると画面が暗くなるんです。スリープ時間に到達してしまうほど、長い尺のイベントをやってしまっている。だから、イベントはスリープ時間より短くしなければいけないという肌感覚は、『TOS』から作っていったと思います。

――シナリオを書くときには時間配分など、「こんな絵が動く」というコンテのようなものを想像しながら執筆されていたのでしょうか?

実弥島そうですね。基本的には頭の中で、だいたいこれぐらいしゃべったら何分くらいになる、みたいなものを考えていました。執筆中はゲームを作っている最中で、どんな絵になるかわかっていない状態でしたが、おそらくこんな感じだろうと頭の中でキャラクターを置いて、1個のイベントの尺を計算していました。

 あとは自分がゲーム好きだったので「やはり序盤は飽きてすぐに止められないように、イベントを少し厚めにしよう」と考えたりしました。逆に「後半になれば少しイベントの間を空けても平気だよね」とか。でも当時はそれが正しいかどうか、判断する物差しが自分にはなかったんですよ。だから自分の経験も踏まえつつ、基本は思ったままを書いていきました。あとは長谷川さんたちが調整してくださるだろうと思っていたので。

――なるほど。そういったご自身の経験と自分のセンスが本当にうまく融合して完成したシナリオだったのですね。

実弥島単に私がゲーマーだった部分が大きかったかもしれませんね(笑)。

――それは大事ですよね。好きだからこそRPGファンのツボがわかる、と。

『テイルズ オブ シンフォニア リマスター』オリジナル版開発陣インタビュー。3D化、好感度システム、重いテーマ、シナリオ分岐……20年前のあくなき挑戦の軌跡を語る

映像のない文字だけのプロットではあまりにも重い物語の展開に危機感を抱いた!?

――つぎはシナリオやキャラクターについて伺います。やはりシナリオでよく言われることは、シリーズでも指折りの悲惨な展開がある“重いテーマ”だということだと思います。シナリオはゼロから実弥島さんが作っていったというお話でしたが、どのような流れで固めていったのでしょうか?

実弥島最初はプロットを3本提出したんです。その中の1本に『TOS』のもとになるものがありまして、今回はこれをベースにしていいんじゃないかというところから始まりました。

――けっこうスムーズにシナリオは決まった感じですか?

実弥島当時の記憶がフワッとしているんですけど……揉めましたっけ?

長谷川テイルズ オブ ジ アビス(TOA)』は揉めたけど、『TOS』はそうではなかったはずです。

実弥島ですよね。意外とスムーズだった覚えがあります。ほぼ最初に出したプロットと流れは変わらなかったはず。ただ日本テレネットさん側では揉めなかったんですけど、ナムコさん側に説明するときには揉めたような気が(笑)。

樋口ある程度はシナリオのあらすじができていて、読ませていただいたのですがもう内容が重くて(笑)。これはいろいろなところで話していますが、あらすじは出来事を淡々と書いてあるじゃないですか。だからキャラクターの個性や特徴もわからないし、絵もまだありません。ファクトだけが淡々と書いてあるから、もう余計に重さがグッときまして。

 当時はあまり『テイルズ オブ』シリーズに詳しいわけではなかったのですが、それでも
「これは僕が知っている『テイルズ オブ』シリーズじゃない……」と。それで僕の中で「これは大丈夫なのか?」と問題になり、「1回打ち合わせをしましょう」と日本テレネットさんに行ったら、実弥島さんや長谷川さんを始め皆さんがいて。そのときに思いの丈をぶちまけたら、実弥島さんがみるみる不機嫌になった(笑)

一同 (笑)

樋口でも僕は仕事で来ているから負けるわけにはいかないと、ファーストインプレッションを伝えたんです。そこに長谷川さんもいたはずなんですけど、とくに仲裁するわけでもなく。だから実弥島さんは僕への最初の印象はすごく悪かったんじゃないかな(笑)。

実弥島いや、そんなことはないですよ。仕事だからふつうにメチャクチャ言われるんだろうなと思っていましたから。それはもうどんな内容でも「これはつまらない」、「ここがダメ」とか絶対に言われるし、おもしろいと思って出しているから不機嫌にはなるのは確定なんですよ。でも指摘してくれた人に対しての悪印象はまったくないです。それとこれとは別なので(笑)。

樋口まあ、でもすぐに打ち解けるんですけどね(笑)。実弥島さんとは趣味嗜好が近いこともあり、つぎのお仕事も続くわけです。そんな重いシナリオですが当然役者さんの演技も入るし、キャラクターの性格もあんな感じなので、当然そこはだいぶマイルドになりますよね。

 でも、マイルドになったが故の、何か別の残酷さが絵的に出てきているなというのは感じました。有名なあのコーヒーのシーンとかね。わりと別の残酷さが出ているのを感じて、その残酷さがものすごく全体に効いているからこのシナリオはいいんだなと感じました。だから、やはり僕が単に若かったんだ、何もわかっていなかったんだといまでも思います。

『テイルズ オブ シンフォニア リマスター』オリジナル版開発陣インタビュー。3D化、好感度システム、重いテーマ、シナリオ分岐……20年前のあくなき挑戦の軌跡を語る

実弥島でも、残酷だとは言われていますが、じつは私は重いとか残酷だと思ったことは一度もないんです。『TOA』はもうちょっと残酷さを意識しつつ書いていますが、『TOS』はそんなことを言っても最後はほぼハッピーエンドだし。

――ほぼ(笑)。

実弥島まあ、戦いの話だからシビアなところは普通にあるよね、という考えです。いまでも覚えてるのが人間牧場に関する話で、当時Production I.G.さんがオープニングアニメを制作するための打ち合わせで、先方に資料を渡して打ち合わせしたときに「人間牧場ってすごいですよね」と言われたんですよ。話しながら「そうですね」と答えつつも、心の中では「そうかな、本当にそんなかな?」と。いまでもそう思っているんですけど、どうもそこらへんが皆さんと合致しなくておかしいなと(笑)。

長谷川でもゲームって昔から重いストーリーを提供してきた媒体だと思うんです。別に実弥島さんのテキストが重いか重くないかという話ではなく、結果的に重い内容かもしれませんが、やり過ぎとかそういうのはまったく感じなかったかな。

 これまでも重いシナリオは見てきたので、私もこれくらいのラインはRPGに求められているんじゃないのかなと考えていました。そんなに難しく考えていなかったから、樋口さんたちが反応するのを見て「ピュアなんだな」って……。

――シリーズで3D化が初めてということも、余計にインパクトがあったのかもしれませんね。キャラクターの表情などもドット絵よりハッキリ見えるようになって、たとえばコレットの天使化もハイライトが失われた瞳になるじゃないですか。感情を失ったという事態の深刻さがよりダイレクトに伝わってきて、怖さとか悲しさといった感情を揺さぶったのかなと。

実弥島見た目が全体的にかわいらしいじゃないですか。そういう意味ではそのかわいらしさとのギャップが、より重く見えたのかもしれないですね。

――ちなみに、『テイルズ オブ』シリーズといえば、キャッチコピーに「○○のRPG」というのが定番になっています。『TOS』の“君と響きあうRPG”というジャンル名、“世界は救われる。彼女を失えば。”というキャッチコピーは実弥島さんのご提案ですか?

樋口これは『TOS』でプロデューサーだった吉積さんが参加してから始まったものですね。このキャッチコピーはCMで使われたものじゃないかな?

長谷川シナリオの収録時に声は録っていないですね。

実弥島PS2に移植されたときのCMかもしれません。当時「そんな話だったかも~」と思いながらCMを見ていましたから。

――書き手なのに新鮮な気持ちで見ていたという(笑)。

樋口実際に開発のほうにはまったく相談をいい意味で受けていなくて、いつの間にか決まった。吉積さんが決めてCM制作をすでに動かしていたので、実際に全部終わった後に見せていただいた感じです。

――あとは『TOS』のシナリオで言うと『テイルズ オブ ファンタジア(TOP)』とのつながりを匂わせるような仕掛けがあります。たとえばシルヴァラントとテセアラの地図を重ねると『TOP』っぽく見えるみたいな、このあたりは執筆段階で少し意識されていたのでしょうか?

実弥島当初はまったく関係ない話で進んでいました。ですが、ナムコさんから「『TOP』のファンの方に向けて、何か関連性を感じさせるような感じの内容にできないか」とオファーをいただきまして。

 でも『TOS』の内容はまったく違いますし無理でしょうと…。しかも、人気があってシリーズの原点である『TOP』の続編を、安易に作るのはよろしくないんじゃないかと思ったんです。それで両者の共通の要素を引っ張りつつ、もしかしたら何かつながりがあるかも? 平行世界なのかも? みたいな考察ができる、振り幅の広い形でならば……という方向で作っていきました。

長谷川メチャクチャ話し合いはしましたね。

実弥島やはりシリーズの原点に私たちが触れるのは恐れ多いです。

長谷川しかも今回は2Dでもないし、まったく違うことをやろうとしていましたからね。

樋口僕はその時はまだチームに参加していなかったのですが、いま思うと売り側としては「こういう風なのがあったほうがいいからやってほしい」となるし、作る側としては「そんな冒涜は許されるのだろうか…」みたいなところのせめぎ合いがある程度出された結果の着地になったんじゃないかなと。

長谷川それで世界がふたつあるならば分けようなど、『TOP』の要素を入れると決めてからシフトしていった感じです。ただ、皆さんはワールドマップを意外と覚えているんですね。

実弥島あの考察はすごいと思いました。

――雑誌や攻略本などの誌面で見比べてみた方が多かったのかもしれませんね。

長谷川相当バラバラにして向きなども変えたのに、ふつうに気づかれたから大したものだなと感心しました。

――ファンの考察力は半端ないですよね。でもそんな盛り上がりを見ていかがでした?

『テイルズ オブ シンフォニア リマスター』オリジナル版開発陣インタビュー。3D化、好感度システム、重いテーマ、シナリオ分岐……20年前のあくなき挑戦の軌跡を語る

実弥島もちろん楽しんでもらおうと思って作ってはいましたが、こんなに喜んでもらえるとは思いませんでした。とにかく『TOS』がゲームシナリオとして初めてでしたし、どんな反応が来るのかもわからない中での仕掛けでしたからね。

 『TOP』とのつながりを否定的に捉えられてしまうかなと内心ドキドキでしたが、肯定的なご意見をいただくことが多かったので、すごくたいへんだったけどやってよかった。すごくいい方向に皆さんが解釈してくださったので、そこも含めて救われました。

――これはシナリオとリンクする部分かもしれませんが、藤島康介氏にキャラクターデザインをお願いされたときは、ある程度のプロットが固まった状態で、デザインをお願いした流れだったのでしょうか?

『テイルズ オブ シンフォニア リマスター』オリジナル版開発陣インタビュー。3D化、好感度システム、重いテーマ、シナリオ分岐……20年前のあくなき挑戦の軌跡を語る

長谷川キャラクターデザインについては、『TOD』からいのまたむつみ先生のストリームが続いていました。そんな中、これは吉積さんの意見だと思いますが「やはり藤島先生のデザインが欲しい」という話になりまして。

 ただ、我々もどのように発注すればいいのかがわからなかった。だから、そこは吉積さんが担当されていて、藤島先生に発注する段階からいろいろお話をされて多分プロットもお渡しして「こんなキャラクターが欲しい」みたいな要件をまとめてくださっていたのかなと。

樋口僕は途中からその役目を引き継いだ感じです。チームに参加した時点からなので、その時点でもうだいぶ藤島先生との間で話は進んでいて、僕のおもな関わりかたはゲーム側で要件を満たせない、どうしてもデザインの表現が満たせない部分を、藤島先生に直していただくお願いをするという、けっこうしんどい仕事をしていました。そのつぎの『TOA』では僕が最初からやり取りを担当しています。

長谷川イラストも当時は技術的にも「これは3Dでは表現できないよね……」みたいな箇所もありました。わりと自由にデザインしてくださっていたので、そこはもうどう伝えるかと言ったら「実現できません」と返すしかなかったという。ただ、『TOA』では「こういう表現が3D化するときに難しいです」みたいなことも含め、最初に藤島先生にはお伝えできたのでスムーズになりました。そういう意味では、『TOS』の下地が『TOA』で生きていると思います。

樋口藤島先生とのリレーションも、このときにだいぶできた感じです。

――たしかにそうですよね。いままで2Dだったからドット絵で再現するのは最初から無理だから、ある意味自由にデザインや装飾を考えてくださっていたでしょうし。

長谷川これは余談ですが、藤島先生に3Dで実現することの難しさをコンコンとご説明したおかげで、「いま現在はそういうデザインでも3D化できるんですよ」とお伝えしても、いまでもそこの不備がでないように意識して描いてくださっていますね。

――気を配ってくださっているわけですね。あとはストーリーで言えば好感度によってゼロスとクラトスのどちらかが仲間になる、ならないという展開が『TOS』の特徴として挙げる方も多いと思います。この仕組みを入れた狙いと、発売後の反響を受けていかがでしたか?

実弥島もともとゼロスは好感度1位以外では、必ず“死ぬ”か“離脱する”かのどちらかになる予定でした。好感度1位以外の場合は死ぬタイミングが違う形で、いちばん好感度が低かったらクラトスルートに突入して死んでしまう。そしてもう少し好感度が高ければ、ゲームクリア後に死ぬという感じを想定していました。

 そうしたら長谷川さんが「ゼロスを離脱させるんだったら、そこにクラトスを入れたら」とおっしゃって。そうするのならば、そもそもクラトスが加入するルートだけゼロスが死ぬほうがよりいいんじゃないかなと思い、結果あの形になったと記憶しています。

長谷川そうですね。先ほども言いましたけど、個人的にゲーム体験はその人だけのものだと思っているんです。最初に実弥島さんに「メインのストーリーのヒロインは固定なんだけど、ゲームプレイにおけるパートナーを変えるテキストを書けますか?」とお聞きしたんです。そうしたら「できます」と言ってくださったので、ならばそうしようと。

 あくまでゲーム側が提供したヒロインが、プレイヤーにとってもヒロインになるのかどうかわからない。もしくはヒロインじゃなくて、もしかしたら人によってはマブダチが欲しいかもしれない。だからそこはゲーム側が決めつけるべきではないと。

 ですので、そういう意味ではストーリー上で重要な主人公、ヒロインという意味でのロイドとコレットではなくて、操作キャラクターとしての、プレイヤーたるロイドといっしょにこの冒険をずっとくり返したキャラクターは、ユーザーごとに違っていいはずだと、当時の私は強硬に理屈をこねていました。

 クラトスに関しては、実弥島さんの言った通りですね。実弥島さんはそこに遠慮して、そもそも最初はクラトスをパーティインさせてなかった。それで「このままではインパクトに欠けるから、パーティに参加させましょう」とお話をしました。結果、制作チームの大半から大顰蹙を買うという(笑)。

 「二度と使われることがないかもしれない、最初の3分の1のためだけにこのモデルを作る意義を述べよ」と問われたから、「意義はあると思う。でも俺の中にしかないから頼む、やってくれ!」とお願いしました。

一同 (笑)

長谷川基本的に演出は引き算だと思っていて、盛るのではなく抜いていくことで物を高めるという考えかたなので。

樋口クラトスとゼロスに関しては、ゲーム的にパーティの性能に差が出ないコンパチの意味もありました。遊んだお客さんがシナリオの展開で感じる違いとかは、分岐などもありますしいいかもしれません。ですが、ゲーム的な部分で不利有利など圧倒的に差が出てしまうと、それはゲームのバランスの問題になります。

 やはりAというお客さんとBというお客さんは、なるべくゲームの難易度とかゲーム体験としては同じものを体験してほしいって思いがありますから。僕が言うのもあれですが、すごく上手にできている仕組みだなって。

長谷川ただ、クラトスとゼロスには性能差はできてしまいましたけどね(苦笑)。

樋口中身が違うので仕方がないですよ。

長谷川ゼロスの魔神剣はクラトスと比べてちょっと強すぎました。

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――『TOD』ではリオンの離脱はありましたが、このように一方が仲間にならない、もしくは死んで離脱することは『テイルズ オブ』シリーズでもなかったですよね。

実弥島たしかにそうですね。でも、そこは意識したわけじゃないんです。クラトスとゼロスにそれぞれの事情があっての結果なので。ただ、「なんでどっちも仲間になる選択肢がないんだ」という声はすごくありました。

長谷川じつは私のゲームデザイン理論に“パーティは2分割できる人数がちょうどいい”という、なにか呪いのように取り憑かれたものがあったんです。ゲームを進行するときに別行動する可能性があるから、4人パーティのゲームではキャラは8人でデザインするということが美学だったんですよ。そこにユニット性能が近しいキャラクターが入って、9人になることはゲームデザイン上では美しくないので、そういう意味でも入れ替わりのようなシステムを用意して違和感をなくすという(笑)。

樋口4・4理論ですね。

長谷川いま考えるとバカですよね。だってデータは9つぶんあるんだから、素直に入れたらいいじゃんと。これがデータは8つしかない状態でガワが変わるのならば、その理屈でもいいんですけどね。

実弥島途中離脱のキャラを作って欲しくないからこそクラトスはパーティに入れないと言っていたのに、いろいろ尽力してくださって参加できるようになりました。ただ、長谷川さんがおっしゃっていたように、最初の3分の1くらいしかいっしょに冒険しないので、当時の偉い人が私のところに来て「最初だけでなく、彼はその後もちょこちょこ出てくるよね?」とすごい圧をかけられたんです。それで、「で、出ます…。」と(笑)。その結果、クラトスがちょこちょこ「ロイド、ロイド」と出てくるようになりました。あの圧がなかったら、あんなに出ることはなかったです(笑)。

一同(笑)

実弥島なにせゲームのシナリオが初めてだったので、このときに「そうか、コスト的にもいろいろあるんだろうな」とわかって。結果、クラトスは「あの人はなんなんだろう」と意味深な感じで顔出しするようになりました。最終的にはよかったと思っています。

――あの選択があるからこそ名作と言われるゆえんなのかとも思います。

樋口好感度システムについては、最終的に製品をまとめる感覚でいくと、デバッグがめちゃくちゃたいへんです。当時そんなにすごい仕組みがあったわけじゃないから、好感度ごとにすべてチェックしながらプレイするわけですが、だんだんとチェッカーさんたちがいまで言うRTAみたいに早くなるんです。バグをチェックする仕組みに好感度チェッカーを乗せられなかったので、プレイして調べるしかありませんでした。だから好感度システムは二度とやらない、と(笑)。

長谷川いちばん『TOS』で学んだことですよね。「もうやらないぞ!」と誓いを交わした覚えが。

実弥島あれは本当にたいへんでした……。

長谷川そうですよね。“パルマコスタ上ルート(海を越えてパルマコスタを目指す一般的なルートでなく、そのまま北上するルート)”とか(笑)。

実弥島ごめんなさい。そのルートは私が入れた(笑)。

長谷川ルート名については、デバッガーさんたちがどんなルートで遊んでいるのかを我々に伝えるために、いろいろなルート名を付けてくださっていたんです。

実弥島私はシナリオ進行中に行けるところがあれば、どこまでも行きたい派なんですよね。だからあのマップだったらいくらパルマコスタに行けって言われても、絶対に無視して上に進むと思ったんです。

 自分が自分の欲求を満たすために上のルートを用意したら、それで分岐がえらいことになりまして。もちろん後からきちんと調整してくださったと思うんですけど、当時は好感度をどのように入れるのかがわからなくて。

 だから選択肢ごとにすべて「この選択肢を選んだらこのキャラの好感度がこれだけ上がる。このキャラはこれだけ下がる」と、シナリオを書きながら記していました。それをやりつつ選択肢分岐もやりながら、なおかつパルマコスタ北上ルートを入れたら、パーティインする順番も変わって……。攻略するダンジョンの順番も人によって違うし、どのパーティに誰がいる状態なのかもわからなくなり、全パターンを書くことになって「二度とやらない。これは地獄だ」って。

――そうですよね。すべての数値をメモして、この好感度のときにこのキャラがいるはずだから最大高感度はここまで上がるはずだ、みたいな計算をされていたと。

実弥島このキャラクターがいないときは、このセリフを別のキャラクターが言うなどのシチュエーションもすべて書きましたね。

樋口封印を解くダンジョンに行く順番ですら自由ですからね。そのときに誰がパーティにいるかすらも、プレイヤーごとに違うじゃないですか。そうするとたとえば“しいな”がいる、いないとかでイベントも変わってしまう。でもだいたいバグると、いないはずなのにしいながいるんですよね。そういう現象がもう最後にメチャクチャ出てくる(苦笑)。

長谷川だから『TOA』ではもうやめようと。

実弥島『TOA』の時は、真っ先に「好感度はないですよね?」と聞いて、ないことがわかったので「だったらやります」みたいな。

樋口当然デバッグチームからも好感度については聞かれました。

長谷川それによってデバッグ体制も変わるんですよ。でも、これがおもしろい話でして、さっき言ったRPGのテーブル理論ですが、いまの時代ではたとえばクラトスというオブジェクトに記載すれば対応できるようになっているんです。だから好感度システムは昔より制作難度は下がっているんじゃないかと。

実弥島下がってはいるかもしれませんが、シナリオを書くたいへんさは変わっていませんよ(笑)。

長谷川もちろんデバッグの難易度も変わらないです。プログラム制作の難易度は下がったけど(笑)。

――好感度の違いがそれだけあると、ボイスの収録もたいへんだったのではないでしょうか?

長谷川当時は収録環境もまだ手探りでした。だから声優の皆さんも相当苦労したと思います。同じセリフを3回くらい録るのですが、「なにがどう違うの?」みたいな質問をされて、「これはこのセリフを受けたときのパターンと、もうひとつはこの文章の成果を受けてのパターンなんですよ」とかですね。

 いまならば同じボイスでオッケーにしますが、当時は同じセリフでもダメになったときが怖いので、いちおう録ってください、という感じでご負担をおかけしました。

――たしか当時は声優さんがスタジオに集まって収録していたとか?

樋口そうですね。けっこう遅い夜に収録していた覚えがあります。

――あとはシステムで言えば冒頭でも話題に出ましたが、やはり3D化が大きかったと思います。3D化に踏み切ってよかったと感じた点や、苦労した点はありますか?

長谷川いちばんたいへんだったのは、やっぱり『テイルズ オブ』シリーズといえば2Dゲームだという層に3Dをネガティブに捉えられないようにするためにどうするかですね。見た目は3Dだけど、ゲーム感覚をすべて2Dにすることを『TOS』ではやっているんです。

 だから街やダンジョンなども、2Dと同じ感覚で操作できるようにしました。いまだったら右スティックなどでカメラを回しますが、それを完全に封印して、全部のロケーションに対して、カメラがベストなポジションに動くようにしています。まあ、これはいまのゲーム制作ではそんな労力をかけなくていい部分ですけどね。

 いまもそうですが、当時はマップデータを無限に使えるわけじゃない。決められた範囲と容量でやりくりしなくてはいけないんです。これも技術的な話になりますが、バトルを快適にするために、メモリにバトルシステムに必要なキャラデータなどは丸々載せてあります。ですが、マップはこの領域を除いたところで作らなきゃいけない。となると映らないところはなるべくデータを削除するために、モデルを切っておくわけです。そうなると、カメラ調整が少しズレたら簡単に裏側が見えたり、何もない空間が出たりしてしまって。

樋口もう二度とやりたくないと言われながらも、けっきょく『テイルズ オブ ヴェスペリア(TOV)』まではこの仕組みで作りましたからね。カメラはもともとパラメータ設定をしていて、見えては困るところが見えないような動きをさせる感じです。

 ちなみに『TOS』で最初にマップを見たのは、のちにルインになる場所なのですが、そこを歩いているだけで2Dでは味わえない世界の描かれかたがされていて、「これは何かすごいことになるぞ」とワクワクしました。そういう変化は思い返してもすごかったと思います。

長谷川キャラクターの表現に関しては、トゥーンレンダリング(セル画のような影の塗り分け技法)、セルシェーディング(イラスト風やセル画風に見せる技法)という、いまではだいぶ進化した技術を使っています。

 マップは当時の文法的な部分において、テクスチャーを美しく手描きすること=高い品質につながる、ということが多かったんです。ですが『テイルズ オブ』シリーズの、手描き風のテクスチャーはある意味職人芸で、誰でも量産できるわけじゃない、属人化されたものでした。だから「この重要なマップは、やはりこの方に担当してもらわないと作れない」みたいなことも多く、そこはたいへんでした。

樋口『TOD2』などはいま見てもけっこうすごい描き込みですよね。あれと同じ感覚を3Dで持ってもらうことは、コスト面においてもとんでもないことになるし、属人化が進んでいるのでなかなか進まなかった苦労があったと思います。でも結果的に3Dでも『テイルズ オブ』シリーズっぽい絵になったのではないでしょうか。

――『TOS』と近いタイミングで2Dラインの『テイルズ オブ リバース』も動いていましたよね。

長谷川そうですね。私は当時、ユーザーさんはゲームテクノロジーの素晴らしさを感じたいだろうと思っていました。もともと『テイルズ オブ』シリーズには、ずっと秘伝のタレで作り続けてきたチームがあるわけじゃないですか。だから「我々も同じことをしてどうするんだ」、「3Dしか選択肢がない」という考えが、当時は強くありました。

 ゲームはやはり技術に触れるものであり、技術に触れたときにユーザーを感動させるものが絶対にあるからと、その話を一生懸命に説明したんですよね。ですが、なかなかファンの反応はよろしくなく、当時は最初「なんだ、3Dか」と言われることが多くて。

実弥島初出のときはだいぶ言われましたよね。

長谷川たいへんだったけれどもIP自体が技術に取り残されたものになるわけにはいけない。それには当時開発会社だったテイルズ オブ スタジオ自体が技術力を向上しないことには、技術は高められない。IPと共存しながら技術を高めていくうえでは、あの時代に3D化を選択しない理由がありませんでした。

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ストーリーだけでなくゲームの遊びでもプレイヤーごとに個別の体験を用意

――キャラクターの育成という部分では、EXスキルなどプレイヤーのこだわりを反映できるシステムがたくさん用意されていました。このあたりのゲームとしての遊びの広さは、当時意識していたのでしょうか?

樋口当時長谷川さんがめちゃめちゃ言っていたことで覚えていることがありまして。2Dのゲームは、バトルに入った後にプレイヤーが管理することもすごく多い。たとえば『TOD2』のSPやTPは、これを管理するところにおもしろさがあると。

 でも3Dである『TOS』はそうでなくて、バトルに入ったらプレイヤーが管理するものはすごくシンプルでいいと。それこそHP、TPくらいで。その代わりにバトルに入る前の準備という部分の管理をすごくおもしろくしたいんだと言われて。「そういう考え方があるんだな」と当時は刺激を受けました。

長谷川それは『テイルズ オブ』シリーズのバトルが持つおもしろさというところにおいて、先代のスタッフたちが提唱してくれているのものが、RPGの基本の遊びであるパラメータをぶつけ合うだけに留まらず、アクション性が先鋭化し始めている時期だったんです。それこそ『TOD2』のバルバトスは、多くのRPGを遊んできた人でもなかなか勝てず、トラウマを植え付けられた方も多かったんじゃないかなと(笑)。

一同 (笑)

長谷川そういったよりアクションとして先鋭化したバトルはそちらのチームが担当しているので、我々はその体験をベースに、何か違うアプローチをしないとIP自体の深みがないなと。まったく違うバトルにすると具合が悪いですけど。あとは何よりも私がそういったおもしろいシステムを考えることができなかったんですね。

樋口そんなことはないけどね。

長谷川これは何度も言っていますが、ゲームはプレイヤーごとに体験があるべきと考えています。その想いが根底にあるから、ストーリーと同じように育成もこだわれるゲームにしたかったんです。

 「俺はこの技を使ったけどこれはどうだった」とか、「この後のボスがめちゃくちゃ強いからお金を使って強化しよう」みたいな話が学校などで話題になるのは、当時はかなり重要なファクターだと考えていました。そこも踏まえて樋口さんを説得した感じです。

 ただ、発売後のアンケートを見るとやはりコンプリートユーザーのほうが圧倒的に多いことがわかりまして。周回プレイもそうですが、私があまりコンプリートプレイをするタイプじゃなかったんです。そういう意味では、コンプリートユーザーに向けたチューニングをする必要があるんだということが、『TOS』ではすごく学びになりました。だから『TOA』ではそういうことはなるべくしないようにしました。キャパシティ・コアくらいかな。

樋口そうですね、入手に違いがあるのは。

長谷川TOV』の場合は基本的にコンプリートすることはたいへんだけど、多くのやり込み要素があるパターンにしました。『TOS』の話に戻りますが、いまの時代に合わせるならばコンプリートプレイができるように、ちょっと調整してあげてもよかったんじゃないかなという気はします。

樋口ただ、ジェムの入手難易度とか、タイプもテクニカルかストライクのどちらにしかならないとか、嫌な言いかたかもしれませんが、たぶんいまの時代にはそぐわないのかなと。一部の人のためだけのものを作るのはもったいなく、みんな効率がいいものにしようという時代になってきていますし。『TOS』はその発想が真逆なところが、いま振り返ってもすごいと思う。

長谷川『TOS』はあくまで1回のプレイでの体験をその人だけのものにする、ということがコンセプトの中心だったので、コンプリートユーザーの方にはたいへんご迷惑をおかけしました。

樋口いやいや、でも長く遊べますから。

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――このリマスターで初めて触れる人は、1周でコンプリートできない遊びの深さを逆に新鮮と感じる可能性もありますし。

実弥島こればかりはわからないですね。

――あの当時はいろいろなところから情報を集めて、どうしたらいちばん有利に戦えるのかみたいな情報交換をしていたのは覚えています。

長谷川20年前だとコミュニティーの作りかたも基本的にはリアルでの集まりで、その場で話題になることがゲームには必須だと思っていました。いまで言う“バズらせる”ためには、友だちどうしの体験が同じにならず、確認し合うような遊びにならないといけない。そんな思いがあったからこそ、そういう作りかたをした部分はありますね。

――ではリマスター版で初めて『TOS』に触れる方に向けて、どんな部分を楽しんでほしいかをひと言ずつお願いします。

樋口やはり古いゲームなので、いまのゲームと同じような感じで遊んでもらうのはちょっと難しいかもしれません。ですが、初めての方も偏見なく遊んでいただければ幸いです。また、もう一度プレイしてみようというお客さんは、あの当時のことを思い出していただいて楽しんでほしいです。内容も同じなので安心して遊べます。

長谷川いまの時代はちょっと難しいかもしれませんが、思って感じた通りに遊んでほしいです。たとえば仮にゼロスが好きで遊んでいたとしても、好感度次第では離脱をしたり、さまざまな結末になるかもしれません。でも、その体験をできれば大事にしてほしいです。もしくはその逆でクラトスがいなくなる場合も、受け入れて進めてみてください。それでそのときに湧き上がったエモーションに満足しない場合は、調べてもらうなどして2周目を網羅しながら遊んでもらいたいなと。ゲームは、ファーストインプレッションで感じた楽しさもイライラも含めてのエンターテインメントですので。

 そうすれば、当時の『TOS』がおもしろいと感じてもらったユーザーとも「たぶんこんな感覚だったのかな」みたいな感情を共有できるかもしれません。ネタバレは100歩譲ったとしても、攻略通りに遊ぶことをやらずに遊んでもらえると、私たちが狙っていたことが少しでも伝わると思います。

樋口ぜひ直感で遊んでほしいですよね。そのときの気分というか。

長谷川これだけプレイ時間が長いゲームなので、思い通りにならないプレイはたしかに抵抗があるかもしれません。ただ、そうなると追わなければならないフラグをただ追うだけのお使いゲームになってしまうと思います。攻略を見ながら遊ぶことはつまらないと思いますので、取りこぼすイベントは取りこぼしたままで、1周目を自由に遊んでもらえるとうれしいです。

実弥島私も基本的にやはり自分が最初にそのゲームを遊んだときの感情を大事にしてほしいです。いまはネットに誰かの感想がいっぱい出ていますが、自分が思った感想と違ったときに、できればそういうことを意識しないで、ゲームをプレイした中で、自分が感じたことを大事にしてほしいなと思います。そんな風に遊べるゲームだと思います。

 あと、これは周回プレイをお願いする話になってしまいますが、ストーリーの分岐をがんばっていっぱい作っています。見るかどうかわからないような細かいところで、キャラクターがしゃべることが違っていたり、出てくるキャラも違っていたりします。好感度が高いキャラだけセリフが長くなるなどたくさんの仕掛けがあるので、全部を見ることはたいへんかもしれないですけど、少しでも多く拾ってもらえるとうれしいなと思います。また、当時はみんなこういうゲームで盛り上がっていたんだな、というやさしい気持ちで見てもらえればありがたいです。

――最後に20周年ということで、ずっと『TOS』を応援してきたファンにメッセージをお願いします。

樋口10年、20年という時がそんなに気にならないのは、『TOS』がゲームだけではなく、OVAやTVシリーズ、グッズやフェスティバルなど、いろんなところで盛り上げてくださっているお客さんがいるからこそです。ずっと追いかけてくださっているお客さんの中には、同じく「もうこんなに経ったのか!?」と感じていらっしゃる方もいると思いますが、それは皆さまがずっと応援してくださってくれた結果だと思います。引き続きこれからも好きでいただけていただけると、僕らもそれが日々のやりがいになります。どうかこれからも『TOS』をよろしくお願いします。

長谷川まずはシンプルに「ありがとうございます」ですね。せっかく20年も経っているわけですから『TOS』にインスパイアされ、「『TOS』が好きでこの世界に入りました!」と言ってくれるクリエイターが出てきたらうれしいです。そしてこれは個人的な話ですが、この作品が当時『TOS』を遊んでいた方たちに、どんな風に影響を与えたのかもシンプルに興味があります。

実弥島20年とひと口に言っても生まれた赤ん坊が大人になると考えると、メチャクチャ長い時間ですよね。20年のあいだ、フェスティバルを始めいろいろな形で作品は続いていました。追いかけて見続けてくれているファンの方もおられるだろうし、ふだんはそこまでディープに追いかけていないけど、たまにふっと思い出して「ああ、やっぱり好きだったな」と言ってくださっているファンもきっと多いと思います。

 そんな長い期間、いっしょに大切な旅をしてくださってありがとうございます。そして、こんなゲームがあった、遊んで楽しかったという気持ちが忘れられない限り、ずっと皆さんの中で『TOS』というタイトルが生き続けられると思います。ぜひこのリマスター版を手に取って、ロイドたちといっしょに冒険に出ていただけたらうれしいです。

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