バンダイナムコエンターテインメントより配信中のアイドル育成&ライブ対戦ゲーム『アイドルマスター シャイニーカラーズ』(以下、『シャニマス』)。本作のシナリオを手掛けるシナリオチームの橋元優歩氏と、制作プロデューサー・高山祐介氏のインタビューをお届け。

 サービス開始当初より、プロデューサー(『アイドルマスター』シリーズのファンのこと)から高い支持を受けている本作のシナリオがどのように制作されているのか伺った。

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橋元 優歩(はしもと ゆうほ)

『シャニマス』シナリオチーム所属。本作の開発当初よりシナリオ制作に関わっている。担当したシナリオは、薄桃色にこんがらがって、天塵、OO-ct. ──ノー・カラットなど多数。

高山 祐介(たかやま ゆうすけ)

『シャニマス』制作プロデューサー。

シナリオを描くのではなく、アイドルたちが織り成す物語をフィルムに収める感覚で表現

――まずは、読者の皆さんへの自己紹介として、橋元さんがどのような経緯で『シャニマス』のシナリオ制作に関わられたのかお聞かせいただければと思います。

橋元サービス開始に向け開発を進めていた当初よりシナリオ制作に携わっています。各アイドルのシナリオはもちろん、ユニットごとのシナリオイベントや、ユニットの垣根を越えてたくさんのアイドルたちが登場する『シャニマス』全体の核となるようなシナリオを担当させていただいています。

――さまざまな『シャニマス』の物語を執筆されているのですね。 ここで改めて、本作のシナリオがどのように制作されているのか教えてください。

高山大まかに、半年ないしは1年間の開発スケジュールの中で、この時期に新カードを登場させる、シナリオイベントを実施するということが決められており、それに基づいてシナリオが順次制作されます。

 月々で運営しているシナリオイベントだと、まずはどのユニットが登場するのかが決まり、その後、シナリオリーダーおよび橋元さんをはじめとするシナリオチームの皆さん、それからアートチームの皆さんといっしょに話し合いながら詳細を決めていくという流れとなります。

 ここで僕から橋元さんにお聞きしたいのですが、イベントのシナリオ制作では、最初に登場するユニットが決まりますが、そこからどういった流れで物語は立ち上がっていくのですか?

橋元各プロデュースエリアでの様子や、カードに紐づいたエピソードなど、彼女たちのいまの現状を把握しつつ、今回はどのような内容を描けばユニットの新たな魅力を引き出せるのかということを考えながら制作しています。

――ちなみに、先日開催されたシナリオイベント“線たちの12月”を担当されていたということですが、どのように制作されたのですか?

橋元これまで12月は、283プロのメンバーが総出となる機会を描かせてもらうことが多かったんです。そういう際には、せっかくならばこの事務所の根本にあるものや、それがどこへ向かうのかということに光を当てられればという思いがありました。今回は全員登場するわけではなかったのですが、ユニットをまたぐシナリオにひと区切りがつくタイミングでもあったため、これまでの283プロ全体のお話をつぎの物語につなげていくような機会にできればと思いました。

『シャニマス』開発スタッフインタビューシナリオ編。アイドルたちの物語は“描く”というより、監督として“カメラで撮影する”感覚。実在性の高いシナリオを制作するためのこだわりに迫る
イベント“線たちの12月”。

――なるほど。シナリオを描くときは、この子はこういう活躍をするだろうなということは自然と浮かんでくるのでしょうか?

橋元自然と浮かんでくるというよりは、基本的にはアイドルたちの日々はすでに存在していて、そこをカメラで撮影しているという感覚でしょうか。その中で、映画監督のように彼女たちの魅力を最大限引き出せるようアプローチを模索するというか。彼女たちの一瞬一瞬の繊細な表情をどうやったら映し出してあげることができるのか、日々試行錯誤しています。

アイドルたちの姿を真摯に映し出すことで、実在性のある物語に

――シナリオを描くというのではなく、映画を撮影するような感覚で制作されていると。そんな『シャニマス』の物語はプロデューサーさんたちから好評ですが、改めて、魅力はどのようなところにあると考えていますか?

高山いま、橋元さんがおっしゃっていましたが、シナリオチームの皆さんは、シナリオを「描いている」や「考えている」ということをあまり口にされません。それは、アイドルたちによってくり広げられている物語を余計な編集や味付けなどを加えずに、大真面目に映し取っていただいていることの表れかと思います。

 たとえば、シナリオ制作時、異なる価値観を持つアイドルどうしがいっしょになった際、その違いからうまく会話が進まないというようなことはよくあると思います。そうしたとき、物語を描き切るために彼女たちの価値観を捻じ曲げて都合のよいセリフを作ったほうがスムーズに描けますが、シナリオチームの皆さんはそうしません。真摯にアイドルに向き合っていただいているからこそ、実在性のある『シャニマス』らしいシナリオに繋がっているのかなと思います。

橋元高山さんにそうおっしゃっていただけて、本当にうれしいです。まさに、そこがいちばんこだわっているところになります。ひとりひとりにきちんとフォーカスして撮っていきたいなという思いですね。その中で、彼女たちが確かに“生きている”ということを、プロデューサーさんたちに感じていただけているのであれば、クリエイター冥利に尽きますね。

――そうした実在性のあるシナリオを作り上げるにあたって、橋元さんがとくに大事にしていることはありますか?

橋元たとえばドキュメンタリーなども似ていると思うのですが、撮られている対象はカメラがないところでもふつうに生きているわけですよね。本来はそこに実在性ということの根拠があるのだと思います。

 でも、カメラとして向かいあわせてもらう限りは、どこにレンズを向けるか、どんな時間に寄り添わせてもらうか、それをどう編集するかというところに撮る側の作為が入ってしまって、どうしても相手の像に少しズレができてしまう。その差異になるべく敏感でいたいという気持ちはあります。

 もうひとつは、アイドルをプロデュースするにあたって発生しうる現実からなるべく逃げないようにしたいということでしょうか。アイドル活動は、その子たちのかけがえのない時間をわけてもらって、それを売っているような側面があると思います。天井社長はそこでひとつ失敗経験があり、深い悔恨を持っていて、今度こそアイドル本位の活動を追求したいという想いで283プロを立ち上げました。

 ただ、それはある意味では「青臭い」ともいえる理想であって、思えば叶うというようなものではないですよね。生身の彼女たちは、理想によって大事に守られつつも、自分の生を自分で生きているわけで、そこにはさまざまな形で現実というものが立ち現れてくると思います。天井社長やプロデューサーたちとともに、そこから目をそらさずに描いていけたらと思います。

――『シャニマス』のシナリオでは、アイドルたちと周囲の人々との交流も繊細に描くことで、物語の深みが増し、それが現実感のある物語に繋がっていると思います。そういった人たちの存在を描くうえで、苦労されたことはありますか?

橋元アイドルたち以外のひとりひとりにも背景や生活、時間が存在しています。それらを含めて彼女たちの時間が形づくられているので、彼女たちを取り巻く人々にも、自然と光が当たると思います。必要だと感じたら自然と彼らの姿も見えているような感覚なので、とくに苦労というような感じはないですね。

――ちなみに高山さんがシナリオを読んでいて、ここが橋元さんらしいなと感じられた部分などはありますか?

高山橋元さんが担当されているシナリオは、構成の妙を感じますね。とある時間軸の物語を描くときに、ある別の切り口の出来事を用意して、前者と後者が混じり合うことで暗喩的に物語の主題を明らかにされていて、緻密な計算のもと、お話運びをされている印象があります。

橋元私が個人的に言われていちばんうれしいことをおっしゃっていただけて、恐縮です。シナリオ制作において、ひとりひとりを緻密に映してあげたい気持ちはありますが、当然1回あたりの長さは限られています。その中で、なるべく多くのものを詰め込みたいという想いがいま高山さんにおっしゃっていただいた構成に繋がっていると思います。

映画のような読み心地にするため、演出にもこだわる

――橋元さんが担当されたシナリオイベントの中で、とくに苦労が多かったものはありますか?

橋元正直、どれもたいへんでしたが、たくさんのアイドルが登場するイベントは毎回苦労しています。登場するアイドルたち全員にスポットを当てたいと考えているのですが、たとえばそれが20人を超えるとなると腕が鳴ると感じる一方で、とてもたいへんです。

 あとは、本作のシナリオを読んでいただく際、システム的には紙芝居のような形になっていますが、さまざまな演出を通じて映画のような読み心地にできれば……という思いはあり、そこは毎度挑戦しているところではあります。

 たとえば実写だと、女の子が坂道で息を切らして駆け上がるだけで映画になるということがあると思います。そこに生身の肉体があって、さまざまなものや時間の映り込みがあって、それを自由なアングルで撮影することができますよね。

 でも、本作ではそういうわけにいかず、基本的には背景の上に女の子たちの正面向き上半身だけが乗る形になります。本来なら横顔や後ろ姿を映すだけで表現できるようなシーンもべつのアプローチをとることになりますし、よくできたシステムでありながらも、ふつうの映像作品のように描こうとすると本当にさまざまな制約があるんですね。

 ただ、むしろそうした仕組みを活かして、映画的な瞬間、心に残る永続的な一瞬のようなものを映像的に構築したいという想いはあります。演出チームとともに背景や音楽などの演出も工夫しながら試行錯誤しています。

――演出を含めて、シナリオ制作をされているのですね。

橋元そうですね。演出を考えるまでがシナリオ制作になります。そのため、演出チームの皆さんとの協力が必要不可欠です。作業の上では、シナリオへの解釈も重要になってきますが、いつもしっかり内容を理解してくれて、その上で真摯に演出に取り組んでくださっているので、感謝の念に堪えません。

――ちなみに、どうしてもこの演出を行いたいとなったときに、それに合う背景や音楽がなかった場合、アートチームや音楽制作チームにお願いして新たに素材を制作してもらうことはありますか?

橋元基本的には私たちのほうから発注させていただくのですが、一度に制作をお願いできる量には限りがあり、すでにあるものとのやりくりの中で、なんとか表現していく形になります。

橋元氏と高山氏がいま改めて読んでほしいシナリオ、そしてシナリオを通じて感じ取ってほしいこと

――『シャニマス』のサービスが開始されてから約4年半が経過していますが、いま改めて見直してほしいシナリオなどはありますか?

高山いま、このタイミングだと“モノラル・ダイアローグス”を見た後に“オペレーション・サンタ!~包囲せよ283プロ~”を見るといいかもしれません。というのも、先ほど橋元さんが「12月は事務所の物語を展開することもある」とおっしゃっていた通り、アイドルたちが生きている場所である事務所の背景などが12月のシナリオで描かれることが多いです。

 ですので、そんな物語を改めて読むと、もしかしたらリアルタイムで読んでいただいたときの感覚とは、別の捉えかたができて、新鮮でおもしろいのではないかと思います。

『シャニマス』開発スタッフインタビューシナリオ編。アイドルたちの物語は“描く”というより、監督として“カメラで撮影する”感覚。実在性の高いシナリオを制作するためのこだわりに迫る
イベント“モノラル・ダイアローグス”。
『シャニマス』開発スタッフインタビューシナリオ編。アイドルたちの物語は“描く”というより、監督として“カメラで撮影する”感覚。実在性の高いシナリオを制作するためのこだわりに迫る
イベント“オペレーション・サンタ!~包囲せよ283プロ~”。

橋元たしかに、事務所の背景が描かれているお話は、改めて振り返ってみていただいてもいいのかなと思います。それと、とにかくたくさん読んでいただけたらうれしいです(笑)。高山さんもおっしゃるように、きっと時間が経つことで見えかたや味わいの変化するシナリオも多いと思うんですね。

 私自身は、それぞれの物語に答えを提示するというよりは、疑問を提示するように描いていきたいという気持ちがあります。すっきりとした答えや、すでに何度も語られてどこかで知っているようなテーマが好まれることもあるかとは思いますが、本来、文学だったり芸術だったりというものに触れるという体験は、見たことがないものにぶつかって、それに混乱することなのかなと思うんですね。その意味で、何か解きほぐしきれないものが残るような体験を目指したいなというか……。

 そうした混乱は、ずっと人の心に残ると思います。そして、何年か経過したとき、ハッとそのときの体験が意味を持ったり、色がついたり、それが自分の中の新たな世界になって広がっていくというようなものになれれば最高ですね。実現できているというわけではなくて、私自身がそういうものの恩恵を受けてきたというだけなのですが。

 そういったことは、作中のプロデューサーやアイドルたちも同じだと考えています。いま結論が出なくても、いつか彼女たちの中でひとつの物語が終わった後でも花が開いてほしい。そんな想いはプロデューサーの中にもあるはずですし、そういったところに283プロにある、ある種の青臭さの価値があると思います。

――ここで、シナリオチームの担当している業務についてもお聞きできればと思います。シナリオチームでは、コミュタイトルやイラストタイトル付け、フレーバーテキストなどのほか、アイドルたちによるTwitterジャックなどの施策も担当されているとお聞きしているのですが、Twitter施策にはどのような形で携われているのですか?

高山Twitterの施策は、どのような時期にプロデューサーの皆さんといっしょに盛り上がりたいかというようなざっくり時期感があったうえで、開発チームの皆さんと協力して実施しています。たとえば、2022年1月に実施した“#283をひろげよう”という施策であれば、アイドルたちが本当にSNSをやっているかのような体験をプロデューサーさんに楽しんでもらうために行いました。その際、彼女たちがどのような投稿をしているのか、その投稿内容をシナリオチームの皆さんに表現していただきました。

――なるほど。“#283をひろげよう”の企画の際、アイドルたちが呟いているようなフレーズを考えるときに橋元さんが苦労されたことはありますか?

橋元彼女たちが、SNSというサービスにどういった距離感を持って接しているのかは注意していました。

 また、どういう状況で発信するのか、たとえば283プロの代表アカウントから行うのか。そうだとして、それはアイドルたちから投稿したい内容を聞いたプロデューサーが代理で発信するのか、それとも端末を渡されてアイドル自身や、まわりのメンバーが発信するのかなど、ケースによって、それぞれの子の反応や打つ内容はぜんぜん違ってきます。そのあたりの状況設定でしょうか。感覚としては、アイドルたちのマネージャーのような立場で取り組んでいたかもしれません。

――シナリオ制作時と同じで、283プロやアイドルたちならどうするだろうということを意識して、Twitter施策に関わられているのですね。

橋元はい。ふだんは見せられない一面を見せるチャンスである子もいますし、もともと得意な子もいる。逆に、本来そうした表現と相性がよくない子や、何も言わない子、思いがけない面を見せてしまう子もいます。そうしたところに嘘はつかずに、しかしアイドルマネージャー心理としては、なるべくそれらが楽しい笑いやポジティブな魅力に転換されるようにサポートしてあげたいという気持ちですね。

高山いま、橋元さんがおっしゃっていた、アイドルたちとSNSの距離感というところで、かなり昔なのですが、“甜花の休日”というTwitter施策を実施させていただいたときに、甜花のツイートの内容に誤字がありまして。おそらく、入力でミスをしたんだろうなというところを、甜花のパーソナルな部分を踏まえて施策の中で表現していただけて、感銘を受けました。

橋元当時の担当が喜ぶと思います! ふだんのシナリオと並行しつつ、いつもとは違う筋肉を使う、なかなか難しい企画でもあるのですが、そんな風に言っていただけると励みになりますね。皆さんから反応をいただけると、アイドルといっしょに本当にうれしい気持ちになるので、あたたかく応援いただけたら幸いです。

――それでは、最後に『シャニマス』のシナリオを通じて、プロデューサーの皆さんに伝えたいことなどがあればお聞かせください。

高山まずは、プロデューサーとしてアイドルと向き合うお話を通じて、アイドルへの愛着や支えたいという想いを感じていただけたらなと思っています。

 そして、各シナリオでは「今回はこのアイドルの活躍を描く」という主題のもと、限られたテキスト量の中で、橋元さん始めシナリオチームの皆さんがさまざまな工夫をして、アイドルたちの物語を表現してくださっているので、プロデューサーさんご自身の解釈なども交えながらお話を楽しんでいただければうれしいです。

橋元そうですね。いろいろな角度から楽しんでいただけるといいなと思いますし、それぞれのアイドルたちのことを、皆さんゆったりと見守ってくださって、うれしいなという風にも感じています。

 プロデュースというのは、すぐには形にならないものだったり、1歩進んだようで、1歩も2歩も下がってしまうような局面が出てくるものでもあるかと思います。行ったり戻ったり、行きすぎたり何も変わらなかったりという時間を経て、彼女たちは少しずつ成熟していくのでしょうし、そこは私たち自身と同じでもありますよね。

 そして他方、彼女たちのことを考えれば考えるほど、そもそも成長ってなんなのか、その勝手な定義を私たちは人に強いることができるのか、という問いに挟まれることにもなるかと思います。

 そう考えていくと、プロデュースというのは、ひとつ自分に向かいあうような時間にもなるように感じます。彼女たちの時間を鏡として、自分自身のふるまいを覗くというか……。ともにその時間を豊かなものにしていただけたら、きっと彼女たち自身にとってもかけがえのない経験になるのではないか、そのように思います。

 それぞれのアイドルは、自分にできないようなことを体現してくれる人間なのかもしれないし、もちろん、だからといって自分にできないことを押し付けていい存在でもないですよね。これは私自身も同じなのですが、厳然と存在する他者としてお付き合いしていきたいです。

 そして皆さまにも、大事に彼女たちやご自身と向かいあうような時間としていただけたら、こんなにうれしいことはありません。

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