2021年に目黒将司氏が独立してから約1年が経過しようとしている。目黒氏と言えば『ペルソナ』シリーズや、『真・女神転生III -NOCTURNE-』など、アトラス作品のBGMを手掛けるサウンドコンポーザーとして知られるクリエイター。

 2021年にはアトラスを退社し、フリーの作曲家・インディーゲーム作家として個人活動を開始。2005年ごろより始動したオリジナルゲームプロジェクト『Guns Undarkness(ガンズ・アンダークネス)』を現在も開発中だ。

 2022年9月12日にはキックスターターにて、『Guns Undarkness(ガンズ・アンダークネス)』のクラウドファンディングを開始。イニシャルゴール(最低値の目標)は約400万円だったが、本記事執筆の時点ではすでに約1000万を超えており、大きな期待が寄せられていることが分かる。

 ファミ通.comは、東京ゲームショウ2022会期中に目黒氏へインタビューする機会を得た。本記事では『ガンズ・アンダークネス』のキックスターターを通じての感想や、本作の発売目標などをお聞きしたインタビューをお届けしよう。なおゲームの詳しい内容や開発経緯については、下記インタビューも併せてチェックしてみてほしい。

『ガンズ・アンダークネス』

目黒将司 氏(めぐろ しょうじ)

1996年にアトラスへ入社。『女神異聞録ペルソナ』からサウンドに携わり、以降、『真・女神転生III –NOCTURNE-』や『ペルソナ』シリーズなどの数々のタイトルのサウンドを手掛けた。2021年9月末にアトラスから独立し、現在はフリーの作曲家・インディーゲーム作家として活動している。

来年春にはベータ版の完成予定

――改めてになりますが、まずは『ガンズ・アンダークネス』のアピールポイントを教えてください。

目黒銃で戦うRPGはあるにはありますが、しっかりとしたポジショニングや戦略性といった、リアルな銃撃戦を想定したコマンド式RPGはなかなかないタイトルだと思います。そこのニッチなところが、いちばんのアピールポイントです。

『ガンズ・アンダークネス』
『ガンズ・アンダークネス』

――期待しています! 2022年9月12日より、『ガンズ・アンダークネス』のクラウドファンディングがスタートしましたが、皆さんの反応はいかがでしたでしょうか。

目黒直近で8月30日より、『ワイルドアームズ』シリーズ、『シャドウハーツ』シリーズを手掛けられた各クリエイターチームの皆さんが、ダブルキックスターターを開始したじゃないですか。ものすごい金額を集めていて「すごいなぁ」と素直に思っていました。2週間違いで開始したクラウドファンディングでしたが、これで誰もバッカー(支援者)になってくれなかったらどうしようかなと、すごくドキドキしていましたね。ですが、予想を遥かに上回る支援をいただき、とても驚きました。

――現時点(※インタビュー時)では、約800万円ほど集まっていましたが、そこまでは予想していなかったと。

目黒イニシャルゴールが400万円ですから、最終的には500~600万円いけばいいかな、というくらいに思っていました。それがもう、2倍以上の金額が集まりまして……。これは言わないほうがいいのは分かっているんですが、僕個人で作っているゲームですので「そこまで期待しないでください」と言いたいくらいで(苦笑)。予想以上に集まって、ちょっと怖くなってきたなという気持ちもなくはないです。

 ただ、バッカーさんが産まれたことにより、今後フィードバックをいただけそうなことが、何よりもうれしいです。お出ししたものに反応をいただいて、よりゲームのクオリティアップにつなげられるんじゃないかと。ですので、「少し怖くなってきた」とは言いつつも、バッカーさんが増えること自体をネガティブにはもちろん捉えていません。

――今回初めてクラウドファンディングを実施してみて、どんな感想をお持ちですか?

目黒クラウドファンディングでは契約してくれるスタッフの方や、PV制作のスタッフなども使っています。その際に、「全体的な最終着地ポイントはこうなる」などという話を聞いていました。本当にその通りのように動いているので、聞いておいてよかったですね。また、講談社ゲームクリエイターズラボにて支援してくださっている講談社さんにも相談しまして、ストレッチゴール(最低値を超えた、さらなるゴール)の設定やリワード(支援者への返礼ボーナス付き支援プラン)などもそうやって決めていきました。

――素人目に見ても、クラウドファンディングの金額設定というのは、難しそうに思います。

目黒ええ。僕自身も何も知見がなかったです。「これをするにはこれくらいが必要だ」などの設定も、いろいろな人からのアドバイスをいただいて決めていきました。

――なるほど。本作はPCでの発売をメインとしています。ストレッチゴールにコンソールバージョン(家庭用ハード版)の発売が設定されていますが、Nintendo Switch、プレイステーション5、Xbox Series X|Sのほか、プレイステーション4やXbox Oneにも対応しますか?

目黒現時点では未定です。

――コンソールバージョンとは言えないですが、iOS、Androidへのスマートフォン対応などは?

目黒あぁ、それは考えてなかったですね。ちょっと検討してみたいです。やはり家庭用ゲームで育ってきた人間ですから、PCで出すこと自体がなかなかなかった発想で。そこでスマホ向けは、まったく考えてませんでした。もしかしたらあるかもしれませんが、まずはいまやっていることへ注力したいです。

――わかりました。ちなみにバッカーは海外の方のほうがやはり多いんでしょうか?

目黒7割ぐらいはそうですね。Steamのウィッシュリスト登録も7割くらいは海外です。

――やはり多いんですね。また、以前のインタビューではハンドシグナルの仕様に悩んでいると言っていましたが、現在の仕様はどのようなものなのでしょうか。

目黒最初のハンドシグナルは、左スティックをグルグル回したりして、同じような動きで仲間に指示するっていう仕様でした。実際に触ると僕は「これ楽しい!」ってなるんですが、ほかの人が遊ぶと「この操作するくらいなら自分で戦うからいいや」って感じで、だれも使わなくて(笑)。

 そしてコマンド選択式になるわけですが、コマンド選択も複雑すぎると誰も使ってくれません。いまはさらに簡素化して、ハンドシグナルモードを立ち上げると自動で推奨シグナルが表示され、なるべく最適な戦術が取れるようになっています。それでも気に入らなければ、さらにコマンドを開くことで細かくて複雑な指示が出せるような仕様です。

 そこまでやっても、まあ使わない人もいると思います。ですので、ハンドシグナルを使わずとも仲間がオートで行動してくれるシステムも入れています。そこはプレイヤーの好みで選べるようにしました。

『ガンズ・アンダークネス』

――自由度がありそうで、楽しみです! 現在の開発進捗は、何%くらいになりますか?

目黒システムの仕様はほぼほぼ9割完成しています。あとはフィールド全体の60%くらいが実装できています。

――どれぐらいまでに100%になる見込みでしょうか……?

目黒2023年の春までに100%にします。僕もゲーム業界は長いですから分かるのですが、そこからブラッシュアップやデバッグが長く続きます。それが終わり、2023年12月までにはリリースしたいです。僕的には本当は10月がいいんですが、「余裕を持ちましょう」とアドバイスをいただいて12月になりました(笑)。

『ガンズ・アンダークネス』

目黒さん、独立から1周年!

――アトラスから独立して1周年を迎えますが、この1年いかがでしたか?

目黒いやぁもう楽しいですね。あと会社員時代の、朝起きて会社に行って仕事をしなきゃいけないことが、いかに非効率的かよくわかりました。いまは午前中の起きたい時間には起きていますが、「もう眠くないぞ!」というまで寝ています。起きたら即作業に取り掛かれます。疲れたなぁ眠いなぁと思わずに作業に取り掛かれるため、非常に効率的です(笑)。ただ、すごく効率がいいのに、ゲームの開発進捗は遅いんですよね……(苦笑)。時が経つのは、本当に早いものだなぁと実感しているところです。

――あぁ、すごくわかります。僕もサラリーマンからフリーランスになったので。反面24時間働けてしまうというのもあるんですが……。目黒さんはどんな時間の使いかたを?

目黒若いうちならできたかもしれませんが、僕はもう50歳を過ぎてますから、24時間は無理です、命にかかわります(笑)。どんなに楽しくても眠くなくても、22時には仕事をやめるようにしています。ご飯を食べる時間もしっかり決めているので、かなり規則正しい生活をしていると思います。

――それは健康的ですね……見習いたいです。目黒さんは、フリーの作曲家として活動もあるわけですよね。それと同時にゲーム開発というのは大変そうに見えるのですが、実際どうでしょうか?

目黒そうでもありません。逆に作曲だけだと、行き詰まってしまうことのほうが多いです。ゲーム開発があるからこそいい具合にシフトチェンジできると言いますか。『ガンズ・アンダークネス』の開発は、もうずっと楽しいなと思ってやっています。ですが作曲家としては25年以上やっていると、辛い作業も多いんですよ(苦笑)。

 最初のフレーズが思いつかなくて、頭を悩ませることもあったり……。隙間というわけではないですが、気分転換にゲーム開発ができるので、とても効率よく仕事ができていると思っています。

――何百曲と作ってきたからこそ、頭を悩ませることもあるのでしょうか。

目黒それは作曲家になってから、最初からそうです。作曲よりもゲーム作りのほうが楽しいので気分転換できている、ということですね(苦笑)。アトラスにいたころから、朝起きて2時間開発して、会社から帰ってきたら疲れてなければ2時間開発して、みたいな日々を送っていましたから。

――では1作目の発売前から気が早いですが、次作の構想などはありますか?

目黒じつはアトラスにいたころから考えていました。システムや世界観などは全部決まっているのですが、シナリオだけどうしようかずっと悩んでいて。それがちょうど、このインタビューを受けている今日にたまたまシナリオを閃きました。「これだ!」というテーマが決まりましたので、本当に気が早いのですが、次作の構想はあります。

――おお! 『ガンズ・アンダークネス』を発売できれば、取り掛かるわけですね。次回もひとりで制作を?

目黒そういう予定ではありますが、インディーゲームも変わりつつあって、個人よりも少数チームで作るというスタイルにシフトしつつあります。そこは臨機応変に変えていきたいですね。いまのところは、ひとりで作る予定です。

――では、さらに未来を見て、目黒さんの今後の展望を教えてください。

目黒僕の年齢的に見て、一般的なサラリーマンが定年を迎えるまでに『ガンズ・アンダークネス』含めて3本くらいはゲームを作れるんじゃないかなと。次作の構想がありつつ、じつは3本目の構想もふんわりあります。それを作ったら、もう引退しようかなと。引退できないくらいお金がなかったら、またゲームを作り始めると思います(笑)。

――『ガンズ・アンダークネス』は長年作り続けていたからこそ、新規タイトルの開発期間は見えにくそうな部分もありそうですね。

目黒たしかにそうですね。また、音楽のほうも引き続き取り組んでいきたいです。たとえば、大作の仕事が来たら作曲の方に注力すると思うので、開発はあまり進まないと思います。想定としては4~5年のスパンで開発したいですね。3本作り終えたら、本当に自分が好きなだけで売ることを考えないゲームをゆるゆる作りたいです。

――最後に期待されているファンの方々に、メッセージをお願いします。

目黒『ガンズ・アンダークネス』は2023年、来年には発売できると思います。どんな評価をいただけるのか、すごくワクワクドキドキしています。皆さんに受け入れてもらえるゲームを作りたいです。もしバッカーになってくだされば、ベータバージョンが遊べるリワードもあります。そこで意見を言っていただければ、ぜひゲームにフィードバックしたいと考えていますので、どうぞよろしくお願いいたします。

『ガンズ・アンダークネス』
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