バグダッドを舞台に、ひとりのアサシンの成長物語を描くシリーズ最新作『アサシン クリード ミラージュ』。原点に立ち返り、ステルスやパルクール、暗殺などのアクションを進化させたという本作について、リードプロデューサーのファビアン・サロモン氏に話をうかがった。

ファビアン・サロモン

本作のリードプロデューサー。『ゴーストリコン』、『ウォッチドッグス』シリーズなどに携わり、最近では『ゴーストリコン ブレイクポイント』や『アサシン クリード ヴァルハラ』DLC“ドルイドの怒り”のプロデューサーを努めた。

――『アサシン クリード ミラージュ』の構想はいつ生まれましたか?

ファビアン最初は、『アサシン クリード ヴァルハラ』の拡張版という形を想定していました。アサシンのルーツに戻り、中東に立ち帰ったものにしたいと思っていましたが、チームメンバーや社内の別のチームから「これは独立したゲームにするべきだ」という意見が多かったのです。そして、『アサシン クリード』シリーズのファン全体、すべてのプレイヤーがプレイできるものにしたいと考えました。そのため、拡張版ではなく急きょ、独立したゲームとして立ち上げました。

――『ヴァルハラ』に登場したバシムを主人公にした理由はなんでしょうか?

ファビアン私は『ヴァルハラ』の開発に携わっていましたので、バシムというキャラクターを追ってきました。彼は非常に迅速で機敏な動きをするマスター・アサシンです。先ほど言ったように、私たちは本当に原点に回帰したいと思いました。それはACフランチャイズを大きな成功に導いた柱……つまりステルス、パルクール、暗殺をゲームプレイの中心に据えることです。バシムは中東の出身でもあるので、この原点回帰にぴったり合うのではないかと考えました。

 『ヴァルハラ』のストーリーの中心にいた彼が、コソ泥から出発してどのようにマスター・アサシンになったのか……。これをメインストーリーとして、ナラティブ主導のアクション・アドベンチャーが構築できると確信しました。プレイヤーの皆さんもきっと気に入ってくれると思っています。

『アサシン クリード ミラージュ』開発者インタビュー。パルクールで軽快に追跡、影に潜んで素早く暗殺。街全体がクールなプレイグラウンドに

――本作は他作品のスピンオフではなく、フルサイズの独立した作品ととらえていいでしょうか?

ファビアンはい、これはフルゲームです。フランチャイズにとって特別なゲームであり、パルクール、ステルス、暗殺というシリーズのゲームプレイを新しい形でプレイヤーに提案するものです。広大なオープンワールドから形式を少し変えてRPG要素を減らし、過密都市に戻りました。これは当初の『アサシン クリード』の柱であり、鍵となっています。

――「すべてのシリーズから要素を取り入れている」とお聞きしましたが、具体的にどんなところでしょうか?

ファビアン本作のセールスポイントである原点回帰を考えたとき、『アサシン クリード』、『アサシン クリードII』、『アサシン クリード ブラザーフッド』、『アサシン クリード リベレーション』から『アサシン クリード ユニティ』など、さまざまなゲームをプレイし直しました。そして、これらのゲームの中心となっているもの……伝承や隠れし者、ブラザーフッドについてさらに知り、その中のベストな要素を抽出することで、プレイヤーには真のアサシンになれるような感覚を持ってもらいたいと思いました。

 プレイヤーはコソ泥のバシムとしてスタートし、ストーリーの中でいろいろなアサシンに出会い、ランクを上げて進化し、本当のアサシンになります。トレーラーで見ていただいた通り、そのための儀式やトレーニングなどを体験できます。いままでのどのシリーズ作にもこのような奥深い体験はなかったので、この部分を取り入れることは私たちにとってとても重要でした。

――近年の作品のようなRPG色の強さは減っているということですが。

ファビアンコミュニティーは、より物語主導の体験を求めていました。RPG要素を減らし、ナラティブ、ステルス、パルクール、暗殺にフォーカスし直したのです。今作の舞台であるバグダッドは、『オデッセイ』や『オリジンズ』、『ヴァルハラ』で見られたものよりずっと人口密度の高い都市で、それに合わせたすばらしい体験にフォーカスすることが重要でした。

――レベル制やスキルツリー、装備による強化などの成長要素は廃止されていますか?

ファビアン成長要素はあります。以前より軽くなってはいますが、スキルツリーもありますし、装備も増やせます。本作のゲームプレイに合った形での実装になっているということですね。

――では、ステルス、パルクール、暗殺はどのように進化していますか?

ファビアン開発当初からステルスの部分の改善に注力してきました。プレイヤーがいつ誰に探知されるかを理解でき、状況を予測できるようにしました。パルクールについては、過密都市で快適に効率的に動けるように改善しています。特徴的なムーブも再登場させたほか、新たな要素も入っています。暗殺については、バシムが戦闘中にできるだけ素早くステルスができるように工夫しています。そして、最終目的のみが掲示され、標的の暗殺手段や接触方法はプレイヤーの手に委ねる“ブラックボックスミッション”を加えました。これらの要素が本作のゲーム体験の中心になります。

――移動時のスピード感、パルクールの多様性は他作品にくらべていかがでしょうか?

ファビアンパルクールでより早く、敏捷に街中を動けるようになっていて、コーナースイングのような特徴的なムーブも取り入れています。プレイヤーは『ヴァルハラ』のときよりも軽快に動けると感じるはずですし、パルクールで移動しているときには、バシムが街を熟知していると感じられるでしょう。ほかにも、隠れ場所を利用したり、トレイラーでご覧いただいたように、敵の上に足場を落とすなど、インタラクティブ可能なオブジェクトを利用できます。

――「鷹の目の重要性が増した」とのことですが、どのような点で重要でしょうか?

ファビアン『オリジンズ』の鷹のシステムを再利用することに多くの時間をかけました。ミッションの準備をする際、鷹の目を使って敵の位置などを調べるわけですが、これはステルス要素を強化している本作にとって非常に重要になります。また、敵のサイドにもアーチャーという要素を加えました。アーチャーは鷹を射落とすことができるので、先に排除するか強行するか考えたりと、プレイヤーにチャレンジを与えることになります。

――追跡や逃走時に有効な罠などの装置には、どのようなものがありますか?

ファビアン本作では新たにアップグレード可能なツールを用意しました。これによってバシムは、これまででもっとも多才で機知に富んだアサシンになります。トレーラーに出ていたスモークボムのほか、ブローダート、地雷、投げナイフ、ノイズメーカーなどのツールがあり、スキルツリーなどでアップグレードできます。これらのツールを使うことでターゲットを偵察し、影に潜んで暗殺し逃走することができ、街全体がクールなプレイグラウンドになります。

『アサシン クリード ミラージュ』開発者インタビュー。パルクールで軽快に追跡、影に潜んで素早く暗殺。街全体がクールなプレイグラウンドに

――オープンワールドの広さは、他作品と比較してどのくらいでしょうか?

ファビアン今作ではひとつの都市にフォーカスしていますが、これは巨大なものです。『アサシン クリード ユニティ』のパリに匹敵する大きさで、周囲には荒野があります。また、プレイヤーは有名なアラムートも訪れますが、当時はまだ建設中で城は未完成です。隠れし者が建設している現場を見ることができるでしょう。本作のオープンワールドは、規模および密集度において『ユニティ』に非常に近いと言えます。

――都市の構造は、アクションにどんな影響をもたらしますか?

ファビアン私たちがやりたかったのは、初代『アサシン クリード』をプレイしたときの感覚を提供することでした。屋根の上を快適に効率よくパルクールで移動していると感じられるものにしたいと思いました。そのため、パルクールが非常にクールな体験になるように努力しました。人口過密都市なので人混みに紛れてターゲットに近づけますし、屋根を使って近づく方法も選択できます。

――さまざまなシリーズ作品とリンクするようですが、本作をより楽しむために、とくにプレイしておいたほうがいい作品はありますか?

ファビアンもちろん、プレイヤーの皆さんにはほかの作品をプレイしてほしいですが、私たちはどの作品が入口になってもいいようなゲームデザインを目指しています。本作で『アサシン クリード』を知る方は、アサシンの伝承に初めて触れることになるわけで、それはとてもすばらしいことです。本作の前に、過去の作品をプレイしておく必要は、必ずしもありません。

――日本のファンにメッセージをお願いします。

ファビアン私が所属するボルドーのスタジオだけでなく、シンガポールやモントリオール、モンペリエなど、多くのスタジオが本作の開発を行っています。私たちは、それぞれの経験や専門知識を生かして根気よく開発を続け、ベストを尽くしています。日本のプレイヤーの皆さんには、このゲームを大いに楽しんでいただきたいと思っています。