2022年1月、稲葉敦志氏がプラチナゲームズの代表取締役社長に就任し、新体制となったプラチナゲームズ。2月にはコンソール機向けの完全新作としては自社初となるパブリッシングタイトル『ソルクレスタ』が発売されたほか、デベロッパーとして開発を手掛けた『BABYLON’S FALL』(スクウェア・エニックス)が3月に発売。さらに、続報が待ち遠しい『ベヨネッタ3』(任天堂)も手掛けている。

 そんなプラチナゲームズの副社長に、任天堂でソフトメーカーとのタイトル交渉などの統括責任者をしていた山根隆雄氏が就任したとの情報が飛び込んできた。本記事ではプラチナゲームズが新たな体制となったことについて、インタビューを実施。社長の稲葉敦志氏、副社長でありプラチナゲームズを代表するクリエイターの神谷英樹氏、そして山根隆雄氏の3名に、さまざまなお話をお聞きした。

聞き手:ファミ通グループ代表 林 克彦

稲葉敦志 氏(いなば あつし)

プラチナゲームズ代表取締役社長/スタジオヘッド。プラチナゲームズの設立より在籍し、今年から社長に就任。現在はプラチナゲームズのスタジオヘッドとして、すべてのゲームタイトルの開発を統括する。

神谷英樹 氏(かみや ひでき)

プラチナゲームズ副社長 執行役員/チーフゲームデザイナー。カプコン時代に『大神』などのディレクターを担当。その後プラチナゲームズで『ベヨネッタ』など多くの人気作を生み出してきた、社を代表するクリエイター。

山根隆雄 氏(やまね たかお)

プラチナゲームズ副社長 執行役員/チーフビジネスオフィサー。元任天堂の業務部出身。27年間の在籍を経て退職し、プラチナゲームズの副社長となる。これまでのキャリアを活かして、進化するプラチナゲームズの一翼を担う。

プラチナゲームズに元任天堂の山根氏が新・副社長として就任。稲葉氏と神谷氏を交え、プラチナゲームズの進化と野望に迫る独占インタビュー

新たな体制で変わるプラチナゲームズ

――任天堂時代にソフトメーカーとのタイトル交渉の責任者として、とくにNintendo Switchの立ち上げからずっと尽力されていた山根さんがプラチナゲームズにジョインすると聞いて、本当に驚きました。ゲーム業界内でも驚かれた方が多かったと思います。まずはその経緯を教えてください。

山根いちばん大きな理由としては、前職に27年間勤めた中で、僕はちょうど50歳を迎えました。そこが僕の人生の節目だと感じまして、「もうひとつ何かチャレンジをしたい」と思ったんです。そのチャレンジをどこでやるべきか、このままいまの会社に居ていいのだろうか? と、モヤモヤしているタイミングのときに、ちょうど稲葉から「それなら、いっしょにやりましょう」という提案をされました。その提案の中身が、ものすごくやりがいのある内容で。「もう1度チャレンジするならここしかない」と思い、プラチナゲームズに入社しました。

――では引き抜かれたとか、何か不満があって辞められたとかではないんですよね?

山根全然そういうことではないです、超円満退社です(笑)。僕のチャレンジしたい気持ちが、ちょうどプラチナゲームズのやりたいことと合致した形ですね。それに、はっきり言うと、前職では僕がいなくなっても、問題なく会社は回るだろうと思いました。でも稲葉、神谷の抱く野望を実現するためには、自分が必要だろうと……恐縮ですが、そう感じました。

――なるほど。稲葉さん、神谷さんは以前から山根さんと親交があったのでしょうか?

神谷僕は直接の接点はなかったのですが、ときどき稲葉が山根の話をしているのを聞いていたので、まったく知らない人というわけではなかったです。

稲葉僕がちゃんとお会いしたのは、2006年ごろですかね。とあるゲームのヨーロッパ版を発売する際に、たまたま山根に会いしまして、そこで不思議と意気投合したんです。年齢も同い年ですしね。そこから会社は違えど付き合いが続いていって、いまに至るという感じです。

山根稲葉とは定期的に会ってはいたんですよ。今回の話が動き始めたのは2021年の末でしょうか。

稲葉ええ。顔を合わせるたびに、「最近どう?」みたいな話をしたり、相談を受けることもあったのですが、会うたびに山根のモヤモヤのレベルが上がっていくように見えて。当然会社は違うので、話す内容には一線を引きつつ、ひとりの友人として相談に乗っていく中で、「それなら、プラチナゲームズに来てくれないか」と。

――2022年の初めには、稲葉さんは新社長に就任しましたよね。だからこそ決められたことだとも思いますが、なぜ山根さんだったのでしょうか?

稲葉プラチナゲームズをジャンプアップさせるために、僕が社長となり、新体制となりました。ただ、そこからどう動くべきかは悩みどころでした。プラチナゲームズはそれまであくまでデベロッパー(※)であって、パブリッシング事業はやったことがなかったので、ゲームを自分たちで売りたいとなったら、ピースが足りないどころか、身体の半分が欠けているようなレベルでした。そんなことを考えていたときに、ちょうど山根から相談を受けまして。本当に不思議な縁で、山根が今後の人生でチャレンジしたいことと、僕と神谷がプラチナゲームズを進化させたいタイミングがうまく合致したんですね。山根以外にも、ここ数ヵ月で体制の強化が図らずも進んでいて、見えない何かにパブリッシング事業を後押ししてもらっている気分です。

※デベロッパー……パブリッシャーと契約し、コンテンツ開発を担う会社のこと。対してパブリッシャーは、自社開発、もしくはデベロッパーに委託して制作したコンテンツを販売する会社。契約形態はさまざまだが、コンテンツの諸権利はパブリッシャーが保有し、宣伝等もパブリッシャーが行う場合が多い。

――稲葉さんがトップで、神谷さんと山根さんが副社長となりますが、これからはどのような役割分担で仕事をしていくのでしょうか?

稲葉すごくわかりやすくなりました。僕の、スタジオヘッドとして開発を統括する立場は、社長になっても変わりません。神谷はご存知の通り、クリエイターとしてプラチナゲームズの作品全体のクオリティーを統括する副社長です。そして、我々はこれまでゲームを作り終えれば、それで基本は終わりでしたが、パブリッシング事業をするならば、そこから一歩先を考えて、ビジネスとして、作ったものを最大限お客さんにお届けしなければなりません。そのビジネス部分を統括するのが山根というわけです。とてもいいバランス関係ですね。

――明確にやることが違いながらも、どれも重要な役割ですものね。

稲葉いまはないんですが、今後は神谷と山根がどんどんモメると思っています(笑)。作る側と、売る側ですからね。それをたしなめるのも、僕の役目かなって(笑)。

――(笑)。先ほどちょっとお話が出ましたが、山根さんの入社以外にも、事業体制の強化が進んでいるのでしょうか?

稲葉めちゃくちゃ進んでいます。ひとつは、やはりパブリッシング事業です。もちろん若いスタッフも欲しいのですが、我々にはパブリッシングの経験がないので、さすがにそれを若手たちに任せるわけにはいきません。とはいえ、経験豊富なベテランが欲しいと思っても、ベテランの人は相応の場所で、すでにいい役職に就いていたり、手放せない存在になっているでしょう。ところが、これも山根といっしょで本当に不思議なんですが、たまたまベテランのスタッフが会社を離れた、もしくは離れようか迷っている、みたいなタイミングが重なりまして。営業部やマーケティング部なども含めて、重要なピースが少しずつ埋まっていっている段階です。

山根ただ、ピースは揃い切ってはいません。まだまだ途中段階です。

プラチナゲームズに元任天堂の山根氏が新・副社長として就任。稲葉氏と神谷氏を交え、プラチナゲームズの進化と野望に迫る独占インタビュー

山根氏から見たプラチナゲームズ

――入社して数ヵ月、というところで山根さんから見たプラチナゲームズはどうでしたか?

山根まず言えるのは、プラチナゲームズはブラック企業ではなかったです(笑)。すごくちゃんとしていて、社内の雰囲気もよく、皆さん一所懸命にゲームを作っていました。ただ、これは“デベロッパーあるある”なのかもしれませんが、会社の空調の設定温度がすごく低くて、寒いです(笑)。

――ああ、開発機材などが並んでいて熱を発するから……でしょうか?

神谷どうなんですかね? 僕らはデベロッパーしか基本やってこなかったから、わからない……(笑)。そんなに寒いですか?

山根でもみんな薄着で仕事をしていて、寒さに強いなぁと。あと、私の思っていた以上に、稲葉と神谷は、部下に対して“怖い”ですね(笑)。前職でも経験はありますが、クリエイターというのは「クオリティーをよくするためには、そこまで突き詰めて当然だよね」とも思う反面、「そこまでするのか!」と思うくらい、きびしい意見が飛ぶことも多くて。本当にふたりは、妥協を許さないんですよ。それは正しいことですし、プラチナゲームズのクリエイティブのレベルを上げている要因だと思います。ですが、それは傍から見ていると、“怖い”ですね(笑)。

稲葉いやいや、僕も、「神谷は」怖いと思いますけどねぇ~。

神谷いやいやいやいや、僕も、「稲葉は」怖いと思いますけどねぇ~。

――(笑)。

稲葉誤解なきように言っておくと、怒るとか怒声が挙がる、とかではありませんよ。指摘をする、という感じです。

山根ええ、ものすごくシャープで、鋭い日本刀のような“指摘”ですね(笑)。

神谷それで社員をバッタバッタと斬っているのが稲葉で……。

稲葉神谷もね(笑)。そこも役割分担だと思っています。神谷も、これまではひとりのディレクターとして、自分の関わっているタイトルだけを見ていました。ですが神谷としては、すべてのタイトルを見たい。それは僕としても会社としても助かることです。ですので神谷には、現在はチーフゲームデザイナーとして、全タイトルに自由に関われる立場になってもらっています。神谷は経験も豊富で業界有数のベテランですから、そこから出る意見には、クリエイターたちも納得しますよね。聞けばクオリティーが上がる、明るい道筋ができるわけですから。それが山根には怖いように見えるようですが(笑)。

神谷僕はいままでの経験の中で、開発がうまくいった場面も見てきましたが、迷走したり、スランプに陥るような場面もたくさん見たり、自分自身も経験してきました。そういう経験に基づいた意見・指摘というのを、開発が難航しているプロジェクトに対して行っています。「こうすればよくなる」ではなく、「こうすると失敗するから、こうしたほうがいいよ」ですとか、そういった意見でプロジェクト全体のクオリティーの底上げを狙っています。やさしく、やさしく、教えています……よ?

稲葉マジメな話、やはり開発末期になると、スタッフ全員しんどいです。「もうここまででいいじゃないですか!」って思うほうが、ふつうだと思います。でも、クリエイターというのは、1本のゲームを何年もかけて作るわけですよね。ですから、人生の中で何本のゲームを作れるかと考えると、ある程度限りがあるじゃないですか。何年も経ってからふと振り返ったときに、「あそこで妥協せず、あのときこうしておけば……」と思い返すようことになってしまっては、本当にかわいそうです。そうならないよう最後まで全力で取り組んでほしい、という想いを込めてアドバイスしています。

――本当にがんばるべきところだけは鞭を入れていく、という感じなんですね。

神谷ただ、個人的な悩みなのですが、ムダに業界歴が長いせいか、僕が何かを言うと「あの神谷御大がお告げを仰られたぞ!」みたいな空気になってしまうのが、とてもやりにくくて(苦笑)。ですから、できるだけ現場のスタッフたちとは距離を近づけて、なるべくフラットに意見交換をしたい、というのは意図的にやっているところです。

稲葉とはいえ、まあ一応副社長ですから、やはりスタッフたちも仰々しくはなるのかなと(笑)。

――そんな中、山根さんはビジネスに関わる部署を現在も立ち上げ最中だと思いますが、やりがいなどはどうですか?

山根いまも部署自体はありますが、これから“プロジェクトG.G.(仮)”を始めとするタイトルを、グローバル展開を含めて自社でパブリッシングをしていくには、メンバーが圧倒的に足りません。いまのメンバーだけでは絶対に無理なので、「具体的に動ける組織」をすべてイチから作っています。これはもう、やりがいがあるどころではないですね。「それ本気でやるの?」と疑う規模の仕事です(苦笑)。

プラチナゲームズに元任天堂の山根氏が新・副社長として就任。稲葉氏と神谷氏を交え、プラチナゲームズの進化と野望に迫る独占インタビュー
“プロジェクトG.G.”
プラチナゲームズに元任天堂の山根氏が新・副社長として就任。稲葉氏と神谷氏を交え、プラチナゲームズの進化と野望に迫る独占インタビュー
“プロジェクトG.G.”

――そこに魅力を感じたのも、プラチナゲームズに入られた理由のひとつなんでしょうか。

山根そうです。こんな楽しい経験、もうさせてもらえないでしょうね。世界有数の開発会社をパブリッシャーにするための組織作りに、立ち上げから携わっているわけですから。何より、“プロジェクトG.G.(仮)”の企画を見て、これは絶対におもしろいゲームになると確信しましたし、そのうえで自社パブリッシングを任されたわけです。「モノは最高なのだから、あとは組織をまとめれば、絶対に売れる!」と思う中で、どこまでやれるか、計画を進めているところです。ですので、開発職以外の人材も、ぜひプラチナゲームズに来てほしいんですよ、切実に(笑)。

稲葉いちおう、山根には入る前にも言ったんですよ? 「プラチナゲームズは、こういう部分がありません。これはできません。これが苦手です。ここがダメです」と。虚勢を張ってもしかたがないので、正直に全部明かしました。でも入ったあとに、山根が「聞いてはいたけど……聞いていた以上に何もないなぁ……」って(笑)。

――本当にほぼイチから作っていると……。パブリッシング事業についてですが、現在も一部タイトルをデジタルパブリッシングしつつ、並行してデベロッパーとして他社のゲーム開発を担っていますよね。今後はよりパブリッシング事業に注力していく、ということだと思いますが、そもそもなぜパブリッシングをしようと思ったのでしょうか?

稲葉ときどき「プラチナゲームズは、神谷の作りたいものを作るための会社」と言われることがあって。ファンどころか社員からすら、そういった言葉を聞くことがあります。ですが、神谷にも僕にもそんな気持ちはないんですよ。もちろん、神谷は神谷で作りたいものは作りたいとは思いますが。

 やはり僕たちとしては、新しいもの・新しい遊びをユーザーに提供したいという想いがすべてです。これはいままでも、ある程度はできていました。ただ、デベロッパーである以上、我々が作ったゲームは、パブリッシャーによって「そこからは育てるのは私たちです」となり、どう売っていくのか、どうファンに喜んでもらうのか、という面でも直接関わることができません。続編を作りたいと思っても、決定権はありません。

 それはもちろん仕方のないことではあるのですが、一方で、自分たちが作り上げた大切なゲームを育てるところまで責任を持ってやり遂げ、自分たちが作ったものを「私たちが作りました」と胸を張って言えるようになりたい。そんな話を、よく神谷としていました。自社パブリッシングと言うと大きく聞こえますが、パブリッシングする原点は、その想いなんですよ。ただ、やるからには最大限にやりたいわけで、当然グローバル展開も必要です。であれば、パブリッシングの部署も大きくする必要がありますから、それに向けて現在進行中、ということですね。

――確認したいのですが、“プロジェクト G.G(仮)”といったタイトルをプラチナゲームズがデジタル販売するだけではなく、ワールドワイドで、パッケージ版も含めて販売展開していく、という認識で合っていますか?

山根はい。その通りです。現段階で具体的に決まっていることは何もないですし、やりかたはさまざまにありますが、自分たちですべてをコントロールして、販売責任を担い、グローバルで自社タイトルを展開していきます。

稲葉言い切った(笑)。

山根もうあとには引けないですね(笑)。

――もちろんデベロッパー業務と並行して、という前提だと思いますが、プラチナゲームズはフィジカルなパブリッシャーに進化することを目標に据えているわけですね。驚きましたが、めちゃめちゃワクワクします。今後は自身でゲームを売っていきたいという中で、現在どれくらいのタイトル数を同時開発していますか?

稲葉デベロッパーとしては、現在すでに発表されている任天堂さんの『ベヨネッタ3』が現在進行中です。ほかにも未発表のタイトルがいくつかあり、制作が佳境を迎えているものもあれば、まだ始まったばかりのものもありますが、それはパブリッシャーが発表することなので我々からは何も言えません。

 一方で自分たちで売ろうと制作しているタイトルは、まずは発表だけさせていただいた“プロジェクトG.G.(仮)”です。そのほかにも、もうひとつ自社IPを新たに立ち上げようとしている段階です。どれも大規模プロジェクトなので、プラチナゲームズは現在本当に人が足りません(苦笑)。

プラチナゲームズに元任天堂の山根氏が新・副社長として就任。稲葉氏と神谷氏を交え、プラチナゲームズの進化と野望に迫る独占インタビュー
『ベヨネッタ3』
プラチナゲームズに元任天堂の山根氏が新・副社長として就任。稲葉氏と神谷氏を交え、プラチナゲームズの進化と野望に迫る独占インタビュー
『ベヨネッタ3』

――以前のインタビューでは、現在300人前後で、500人の社員数を目指すと言っていましたね。それは最終目標ではないと?

稲葉最終目標としては、社員数は増やせるだけ増やしたいのですが、現時点での将来的な目標は“社員数1000人超え”です。“500人”というのは、とりあえずはこれくらいいれば当面はなんとかなりそうかも、という数字ですね。

――1000人超えとなると、本当に国内でも有数の大手ゲームメーカーの規模ですね……!

稲葉僕も実感はわきませんが(笑)。将来的にはそうなるんだろうな、と思っています。僕も神谷も、やりたいことがたくさんあって、その話を毎週のようにしています。ただ、あまりにも多すぎて、ほとんど消化できていないのですが(苦笑)。

神谷稲葉の野望は、もう本当にデカすぎるんですよ(笑)。僕ですら、話を聞いて毎週のようにビックリしています。お伝えはできませんが、内容を聞いたら、皆さん驚かれると思いますよ。それを本当にこなしていくとなったら、社員1000人は最低限のラインでしょう。実際、いま走っているタイトルだけでも人が足りておらず、さらにこの先もありますし。

――聞くところによると、毎週企画会議をされているそうですね。

稲葉そうですね。神谷とふたりだけのときもありますし、ほかのメンバーを交えて会議することもあります。

神谷企画のストックはエラいことになっていて、大小含めて、ものすごく多いです。実際に企画書を起こしているものもあれば、草案レベルのものだったり、会話の中だけで留まってるアイデアもあります。企画にすらなっておらず、稲葉がやりたい仕掛けだけを考えたものなんかもありますね。それこそスタッフさえいれば、実際に「この企画、ちょっと走らせてみようか」といったこともできるのですが、その余裕がないものですから。新しい遊びは考えますが、ストックしておくしかなくて……。

――プラチナゲームズさんは大阪がメインで東京スタジオもありますよね。どちらもスタッフを増やしたい、ということでしょうか?

稲葉そうですね。ただ、大阪と東京だけに留まるつもりもありません。たとえば博多、札幌ですとか、ゲームクリエイターの集まる場所はほかにもありますよね。いまはスタジオはありませんが、ゆくゆくは作りたいです。

――おお! それはすでに進んでいる話なんでしょうか?

稲葉すでに検討していますが、社員は誰も知らないですね(笑)。コロナ禍のおかげでテレワークが普及し、じつはゲーム制作的にはよくなった部分があります。以前だと、各スタジオでそれぞれ仕事が完結している必要がありましたが、いまはいつでもビデオ通話でつながれるので、大阪と東京で個別に班をまとめる必要がありません。東京スタジオで足りない部分を大阪から引っ張ってくるなど、柔軟な対応ができるようになりました。だったらもう、人材がいる場所に、自分たちから行って働いてもらえばいいじゃないか、と。わざわざ大阪や東京に来ていただく必要はもうない、という考えかたを進めていっています。

プラチナゲームズに元任天堂の山根氏が新・副社長として就任。稲葉氏と神谷氏を交え、プラチナゲームズの進化と野望に迫る独占インタビュー

“プロジェクトG.G.(仮)”は来年に続報!

――“プロジェクトG.G.(仮)”についてお聞かせください。現在もティザーPVのみが公開されていますが、現在開発状況はいかがでしょうか?

神谷具体的なことは言えません(苦笑)。抽象的なお話しかできないのですが、僕ひとりの発想だけでは、“プロジェクトG.G.(仮)”は現在の規模の企画にはなっていなかったと思います。“プロジェクトG.G.(仮)”は、最初に僕がゲームのコアとなる部分をプレゼンしたところから始まりました。そのコアの部分は、ティザーPVの中にも入っています。言ってしまうと、あの映像に入っているものしか僕は考えていなかったんです。

 そこからの広げかたは、稲葉の持つ大きな野望が関わっています。ひとつのゲームを作るというより、「これからプラチナゲームズはこういうゲーム作りをしていく」という、稲葉の提案がありました。その構想を受けて、「なるほど。たしかにそれは“プロジェクトG.G.(仮)”のコアに肉付けする形で実現することができる」と、現在のような大規模プロジェクトに広げていったんです。僕個人としても、こんな形のゲームになるとは思っていませんでした。ひとつだけ断言できるのは、柴犬はちゃんと登場します(笑)。(※)

※柴犬……“プロジェクトG.G.(仮)”ティザートレーラーでは、ビルの倒壊に巻き込まれる柴犬が大きな存在感を放っており、ゲームファンのあいだで大きな話題となっている。

プラチナゲームズに元任天堂の山根氏が新・副社長として就任。稲葉氏と神谷氏を交え、プラチナゲームズの進化と野望に迫る独占インタビュー

稲葉神谷が最初にプレゼンした企画書は、アニメーション付きでした。そのゲームのコアとなる部分だけがアニメーションになっていたのですが、ビックリするくらいできばえのいい企画で。企画書というものは、通常は言葉で煽っておもしろさを伝えたりしますが、逆に言葉は一切いらなくて、そのアニメーションを見るだけで、一発でこのゲームがおもしろいとわかるものだったんです。そのコアの部分は、すでにかなり完成しています。

――ゲーム内容は、これまで神谷さんが作られてきたような、アクション性の高いようなゲームですか?

神谷これまでのタイトルにも、ゲームのコアとなるものがありました。『ザ・ワンダフル ワン・オー・ワン』なら“ユナイト・モーフ”、『ベヨネッタ』なら“ウィッチタイム”ですとか。それに類するような、コアとなるシステムが、“プロジェクトG.G.(仮)”のティザーPVの中で匂わせているものです。そのままの形で制作していたら、おそらくこれまでのようなピュアなアクションゲームとして制作していたことでしょう。ですが、そこに稲葉の野望が乗っかった形で、ゲームが大きな広がりをみせました。ですので、このゲームはアクション一辺倒では終わらないでしょう。

稲葉最初の企画の段階から、小さいゲームにもできるし、大きなゲームにもできるようなものだったんです。当初から神谷の作る自社IP第1弾として制作しようとは決めていました。ただ、このまま作ると、プラチナゲームズの体力的に、小規模なゲームになりそうに見えて。そこからテンセントさんとの資本提携などもあり、だったらもっと大規模におもしろいことをしようじゃないかと。ただ、遊びの根本は最初から何も変わっていません。

神谷アイデア自体が、ゲーム規模を広げるという意味で、ちょうどよかったのかもしれません。過去に制作した『ビューティフル ジョー』は、“VFXパワー”という映像表現の力を使って戦っていくアクションゲームでしたが、本当にそこを表現することに的を絞って、シンプルな横スクロールアクションという形になりました。“プロジェクトG.G.(仮)”はティザーPVからもわかると思いますが、迫力のあるゲームにしたくて。そこはゲームの規模を広げるという意味で、うまく歯車が噛み合ったのかなと思っています。

――続報のないままですが、いつごろゲームの全体像を知ることができるでしょうか?

山根うーん、そうですねぇ。言ってしまうと……「来年6月にロサンゼルスで会おう!」って感じですかね?

稲葉また言い切りましたね。

――ロサンゼルスというと、つまりE3かSummer Game Fest……?

山根逆に言うと、そこまでは情報はございません。ぜひ続報をご期待ください。

稲葉言い切ったほうが、あとはそこに向けて走るだけですから。ね、神谷。

神谷はぁ……。それを言ってしまうと……、間に合わせないと……ですね……(苦笑)。現在は、その膨らませているゲーム部分も含めて順序立てて作っている最中で、外部の人向けではなく、開発内だけで意見交換ができるような状態のバージョンです。全貌がいよいよ見えてくるぞ、というときには、しっかりとお化粧をして、皆さんに見ていただける形にしなくてはなりませんので、いまはそこに向かって走っています。

――ぜひ間に合わせてください(笑)。

神谷僕は発売日は、いくらでも延びても知ったこ……問題ないんですよ? 

山根いま「知ったこっちゃない」の途中まで言ったよね!?(笑)。

神谷イジっていていいなら、ずっと調整していたいです、ということです(笑)。ただやはり会社として計画の都合がありますから、そこは間に合わせるようにがんばります。

山根ただ、これだけは言っておきたいのですが、販売と開発では、優先されるのは開発側です。自分なりにスケジュールを立てて、「これでヒットが見込めるぞ!」と計画していたとしても、たとえば神谷から「ごめん。開発、半年遅れるから」って言われたら、僕は笑顔で「わかりました」と言うだけです。

神谷えぇ!? 本当……?

山根これは前職でもあったことで、慣れました。若いころはいろいろ思ったりもしましたが、もう「何で遅れるんだよ!」と怒りはしない自分になりました。こちらは言われたら、またプランを立て直すだけですから。

神谷でも、笑顔が怖いってヤツじゃ……?

山根いやいや、開発側と早い段階からいっしょに仕事をしていると、なんだか匂うわけですよ。「延期しそうだな」とか、「なにか言いだしてきそうだな」とか。うすうす状況がわかっているのに、「ここまでに完成してないと困る!」なんて言えないですよ。

神谷そこは、腹を割って話し合いをしていく必要がありますね……。お手柔らかにお願いします……。

稲葉いまの発言、録音データもらっておいたら? あとで証拠に使えるよ(笑)!

プラチナゲームズに元任天堂の山根氏が新・副社長として就任。稲葉氏と神谷氏を交え、プラチナゲームズの進化と野望に迫る独占インタビュー

――(笑)。つぎに、“ネオ-クラシック・アーケード”シリーズについても教えてください。『ソルクレスタ』のように、今後も古いIPをリニューアルしていくのでしょうか。

神谷“ネオ-クラシック・アーケード”シリーズは、決して古いIPを復活させていくだけの企画というわけではありません。ゲームのコアとなる部分だけに注力して、開発スタッフには早いサイクルで制作プロセスを経験してもらい、ユーザーの皆さんには本質的な遊びの部分を楽しんでいただきたい、という小規模開発を目的としたシリーズです。

 僕はチーフゲームデザイナーとしてさまざまなタイトルを見てはいますが、そこで大事にしているのは、僕が思い描くゲームを作ることではなく、それぞれのディレクターが持つ作家性を発揮してほしいという部分です。僕がアドバイスする内容も、「自分ならこうする」ではなく、「本当はこういうことがやりたいんでしょ?」と、その個性を出せるように意見しているつもりです。クリエイターとして、自分のゲーム作りを楽しんでほしいんです。

――ではこの企画には、スタッフの育成目的の面もある、というわけですね。

神谷大規模なプロジェクトで、長い期間をかけてゲームを作って、しかも関わるスタッフもものすごく多いとなると、ディレクターの責任も大きくなって、なかなか冒険することも、任命されるチャンスを得ることすら難しくなってしまいます。

 ですが、自分の過去を振り返ると、かつて20代のころに『バイオハザード2』でディレクターを任せてもらい、チャンスをいただきました。クリエイターを育てるためにも、そういったチャンスは積極的に与えていきたいと思っています。“ネオ-クラシック・アーケード”シリーズ以外の企画も含めて、小規模だけどおもしろさがギュッと詰まっていて、作家性の強さが出ているゲームを、若手スタッフたちとともに作っていきたいですね。

――山根さんのビジネス的な視点からは、『ソルクレスタ』はどのように見えていますか?

山根発売前に入社したかったですね! いまも多くのプレイヤーに遊んでいただいていますが、もし発売前から自分がいたら、もっとヒットさせる自信があります。というのも、やはりプラチナゲームズは開発が主導です。「はいゲーム完成! じゃあ売ってね!」みたいな感じで(笑)。そうではなくて、ゲームって、売るタイミング、売るための方法や方向、発表するタイミングですとか、いろいろ考えて発売するものです。そこをしっかりできていれば、もっと売れたのかなと。

稲葉そうなんです。そこがなかったんです。本当にそういう視点が欲しかったので。

プラチナゲームズに元任天堂の山根氏が新・副社長として就任。稲葉氏と神谷氏を交え、プラチナゲームズの進化と野望に迫る独占インタビュー
『ソルクレスタ』
プラチナゲームズに元任天堂の山根氏が新・副社長として就任。稲葉氏と神谷氏を交え、プラチナゲームズの進化と野望に迫る独占インタビュー
『ソルクレスタ』

――山根さんが入ったことで、よりやりたいことがやれるようになっていきそうですね。

稲葉いまちょうど会社が変わる境目なので、何かやろうとすると、本当にしんどいです。とくにデベロッパーとパブリッシャーというのは、考えかたもスタッフの使いかたも違います。デベロッパーは、数年先まで仕事を決めて受注するもので、もうスタッフの仕事は数年先まで固定されています。

 ですがパブリッシャーなら、もっと柔軟に仕事を変えたりできます。その切り換えのタイミングなので、会社の動きはまだまだ思い通りにはなりません。山根が言う“売りかた”にしても、もっと規模やスタッフが大きくなれば、やれる手数も増えるでしょうね。

――先ほどのお話にも出ましたが、2020年にテンセント・ホールディングスとプラチナゲームズは、資本提携を結びました。以前も「とくに口出しされるようなことはない」と仰っていましたが、テンセントとの関係はいまも同じなのでしょうか?

稲葉変わりません。テンセントさんの方針として、資本提携しつつも、会社への統治はしないんです。僕たちが作りたいもの、作らないといけないものを最大化させるという目的のために動いてくださっていて、かなりフェアな関係が続いています。僕たちが新しいIPを作れる力を持っていると信頼してくれているので、僕たちはその期待に応えていくだけです。

――制作しているタイトルについて、「ここはこうしてほしい」といった意見が入ることはないんですね。

稲葉ないですね。アドバイスではないですが、「こういうトレンドがある」などの情報共有が入ってくることはあります。そこは意見というか、協力関係という感じですね。

――わかりました。最後に、ファンの方々に向けてそれぞれの立場からコメントをいただけますでしょうか。

神谷体制変更から、すごくプラチナゲームズは変わりました。いろいろなことにアグレッシブに挑戦していくことにおいては、稲葉がトップに立つのがいちばんいいと思っています。一方で、僕がひとつのプロジェクトを作る際には、ディレクターとして、プロデューサーがしっかりと売りにいけるための武器を持たせようと、切れ味の鋭い作品作りを心掛けています。プラチナゲームズの作品のすべてがそうしたクオリティーになるよう、主体であるゲーム開発という部分は、しっかりとやっていきたいです。

 また、この数十年、稲葉と仕事をする中で、稲葉が知力の高い軍師を求めていることは、つねづね感じていました。今回山根が加わったのはとても力強いですし、ビジネス面と開発面でいい協力関係が結べたらなと思います。今後は遠慮し合うことなく意見を言い合って、プラチナゲームズにとっていちばんいい結果を残していきたいです。

山根今回のインタビューで、私が世の中の人にどう映るのかとても興味があります。これまで表立っていたわけでもなく、稲葉と神谷と並ぶ自分がどう映るのか、興味がありますね。

 そして、今回私に託された仕事というのは、時限爆弾のようなものです。“プロジェクトG.G.(仮)”が発売できるように、アレやコレやを集めてまとめて、世界中のプレイヤーに遊んでもらうために、私がいます。いまも自社発売という名の爆弾のカウントダウンは進んでいて、毎日がとても忙しくも、充実しています。なぜここまでがんばれるのかというと、ふたりの作る“プロジェクトG.G.(仮)”が本当にいいモノだからです。この感動をいっしょに味わいたいという人、興味があったらプラチナゲームズに入ってきてください。最後は入社勧誘になってしまいましたが、ぜひ続報をお待ちください!

稲葉いつも言っていますが、プラチナゲームズは“明日何をやらかすのかわからない会社”でありたいと思っています。つねに、何かをやって、それが驚愕されたり、失笑されたりもするかもしれませんが、「アイツらこんなことやりやがった!」と言われるようなことをやろうと決めています。

 ゲーム産業は、そういうことがどんどんやりにくくなってきました。大きなタイトルを作る中で、大きなお金も動きますから、リスクよりも安全を取る方向になりがちで、作品の中に強烈な個性を入れにくくなっています。それができなかったから失敗した、というのは、たとえばハリウッド映画でもよくある話ですよね。

 プラチナゲームズは、プレイヤーにも、クリエイターにも、明日何が起きるのかわからないような刺激を得てほしいと思っています。たとえ会社が大きくなっても、そこの楽しさは失わないようにしていきたいですし、神谷と山根がいれば、それは継続できると信じています。

プラチナゲームズに元任天堂の山根氏が新・副社長として就任。稲葉氏と神谷氏を交え、プラチナゲームズの進化と野望に迫る独占インタビュー

プラチナゲームズ独占インタビュー公開記念企画! 抽選で1名にAmazonギフト券30000円をプレゼント!&外れた人の中から抽選で3名に“ズTシャツ”をプレゼント!

 独占インタビュー公開記念として、プレゼント企画を実施します! 応募者の中から抽選で1名にAmazonギフト券30000円をプレゼント。また、この抽選に漏れた人の中から、抽選で3名に、インタビュー中で神谷氏が着用しているのと同じ、プラチナゲームズ特製“ズTシャツ”(Lサイズ)をプレゼントします。

 応募方法は、ファミ通.com(@famitsu)とプラチナゲームズ(@platinumgames_j)のTwitterアカウントをフォローして、下記のツイートをリツイートすれば完了! 当選者の方にはDMでお知らせします。

応募締切

2022年8月3日(水)23時59分リツイート分まで

当選発表

 2022年8月4日(木)以降に、ファミ通.com公式アカウント(@famitsu)から、当選者へDM(ダイレクトメッセージ)を使って通知します。

※DMを送るため、発表まではファミ通.com公式アカウント(@famitsu)のフォローを解除しないでください。
※当選者にお送りするDM内に、賞品発送先の登録フォームのURLを記載しますので期限までに必ずご登録ください。期限までに登録が確認できなかった場合は、当選権利が取り消されます。

賞品発送

2022年9月下旬予定

※新型コロナウイルス感染症に伴う緊急事態宣言の影響で、賞品発送が遅れる場合があります。

注意事項

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  • Twitterアカウントを非公開にしている場合、リツイートを確認することができないため、応募対象外となります。
  • ダイレクトメールを受信拒否設定している場合、当選連絡をすることができないため、応募対象外となります。
  • 当選連絡のダイレクトメッセージ記載の配送先入力締切日までに入力がない場合、当選を無効とさせていただきますので、予めご了承ください。
  • 当選者の長期不在や、賞品お届け先ご住所や転居先が不明等の理由により、賞品のお届けができない場合は、ご当選を無効とさせていただく場合がありますので、予めご了承ください。
  • ご当選後の賞品の変更や返品には応じかねます。
  • 当キャンペーンは、株式会社KADOKAWA Game Linkageが主催しています。TwitterおよびTwitter社とは関係ありません。
  • Twitterおよび関連ツールの動作等の不測の障害により、当キャンペーンを予告なく変更・中止させていただく場合もがありますので、あらかじめご了承ください。
  • 当選賞品を譲渡(転売、オークション出品含む)しないことが応募・当選の条件です。譲渡が明らかになった場合、当選は取り消され賞品をお返しいただく場合があります。
  • ご応募に際しご提供いただいた個人情報は、弊社のプライバシーポリシーの定めるところにより取り扱わせていただきます。
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