2022年5月11日、Nintendo Switch、プレイステーション5、プレイステーション4、Xbox Series X|S、 Xbox One、PC用アクションPRG『百英雄伝 Rising』が配信された。

 本作は、名作JRPG『幻想水滸伝』のクリエイターたちが開発中の2023年発売予定の新作RPG『百英雄伝』の前日譚となるタイトルだ。本稿では、本作の配信を記念して、監修を務めるRabbit & Bear Studiosと、開発を担当したナツメアタリのクリエイター陣に、制作の経緯や注目ポイントなどを聞いた。

『百英雄伝 ライジング』開発陣に聞く。「アクションが得意ではない人でも楽しめるゲームを目指した」
『百英雄伝 ライジング』開発陣に聞く。「アクションが得意ではない人でも楽しめるゲームを目指した」
村山吉隆氏
Rabbit & Bear Studios代表。『百英雄伝』では、ゲームデザインとメインシナリオを担当。
河野純子氏
Rabbit & Bear Studios所属。『百英雄伝』および『百英雄伝Rising』のキャラクターデザインを担当。
『百英雄伝 ライジング』開発陣に聞く。「アクションが得意ではない人でも楽しめるゲームを目指した」
『百英雄伝 ライジング』開発陣に聞く。「アクションが得意ではない人でも楽しめるゲームを目指した」
小牟田修氏
Rabbit & Bear Studios所属。『百英雄伝』のディレクターを担当している。
村上純一氏
Rabbit & Bear Studios所属。『百英雄伝』のプロデューサーとアートディレクターを務める。
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『百英雄伝 ライジング』開発陣に聞く。「アクションが得意ではない人でも楽しめるゲームを目指した」
要 敏明氏
ナツメアタリ所属。『百英雄伝 Rising』ではゲームプランナーを担当している。
鈴木邦夫氏
ナツメアタリ所属。『百英雄伝 Rising』では開発プロデューサーを務めている。

複雑な操作を必要としないシンプルモードを実装し、アクションに慣れ親しんでない人でも楽しめる作品に

――まずは、本作の開発の経緯を教えてください。

村山もともと『百英雄伝』本編は、私たちが2020年にKickstarterでユーザーさんから出資を募ったタイトルです。ありがたいことに、たくさんの方々にご協力いただけたこともあり、目標となる金額に到達したのはもちろん、我々が設定していたストレッチゴールも達成することができました。

 ストレッチゴールを達成したときの特典はどのようなものにするかを話し合っていたときに、「コンパニオンゲームを制作しよう」と意見がまとまりました。

 『百英雄伝』を完成させるまでにはある程度の長い時間を要します。そのあいだ、出資していただいたユーザーさんに、本編の世界をひと足先に楽しんでもらうために、外伝作品として本作を制作する運びとなりました。

――開発をナツメアタリさんにお願いすることにした経緯は?

村山僕たちは本編の制作に注力する必要がありますので、コンパニオンゲームは外部の開発会社にお願いすることにしました。国内外のいくつかの開発会社への依頼を検討する中で、最終的にナツメアタリさんにお声がけさせていただきました。

 僕が個人的に、ナツメアタリさんが制作された作品を楽しんでプレイしていて、実力のある会社さんだと認識していましたので、「ナツメアタリさんにお任せすれば大丈夫だろう」と判断したんです。

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――ナツメアタリさんとは、どのような感じで『百英雄伝 Rising』の開発を進めていったのですか?

小牟田じつは、コンパニオンゲームを制作すると決めた段階では、ゲームジャンルなどを含め、どのような作品にするかは決まっていませんでした。どのような作品にしようかと話し合う中では、五十嵐孝司さんが立ち上げた『Bloodstained』シリーズを参考にしつつ、「8bit風のコンパクトなRPGを作るのはどうか」という話もありました。

 ただ、グラフィックのコンセプトが『百英雄伝』本編と被るということもあり、さらにナツメアタリさんからも「アクションがいいのではないか?」とのご提案をいただき、「リアルなタイプのアクションRPGでいこう!」とのことになりました。そして、本編の前日譚という、本編とつながりのある作品として制作することにしたんです。

鈴木アクションを提案したのは、ナツメアタリがこれまで開発してきたタイトルの99%がアクションゲームでしたので、当社がいちばん力を発揮でき、貢献できると考えたのが大きな理由のひとつです。さらに、外伝作品ですと、アクションRPGのボリューム感がほどよいと感じたこともあり、ご提案させていただきました。

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――開発にあたって、とくにこだわったポイントを教えてください。

村山『百英雄伝』本編がコマンド式のRPGですので、RPGが好きな人が『百英雄伝 Rising』をプレイされることが想定されます。ですので、RPGをよくプレイされて、あまりアクションを遊ばれない方々も楽しめるようにしてほしいとは、ナツメアタリさんにお願いしました。あと、純粋なアクションだけでなく、アクションの中でRPG的な楽しみを入れてもらえるように……とはご要望しましたね。

――RPG好きが楽しめるタイトルを……ということですね?

本作は、“RPGが好きで、アクションに慣れ親しんでない人でもちゃんと楽しめるようなゲームを”ということを第一に考えて開発を進めました。通常の操作が行えるノーマルモードに加えて、ひとつのボタン操作で簡単にアクションが行えるシンプルモードを実装することにしたのは、遊びやすさを踏まえてのことです。

――追加で実装したのですか?

はい。シンプルモードを加えるかどうかは、開発チームでかなり議論を交わしました。開発当初はノーマルモードのみで、このモードだけでもあまり複雑な操作を行わずに楽しめるものになっているのですが、どうしても、多少複雑な操作が必要なところもあったんですね。

 ですので、簡単な操作のみでプレイできるシンプルモードを実装することに決めました。本作の目玉のアクションとして、3人のキャラクターたちがシームレスにチェンジしながらアクションを行っていく“リンクアタック”というシステムがあるのですが、シンプルモードではこのシステムも容易に行えるようになっています。

 それと、本作では序盤の段階で、ゲームを進めるごとにつぎつぎと新たなシステムが登場するのですが、Rabbit & Bear Studiosさんに本作を遊んでいただいたときに、「どんどんゲームに入り込めるようになっているのがおもしろい」、とお墨付きをいただけたのはうれしかったです。

村山本作の開発にあたって、アクションゲームではアクションがうまくなっていく楽しみが魅力のひとつとしてあると思いますが、それとは別に、ロールプレイングゲームの要素として、少しがんばったらクリアーできる目標を見せて、それがクリアーできたらご褒美がもらえるというような仕組みを意識して入れてほしいというお話はしていました。たとえば、序盤に3回ぐらい敵を倒したらひとつ強くなったのを実感できるようにしてほしいとお願いしていたのですが、それが見事に実現されていたんです。

小牟田あと、テストプレイのときに、キャラクターたちがふたり、3人と揃っていくことで行えるようになる“リンクアタック”によって、アクションのおもしろさが増していくなと感じましたので、仲間が増えて“リンクアタック”が使えるまでをとにかく早くしてほしいというお願いを、開発の終盤にお話したのですが、そちらにも対応していただけました。最初に仲間のカンガルーの獣人“ガルー”が加入してからは、アクションはサクサク進むし、それに伴って里見さんのシナリオもどんどん引き込まれるような展開になるんですね。

 急なお願いで無理難題だったとは思いますが、序盤から“リンクアタック”を行えるようになっていたので、こちらの要望にもキチンとご対応いただけたのはさすがだなと思いました。

客観的ですばらしい意見をたくさんいただき、それらをもとに調整を行うことでゲームとしてのおもしろさも格段に向上しましたので、こちらとしてもたいへんありがたかったです。

『百英雄伝 ライジング』開発陣に聞く。「アクションが得意ではない人でも楽しめるゲームを目指した」
本作のアクションのキモとなる“リンクアタック”。

――村上さんはアートディレクターとして、ナツメアタリさんにリクエストしたことや、個人的にこだわった点などはありますか?

村上ふたつあります。ひとつは、村山さんも言っていましたが、RPGは誰でも敷居低く遊べるのがすごくいいところだと思うので、RPGファンがアクションゲームをプレイしても同じ感覚で遊べるものにしてほしいとリクエストしましたね。

 もうひとつは、本編のドット絵のグラフィックに関してです。懐かしいドット絵タッチでありながら、新しい空気を感じるようなグラフィックというのを、違和感のないような形で表現することにこだわって監修しました。

 本作ではキャラクターたちが激しくアクションを行うのですが、その動きの中で、キャラクターたちの姿に違和感がなく、かつ美しいグラフィックを表現するために、解像度やドット絵の明確な描きかたまで、ナツメアタリさんとやり取りさせていただきました。

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――河野さんは、本作でもキャラクターデザインを担当されているとのことですが、どのような形であのキャラクターたちは生まれたのですか?

河野キャラクターイラストのデザインについては、シナリオの里見直さんと綿密にやり取りさせていただきました。里見さんからイラストのリクエストをいただいて、こちらで制作して、里見さんからオーケーをいただくという形で進行していきました。

――里見さんからのリクエストで印象的だったものはありますか?

河野『百英雄伝』本編や『幻想水滸伝』シリーズでは、主人公が女の子になることはなかったのですが、本作では女の子ふたりをメインとしたお話を描いていきたいと、まず言われたんですね。『百英雄伝』本編の最初に出したキービジュアルでは、ふたりの男の子の主人公が描かれていますが、それと対比するようなイメージで、女の子ふたりをメインに、対になるような感じのカラーリングやポージングを意識して、本作のキービジュアルは制作しています。

『百英雄伝 ライジング』開発陣に聞く。「アクションが得意ではない人でも楽しめるゲームを目指した」
『百英雄伝 ライジング』開発陣に聞く。「アクションが得意ではない人でも楽しめるゲームを目指した」
対比的に描かれている『百英雄伝』のキーアート(左)と『百英雄伝 Rising』のキーアート(右)。

――ストーリーも見所ということですが、『百英雄伝 Rising』の物語のテーマはどのようなものなのでしょう?

村山『百英雄伝』の世界観の導入になるようなお話にしてほしいと、シナリオ担当の里見さんにはお伝えしました。その後、河野さんのお話にもありましたが、本編では少年ふたりと女の子ひとりの3人が主人公になっているので、それに対比するように、『百英雄伝 Rising』では女の子ふたりと男性ひとりを主人公としたお話にしたいというご要望をいただいたので、その形でお願いしました。あとは、「人間どうしの絆を丁寧に表現してほしい」ともリクエストしました。

――3人の主人公も相当魅力的なキャラクターになっているようですね。

村山はい。3人ともそれぞれの中に抱えている譲れないものがあって、そのもののために戦っているキャラクターになっています。里見さんのカラーが十二分に入っているかなと。

『百英雄伝 ライジング』開発陣に聞く。「アクションが得意ではない人でも楽しめるゲームを目指した」
3人の主人公のひとりCJ。先祖代々、スカベンジャー(遺跡漁り)を生業としてきた一族の少女。ニューネヴァーへは、古代遺跡に眠るお宝、そして一族に伝わる“成人の儀”を成し遂げるために訪れた。年齢は16歳。まだ幼さも感じられる一方で、スカベンジャーらしい豪快な一面も持つ。
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イーシャは、町長であった父親が行方不明となったため、父に代わりニューネヴァーの町長代行を務める。CJと同じく16歳。古代遺跡の採掘権を利用することで収入が得られることを思いつき、街に多数の冒険者を集めた。
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カンガルーの獣人ガルーは、CJと同じく古代遺跡のお宝を目当てに街へやって来た、元傭兵の冒険者。己の腕一本で数多の修羅場をくぐり抜けてきた、腕の立つ猛者だが、お金に目がない。CJやイーシャと手を組み、協力しながら、古代遺跡の探索を行う。

――これまでのお話を聞いていると、Rabbit & Bear Studiosの皆さんのやりたいことがはっきりしていて、伝えたいことをしっかりと伝えていらっしゃるので、ナツメアタリさんも仕事がしやすかったのではないかと感じたのですが、実際のやり取りで印象的だったことはありますか?

鈴木開発の際に、『百英雄伝』本編の仕様書を拝見したのですが、そこで本編がどのような作品であるか、その方向性などが明確に記載されており、お話も聞かせていただいたので、その前日譚のゲームを作る我々としては、とてもゲーム開発を行いやすい環境でした。

先ほど、小牟田さんのお話にありました、最初の仲間のガルーの加入までを早くしてほしいというご要望についても、我々もなんとなく、“リンクアタック”が行えるようになってからゲームが一気におもしろくなると感じてはいました。そこをしっかりと見極められて、具体的な意見をいただけたので、僕たちも迷わず開発に注力することができました。

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魅力的な3人の主人公とストーリーにも注目してほしい

――本作の楽しみどころを教えてください。

本作の物語は、主人公3人がそれぞれ抱えているものが、徐々に明らかになっていきつつ、街に隠された秘密も判明していくという、どんどん引き込まれる内容になっています。里見直さんシナリオによる物語に注目してください。

 また、本作のアクションはお手軽に楽しめるものになっていますが、サブクエストを通じてキャラクターを成長させたり、装備をレベルアップさせるといった、よりアクションが快適になる要素もあります。アクションが苦手な方はそちらも利用していただければと思います。

鈴木『百英雄伝 Rising』では、主人公3人もとても魅力的に描かれています。本作ではボイスは収録していませんが、さながらキャラクターたちの声が聞こえてくるのではないかと錯覚するぐらい、彼らの見た目や言動がマッチしているんです。3人による物語をぜひ楽しんでください。

小牟田本作のアクションはお手軽かつ爽快で、自分が「アクションゲームがうまいのでは」と錯覚できるほど楽しいものになっています。シンプルモードでは、ボタンひとつでアクションが楽しめるようになっているので、アクションが苦手な方も、敬遠せずにプレイしていただきたいです。

 物語は、里見直さんらしく、キャラクターが活き活きとしながら、笑えるところがあり、シリアスな場面がありと、メリハリもついたお話が楽しめますので、ぜひ注目していただけたら幸いです。

村上本作では、若い女性ふたりと、中年の獣人という3人が主人公ですが、なかなか珍しい組み合わせのチームが織り成す人間関係がとても色濃く、魅力的に描かれています。かつアクションも楽しいものになっていますので、物語とアクション、両方を楽しんでいただけたらうれしいです。

河野『百英雄伝 Rising』では、本編に登場するキャラクターたちも姿を見せています。彼らが作中で活躍している姿を見ていると、本編と勘違いしてしまうほど、高いクオリティーとなっています。『百英雄伝』の世界を予習するのに最適な作品ですので、ぜひお手に取って楽しんでいただけたらと思います。

 ちなみに、CJ、イーシャ、ガルーは『百英雄伝』にも登場します。3人が『百英雄伝』でどのように描かれるのかも、楽しみにしていてください。あと個人的に、街が発展していく際の演出がお気に入りなので、そちらにも注目して遊んでいただけるとうれしいです。

村山『百英雄伝』はRPG、『百英雄伝Rising』はアクションRPGと、ジャンルの違いはありますが、その根底にあるテーマには共通点があります。たとえば、キャラクターたちが大きな流れの中に立ち向かう姿や、その中で、いっしょに力を合わせて街を立て直す姿など……。『百英雄伝』を楽しむ前に、『百英雄伝 Rising』でその一端に触れてもらえるとすごくうれしいです。

――ちなみに、気になる『百英雄伝』の進捗はいかがですか?

村山ただいま鋭意開発中です! 産みの苦しみはありつつも、2023年のリリースに向けて、開発は順調に進んでいますので、ご期待ください!

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