2021年11月14日の日曜日、阪神競馬場にてGI・エリザベス女王杯が開催される。

※2021年11月14日14時13分追記:競馬場名を修正。京都競馬場が改修中のため、阪神競馬場で開催されている。

 1976年の創設から1995年までは、芝2400メートルの3歳牝馬限定戦として開催。秋華賞が創設された1996年からは年齢制限が撤廃され、距離も芝2200メートルに短縮。中距離最強の牝馬を決める戦いとなった。

※馬齢表記は現在のものに準拠。

 『ウマ娘』のもととなった競走馬たちもこのレースに出走しているが、その中でもとりわけ出走回数が多いのが、今回紹介するスイープトウショウ。3歳時から6歳時まで、4年連続で出走しているのだ。

【ウマ娘】スイープトウショウはエリザベス女王杯の門番だった。ダイワスカーレットやカワカミプリンセスと戦ったことも
『ウマ娘』のスイープトウショウ(画像は『ウマ娘』公式サイトより)

 収めた成績もすばらしいもので、2005年に優勝。それ以外の年も5着、2着、3着と、掲示板を外したことがない。「このレースで勝ちたければ私を倒してみなさいよね!」という、まさに“エリザベス女王杯の門番”のような馬だった。

 また、このレースでスイープトウショウは、カワカミプリンセスやダイワスカーレットらといっしょに走っており、『ウマ娘』的に見ても意義のあるレースとなっている。

 今回の記事では、スイープトウショウがエリザベス女王杯に残した足跡を振り返ってみよう。

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スイープトウショウの生い立ちと性格

 スイープトウショウは2001年、北海道のトウショウ牧場で生を受ける。トウショウ牧場は生産した馬を自分名義で走らせる“オーナーブリーダー”。2015年に惜しくも解散してしまったものの、ミスターシービーの父である“天馬”トウショウボーイを始め、トウショウの名を冠する名馬を多数輩出した。

【ウマ娘】スイープトウショウはエリザベス女王杯の門番だった。ダイワスカーレットやカワカミプリンセスと戦ったことも
『ウマ娘』のミスターシービー(画像は『ウマ娘』公式サイトより)

 トウショウ牧場の命名には規則があり、牡馬は“トウショウファルコ”のように、名前の最初に“トウショウ”が付く。牝馬はその反対で、“シスタートウショウ”のように、名前の最後に付く。牝馬であるスイープトウショウはこの規則にのっとり、父のエンドスウィープから名前の一部をもらう形で名付けられた。

 この名前にはもうひとつ意味がある。スイープトウショウの母タバサトウショウと、その母のサマンサトウショウは、1960年代から1970年代にかけて日本でヒットした海外ドラマ『奥さまは魔女』の登場人物からの命名。主人公のサマンサと、その娘タバサにちなんだネーミングとなっている。

 魔女と言えばホウキ、ホウキと言えば掃く(スイープ)ということで、父からの命名と魔女っ子のダブルミーニングとなっているのだ。

 『ウマ娘』でスイープトウショウが魔法少女キャラになっていたり、彼女の祖母が魔女を名乗ったりしているのは、これらから膨らませた設定だろう。

【ウマ娘】スイープトウショウはエリザベス女王杯の門番だった。ダイワスカーレットやカワカミプリンセスと戦ったことも
【ウマ娘】スイープトウショウはエリザベス女王杯の門番だった。ダイワスカーレットやカワカミプリンセスと戦ったことも

 また、『ウマ娘』のスイープトウショウと言えば、“ワガママ”や“いたずら好き”といった個性がクローズアップされることが多い。これも、元となった競走馬の性格が大きく反映されている。

 競走馬のスイープトウショウは、とにかく気性が悪かった。“機嫌を損ねると歩くのを嫌がる”、“調教をボイコットする”、“ゲートに入るのを嫌がることが多く、すんなりと入ったときは細江さん(※)が喜ぶ”など、そのエピソードは枚挙に暇がない。

※細江純子元騎手。現在は競馬評論家を務め、『ウマ娘』のアニメにも本人役でレギュラー出演していた。そんな細江さんがスイープトウショウについて解説するJRA公式動画は以下。

【3分でわかる】スイープトウショウ・新時代の扉を開いた牝馬 | JRA公式

 スイープトウショウの主戦だった池添騎手もとにかく手を焼いたそうで、調教では何をしても動かなくなることがあったと語っている。テレビの取材で「スイープトウショウを彼女にしたいですか?」と聞かれたときは、「いや、キツイでしょ。振り回されっぱなしになると思いますよ」と即答していた。

 ただその一方で、「プライドがめちゃくちゃ高いけど、めちゃくちゃキレイな女性なんじゃないですか?」というフォローも。別の取材でも、スイープトウショウはレースでは素直で乗りやすく、そして牝馬特有のキレがあると、その能力を高く評価していた。

 じつはスイープトウショウが池添騎手に甘えるような場面もあり、『ウマ娘』が世に出る前から一部の競馬ファンのあいだでは、スイープトウショウは絶対にツンデレだろうと言われていた。『ウマ娘』でのキャラクター付けは、「やはり」といったところだろう。

【ウマ娘】スイープトウショウはエリザベス女王杯の門番だった。ダイワスカーレットやカワカミプリンセスと戦ったことも
【ウマ娘】スイープトウショウはエリザベス女王杯の門番だった。ダイワスカーレットやカワカミプリンセスと戦ったことも

エリザベス女王杯での成績

 そんなスイープトウショウがエリザベス女王杯に出走したのは、2004年から2007年までの4年間だ。

2004年(スイープ3歳)

 この年のスイープトウショウは、クラシック候補の1頭と見られていた。桜花賞では“天才少女”ダンスインザムードに敗れ、オークスも6番人気の伏兵・ダイワエルシエーロの2着と惜敗するが、秋華賞では優勝の栄誉に輝き、3歳牝馬としてトップクラスの実力を持つことを証明する。

 そして迎えたのが1回目の挑戦となったエリザベス女王杯だ。このレースではそれまでの走りが評価され、単勝3.3倍の1番人気に支持されるものの、後方からの追い込みが届かず5着に終わった。勝ったのはエアグルーヴの娘のアドマイヤグルーヴ。彼女が前年に続く連覇を果たした。

2004年 エリザベス女王杯(GⅠ) | アドマイヤグルーヴ | JRA公式

 ちなみにこのレースでスイープトウショウはスタートに失敗し、見事な出遅れを見せた。この後もゲート嫌いとスタート難に悩まされることになるのだが、『ウマ娘』にて、ライバルとして登場する際に“ゲート難”のスキルを持っているのも納得だろう。

2005年(スイープ4歳)

 2005年春のスイープトウショウはまさに絶好調。5月の都大路ステークス(オープン)では5着に敗れるものの、6月の安田記念では勝ったアサクサデンエンとクビ差の2着。そしてその3週間後の宝塚記念では、クビ差の接戦を制して優勝。晴れてグランプリホースとなった。

 この宝塚記念は、なかなかのメンバーが揃っていた。

 2着のハーツクライはこの年に急成長を遂げており、年末の有馬記念では“怪物”ディープインパクトに初めて土をつけることになる馬。また3着のゼンノロブロイは、前年に突如として覚醒し、史上2頭目となる秋古馬三冠を達成していた名馬だ(ちなみに1頭目はテイエムオペラオー)。

【ウマ娘】スイープトウショウはエリザベス女王杯の門番だった。ダイワスカーレットやカワカミプリンセスと戦ったことも
『ウマ娘』のゼンノロブロイ(画像は『ウマ娘』公式サイトより)

 そのほかにも、過去に宝塚記念とジャパンカップを制し、前走の金鯱賞も勝利していた晩成の逃げ馬タップダンスシチーや、前年のエリザベス女王杯でスイープを負かしたアドマイヤグルーヴなど、メンバーはまさに多士済々。そんな中で11番人気という低評価を覆し、39年ぶり、史上2頭目の牝馬優勝を果たしたスイープトウショウは、古馬最強の1頭とみなされるようになった。

 だが、評価が上がる一方でレースぶりは安定せず、秋は毎日王冠が6着、天皇賞(秋)が5着と、それぞれ苦杯をなめることに。

 そして迎えた2回目のエリザベス女王杯。このレースの1番人気は、直前のローズステークスと秋華賞を連勝し、波に乗るエアメサイア。スイープトウショウは秋になってあまり調子が上がってこないと思われていたのか、2番人気に甘んじていた。

 しかし結果として、前走や前々走はうまくハマらなかっただけだった。スイープトウショウがハマったときの爆発力は、他を寄せ付けないものがある。

 レースはオースミハルカがスイスイと逃げる展開になり、スイープトウショウはいつも通り後方からの競馬。マイネサマンサがかかり気味に前に行くがすぐに手応えを失い、結果としてオースミハルカは楽な単騎逃げで最終コーナーを迎える。

 直線の入り口に差し掛かった段階で、先頭のオースミハルカと2番手との差はゆうに5~6馬身。オースミハルカが余力を残した状態で残り300メートルを切ると、実況の馬場鉄志アナウンサーは「今年はついに逃げ切るか!」と、悲願の勝利をなかば確信したように叫んだ。

 そのとき、大外からものすごい脚で飛び込んできた馬がいた。誰あろうスイープトウショウである。

 スイープトウショウは並走していたアドマイヤグルーヴをかわすと、直線一気の勢いでぐんぐん加速。切れ味鋭い差し脚を見せ、逃げるオースミハルカをきっちりとらえて、先頭でゴール板を駆け抜けた。

 オースミハルカのレースぶりは完璧。あの走りをすれば、十中八九はオースミハルカの勝ちになるはずだ。それを覆したスイープトウショウの豪脚は、牝馬の中では格が違う。やはり古馬最強格にふさわしいものだった。

【ウマ娘】スイープトウショウはエリザベス女王杯の門番だった。ダイワスカーレットやカワカミプリンセスと戦ったことも

 なお、こちらのカンテレ競馬の動画では、スイープトウショウがゲートにすんなり入って細江さんが喜ぶシーンも収録されているので、ぜひ観てみてほしい。

「大外からスイープトウショウ!やっぱりこの馬は強い」【エリザベス女王杯 2005】実況:馬場鉄志アナウンサー

2006年(スイープ5歳)

 この年のエリザベス女王杯の主役は、パワー系シンデレラのカワカミプリンセスだった。デビューから負けなしでオークスと秋華賞を制し、6戦6勝と絶好調。底知れない強さはファンの期待にもつながり、このレースでも1番人気になっていた。

【ウマ娘】スイープトウショウはエリザベス女王杯の門番だった。ダイワスカーレットやカワカミプリンセスと戦ったことも
『ウマ娘』のカワカミプリンセス(画像は『ウマ娘』公式サイトより)

 対してスイープトウショウは2番人気に留まった。この年は骨折で春を棒に振っており、10月の京都大賞典で復帰。これを勝ち、天皇賞(秋)の5着を経て3回目のエリザベス女王杯に臨んでいた。

 レースで強さを見せたのは、やはりカワカミプリンセスだった。直線に入ると1頭だけ勢いが違うほどの脚色を見せ、そのまま抜け出して1着でゴール。スイープトウショウは追い込んだものの届かず、3着に終わる。

 しかし、カワカミプリンセスは抜け出す間際に他馬の進路をカットしていたと判定され、これが原因で12着に降格する。そのぶん順位がくり上がり、2着だったフサイチパンドラが1着に、3着だったスイープトウショウも2着となった。

 カワカミプリンセスはこの後、勝利に恵まれなかったため、この斜行がなかったらどうなっていたのか……と思わずにはいられない。

※カワカミプリンセスの元ネタ解説記事はこちら

2007年(スイープ6歳)

 この年のスイープトウショウは、春のGIIマイラーズカップで2着に食い込むなど力を見せ、まだまだやれるところを示していた。しかし、この年の話題をさらったのは、同じ牝馬の2頭だった。

 1頭目は、牝馬として64年ぶりに日本ダービーを制したウオッカ。そしてもう1頭は、桜花賞と秋華賞を制し、しかも3着以下になったことがない“ミスパーフェクト”ダイワスカーレットだった。

【ウマ娘】スイープトウショウはエリザベス女王杯の門番だった。ダイワスカーレットやカワカミプリンセスと戦ったことも
『ウマ娘』のウオッカ(画像は『ウマ娘』公式サイトより)
【ウマ娘】スイープトウショウはエリザベス女王杯の門番だった。ダイワスカーレットやカワカミプリンセスと戦ったことも
『ウマ娘』のダイワスカーレット(画像は『ウマ娘』公式サイトより)

 事前のオッズも、1番人気ウオッカ、2番人気ダイワスカーレットとこの2頭が優勢。スイープトウショウは彼女たちに続く3番人気となった。しかし、レース直前にウオッカがハ行(ケガなどで歩きかたがおかしくなること)を発症したため出走取消となり、15億円以上が返還されるという未曾有の事態に。

 そのようなやや混乱状態で迎えたレースは、ダイワスカーレットがかかり気味に逃げながらも一団をコントロールしていく。スイープトウショウは中団を走行。前の馬が有利なスローペースの展開でレースが進んでいく。

 ダイワスカーレットは直線に入ると、安藤勝己騎手がムチを入れてスパート。外から前年覇者のフサイチパンドラが、内からはスイープトウショウがそれぞれ迫るが、いい脚を使い続けたダイワスカーレットはそのまま先頭を譲ることなくゴールを駆け抜けた。

「ウオッカのためにも負けられない」ダイワスカーレット【エリザベス女王杯 2007】実況:馬場鉄志アナウンサー

 このレースでスイープトウショウは引退。競走成績は24戦8勝。うちGIが3勝、重賞は合計で6勝という堂々たる結果を残した。

強い牝馬の先駆けだったスイープトウショウ

 日本競馬の歴史においては、牡馬をも負かすような強い牝馬がしばしば登場する。『ウマ娘』においては、エアグルーヴがその代表格だろう。

【ウマ娘】スイープトウショウはエリザベス女王杯の門番だった。ダイワスカーレットやカワカミプリンセスと戦ったことも

 こういった強い牝馬がピックアップされたのは、“牝馬が牡馬に勝つのが珍しい”という事実があったからだ。

 しかし、スイープトウショウの登場後は、競馬界をリードする牝馬がほぼ毎年のように出てきている。スイープが王者の座を譲ったウオッカやダイワスカーレットがそうだし、最近ではアーモンドアイ、クロノジェネシスなどもその一例だろう。そういった意味でスイープトウショウは、じつは近代競馬史において非常に重要な意味を持つ馬なのだ。

【ウマ娘】スイープトウショウはエリザベス女王杯の門番だった。ダイワスカーレットやカワカミプリンセスと戦ったことも

 『ウマ娘』でも最近、勝負服が追加され、トレーナーたちの注目を集めているスイープトウショウ。育成ウマ娘として実装される日はいつなのか。やっぱりストーリーではゲート難を取得するイベントがあったりするのだろうか。実装される日まで、そんなことを夢想しながら待ちたいと思う。

【ウマ娘】スイープトウショウはエリザベス女王杯の門番だった。ダイワスカーレットやカワカミプリンセスと戦ったことも
【ウマ娘】スイープトウショウはエリザベス女王杯の門番だった。ダイワスカーレットやカワカミプリンセスと戦ったことも

著者近況:北口徒歩2分

 『ダビスタ』ブームに乗っかって競馬を見始め、現在まで何となく情報を追い続ける。『ウマ娘』のアニメは2期まで視聴済みで、ゲームは配信初日からプレイ。アニメで死ぬほど泣いた。

 課金額は2021年11月現在で約80000円、チームランクはS。微課金勢と言い張っている。

 いまは生まれたばかりのリアル娘の面倒を見つつ、ウマ娘の育成に励む日々を送る。

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