スクウェア・エニックスから配信中の、“ファイナルファンタジー ピクセルリマスター”シリーズ(配信プラットフォームは、スマートフォン(iOS/Android)とPC(Steam))。本シリーズはドット絵時代の『ファイナルファンタジー』シリーズ(以下、『FF』)のグラフィックをリファインしつつ、さまざまな要素を加えて、新たにリマスターしたタイトル群だ。

 2021年9月9日には『FFIV』(FF4)が配信され、多くのファンがセシルたちとの冒険を再び楽しんだ。本記事ではピクセルリマスター版『FFIV』の配信記念、そして1991年7月19日の発売日からオリジナル版『FFIV』が30周年を迎えた記念に、オリジナル版でゲームデザインを務め、その後『FFIV』関連作品などの開発に中心人物として関わる、『FFIV』には欠かせない存在である時田貴司氏にインタビューを行った。

※ピクセルリマスター版『FFIV』のレビューはこちら

ピクセルリマスター『FFIV』をSteamでダウンロード
ピクセルリマスター『FFIV』をApp Storeでダウンロード
ピクセルリマスター『FFIV』をGoogle Playでダウンロード
『FF4』30周年&ピクセルリマスター版発売記念インタビュー。時田貴司氏にリマスターや当時の開発秘話、演出に込めた想いを訊く
『FF4』30周年&ピクセルリマスター版発売記念インタビュー。時田貴司氏にリマスターや当時の開発秘話、演出に込めた想いを訊く

時田貴司氏(ときた たかし)

スクウェア・エニックス プロデューサー。オリジナル版『FFIV』ではゲームデザインを担当。ジョブは、ゲームしょくにん。

ピクセルリマスター版の感想は?

――ピクセルリマスター版『FFIV』が発売されてから、ユーザーの反響などはご覧になっているのでしょうか。

時田はい、Twitterでエゴサーチしまくっています(笑)。サクサク進められることや、オリジナル版を尊重しながらもやりすぎないリマスターの形が、しっかりと皆さんに受け入れられている印象です。また、今回初めて遊んだというプレイヤーも多かったのがうれしかったです。オリジナル版の発売から30年も経過していますし。
 
 『ディシディア FF』などのお祭りタイトルで『FFIV』のキャラクターだけは知っている、という人も少なくないようですが、今回のピクセルリマスター版『FFIV』はスマートフォンやPCでも遊べるというところからも、いまのユーザーも入りやすい、いいリマスタータイトルだと思います。

――時田さんは、プレイされてみていかがでしたか?

時田本当にサクサク遊べるのがいいですね。オリジナル版の倍以上のテンポで進められる感じがします。レベル上げのテンポ感や、フィールドの移動速度も速く、いまの時代に合っていてるように思います。

――ピクセルリマスター版では、時田さんはスーパーバイザーとクレジットされていますが、具体的にはどのような関わりかたをされたのでしょうか?

時田基本はお任せで、要所要所で相談を受けたら答えていく、という感じでした。当時はどうだったのかみたいな話をされたら、テラのように“おもいだす”をして答えたり(笑)。あとは遊んでみて、気が付いたポイントを指摘していった感じで、お任せしながらも、あくまで監修という立ち位置で関わりました。

――相談、というのは具体的にどのような相談を受けたのでしょうか。

時田たとえば“ドット絵をどこまでアレンジしていいのか”ですとか、“ユーザーインターフェース(UI)をどこまでイジっていいのか”みたいな部分の相談を受けましたね。昔ながらの装備メニューもいいですが、いま遊ぶとどうしても遊びにくい部分も多いですから、そこは現代風に開示できるパラメーターなどはすべて表示するようにしています。

――では監修部分では、どのようなポイントを指摘したのですか?

時田オリジナル版のキャラクターについては僕や一部のスタッフが描いていましたが、今回は渋谷員子さん(『FF』シリーズや『ロマンシング サ・ガ』シリーズのドット絵を担当)が描き直してくれました。じつは『FFIV』に関してはパッケージのイラスト以外、渋谷さんは関わっていなくて。そのころ渋谷さんは『聖剣伝説 ~ファイナルファンタジー外伝~』のグラフィックを担当されていましたから。ですのでドット絵について、渋谷さんへオリジナル版でこだわっていた部分などを伝えて、そのまま踏襲してほしいというところをお願いしたりしました。

――当時、キャラクターなどは時田さんがドットを描かれていたんですよね。

時田はい、そうです。スーパーファミコンは繊細な色使いでグラフィックを描くことができなかったので、原色に近いハッキリとしたパレットを使う必要がありました。それをもとに、天野喜孝さんのイラスト、当時のドット絵のいいとこ取りでキャラクターを描いていきました。今回は繊細な色使いもできるので、そこのバランスを渋谷さんがうまく取ってくれましたね。

――たしかに、グラフィックの統一感が上がったように思いました。

時田オリジナル版は厳密に言うと、ステータス画面の顔、フィールド中のグラフィック、バトル中のグラフィック、天野さんのイラストとそれぞれイメージが違ったりしますから(笑)。オリジナル版の暗黒騎士セシルを描いたときも、どのセシルに寄せればいいのか、かなり悩みました。結果としては全体的に、『FFIII』までのジョブのイメージと、天野さんのイラストの融合を目指したんです。ですので、パラディンのセシルは『FFIII』のナイトがベースになっていますし、パロム・ポロムは白魔道師をベースにしつつ、たまねぎ剣士をミックスしたグラフィックにしました。

――それが今回、ハード性能の考慮がなくなったほか、渋谷さんの力でバランスがとれるようになったと。

時田はい。バトル、ステータス画面、さらにはフィールドのグラフィックもそれができるようになったので、より統一感のあるキャラクターグラフィックになったと思います。

『FF4』30周年&ピクセルリマスター版発売記念インタビュー。時田貴司氏にリマスターや当時の開発秘話、演出に込めた想いを訊く
『FF4』30周年&ピクセルリマスター版発売記念インタビュー。時田貴司氏にリマスターや当時の開発秘話、演出に込めた想いを訊く

――今回改めて遊んでみて思ったのですが、難易度が下がっているように感じました。もちろん何度も『FFIV』をクリアーしているので「攻略法を知っているからそう感じるのかも」と思っていましたが、実際に難易度調整は入っているのでしょうか?

時田昔みたいに数歩歩くと即バトルみたいな、高いエンカウント率などのストレスがないように調整されています。敵の行動などは基本的には同じで、一部のパラメーター、レベルアップの速度や成長のテンポは調整していますね。とくにレベルはかなり上がりやすいです。もちろんこれまでの知識もあると思いますが、そのあたりで難易度が下がったと感じるのではないでしょうか。

――なるほど。オリジナル版『FFIV』は当時のRPGとしてはかなり高難度なタイトルだったと思いますが、意図的にそうしていたのでしょうか。

時田当時のRPGはボスで1回か2回やられて、その手前でレベルアップを強要する、というようなレベルデザインが多かったですね。ようはより多くのプレイ時間を掛けてほしい、というところで。また、『FFIV』からアクティブタイムバトルシステム(ATB)が入り、ボスの個性をより際立たせました。ATBがあるから時間経過で形態が変わったり、“デモンズウォール”のように時間で迫ってくるなど、アクションゲーム的なことをRPGでもできないかなとアイデアを盛り込んでいったので、そういったギミックの部分でも難しさが出てしまったのかなと。

――たしかに、攻略本を読んで初めて知る、みたいな要素も多かったですね。BGMについてですが、ピクセルリマスター版では植松伸夫さんが全楽曲を監修された、アレンジBGMを搭載しています。時田さんは、BGMについてはいかがでしたか?

時田ここまでガラリとアレンジされたことには驚きました。基本はオリジナル版の良さを残しつつ、その中でアレンジャーさんの良さを出していくような感じで、聴いていておもしろかったです。オリジナル版はスーパーファミコンなので、オーケストラをイメージしてもさすがにオーケストラの音にはできなくて。とくに最初の『赤い翼』からガツンときて、「これはいいな」と。

――発売後、ちょっと予想外だったのが、BGMアレンジについてはユーザーから賛否両論があるところでした。

時田やはり、“思い出補正”に勝るものはないんですよね。アレンジ版のほうが当然豪華だし、音楽としてはすばらしいものなのですが、当時聴いていた思い出の中の楽曲というのは、それとは比べ物にならないほどに格別なものです。また、当時から植松さんも力を入れていて、『アクトレイザー』のBGMを聴いてサウンドプログラムから作り直したのは有名なお話ですし。やはり当時の印象と比べると、当時のものには勝てないと思います。これはリメイク、移植タイトルにはつねに付いて回る話です。そのままの音源にすれば「アレンジしてほしかった」、アレンジすれば「元の音源がよかった」と毎回、賛否両論になりますから。

――たしかにそこの問題はよく見る話題ですね。ちなみに、植松さんが『アクトレイザー』を聴いてサウンドプログラムから作り直した話題は有名ですが、時田さんは当時、作り直すと聞いてどう思いましたか?

時田僕たちとしては「もう全部できあがっているんだから、作り直す必要なくない?」って感じでした(笑)。ただやはり、植松さんとしては本当に驚愕的だったようで。ファミコンの時代は音色は基本どこも変わらないので、曲で勝負という感じでした。しかしスーパーファミコンになってからは、メーカーによって音色の差が生まれ、そこで作品の良し悪しが変わる時代になったんですよね。と考えると、たしかに植松さんの判断は正しく、勝負すべき所だったんだなと思います。

――ちなみに、ピクセルリマスター版には“開発室”がありませんでしたが……?

時田「時田よ、なぜ開発室を削った!?」なんてファンの方々から言われましたが、僕はそこには関わっていなくて、むしろ残しておいてほしかったです(笑)。ただ、事情としては当時の開発スタッフ全員に確認をとったり、リメイク版の開発室は用意するのか否かとか、そのあたりが絡んでいると思います。あとは、いまの時代ではコンプライアンス的に問題のある発言をしてる人とかもいるので……。あ、僕なんですが(苦笑)。

――時田さんが「ここはもうイヤだー! つれていってくれー!」と仲間になるネタがありましたね(笑)。当時、それくらい開発室には缶詰状態だったのでしょうか?

時田当時は1週間に1回家に帰るか否か、くらいのレベルで会社にずっといましたからね。とはいえこれは上司から強制されてるのではなく、みんな自主的に泊まって開発していました。みんな0時まで仕事して、あとは会社で酒盛りして、興が乗ったらまた仕事して、みたいな感じだったので、仕事っていうよりは合宿と飲み会の延長でゲーム作ってました(笑)。ですから、実際は悲惨な開発現場みたいな感じではなかったですよ。最後のほうのスケジュールだけは本当にヤバいんですが(苦笑)。

――皆さん自主的に泊まって作業していたのは、まさに当時ならではといいますか……。

時田いまでは絶対無理ですね(笑)。ただ、帰る時間がもったいないから泊まってた、みたいな感じなんです。みんな若くてひとり暮らしだし、家に帰ってもとくにやることなくて。会社に行けば最新ゲームもあるし、仕事仲間たちもいるし、ついでに仕事もできちゃうみたいな。なので、帰ってもおもしろくないから、会社に泊まっていたって感じですね。『聖剣伝説』チームも隣りで泊まりでやっていて、0時まで仕事したら、よく北瀬(北瀬佳範氏。『FF』シリーズのプロデューサーやディレクターを歴任)と『ドクターマリオ』で対戦するってのが日課でした(笑)。みんなで『ファイヤープロレスリング』だとか『ストリートファイターII』とか、仕事中でも「1回だけ対戦しない?」とか言って遊んでたりしながら、開発していましたね。

『FF4』30周年&ピクセルリマスター版発売記念インタビュー。時田貴司氏にリマスターや当時の開発秘話、演出に込めた想いを訊く

『FF』と『ドラクエ』、当時の関係性

――2021年7月、『FFIV』は30周年を迎えました。改めて30周年としてのお話をうかがいたいのですが、30周年を迎えた気持ちをお聞きできますか。

時田2016年に『ドラゴンクエスト』シリーズが30周年を迎えたときに、じゃあ『FFIV』の30周年はいつなんだろう? などと漠然と考えていましたが、そこからもうあっという間に5年が経ち、『FFIV』も30周年を迎えました。ただ、僕としては30年も経った気はまったくしていなくて、感覚的には15年くらいしか経ってないのでは、という感じがします。

――それまでにもピクセルリマスター版を筆頭に、移植作品や続編があったからこそ、30年経った感覚がないのでしょうか。

時田それもあるかもしれません。僕は機会がいただければ、ノーとは言わずすべてやってきましたし。また、僕が30年もゲーム開発に携わることになるなんて思ってもいなかったですし、『FFIV』が30年続く人気を得るとも想像すらしていなかったので。

――開発当時、時田さんは『FFIV』へ、どのような想いを込めて作っていたのでしょうか。

時田初代『FF』はジョブがメインのシステムで、『FFII』はストーリーメインのゲームです。まあ『FFII』は『FF』という名の『サガ』シリーズなんですが(笑)。『FFIII』はジョブチェンジが採用され、選ぶジョブがより戦術に反映されるようになりました。『FF』~『FFIII』それぞれの良さがある中で、『FFIV』はその良さを全部活かそうと考えていました。ですから、『FFIV』は集大成のひとつとして作っていて、入門編としては非常に入りやすいタイトルだと思います。複数のキャラクター兼ジョブがあり、冒険を引っ張るストーリーがあり、そして魔法や召喚獣などを個性を物語の中でも体感できますから。

――集大成的な作品にするアイデアは、ディレクターの坂口博信さんからの要望ですか?

時田坂口さんは「キャラクター性を立たせたい」とは言っていましたが、これまでの集大成として作りたいと思っていたのは、僕個人が掲げた目標です。

――なるほど。具体的に、過去シリーズの良い部分で取り入れた要素はありますか。

時田たとえば初代『FF』の4つのカオスが印象的だったので、ゴルベーザ四天王を登場させました。プレイヤーどうしの会話とかで「いまどこまで進んだ?」、「水のカイナッツォまで進んだ」とか、会話が成り立ちやすくて好きだったんですよ。それに、物語の節目にもなりますから。

――いまはスクウェア・エニックスと合併しましたが、当時はエニックスの『ドラゴンクエスト』シリーズは大きなライバルだったと思います。当時意識されていた点などはあるのでしょうか。

時田ナンバリング的にも『ドラクエ』のほうが1歩先を行っていましたし、毎回「くそ~! 今回の『ドラクエ』はこうきたか!」と毎回思って、まさにライバルでした。だからこそ、『FFIV』は『ドラクエ』よりもはやくスーパーファミコンで出して、驚かせてやりたいって思いがみんなにもありました(『FFIV』は1991年発売、『ドラゴンクエスト』初のスーパーファミコン用ソフト『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』が1992年発売)。ですから、幻のファミコン版“FFIV”(※)がボツになり、“FFV”として作られていた『FFIV』が発売となったのです。

※編注:当時、スクウェアはファミコンで『FFIV』まで発売し、スーパーファミコンで『FFV』を発売する計画を発表していた。

――ああ、そういった経緯だったのですね。両作品ともに、当時は意欲的なシステムや物語をバンバン盛り込んで、本当に切磋琢磨していた関係のように感じます。

時田たしかに、『ドラクエ』も『FF』も毎回違うことをやっていましたね。もうみんないろいろやりたいことがあって、それをゲームの中でどう実現しようかと、つねに実験作のような形でした。旧スクウェアと旧エニックスのスタッフはもともと知り合いだったので、坂口さんと堀井雄二さん、中村光一さんも交えて飲み会することもあり、その中でお互いのゲームのアイデアを語ったりしましたね。

――え! バチバチのライバル、というわけではなかったんですね。

時田会社的にはライバルなんですが、中のスタッフはお互いに仲良くて、毎回「おもしろいですねー!」って褒め合っていましたね。お互い、『ドラクエ』ではやってないことをやろう、『FF』ではやってないことをやろう、と競争できたのは非常に良かったことだと思います。

――では、発売当時のファンの反響はいかがでしたか?

時田『FFIII』で売り上げ100万本を超えて、当時としても注目も集めていたので、ようやく『ドラクエ』に追いつける……かも!? という感じがしていました。僕らとしては『ドラクエ』に勝つつもりで作っていましたけども。ただ、『ドラクエ』の影響は強いんですよ。たとえば『ドラクエIV』はキャラクターと職業がリンクしていて、まさに『FFIV』に近いですよね。よく昔は『FF』は奇数がバトル、偶数がストーリーがメインみたいなこと言われましたが、『ドラクエ』も同じなんですよ。そして、『ドラクエV』がそれらがいい塩梅でまとまったという感じなのも、『FFV』といっしょなんですよね。本当に切磋琢磨していた時代だったんだなと、改めて思います。

『FF4』30周年&ピクセルリマスター版発売記念インタビュー。時田貴司氏にリマスターや当時の開発秘話、演出に込めた想いを訊く

『FFIV』当時の開発秘話

――時田さんは当時、ゲームデザインとして『FFIV』に関わっていますが、具体的にはどのような役職だったのでしょうか。

時田ディレクターの坂口さんは現在でいうプロデューサー的な立ち位置で、僕はストーリーの実装責任者みたいな立場で、いまでいうディレクターに近いのかなと。

――時田さんはアルバイトから、『FFIV』でその立ち位置になられたのですよね。

時田ええ、アルバイトとして旧スクウェアで働き始め、最初のころはドッターとして『スクウェアのトム・ソーヤ』、初代『FF』のドットなどを作っていました。そこから『半熟英雄』や『JJ ~ とびだせ大作戦パート2』、『魔界塔士サ・ガ』などに関わりました。仕事の内容はドットだけでなく、ゲームのアイデアから何までいろいろ関わっています。そこから『FFIV』をきっかけに、アルバイトのドッターから、正社員のディレクター的な立場になりました。ジョブチェンジとクラスチェンジを同時に行ったわけです(笑)。

 ただ、アルバイトは時給だったので、徹夜すればするほどお金がもらえたので、アルバイトのほうが給料が高かったんですよね。2倍くらいの差があって驚きました(笑)。

――こういう業界のあるあるですね(笑)。なぜ時田さんは、そこまで多彩な部分で仕事に関わっていたのでしょうか?

時田ドッターのときも、企画を考える仕事、手が空いたので効果音を作る仕事、データの実装を手伝う仕事など、ようはできることは何でもやっていたんです。だからこそ、ディレクター的に統括できる立場になれたのかなと思います。『FFIV』ではグラフィックとしては主要キャラクターのドット絵や、大きさ比較のためのサイズ別主要モンスター、あとは召喚獣を描きつつ、データの実装などをやっていました。

――開発当時、とくに苦労されたポイントはありますか?

時田やはり容量問題ですね。スーパーファミコンになり、できることが増えたのですが、やればやるほどに容量が足りないんです。8メガビットの中にいかに収めるのかが大変で、かなり節約しています。また、メモリ問題もあります。開発者というのは、ここぞというときの隠し容量というのを当時持っていて、開発終盤に問いただすと必ず空き容量が生まれます(笑)。そこの容量でエンディングシーンを作ったりするわけですが、『FFIV』だとカインの素顔の後ろ姿を、その空き容量にねじ込むことができました。

――カインの後ろ姿もそうですが、改めて見ると、セシルとローザが抱き合うグラフィックが用意されていたりと、グラフィックが細かいですよね。

時田プレイヤーの皆さんからはよく「カインに気を遣え、いちゃつくな!」とか言われていますが(笑)。ああいった生々しい恋愛的なことを描いたのもシリーズでは『FFIV』が初でした。ただ、実装する際に僕がカインへの思い入れが強かったこともあって、ドロドロした恋愛劇になってしまいましたが(笑)。

――(笑)。カインはそのおかげもあってか、人気が高いですよね。

時田カインは悲惨な目に合いすぎて、最近だったらカインのほうを主人公に描くと思うくらい、ドラマ性が高いですよね。と言っても、セシルも行く先々で悲運な男ではありますが。いきなりボムのゆびわで村を破壊してしまったりと、2Dだからこそエグいことをやっている気がします。3Dのリアルなモデリングで描くとエグいですが、2Dだからこそできてしまうといいますか、そこはデフォルメされた世界観だからこそ描けたことなのかなと。

『FF4』30周年&ピクセルリマスター版発売記念インタビュー。時田貴司氏にリマスターや当時の開発秘話、演出に込めた想いを訊く

――物語の中ではキャラクターたちのアニメーションによって感情表現が豊かに描かれますが、そこも意識して取り入れた要素なんでしょうか。

時田それもあります。が、根本的にはそれも容量節約の問題なんです。最初にシナリオのテキストを書き起こしたところ、それを1/4に削らないとカセットに入らないくらい容量が足りませんでした。それを全部表現するのはできないので、キャラクターがうつむいたり、背中を向けたりと、グラフィックの演技で想像させるしかありませんでした。結果的には、それがキャラクターの感情を想像してくれたり補完させてくれたのが、逆に良かったのかなと。

――なるほど。ピクセルリマスター版を遊んだところ、シナリオの中でファイアで氷を解かすリディア、パロム・ポロムの“ブレイク”ですとか、魔法がシナリオに絡むシーンが多いなと、改めて思ったんですよね。これは、バトルとシナリオをあえてリンクさせていたのでしょうか?

時田『FFIII』まで、バトルとシナリオが融合しているような要素は少なかったですね。『FFIV』はジョブとキャラクターがリンクしていることもあり、イベントがきっかけで魔法を覚えるみたいな要素は、坂口さんのプロットの時点からあったアイデアのひとつです。ジョブを通してキャラクターを立たせる、というところからそういった演出も取り入れていきました。

――ああ、エッジが覚醒するシーンのような。

時田当時は、『ドラゴンボール』でいえば、悟空がベジータと戦っている真っ最中でした。バトルの中で成長していく、という演出を僕たちもすごくやりたかったんです。『FFIV』はバトル中のセリフ展開や、イベントバトルも多いですよね。いまならカットシーンなどで展開する要素なのですが、バトルパートでやっているからこそ描けた臨場感もあると思います。たとえば、リディアが戻ってくるシーンは、イベントシーンではなくバトルシーンだからこそインパクトがあったと思いますし、RPGだからこそできた要素なのかなと。

――たしかに、イベントシーンじゃないからこそ、リディアの再登場には燃えました。バトルと言えば『FFIV』から5人パーティーになりましたが、これはハードの性能が上がったから5人にしたのですか?

時田はい、「たくさん出せるんだから出そう」っていう単純な理由でした。ただずっと5人なのも味気ないので、人数をやメンバーを入れ替えて最後に5人パーティーで戦うような構成にしています。装備を持っていかれてプレイヤー的には不満があった要素でもありますが、物語自体に変化が出せた部分でもあるので、良かったのかなと。たとえばセシルひとりだけになったり、オヤジだらけのパーティーになったりして、バラエティー豊かな旅が楽しめたと思います。

――また当時、『FFIV』は『FFIV イージータイプ』という難度を下げたバージョンも発売されましたよね。かなり異例のことだったと思うのですが、時田さんは当時どう思われたのでしょうか?

時田僕らとしては不本意でした(笑)。だって、僕らとしては「これで完成品だ」と思って送り出したものを、難易度を下げて、さらに作り直して、ってやらされるのはイヤじゃないですか。

 ただ、狙いはわかります。『ドラクエ』シリーズはモンスターのかわいらしさや、シナリオのわかりやすさがあるので、低年齢層でも遊びやすいタイトルですよね。ですが、『FF』は天野さんのイラストを筆頭に、大人向けのRPGという印象がありました。そのため、低年齢層を意識したイージータイプを用意する、という話になったんだと。いま思うと、本当に効果があったのかは謎ですが(苦笑)。

――『FFIV イージータイプ』の開発には関わっていたのですか?

時田少しお手伝いはしましたが、当時旧スクウェアに入って来たばかりの新人たちがほとんどの作業をしています。当時新人だった、小泉今日治(のちに『サガ』シリーズのバトルシステムなどを担当。現・グレッゾ所属)などが関わっていましたね。彼が名称変更などを担当しましたが、敵のファングシェルが“ハマグリあくま”って名前に変わったりしていて、いまに続く『サガ』テイストを感じる部分もあります(笑)。

『FF4』30周年&ピクセルリマスター版発売記念インタビュー。時田貴司氏にリマスターや当時の開発秘話、演出に込めた想いを訊く

ドラマ化!? 舞台化!? いまじゃ応援をスクエニに!

――『FFIV』にはプレイステーション版やゲームボーイアドバンス版、フルリメイクのニンテンドーDSなどがありますが、とくに思い入れの強いバージョンはありますか?

時田プレイステーション版は監修程度で、ゲームボーイアドバンス版は僕がプロデュースから関わっています。当時やりたかった、生きているメンバーたちとのパーティメンバーチェンジができるようになったのは、良かったなと思います。本編もパロム・ポロムやヤンを連れていきたい、という想いはあったのですが、容量的にもスケジュール的にも、とてもそんな余裕はなくて。

 また、ニンテンドーDSでは、3Dになり、念願のボイス実装とフルリメイクができました。そういった意味では、それぞれ違うところでやりたいことを盛り込めたのは、良かったなと思います。

――続編となる『FFIV ジ・アフターイヤーズ -月の帰還-』もありますが、これらが現行機に移植される可能性はありますか?

時田いつか、やりたいですね。またはニンテンドーDS版のように、3Dでボイスを入れたフルリメイクを。もしくは、ピクセルリマスター版でもいいです。『FFIV ジ・アフターイヤーズ -月の帰還-』を遊んだことがある人は正直少ないので、いつか現行機で遊べる環境を用意したいです。

――ちなみに、「いいですとも!」などファンのあいだでネタにされるセリフがありますが、時田さんはどう受け取っているのでしょうか?

時田素直にうれしいです。ネットミーム的なイジりではあるのですが、話題にしてくれるだけでもありがたいです。『FFIV』は「おれはしょうきにもどった!」とかもそうなんですが、マジメなセリフなのに「え?」みたいな、唐突すぎて笑っちゃうセリフが多くて(笑)。ただ、ボイスがないからそう感じるんですよね。声があると受け取り方が全然違うんですよ。たとえばゴルベーザを演じてくださっている鹿賀丈史さんの声で「いいですとも!」を聞いたときには、震えました。『いただきストリート ドラゴンクエスト&ファイナルファンタジー 30th ANNIVERSARY』では、鹿賀さんの収録だけ僕がディレクションさせていただいたのですが、いろいろとやってもらって申し訳なかったです(笑)。

――(笑)。また、時田さんと言えば『半熟英雄』シリーズ、『ライブ・ア・ライブ』などの代表作があります。これらが将来的に“ピクセルリマスター化”される、ということもあるのでしょうか?

時田ピクセルリマスターは、新しいリメイクの形として、発展性があると思っています。また何か機会があれば、ぜひやってみたいです。ただ、僕の気合だけでは実現できるものではありません。そこはユーザーの皆さんが、スクウェア・エニックスに熱いリクエストをバンバン送ってください。そうすれば、会社もやらざるを得ない判断を下してくれるのではないでしょうか。昔と違いSNSなどもあるので、いまはユーザーの声が会社に直接届きやすいです。ぜひ熱い要望を送り続けてくれたら、突破口が開くかもしれませんので、ぜひよろしくお願いいたします。

――ありがとうございました。それでは最後に、『FFIV』ファンの方々へメッセージをお願いいたします。

時田『FFIV』を愛してくださっている皆さん、応援ありがとうございます。偶然ですが、30周年記念にピクセルリマスター版という形で、また『FFIV』を遊べる環境ができました。やはり僕の中でも『FFIV』は特別のタイトルで、自分の分身であり、出発点・原点です。引き続き『FFIV』を、親子代々語り継いでいただき、たとえば将来的にはNetflixで連続ドラマ化、宝塚歌劇団による舞台化、または『FFVII リメイク』なみのクオリティーで『FFIV』リメイクですとか、もしかしたら実現できるかもしれません。もちろんこれらは僕が好き勝手言ってるだけですが、実現したら絶対おもしろいですよね? ぜひこれからも、応援をよろしくお願いいたします!

ピクセルリマスター『FFIV』をSteamでダウンロード
ピクセルリマスター『FFIV』をApp Storeでダウンロード
ピクセルリマスター『FFIV』をGoogle Playでダウンロード