1986年に産声を上げ、今年で35周年を迎えた『メトロイド』シリーズ。これまで数々の進化を経て、多くのファンに愛され続ける本シリーズだが、2021年10月8日に発売を迎えるNintendo Switch用の最新作『メトロイド ドレッド』では、“E.M.M.I.”という新たな脅威が登場。“恐怖”をテーマとして掲げる本作で、同シリーズはこれまでよりもさらに大きな進化を遂げることになる。

 『メトロイド サムスリターンズ』に引き続き、任天堂とスペインのゲーム開発スタジオ・マーキュリースチームエンターテインメントによる共同開発で実現した、新しい『メトロイド』の誕生の裏にはどのような苦労があったのか。シリーズの誕生から『メトロイド』に深く携わるプロデューサーの坂本賀勇氏に、本作のこだわりをうかがった。

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『メトロイド ドレッド』坂本賀勇氏インタビュー。19年ぶりの最新作は2Dアクション『メトロイド』の集大成

坂本賀勇氏(さかもと よしお)

初代『メトロイド』の誕生から35年にわたりシリーズの制作に関わる。『メトロイド サムスリターンズ』に続き、本作でもプロデューサーを担当。

描きたかったのは恐怖に毅然と立ち向かうサムスの姿

――『メトロイド』シリーズの35周年おめでとうございます。現在のお気持ちをお聞かせください。

坂本35年という長い期間、ここまで続けてこられたのはファンの皆さま、周囲の皆さまにサムスを応援していただけたからだと思います。本当に感慨深いです。

――最新作『メトロイド ドレッド』もいよいよ発売を迎えますね。

坂本じつは、構想自体は15年前に思い描いていたのですが、それが望ましい形で納得のいくクオリティーに仕上がり、非常に満足しています。

『メトロイド ドレッド』坂本賀勇氏インタビュー。19年ぶりの最新作は2Dアクション『メトロイド』の集大成

――15年前に構想されていたアイデアから、『メトロイド ドレッド』で変わったことはありますか?

坂本E.M.M.I.は15年前からコンセプトとして考えていました。ただ、当時思い描いていたのは、そうした『メトロイド ドレッド』のコアとなる部分だけで、ストーリーやゲームデザインはまだ手探りの状態でした。

――構想をゲームに落とし込むうえでは、やはり『メトロイド サムスリターンズ』(以下、『サムスリターンズ』)を共同で開発したマーキュリースチームエンターテインメントの存在は大きかったのでしょうか。

坂本はい。技術もセンスもすばらしいですし、何より『メトロイド』というゲームをとても大事にしてくださっています。そのうえで、これまでと同じような“そのまま”の『メトロイド』を作るのではなく、新しいアイデアもご提案いただいたりと、ひとつのチームとして、『サムスリターンズ』から続けていっしょに開発できたということは大きいですね。

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『メトロイドII リターンオブサムス』のリメイク作として2017年に発売されたニンテンドー3DS用ソフト『サムスリターンズ』(画像は上画面)。新アクションの“メレーカウンター”や、“エイオンアビリティ”は『メトロイド ドレッド』でも引き続き採用されている

――恐怖は『メトロイド』シリーズがもともと持っている要素のひとつだと思うのですが、今回その要素を強く打ち出すことになった経緯についてお聞かせください。

坂本1作目の『メトロイド』を作ったときから、映画『エイリアン』などの作品に影響を受けながら、おどろおどろしい、ダークな世界観を目指していましたが、恐怖をテーマとして強く意識することはありませんでした。ただ、遊んでくださった方がそんな世界観や簡単には勝てないような強い敵から感じる恐怖はあるのだろうなと考えていました。それを踏まえて、今回はゲームのアクセントとして、サムス自身に降りかかる恐怖を描こうと。

 『メトロイド ドレッド』でサムスは絶望に直面し、恐怖を感じながらも、それに臆することなく立ち向かい道を切り開いていきます。そういうポジティブな姿勢を描きたかったんです。

『メトロイド ドレッド』坂本賀勇氏インタビュー。19年ぶりの最新作は2Dアクション『メトロイド』の集大成

サムスの感じる恐怖をあらゆる角度から表現

―― 本作の重要な要素にもなっている恐怖を描くうえでとくにこだわったことは?

坂本大きなポイントで言うと、E.M.M.I.の動きですね。無機質な存在がこちらを捕まえるために淡々と迫ってくるという恐怖。それを表現するうえで、認識をすり合わせるためにマーキュリースチームエンターテインメントさんにもパントマイムの動画など、僕がイメージしていたE.M.M.I.の動きに近いものをいろいろ見せながらかなり説明しました。

 僕はいつも、新しいゲームを作るときにはチャレンジングな要素を盛り込みたいと考えているのですが、今回の『メトロイド ドレッド』では、これまでの作品にはなかったE.M.M.I.という存在を追加したので、とくに大きな挑戦になりました。ファンの皆さんがご存知の『メトロイド』と、新たな要素をバランスよく融合させることで、新しい『メトロイド』を確立できたと思っています。

――15年前の構想当時からE.M.M.I.は現在のデザインで考えられていたのでしょうか。

坂本デザインは違うのですが、当時から人型のロボットが四足歩行でサムスを追いかける、という構想はありました。怪談などの演出でもよく使われますが、人のようなフォルムをした存在が四足歩行で追いかけてくる姿は、生理的に恐怖を感じる人が多いと思うんです。

 『メトロイド ドレッド』ではこうしたE.M.M.I.の動きでも恐怖を演出していて、サムスを追い詰めるときには二足歩行でゆっくりとにじり寄るといった具合に、場面によって動きを使い分けています。

『メトロイド ドレッド』坂本賀勇氏インタビュー。19年ぶりの最新作は2Dアクション『メトロイド』の集大成

――E.M.M.I.がサムスを探知するために発する音も不気味で印象的でした。あの特徴的な音は開発初期からE.M.M.I.とセットで考えられていたのですか?

坂本はい。じつはあの音は自分が子どものころに聞いた、ヤマバトの鳴き声がモチーフのひとつになっています。自分がこれまでに聞いてきた音の中から、「ふつうの状況で聞いても怖くないけど、特殊な状況で聞くと怖く聞こえるんだろうな」という考えかたで発想を膨らませました。

――トレーラーを見て、E.M.M.I.の圧倒的な強さに驚いたユーザーも多いと思います。

坂本“E.M.M.I.ゾーン”は恐怖のゾーンとして、通常の探索できる場所とは差別化したかったんです。サムスの視点から見た恐ろしさを表現するため、水蒸気のようなものが立ち込めていたり、画面にノイズのようなエフェクトが入ったりと、視覚的な要素にもこだわっています。

 ただ、ゲームの進行度に応じて、サムスもE.M.M.I.への対抗手段を身に付けていくので、パワーアップすることで対抗できるようになるというプロセス自体はほかの敵と変わりません。

――倒すためにオメガキャノンを構えたときの“エイムカメラモード”も2DアクションでありながらTPSのようで新鮮でした。

『メトロイド ドレッド』坂本賀勇氏インタビュー。19年ぶりの最新作は2Dアクション『メトロイド』の集大成
エイムカメラモードでは画面がサムスに近づき、通常よりも遠くを見ることができるようになる

坂本『メトロイド』は2Dスクロールアクションのスタイルでサムスを機敏に動かすのが楽しいゲームです。ただ、E.M.M.I.の恐怖を描くうえで、通常の視点の画面では物足りないのではないか思ったんです。主観に近い視点にすることで、通常の画面には入らないような遠いところから迫ってくるE.M.M.I.の様子を明確に感じられますし、後ろの様子がわからないぶん、恐怖もあると思います。

 演出としても、ゲームの遊びとしても両立させるには、あの形が理想的でした。苦労したポイントのひとつですが、うまく形になりました。

2社の連携で作り上げられた新たな『メトロイド』

――アクション面でも、ダッシュメレーなどの要素が追加されました。こうした新要素はどのような流れで生まれたのでしょうか。

坂本もともと、メレーアクションはマーキュリースチームエンターテインメントさんからご提案いただいたアイデアです。『サムスリターンズ』で新アクションとして盛り込みましたが、よりアグレッシブで、ゲームの流れを止めないものであるべきだと考えました。

 そこで、任天堂側からダッシュメレーの追加を提案をし、マーキュリースチームエンターテインメントさんと連携しながらゲームに落とし込んでいきました。そのほかの要素についても、お互いにアイデアを出し合いました。

『メトロイド ドレッド』坂本賀勇氏インタビュー。19年ぶりの最新作は2Dアクション『メトロイド』の集大成

――マーキュリースチームエンターテインメントには『メトロイド』が好きなスタッフが多いというお話がありましたが、提案されるアイデアもやはりユーザーの視点に近いものが多いのですか?

坂本それはあると思います。もちろん、自分たちもユーザー視点を意識しますが、マーキュリースチームエンターテインメントさんの視点からも考えていただくのはすごくありがたかったです。ディレクターのホセさん(ホセ・ルイス・マルケス氏)を始め、『メトロイド』が好きな方がすごく多いチームなので、どうすれば『メトロイド』がよくなるかということに対しても、真摯に向き合っていただいていました。

――追加されたアクションの影響もあり、プレイのテンポもこれまでに比べてスピーディーなものになっています。これは坂本さんが最初から目指していたものなのでしょうか。

坂本これまでにたくさんの『メトロイド』を作ってきましたが、それぞれにふさわしいテンポがあると考えています。今回の『メトロイド ドレッド』では、スピーディーなアクションが最適なチューニングでした。

 それぞれの『メトロイド』の作品のゲームデザインに合致するアクションを作ってきましたが、今回のアクションは非常に快適で操作もしやすく、自分自身も気に入っています。これが『メトロイド』にとって、ベストなアクションなのかもしれません。

――スピーディーでありながら遊びやすいアクションが実現していると。追加アクションの影響で、難易度の調整もこれまでとは違ったものになったのでは?

坂本開発しているうちに慣れてしまって初めてプレイする人の感覚がわかりづらくなってしまうため、難易度の調整はどんな作品でもたいへんですが、アクション要素の調整は任天堂とマーキュリースチームエンターテインメントさんで団結することで、こだわりながらもスムーズに進めることができました。

 ただ、E.M.M.I.の要素はまだ誰も挑戦したことのない要素なので、いろいろな人に実際にプレイしてもらい、アクションゲームとして最適なバランスに調整していきました。その中でとくに重視していたのが、ゲームオーバーになった際に、「つぎはこうしてみよう」と思ってもらえるかどうかでした。

『メトロイド ドレッド』坂本賀勇氏インタビュー。19年ぶりの最新作は2Dアクション『メトロイド』の集大成
コンティニューはスムーズで、倒されてしまった場所の近くから再開できる

――プレイヤーがリベンジしたくなるようなバランスになっているか、ということですね。

坂本たとえば、E.M.M.I.にあまり捕まらない、捕まってもすぐに逃げられるようにすると、ゲームの根幹をなす要素であるE.M.M.I.の恐怖が十分に表現できない。かといって、難しすぎてもストレスになってしまうので、E.M.M.I.のバランス調整は苦労しました。

――そのほかにわかりやすく新しくなった点では、サムスのパワードスーツのデザインも変更されていますが、どのようなことを意識してデザインされたのでしょうか?

坂本本作は『メトロイド フュージョン』の続編なので、“フュージョンスーツ”のイメージを残しながら、有機的なものと無機質なものが融合したようなデザインにしようと考えました。デザイン面でも、マーキュリースチームエンターテインメントさんと相談しながら形にしていきました。

『メトロイド ドレッド』坂本賀勇氏インタビュー。19年ぶりの最新作は2Dアクション『メトロイド』の集大成

――これまでのパワードスーツよりも女性的な印象を強く受けました。

坂本確かに『サムスリターンズ』とは異なるフォルムですね。お客様からもそういった意見が多いのですが、我々としてはとくに意識はしていなかったので、意外な反響でした。

――パワードスーツのデザインは多くのファンが注目する要素ですが、シリーズを通してデザインで大事にしていることはありますか?

坂本サムスはかっこよく、そして作品ごとのアクションに見合ったビジュアルになるように、世界観に合わせて微調整しながらデザインしています。また、敵に関しては、グロテスクな要素を入れることは意識してきました。『サムスリターンズ』と今回は、マーキュリースチームエンターテインメントさんからもいろいろなデザインをご提案いただきながら、互いに意見を重ねて磨き上げていきました。「敵はこうしてほしい」と直接言わなくても『メトロイド』らしいデザインを上げていただけるので本当に助かりました。

――初代『メトロイド』からファンにとってはおなじみの敵キャラクターであるクレイドのデザインも変わっていますね。

『メトロイド ドレッド』坂本賀勇氏インタビュー。19年ぶりの最新作は2Dアクション『メトロイド』の集大成

坂本ひと目見てすぐにクレイドとわかるようにしながらも、『メトロイド ドレッド』ならではの新しいクレイドを見せたいと思ったんです。ゲーム中ではどんな風に戦うかもデザインの見せかたに関わるので、そうした要素も含めて、綿密にやり取りしながらイメージをすり合わせていきました。

――『メトロイド ドレッド』は据え置き機で遊べる2Dアクション『メトロイド』シリーズとしてはスーパーファミコン以来の発売となりますが、HDタイトルならではの開発の苦労はありましたか?

坂本HDの『メトロイド』を手掛けるのは初めてなので、クオリティーをどこまで求めていいのかというところで苦労して、任天堂のいろいろな部署の人に協力してもらいました。その点、マーキュリースチームエンターテインメントさんはHDタイトルの開発経験も豊富なチームです。『メトロイド ドレッド』の開発でも、すごく頼りになりました。

――ゲームデザインの面ではとくに苦労されることはなかったと。

坂本ハードの性能が上がったことでできることも増えたので、むしろ開発自体は心地のいい環境で進めることができました。

『メトロイド ドレッド』が示す探索アクションの新たな可能性

――これまでのシリーズ作品開発での思い出をお聞かせください。

坂本思い出深い出来事ばかりで、ひとつには絞りづらいですね。もちろん、マーキュリースチームエンターテインメントさんとの出会いもそうですし、『メトロイド アザーエム』をTeam NINJAさんといっしょに作ったときも非常に充実していました。

 それから、『メトロイド フュージョン』は『ワリオ』シリーズの開発を行っていたチームが初めて『メトロイド』の開発に挑戦したタイトルでもあるんですよ。『メトロイド』とはどういうものなのか理解してもらうために、レベルデザインの担当者ひとりひとりに僕が『メトロイド』のレベルデザインについて紙に書いて見せたりしながら説明して作ってもらったのも思い出深いです。

 そして、やっぱり初代の『メトロイド』はかなり思い出としては大きいですね。僕が開発に参加したときは、発売日は決まっているのに開発はほとんど進んでいないという状況だったんですよ。僕も含めて、ゲーム開発の経験があまりないチームだったのですが、そんな中、当時の任天堂開発第一部が総力を挙げて作り上げたタイトルです。開発中、完成できないのではないかと思うこともあったのですが、無事に開発が終わり、できあがったエンドロールを見たときはグッときましたね。きっと一生忘れないと思います。

――『メトロイド』シリーズ35年の歴史の中には坂本さんの思い出も詰まっているのですね。これまでのシリーズ作品の開発において、とくに大事にしてきたことを教えてください。

坂本先ほどもお話ししましたが、『メトロイド』には映画『エイリアン』を意識してきた部分があります。H.R.ギーガー(※)のような有機的なデザインの中に、アクセントとして機械的なものがあるという世界観は『メトロイド』のセオリーにもなっています。

※H.R.ギーガー…… スイス出身のアーティスト。『エイリアン』のクリーチャーデザインで知られる。“バイオメカノイド”という、生物と機械が合体したような独特なアートスタイルはさまざまな業界に大きな影響を与えた。

 ただ、それは近年でどんどん変わってきていて、マーキューリースチームエンターテインメントさんと出会ったことで、これまでとは違うフェーズに移ったような印象ですね。マーキューリースチームエンターテインメントさんの、我々とは違う海外の感性を尊重することで、よりよいものが作れるようになったと思いますし、自分としても作品に取り組む姿勢が変わりました。今回もそうした変化のおかげでうまくいったという感触があります。

『メトロイド ドレッド』坂本賀勇氏インタビュー。19年ぶりの最新作は2Dアクション『メトロイド』の集大成

――近年では、インディーゲーム界隈を中心に『メトロイド』のような探索型のアクションが流行を見せていますが、坂本さんはこの流れをどのように考えられていますか?

坂本自分たちが35年前に作ったゲームがひとつのジャンルとして、いろいろな表情を持ったさまざまな解釈の作品として遊ばれていると考えると、すごくおもしろいですし、光栄なことだなと思います。まだこのジャンルに可能性があるのであれば、今後も人気は続いていくでしょうし、我々としてはその可能性を示したい。そうしたこともあり、『メトロイド ドレッド』がインディーゲームクリエイターの方々にとって刺激になればいいなと思っています。

――そんな、ジャンルのさらなる可能性に挑戦したという『メトロイド ドレッド』の発売を待っていたファンにメッセージをお願いいたします。

坂本完全新作をお待ちいただいていたファンの皆さま、お待たせしてしまい申し訳ございませんでした。いろいろな条件が揃い、いよいよ発売を迎える『メトロイド ドレッド』は、いままでの2Dアクション『メトロイド』の集大成と言ってもいい内容になっています。

 E.M.M.I.や謎の鳥人族、クレイドなど、さまざまな要素を盛り込んでいますが、そうした要素がどのように絡み合って、サムスの物語を盛り上げるのか、そして、メトロイドとサムスの物語にどのようなひと区切りが付くのか。ぜひ実際にプレイして確認していただければと思います。

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