ガンダムシリーズに登場するモビルスーツで戦う6対6のFPS/タクティカルシューター『ガンダムエボリューション』。2021年8月8日~9日にPCでクローズドβテストが実施された期待作である。

 開発・運営を手掛けるのはバンダイナムコオンライン。同社にはオンラインFPS『サドンアタック』出身のトッププレイヤーが務めている。堀越亮氏(HN:Oblivious)と松島裕樹氏(HN:Vader)だ。松島氏は『オーバーウォッチ』と『PUBG』でプロゲーマーの経験もある。ガチ中のガチ。

『ガンダムエボリューション』元プロゲーマーのVaderが機体開発を担当。FPSガチ勢がそれぞれの“技術”に導かれた本作は現代の南総里見八犬伝だった
スピーディーかつ戦略的な銃撃戦が楽しめる『ガンダムエボリューション』。

GUNDAM EVOLUTION | ティザートレイラー

 彼らの働きぶりは2回ほど取材して記事にしており、当時から「新作の開発にも関わっている」という話だけは聞いていた。その新作こそが『ガンダムエボリューション』だったのである。

 ガンダムを使ったシューター。会社としてもそうとう力が入ったフラグシップレベルの新作に違いない。そんなプロジェクトの中で、彼らはうまくやっているのか。過去の記事の伏線を回収するようにインタビューを実施した。

『ガンダムエボリューション』元プロゲーマーのVaderが機体開発を担当。FPSガチ勢がそれぞれの“技術”に導かれた本作は現代の南総里見八犬伝だった
Obliviousこと堀越亮氏(左)とVaderこと松島裕樹氏(右)。写真は2019年7月20日に公開した記事より。

堀越亮(ほりこしりょう)

バンダイナムコオンライン所属。オンラインFPS『サドンアタック』の元トッププレイヤーで、ハンドルネームはOblivious。

松島裕樹(まつしまゆうき)

バンダイナムコオンライン所属。オンラインFPS『サドンアタック』で活躍し、『オーバーウォッチ』と『PUBG』ではプロゲーマーを経験。ハンドルネームはVader。

※記事担当のミス・ユースケはふたりと旧知の仲のため、ときどき馴れ馴れしくなります。ご了承ください。

元プロゲーマー・Vaderはふつうにガンダム好きだった

――ついに『ガンダムエボリューション』が動き出しました。心境はいかがですか?

松島正直、反響の大きさに驚いています。『ガンダム』を題材にしたシューターなので、ある程度は予想していましたが、想定以上でした。

――ビビってますか?

松島ビビるというより、驚いたという感じです。期待に応えたい気持ちはもちろんあります。

堀越無事に発表できて、まずはホッとしました。本当にたいへんなのはここからなんですけど。

――おふたりはもともとガンダムは好きでしたか?

松島好きですよ。ふつうに好きくらいだと思います。

――「自分がガンダム好きを名乗るなんておこがましい」みたいな感覚でしょうか。たとえばどういう作品が好きですか?

松島小さい頃からガンダムのゲームをよく遊んでいました。スーパーファミコンの『SDガンダム』シリーズはかなりやりましたね。『ガチャポン戦士シリーズ』も『バトルドッジボール』も『SDザ・グレイトバトル』なんかも好きだったなー。全部ということはないですけど、ほかにもいろいろプレイしています。カードダスも好きでしたしアニメも好きですね。ゲームきっかけでひと通り見ました。宇宙世紀ですと『機動戦士ガンダム』(劇場版)が思い出深いです。初めて見たアニメのガンダムなので。

『ガンダムエボリューション』元プロゲーマーのVaderが機体開発を担当。FPSガチ勢がそれぞれの“技術”に導かれた本作は現代の南総里見八犬伝だった
なお、今回の取材は昨今の情勢を鑑みてオンラインで行いました。

――めちゃくちゃ楽しそうに語るじゃん。謙遜しなくてもいいような。『サドンアタック』元トッププレイヤーで『オーバーウォッチ』と『PUBG』元プロプレイヤーのガンダム好きが開発に関わるガンダムシューター。完璧なのでは。でもコアすぎるのもよくないのかな。

堀越私は原作はそこまで詳しくないんですけど、高校生のときに『ガンダムウォー』にハマっていました。対戦型トレーディングカードゲームですね。機体とキャラクターはわかるけど、それぞれの関係までは、といったところです。

――狙ったようにバランスがいい。ふたりを足して2で割ったら最強の開発者ができ上がるな。

機体開発の中核を担当

――ふだんはどういう業務をしているんですか?

松島おもに機体を作っています。実装する機体のコンセプトを考えて、仕様を考えて、プロジェクトメンバーの意見を聞いて。調整や最終的な判断も自分のほうでやってます。

――全部?

松島さすがに全部ということはないですよ。実際に絵とかプログラムを書くわけじゃないですし。でも、機体の性能や遊びかたの部分に関してはだいたい見てますね。

――機体とか武装はどうやって決めているんですか? ガンダムファンの中でも話題になっていますが、モビルスーツは1000種類以上あって、作品によって性能が違ったりしますよね。

松島まず、自分が「こういう遊びをさせたい」と全体のイメージを明確にして、そこに合いそうな機体を探します。

――ガンダム作品をひと通り見ているのなら、その辺はスムーズに進みそうですね。

松島だと思います。社内に設定資料もありますし、機体の人気データなんかを参考にするときもあります。そこからいくつか具体案を用意して、プロデューサーやディレクターの会議で揉みます。

 大丈夫であれば実際の開発段階に進んで、だめだったら再考。『ガンダムエボリューション』はガンダムファンの方々にも遊んでいただきたいですけど、シューターゲームとしての楽しさも重要なので、都合よく(ガチゲーマーである)こちらの意見が通るときもありますね。これはあくまで一例ですけど。

――最終的に、機体のことは松島さんが決めているということですか?

松島そういうときもありますし、丸山(プロデューサー)や穂垣(バトルディレクター)と話し合って決めることもあります。丸山から「この機体を出したい」と言われるときがあって、これか……と悩むこともぶっちゃけあります(笑)

『ガンダムエボリューション』元プロゲーマーのVaderが機体開発を担当。FPSガチ勢がそれぞれの“技術”に導かれた本作は現代の南総里見八犬伝だった
『ガンダムエボリューション』プロデューサーの丸山和也氏(左)とバトルディレクターの穂垣亮多氏(右)。写真は2021年7月16日に公開したインタビュー記事より。

――あ、やっぱり悩むんだ。

松島丸山にはプロデューサーの視点もありますからね。ガンダムというIP全体のことも考えないといけない。その要望に対して、こういう武装、こういうスキルセットならどうかという叩き台を作って、穂垣と詰めていったり。

――立場が違えば意見も違うわけじゃないですか。ゲームバランスと合わなかったら丸山プロデューサーと戦うこともありますか?

松島戦います。

――松島さんの本気を見た。ちなみに、すでに発表されている初期の12機(※)を決めたのは誰なんですか?

※初期の12機:ガンダム、ザクII[射撃装備]、サザビー、ジム・スナイパーII、ドムトルーパー、ガンタンク、ペイルライダー、ガンダム・バルバトス、メタス、アッシマー、∀ガンダム、ジム

『ガンダムエボリューション』元プロゲーマーのVaderが機体開発を担当。FPSガチ勢がそれぞれの“技術”に導かれた本作は現代の南総里見八犬伝だった
公式サイトには12機の一覧が掲載されている。

松島自分がプロジェクトにアサインされた頃には決まっていました。

――単純に、バランスが考えられているという印象を受けたんですよ。主人公機とかライバル機だけじゃないということは、そうとう幅広くなるなと。

松島そうですね。主役機だけをフォーカスするのではなく、量産機なども入れたいという思いはプロジェクト全体として意識しています。

――ガンダム、ザクとかのおなじみの機体のほかに、アッシマーの参戦にビックリした人もいると思うんですよ。変形機体はほかにもいるだろって。

松島可変機はいっぱいいますからね。アッシマーに関しては丸山の意向もありまして。

『ガンダムエボリューション』元プロゲーマーのVaderが機体開発を担当。FPSガチ勢がそれぞれの“技術”に導かれた本作は現代の南総里見八犬伝だった
7月17日に配信された公式配信番組“新作ガンダムFPS「GUNDAM EVOLUTION」発表会”より。

松島主役機っていろいろな能力が備わっていることが多いじゃないですか。劇中に印象的なシーンがあれば、それを必殺技的に盛り込んでもいい。原作を知っている人なら「ここであのシーンを持ってきたかー」ってニヤリとできる。そういう都合もあって、自分は主役機とか活躍した機体を挙げがちなんですよ。

――なるほど。そういう考えかたは理解できますね。

松島丸山からは「それだと単なる人気ランキング。主役機とライバル機の集まりになる。もっと特徴的な機体を入れられないか」とよく言われました。たしかにそうだよなと。

――ちょうどいい立ち位置の機体として選ばれたのがアッシマーだったと。

堀越丸山と松島の戦いはおもしろいですよ。「この機体はどう?」「1話くらいしか出てないじゃないですか」とかね。

――丸山さん、そんな渋い機体を挙げてくるの?

初心者が成功体験を得られない調整はよくない

――では、堀越さんの仕事はどんな感じですか?

堀越(プロジェクトに加入した)当初は運営としての仕事がメインで、ゲーム内の開発にはあまり携わっていませんでしたけど、最近になって機体の開発に関わるようになりました。それ以外だと、パラメータ調整ですとかスタッツの集計ですとか。こういうデータがあったらいいよねって意見を出したりもしますね。

 あと、1ヵ月くらい海外出張をしながら『ガンダムエボリューション』の開発に参加していました。

――1ヵ月の海外出張って、いきなり振られる仕事じゃないでしょ。もしかして、ふたりとも中核にいます?

堀越だったらうれしいですねー。

――FPSプレイヤーとしての経験は業務にどのように活かされていますか?

松島新機体のテストをするときに、自分の感性をある程度あてにできるというのはありますね。“ここはいい、ここはよくない”という課題を見つけやすいのかなと思います。ずっとユーザーとしてシューターゲームを遊んできたので。

堀越あとはやっぱりバランス調整に影響しますね。強さの指標や課題点を見つけやすいです。

――ユーザーがおもしろいと感じる部分を深く掘れる、何となくわかるのは大きいと思います。ですけど、ふたりの感性をあてにすると“うまい人向けの調整”になりませんか? 丸山プロデューサーは以前のインタビューで「自分たちくらいのゲーマーでも遊べるようにしたい」と仰ってましたよ。

松島そうですね。強い人だけがおもしろいゲームってよくないじゃないですか。

松島前回のインタビューでも「成功体験は大切」という話がありましたよね。初心者が成功体験を得るきっかけがないのは、よくない調整だと考えています。上級者の意見ばかり取り入れるのは危険です。

松島社内でテストプレイをする機会が週に2~3回あって、うまい人向けのときもあれば、そんなにFPSを触ったことがない人向けのときもあります。初心者の意見も参考になりますね。初心者の方々にも楽しんでもらえるよう設計しているつもりでも、気づけていないこともあったりするので。

堀越初心者にはガンタンクをおすすめしています。たしか前のインタビューでも穂垣が言ってましたよね。先日の番組ではケイン・コスギさんが使って活躍してました。

――最初にガンダム・バルバトスを使ってからガンタンクに乗り換えてましたね。楽しそうですごくよかった。

堀越バルバトスは接近戦オンリーなので、多少は慣れてからじゃないと難しいですね。

松島バルバトスのような上級者向けの機体もあれば、誰でも使いやすいガンタンクのような機体も用意してあります。今後も幅広い層の方が遊べるよう調整していきます。

プレイヤー時代のネットワークを最大限に活用

――ちょっとゲームから離れた話題になりますが、穂垣さんは『クロスファイア』出身で、おふたりは『サドンアタック』出身。仲間意識みたいなものってあります?

松島ありますね。やってきたゲームのジャンルとかバックボーンが似ているからかな、何かしら新しい要素を入れたときの感想が近いんですよ。「ここはこうしなきゃダメだよね」という話もすぐできる。そういった背景があるからでしょうね。

 感覚が違う人だと丁寧に説明する必要があるけど、穂垣みたいな相手だとひと言ふた言の確認で済む場合もあります。開発スタッフには感覚が近い人が集まっているので、そういったやり取りの時間は短縮されているのかなと思います。

――話が早ければ作業効率もよさそう。

松島そうですね。とはいえ感覚は似ているものの、違う人間なので(テストプレイなどで)若干違う感想を抱くんですよ。似た属性の人から違う角度の意見をもらえるのはありがたいですね。違うゲームを遊んでいた仲間ならではかも。

――堀越さんから見て穂垣さんの働きはどう感じますか?

堀越褒めておいたほうがいいですよね?

一同 笑

堀越冗談は置いておいて、バトルディレクターとしてバトル全般のゲームデザインをまとめるのってたいへんだと思うんです。それをしっかりやっているので尊敬しています。仲間意識という部分では松島の言うとおりだと思いますね。穂垣のことは顔は知らなかったんですけどハンドルネームは知っていました。そういった方はほかにもけっこういます。

『ガンダムエボリューション』元プロゲーマーのVaderが機体開発を担当。FPSガチ勢がそれぞれの“技術”に導かれた本作は現代の南総里見八犬伝だった
バトルディレクターの穂垣氏は松島氏や堀越氏と同時期にオンラインFPS『クロスファイア』で活躍。世界大会に7回出場している。写真は前回のインタビューより。

――おふたりと穂垣さん以外にガチ勢が?

松島いますね。自分たちを含めて総勢8人くらいかな。

――そんなに? 思ったより多いような。

松島信頼できる人を招集したというのもあるんです。ゲーマー時代の知り合いを何人か呼んで、手伝ってもらっています。自分がプロジェクトに入った頃に、FPSガチ勢がもう少しいたほうがいいよねという話になりました。で、「プロ経験者とかに声をかけてみませんか」と周りのスタッフにも相談して、みたいな。

――そんなこともやってるの!? 昔取った杵柄というか、ネットワークをフル活用。

松島そういうプレイヤーが必要だったんですよ。ゲームって細かい感覚も大事じゃないですか。ここでちょっと硬直するのが気持ち悪いとか。FPSの知見がない人だと、なぜそれが気持ち悪いか細かすぎてわからない場合もあるんです。

――なるほど。わからないし、発見してもそういうものなんだとスルーしてしまう可能性があるのかも。

松島そうなんです。『ガンダムエボリューション』はコアなFPSゲーマーにもガンダムファンの方々にも遊んでいただきたいタイトルなので、そういうところを事前に潰しておきたいんですよ。いちばん気持ちいい状態で、「どうぞ!」って。

堀越ゲーマーが感じるストレスはゲーマーにしかわからない、みたいな話はあると思いますね。機体の性能バランスを見るために、国内のプロゲーマーをお呼びしてテストプレイをやったりしています。

松島“注文通りに作ってもらったのに、いざ完成データを触ってみたらよくなかった”ということもあるんです。よくない理由を細かく説明すれば補えるんですけど、できればその時間も短縮したい。担当者がある程度チューンナップしてから自分がチェックしたほうが効率的ですからね。

――たとえば、どなたかが関わっていますか?

松島言っていいのかな……。Novady(※)とか。

※Novady:松島氏の『オーバーウォッチ』プロゲーマー時代のチームメイト。『オーバーウォッチ』ワールドカップの日本代表にも選出されている。

――おお、すごい。ちなみに、プレイヤー時代はほかのゲームのプレイヤーと交流はありました?

堀越『サドンアタック』とかの頃ですよね。うーん、そこまで交流はなかったですね。『AVA』(Alliance of Valiant Arms)、『スペシャルフォース』、『クロスファイア』、『CSO』(カウンターストライクオンライン)。いろいろなタイトルがありましたけど、『サドンアタック』なら『サドンアタック』だけで固まっていた気がします。ただ、各タイトルの有名な人はネット記事で名前くらいは知っている。そんな感じでした。

松島自分もいっしょです。このチームが強いとか、公式大会で優勝したとか、そのくらいは知っていました。ライバル意識とかほかのタイトルに負けたくないみたい感覚もなくて、ネットの記事などで活躍を見ては「すごいなー」と思っていましたね。(番組にも出てもらった)DeToNatorさんは昔から活躍していて、いまも最前線。やっぱりすごいと思いますし、昔の姿も見ていたので応援もしていますね。

――交流はなくて、とくにお互いのことを気にしていなかった同世代の上位勢が、それぞれの“FPS技術”に引き寄せられるように『ガンダムエボリューション』に集結する。もはや現代の『南総里見八犬伝』じゃん。

DeToNatorを苦しめたスタッフより、さらに上がいる

――ふたりが使っていていちばん楽しい機体は何ですか?

松島自分はサザビーかガンダムですね。

――ガンダムは先日の番組内で中距離戦が得意と紹介されていましたね。サザビーの特徴はどんな感じでしょう?

松島サザビーは高い耐久値と盾を駆使して敵の攻撃を防げるのが特徴です。メインウェポンは“ビーム・ショット・ライフル”で、『ガンダムエボリューション』ではショットガン的な立ち位置として使用しています。盾でガードしながら近づいてショットガンを叩き込むのが強いんですよ。機体サイズが大きいので狙われやすいんですけど、敵に近いとダメージが上がるので、ドカンと決められたら気持ちいいですよ。

『ガンダムエボリューション』元プロゲーマーのVaderが機体開発を担当。FPSガチ勢がそれぞれの“技術”に導かれた本作は現代の南総里見八犬伝だった
7月17日に配信された公式配信番組“新作ガンダムFPS「GUNDAM EVOLUTION」発表会”より。

――ガンダム・バルバトスがスピードで立ち回って殴るという近距離戦特化の機体で、サザビーはちょっと発想が違う近接機体というわけですね。堀越さんはどの機体が好きですか?

堀越自分はもともと『サドンアタック』でスナイパーを担当していたので、まずはジム・スナイパーIIを触りました。撃ち合いのスリルや駆け引きが楽しいんですよ。あとはメタス。メタスは動画を見る限りではヒーラーという印象を持たれがちですが、変形機能があって移動能力が高いんです。格闘メインの機体を翻弄しながら一方的に攻撃するのは楽しいですよ。ダメージを出しながら味方のサポートもできる機体です。

『ガンダムエボリューション』元プロゲーマーのVaderが機体開発を担当。FPSガチ勢がそれぞれの“技術”に導かれた本作は現代の南総里見八犬伝だった
7月17日に配信された公式配信番組“新作ガンダムFPS「GUNDAM EVOLUTION」発表会”より。

――7月17日に配信された公式番組で、スタッフ対ゲストの試合で、DeToNatorのSHAKAさんやSPYGEAさんが強いって言ってたスタッフがいましたけど、あれは誰ですか?

松島じつはあのときは元プロゲーマーとか、そういうクラスの強いスタッフは入れていなかったんですよ。先ほど、日頃からテストプレイをやってるという話をしましたよね。参加頻度の高い方やFPSを日頃プレイしている社員に協力をお願いしました。

――ということは、もっと上がいるのか……。

松島いやー、でもSHAKAさんもSPYGEAさんもさすがですよ。日頃からプレイしている開発陣たちにあそこまで戦えるんですもん。あれで『ガンダムエボリューション』初プレイとは。

――松島さんと堀越さんは参加してました?

堀越僕は参加して、松島はゲーム内カメラのスイッチング担当でした。

――プレイした感想として、ゲスト陣はいかがでしたか?

堀越予想どおりうまかったですね。とくにDeToNatorのおふたりが。「本当に今日初めてプレイしたの?」と思うくらいだったので、やっぱりゲームセンスがすごいなと。おふたりほどじゃないにしても、伊織もえさんやケイン・コスギさんも活躍されてましたし、個人的にも楽しかったですよ。

――ケインさん、いいですよね。あの人がはしゃぐと見ている側もうれしくなっちゃうんですよ。

松島そうなんですよ。まさか『筋肉番付』を見ていた自分が仕事でご一緒するなんて……。

――そう思ってる人、ゲーム業界にたくさんいると思う。楽しそうにゲームをやることは本当に大事。SHAKAさんやSPYGEAさんの盛り上がりかたとは別。あの立ち位置は大事です。

堀越そういった意味で、OooDaさんがMCというのもよかったですよね。eスポーツ業界にいろいろなMCやキャスターの方が出てきていると思うんですけど、その中でもOooDaさんはテンションが高いほうなので、出演者を巻き込んで盛り上げてくださいました。プレイヤーとしてもふつうにうまいですしね。

『ガンダムエボリューション』元プロゲーマーのVaderが機体開発を担当。FPSガチ勢がそれぞれの“技術”に導かれた本作は現代の南総里見八犬伝だった
出演者側でチームを組んで画面外にいるスタッフと対戦する演出もよかった。MCも含めて盛り上がるので、楽しい雰囲気がダイレクトに伝わってくる。

ゲームを通して社会人として成長

――今回の記事は前の記事の答え合わせみたいなものだけど、いまの自分の状況を想像していましたか? 成長したなと思うことはありますか?

松島(いまの状況は)まったく想像していなかったですね。プロジェクトに貢献したい気持ちは最初からありましたけど、何をすればいいか、どう立ち振る舞えばいいかわからない時期もありました。ゲームを遊ぶのと作るのではまったくの別物。ゲーム制作の専門学校に通っていれば授業でゲームを作る機会もあったかもしれませんが、そういう道は通ってこなかったので。

 じゃあ、自分以外の(自社以外も含めて)ゲーム開発者がFPSを作り慣れているかというと、あまりいないんです。国内では海外みたいにシューターゲームを開発しているところはなかなかないので。

――国産だと『スプラトゥーン』とかですね。

松島そうですそうです。もっと(国産人気作が)昔から多かったら開発者も多いんでしょうけど、そもそも本数が少ない。少ない情報の中で模索してきたからこそ、いまがあるのかなと思います。わからないことは先輩スタッフに教えてもらいつつ、シューターゲームの部分については自分が意見を出して調整して。そういった過程を経て成長できたのではないかと感じています。

――堀越さんはけっこう最近まで『ガンダムエボリューション』担当ではなかったんですよね。自分が好きなシューターに関わるようになって、どういう風に感じましたか?

堀越バンダイナムコオンラインに入る前はまったく別の業界で働いていたので、ゲームを作るノウハウは1ミリもありませんでした。不安のほうが大きかったですね。ゲームが好きというだけでやっていけるかなあと。

 社会人として培った常識やマナーがあるうえでゲームが好きというのは、プラスに働いたと思っています。バンダイナムコオンラインにはゲーム好きが多いんですよ。休憩時間にも一緒にゲームやってるくらい。ゲームを介した共通言語が通じやすくコミュニケーションが取りやすいです。

『ガンダムエボリューション』元プロゲーマーのVaderが機体開発を担当。FPSガチ勢がそれぞれの“技術”に導かれた本作は現代の南総里見八犬伝だった
7月17日に配信された公式配信番組“新作ガンダムFPS「GUNDAM EVOLUTION」発表会”より。

 「前職ではゲーマーの採用には消極的だったんですよ」とは、インタビューに同席していたバンダイナムコオンラインのスタッフ。松島氏や堀越氏とは『サドンアタック』時代からの仲で、彼らふたりの入社にも関わっている。

 いくつかゲーム会社で働いてきた中で、ここまで同僚どうしでゲームを遊んでいるところは初めてだという。「ゲームでコミュニケーションを取っている。ふたりが活きているのはそれもあるのかなと」。

 ゲーム系やeスポーツ系の専門学校は増えている。eスポーツシーンが盛り上がっているとはいえ、そこに我が子を送り出す親御さんはまだまだ不安だと思う。「このふたりみたいな人が、ゲームの経験が役立っていることを記事で語れば、親御さんも安心すると思います。違ったアプローチでのゲーマーの社会人の活躍。いい流れですよね」。

実装したいモビルスーツの話題で楽しく締める

――まじめな話になってしまったので、最後はシンプルに楽しい話題で締めましょう。ガンダムファンとしてどのモビルスーツを実装したいですか?

堀越ちょうど『閃光のハサウェイ』を観に行ったばかりなので、それ関連の機体が実装されてほしいです。

松島クスィーガンダムやペーネロペーとかは機体サイズが大きいからなー。FPS的には難しい部分があるんですよね(笑)

――もともと強い機体の場合は、うまくバランス調整しないと弱体化のイメージがつきそうですね。

松島そういった側面もありますね。クスィーガンダムやペーネロペーはミノフスキー・クラフトで空を飛べるんですけど、機体のサイズが大きいので単純に飛ぶだけだと的になっちゃうんですよね。簡単に撃ち落されるクスィーガンダムやペーネロペーはあまり見たくないじゃないですか。

――たしかに。やっぱり強くあってほしい。

松島スキルセットはゲームバランスを考慮しないといけないので難しいですね。原作イメージを大事にしつつ、人気機体や話題になっている機体は『ガンダムエボリューション』にも入れていきたいですね。人気どころで言うとキュベレイとか。ただ、キュベレイって武装の種類が少なくて難しいんですよ。

――攻撃のバリエーションが少なく感じちゃうのか。やっぱり、武装の種類が多いほうが実装しやすいものですか?

松島自分の都合で言うとそうですね。でも、そういう機体だけピックアップするのがゲームとしていいかというと、それはまた違う話なので。先ほどのキュベレイは機体としてはすごい人気もあるけど武装が少ない。こういった機体をどう落とし込むかも開発者の腕の見せどころだとは思います。

――かっけぇ……。

堀越割合としては宇宙世紀の機体が多いけど、今後はそれ以外の機体も増えてくる予定です。

松島そうですね。アナザーの機体も実装したいとは思っています。

――『ガンダムSEED』や『ガンダムW』あたりは間違いなく話題になりそうですね。ちなみに、機体の追加頻度はどれぐらいを想定されていますか?

松島いまのところは2~3ヵ月くらいを予定しています。ユーザーのみなさんに新しい戦闘環境を用意したいので、ある程度短いスパンで新機体を追加したいんですよね。少なくとも最近流行っているFPSと同じぐらいの頻度にしたいというのが、プロジェクトとしての総意です。

堀越先になればなるほどバランス調整が難しくなるんだろうなと思います。

松島理想論を言うと、実装されているどの機体を出しても文句を言われない環境を作りたいじゃないですか。難しいと思いながら、毎日積み上げていくしかないと思っています。

――僕はケンプファーを入れてほしい。脆いんだけどスピードがあって、突っ込んで実弾兵器をばらまいて、みたいな。

松島シュツルム・ファウストやジャイアント・バズでバーストダメージが出せそうですし、近づいてからショットガンで敵を倒すのはおもしろそうですね。固有武器のチェーン・マインもあるから個性も出せそうですし。

――もし実装されるとしたら、うまい人が使うと強い近接機体かなあ。予想するのも楽しいですね。

松島いまのところ、純粋な近接機体はガンダム・バルバトスだけですからね。じつはけっこう先まで実装する機体は決まっていて、バルバトス以外の近接機体が出てくる予定もあります。もしかしたらいままでに話題に挙がった機体も登場するかもですね。

『ガンダムエボリューション』元プロゲーマーのVaderが機体開発を担当。FPSガチ勢がそれぞれの“技術”に導かれた本作は現代の南総里見八犬伝だった
7月17日に配信された公式配信番組“新作ガンダムFPS「GUNDAM EVOLUTION」発表会”より。

――あ、みんなが実装を希望するであろう近接機体ありました。『機動武闘伝Gガンダム』。

堀越Gガンダム!(笑)

松島石破天驚拳、使いたいって人は多そうですねー。

――東方不敗マスター・アジアを出してくださいよ。

松島めちゃくちゃなこと言いますね。

制作協力:バーボン津川