FGO PROJECTが配信中の人気スマートフォン向けゲーム『Fate/Grand Order』(以下、『FGO』)。その中でもプレイヤーからの人気が高いエピソードとなる第1部 第六章“神聖円卓領域キャメロット”を抽出し、再構成した劇場用アニメ『劇場版 Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット- 後編 Paladin; Agateram』(以下、『FGOキャメロット後編』)が、2021年5月8日(土)より全国の劇場で公開中だ。

映画『FGOキャメロット後編』声優インタビュー第2回は藤丸立香役の島崎信長さん。映画は“円卓の物語”、獅子王とアグラヴェインのとあるシーンは必見
『劇場版 Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット- 後編 Paladin; Agateram』メインビジュアル

 5回にわたってお届けする主要キャストインタビュー第2回となる今回は、人理保障機関カルデアから特異点修復のために訪れた人類最後のマスター・藤丸立香を演じる島崎信長さん(※)に、映画後編の魅力や収録時のエピソードを語っていただいた。

※崎の正式表記は立つさき。
※インタビューは4月上旬に収録。

島崎信長さん(しまざき のぶなが)

1988年12月6日生まれ。宮城県出身。2009年に声優デビューを果たして以来、第一線で活躍中。『FGO』では藤丸立香やアルジュナ、巌窟王(エドモン・ダンテス)などの声を担当している。(文中は島崎)

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藤丸立香というキャラクターはパッションで演じる

映画『FGOキャメロット後編』声優インタビュー第2回は藤丸立香役の島崎信長さん。映画は“円卓の物語”、獅子王とアグラヴェインのとあるシーンは必見

――『FGOキャメロット後編』の収録を終えた心境はいかがですか?

島崎従来の収録方法であれば、他の演者さんたちと集まって、最初から最後まで演出などを確認しつつ収録できたのですが、後編はコロナ禍の影響もあって、バラバラでの収録になってしまいました。事前に台本で見ているとはいえ、自分が関わらないシーンの演出や収録の仕方、他の方の演技などをまったく知らないので、完成品を見るのが本当に楽しみなんです。特にラストシーンがどうなっているのか、とても期待しています。

――収録の段階では、映像はどの程度出来上がっていたのでしょうか?

島崎部分的にカラーの場面はありましたが、ほとんどは線画の状態でした。そのカラーのシーンから受けた全体の雰囲気が前編とも少し違う印象を受けたので、余計に動き回る完成版を見るのが楽しみなんですよ。

――前編で他の演者の方々といっしょに収録していた経験が、『FGOキャメロット後編』での収録に役だったりということはありましたか?

島崎前編をいっしょに録って座組を作れたのは幸いでしたね。自分の関わるキャラクターだけでなく、他の方に対するディレクションを聞くことで、「こう見せたいんだな」という作品作りの方向性を感じ取れることもありますから。前編の収録時に、「このお話はべディヴィエールの物語だ」ということを共有できたのは良かったと思います。前編と後編では監督も違いますからね。地続きの一連の作品ではあるものの多少の違いはあるので、そういう意味でも前編での経験は生きています。

 一方で『FGO』という面でみれば、演者の方々にはもともと見知った方々が多いんですよ。キャラクター同士のかけ合いは初めてでも、僕としてはゲームでよく知っているキャラクターであったり、役者さんとしてもよく存じ上げている方も多いですから。仮に前編がいっしょに収録できていなかったとしても、繋がっていられるだけの積み重ねが『FGO』にはあるので、収録自体はそこまで困らなかったと思います。

――『FGO』でも人気が高いエピソードであるキャメロットですが、劇場アニメになると聞いた際のお気持ちをお聞かせください

島崎“Fate/Grand Order Fes. 2018 ~3rd Anniversary~”の中で、ユーザーの皆さんに“いちばん好きな章”と“今後の期待する展開”についてのアンケートの結果が発表されました。“好きな章”の1位が第1部 第七章“絶対魔獣戦線バビロニア”で、2位が第1部 第六章“神聖円卓領域キャメロット”。“希望する展開”では1位がテレビアニメ化で、2位が劇場アニメ化でした。この結果を受けて、1位同士でバビロニアのテレビアニメ化、2位同士のキャメロットの劇場アニメ化をします、という発表がされたのが始まりでしたよね。

 当時は「『FGO』すごいな!」って思いましたよ。だって「みんな何してほしい?」って聞いた結果を「わかった! じゃあその組み合わせでアニメ化しよう!」って返すの、普通あり得ないですからね(笑)。イベント会場にいらっしゃった皆さんの歓声もすごかったですし、本当にあり得ないくらい幸せなことだなと思います。

――そんな発表を受けて、アニメーションとしてのキャメロットで期待していたシーンなどはありましたか?

島崎シーンで言えば、やはり見どころはいろいろありますよね。アーラシュの宝具“流星一条(ステラ)”のシーンもそうですし、個人的に好きなキャラクターであるオジマンディアスのシーンも気になりました。でも、具体的にどのシーンがというよりも、「どう作るんだろう」と思いました。劇場アニメの尺でキャメロットのテーマやメッセージ、雰囲気をどう伝えるのかって。キャメロットって、お話の流れというか積み重ねがステキな章なので、その表現方法がいちばん気になっていました。でも、やるからには自信があったんだろうなと考えていたので、不安よりも期待が大きかったですね。

映画『FGOキャメロット後編』声優インタビュー第2回は藤丸立香役の島崎信長さん。映画は“円卓の物語”、獅子王とアグラヴェインのとあるシーンは必見
オジマンディアス

――TYPE-MOONのファンとして役が決まったときの心境はいかがでしたか?

島崎僕が最初に『FGO』関連で役をいただいたのは、確か『FGO』がローンチされてすぐ発売された『TYPE-MOONエース』に付属していた『FGO』のドラマCDでした。『FGO』序章の内容をまとめたような内容なのですが、その時点では主人公の名前もありませんでした。これから『FGO』を始めるプレイヤーさんが感情移入しやすいように名前という個性を与えず、お芝居も少し薄めにしたことを覚えています。サインも書かせていただきましたが、その時には“プレイヤー男”って書きましたから(笑)。ドラマCDの台本を読んでいるときも、「うわ、知ってる用語いっぱいだよ~」とか、「この空気感、TYPE-MOONワールドだな~」という感じで、ただひたすらにうれしかったです。

 あくまでも最初は“プレイヤー男”として関わらせていただいたのですが……けっこう序盤の『FGO』って兼ね役が多いじゃないですか(笑)。マスター役としても、その後に特に喋る予定もなかったし、アルジュナのオファーもいただいて。主人公のボイスといっしょにアルジュナのテレビCM用のボイスも収録することになりました。

 じつは、当時はあまり「TYPE-MOON作品が好き」と公言していなかったんです。僕は自分の“好き”をいっぱい発信したほうが良いと思っています。発信することで同じものを好きな仲間が集まるし、交流も持つことができて、いろんなことにつながっていくし、人生も豊かになりますから。ですがTYPE-MOON作品に関しては、なぜかあまり発信していなかった。それでも「偶然ご縁があったらうれしいな~」とは思っていたので、それが叶ったこともうれしかったですね。逆に関わってからは、皆さんご存知の通り、防波堤がぶっ壊れたかのようにいくらでも表に出すようになりましたけど(笑)。

――TYPE-MOON作品を好きであったからこそ、役作りのイメージに役立ったことなどはありましたか?

島崎TYPE-MOON作品の主人公らしさというのは、普通と言いながらも根底にある意志の強さだったりとか、溢れ出る個性があったりだと思うのですが、最初の名もなき“プレイヤー男”のときは、そこはあえて薄めて演じていましたね。これから始まるソーシャルゲームの主人公で、しかもゲームでは性別も選べますから、あまり個性を持たせすぎず、みんなが感情移入をしやすく、聞きやすくというのを意識してやっていました。普段なら「個性がないね」って言われちゃうような、良くも悪くもひっかからない、邪魔をしない主人公という感じなので、TYPE-MOONの役作りという感じではなかったかもしれません。

――劇場版での藤丸立香という人物の表現も、同じような方針だったのでしょうか?

島崎藤丸立香という名前を与えられてからは、独立した個性や個人の考えを持つひとりの主人公として演じさせていただいています。いままでの藤丸立香の積み重ねと言いますか、特別、劇場版だからとどうこうと意識する形ではなくなったかもしれませんね。『バビロニア』(『Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-』)と違って今回はべディヴィエールが中心の物語なので藤丸は主役ではありませんが、だからと言って例えば「脇役のように演じよう」とかもありません。べディヴィエールが主役になることによる、カメラの位置や演出の変化というものを、台本と向き合って真摯に演じれば、今回求められている立ち位置に収まるかなと思って演じています。

映画『FGOキャメロット後編』声優インタビュー第2回は藤丸立香役の島崎信長さん。映画は“円卓の物語”、獅子王とアグラヴェインのとあるシーンは必見
藤丸立香(画像右)

――藤丸立香というキャラクターは、さまざまなサーヴァントからの信頼を得ています。なぜこれほど信頼を寄せられているのか、藤丸立香の魅力について教えてください。

島崎ニュートラルだからかな。偏りがないというか、偏見がないというか。ありのままに接するところは、彼の魅力だなって思います。あとは、彼自身が濃すぎない、というのも理由かも。彼の接する英雄たちって、個性の塊というか……世界レベルの尖がった人たちですよね。一方の藤丸は、日本人の平凡な少年。だからこそ、相対する相手によって少し色が変わる、というのが藤丸の特徴かなと思います。これが、強すぎる個性と個性の組み合わせだと、合わなかったらぶつかるしかない。ぶつかりまくった結果、穴が開いてうまくハマった、ということもあるかもしれませんが……。でも藤丸の場合、どんな凸がきても、どんな凹がきてもうまくハマる、そのニュートラルさがとても良いですよね。

 加えて設定的な話になってしまいますが、『FGO』の状況って、人理……いわゆる「地球がヤバイ!」という話なので、召喚されるサーヴァントたちがそもそも協力的なんですよね。例外的な特殊なサーヴァントもいるにはいますが、人々を救うというのは英雄としての本分みたいなところがある。抑止力の後押しもあったりして、基本的に好意的というか、利害が一致しているので、同じ方向を向いて召喚されているというのもあると思います。

 これがもし普通の聖杯戦争で、それぞれの英雄がサーヴァントとして召喚されて藤丸と会ったなら、いまほど円滑にいっているかはわかりません。聖杯戦争はマスターとサーヴァントにそれぞれの目的がありますし、個人的な理由などでも見え方が変わってくるのではないでしょうか。

 あとは藤丸自身のひたむきさですかね。みんな英雄だから、普通の善良な一般人が頑張っていたら、基本的には助けてあげたくなるんじゃないかな。ひねくれた人もいっぱいますけど(笑)。藤丸が人理を救うために、自分のできることをやりながら一歩一歩進んでいく姿を見て、手伝ってやろう、応援してやろうというところもあると思います。

 お膳立てがいっぱいされている環境に加え、彼自身の善性、ひたむきさ、ニュートラルさによるところが大きいですね。ありのままを受け止めるし、ありのままで返すところ。どんな相手でも、恐縮しすぎないところとか。これは相手を知らないからできることなんです。逆にものすごく知識があったり、わきまえすぎていたら、神とか王様系のサーヴァント相手に変に距離を取っちゃったり、仕えるように接したりしてしまうかもしれない。上下関係が出来て、相手と“うまくやろう”という気持ちになってしまう。でも藤丸は、良くも悪くも天然なところや、無知なところ……一般人みたいにのほほんとしたところがあるから、相手の中にずけずけと踏み込めちゃったりする。でもそこに悪意はないんです。ただまっすぐ相手と相対すると、確かにそういう言動になるよね、そういう疑問を持つよね、みたいなところがある。相手がどんな英霊だろうと、例え神や王であっても、一個人として向き合うところも彼のいいところだし、尖った英雄たちとうまくやれるところなのかなと思います。

映画『FGOキャメロット後編』声優インタビュー第2回は藤丸立香役の島崎信長さん。映画は“円卓の物語”、獅子王とアグラヴェインのとあるシーンは必見

――キャメロットやバビロニアは『FGO』では第1部のクライマックスに近い章にあたり、それまでの旅では藤丸とほかのキャラクターの絆が育まれていく様子が描かれます。アニメでは、いきなり旅の途中の状態からのスタートとなりましたが、演じるうえでほかのキャラクターとの距離感の出し方などで意識したことがあれば教えてください。

島崎幸いにも僕は原作の『FGO』を遊んでいるので、この点で困ることはありませんでした。ここまでにあった出来事を知っているので、その過程で感じたり、学んだりしたであろうことを想像して、そのうえで会話していれば自然と適切な距離感が出せると思っています。藤丸がニュートラルなおかげで、とてもファジーな調整ができるというか……いい意味で固まりすぎておらず、振れ幅があるキャラクターなので、「こんなことがあったからこの距離感で!」とか意識を固めすぎると、逆に彼っぽくないかなと。

――島崎さんとしては、藤丸立香というキャラクターは、心のままに演じやすいキャラクターなんでしょうか?

島崎そうですね。やはり『FGO』としての情報が自分の中にあるので、演技で悩むことはそんなにありません。変に決め切っていないぶん、ある意味演じやすいというか、パッションで演じている感はあります。個人的には藤丸自身もけっこうパッション派だと思っているんですよ。意外と大胆なこともするし。いろいろ考えるし理解はしているけど、最後には気持ちで動いちゃう。

 例えば絶体絶命の状況で、自分が「助けたい」って言ったり、助けに走っちゃったりしたら、そのせいでマシュが死んでしまうかもしれない。または自分が死んでしまうことで、世界中の人たちが危険にさらされるかもってなると、そのリスクを考えて動けないじゃないですか。そういうこともちゃんとわかってるし、考えてもいるけど、やっぱり咄嗟に助けたいって言っちゃったり、動いちゃったりする。そんなところも彼の良いところだと思います。計算高すぎないというか。なので僕も藤丸を演じるときは、考えながらも感情で演じるようにしています。

 とはいえ、藤丸立香というキャラクターは、アプリゲーム版のマスターとも違う独立した存在になっていると思います。マスター像というのは、ゲームプレイヤーの数だけあると思いますから。藤丸立香というキャラクターは、あくまでも『キャメロット』や『バビロニア』という物語でどう表現するか、という中で生み出された存在です。さらにいえば、同じ藤丸立香でも、スタッフさんも違えば話も違う『バビロニア』の藤丸立香と、『キャメロット』の藤丸立香が完全に同一かというと、それもまた違うと思います。『キャメロット』では特に“べディヴィエールや他の人から見た藤丸立香”が多かったりするので、彼自身が変わらなくても自然と違って見えたりもしますからね。

――島崎さんが声優として藤丸立香というキャラクターを演じる醍醐味はどんなところに感じますか?

島崎演じていてすごくおもしろいと思うのは、善良な一般人・藤丸立香が、世界中の神話などに登場するような英雄や神様と出会い、交流したり戦ったりして、彼ら彼女らの背中や生きざまを見て成長していくところです。藤丸にとって、ひとつひとつの出会いや何気ない会話とか、彼ら彼女らが見せてくれた生きざまって、すごく強烈で影響を受けているんですよね。元が普通の少年だから、余計に成長するというか。それをよく感じたのは、順を追ってさまざまな人たちと会話をしていった『バビロニア』ですね。多くの英雄や神様たちから、いろいろなものを受け取って一歩一歩進んでいく感じがとても素敵だし、楽しいです。