FGO PROJECTが配信中の人気スマートフォン向けRPG『Fate/Grand Order』(以下、『FGO』)。その中でもプレイヤーからの人気が高いエピソードとなる第1部 第六章“神聖円卓領域キャメロット”を抽出し、再構成した劇場用アニメ『劇場版 Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット- 後編 Paladin; Agateram』(以下、『FGOキャメロット後編』)が、2021年5月15日(土)より全国の劇場で公開中だ。

映画『FGOキャメロット後編』声優インタビュー第1回。マシュ役の高橋李依さんが語る、宝具展開シーンへの想い
『劇場版 Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット- 後編 Paladin; Agateram』メインビジュアル

 ファミ通.comでは、映画『FGOキャメロット後編』の公開を記念して、主要キャストのインタビューを5回にわたってお届け。第1回は、特異点修復のために人理保障機関カルデアから派遣されたメンバーの1人であるマシュ・キリエライト役の高橋李依さんから、映画後編の魅力や彼女と関わりの深いキャラクターとの関係についてお話を聞いた。

※インタビューは4月中旬に収録。

高橋李依さん(たかはし りえ)

2月27日生まれ。埼玉県出身。声優ユニット“イヤホンズ”のメンバーで、代表作は『Re:ゼロから始める異世界生活』(エミリア役)など。『FGO』ではマシュ・キリエライト役を担当している。(文中は高橋)

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マシュは、触れ合う相手でどうにでも染まる“無色”なキャラクター

映画『FGOキャメロット後編』声優インタビュー第1回。マシュ役の高橋李依さんが語る、宝具展開シーンへの想い

――『FGOキャメロット後編』において、マシュを演じる際に意識していることを教えてください。

高橋『FGO』シリーズでは、年末特番のアニメや、『バビロニア』(『Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-』)といったテレビシリーズ、そして今回の劇場版など、何度もアニメをやらせていただきましたが、そのたびに「今回はこれを意識してみよう」とか、「今度はこうしてみよう」といった感じで、意識していることを変えて挑んでいます。

 『FGOキャメロット後編』では、『バビロニア』よりもひとつ前のお話だということを特に意識していて。例えば、自分がここにいる理由や戦い方、未だ真名が分からない空気感といった、マシュの潜在的な意識はどこに向いているかを丁寧にイメージしながら、それぞれのシーンやセリフに挑んでいました。

――収録をしている中で、変わっていったイメージなどはありましたか?

高橋ゲームの『FGO』でシナリオを読んだときのイメージが強かったので、「ここではもっと深刻だろうな」とか、「もっと必死だろうな」という先入観が、自分の中に染み付いていたことにびっくりしました。実際に演じてみると「もう一歩引いてみて」と言われるシーンが多かったんです。

 例えば『FGOキャメロット後編』の冒頭で、マシュとベディヴィエールが会話するのですが、ベディヴィエールに「貴女なら分かるはずです」と言われるシーン。マシュは情けなかったり、苦しんでいる空気感になるかなと思って演じてみたら、それは違うとのことでした。

 今作全体を通して振り返ると、精神的な動揺だったり、軸がブレないようにするディレクションが多かったなと感じます。シーン全部を暗く捉えるのではなく、一言だけ本音が出てくるような……。そういった生の温度感みたいなものを音響監督さんに導いていただきました。

映画『FGOキャメロット後編』声優インタビュー第1回。マシュ役の高橋李依さんが語る、宝具展開シーンへの想い
べディヴィエール

――前編では、ニトクリスとのやり取りという劇場版オリジナルのシーンがありましたが、どんな印象を受けましたか?

高橋劇場版はベディヴィエール視点の物語ということもあり、まさか彼女の内面を吐露するシーンを描いていただけるとは驚きました。あのシーン以降はマシュ目線の話ってそこまで多くないので、あそこをきっかけにマシュの意識も変わり始めたんだろうなとイメージしていました。作品の流れがベディヴィエールやアーラシュに移り変わるなか、マシュはあのシーンから徐々に上向きになっていけたんじゃないかなと。

――高橋さんからみてマシュというキャラクターはどのように映りますか?

高橋私は、マシュって“無色”だなと思っているんです。色がついていないので、関わる人によってどんどん変わっていってしまう。それが魅力ですし、「先輩」と呼んでいるいちばん人間らしい先輩(藤丸立香)の隣にいられたから、いまのマシュがあるのだと思います。

 マシュの(イメージの)正解はあると思うのですが、それぞれの先輩の側にいるマシュって、ちょっと違うんじゃないのかなと。藤丸立香のイメージが無限大のように、マシュもまた無限大なのではと思いますね。

映画『FGOキャメロット後編』声優インタビュー第1回。マシュ役の高橋李依さんが語る、宝具展開シーンへの想い

――『FGO』第1部の主題歌『色彩』とも重なりますね。

高橋そうそう! 第1部は特にイメージが近いのかなぁって。1.5部ではどんどん色がついていって、彼女なりの自我や、「こうしたい」ってエゴも多少出てきますが、逆にそれが意外に感じるほどに第1部のマシュって無色だなって思いますね。

――第1部ではストーリーを通して、さまざまなサーヴァントたちがマシュと対話して、いろいろなものを与えていく過程が描かれましたね。1.5部以降に、それがようやく実を結んでいくというか……。

高橋マシュにとって「生きるってなんだろう」という答えを見つけられたのが第1部ですよね。それまでの旅路で出会ったサーヴァントたちや先輩がいたから、いまのマシュがある、という感じ。そういう意味では、私の中でも“マシュはこう”って決めつけないようにしたいなとも思います。

――そんな第1部終盤のストーリーが描かれている『FGOキャメロット後編』の見どころについてお聞かせください。

高橋マシュの見どころとしては、マシュ(と融合しているサーヴァント)の真名が分かっていないところも物語の大きな要素でもある、ということでしょうか。物語の中で真名が分かり、その人物に関係するほかのキャラクターとも対面できますし、そのシーンを演じられたのがすごくうれしかったです。

――本予告映像でマシュが盾を投げているシーンがありましたが、その相手はもしかして……。

高橋あれはランスロットに向けて投げています(笑)。あのバトルシーンもすごく気合が入っていますよね! アフレコの段階でわりと絵が完成していたのですが、普段のマシュのバトルシーンよりもちょっと男勝りに描かれているというか……内側からの怒りというか、「代理で怒ってます!」という感覚で演じるのがすごく楽しかったですね!

劇場版『FGOキャメロット後編』本予告

――ではマシュ以外での見どころはどんなところですか?

高橋とにかく、最後まで席を立たないでいただきたいというところでしょうか。それ以上は言えないのですが、最後の最後まで最高のシーンですよ。

――インタビューさせていただいたほかの方々も、皆さん「最後まで観てほしい」と仰るんですが、どなたもどうすごいのかは教えてくれないですね(笑)。

高橋聞かないほうがいいですよ! これは劇場で確かめるべき、というのが見どころです。

――藤丸立香役の島崎信長さん(※)との掛け合いが多いと思いますが、島崎さんとはシーンごとに演じ方の相談などはされたのでしょうか?

高橋実はそこまでしていないんですよ。最初のころは、マシュの考え方について相談することもありましたが、信長さんは答えを押し付けるのではなく、疑問に対して「僕はこう考えてるよ」というように、“自分の考え”を教えてくださるんです。テレビシリーズなどでそういったやり取りを積み重ねることで、いまではすり合わせみたいなことはせずに演じられるようになりました。

 多少すり合わせる内容といったら、シナリオ上の確認とかですね。例えば『FGOキャメロット前編』では、藤丸とマシュが「聖抜?」って聞き返すシーンがあったのですが、この“聖抜”という言葉って、すでにゲームをプレイした私たちからすると良くないものだということがわかるじゃないですか。でも最初に聖抜と聞いたときの演じ方としては「そんなにいいものが!」というシーンにしないといけないんです。そういったときに、「この聖抜ってポジティブに捉えていいんですよね?」という確認などはありました。

※崎の正式表記は立つさき。

――奈須きのこさんからのディレクションやアドバイスには、どういったものがありましたか?

高橋『FGOキャメロット後編』では獅子王と向き合うシーンが出てくるのですが、そういったシーンのマシュの在り方については、奈須さんに改めて言葉にしていただいたものを自分の中に落とし込むような感じで、お話しながらマシュを作り上げていきました。

映画『FGOキャメロット後編』声優インタビュー第1回。マシュ役の高橋李依さんが語る、宝具展開シーンへの想い
獅子王

――収録は島崎さんらといっしょにできたのでしょうか?

高橋基本的には信長さんとほぼいっしょに収録しました。シーンによって川澄さんや置鮎さんが入れ替わったりと、多くて3人くらいでしたね。

――アニメの収録でも、コロナ禍であまり集まれないというお話をよく聞きますね。

高橋そうですね。前編では集まれていたのですが、後編では完全にバラバラの収録になってしまいました。前編の舞台挨拶で久しぶりに皆さんとごいっしょできたのは、うれしかったですね。とはいえ、私がいちばんの後輩だし、何かあっても絶対にブレない演技をしてくださる先輩がたなので、集まれずともいいものに仕上がる自信はありました!

――収録の中で印象的だったエピソードはありましたか?

高橋私個人の話になってしまいますが、じつは私、宝具恐怖症というか『FGOキャメロット後編』において宝具を放つシーンが苦手で……。

 マシュが歩んできたいままでの道のりや、宝具を放つためにどんな気持ちでいるのかとか、いろいろなことを考え出すと止まらなくて、上手く外に出せなくて。宝具というものはとても偉大なものだとすごく感じているので、何度やっても納得のいく宝具が放てないんです。それで音響監督さんに「いまのは足がすくんでいたような気がします」といった理由などでリテイクをお願いさせていただく始末。一応「オーケーが出たから……」と信じて世に出させていただくのですが、まだ私自身「100点満点の宝具っていつ放てるんだろう」って考えてしまいます。

――そのお気持ちにはマシュらしい印象を受けます。もともとマシュは、●●●●●●の力を借りているデミ・サーヴァントですし、他人の宝具を顕在化しているような状態ですよね。

高橋そうですね。その弱さをシンクロと捉えて下さるのは救われます。収録当日、奈須先生が「ここのマシュは、ちゃんと立って、しっかり宝具を放てています」と仰っていて。私は実際に、川澄さんの演じた獅子王の迫力に、本当に足がすくんでしまったんです。なので、足がすくんでしまったことは正直に言って、もう一回録らせていただいたという……。なので『FGOキャメロット後編』を見てくださる方にどう受け取ってもらえるか、ドキドキしています。

――ゲームで初めて“いまは遥か理想の城(ロード・キャメロット)”のボイスを聞いたときに、完璧だなと思いました。

高橋そう言ってもらえるとうれしいですが、じつはあれも録り直しているんです……(笑)。ラジオなどでご存知の方もいるかと思いますが、初めて録らせてもらったときの“いまは遥か理想の城”は、私が知っている範囲でのマシュの印象……戦いが怖いけど、精一杯力を振り絞っている、そういった解釈で宝具を叫びました。

 しかし、自分の手でキャメロットを進めたときに、少し印象が違ったんです。そういう怖さではなく、ちゃんと自分の力で立って立ち向かうような、そんな宝具のほうが“らしい”なと感じたので、しばらくしてから「もう少し地に足がついた宝具を撃ってみたいです」とスタッフの方にお願いさせていただいたものでした。

――宝具の叫びかたが凛々しいので、そんな裏話があったとは少し意外です。演じている方からの目線と、外からの目線の違いのようなものでしょうか。

高橋最初の質問とも少しかぶってしまいますが、マシュに対しての解釈を自分だけで終わらせないように気を付けています。間違っても、自分ひとりでマシュを作っているとは思わないように。

 そもそも、奈須先生の頭の中は宇宙みたいに広くて、それをすべてうかがい知ることはできませんし、アニメでは監督の描きたいマシュ像もあるので、「マシュってこういう人です」と固めないようにしておきたいんです。もちろん私自身もたくさん考えるようにはしていますが、断定ではなく、提案としての感覚でいたいなと思っています。

映画『FGOキャメロット後編』声優インタビュー第1回。マシュ役の高橋李依さんが語る、宝具展開シーンへの想い

――マシュと同化している●●●●●●は、ランスロットと関わりが深いキャラクターですが、そんなランスロットとの絡みについては何かありましたか?

高橋ランスロットとのシーンは、幸運にもいっしょに収録できまして。作中では、マシュがランスロットにいろいろな思いのたけをぶつけていましたが、演じている置鮎さんには、的確なアドバイスをいただいたり、優しく見守って下さっていました。

――安元洋貴さん(アグラヴェイン役)が役に共感しすぎて、ランスロットに対してあたりが強いという話を伺ったのですが、高橋さんとしてはランスロットに対して思うところはありますか?

高橋難しいですね……。マシュだったらどう考えるかな、という目線で台本を読んでいたので、ランスロットのしていたことについて、●●●●●●さんが思うところがあるそうなので、「私(マシュ)が代理で!」という感情止まりになっちゃうんですよね(笑)。

 ●●●●●●さんの想いが分かるシーンでもありますし、個人的に見たかったシーンでもあるので、私個人はランスロットさんに嫌悪感や怒りはそこまでありませんね。

――●●●●●●は、いまだに作中でも深く描かれていないキャラクターですが、高橋さんはどのような人物だと感じていますか?

高橋『バビロニア』のEpisode 0の冒頭で、マシュに●●●●●●を召喚させるシーンがありましたが、体はマシュでありながら、精神は●●●●●●として怒ったというシーンがあったので、彼の怒りや英霊としての感情みたいなものには親しみがありました。別のサーヴァントという感覚をそこまで抱いていないのは自分でも新鮮ですね。

 また、2017年の年末特番で放映された『Fate/Grand Order -MOONLIGHT/LOSTROOM-』では実際に彼が登場していますが、演じているのがさまざまな現場でご一緒している堀江瞬くんだったこともあり、背伸びせずに収録に臨めて良かったです。お互いに等身大で挑めそうだなという感覚があり、リラックスして収録できました。

――そんな彼ですが、『Fate/Requiem』のほうでも登場しましたよね。

高橋びっくりしました! 事前予告もなかったので、「立ち絵がここで見られるんだ!」ってすごくうれしかったです(笑)。

――さまざまな作品間で関連キャラクターが入り乱れているのが、『Fate』シリーズのおもしろいところですね。オケアノスのキャスターが大会の実況をしていたりとか……。

高橋『FGO』でも『Fate/Requiem』コラボがあったように、本来であればほかの作品から『FGO』にやってくる、というほうが正しいのでしょうが、『FGO』から入った身としては、『FGO』で見知っているサーヴァントが他の作品で真名を隠されていたりするとクスッとしてしまいますね。『FGO』があるおかげで、他作品へもかなりとっつきやすくなっていると思います。

――ちなみに円卓の騎士たちの中で一番推せるキャラはどなたでしょうか?

高橋推し……というなら、沢城みゆきさんが演じるモードレッドが好きです。舞台版でも、甲斐千尋さんが演じているモードレッドが、小柄なのに立ち回りが格好よかったですし、小さい方が無骨な鎧に身を包み、大きな剣を振り回している姿にすごくキュンときますね。舞台上で円卓の騎士たちが並んだときも、モードレッドだけ本当に小さくて。でもとにかく態度が大きいし、小さく見えないんですよ。ただ身長が小さいだけで、存在感や迫力はものすごくある。一方で父上(アルトリア)に付き慕う姿も、ワンコみたいでかわいいなって思います。