2019年6月24日、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)から衝撃的なニュースが届けられた。

「nasne、出荷終了へ」

 nasne(ナスネ)は、HDDと地上/BS/110度CSデジタルチューナーを搭載したネットワークレコーダーで、名称から察しが付くようにNAS(ネットワークストレージ)の役割も果たす機器。プレイステーション4やスマートフォン、PCなどとも連携し、専用アプリ“torne(トルネ)”を使えば自宅はもちろん、外出先からでも簡単にテレビ番組の視聴や録画ができる。番組表の表示も瞬時に可能で、当時の家電では実現不能だったサクサクで快適な操作感は多くのユーザーを魅了していた。

 2012年の販売開始から愛用を続けるファンも多く、出荷終了の報せにネット上では嘆きの声が広まった。「残念」「困る」「どうしよう」など、終了を惜しむ声は枚挙にいとまがない。通販サイトでは駆け込み需要も発生し、2台目、3台目とnasneを購入したユーザーも少なくないはずだ。

 しかし、2020年10月6日、今度は奇跡的なニュースがもたらされ、ファンたちは再び衝撃を受けることになった。

「nasneをバッファローが継承。2021年春、発売決定」

 その報せはネットを通じて立ちどころに広まり、ファンを大歓喜させた。その沸きようは“nasne”がツイッターやYahoo!検索でトレンド1位、“バッファロー”が2位にランクインするほどだったと言えば、少しはそのときの凄まじさが伝わるだろうか。とにかくファンたちが沸きに沸いた1日だったと言っても過言ではない。

 そんな奇跡のニュースから早くも4ヵ月以上が経過し、新生nasneの発売日である“2021年春”はもう目と鼻の先まで近づいてしまった。そこで、本稿ではバッファロー及びSIEのnasne関係者にインタビュー。継承へと漕ぎ着けた際の裏話やnasne、torneのこれから。新生nasneの強化されたスペックやプレイステーション5への対応時期など、気になるポイントを伺ってみた。ファンはもちろん、nasne&torneに少しでも興味を持ったらぜひチェックしてみてほしい。(インタビュー聞き手:編集長 世界三大三代川)

和田 学(わだ まなぶ)

バッファロー
常務取締役 事業本部副本部長

西野 秀明(にしの ひであき)

ソニー・インタラクティブエンタテインメント
シニアバイスプレジデント(プラットフォームプランニング&マネジメント統括責任者)

石塚 健作(いしづか けんさく)

ソニー・インタラクティブエンタテインメント
torneアプリ開発責任者

お客様を助けないと日本の録画文化を守れない

――まずは、バッファローさんがnasneの事業を継承することになった経緯から教えてください。どのようにスタートしたんですか?

和田スタートした時期は2019年11月になります。バッファローから西野さんに伺いまして、nasneを継承させていただきたいとお願いしました。バッファローの外付け製品というのは当然nasneに対応していて、お客様のご意見やご要望がたくさん届くのですが、その中に「nasneが終了してしまってどうしよう」といった困りごとの声が多数見受けられました。その声を受けてバッファローとしてどうにかできないかと考えたのがきっかけですね。私どもはNAS(ネットワークHDD)はもちろん、過去で言いますと地デジチューナーなども作っていた経緯がありますので、nasneとの親和性は非常に高いだろうという理由もあってお願い申し上げた次第です。じつはバッファローの中には私も含めてnasneのユーザーが大勢いて、そこからの声も多数ありました。

――そうだったんですね。それを受けて西野さんはどのような反応を?

西野nasneのハードウェアの生産完了とともに後継商品を作らないと決めたのは私自身でしたので、まず「うれしい」ですよね。同時に「ありがたい」という思いでした。nasneのアクティブユーザーはまったく減っていないのですが、新規のハードウェアの売上は下がっていたので、バッファローさんにはそのあたりを詳らかにお話ししました。そのうえで、nasneという製品の性格上、厳しい基準や品質もありますので、そういったところも含めて受けていただけるか、ビジネスライクというよりはお互いのゴールを共有できるかという感じでお話させてもらったことを記憶しています。

 それから録画文化というものがかなり下火になっているのではないか、という話もしたんですけど、そのとき和田さんから、「そんなことはない」というお話も熱くいただきまして。これだけ熱意を持ってくださっているなら、ご一緒できるんじゃないかという気持ちになりましたね。

和田確かに家電レコーダーの出荷自体は落ちているんですが、バッファローが出荷している録画用のハードディスクの数は年々上がっているんですね。録画文化というのは「日本のガラパゴス(※)」だと言われていますが、マーケット自体は拡大していることを肌で感じていました。それに、オリジナルのnasneが終わってしまって困ってるお客様に対して、とにかく助けないと録画文化を守れないなと思ったんです。多少盛ったかもしれないですけど(笑)。

西野(笑)。

※注:海外ではかなり以前から録画文化が衰退し、日本のようなBlu-rayレコーダー市場はほぼ存在せず、ガラパゴス化していた。

――まさか西野さん自身が終了を決めた事業が復活するとは思いもよりませんよね。

西野我々も積極的に生産をやめたくてやめたということでもなかったんです。nasneで使っている部品の更新時期が迫っていたんですが、プレイステーション4が拡大する中でプレイステーション5の準備も進んでいて、そこにリソースを割けないという事情もあったんです。ましてやそういった状況で、新しい後継商品を起こすというような中途半端な約束はできませんでした。ですので和田さんに対しては「お気持ちのある方がいらっしゃったな」という風な認識を持っていましたね。

nasneは空気のような存在で、なくては困る

――nasne出荷終了の発表の後、「これからどうすればいいんだ?」など、ユーザーから悲痛の叫びがありましたが反応の大きさを受けてどう思いましたか?

西野私もユーザーのひとりで自分が困るということもあって、ユーザーの皆さんの反響は重々承知しておりました。断腸の思いで継続しない判断に至ったところではあるのですが、「困る」というお客様の声に「そうですよね……」と同じ気持ちになってしまったというのが正直なところです。

――そんな中でバッファローさんのnasne事業継承の発表が2020年10月にありました。ツイッターの日本トレンドランキングの1位にnasne、2位にバッファローが入るほどでしたが、ご覧になりましたか?

和田拝見しました。公式サイトのアクセスランキングも歴代1位くらいの注目度があってバッファローの内部でも驚きでした。それだけ待ち望まれていたんだな、困られてたお客様がそれだけいらっしゃったんだろうなと。改めて新しいnasneを作れることが非常にありがたいなと思っています。

――発表のタイミングが発売の半年前と少し早く感じられましたが、理由などはありますか?

和田なるべく早く発表したかったという気持ちがありました。情報が何もない状況ですとお客様が見捨てられたという気持ちになってしまいますので「バッファローが助けていきますよ」、「お困りごとに対応しますよ」というようなことをお伝えしたかったんです。新しいnasneは部品を大きく変更しなくてはいけない部分もあり、いろいろ検討してやっと目処がたったのが2020年10月という感じですね。

――目処が立って即時発表とは驚きました。やはりユーザーの反響はうれしいですよね。

和田その声だけで私たちも本当にやっていてよかったと思えましたし、判断に間違いはなかったと考えております。

――ここまで反響が大きいのは、それだけnasneやtorneの愛好者が多いという事実だと思うんですが、それについてはどう思われますか?

石塚それだけ使ってくださるお客様がいるのはうれしいことですね。私もnasne出荷終了の発表があったとき、普段しゃべらないような社内の人たちから「どうすんのこれ?」って言われたんですよ。もともと多機能でいろいろなことができるという商品ではなくて、空気のように存在して使えるものを目指していたので、「空気がなくなると困る」という感じになったんでしょうか。他社さんから似たような商品が出てこなかったことも大きかったと思います。会社のメンバーにも「ほかに選択肢がないのに俺のテレビ環境どうするんだ」と言われて、やっぱりほかの製品とは違う商品だったのかなと。あとは西野さん補足をお願いします。

西野その話を持っていかれると終わるんですけど(笑)。でも代替可能品がないということは大事だと思うんですよね。唯一無二の体験なので「これはやめられん」ということだと思うんです。DLNA(LANを通じ、さまざまな機器で映像や音楽などをやり取りできるようにする仕組み)や全録、テレビにHDDを装着して録画できるものなどいろいろあったと思うんですけど、それらを使っても巡り巡ってnasneやtorneがいいって言ってもらえて。ディープな体験を作り出すいいループになったと思いますね。

和田バッファロー的な分析ですと、DLNAやDTCP-IP(録画した番組をNASにダビングして対応機器に配信する仕組み)という規格ができて宅内や宅外のいろいろな場所でテレビが観られる技術が生まれて、いろいろなメーカーが実装しているのは確かなんですが、それを実現しようと思ったときにやはりハードルが高いんですね。nasneなら何も考えずにシームレスにどういうデバイスでも見られますが、ほかはそうではないというところが、ひとつ大きな技術的優位点ではないでしょうか。nasneとtorneの連携が見事にマッチしているというのもあると思います。

最大8TBを実現し、iPhoneでもHD視聴可能

――では、バッファローさんから出る新しいnasneのお話を聞かせてください。仕様などで変更された点はあるんでしょうか?

和田デザイン面から言いますと、オリジナルnasneとほとんど見た目は変わっていません。内蔵ハードディスクはもともと1TBまで搭載されていたと思いますが、新しいnasneでは2TBまで増強しました。それに伴いオリジナルのnasneより1ミリほど厚くなったのですが、デザインで見た目上は変わりなく仕上げることができました。ハードウェアはそれこそCPUレベルから新規で作り、OSを含めて内部のソフトウェアはまるっきり新しいものに載せ替えてあります。torneとの連結部分も新たな設計になっていますね。

 大きなトピックとしましては、外付けハードディスクのサポート容量がオリジナルnasneでは2TBだったものを6TBまで増強することで合計8TBまでお客様のほうでお使いできるようになります。torneの仕様として最大録画番組件数が3000件というのがあるのですが、8TBまであれば十分使い切れるだろうと自信を持ってスペックアップしてあります。それから新型のiPhoneやiPadですとHD解像度での視聴ができなかったんですが、エンコードの解像度を見直しまして、HDでの視聴が可能なようにソフトを作り変えてあります。

――ストレージの増設はユーザーに喜ばれそうですね。使い勝手なども変わらないんですよね?

和田アプリ面でいきますとSIEさんに非常にフォローいただきまして、使い勝手やサクサク感などに関してはまったく変更なく提供することが可能になりましたので、それについては安心して使っていただけるかなと思っています。もちろんNAS機能なども変わらず搭載していまして、不具合なく使っていただけます。

――仕様変更に関してはかなり実用的な印象があるのですが、やはり開発にnasneユーザーが多かった影響も大きいんでしょうか?

和田そうですね。お客様から見たときに操作感や見た目を極力変えないように、とにかく注意して設計を進めていました。

西野やはりお客様がnasneの後継品として乗り換えられるということ、時代に応じて変えなきゃいけないところはしっかり変えてサポートするということを大事にしています。正直言うと私自身が買い換えようと思えるその安心感というのが非常に大事かと思いましたので、バッファローさんにもうちのメンバーにも無理を言って迷惑を掛けたかもしれません。ですが、全員が思いを同じくして一緒になって作ってくれていると理解しています。

――なるほど。では今回の取り組みというのはハードウェアはバッファローさん、torneのアップデートなどはSIEさんという2社の共同で行われているといった感じですか?

和田左様でございます。

西野サービスのほうはいままでと変わらず我々のほうでご提供させていただきまして、旧nasneに変わる新しいハードウェアをバッファローさんからお出しいただくという形でスタートするコラボレーションになっていますね。

――石塚さんもバッファローさんと綿密にやり取りしてらっしゃったんですか?

石塚そうですね。本当ならもっと直接お話できたらよかったんですけど、コロナの状況下なのでなかなかできませんでした。ですのでオンラインでnasneを作ったときのノウハウやインターフェースの仕様などをお伝えしたり。細かい解像度や圧縮率の指定などもしていたのでエンジニアの方は困ったかもしれませんが、“nasne”として売っていただくということだったので、私たちも全力でそこに近づける、超えていけるように協力させていただいた次第です。

――ハードウェアは新しいものになりますが、アプリのアップデートもあるのですか?

石塚基本的には対応する形でやっています。いま佳境に入っているのでがんばりますとしか言えないんですけど。

――それは新機能というよりは新しいnasneに対応するという形のものですか?

石塚そうですね。以前と同様の体験にプラスして改善したところもしっかり体験できるように最後のツメをしているところです。
(※編注:*torne PS4およびtorne mobileは2021年2月25日のアップデートでバッファロー社製nasneに対応済み)

PS5の対応は2021年末商戦期を予定

――いま多くのユーザーがプレイステーション5に対応するのかというところを気にしていると思うのですが、開発に関してのお話は伺えますか?

和田そちらの件に関しては、今回のスタートのときからnasneのいちユーザーとして「ぜひPS5の対応をお願いします」と西野さんに言い続けていまして。何とか対応いただけるような話を聞いているので、検討結果のほうを聞かせていただけないでしょうか?

――ここでですか?(笑)

西野2019年に最初にお会いしたときにはまだPS5の話もできる状態にはなかったと記憶しているんですが、「やらないわけないよね?」と言われ続けていまして。PS5をお買い上げいただいたお客様がnasneのためになかなかPS4が片付けられないのは困りますし、バッファローさんといっしょにnasneをやらせていただき、これからもnasneを継続していくという観点からも、PS5の対応に関しては年末を目指して準備しているという状況になります。

――おお、ファンが喜ぶ朗報ですね。PS5版のtorneの開発も石塚さんのほうで対応されるんですか?

石塚はい。でもいまは「がんばっています」しか言えません(笑)。申し訳ありません。

――わかりました。詳細をお待ちしております。バッファローさんのほうでは、今後どういった予定をしているんですか?

和田バッファローとしましては春に新型nasneという形で出荷をさせていただきますが、その後年末に向けてバッファローオリジナルアプリケーションというものの搭載を画策中です。現時点では詳しいことはお話できないのですが、旧nasneユーザーからすると、きっと「これが欲しかった」と思えるような機能を載せていきたいなと考えております。ぜひご期待ください。

――それはtorneやnasneの機能を拡張するイメージなんでしょうか?

和田ちょっと違いますね。torneなどに手を入れるのではなく、オリジナルのnasneから新しいnasneへのアップデートをお助けするとか、そのようなイメージを持っていただければいいかと。言葉を濁してしまってすみません(笑)。

――いえいえ、より便利に使えるというイメージですかね。

和田その通りです。そういった形を目指しております。

――torneのニコニコ実況の機能をPS5で復活させるみたいなものはどうでしょう?

石塚ニコニコ実況はドワンゴさんのサービスなので我々がどうこうという話はないのですけど、我々のほうにもたくさんの声を頂いております。ですが、今後についての話はいまのところ白紙の状態ですね。

――ツイッターのトルネフが最近静かですけど、そちらはどうなりますか?

石塚基本的にはアプリの中で働いてもらっているのでツイッターでの仕事量は減っていますが、新しいnasneが出てくるときにはまたいろいろ動き始めるんじゃないでしょうか。トルネフというキャラクターがご好評いただいている部分もありますので、そこも含めてバッファローさんといろいろお話ができればいいかなとは思っているところです。

――承知しました。それでは最後に何かメッセージをいただけますか。

西野nasneに限ったことではないですけど、お客様に長年ご愛用いただいていることがバッファローさんにとっても我々にとっても非常に大事なことだと思っています。今後未来に向けてどういった形があるのかというのは引き続き検討していくステージにあると思いますが、まずは何よりハードウェアの故障や寿命で買い替えたいと思っているお客様やiOS機器でもっと高解像度で楽しみたいといったニーズに対して、お応えできる土台を両社で築くところかなと考えております。1年延命して何となくかわしたな、ということではいけない商品だと思いますので、我々としてもバッファローさんといっしょにきちんとサービスを提供していくつもりですし、コミュニティの継続的なサポートも行っていきたいと考えております。

和田バッファローとしてましてもお客様に安心して使っていただけるように、いまのオリジナルのnasneの使い勝手を継承しましたし、どこでもテレビを観られる環境もどんどん拡大して提供したいと思っていますので、ぜひともご支援のほうよろしくお願いいたします。

――ユーザーの皆さんも安心できるうれしいお言葉だと思います。本日はありがとうございました。