初代『龍が如く』が発売されてから15年という節目の時を迎えた2020年12月8日。YouTube LIVE『龍が如く15周年 記念特番』(番組の模様は以下の動画をチェック)の控え室にお邪魔し、シリーズの主人公・桐生一馬を『龍が如く6 命の詩。』まで演じ続けた黒田崇矢氏と、『龍が如く7 光と闇の行方』からの新たなシリーズ主人公・春日一番役に抜擢された中谷一博氏に、シリーズ15年を迎えて思うことを対談形式で語ってもらった。

龍が如く15周年 記念特番【ゲスト:黒田崇矢、中谷一博ほか】

黒田崇矢氏(くろだ たかや)

俳優を経て声優へ転身し、『龍が如く』シリーズの看板である桐生一馬を長年演じてきた。ほかの代表作は、アニメ『ヒプノシスマイク』の天谷奴 零役や、一部の『妖怪ウォッチ』シリーズのジバニャン役など。

中谷一博(なかや かずひろ)

『龍が如く』シリーズでは、錦山彰役と春日一番役というふたりの声を演じる。ほかの代表作はアニメ『マーベル フューチャー・アベンジャーズ』のキャプテン・アメリカ役や、海外ドラマ『FRINGE/フリンジ』のピーター・ビショップ役など。

『龍が如く』とともに歩んだ15年、そして主役交代の裏にあったふたりのエピソード

『龍が如く』15周年記念! 桐生一馬役・黒田崇矢さん×春日一番役・中谷一博さん対談

――『龍が如く』シリーズが15周年を迎えましたが、黒田さんは当初、『龍が如く』の桐生一馬役をどのように引き受けられたのでしょうか?

黒田すごく普通でしたよ。「ゲームの声の仕事が入ったんですけど、どうですか?」と言われたので、「もちろんやりますよ」という感じで。当時は声優業界に足を踏み入れたばかりでしたし、私自身がゲームをやらないタイプだったので、「ゲームに声を入れる」という仕事自体もあまりピンと来なかったんです。

――そんな経緯で受けた役がこんなことになるとは、という?

黒田本当にそうですね。

――役者さんにとっては“ターニングポイントになる役”や“当たり役”があると思うのですが、桐生一馬に関してはどう思われていましたか?

黒田最初のころは、桐生という役にそういう印象を持っていませんでした。私は舞台を長くやっていて、そこからテレビに行って、時代劇をやって……みたいな流れで仕事をしてきたのですが、すぐに反響があったのは大河ドラマでレギュラーが入ったりしたときなどで。『龍が如く』はそんなにリアクションがなかったので、ターニングポイントになったような感覚もなく(笑)。

――そうだったんですか!?

黒田そうですよ。桐生一馬は有名になっていきましたが、黒田崇矢としてはそこまで、という。

――確かにアニメなどとは違って、ゲーム作品で声優さん、とくに男性の方の名前を推すというのは、当時としてはあまりなかったかもしれません。

黒田たまに最後までクリアーした人が声を掛けてくれるくらいでしたからね。

――中谷さんも錦山を演じていましたが、その反応も同じような?

中谷ええ、反響はあんまりなかったですね。最初の『龍が如く』は、役どころは重要ですが、出番は多くなかったですし。声優としてそこまでクローズアップされていなかったと思います。というか、僕の場合はそもそも仕事があまりなかった(笑)。まだ25歳とかで駆け出しでしたからね。その後、『龍が如く』がどんどん続いていくなかで、錦山がファンの人から支持されているというのを風の噂で聞いて。それでも「そうなんだ?」くらいのやんわりとした感じでした。

黒田発売したころって聞かれちゃうと、声優としてのキャリアにもたらされた強烈なものはないんですよ。ただ、そこから『龍が如く』が続いたことによって花開いた、というような感じです。やはり15年も継続するというのは、すごいことなんですよ。

――なるほど。ところで黒田さんの当時の想い出としては、どのようなものがありますか?

黒田最初は、台本にけっこう「!」が多くて。でも、「このぐらいの敵に大声を出していたら、それは伝説の極道じゃないでしょう?」なんて、意見を伝えたりしていましたね。

――余裕があるから落ち着いている的な?

黒田そうそう。笑顔で「ちょっと裏に行こうか?」くらいの。

『龍が如く』15周年記念! 桐生一馬役・黒田崇矢さん×春日一番役・中谷一博さん対談

中谷やさしいから怖い感じですよね、実際は(笑)。

――そうですね、そのほうが怖い(笑)。

黒田だから「てめえ、俺に喧嘩売ってるのか!!」みたいな演技はいかがなものか、という提案はよくしていました。俺より強い設定なら、もっと余裕あるでしょう? と。

――桐生というのは、作品が続いた年数ぶん歳を重ねているという、ゲームとしては珍しいキャラクターです。彼を演じ続けてきた黒田さんの中では、桐生一馬像はどのように変化していきましたか?

黒田桐生って私と歳が近いんですね。つねに2~3歳下なので。しかも、私が通ってきた道に近いものがあったので、とても演じやすかったです。人生がリンクしているというか。

――桐生と重なる部分が多いというのは、ちょっと怖いですけれど(笑)。シリーズの中には若い時代の演技をすることもありましたね。

黒田私の若かりしときの瞬間湯沸かし機的な部分というか、内面を変えていけば、おのずと声の出所は変わるし、声も若くなると思って演じました。演技には“人間が乗る”と思っているので、自分の「あのころ」を出していくというか。

――ご自身の“人間”を乗せたからこその、桐生一馬の深みだったわけですね! 一方の中谷さんは『龍が如く7 光と闇の行方』で主役に抜擢されました。黒田さんのように継続してこなかったぶん、たいへんだったのでは?

中谷そうですね。春日一番は、好きで極道をやっている主人公ではないんです。「初めて憧れた人がたまたま極道でした」っていう方向だったので。だから、春日一番はどこにゴールを設定すればいいのか、という部分を作り込むのにけっこう苦労しました。そういう意味で言うと、錦山は強烈な上昇思考で「まわりの人がみんな敵だ」みたいな人物でやりやすかったところもありますね。

――中谷さんが黒田さんに教えを請うたりしたようなことはありました?

黒田ないよね?(笑)。

中谷オーディションに受かった後、共通の知人を介して黒田さんに一度ご挨拶をさせていただいたんです。居酒屋で黒田さんに「つぎにやらせていただくことになりました」ってお話をしたら、「何にも心配していないから、とにかく全力でやればいいよ」とだけ言っていただけて。そこがカッコいいなと思いましたね。

――いい先輩ですね!

中谷逆に「ああ、俺はまだこういうことはできないな」と思わされましたよね。あと黒田さんに「やったな、春日一発」って言われたのは覚えています。「黒田さん、主人公の名前を間違えてますよ! 一発屋みたいに言わないでくださいよ!」って。

黒田あー、最初ね(笑)。間違えて覚えちゃったんだよね。

中谷ただ、そんな黒田さんの感じも、桐生さんの愛らしさと共通していて。「こういう人間くさい部分も大事なんだよな」って思ったりしながら、「今日は名前だけでも覚えて帰ってください」って(笑)。

――仕上がった話ですね(笑)。でも、先輩がそうやって喜んでくれるのはうれしいでしょうね?

中谷はい。本当にありがたいです。

『龍が如く』15周年記念! 桐生一馬役・黒田崇矢さん×春日一番役・中谷一博さん対談

――春日一番を演じるうえで、桐生一馬は意識しましたか?

中谷もちろん意識しましたし、「春日一番は桐生さんを越えなきゃいけないのか?」みたいなことも考えました。でも、最終的に「そうじゃないな」と。「桐生さんを越えるんだ」って思いながら、桐生さんを敵視している春日一番も見たくないし、逆に桐生さんが春日をボコボコにするところも見たくない。それなら、桐生一馬という存在はいったん忘れたほうがいいな、と思いました。

黒田主役が交替するんですから、プレッシャーは絶対あるんですよ。それに、プレッシャーを感じないようにしていたとしても、絶対にみんなに言われることになる。それは、私が『北斗が如く』でケンシロウを演じたときも同じ。そういう経験をたくさんしてきている私が中谷くんに何を言えるかと言えば……「私を無視しろ」しかないですよ。

――確かにそうですね。

黒田それに、どんなに役作りしても、けっきょく最後には本人が役に乗るんです。だから、外野の声とか先代の主役とか考えないで、肩に力を入れずに中谷くんが思うように演じたほうが絶対にいい。

中谷作品を通じて黒田さんに見せていただいた背中っていうのは本当にたくさんありますし、ファンの方からしても「桐生一馬に代われるのかよ?」と思われたはずです。ただ、逆に言えば春日一番が桐生さんに取って代わったからといって、新しい『龍が如く』が魅力的になるのかと言えばそうではないですから。その考えを後押ししてくださったのは、本当にうれしかったですね。

――素敵なエピソードをありがとうございます。続いては、『龍が如く』に出演してから15年が経ち、大きく変わったことを教えていただけますか?

黒田『龍が如く』が世間に広まっていき、桐生一馬を演じているのが黒田崇矢だということが知れ渡ってからの影響力には驚かされましたね。いちばん驚いたのは、仕事でフランスに行ったとき「パリでこんなに『龍が如く』のこと、桐生のこと、そして私のことを知ってくれている人がいるんだ」ということです。フランスには初めて行ったのですが、その国で私が知られているというのは、15年の力なのだろうなと思いました。

――中谷さんはいかがですか?

中谷錦山や春日一番を演じたことで、日本のファンの方に応援していただけるようになったのはうれしいです。ただ、黒田さんも仰っていたような、ワールドワイドの広がりというのは本当に驚きですね。北海道の片田舎から出てきた僕が、太平洋や大西洋を越えて、応援していただけるんですから。

黒田中谷くんの地元は、本当に雪しかないところだもんなあ。

中谷雪しかないって言うと語弊がありますけど(笑)。間違ってはいないです。

黒田「こんな場所で育ったら純粋にならざるを得ないなあ」って思いましたからね。

中谷そんな野生児みたいな(笑)。でも、そういう部分は一番に通じる部分があるかもしれないです。話を戻すと、お会いしたこともない海外の方が自分を知ってくれている、応援してくれているんですよね。しかも、片言の日本語やローマ字で「大好きです、錦さん」とか「ユー、ベストヤクザプレイヤー」みたいに言ってくれるのは、本当にありがたくてうれしいですね。いまこんな状況下ですけれど、いつかお礼を言いに行きたいです。

――最後になりますが、今後も『龍が如く』は続いていきますし、中谷さんはもちろん、黒田さんにもきっと出番があるのではないかと思います。そこで、今後の『龍が如く』に向けてコメントをいただけないでしょうか。

黒田主役が交代したことで、『龍が如く』における私の比重は減っていくと思います。ただ、桐生は今後、物語で語られていないあいだにも、桐生らしくカッコよく生きていると思います。先にも述べたように演技には人間が乗ると思っているので、今後もしも出番があったときのためにも、「桐生に恥ずかしくないように黒田崇矢も生きていかなければならない」と思いますね。

――黒田さんが演じるほかの役も、今後の桐生にフィードバックされるかもしれないですね。たとえば、ラップを歌ったりとか。

黒田それ、最近よく言われるんですよ(笑)。「もうすでに『龍が如く』でラップぽい歌は歌ってるよ?」なんて思うんですけどね。

――あはははは(笑)。では、中谷さんはいかがでしょう?

中谷僕は黒田さんから背中を押していただけたおかげで、『龍が如く7 光と闇の行方』で春日一番を演じ切ることができました。だからこそ、桐生さんと黒田さんが歩んできたように、1作ごとにしっかり成長していきたいですね。名越さん(総合監督・名越稔洋氏)からは最初に「中谷くんで10年メシを食うから」と言われたりもしたので、いろいろな人の力をお借りしながらも成長していきたいです。そして、いつか桐生さんと春日一番が肩を並べられるような日が来たら、桐生さんからまた「兄弟」って呼んでもらえたらいいな、と思っています。

――いいですね! 『龍が如く』ファンとしても、ぜひ叶ってほしい願いです。演技者としても、黒田さんにそう言ってもらえるくらい成長したいところですよね。

中谷いやあ、黒田さんはどんどん先に行ってしまうので、逆に差を広げられないようにするのが精一杯です(笑)。

――そこは、伸びしろで!

中谷そうですね。がんばっていきたいです。

――本日はありがとうございました。

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