スマートフォン向け位置情報ゲームとして、2018年11月に配信が開始された『テクテクテクテク』。現実世界を歩きながら街区を塗っていく“塗り”という遊びと、“街区”に出現するモンスターを倒すというRPGの要素が組み合わさった新感覚のアプリとして好評を博したが、約半年後となる2019年6月に、急遽サービスが終了することとなった。

 それから約一年後の2020年6月。『テクテクテクテク』の続編となる『テクテクライフ』の配信決定が発表。先月7月にはクローズドベータテストも配信され、話題を呼んでいる。

 本記事では、そんな『テクテクライフ』の開発に携わる、麻野一哉氏と田村寛人氏に、改めて前作のサービスが終了した経緯や変更点のほか、クローズドベータテストの反響などついて伺った。

麻野 一哉(あさの かずや)

テクテクライフ株式会社取締役兼ゲームクリエイター。『かまいたちの夜』や『弟切草』、『風来のシレン』シリーズなど、数々の名作を手掛ける。『テクテクライフ』ではコンセプター、ゲームデザイナーを務める。

田村 寛人(たむら ひろと)

テクテクライフ株式会社代表取締役兼プロデューサー。『かまいたちの夜2』などのプロデューサーを務めた。

約半年でサービスが終了した『テクテクテクテク』は、課金要素に課題が

――まずは、昨年(2019年)6月にサービスが終了した『テクテクテクテク』についてお聞きしたいのですが、なぜ半年ほどでサービスが終了することになったのか、改めて経緯をお話しいただけますでしょうか?

麻野いちばんの問題は、売上が伸びなかったことでした。『テクテクテクテク』には、現実世界を歩きながら“街区”(道に囲まれたエリア)を塗っていく“塗り”という遊びと、“街区”に出現するモンスターを倒すというロールプレイングの、両軸の楽しみかたがあるのですが、『テクテクテクテク』では課金の要素をロールプレイングに比重を置いていました。その理由は、“塗り”というところにあまり課金はできないだろうと考えていたからです。僕自身は“塗り”がとても楽しく感じたのですが、果たしてマーケットになるほどの規模になるのか自信がありませんでした。

 結果として、ユーザーの皆さんが楽しまれていたのは“塗り”が中心で、ロールプレイング要素に比重をおいていた課金に対して、売上を伸ばすことができませんでした。

 また、実際に歩かなくても、毎日の塗りやバトルなどによって得られるTTP(テクテクポイント)を消費することで、隣接するエリアを塗ることができる“隣塗り”という機能がユーザーの皆さんから好評でした。ただ、TTPの獲得量のバランス調整がうまくできておらず、“隣塗り”が延々とできてしまうような状態となってしまっており、“塗り”に関する課金をする必要があまりなかったというのも、売上が伸びなかった要因のひとつだったのかもしれません。

――プレイすればするほど、TTPが余るような状態となっていたのは感じていました。また、バトルを1回プレイしたらそのあとは街区を塗って、というように切り分けて別の時間として遊んでいた感覚があるので、そうすると両方の要素にお金を使うというのになかなか至らないのかなと印象がありました。

麻野そうですね。お金を払わずとも、かなり遊べるような状態にはなってしまっていたので。

『テクテクライフ』開発者インタビュー。約半年でサービスが終了した前作からの復活劇と、新作での変更点、サブスクなどの新要素に迫る_08
画像は『テクテクテクテク』のものです。

――一方で、多くの人にというような形ではないのかもしれませんが、一部の方、とくにゲーム業界のクリエイターの方々にファンが多い作品だった思うのですが、実感はありましたか?

麻野ありがたいことに、ゲーム業界の知り合いの方々から「プレイしていました」という声をいただいていたので、手応えはすごく感じていました。また、ゲーム業界の方々にお褒めの言葉をいただいたこと以外にもうれしかったことがありまして。それは、ふだんゲームを遊ばないような層の方がプレイしてくださっていたことです。少し身内の話になりますが、僕の母は80歳を超えていて、これまで開発に携わった『かまいたちの夜』や『弟切草』、『風来のシレン』シリーズなどは一切プレイしてくれなかったのですが、『テクテクテクテク』だけはプレイしてくれていて。母が住んでいる地元は街区を100%に塗りつぶしていたらしいです。また、50代後半の僕のいとこもまったくゲームをしたことのなかったのですが、完全にハマっていたようで。いまでもセーブデータをバックアップしているので、「復活したら続きをやります」って言ってくれていました。

――そうなのですね。ふだんゲームをやらない層にも広がっていたということを考えると、課金のシステムさえ問題なければ、まだまだサービスを続けられていたと感じたことはありましたか?

麻野そうですね。改良をうまくしていけば、まだまだいけるんじゃないかとは思っていました。

田村あと、『かまいたちの夜』や『弟切草』のときと同じように、ゲームをふだんしない人たちにも広がっていったはずだったのですが、プロモーションがそちらの層に向けたものではなかったことも、問題だったのかもしれません。

麻野学生時代の友人にも「おもしろい」と言ってくれていた人がいたのですが、ちょっと心配されたのが、「やってみればおもしろいんだけど、CMでアイドルやVTuberが出ていて、ふだんそういうことに縁がない人から見ると、自分とは関係ない世界だと、敬遠されてしまうんじゃないか」と。ですので、確かにプロモーションも関係していたかもしれないですね。

――『テクテクテクテク』はドワンゴから配信されていたということもあり、ニコニコ的なイメージのものが多かったですね。

田村あのときはドワンゴさんの持っているリソースをできるだけ活かそうというところだったので、効率はよかったかなと思うのですが、おもしろいと感じる層とプロモーションで狙った層が違っていたのかもしれません。

アプリが終了すると決定したのは、リリースよりわずか2ヶ月後。だが開発意欲は冷めず

――それだけ手応えはあったなかで、「サービスを終了します」という話をされたときは、直せばもっといけるのに、という葛藤などはありましたか?

麻野これは僕の個人的な意見ですが、直せばもっといけるのに、というよりは、こうしたかったけど、できないまま終わってしまって、このままだと成仏できない、という気持ちはありました。

――消化不良のような?

田村そうですね。ものすごくはやく終わるのが決まってしまったので。

――サービス終了の発表はスタートから3ヶ月ぐらいでしたよね?

田村11月29日にスタートして、3月の半ばに終了を発表したのですが、内部的には2月なかばには決まっていたんですよ。

――2ヶ月半!? それは厳しいですね……。

麻野これにはいろいろな事情がありまして。とはいえ、5、6年前から僕たちふたりでやり始めたものが、少なくともひとつの形として世の中に提示できて、やりたかったことの基盤みたいなのものが残せましたし、ドワンゴさんには本当に感謝しています。

田村“塗り”を作るというのが、相当な開発力がないと不可能なことだったんです。あのような街区のデータは、存在しないんです。本作の街区は道路どうしの重なり合いの間から作り出したもので、元々あったものではないので。それを数百万個のデータにするというのは、ドワンゴさんの力なしでは絶対にできませんでした。

――それは、ドワンゴがこれはおもしろいからやろう、という雰囲気だったからなのかもしれませんね。サービス終了の時点で後継作をだそうということや、データの引き継ぎができるかも、というお話はお聞きしていましたが、その動き出しはサービス終了の時点でされていらっしゃったのですか?

麻野動き出してはいました。僕は田村から「『テクテクテクテク』のサービスを終了するという話が来ました」と聞いて。もちろん僕は驚いていたのですが、続けざまに田村が「でも、復活させますよ! 麻野さん」て言ってきて。

一同(笑)。

麻野僕も戸惑いはしたのですが、「ああ、そうなの? じゃあ、またがんばろうか」と変に納得してしまって。

田村自分でもいま振り返ると「頭がおかしいんじゃないか?」と思います(笑)。でも本当に、サービスを終了すると言われたその瞬間に「じゃあ、復活していいんですね?」と聞いちゃったんです。そうしたら、ドワンゴの方も了承してくださって。

――すごいスピーディーな展開ですね。田村さんのなかでは、引き継いでやればいけるという確信があったのですか?

田村いや、確信はなかったです。ですが、やめる気はまったくありませんでした。『テクテクテクテク』は僕と麻野でドワンゴ以前から企画してきたものだったので、なんとかもう一度復活させたいという想いがあったんです。ですがその後、やっぱり難しいと思って、一度落ち込んだんです。そのときに、逆に麻野から「本当にアイデアとプロトタイプしかなかったのに、ちゃんと形にはなったじゃないか。ここからまたがんばろう」と励まされて、立ち直りました。

前作の反省を活かすため、ユーザーの意見を取り入れる

――いい仲間という関係性ですね。そこから、改めてどう開発していくか、というお話になるのですね。

麻野最初は、復活しようということを、開発の中核メンバーで意識づけました。続いて、「アンケートをとってみたらどうですか?」と言ってくれたスタッフがいたので、『テクテクテクテク』をプレイしてくださっていた方を対象にアンケートを取りました。項目としては、最初に「どこがおもしろかったですか?」ということを聞きました。その結果、90%の人が地図を塗るのが楽しい、残りの10%はロールプレイングが楽しい、という回答になりまして。

 続いて、「“隣塗り”と“現地塗り”(通常のモード)、どっちが楽しいですか?」という質問に対しては、“隣塗り”だけをやっている人が25%、“現地塗り”だけをやっている人が25%、残りの50%の人は両方やっているという回答が出ました。そういうことであれば、両方のバランスはとりながら、“塗り”には特化しようと。もちろん、ロールプレイング要素を取り除くことに関してはすごく悩みましたが、結果として、いまの形にすることにしました。

――なるほど。アンケートに答えている方が熱心なユーザーさんだから、とてもわかりやすい結果が出たのですね。

田村そうですね。あと、年齢層や男女層も聞きました。男女比は、女性が26%、年齢層は20代が14%、30代が29%、40代が37%、50代が11%でしたね。なので、30、40代を足すと、ユーザーの過半数以上を占めていることになります。ただ、ふだんゲームをあまりプレイしない、40代よりさらに上の世代にも、もっと届けたいと思いました。

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画像は『テクテクテクテク』のものです。

――週刊ファミ通のコラムを担当されている伊集院光さんも、かなりプレイされていたようで、ラジオやコラムでも触れられていましたね。

麻野ご自身で京都まで行かれてプレイされたということでしたし、お知り合いの芸人のみなさんにも薦めてくださっていたようで、励みになりました。

田村ほかにも、励みになることがありまして。サービスの終了が決まる前にドワンゴの有志の方々が、『テクテクテクテク』のいい点や改善点をプレゼンしてくださって。ドワンゴの現場の方々にたくさんアドバイスをいただけて、うれしかったですね。

――これだけ愛されるアプリはなかなか無いと思うので、貴重ですよね。

田村そうですね。途中、いろいろ見失った時期とかもありましたが。結局、麻野ともう一度やろうと思ったのは、彼が手掛けてきた作品が愛されてきたというのを再び感じたということなんです。

麻野うれしい話ですね。その後は、コンセプトを改めながら、改善点を集約して立ち直らせるという段階へ入りました。

思い描く理想のアプリを作るため、志をともにするスタッフが再集結

――なるほど。少し生々しいお話になりますが、開発を維持している状況ではあるけれど、サービスはしない時期が続いていたと思うのですが、開発費などはどうされたのですか?

田村当然、投資をいただかないと作れないので、僕と麻野で知り合いをたどりながら、本当にいろいろな企業の方とお話をさせていただいていました。そのなかで、好意的な反応をしてくださる企業も多かったのですが、いざ交渉の場になると、うやむやになってしまうことがありました。やはり、一回失敗したというのが大きくニュースで流れていたので、ネガティブな要素として見られていたのが大きかったです。

麻野いまは笑いながら言えるお話ですが、昨年の夏や秋ごろは、現実の辛さに打ちひしがれてたいへんな状態でした。ギリギリ手元に残っていたお金でなんとか続けてはいましたが、それだけだと絶対にもたないとわかっていたので。

田村トップクラスのエンジニアたちをはじめとするすばらしいメンバーが集まってくれていただけに、余計にそのプレッシャーも大きくて。「なんとかしなきゃ」と、必死になっていました。

――その方々は、『テクテクテクテク』にも関わっていらっしゃったのですか?

田村そうですね。今回の開発は、さすがに、『テクテクテクテク』のときのように大規模にはできないことはわかっていたので、どうしようかと悩んでいたのですが、当時メインで携わってくれていたエンジニアが、僕らの会社に入ってくれたんです。そのほかにもフリーランスで参加していたエンジニアたちが「僕たちもやりますよ」って言ってくれて。

麻野そこから、2019年7月にテクテクライフ株式会社というのを僕と田村と数名でコアメンバーとなって作りました。

田村その後、なんとか資本の見通しができたのが、今年の3月ごろの話です。

ユーザーの意見を参考に、多くの新機能を実装

――ギリギリまで交渉をしていらっしゃったのですね。そうして、なんとか復活の目処が立ってきて、先月、ついに『テクテクライフ』が発表されました。前作『テクテクテクテク』のリリース終了から1年で復活するということには驚きましたが、SNSなどでの反応はとてもよかったですよね。

麻野そうですね。応援の言葉はものすごくいただきました。まず、今年の正月に「今年の抱負は復活です」とツイートしたところ、ある程度反応をいただいくことができました。その後、サービス終了からちょうど1年のタイミングに復活の目処が立ったことをご報告したところ、想像以上の反応がいただけて、驚きました。

田村ファミ通.comさんを含め、1、2日で数10媒体の方がすぐに取り上げてくださって。で。じつは「ニュースリリースを出しましょうか?」という話も出ていたのですが、「必要ないですね」と(笑)。

――結果的に1年ぐらいで発表できたのは、予定どおりだったのですか?

麻野いえ、あまりそういったことは考えていなかったです。できるだけ早くとは思ってやってきていましたが、さまざまなことが重なって、この時期になりました。ただ、新型コロナウイルスの影響などもありまして。

――新型コロナウイルスの影響は、やはりあったのですね。

麻野やはり、外出自主というムードのなか、外に出て遊ぶというゲームは出しにくいなと。

――現在、サービス中の位置情報ゲームでも、在宅でできるように仕様の変更が行われたりしていましたよね。『テクテクライフ』は、“塗り”に特化しているからこそ、家だけで楽しめるというのも少し違う気もしますし。

麻野おっしゃる通り、“隣塗り”という機能があるので、家の中でもプレイすることはできますが、基本は外に出ること遊ぶゲームなので、難しいところはありますね。一方、新型コロナウイルスの影響によって、リリースを先送りにすることにしたので、追加で“看板”という新しい機能を追加しました。

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画像は『テクテクライフ』のクローズドベータテストをキャプチャーしたものです。

田村アンケートを行った際に、追加でほしい機能の要望として、いちばんはダントツで“スタンプラリー”でした。ですので、“スタンプラリー”はユーザーの皆さんの要望だから入れたいなと。そしてスタンプラリーのほかに、麻野に追加したい機能は何かを聞いたら、“看板“でした。麻野はふだんから地図を持ち歩き、訪れた場所を塗るということをやっていて、写真やテキストを記録として残したいということだったので、そのふたつは新機能として追加しています。正直、スタンプラリーは時間や金銭的な面で追加するのを諦めかけていたのですが、気付いたらエンジニアが入れてくれていて。

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画像は『テクテクライフ』のクローズドベータテストをキャプチャーしたものです。
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画像は『テクテクライフ』のクローズドベータテストをキャプチャーしたものです。

麻野昨年末のお話なのですが、スタンプラリーは諦めようかと思っていたら、スタッフがいきなり「スタンプラリーを追加しておきました。これでいいですよね」と。

――かっこいいですね。

田村“スタンプラリー”は、『テクテクテクテク』のときも携わってくれたスーパーエンジニアの方がやってくれました。“看板”については、『テクテクテクテク』のときに“塗り”とロールプレイングのふたつの要素を入れましたが、結果的に、サービス開始前から麻野が提唱していたように、”塗り“の要素が評価されていたことがアンケートでわかったので、麻野の考えに間違いはないだろうと、直感で“看板”も入れることにしました。

――塗りに特化するために、“スタンプラリー”や“看板”という機能を追加されたのですね。もともと“一生歩くRPG“というコンセプトで作ってと思うのですが、メインであるロールプレイングの要素をなくすのは、かなり勇気が必要だったのではないでしょうか?

麻野ものすごく勇気はいりましたが、アンケートの結果を受けて、決心が付きました。アンケートに答えてくださった方のなかに、バトルをしたくないという人もいて。街区を塗るときに、バトルを行わないと塗れないようなときもあったので、そこがネックだったという人もいて。とくに、ふだんあまりゲームをしないという方ほど、そういった傾向が多かったです。もちろん、「バトルがないとやりたくない」という方もいたので迷いました。ただ、現実的なお話をすると、モンスターを作ったり、バランス調整することが、それなりに資金力が必要になることもありまして、今回はバトルしたくないけど塗りを楽しみたいという人を大切にしようと。

クローズドベータテストでは、新たな発見も

――なるほど。先月にはクローズドベータテストが行われましたが、反響はいかがでしたか?

田村参加してくださっているユーザーの方の年齢層は、アンケートとほぼ同じぐらいになっていました。また、75%ほどが『テクテクテクテク』もプレイしてくださっていた方で、25%ほどが新規プレイしてくださっている方でした。そのなかで、客観的に見ても7割ぐらいはいい反応をいただいています。

――クローズドベータテストに参加された方の中の意見で、とくに多かったものなどはありますか?

麻野“隣塗り“だけしたいという方は大勢いました。“隣塗り“はあまりに道どうしが離れていたり、川などで間が空いていたりすると、塗れないようになっているのですが、そこを現地まで行かずにどうしても塗りたいという方や、「どうしても隣塗りでは塗れないところがあったので、現地に行ったら塗れましたが、それでいいんですか?」というようなご意見もいただきました。

 作り手としては“現地塗り”がメインで、“隣塗り”は補助的な役割を想定していたので、意図的にそのようにしていたのですが、 “隣塗り”をメインでプレイされている方からすると、その部分が気になっているようでした。ですので、それをどうやって解消するかということを、いま検討しています。なかには、「お金を払ってもいいから、“隣塗り”だけやらせてください」という方もいるので、そういう方向性もありかなということも考えています。

田村どうしても、岩礁など街区どうしの距離が遠くなると、塗れないところがでてきてしまうんです。あとは、滑走路の中とかもですね。すべての街区は現実の地図を計算して抽出しているので、予想外のこともいろいろ起きて、どうしても塗れないところも出てきてしまうんです。その影響で、塗りが絶対100%にならないところもあり、「どうにかなりませんか?」というお声もいただいているので、解決策を探している最中です。

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画像は『テクテクライフ』のクローズドベータテストをキャプチャーしたものです。

――本来の地図では街区ではないけれども、街区として認定されてしまっていると。

麻野街区は街区なんです。ただ、人間のゲームデザイナーが作ったものではなく、自然界が作ったものなので、すべてがスムーズに、滑らかにできていなくて。なかには『テクテクテクテク』のときに船をチャーターして塗りに行ったという方もいらっしゃったのですが、それではさすがにユーザーさんへの負担が大きすぎるのでどのようにして救済するのかということを話し合っています。

 もうひとつ多かった意見としては、1度塗ったところはやることがないというものです。とくにいまは、新型コロナウイルスの影響で、外出自粛という状況ですので、新しい場所を訪れづらい状況ということも影響したようで、多くのご意見をいただきました。ですので、1度塗った場所でも何か得られる機能というのを追加予定です。もちろん、そこまで大々的なことはできないかなとは思ってはいますが、メリットが得られるものにはしようと思っています。

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画像は『テクテクライフ』のクローズドベータテストをキャプチャーしたものです。

――そのほかに何か気になる意見はありましたか?

麻野あとは細かいUIに対しての要望もいくつか来ていましたので、そういったところに関しては、直せるところはクローズドベータテスト中にもいくつかアップデートで修正しました。

 具体的には、 “隣塗り”でずっと塗っている方がいらっしゃいまして。本作では+-のマークで地図を拡縮するのですが、その隣に現在地に戻るボタンがあるんです。それで間違えて押して現在地に戻ってしまったというご報告があったので、“隣塗り”のときは、現在地に戻るボタンをオフにするようにしました。

――確かに、“予約塗り”を潰していくのに、移動した電車の路線をずっとたどって塗っていくのですが、1度現在地まで戻ってしまうと、「さっきはどこにいたっけ?」となってしまうことがありました。一方で、もちろん本作で好評な要素もたくさんあると思います。たとえば、街区の塗れていないところはマーキングされるようになったりとか。

田村じつは『テクテクライフ』の開発のために、アンケート以外にも、グループインタビューを何度か行わせていただいて。そこから得られた内容なども反映しています。塗り残しを見つける機能もそうですし、メールやほかのアプリを使用しているときにバックグラウンドで予約塗りができる機能などです。じつは、これらの要素は、『テクテクテクテク』にバージョンアップで追加する予定だったのですが、その前にサービスを終了することになってしまったので。

作り手、ユーザーも満足できる課金システムに

――課金のシステムなどについても、アドバイスなどを反映されているのですか?

田村アドバイスというよりは、お客さんの声を聞くことに徹しましたね。

麻野今回、月額コースという形で、サブスクリプションサービスを取り入れています。僕としては、キャラガチャなどでものすごく儲けるというよりは、なるべくランニングコストを抑えつつ、長く続けてほしいということ、そして幅広い方にやってもらいたいと思って作っているので。観光や旅行に行ったときに看板を残して、数年後またその場所に訪れた際に思い出に浸ってもらえるような息の長いアプリにしたいという気持ちがすごく強いです。今度こそ一生続けたいなという気持ちがありまして、そういった考えから、今回の課金のシステムにしています。

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画像は『テクテクライフ』のクローズドベータテストをキャプチャーしたものです。

――“看板”は『テクテクライフ』らしい、いい機能だと思います。

田村いまは“看板”は自分専用になってはいますが、いずれはフレンドの方と共有できるものにしたいなと思っています。今回は小規模で開発・運営を行っているので、一時的の大きな売上というよりは、継続的にある程度の売上を確保して、徐々にユーザーさんを集めたいなと考えています。そうして、 “スタンプラリー”を使っていろいろな会社や地域の方々と何かできればと思っています。

――聖地巡礼のような“スタンプラリー”も楽しそうですね。クローズドベータテストでは、いちばん“予約一括塗り”が課金の要素になるのかなという印象でした。

麻野いまの“予約一括塗り”の仕様では、610円で1万街区まで可能となっているのですが、1万街区も塗ることはめったに無いので、もう少しリーズナブルな価格で1000街区ほど塗れるとうれしいというご意見もいただいています。

田村そういったように、いまの課金モデルを大きく変えるものではないですが、もう少しお手頃なものやコストパフォーマンスがいいものなどの追加も検討しています。

――もちろん、サービスを継続するためにお金は必要ですが、ユーザーのみなさんのためにも、という両方のバランスを取られているのですね。たしかに、1万街区まで貯めるよりも、先にいま塗りたいという感じで“予約塗り”をしている方が多いと思います。

麻野1万街区というと、新幹線に乗って東京から静岡まで移動することで塗りきれる量くらいなので。

――ちなみに予約されたものについて、たとえばバックグラウンドでアプリが落ちてしまったときにデータが消えたりすることはないのでしょうか?

麻野『テクテクテクテク』と同じで、基本的にそこで起きたもののデータはすべてサーバー側でセーブされているので、予約されてしまえば24時間消えることはないです。

気になる配信時期や、今後の展開は?

――わかりました。そうして、ユーザーの皆さんからのさまざまな要望を反映して、改めて製品版を正式にスタートされようとしているところだと思いますが、配信日は、いつごろとなりそうでしょうか?

麻野以前僕がツイートしたときは、暑いうちにリリースしたいと言ったのですが、新型コロナウイルスの影響もあるので、少し涼しくなった秋ぐらいに開始できればいいかなと思っています。

――そのあいだに、クローズドベータテストの要望などを反映される感じでしょうか?

田村そうですね。せっかく皆さんいただいた貴重なご意見なので、充分に検討して反映させたいと思います。

――今後の展開などもあればお聞きしたのですが、現時点で何か発表できるものなどはありますでしょうか?

田村具体的なことはまだ言えないですが、“スタンプラリー”を使った聖地巡礼のようなものを、大型IPとのコラボとして箱根方面にある第3新東京市な場所で開催予定です(笑)。

――ほとんど答えじゃないですか(笑)。“スタンプラリー”はコンプリートすると、TTPがもらえるなどのようなメリットはあるのでしょうか?

田村いまは歩行石がもらえる仕様になっていますが、“看板”ももらえるようにしようかなとは思っています。せっかくなので、旅の思い出や記念として、その看板を立てていただきたいので。あとは、コンプリートすることで称号のようなものがもらえるようにしようかなとは思っています。

――なるほど。いまお話いただいたようなコラボなどは、今後も継続的に行う予定はありますか?

田村そうですね。スタンプラリーとすごく相性がいいと思いますので、コラボに関しては今後もいろいろ行っていきたいと思っています。

――ちなみに、海外展開などは現状想定としてありますか?

麻野もちろんしたいです。少し話は逸れますが、2014年に、位置情報ゲーム『Ingress』が好きなゲーム関係者が集まって同作について語り合う非公式イベントありまして。そのときに『Ingress』の開発にも携わったNiantic, Inc.のアジア担当副社長である川島優志さんとお会いして、僕が地図を塗っている地図帳を見せて、これをアプリとしてリリースしたいとお話したら、「おもしろそうですね!」と反応をいただけて。その後、「『テクテクテクテク』の続編が復活します」とツイートしたら、リツイートとともに「はじめてみせてもらったときは衝撃的でした。海外でも塗りたいので、ぜひよろしくお願いします」とツイートしていただいて。そういった経緯がありますので、可能であれば、いずれは世界各地でリリースできればなと思っています。

――そうすると、世界各地の街区を制覇する、世界一周的な楽しみ方もできそうですね。

麻野たとえば20歳のときに卒業旅行とかで海外行って、再び新婚旅行などで同じ場所を訪れたときに、20歳のときでは塗れなかったまわりの街区を塗っていくというのも、ロマンがありますよね。

――夢が膨らみますね。それでは最後に、『テクテクライフ』を楽しみにしている読者にメッセージをお願いします。

麻野『テクテクライフ』では、アンケートやクローズドベータテストをはじめ、皆さんからいただいた要望をできるだけ汲み取る形で改善させていただきますので、楽しみにしてお待ちください。

田村ユーザーのみなさまから、“塗り”という要素が魅力的だというご意見を多数いただけたので、それらの意見、要望をしっかりとチェックして、どんどんすばらしい作品にしていこうと思います。

『テクテクライフ』開発者インタビュー。約半年でサービスが終了した前作からの復活劇と、新作での変更点、サブスクなどの新要素に迫る_01

[2020年9月28日17時20分追記]

 同じく『テクテクライフ』で、前作『テクテクテクテク』のサービス終了からの復活劇に迫るインタビューが、“電ファミニコゲーマー”に掲載。こちらも合わせてどうぞ。

“一度失敗したゲーム”はなぜ復活するのか ― 『テクテクライフ』の裏にある執念を訊く(電ファミニコゲーマー)