万策尽きずに無事公開! 『SHIROBAKO』を生んだアニメ会社社長に直撃

 2020年2月29日、アニメ劇場版『SHIROBAKO』が公開となる。本作の企画立ち上げから深く携わり、アニメ制作会社P.A.WORKSの社長を務める堀川憲司プロデューサーに直撃インタビュー。

 本作が生まれた経緯、テレビ放送から5年後に劇場版が生まれた理由を始め、富山県にあるアニメ制作会社P.A.WORKSについてなどさまざまなことを訊きまくったぞ!

 記事末尾の特別企画にもご注目を。

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劇場版『SHIROBAKO』公開記念! P.A.WORKS堀川社長インタビュー。『SHIROBAKO』誕生秘話を直撃!!_04

アニメ『SHIROBAKO』とは

 2014年~2015年に放送されたテレビアニメ。アニメ制作会社“武蔵野アニメーション”に務める新人制作進行の女性・宮森あおいを主人公に、アニメ業界のあるあるネタを散りばめながらアニメ制作にまつわるドタバタを描く。アニメ業界を描くアニメということでそのリアリティーある描写や高い完成度が話題を集めた。制作が行き詰まったときに放たれるセリフ「万策尽きた!」は(一部で)流行語に? 2019年2月29日より劇場版『SHIROBAKO』が全国ロードショー。

堀川憲司 氏(ほりかわ けんじ)

『SHIROBAKO』制作プロデューサーであり、アニメ制作会社P.A.WORKS代表取締役。竜の子プロダクション(当時)、Production I.Gを経て、2000年に富山県に前身となる会社を設立したのち、2002年にP.A.WORKSに改名。現在にいたる。家族に連れ添って移住した富山県にアニメスタジオがなかったため、みずから設立。会社は20周年を迎える。

アニメ制作現場はドラマよりもドラマティック

―― “アニメを作るアニメ”として制作された『SHIROBAKO』ですが、まずはこの作品を作ることになった経緯から教えてください。

堀川 我々の業界でふだん起こっていることって、「ドラマよりドラマティックだろうな」と思うことがよくあります。 自分はこういう仕事をしているからか、妄想癖みたいなものがあるのですが、「このエピソードがアニメになったらどうなるだろう」、「それが実現したらどういうドラマになるんだろう」という妄想を、若いころからくり返ししていたんです。

――その“妄想”を実現してみたかったと。

堀川 それでも、自分が実際に働く業界を作品にしてしまうと、私小説じみた一人称的なものになって、ちょっと恥ずかしさを感じてしまっていたんです。その後時間が経って、ある程度経験と年を重ねたいまなら、客観的な群像劇としておもしろく描けるだろうと考えて、やっとアニメにすることができました。監督を水島努さん(※)に決めたのは、あるとき私が「こんなアニメを考えてるんです」と彼に話したところ、「じつはアニメ業界ものは自分も考えていたんですよ」と意気投合してくれたんです。水島監督にお願いすることは、このお話をしてからすぐに決まりました。

※水島努…………アニメーション監督。シンエイ動画所属時『クレヨンしんちゃん』、『ジャングルはいつもハレのちグゥ』などに携わる。監督作品に『ガールズ&パンツァー』、『荒野のコトブキ飛行隊』、『侵略! イカ娘』、『おおきく振りかぶって』、『監獄学園』など。

――水島監督の中で、ファーストシーンのイメージは最初からあり“アニメ会社の車がカーチェイスするシーンから始まる”というのは決まっていたそうですね。

堀川 そうですね、コンテの段階で隣に並ぶ会社の名前も全部決まっていました(笑)。水島監督もシンエイ動画にいて制作進行をされていたので、自分の経験からきたアイデアなんでしょうね。

――実際、制作進行の方が運転するときは、あんな運転を……?

堀川 確かに私も、進行の仕事で運転するようになってから、かみさんに「運転が乱暴になった」と言われましたね(笑)。

――やはり1分1秒を争うから、自然とそうなるのでしょうか……。そういう場合は原画の回収などが多いと思いますが、絵をアナログな方法で回収するっていうシステムはアニメ放映時の5年と事情は変わってないんですか。

堀川 国内に関してはそんなに変わっていないですが、海外に関してはもうデータでの納品がかなり増えてますね。

 昔は、セルをカートに積んで空港で運んでいたものです。空港で運び屋に間違えられて、「これはなに?」って目をつけられたり、なかなかたいへんでした(笑)。そのころにくらべれば、海外とのやりとりは驚くほどによくなっていると思います。最近は、“送ったら◯時間後にアップ”とか、全部データでのやり取りで、海外では24時間どこかが動いてるみたいなこともあります。

――『SHIROBAKO』制作のきっかけに話を戻します。そうして水島努監督に決まり、2014年に制作が実現できたんですね。

堀川 『SHIROBAKO』を作ったのにはさらに、もうひとつ理由があります。当時、アニメ業界はかなりブラックな印象を持たれていました。たしかに楽な仕事ではないですが、現実にはそこで何十年も情熱を持って働き続けている人がたくさんいるんです。その人たちがアニメを仕事にするのには、こんなすばらしい理由があるんですというのを描きたかった。その答えが僕の中に明確にあるわけではないのですが、本作を作りながら、その答えを見つけてみたいという想いもありました。

―― “アニメを作る理由”というのは、作中でも描かれていた、本作のテーマとも言える問いです。堀川さん自身は、どういった理由からアニメを作り続けているのでしょうか。

堀川 僕にとってアニメは、“問題を解決するためのシミュレーションの道具”という一面があります。自分のなかに答えを見つけたいテーマが生まれたら、そのテーマをアニメにして、アニメの主人公たちといっしょに問題を解決していくということをけっこうやっています。 「彼らならこの問題をどのように突破していくんだろう」と妄想するのがすごく楽しいんですよね。もちろん、それは僕なりの理由であって、作品にはいろいろなキャラクターの「この仕事をやっているのは、こういった理由があるからなんだ」というのが描かれていますので、作品から感じ取っていただけるとありがたいです。

――そんな、アニメ制作に懸ける想いが詰まった本作ですが、初放送時には周囲からどのような反響がありましたか?

堀川 放送前には、「ぜんぜんリアルじゃない」とか、「誇張しすぎている」とか、批判的な意見をいただく覚悟をしていました。ですが、放送してみると、意外にも批判はそれほどなく、むしろ、業界内で作品に共感していただける人がすごく多かったです。「リアルすぎて観ていられない」という声もありましたが(笑)。

――アニメ会社を舞台に、アニメ制作を描くとなると、絵を描くアニメーターが主人公になりそうなものですが、主人公を制作進行のキャラクターにしたのには、理由があるのでしょうか?

堀川 すべての制作工程に関わってスタッフの仕事を俯瞰的に見られるのは、監督か制作進行くらいなんです。“この業界の人が何をモチベーションにして仕事をしているのか”を表現するなら、どちらかを主人公にするべきだと考えて生まれたのが、制作進行の宮森あおいなんです。

――アニメ業界あるあるとしてリアルに描いている部分と、逆に誇張して描いている部分というのはありますか。

堀川 本当にあった話はかなりあると思います。ただ監督を牢屋に押し込めるようなことは無いです(笑)。部屋にカンヅメくらいはあるかもしれませんが、アニメ業界ではあまり無いと思いますね。小説業界だとよく聞きますけど、カンヅメにしようがコンテってあがらないですからね、本人が描かないと。

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――ではあれは、アニメ的誇張だったと(笑)。ほかにも、「これはさすがに誇張だろうな」と思ったシーンがあるのですが“若い制作進行の女の子が超有名監督に「原画描いてもらえませんか」と突撃する”というのはないですよね?

堀川 いえ、それが、ダメ元で名のある方に電話かけてみる……というのはよくあることなんですよ。

 この業界は割とやさしい人が多くて、それもおもしろがってくれる人が多いというか。たとえば、スタジオジブリでずっと活躍しているようなベテランの方は、経験の豊富な制作からは思い込みで「この人に原画を振っても無理だろうな」と思われてしまうんです。

 なので恐れを知らない若い制作が電話をしてみると「外から俺に電話をかけてくれる人がまだいるんだ」といった新鮮な喜びを感じることがあるそうです。当然、結果はやってはくれないんですけど(笑)。

――それにしても、宮森が話を持ちかけた“菅野光明”監督(代表作は『新世代アヴァンギャルドン』)は、有名アニメ監督にそっくりで、思わず笑ってしまいました。声まで似せていて。

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堀川 アレ、うまかったなぁ(笑)。庵野監督が昔ガイナックスにいたころに、あのシーンで語られているように「いまの若い子はケレン味のあるアクションの方に行ってしまうけど、もっと基本になる大塚康生さんのような芝居に戻らなきゃいかんのだ」と僕に話してくれたことを覚えていまして、劇中にもそういうセリフが入っていたりします。

 「なぜこれをわしに振るの?」ということが話されるのですが、じつは僕が湖川友謙さんというレジェンドのアニメーターにお仕事をお願いしたときにそれを言われた経験が元ネタになっています。そのときは僕の考えが足らず、ただただやってほしいという思いでお願いをしたのですが、「これを俺に振るのは意図があるんだよね」と問われたとき、とっさに答えられなくて。すごく恥ずかしい思いをしたので、これは話として入れました。だから、『SHIROBAKO』には、いろいろな人が経験したエピソードが、たくさん詰め込まれているんですよ(笑)。

劇場版『SHIROBAKO』で描かれるものとは?

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――2014〜2015年にテレビシリーズが放送され、満を持して劇場版が公開となりますが、丸5年後の新作映画という形になったのには理由が?

堀川 これはもう、監督のスケジュールです。「続編を作りましょう」という話が挙がったのは、テレビシリーズが終わってから1年後くらいでした。元ネタは僕らの日常なので、ネタは続くし、作ろうと思えばいつでも作れるだろうとは思っていました。 ですが、水島監督の予定がかなり先々まで決まってしまっていて。それから数年経ち、テレビシリーズでの続編ではなく劇場版という形で、かつこのタイミングならお願いできるということになり、「それでは作りましょう!」となりました。

――P.A.WORKSでは水島監督作品の『Another』などの製作で、いっしょにお仕事をされていますよね。水島監督って、あまりメディアには登場しませんが、どういう人なのですか?

堀川 僕もよくわからないです(笑)。

――(笑)。

堀川 よくわからないけど、頭のいい人ではあるなと思っています。アニメを作る際、いつもクールに客観的に判断でき、お客さんの視点を大切にする方だなと。僕は割といろいろなところで感情的になるのですが。

――お客さんの視点というと?

堀川 “お客さんが本当に観たいものを作れる”ということですね。クリエイターは作り手の表現したいものを押し出すことが多いのですが、水島監督を通すと、内容がファン視点に変わっていくんです。あと、ブラックなネタを、ブラックでありつつも笑いに変えられる。ギャグやコメディー方面の能力は、僕がいちばん水島監督をすごいと思っている部分ですね。

――たしかに、木下監督が監禁されるようなシーンなど、よく考えるとブラックなネタでもあるのに、観ているとつい笑ってしまいます。

堀川 水島監督は、自分のポジションの“監督”をかっこよく描くのことには抵抗があったようなので、木下監督はいつもコミカルに描かれていますよね(笑)。泣く物語ならわりと計算して作りやすいんですけど、笑いのツボって観る人によって違います。コメディーやギャグって作るのがすごく難しいので、それを作れてしまうセンスを持っているというのは、監督としてはかなりありがたい存在だと思っています。

――水島監督の作品は情報量の多さもあって、何回でも見れるような作品が多いように感じます。

堀川 それは水島監督は意図してると思いますね。ちょっと余談ですが、もともとアニメは、実写作品に比べてカット数が多い、情報量が多いという特徴があって、昔、30年くらい前にアニメーターたちから実写映画やドラマを「かったるくて観られない」と言われたことがあるんです。でも、テレビドラマの『ケイゾク』とか『TRICK』のように、実写作品でもカット割りが多い編集スタイルのものが出てきて、すごくアニメの編集っぽくて、おもしろいなと当時思いましたね。

 そんなアニメの中でも、とりわけ水島監督の作品は情報量が多いですね。

――水島監督は『ガールズ&パンツァー 最終章』なども抱えていますし、非常に多忙な方ですよね。

堀川 だからもう『SHIROBAKO』の中で『ガルパン』の劇場版を作るっていう話をやればいいんですよ(笑)。毎回、劇場版を作るっていうドタバタを描いて、セットにすれば制作現場も監督スケジュールの奪い合いにならずウィンウィンじゃないですか。

――ウィンウィンかどうかは(笑)。劇場版『SHIROBAKO』のシナリオとしては、宮森たちが劇場版アニメ制作にチャレンジするという筋書きとのことですが、劇場版の見どころについて教えてください。

堀川 監督のオーダーに「テレビシリーズに出ていたキャラクターはできるだけ出したい」というものがあり、 いろいろなキャラクターのその後がそれぞれ描かれていて、そこがひとつ見どころですね。

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――作中でも数年の時間が経過しているとのことですが、宮森はどのような立場に?

堀川 劇場版ではラインプロデューサーになっています。プロデューサーという役職はもらったけどデスクの仕事も同時にやっているので、やっぱりかなりドタバタしています。

あのドタバタ感も、テレビシリーズから引き続き描かれているんですね。劇場作品とテレビアニメとでは作りかたも違うのですか。

堀川 そうですね。いろいろと違います。映像のクオリティーとしては劇場版のほうが高いのですが、もっとも違うのは尺(話数)です。12話や24話で描くテレビシリーズと比べると、長くても2時間の劇場アニメはやはり短いですね。『SHIROBAKO』のテレビを見てもらうとわかると思いますが、あれだけいろいろな要素が一気に動くという情報量を劇場で2時間で描くというのはそうとうきびしい。なので、劇場版の中で作るアニメも、劇場版アニメにしたと思うんです。関わるスタッフの人数もテレビシリーズ2クールのほうが多いですし。

――なるほど。

堀川 制作進行の立場からすると、スケジュールを管理するのは、複数話数の膨大な素材が平行して動くテレビシリーズの調整のほうが圧倒的にたいへんだと思います。でも、それをキレイに流していかないと、上手な進行管理とは言えませんから。

――では、宮森は経験も積んでいるし、今回は劇場版作品の制作なので、仕事も楽に?

堀川 ですが、そこで間違って「スケジュールに余裕がある」と思っちゃうと、あとで地獄を見ることになるんですよね(笑)。

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――堀川さんとしては、まだまだ『SHIROBAKO』でアニメ業界を描いていきたいという気持ちはあるのでしょうか。

堀川 今回、劇場版の企画を立ち上げたときは、働きかた改革とか、クリエイター不足とか、業界の問題が浮き彫りになったころで、みんな「これからアニメ業界はどうしていけばいいんだろう」と考えていました。クリエイター不足というのは変わらず、さらにきびしくなっていくのではないかと考えていますが、「では、今後はこういう風にアニメを作っていこう」と、業界全体の方針が、近年になってようやく見え始めてきています。その制作現場の風景や時代の流れを、さらに描いていくのはアリだと思います。

――続編の可能性はゼロではないと。

堀川 もちろん、現時点で具体的な話は何もないですが(笑)。テレビシリーズのときは、「こういうテーマについて語ろう」という小テーマを大体2話セットにして描いていて、そのとき業界や現場で起こっていることなど、いろいろなテーマがあり、それだけであっという間に話が膨らんでいきました。いま考えていることを実現するとなると、映画ではなくテレビシリーズじゃないと尺が足りないでしょうね。何しろ、『SHIROBAKO』の場合、ほかのアニメを作っているだけで、ネタは無限に湧いてきますから(笑)。

――(笑)。時間が経てば業界の事情も変わるし、宮森もさらに出世したりして、仕事の見えかたや取り組みかたも変わるかもしれませんね。

堀川 宮森たちがさらに成長して、自分たちが中心となって会社を動かせるようになったころのお話もおもしろそうですよね。

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P.A.WORKSのものづくり

――せっかくですので、P.A.WORKSについてもお伺いします。そもそもなぜ本社が富山にあるんですか?

堀川 僕、養子に入ってるんですけど、かみさんの実家が富山にあるのでというそれだけの理由です(笑)。

――なんと(笑)。

堀川 もともと東京でアニメの仕事をしていたのですが、子どもが小学校に上がる年にまずかみさんたちが富山に帰って、そのころ手掛けていた作品が終わってから僕も帰りました。帰ったけど、アニメを作る仕事以外はやってこなかったので「じゃあアニメ会社を作ろうかな」という感じになりました。

――富山ですと、都心とは違って立ち上げの際に人材を集めるのも苦労されたんじゃないですか。

堀川 そこに対する無謀さというか、あまり不安に思っていなかったところが、会社が続いた理由かもしれません。「人が集まらないし、無理だよね」と思っていたら、立ち上げていなかったかもしれないけど、当時、なぜか何も考えていなかったような気がします(笑)。

――本当に想像もできないんですが、いちばん最初のときは、どうやって人を集めたのですか?

堀川 集まらなかったですよ。

――えっ。

堀川 「そろそろ集めようか」と思っても、当時アニメーション制作の会社って具体的に何をやる会社かって認知されていませんし。ふたりくらい動画マンとして採用したのですが、半年くらいで辞めてしまいました。「まず月間500枚、動画を描くことを目指そうね」と言ったけど、まったくそんな数には行けそうになくて。

――あらら。

堀川 それは彼らに能力がなかったというわけではなくて、会社にお手本を見せてくれる先輩がいないから、そんな数を描けるというの見たことがないわけですよ。先輩がいればやりかたを教えられるのですが、いないので、そんなに描けるということが信じられない……みたいな。実家から通っていると、「なんでそんな遅くまで仕事をするんだ」、「これが普通の仕事なのか」というようなことを言われるんですね。

――ああ、そうですよねえ。

堀川 念のため言っておきますが、昔の話ですよ(笑)。そのつぎに入った子たちががんばって目標をクリアーできたので、その後は「こうやれば自分たちはできるんだよ」と。大体先輩ができるようになれば後輩がそれに続くんです。最初前例がないところから作っていくというのはたいへんでした。

――やっぱりこれは、その経験を活かした“『SHIROBAKO』スタジオ立ち上げ編”が始まるんじゃないですか(笑)。

堀川 (笑)。作中で絵麻も悩む回がありましたが「どうしたらスピードが上がるのか」っていうのはアニメーター誰もが一度は考えることだと思います。あのときは杉江が「こういうもんだよ」と教えていましたが、あの立場の人がいないところで、それを自分たちでやって、後輩に継承していくってなかなか難しいと思うので、そういうことも描けるんだったらおもしろいと思います。

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――“スピードとクオリティー”は永遠の課題かもしれませんね。また、P.A.WORKSはホームページにいろんなインタビュー記事を掲載されていたりですとか、知見を業界に還元しようという意識だったり、養成所を立ち上げて後進の育成や人材育成みたいなところの意識も強く感じますが、それはどうしてなんでしょうか。

堀川 ひとつは、『SHIROBAKO』を企画した際の話とも重なりますが、近年よく語られるアニメ業界の話題って、ブラックなものやネガティブなものが多いですよね。そういった問題の対策をオープンにしている会社がなかったんです。同じような課題を持っている制作会社はいっぱいあるので、そういう人たちとの交流ができたらいいなとは思っていて、その情報交換というのがひとつあります。

 もうひとつはP.A.WORKSが「こういうことに取り組んでいるんだ」というアピールになればと思っていて、それは求人のためですね。「人を育てようとしているんだ」、「アニメーターを育てようとしているんだ」という部分を感じてもらって、「そこに力を注いでいる会社だったら入ってみようかな」と思ってほしいんです。地方に会社が知られてないということもあるので、 こういう会社があるという事を知ってもらえるだけでもやる甲斐があるかなということです。

 “P.A.WORKSが何を大切にしている会社なのか”というブランディングもありますね。「ものづくりとして大切にしている部分はこうだ」ということはどんどん発信していこうという3つだと思います。

――あの場所(富山県南砺市)というのもいいですよね。近くに盛り場や誘惑がないですし、とくに冬は雪が積もって、仕事に集中できる環境です。ポジティブに捉えると。

堀川 そういう環境もアニメーション作りには大切なんだと思います。僕は昔から「雪国はアニメーション制作に向いている」と言い続けていて、欧州とかロシアに個人のアニメーション作家が多いのはそういうことだと思っているんです。コツコツとものを作っていく辛抱強さも含めて、寒い場所の方がむしろ向いているんじゃないかと。これが、暖かくて開放的で、いつも外にいることができるような環境だったら作業しないんじゃないかと思います(笑)。アニメ制作のように、コツコツとするものづくりは雪国が合うんじゃないかなと。

――藤子不二雄先生(富山県)や高橋留美子先生(新潟県)など、日本海側には出身マンガ家が多いなんて話もありますし、ありえる話かもしれません(笑)。では最後に、劇場版『SHIROBAKO』、そしてP.A.WORKSの作品を楽しみに待つファンの方へ伝えたいことがありましたらお願いします。

堀川 24話で宮森が語っているように、作品を観た人ががんばろうと思えるような、観た人の先に光を灯すような作品を今後も作っていきたいです。劇場版を観て、そういった感想を持っていただけたら、すごくうれしいです。

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劇場版『SHIROBAKO』作品情報

STAFF

  • 原作:武蔵野アニメーション
  • 監督:水島 努
  • シリーズ構成:横手美智子
  • キャラクター原案:ぽんかん(8)
  • キャラクターデザイン・総作画監督:関口可奈味
  • 美術監督:竹田悠介・垣堺司
  • 色彩設計:井上佳津枝
  • 3D監督:市川元成
  • 撮影監督:梶原幸代
  • 特殊効果:加藤千恵
  • 編集:髙橋歩
  • 音楽:浜口史郎
  • 音楽制作:イマジン
  • 主題歌:fhána『星をあつめて』(ランティス)
  • プロデュース:インフィニット
  • アニメーション制作:P.A.WORKS
  • 配給:ショウゲート
  • 製作:劇場版「SHIROBAKO」製作委員会

CAST

  • 宮森あおい:木村珠莉
  • 安原絵麻:佳村はるか
  • 坂木しずか:千菅春香
  • 藤堂美沙:髙野麻美
  • 今井みどり:大和田仁美
  • 宮井楓:佐倉綾音
  • 矢野エリカ:山岡ゆり
  • 安藤つばき:葉山いくみ
  • 佐藤沙羅:米澤 円
  • 久乃木 愛:井澤詩織
  • 高橋球児:田丸篤志
  • 渡辺 隼:松風雅也
  • 興津由佳:中原麻衣
  • 高梨太郎:吉野裕行
  • 平岡大輔:小林裕介
  • 木下誠一:檜山修之
  • 葛城剛太郎:こぶしのぶゆき

特別企画 宮森あおい かわいい百面相

 『SHIROBAKO』の主人公、宮森あおい。通称みゃーもり。働きモノの彼女のチャームポイントといえば、ころころ変わる表情の豊かさ。

 そこで、おもにテレビシリーズから、さまざまな表情をしている宮森をピックアップしてご紹介。気になったら観てみよう! いまがチャンスだ!!

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宮森 ぎゃおー
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