去る2019年6月開催のE3にて、シリーズファン待望の続編、『ノーモア★ヒーローズ3』(以下、『NMH3』)のトレーラーが発表された。
この映像ではCERO Z相当のゲームソフトを紹介しています。内容の視聴にはご配慮をお願いいたします。
『ノーモア★ヒーローズ3』は、グラスホッパー・マニファクチュア(以下、GhM)の須田剛一氏が手掛ける、2020年にリリース予定の殺し屋アクションゲーム。2019年1月にNintendo Switchにて発売された『Travis Strikes Again: No More Heroes』を経て、約10年ぶりとなるナンバリング作品となる。
シリーズの主人公は、西海岸の街サンタデストロイに住む、筋金入りの“オタク”にして殺し屋のトラヴィス・タッチダウン。過去のシリーズでは、ひょんなことから全米殺し屋ランキング戦に参戦。トップランカーにまで上り詰めた男だ。
ところが今回発表のトレーラーで10年振りにサンタデストロイに姿を現した彼は、なんだかヨレヨレ。首にはギプス、脚には包帯。満身創痍の姿に「!?」と観客が思った直後、宙に浮かぶ巨大な構造物を見上げたトラヴィスは、まさかのヘンシン。フルアーマー姿で宇宙からきた“ヤベー奴”に突撃するという衝撃の展開を見せた。
驚きと興奮を呼ぶこのトレーラーをさらに盛り上げる、熱量溢れるラウドな音楽を作ったのは、ミュージシャンや俳優として知られる金子ノブアキ氏だ。
『NMH3』のメインコンポーザーとなることが発表されている金子氏は、かつて週刊ファミ通でコラム「スーパーカネコブラザーズ」を連載していたバリバリのゲーマー。そこでファミ通は金子氏に打診し、開発総監督を務める須田剛一氏との緊急対談を開催した。
テーマは『NMH3』の音楽とクリエイティブ。トレーラーの解説に始まり、楽曲制作のいま、そしてクリエイティブのモチベーションやテンションなど、ふたりの生々しい創作の現場を語ってもらった。
いまいちばんカッコいいふたりが語る「カッコよさ」とは? 「ファンの想像の一歩先を行く」インタビューとなったのではないだろうか。
金子ノブアキ(かねこのぶあき)
ミュージシャン/俳優。『ノーモア★ヒーローズ3』でメインコンポーザーを務める。『週刊ファミ通』では7年間にわたり、「スーパーカネコブラザーズ」というコラム連載をしていた。
須田剛一(すだごういち)
グラスホッパー・マニファクチュアCEO。『ファイヤープロレスリング』シリーズや、『シルバー事件』、『ノーモア★ヒーローズ』シリーズなどを手掛けるゲームデザイナー。『ノーモア★ヒーローズ3』ではディレクターを務める。
本記事は、週刊ファミ通2019年8月8・15日合併号に掲載した『ノーモア★ヒーローズ3』記事の完全補完版です。また同記事の備考欄において、販売元・発売元に関する誤りがありました。現在アナウンスは、グラスホッパー・マニファクチュア社のみとなります。関係者並びに読者の皆さまにご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます。
トラヴィスの「ヘンシン」は、デスグローブの力
──E3で発表されたトレーラーはいろいろと衝撃的でした。たとえば、「ヘンシン」。トラヴィスが変身できるって設定、前振りがとくになかったような……。
須田剛一氏(以下、須田)はい(笑)。いちおうNintendo Switchで発売した『トラヴィス・ストライクス・アゲイン:ノーモア★ヒーローズ』(以下、『TSA』)が前振りにはなっているんですよ。
今回のトラヴィスは、『TSA』に登場した伝説のゲーム機・デスドライブMk-IIの力を宿したデスグローブというガジェットを左手に着けています。そのガジェットでビデオゲームの力を発動して変身していますね。まあなんの説明もしていませんけど、「解ってくれよ」という感じで入れちゃっています(笑)。
──(笑)。
金子ノブアキ氏(以下、金子)その「ヘンシン!」に合わせてドラムが入ってくるタイミングの調整にいちばん時間をかけました。ここは肝だろうなと思って。
須田海外の皆さんは「ヘンシン!」だけで盛り上がっていましたね(笑)。そのリツイートの様子が凄くて。トレーラーを発表した場の主催である任天堂さんからのフィードバックでは、アメリカの人たちって結構「変身」を知っているらしいんですよ。ゲーマーってやっぱりオタクなので、仮面ライダーなどが好きな人が多い。だから変身の反応が凄かったと。
──(笑)。デスグローブの力が今回のアクションのポイントになると。
須田そうですね、トラヴィスの基本となるビーム・カタナのアクションは、過去作品で完成されてるところがあるんですよね。そこにデスグローブの要素を加えています。この使いどころと、フィニッシュ技をどう進化させようかというところがポイントになるかなと。
──プロレス技が変わる?
須田「プロレス技だけでなく、もうひとスパイス欲しい」と、いま現場と話し合っている最中です。
──なるほど。トレーラーには画面にいくつかのステータスが表示されていましたが、『2』とも違うものでした。今後変わっていく可能性はありますか?
須田ほぼほぼ、あれに近いと思います。ただ、あえて見せていないものもあります。そこにファンへのメッセージも含めています。
──それは楽しみですね。
ゲーム作りは“厨房”という感じ。火の落ちる暇もない
──さて、あらためておふたりにお伺いします。いまはどんな状況でしょう?
須田いまはプロトタイプが完成したところ。ボスが3体くらい動いている程度ですね。E3の反響を受けて変えているところもあり、あたふたしています。
──また気の触れたボスなんでしょうね……。金子さんにはどのくらいのボリュームで楽曲制作をお願いしているんでしょうか。
須田トータルで20曲弱お願いしています。E3トレーラーでも、映像の尺を少し変えたら、すぐに金子さんに送り、「何小節かズラします」とご対応いただいたりなど、完全に並行作業していました。
金子ゲーム作りは鉄が熱いうちにどんどん打っていくようなものなので、新しい絵が届くたびにいろいろな変化が起きていて。それが“厨房”って感じですごくいいんですよ。火の落ちる暇もない。
──前線を楽しんでいる(笑)。
金子物理的な限界まで挑みますよ。いまはブチ上げ系の音を結構作っています。
──おふたりはそもそもお知り合いなんですか?
金子もともとは僕の仲間たちがごいっしょしていたんですよね。
──その流れでノブアキさんに。
須田今回の『3』を作るにあたり、「音楽はゲームが好きな、新しい方に作ってほしい」とまず思ったんですね。そのときに、まず金子ブラザーズのことが頭に浮かんで。それでダメもとでノブアキさんにオファーしました。
金子それに僕が「ウェーイ」って乗っかりました(笑)。もともと須田さんのことはもちろん存じ上げていて、ファミ通で連載していた時期に誌面で拝見していましたし、GhMさんが国内外で人気があることも知っていた。さらに僕の仲間たちが須田さんとお仕事をする姿も見ていましたから、「俺たちのことを解ってくれる人たち」、「おそらくゲーム業界でいちばんパンクなところ」と勝手に解釈していたんですね(笑)。
あと僕は日本語吹き替え版の『ノーモア★ヒーローズ 英雄たちの楽園』がすごく好きだったんですよ。あの、テレビで洋画を観ているようなハマりっぷりの吹き替えって、ヤバくないですか? しかもトラヴィスの声優はロロノア・ゾロの中井和哉さんだった。すごく豪華ですよね。なんというか日本の吹き替えカルチャーを逆輸入で取り込んだ感じで、新しすぎて驚いたんです。
──なるほど。GhMのゲームもバッチリプレイされている。須田さんも金子さん出演の映像作品など、いろいろご覧になっていそうですね。
須田ええ。僕は音楽家としてはもちろん、役者としての金子さんも好きなんです。出演作を観て、「なんだこのカッコいい人は」となった。
金子ありがとうございます(笑)。
──実際に会ってお互いの印象って変わりましたか?
金子僕は「そのままだ!」という感じでした。初対面でもこんな感じで話して、ほぼ関係ない話をして帰っていったという(笑)。
須田「テレビで観るよりカッコいいな」と思いました。いらしたとき、カッコ良すぎて社内がざわつきましたよ(笑)。もともとミュージシャンや芸能人である以前に、「すごくラフで気持ちのよい人」というイメージを持っていましたが、そういう意味ではそのままでしたね。
金子ありがとうございます。ファミ通で連載していたときの感じが自分の“素”なんです。以前コラムを読んでいただいていた方なら解ってもらえるんじゃないかなと思います。
──古いファミ通読者はご存知でしょうが、金子さんは生粋のゲーマーですもんね。最近はどんなゲームをプレイされているんでしょう。
金子プライベートな話ですけど、子どもがいま1歳半なので、リビングではずっと『アンパンマン』の唄が掛かっているんです(笑)。だからもっぱら、プレイステーションをリモートプレイするかNintendo Switchで遊んでいますね。どこでもできるSwitchは最高ですね。いまはリマスターで出た『ラストレムナント』をやってます。Xbox 360以来で懐かしいですね。
須田『ラストレムナント』を選ぶって、相当ゲーマーですよね。
金子いやいや(笑)。『サガ』シリーズのような要素もあって面白いです。
ゲーム音楽に求められるのは、擦り減らず、脳汁が出続けるもの
──金子さんは、ゲームの音楽は初めて?
金子映画の劇伴はありましたけど、ゲームは初めてですね。
──話し合いのときにはすでに絵コンテなどあったのでしょうか。
金子最初の段階のコンテを拝見して、あとはキャラクターや設定を教えていただきました。E3が目前だったので、「まずはそこに照準を定めますか」という話でしたね。
──須田さんのオファーってどんな形なんでしょう。
金子主人公のトラヴィスが、腰も首も痛いおじちゃんになっていますよね(笑)。さらに今回は宇宙から敵がやってきてトラヴィスがロボットのようなヒーローになる。でも、「そういった設定はともかく、世界でいちばんカッコいいものを作りましょうよ!」という、いい意味でザックリしていました(笑)。僕も「じゃあ、帰ってすぐに作ってみますね」と。
──(笑)。曲調などについては、何かリクエストはあったのでしょうか。
金子それは作りながら決めていく感じでしたね。これまでの流れは大切にしながらも、あまり土着的になりすぎない音の作りにしたいと思って。また、今回は予告なので「テーマ曲の旋律はどこかに入れたい」と思い、ピアノで弾いてみたりしました。
──E3のトレーラーのサウンドは、大きな括りでいうとラウドロック(ヘビィメタルやハードコアなどから派生した、重いギター中心で多様性のあるロック)ですよね。スクリーモ(絶叫やエモーショナルな感のあるラウドロック)かと思えば、民族調や8ビットなどいろいろな要素も入っていて。
金子そうですね。オルタナっぽさもありつつ。そうそう、近年の傾向として、わざと絵も音も劣化させて8ビットにする手法がありますよね。カッコいい響きの中にそういう音が入っていたら健全かなと思って。
──健全?
金子シリーズのファンの皆さんが喜んでくれることがいちばんですから、これまでのシリーズにもふんだんに含まれていた8ビット的な要素を踏襲したり。そしてそういうものが披露されたとき、ファンの皆さんが「キターッ!」って思ってくれたらいいなと。たとえれば……映画館ですごくいい特報映像を観たときの「うわ、きちゃった。マジか……ヤベッ」となる感じですね(笑)。
──(笑)。構成もそういう理屈から?
金子映像ありきで尺が決まっているときって、最初は散らかして、逆算していく感じなんです。本編の音楽はループしていくものになると思うので、そのあたりはGhMの皆さんにご指導いただくことになると思います。
──映画劇伴などとは作りかたが変わるのでしょうか。
金子自分でも新発見でしたが、ゲームはすごく好きでずっと遊んできているので、すごく自然に作れています。いま個人的に美術館で流れるようなアンビエントの音を作っているんですが、ゲーム音楽は概念として似ていますね。くり返し耳にしても、擦り減らず、ちょっとずつ脳汁が出続けるようなものが求められる。このあとも、パーツを抜き差ししながら整頓していくと思いますが……やっぱりゲーム音楽を作るのは楽しくて、自分も盛り上がりますね。
映画撮影の合間に作曲。シナリオは温めているところ
──金子さんは役者さんでもあるわけで、音楽制作との両立って相当ハードではないですか?
金子いまは凄い時代ですよね。映画撮影の楽屋にノートパソコンを持ち込んで楽曲を作っていたんです。10数年前には、ここまでどこでも音楽を作れる環境になるとは思いませんでしたね。だからいまは並行してできます。ただ、撮影の待ち時間に打ち込んでいるときに急に出番になると、さっきまで浮かんでいたリフなどが吹き飛んだりしますが(笑)。
──(笑)。ですがミュージシャンとして、役者として、人の倍、稼働している。
金子僕は休みの日でもスタジオに行くタイプなんですよ(笑)。そのままそれを生業にさせていただいているという。運がいいんですよね。ありがたいことです。
いまは「とりあえずカッコいいものを」と、アイデアが湯水のように出てきているところなので個人的に楽しい時期です。ただしこのシリーズはキャラ立ちがハンパないので、キャラクターが絞られてきたら、そこからあて書き(キャラクターを念頭に置いて書く行為)にしていきたいと思っています。
──現時点だと、キャラクターが未確定の部分も多そうですね。
須田それはこれからですかね。いままさにシナリオを書き始めたところで、もう少し肩を温めなきゃいけないなと。キャラクターができ上がってシナリオを書き終えたら、いっしょに作っていく形になると思います。
金子僕からも早めに音をお渡しして、「このキャラクターに合いそう」と言ってもらえるといいな、と思っていて。
須田そうなんですよ! 音のイメージから、「このキャラ、こういう風にすると面白いんじゃないか」と書きながらどんどん変わっていくこともあるんですよ。音以外にも、絵、それから現場の作業や手法、反応、問題点など……こうしたいっしょに作っているみんなのエネルギーのようなものが自分のシナリオに影響してくるのがまた楽しくて、その様子を見ながら肩を温めている最中です。
──温めないとケガをしますからね(笑)。
須田身体は作っておかないと(笑)。
じつは金子さんに具体的なリクエストがひとつだけあって。歌付きのバンド系の曲なんですが、数日前に詞が上がったので、それをお渡ししたところなんですが……大丈夫でしたか? むちゃくちゃな詞でしたよね(笑)。
金子いやー最高でした! どうするかはいま考えているところですが、ラップができるなどもうちょっとパーカッシブで激しい人にお願いしたいと思っています。
須田そこはお任せします。詞は情念で書いたので……めちゃくちゃヘンな詞なんです。
──日本語なんですか?
須田はい。全部日本語でいきます。いま考えているのは、海外向けにも翻訳じゃなく、カタカナ英語の字幕を付けること。「Kill Kill Kill~」って始まるんですけど、字幕は「KIRU KIRU KIRU~」の予定です(笑)。
──(爆笑)。
『NMH』の制作時、「これは面白くなる」という感覚があった
──ライブの場合はお客さんの反応がダイレクトですよね。相手の見えないゲーム音楽の作りかたはやはり変わるものですか?
金子でも役者のときの撮影も、言ってみればレコーディングなんですよ。このカメラの先には何百万人が……という感覚。その撮影とライブの中間ですね。しかも自分が新しく入っていく場所にすでに待ってる人がいっぱいいることがわかっている。「待っているお客さんがたくさんいる」というのは、どデカいことですよね。テンションも上がります。
──作られるものやノリって変わるものですか?
金子テンションは、あまり変わらないですね。むしろ盛り上がっていないとヤバいです。
──曲を作るということは、自分を最高に盛り上げた状態まで持っていくということなんですね。
金子そうですね。最近わかってきたんですが、誰かとモノを作るのが好きなんです。もちろんいい結果を出す事がマストですが、そこに辿り着くまでのプロセスが好き。逆にリリースされるときはちょっと切ないんです。音楽作品でもマスターして納品するまでは凄い愛でるんですよ。
須田ああ、わかります。いっしょですね。
金子だからリリースされるときは「嫁に出ちゃう!」という感覚なんです。「放流したあとは人のものになっていくんだ……」という、しみじみとした感覚になる。ですが、いまはまだ始まったばかりだからテンションは高いんです。
──なるほど。一方の須田さんがゲームを作っていく過程で、いちばんテンションが上がるのってどこなんでしょうか。
須田僕の場合はシナリオですよね。アゲなきゃいけない。日々イメージをぐるぐる回していると、「いまだ!」ってときがあるんです。その瞬間って勝手にアガる。それを毎回見つけるのがたいへんなんですが(笑)。
──書き始めると早いですよね。
須田早いほうだと思います。最初の『NMH』は、会社を休んで徹夜したのかな? ずっと家に籠もって、ラストも込みでふた晩で書き上げました。『2』は早かった。ひと晩でした。
金子すごい(笑)。加速しちゃったんだ。
須田イメージはできていたので。
──そこでできるものって、完成形とは違うんでしょうか? たとえば『2』であれば、メインストーリーの合間合間にシルヴィア(※ヒロイン)の回想が入ってくる。ああいう構成も含めて?
須田ざっとしたプロットや構成は最初に決まっているので、そこに合わせて書くんですが、別のイメージが入ってくると、それすら変えることもあります。そこは最初にいちばん盛り上がるところかも。
アクションゲームの場合は、とにかく遊んで、チューニングしていくんですが……ある瞬間にブレイクスルーのようなものがあるんです。「俺たち面白いゲーム作っちゃったんじゃないの!?」というようなものがポーン! とできあがることがある。
金子『NMH』なら、どういうところですか?
須田たとえば攻撃のとき、ボタンを連打して、フィニッシュはリモコンのアクションでスラッシュする仕組みがありますが、何かが食い足りなかったんですよね。そんなあるとき、思いついてプログラマーに「モーションスピードを変えようよ」って言ってみた。スラッシュ始めのときにモーションをすごくスロウにして、スラッシュに入った瞬間に高速にしたんですよ。そのときに「あ、きた!」って。「これは面白くなるぞ」という感覚があった。
ゲーム開発の楽しいところってそこですね。作り始めってだいたいは面白くないんです(笑)。「すっげえ面白いゲーム」にするための何かを見つけたくてスタッフ一丸でひたすら練る、その過程が面白い。しんどいんですが、しんどさ以上の盛り上がりがあります。そういう過程は作品ごとにありますね。
──スタッフ一丸といえば、今回の制作スタッフはどういう体制なんでしょうか。
須田『TSA』のスタッフがそのまま作っていますよ。新生GhMの2作目です。
──ああ、そこでかなり強く設定などが引き継がれているんですね。アーマーのデザイナーってオフィシャルには発表されていませんよね?
須田キャラクターデザインのコザキユースケさん以外は発表していません。フルアーマートラヴィスに関しては、バンコクにあるスタジオHIVEにいる、タイ人のスカンさんというデザイナーさんにお願いしました。
──なんというか……デザインを見ると、すごくよくわかっている方ですね。海外の方とは思えない。
須田スカンさんはいい意味で頭のおかしい人なんです。一度スタジオを見学に行ったんですが、壁一面にガンプラが積んである。マーベルフィギュアばかりの壁もあったり。会社に作業スペースとは別に、自分のプラモデル工房を持っていて、エアーブラシが一式揃っているんですね。今回のアーマーも、「どこかリ・ガズィ カスタム【※】っぽく」って言ったら「ああ、リ・ガズィね」って(笑)。
※リ・ガズィ……劇場版『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』以降に登場する、連邦軍のガンダムタイプのモビルスーツ。リ・ガズィ カスタムは、そのヴァリエーションとして考案された、いわゆるMSV。
──わかっている(笑)。
須田いま発注しているものも、「ディープ・ストライカー【※】系なんですよ」って言ったら、「これだろ?」って彼の机の後ろの棚に組んだマスターグレードがすでにあるわけですよ。
※ディープ・ストライカー……1980年代末に『モデルグラフィックス』誌に一枚絵で公開された機体。以降、フルスクラッチでモデルが作られることはあったが総じて難度が高く、2000年代に入ってようやく商品化。2018年になってマスターグレードに登場した。
──海外の方がデザインしたロボって、メカメカしくなることが多いのですが、これには日本的な色気もあって、「この人、わかっているな」という感じでした。胸のT字の意匠も、「あ、ライダーだ」って。
須田じつはサンライズの方にこのデザインを見せたら、「このデザイナーさん誰ですか? すごいわかっている」というお墨付きをいただきました。本家の方も認めてくれたものです。
──凄いデザインだと思います。
『NMH』は間違いなくパンク。ハードボイルド的な感覚の行き着く先
──金子さんにお尋ねしますが、そうやって須田さんの作られるキャラクター、ストーリーから音楽的なものってどれくらい感じるものですか?
金子すっごく感じますよ。それこそ過去の作品もロック、パンクのテイストからテクノまで。かと思うと、急に「カーディガンズ!?」だとか(笑)。女の子がすごく可愛くてエッチだし、男はカッコいい。そういうところって大事ですよね。
──『NMH』独特のカッコよさですね。
須田ナンバリング作品ですしね、E3のときの気持ちを忘れずに突っ走りたいと思っているんですよ。お客さん第一で、ファンの皆さんが見たり聴いたりしたときに、違和感なく、それでいて少しアップデートしてると思われたらいいなと。
でも「首が痛い」みたいに、ゲームの設定自体がアップデートされている(笑)。そうしたものを継ぎ足しつつ、ナンバリングタイトルならではのスケール感、チャーミングさ、エッチな部分が合わさっていくといいのかなと思っています。
──曲でエッチな部分というのは表現できるものなんでしょうか。
金子あんまりですかね(笑)。でもカッコよくて、似合っていれば刺さると思うんです。たとえば『ルパンIII世』だったらジャズであるように、相応しい音楽なら刺さるはず。だからきっと僕にお話をいただけたんだと思って、いま作っているところです。
とにかくこのシリーズにはいいバイブスがありますよね。おふざけもあるんだけど、ものすごくカッコいい。現代版のモンキー・パンチさんというか、「ハードボイルド的な感覚の行きつく先」という感じがするシリーズだと思います。
須田……うれしいなあ。
──そうしたものを金子さんは『NMH3』に期待すると。
金子いやあ、もういろいろなことをぶっ壊してほしいと思います。いまはいろいろなジャンルで、価値観の見直しと破壊が目に見えて起こり始めていると思うんです。そんななかでこの『NMH3』が担うべきものがすごくある気がしています。
やっぱりゲームって楽しいから、触れていると気持ちもアガるし、「明日から頑張ろう」って思えたりするじゃないですか。そういうジャンルの中で『NMH』がここまで10年かけて尖ったことをやっているということがまずすばらしく、それに加担できるのは僕として本当にうれしいことです。
──それだけチームが尖っていると。
金子現場に「巻き込んでいこう」というマグマが流れているのを感じますよ。僕はそのマグマを近くで感じながら、インスピレーションをたくさんいただいているところです。国内はもちろん海外の人々にも「イェーーイ!」となってもらいたいなと。それだけ輸出できる作品って本当に貴重だと思いますし、みんなでそれを目標にしたいと思うんです。そういうチームに入れていただいたので、このテンションを大切にしたいなと思います。
須田うれしいですね。
金子「みんなで盛り上がってやったらいいんだよ!」っていうテンションでモノを作って発表していくところにバンド感もある。そこで「気の触れたプロジェクトに気の触れたヤツが入ってきた!」って思われないと。
──(笑)。
金子そのへんのチャンネルをフレッシュな状態で開けることが、ここしばらくはあまりなかったなと思って。僕はバンドも長いことやっていますが、何十年もやっているとブルースが入ってくるんですよ。『NMH』はパンクなんですよね。パンクって愚かしかったり一見ふざけていたりするけど、ものすごいインテリジェンスがある。このシリーズにはそれが詰まっている。
須田……超うれしいなあ。
──最大級の誉め言葉ですね。
金子「カッコイイものを作りましょう」と言って、その「カッコいいものが何か?」を皆さんといっしょに追求していく感じは、本当にバンドをやっている感覚ですね。劇伴などと比べてもっと反射神経的というか……そういうテンションで始められているので、いまはとにかく楽しい。
これから発表になるんですけど、僕も新しいプロジェクトを組もうと思っているんです。「何かやろうと」は以前から思っていたんですが、『NMH』が大きな引き金になりました。
須田ほおおおお!
金子「いま俺はこういうことをやりたかったんだ」と気づかされたというか、ある意味で『NMH』に狂わされました(笑)。ですから『NMH』にも、自分のテンションをもっと吐き出して乗せられたらいいなと思っています。後になって振り返っても、「いいキッカケになったな」と思える作品になるのではと。
須田こちらこそ金子さんの音が『NMH』を新しい領域に連れていってくれることを、さらにエキサイティングな内容になることを期待しているんです。そうやってファンの皆さんが興奮するゲームにしたいですし、たとえるなら、いまは亡き三沢光晴選手が提唱されていた「ファンの想像を超える」プロレス、「もう一本向こう側のプロレス」をしたいですね。
粋、トンチ、バカらしさ、潔さ。ふたりの考えるカッコよさとは
──今日の取材では「カッコいい」という言葉が幾度となく出てきました。金子さんの考える「カッコいい」ってどういうものですか?
金子そうですね。トンチが効いているもの。「粋だな」って思うようなものや、「バカだねぇ」って言われるようなもの。
──「カッコ悪い」ものは?
金子「本当にそう思ってる?」と言われちゃうような感じかな。カッコよさで言えば、今回は「この作品は、なんでカッコいいとされているのか」という部分がうまく表現されていくんじゃないかなと思います。トンチが効いているって部分では、『NMH』はサイコーに効いていますからね。サイコーにカッコいい。
──トラヴィスは、トンチが効き過ぎですよね(笑)。一方、須田さんにとっての「カッコいい」って何でしょう?
須田潔さですね。どの主人公も「自分もこういう風になりたい」と思いながら書いていますが、トラヴィスはその最たる例だったりします。
バカをしていても、ふざけていても、それが殺しの世界だったとしても、どこかで潔さがつねにあって、それが彼のブレないところなのかなというのは、いつも意識しています。自分の中に潔くないものがたくさんあるから、「もっとトラヴィスのように潔い男になりたい」と書くたびに考えていますね。
──いろいろな作品のいろいろな主人公は、どれも須田さんの分身や願望だと思いますが、トラヴィスはとくに象徴的だと。
須田トラヴィスというキャラクターは……言葉がすごく自然に出てくるんです。何をしているかなども。距離感が近いんでしょうね。隣町に住んでいそうな感じです(笑)。金子さんも仰っていましたが、首を痛めてる主人公なんてまずいません。
トレーラーの発表後、『NMH3』というタイトルだけじゃなく、トラヴィスの名前もツイッターの北米トレンドに入ったんですよ。そのとき、「ああ、トラヴィスは愛されているな」って実感しました。海外などでの異常なくらいの人気は、彼のダラダラした日常性というか、隣のあんちゃん的な存在感が大きいのかなと思っています。
ですから僕も飾らず、気取らず、つねに潔い男でありたい。そこがほかのキャラクターとは違いますね。
──同様に、『NMH』は須田さんのいくつもある看板のひとつですが、須田さんにとって『NMH』とはどういう存在なんでしょうか。
須田シルヴェスター・スタローンにとってのロッキー・バルボアと同じですね。『NMH』はトラヴィスの物語。僕にとってトラヴィス・タッチダウンはずっと作り続けることができるキャラクターなんです。
『クリード チャンプを継ぐ男』という映画で、ロッキーは老いて主役を退き、ライバルだったアポロの息子、つまり主人公の師匠になるんですが、でもあの映画は老いたロッキーの映画なんです。トラヴィスって、同じようにリアルタイムに歳を取っていけるキャラクターである気がしていて。
自分が歳を重ねても『NMH』はまだまだ作れるというか、多くのファンの皆さんも、「歳を取ったトラヴィスでいいから遊んでみたい」と思ってくれるんじゃないかなという気がしています。
──だとすると須田さんが歳を取るとともにトラヴィスも……。
須田耄碌して故障だらけになっていく(笑)。
金子最後は入院だ(笑)。
須田だはははは! 確かにロッキーも『クリード』で入院していましたしねえ。
──NOAHイズムなんでしょうか、それも“ファンの想像を超えるようなゲーム”になりそうですが、まずは『NMH3』、期待しています。
金子氏の強烈なエネルギーが加わることで、『NMH』 はどのように進化する?
昨今、ゲームも音楽も作家の個性が突出した作品は少なくなってきているように感じます。UKロック、プロレス、東映実録路線、仮面ライダー、ガンダム、レトロゲーム……須田さんが人生をかけて愛してきたカルチャーをとことん詰め込んだ独特の世界観で、トラヴィスというひとりの男の生き様を描き出す『NMH』。どこまで意図しているかはわかりませんが、この時代への挑戦状のように筆者は捉えました。
また、最後の“カッコいい”にまつわる話を聞きながら、須田さん自身がご自身で言うほどブレずにカッコいい生きかたをしてきたからこそ、ジャンルを超えて同じ意思を持った人々が集まり、想像を超えるクリエイティブがうまれていくのだろうとあらためて思いました。「プロレスは大河ドラマ」とはよく言われる言葉ですが、須田さんにとっての『NMH』はまさにそういった作品なのでしょう。
『NMH3』の現在の製作の進行状況は25パーセントとのこと。金子さんの強烈なエネルギーが加わることで、『NMH』がどのように進化していくのか。未知だからこそワクワクするし、楽しい。そんな“現在地”がふたりの言葉から伝わってきました。続報もぜひお届けできたらと思います。