『ゼノンザード』インタビュー 世界観・設定編

 数多くのメーカーが日々参入し、かつてない隆盛を見せるデジタルカードゲーム(DCG)シーン。そこにバンダイが本格参戦、しかもディープラーニングによって学習する“カードゲーム特化型AI”を開発し、“AI カードダス”という新ブランドも設立……ということで注目を集めていたプロジェクトが、いよいよ始動する。本記事ではAI カードダスの第1弾のタイトルとして今夏に正式サービスが開始、2019年4月にはβテストがスタートする『ゼノンザード』のインタビューを掲載。同作のプロデューサーを手掛ける小谷英斗氏が、“AIが発達した世界”をストーリー、設定面から表現したストレートエッジの三木一馬氏と今後の展開を語り合った“世界観・設定編”、HEROZの高橋知裕氏と、カードゲーム特化型AIができるまでを回顧した“AI・ゲームシステム編”の2本立てでお届けする。

 今回お送りするのは、“世界観・設定編”。

【『ゼノンザード』インタビュー AI編はこちら】

【『ゼノンザード』インタビューその1】“カードゲーム特化型AI”が人間とバトル! 新基軸のデジタルカードゲームでいかに世界観や設定を構築したか?_07

小谷英斗(こたにひでと)

バンダイ『ゼノンザード』プロデューサー

三木一馬(みきかずま)

ストレートエッジ 代表取締役

バンダイ×ストレートエッジ、そして“原案・上遠野浩平”が成立するまで

――まず『ゼノンザード』の企画がスタートして、三木さんが原作を担当することになった経緯を教えてください。

三木 最初は、僕が『ソードアート・オンライン』のゲームの総合プロデューサーを担当している、バンダイナムコエンターテインメントの二見鷹介さんから、「バンダイで、どうしても三木さんに会いたがっている人がいる」と言われたのがすべての始まりですね。いまから2年くらい前だと思います。そのときからすでに、AIを使ったカードゲームを作るというコンセプトは決まっていて、AIはプレイヤーのバディになったり、ときには戦う相手として立ちはだかるゲームにしたい……という話をうかがったんです。しかし、世界観が足りない。だからここに魅力的なキャラクターやドラマを注ぎ込んで欲しいということでした。

小谷 もともと「AIを使ってカードゲームを作る」という企画は社内で決まっていたのですが、キャラクターを持たせないと、ユーザーがAIに愛着を持ってくれないという結論になったんです。であれば、そういうところを広げていただけるパートナーさんはどこだろうとなったときに、各方面からストレートエッジさんの名前が出てきたんですよ。そこで、改めて『ソードアート・オンライン』を観直したら、「これだ!」となって。すぐに三木さんにご連絡させていただきました。

三木 たしかに『ソードアート・オンライン』はAIがテーマですものね。お声掛けいただいて光栄でした。

小谷 三木さんは、もともと作家さんが作られた物語を、メーカーとうまくつないで広げるのがすごく上手な方とうかがっていまして……。そういったところも期待して、「ストレートエッジさんと組めないかな」と思ったのがスタートでした。

三木 ただ、バンダイさんからお話を聞いたときに、このプロジェクトにハマりそうなのは、いまストレートエッジで契約している作家さんよりも、上遠野浩平さんだろうなあ……というのがパッと浮かんだんです。そこで、上遠野さんにいきなり「カードゲームに興味あります?」とご相談したら、「三木さんには恩があるから、やるよ」と言われまして。実際のところは、僕のほうが上遠野さんにお世話になりっぱなしなので、うれしさ半分、困惑半分でした。で、「ならば、やりましょう!」というのが、『ゼノンザード』に関わるまでの経緯ですね。

――三木さんのTwitterで知って意外に思ったのですが、上遠野さんと直接お仕事をするのは今回が初めてらしいですね。

三木 (電撃文庫の)編集長時代には、小説を刊行してくださっていましたが、担当編集ではなかったんです。年一回ある“電撃小説大賞”の授賞式のパーティーでお会いして、『戦地調停士』シリーズ(講談社ノベルズ)の感想をただひたすらお話しする……くらいの接点でした。

小谷 ファンじゃないですか(笑)

三木 ただ、「『ゼノンザード』には上遠野さんだ」というのは、すぐに頭に浮かんだんですよね。僕がお話をいただいたときに、すでにアイリエッタとクロードのイラストはすでにあったんですよ。めちゃくちゃスタイリッシュで格好よくて、ビジュアルとして確立されていた。では、「この絵が何のドラマに載って動くか」というのを考えたときに、ここからは少し洒落も含めてなんですけど、『ブギーポップは笑わない』のセリフ、「僕は自動的だからね」というセリフが思い浮かんだんです。ブギーポップは、神出鬼没で人間に憑依して出てくるというキャラクターで、世界に危機が訪れたときにやってくる。そういうコンセプトをもう何十年も前に作り上げていらっしゃった上遠野さんのちょっとダークでかっこいいテイストの世界観と、アイリエッタやクロードのイラストがすごくマッチするなと思って。

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【『ゼノンザード』インタビューその1】“カードゲーム特化型AI”が人間とバトル! 新基軸のデジタルカードゲームでいかに世界観や設定を構築したか?_02
開発初期から考えられていた、警察AI、アッシュ・クロードと、看護師AIのアイリエッタ・ラッシュ。

――なるほど……。ふだんのバンダイさんが展開しているカードゲームよりは、少し上の年齢層をターゲットにしている感じですか?

小谷 そうですね。アナログもデジタルカードゲームも主軸と言われているのが、10代後半~20代なんです。私自身はもう少し下の子どもにも向けたシリーズ、『バトルスピリッツ』を担当していたんですけど、今回は20代に一番響くものを作っていこうと思っています。

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AIを血の通った“バディ”へと昇華させる作業

――ではつぎに、『ゼノンザード』の時代設定や発展している技術や人々の生活など、具体的な設定を教えてもらえますか?

小谷 世界観については、2月19日に行われた発表会の“THE ZENON SHOW(ザ・ゼノンショウ)”で公開したプロモーションビデオをご覧いただければわかると思うのですが、“AIが高度に発達して、人間を支えてくれる存在になっている”というのが柱の設定としてあります。時間軸で言うと、現代よりも30~40年後の未来を想定しています。

――そのあたりの設定も、上遠野さんが作ったのですか?

三木 そうですね。原案世界観を決めるときに、今回はいい意味にゆるく考えていただきました。具体的に、AIやキャラクターたちが何を求めて、“ザ・ゼノン”に挑んでいるかとか、そのあたりのキャラクターの世界観は作るのですが、それ以外の舞台設定や、どういったインフラが発達しているかとかは、プロデューサーサイドでも、「こうしよう」「ああしよう」というふうに決めていることのほうが多いですね。

――ゆるく作っていたほうが、あとでいろいろ膨らませていきやすそうですよね。

三木 “ザ・ゼノンショウ”で登場した、司会役のミーナなんかは、プロデューサーサイドで考えさせてもらったキャラクターです。

小谷 まあ、ゆるく作ってもらったとは言っているものの、話を広げるには素晴らしい器を最初にいただいたので、非常に助かっていますし、やりやすいです。あと、上遠野さんらしいところと言えば、近未来の話だけど、“魔女”という要素があったり、“世界に漂うちょっとした違和感”というところですかね。上遠野さんと交わることで、いい意味で化学反応が起きたんじゃないかなと感じています。

――ストーリーモードはあるのでしょうか?

小谷 ストーリーはしっかり追えるようになっているんですけど、従来のアプリゲームのように、ストーリーモードというものを単独で置いて、「読みたい人だけ読んでね」といった形ではないです。『ゼノンザード』ではゲームシステム上、ひとりに対してひとつのバディAIを持つことができるのですが、そのバディAIとともに、“ザ・ゼノン”という大会に挑んでいく中で、生まれていく物語などを追体験できるような形で提供したいと思っています。

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――バディAIは、現在公開されている6キャラクターの中から選ぶのですか?

小谷 βテストではそうです。正式サービス時にはもっと増える予定です。

三木 AIのキャラクターアイデア出しは僕もやらせてもらっていて、とても楽しかったです。もちろん、上遠野さんがネタを出したり、絵を見て「このキャラクターは、こんな感じだよね」と、どんどん想像を膨らませて生まれていったものがほとんどです。最初の2キャラクター、アイリエッタとクロードも上遠野さんに「このふたりはこういうプログラムだよね」というように決めてもらっていて、イラストと原作(AI設定)が同時並行で共作している感じで増えていきました。

――バディAIはプレイヤーにひとり1体が基本になるのですか? 最初に選んだAIは変えられない?

小谷 変えられるようしようとは思っているのですが、変えるのを推奨はしないという感じです。自分が戦っていく中で、自分のバディとなるAIも成長していくし、バディAIから学ぶこともあるということを表現したかったので、1対1の関係で物語を進めていただきたいなと思っています。

三木 自分のバディを選ぶのは、結婚と同じですからね。そういう感覚で選んでもらえると。

――なるほど。もしバディAIを変えたら、またそのAIをいちから育てるということでしょうか、そんなこともない?

小谷 そういう方向性になるかと思います。バディとなるAIのキャラクターを変えたのに、それまでの経験を引き継いでしまうと、「けっきょく、キャラクターって、機械じゃないか」という印象をユーザーさんが受けると思うんです。せっかくここまでひとつひとつのAIにキャラクター性をつけていただいて、しっかりしたストーリーも作っていただいているので、ストーリーや世界観への没入感も強めたいです。

――では、バディを成長させていくと、キャラクターとの関係性が変わるということはあるのでしょうか。たとえば、しゃべりかたが変わるとか、姿が変わるとか、着ぐるみを着ていたら脱ぐとか……。そういった変化はありますか?

小谷 やはり、バディと謳っているので、プレイヤーが攻撃的なカードばかりを使っていたら、自分のバディとなっているキャラクターも攻撃的な性格になったり……といったことは考えています。ですので、口調や性格は変化させていきたいです。バディAIとして選べるキャラクターはかなり多めに用意しているのですが、いろいろな方と対戦していく中で、対面に登場したキャラクターが「こっちのアイリエッタとまったく同じじゃん!」みたいになるのは、あまりおもしろくないと思うので。戦いの中で成長していって、自分だけのアイリエッタになったり、自分だけのクロードになったり……というところは、性格や口調の変化で表現していきたいです。

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プレイヤーの試合内容によって性格が変化するのはβテスト版でも確認できる予定。正式サービス時には、もっと大胆な変化が施されるかも?

アニメ化はもちろん、AR化も検討中?

――テレビアニメ1話分くらいのボリュームのアニメを夏に配信するという計画が発表されています。お答えできる範囲で、その内容を教えてください。

三木 “ザ・ゼノン”という、カードゲームが現実に大きな影響を与えている世界の物語です。勝ち進むと、あらゆる願いがかなう世界で暮らしている主人公の日常や“ザ・ゼノン”との出会いが訪れています。そこでバディAIと触れ合っていろいろな経験をしながら成長していく……といった物語を描いています。

――なかなかワクワクする設定ですね。

小谷 アニメに限らず、いまプロモーションで展開している映像や今後展開していく商品なんかを見ていただけるとわかると思うのですが、私たちとしては、遊んでくださるユーザーの皆様が、“格好いいモノに触れている”、“最先端でいいモノに触れている”と感じられることを重視しています。ですので、できる限りスタイリッシュで格好いい、といったところは追求して、アニメも作っていこうかなと思っています。

――バンダイさん×ストレートエッジさんとなると、今後はノベライズやテレビアニメ化なども期待してしまいますが……。

小谷 『ゼノンザード』の世界観は、夏にお届けするプロモーションアニメやゲームだけで収まるような広さではないので、もちろん、やりたいとは思っていますが、具体的にお話しできることはまだ……といった感じです。『ゼノンザード』の世界観を知っていただくために、さまざまなメディアを駆使していくというのは、ストレートエッジさんといっしょに模索しながら考えている状況ではあります。

三木 僕たちは、『ゼノンザード』というゲーム自体が、本当にチャレンジングな取り組みであるし、いまだかつてないゲームだと信じています。プレイしてもらったら、皆さんに絶対におもしろいと思っていただける確信も持っています。ですので、アニメーションやコミックなどを入口として、さらに多くの方に興味を持っていただく……というのは、ぜひ前向きに取り組んでいきたいです。

――2月の“ザ・ゼノンショウ”では、人間とAIが戦うときに、AIが巨大な画面に出てきてリアクションを取るという、まさにカードゲームのアニメのような光景が見られましたが、こういった施策は今後も続けていく予定でしょうか?

三木 ああ、これは僕が小谷さんにお願いしたいことでして、『ゼノンザード』が本当に盛り上がって死ぬほど売れたら、現実世界にARでカードやゲームが実際に浮かび上がってきてリアルに対戦できるというイベントにしてほしいです。

小谷 じつはすでに検討しております(笑)。バンダイでも、カードゲームの見せかたを変えていく時期に来ているとは感じでいます。いきなりAR化は難しいかもしれないですが、まずは『ゼノンザ―ド』らしく、AIを企画の軸に据えての方法を模索していきたいですね。将棋の“電王戦”も、見た目からしておもしろかったじゃないですか。“ザ・ゼノンショウ”のようなイベントは今後も行いたいですし、もっと洗練させていきたいです。

三木 わかりやすさですよね。

小谷 見た目の違いだったり、どちらが有利不利かといった、“目で見て楽しむ”というポイントを追求していきたいです。サッカーなんかもそうだと思うのですが、たとえオフサイドとかが厳密にわからなくても、見に行ったら何か感じるものがある。あの感覚に持っていけたら、いちばんいいかなと思います。たとえルールがわからなくても盛り上がれる。それが『ゼノンザ―ド』の目指すべきところなのかなと。

――最後にβテストに参加するユーザーに向けてのメッセージをお願いします。

小谷 『ゼノンザ―ド』のβテストでは、しっかりとバトルが遊べるだけではなくて、バディとなるAIを選んで、どう成長していくのか……というのを体感できるようになっています。バディAI自体は6体に絞らせていただいていますが、AIとの絡みを見ていただけたらなと思います。

三木 僕らが担当したストーリーラインがβテストでどこまで出てくるかは把握していないのですが、AIがキャラクターとして、プレイヤーたちにどのようなサポートをしてくれて、逆に敵としてどのように立ちふさがるのか。いまの世界で、vs AIというのは、いちばんおもしろいテーマだと思います。そういうAIをドラマのシナリオとして実感していただきつつ、一方では実際のゲームプレイで“予定調和のないシナリオ”を体感してほしいです。夏のアニメでは、AIたちがなぜ“ザ・ゼノン”に挑んで、何を目指していくのかという、将来を見据えたドラマをお届けできると思います。絶対におもしろいものになると確信していますので、よければ楽しんでください!

【『ゼノンザード』インタビューその1】“カードゲーム特化型AI”が人間とバトル! 新基軸のデジタルカードゲームでいかに世界観や設定を構築したか?_05