アメリカ・サンフランシスコで行われている世界最大級のゲーム開発者のセッション、GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス) 2019。その中で行われた、『パンツァードラグーン』シリーズを手掛けた、二木幸生氏(現在はグランディングCOO兼ディレクター)と吉田謙太郎氏(現在はグランディング京都スタジオのマネージャー)のセッションの模様をお届けする。

「無謀な挑戦がゲームという文化を成長させてきたんだと思っています」――『パンツァードラグーン』シリーズの開発秘話が語られた、二木幸生氏&吉田謙太郎氏セッションリポート【GDC 2019】_01
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二木幸生氏
吉田謙太郎氏

 『パンツァードラグーン』は、1995年にセガサターン用ソフトとして、第1作が発売されたシューティングゲーム。ドラゴンに乗って3D空間を飛び回りながら、敵を倒していく奥スクロールシューティングは、多くのゲームファンを魅了した。

 シリーズ作品としては、1996年に続編となる『パンツァードラグーン ツヴァイ』、1998年にシリーズ唯一のRPG『AZEL-パンツァードラグーンRPG-』(海外タイトルは『PANZER DRAGOON SAGA』)、2002年に『パンツァードラグーン オルタ』がXboxで発売されている。

 また、昨年にはポーランドのForever Entertainmentが、セガよりライセンスを受けて『パンツァードラグーン』および『パンツァードラグーン ツヴァイ』のリメイク版を開発・パブリッシングすることが発表されるなど、いまもなお注目を集めている作品だ(※なお、セッション終了後の質疑応答によると、二木氏と吉田氏は現在のところリメイク版には関わっていないとのこと)。

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 セッションでは、まず二木氏より『パンツァードラグーン』の誕生秘話が語られた。開発は、二木氏がセガに入社して1年目のころにセガサターン用ソフトの企画として、レースゲームかシューティングゲームのどちらかを考えるところからスタート。

 最初はレースゲームの企画を考えていたものの、紆余曲折ありシューティングゲームを作ることになった二木氏は、当時AM2研が開発していた『バーチャファイター』で、ポリコンで作られたキャラクターがやわらかい動きをしているのを見て「これだ!」と感じたそう。

 というのも、当時のシューティングゲームは戦闘機など、硬いものを題材にした作品がほとんどだったため、『バーチャファイター』のようなやわらかい動きをシューティングゲーム実現したいと思ったのだとか。そこから、開発チームで「何に乗ってみたい?」と話し合った結果、自機がドラゴンに決定したというエピソードが披露された。

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 また、『パンツァードラグーン』では、“映画のように物語を体験できるゲーム”という目標を実現するため、最初から最後まで一貫したストーリーやステージ構成、ゲームのオブジェクトを用いたポリゴンのカットシーンの挿入、ゲームの展開に合った音楽などを取り入れ、『パンツァードラグーン』の世界により没頭できるようにしたそう。

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 さらに、ここでは当時の企画書も公開され、ロックオンした敵に向って飛んでいく“ホーミングレーザー”が開発初期にはなく、3D空間で狙って撃つのは難しいという理由で後から追加されたほか、もっとファンタジー寄りの世界観だったことが明かされた。

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吉田氏からはコンセプトアートも公開された。
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 続いての話題はセガサターンならではの表現について。当時、セガサターンと同時期にソニー・コンピュータエンタテインメント(現在はソニー・インタラクティブエンタテインメント)より、プレイステーションが発売予定されていた。

 3D表現が得意なプレイステーションに対して、セガサターンは2D表現が得意なマシンだった。そんな状況の中で二木氏は、セガサターンの強みであるスクロールを活かした3D表現を目指すことにした。そうして出来上がったものは、プレイステーションのように煌めく3D表現ではなく、少し乾いたようなものだったが、二木氏は「結果的に『パンツァードラグーン』の世界にマッチした表現になっていたんじゃないのかなと思います」と振り返っていた。

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 そんな『パンツァードラグーン』は、シューティングゲームのおもしろさと、世界観のユニークさが受け入れられ、その双方に特化した続編として、『パンツァードラグーン ツヴァイ』と『AZEL-パンツァードラグーンRPG-』の制作が決定した。この2本は同時進行で開発されており、吉田氏が『パンツァードラグーン ツヴァイ』、二木氏が『AZEL-パンツァードラグーンRPG-』を中心に担当していたということで、吉田氏にバトンタッチ。

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 まず吉田氏は、『パンツァードラグーン』のゲームシステムについて、「自機を移動させるタイプの3Dシューティングと、自機が移動しないガンシューティングのふたつのゲーム性が混在しています」と改めて解説。『パンツァードラグーン』の開発時から、そのふたつゲーム性をひとつにまとめる難しさに対する指摘があったものの、当時は力技で解決していたとのこと。『パンツァードラグーン ツヴァイ』では、それらの問題をすべて解決することを目標とし、ドラゴンの形態変化やステージ内の分岐ポイントなど、新たな要素を多数追加した。

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 また、物語に重点を置いていたため、1度クリアーしたら終わりという問題も発生。この問題を解決策として、『パンツァードラグーン』では、難易度を上げるという手段を行っていたが、ユーザーからは「難し過ぎる」という声があったそうで、『パンツァードラグーン ツヴァイ』では、プレイヤーのスキルに合わせて難易度がリアルタイムに変化する“ADEC SYSTEM(Automatic Difficulty Adjustment)”が実装された。

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当時としては珍しい難易度の自動調節システムの実装には、3Dシューティングというコアなゲームをいろいろな人が楽しんでほしいという想いもあったそう。
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ドラゴンが地上から飛び立つ印象的なシーン。この場面の開発には苦労があったそうだが、吉田氏は「飛翔感やドラゴンの成長を感じてもらえた」とうれしそうに語っていた。

 『AZEL-パンツァードラグーンRPG-』の話題に移ると、同作はとにかく新しいことに挑戦し過ぎたタイトルだったそうで、二木氏は「25年以上、ゲーム業界で働いてきた中で、いちばんたいへんなプロジェクトだったと即答できます」と本音を吐露。

 たとえば、当時は背景を一枚絵、キャラクターを3Dモデルで表現する手法が流行していた中、『AZEL-パンツァードラグーンRPG-』では、すべてを3Dで表現することを目指したそう。いまでは当たり前だが、二木氏によると「当時、そういうことをやっていたのは、PCの一部タイトルを除くと、ほとんどなかったと思います」とのこと。

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 また、シューティングをRPGの戦闘に置き換えるのは、かなり苦労したそう。あまりにも、通常のRPGとは違うため、議論やテストを重ねたものの1年経過しても進展はなかったのだという。そこから戦闘システムの責任者を向山彰彦氏(『パンツァードラグーン オルタ』では、ディレクターを務めた)が担当し、シューティングやRPGでおなじみの要素は以下のように置き換えらえた。

  • シューティングらしさ:位置取りシステム(※戦闘中にドラゴンを移動をさせて、敵の強力な攻撃を避けたり、防御力の弱い方向から狙ったりするシステム)
  • パーティー(仲間)要素:ドラゴンのタイプチェンジ
  • 物理攻撃と魔法攻撃:ドラゴンの攻撃とエッジ(主人公)の攻撃+ドラゴンの特殊技“バーサーク”

 戦闘システムの問題は解決したものの、ほかの部分でも問題は発生。当初思い描いていた、どこまでも自由に進めるマップを実現しようとすると、ハードスペックの問題などもあり、マップの見た目のクオリティーが落ちてしまい、『パンツァードラグーン』らしい、ゲームにならなかったそう。そこで、二木氏は全体マップから任意の場所に移動して、その中を自由に移動できる箱庭型のシステムを採用した。また、街を広くするためには、ユーザーに気付かれないようにメモリを書き換える必要があったため、街をふたつのエリアに分けて、長いトンネルでエリアが繋がる(その間にメモリを書き換える)構成になっているということも明かされた。

 そのほかにも、昼夜の概念を表現するためにライティングを実装したり、イベントもフル3Dで制作するため磁気式のモーションキャプチャーを行うなど、当時は前例がなかったようなことにも挑戦した。

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当時のモーションキャプチャーは精度がそこまで高くないため、後で補正がしやすいように、グリッドの書かれた床でモーションキャプチャーを行っている様子も映像として録画していたそう。

 とにかく誰もやったことのないような新しい挑戦ばかりだったこともあり、仕様の決定が遅れ、開発スケジュールも1年ほど伸びてしまったそう。また、当時は二木氏が50人もの大規模開発のノウハウがなく、マネジメントコストが膨大になってしまったのだという。しかし、スタッフのがんばりもあり、なんとかはゲームは完成。

 二木氏は、「いまだったら、“こんな挑戦できないでしょ”と言うと思います(苦笑)」と語りながら、「それでも実現できたのは、当時はゲームが新ハードに変わって、ゲームを新しいものに変えようという空気が業界全体にあったからだと思います」とコメント。また、セガの社歌の曲名が“若い力”であることに触れつつ、「まさにセガは若い力に満ち溢れていたからこそ、『パンツァードラグーン』のようなタイトルを作れたと思います」と当時を振り返り、最後に「若いと経験がないので、その先の苦労が想像できずに、無謀な挑戦をしてしまいます。だけど、そういった無謀な挑戦がゲームという文化を成長させてきたんだと思っています。僕たちも年齢を重ねてきましたが、気持ちはまだ若いので、若い力を発揮して、今後もいろいろなことに挑戦していきたいです」とセッションを締めくくった。

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