2018年8月23日、Nintendo Switch向け『モーフィーズ・ロウ』がリリースされた。スイスのデベロッパーであるコスモスコープ開発による本作は、敵の各部位を撃つと、みずからのその部位が大きくなるという斬新なシステムを持つ三人称視点のシューティングだ。“限りなく公平な対戦型シューティング”と謳い文句にあるように、敵の腕を撃つと自分の腕が大きくなり、能力も増強され戦いが有利になる反面、自身の部位が大きくなることで、ターゲットとして敵に狙われやすくなることになる。

 こんなユニークな発想のゲームはどのようにして出来上がったのか? gamescomの会場にて、コスモスコープのCEO ジョナサン・エルハルト氏と、COO ホセ・ロサレス氏に聞いた。

撃った部位が巨大化するTPS『モーフィーズ・ロウ』の開発者を直撃、“限りなく公平なシューター”を作った訳【gamescom 2018】_05
コスモスコープ CEO ジョナサン・エルハルト氏(右)と、COO ホセ・ロサレス氏(左)。

『スプラトゥーン』には大いに刺激を受けた

――そもそも本作は、どのようなコンセプトで作ったのですか?

ジョナサン 本作では、勝っている側の身体の一部が大きくなることで撃たれやすくなり、負けたほうは小さくなるので撃たれにくくなります。これは、自然界の生物のありかたからヒントを得たものです。捕食者と獲物の関係ですね。捕食者が多くの獲物を摂れば獲物全体の数は少なくなり、見つけにくくなります。そして捕食者が死ねば、獲物の数は再び増えていきます。こうして自然の均衡が保たれているのは興味深いことです。これをゲームの中に取り入れたいと思いました。

ホセ 獲物は死に絶えないように身体を小さくしますが、反対のことが起こればまた対処します。このゲームでは撃たれたら身体が小さくなるので、それをうまく利用するのです。捕食者と獲物がお互いに状況に対処しあっていくのと同じです。

――一般的には、強いほうがつねに勝ってしまうわけですが、それを変えたかったということですね?

ジョナサン その通りです。強ければ強いほど勝てるというのがふつうです。そういう意味では、このゲームでは強くなるとある程度難しくなりますので、フェアなゲームと言えます。あまり上手ではない人でも楽しめます。

ホセ 私たちはみんなに楽しんでほしいと思いました。本作では、あまりうまくない人が強い相手に向かっていっても勝てるチャンスがあります。身体が大きくなったり小さくなったりすることが有利性を与えてくれるからです。強くて大きいプレイヤーが、弱くて小さいプレイヤーをつねに倒していたら、まったく勝てる見込みがないので、少しもおもしろくありません。それが、このゲームでは勝てるチャンスがあるんです。

――弱いプレイヤーも強いプレイヤーに勝てる仕掛けがあるのですね?

ジョナサン 身体が小さくなったプレイヤーはターゲットとして狙いにくくなります。また、狭い場所は小さなプレイヤーしか通れないので、そこでも有利になります。小さいプレイヤーのほうがマップを自由に移動できるのです。

ホセ 小さなプレイヤーにしか使えないゲームプレイ要素もありますよ。大砲に乗り込んで発射すると違う場所に移動できます。さらに、小さなプレイヤーはマップに張り巡らされたチューブを使って、マップの中を早く移動できます。敵の背後に回って攻撃するといったことも可能です。このように、小さなプレイヤーにはいくつか有利に使えるギミックがあります。場所を素早く移動したり、敵を驚かせたりできるのです。小さなプレイヤーが動き回ると、撃ちにくくなりますよ。

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――アートスタイルが独特ですが、どのようにしてできあがったのですか?

ホセ 『モーフィーズ・ロウ』の世界では、人類は絶滅してモーフィングロボットだけが残っています。ロボットは人間が作り出したもので、永遠なる死者の日を祀る儀式が行われています。アイディアはここから生まれました。ロボットは決して悪者ではないという世界を作りたいと思いました。人間は悪くないということで、彼らは人間がいなくなったことを悲しんでいるのです。

ジョナサン 本作は、まずはゲームプレイありきのタイトルでした。世界観を考えたのは、実用的な面からです。ロボットはパーツからできていますので、パーツを大きくしたり小さくしたりするために、自然とロボットというアイデアに至ったわけです。

――バックグランドストーリーなどもあるのですね?

ホセ はい。ゲームの中にヒントが隠されています。マップからも探ることができますよ。ストーリーは直接説明することはせずにいますので、プレイヤーがマップを探索して発見してほしいです。

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――インスパイアを受けたゲームはありますか?

ホセ 『スプラトゥーン』は、シューターのフォーマットからまったく違うゲームを生み出しましたが、とても刺激を受けています。あとは、『GrimFandango』という古いアドベンチャーゲームが好きです。あと、『デイ・オブ・ザ・デッド』という映画も気に入っています。『モーフィーズ・ロウ』は、大好きなこのふたつのコンテンツへのオマージュでもあります。

ジョナサン 私も、『スプラトゥーン』がシューターというものを変えたことに刺激されました。『スプラトゥーン』の登場により、ただ撃って殺して賞金をもらうことだけがシューターではなくなりました。シューターを変えるアイデアがあることを教えてくれたのです。

――『スプラトゥーン』からの影響を受けた?

ジョナサン 一部はそうです。既存の形式を持ってきて、それを大きく変えたことに影響されたのは確実です。

――『モーフィーズ・ロウ』も同じような感じで、シューターというフォーマットを変えたかったのですね?

ホセ その通りです。『スプラトゥーン』と同じことはしたくありませんでしたので、何か新しい要素をシューティングジャンルに加えたいと思いました。じつは、ゲーム中に『スプラトゥーン』へのオマージュとして作った武器が出てくるんですよ。

ジョナサン このプロジェクトをスタートするのには勇気がいりました。というのは、シューターは昔からあるジャンルで、それに挑むのは大変なことだからです。でも、『スプラトゥーン』を見て、できないことではないとわかり、大きな励みになりました。

――ちなみに、ハードにNintendo Switchを選んだ理由は?

ジョナサン いい質問ですね。端的に言うと、プレイヤーベースがその理由です。任天堂のプラットフォームに親しんでいるゲーマーです。私たちは、いままでとは違う、少し変わった楽しいカジュアルゲームを狙っていました。Nintendo Switchおよび任天堂のユーザーは、より楽しいオリジナルで、意表を突いたアイデアを受け止めてくれるだろうと期待しました。また、任天堂のプレイヤーはおそらく私たちのやろうとしていることを気に入ってくれるので、彼らにとってもこのゲームは居心地のよいスペースになるのではないか……とも思いました。何かいままでとは違うもの、軽くて楽しいものですね。

――発売した後の展開は?

ジョナサン たくさんアイデアがあります。どのような形になるかはまだわかりませんが、新しいコンテンツは提供します。お話ししたいのは山々なのですが、時期尚早なので言えません。とてもクールなものをお届けしますので楽しみにしていてください。

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――せっかくの機会なので、会社について教えてください。

ジョナサン コスモスコープは新しい会社で、スイスの小さな町にあります。『モーフィーズ・ロウ』が初めてのプロジェクトとなります。フルタイムで働いているのは5人です。オンラインシューターを作るのは大変だったのですが、ここまで来られたのは全員ががんばった成果です。ちなみに、コスモスコープは収益の10%をチャリティーに寄付しているのですが、これはゲームのコストには含まれないので、ユーザーさんには負担はかかりません。

――え? なぜ寄付をするのですか? 企業ではあまり聞いたことがないなあ。

ジョナサン おっしゃる通り、コスモスコープはほかの会社とは違います。収益は上げるのですが、その一部を社会に還元しています。与えられたものは返すという発想ですね。

ホセ ティーンエイジャーのときに、友だちと2作ほどゲームを作ったことがあるのですが、そのあとで『モーフィーズ・ロウ』のプロトタイプに取り掛かったんですね。その後会社を設立しました。その友だちもいまの会社にいますよ。

――ところで、スイスって、ゲーム会社はたくさんあるのですか?

ジョナサン 最初は誰も知りませんでしたが、思ったよりも大きいことがわかりました。現在は20くらいのプロジェクトが動いているようです。そのほとんどがインディーゲームですね。

――ちなみに、『モーフィーズ・ロウ』の開発期間はどれくらいなのですか?

ホセ プロジェクトスタートからリリースまで、3年半かかっています。最初はひとりでやっていたのが半年で、その後5人が副業としてやっていて、それからフルタイムで5人で開発しました。

――最後に、日本のゲームファンに向けてメッセージをお願いします。

ジョナサン まずは、このような機会をいただいたことに感謝します。日本はスイスの小さなデベロッパースタジオが簡単に手が届く市場ではありませんので、私たちのゲームを取り上げていただいて感謝しています。
 私は日本のカルチャーが大好きで、とくに大きなモンスターの大ファンです。ゴジラや『進撃の巨人』とか……。大きな敵と最後まで戦うというシチュエーションに刺激された部分もあります。みなさんにも私たちが作ったものを気に入っていただけたらうれしいです。
 『モーフィーズ・ロウ』はゲーマーのためのゲームです。ゲーマーのために作って世に出すので、いっしょに作っていきたいと思っています。コミュニケーションを開始しましたので、ぜひ意見を聞かせてください。日本の皆さんはほかとは違うテイストを持っていると思いますので、フィードバックをいただき、すべての人が楽しめるゲームにしていきたいと思います。

ホセ 皆さんからのフィードバックはしっかり受け止めます。すでにこの2日間のフィードバックを受けて、ゲームプレイを改善しました。意見をいただければ、皆さんのアイデアがゲームに反映されるチャンスがあります。

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