任天堂・岩田氏、ディー・エヌ・エー守安氏の発言を追う

 既報の通り、任天堂とディー・エヌ・エーが業務・資本提携で合意。2015年3月17日に、両社による共同記者発表が都内にて行われた。会見には、任天堂 取締役社長、岩田聡氏とディー・エヌ・エー 代表取締役社長兼CEO、守安功氏が出席し、両社が業務・資本提携に至った経緯を語った。ここでは、その詳細をお届けしよう。なお、岩田社長と守安社長のプレゼンテーションに関しては、任天堂の公式サイトで全文が公開されている。

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任天堂×ディー・エヌ・エー共同記者発表詳報 任天堂、両社の業務・資本提携の真の理由とは?_07

スマートデバイスへの取り組みは、「任天堂なりの答えが出せた」

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 まずプレゼンテーションを行ったのが任天堂・岩田氏。岩田氏によると、任天堂とディー・エヌ・エー(DeNA)が出会ったのは2010年6月。「Mobageに任天堂のIPを提供してもらえないか?」とDeNAより提案があったという。当然のこと、任天堂には提携を提案してくる企業はたくさんあったようだが、「守安さんは、任天堂と組む可能性について非常に情熱をお持ちで、その後も継続して話し合いを続けてきました」という。そんな中、岩田氏は、「両社の組み合わせが、グローバルに相乗効果を生み出すチャンスが大いにあることを、あるとき私は確信しました」とし、「業務提携して協業し、双方の強みを活かし合うことで、大きな相乗効果を生み出せるのではないか」と判断するに至ったという。

 ついで岩田氏は、任天堂とDeNAが提携に至った背景を説明。岩田氏は、ここ数年スマートフォンに代表されるスマートデバイスの普及により、ゲーム専用機ビジネスの将来についてさまざまな悲観的な意見を聞いて来たという。代表例は、「いろいろな専用デバイスが、スマートデバイスに呑み込まれてきたと言われているのと同じように、“ゲーム専用機もスマートデバイスに呑み込まれるのではないか”」というものだ。しかし、これは違うと岩田氏は断言する。任天堂のゲーム専用機ハード上で動くコンテンツ(ゲームソフト)の最大の供給者は、ゲーム専用機のハード供給者でもある任天堂自身であり、“コ ンテンツを誰が供給しているのか”というのは、とても重要で、ゲーム専用機に対する悲観論は、この前提を無視した意見だというのだ。2014年後半の6ヵ月だけで、ニンテンドー3DS向けにダブルミリオンタイトルを達成したソフトを5本も出しており、それは日本の家庭用ゲーム機市場で“史上初”の出来事。スマートデバイスが広く普及したいまも、家庭用ゲーム機向けソフトの販売は順調だと、岩田氏はその論拠を語る。「私たちは、家庭用ゲーム専用機の未来を決して悲観視してはいません」岩田氏。

 一方で岩田氏は、“任天堂の強み”を同社のソフトやキャラクターなどの“任天堂IP”であると分析する。そこで任天堂は、ユーザーのライフスタイルの変化などに柔軟に対応するために、「これまでゲーム専用機に集中させてきた任天堂IPの価値を最大化するために、戦略的な取り組みを開始」することを決意。世界中のユーザーに任天堂IPの価値をストレスなく体験してもらえるように、スマートデバイスを積極的に活用していくことにしたのだという。

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 とはいえ、任天堂がこれまでスマートデバイスのビジネスに関して慎重だったのはご存じの通り。これに対して岩田氏は、2014年1月の経営方針説明会で、「スマートデバイスの活用においてゲームコンテンツは禁じ手にしない」と語った通り、「スマートデバイスでゲームをつくることそのものに否定的だった訳ではありません」と前置きしたうえで、スマートデバイスにまつわる懸案事項としてある「どうすれば任天堂IPの価値を維持・発展させながら、ビジネスを展開できるか」、「それには、どういう条件が必要か」ということを考え続けてきた結果、「そこに、ようやく任天堂なりの答えが出せたとお考えください」と続けた。

 もちろん、岩田氏には、スマートデバイスは“楽に儲かるビジネス”だという認識は一切ない。スマホアプリで成功しているのはほんのひと握りであり、「少数の勝者の一員になれないのであれば、スマートデバイスでのソフトビジネスに参入する意味がありません」と断言。「やる以上は、絶対の勝算を持って臨みたい」と考えてきたという。任天堂はこれまで“高い品質”でユーザーに満足してもらえるプロダクトを提供することで結果を出してきたが、スマートデバイスでのコンテンツは、プロダクトとしての性質だけではなく、毎日変化し続ける“サービス運営”としての性質を持たなければ、ユーザーの支持を得ることはできない。そこで、「任天堂は、この勝算を、DeNAさんと協業することで、一緒に創り出すことを目指します」というのだ。世界中で人気を誇る任天堂のIPと、世界トップレベルのWebサービスの構築・運営ノウハウを持つDeNAが提携することで、「任天堂IPを活用した新しいエンターテインメントをスマートデバイスを介してグローバルに提供する」という。

 今回の記者発表では、具体的なタイトルなどは一切明かされなかったが、大まかな方向性は提示された。岩田氏によると、スマートデバイスで活用する任天堂IPについては、とくに例外を設けるつもりはないが、スマートデバイスのゲームは「最初に完成度を追求するプロダクトとしての側面よりは、継続的に進化し続ける運営が必要なサービスとしての側面を持つ」との判断から、ある程度タイトル数を絞り込む形で展開・運営するとのこと。一方で、IPが同じだからといって、ゲーム専用機向けのタイトルをそのままスマートデバイスに移植することはしないと、岩田氏は明言する。「ゲーム専用機のコントローラーと、スマートデバイスのタッチスクリーンは、操作の特性、強み、弱みが大きく違いますから、ゲーム専用機の過去タイトルを単 純にスマートデバイスに移植することは、一切予定していません。最高のプレイ体験をお届けできないのであれば、任天堂IPの価値に傷が付くだけにしかならないと考えているためです」と岩田氏。

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 ここで岩田氏は、「任天堂がスマートデバイスでゲームビジネスを展開することにしたのは、ゲーム専用機ビジネスに対する情熱や展望を失ったからではありません」と語る。「むしろ、どうやってスマートデバイスを活用するかを決めたことで、今まで以上にこれからのゲーム専用機ビジネスへの情熱や展望を持っています」という。そのひとつの証明となるべく明らかにされたのが、ただいま開発中の家庭用ゲーム機コード名“NX”。こちらは、「今のビジネス環境に適合するために、任天堂は全く新しいコンセプトのゲーム専用機プラットフォーム」になるのだという。

 「スマートデバイスは、もっとも間口が広く、多くのお客様とつながる可能性が高いデバイスと言えます」と岩田氏、そこで、ユーザーをゲーム専用機にいざなうことができるように、スマートデバイスとゲーム専用機のあいだに架け橋を架けていきたいと考えていると岩田氏は言う。具体的には、「スマートデバイスを通じて任天堂とつながり、任天堂IPに興味をもってもらったお客様には、よりプレミアムなゲームプレイ体験を、任天堂ゲーム専用機を介して提供したいと思っています」とのことだ。このスムーズな移行を実現するために、任天堂では、現行のニンテンドー3DS、Wii U、そして“NX”、スマートデバイスやPCなど、複数のデバイスを統合する、新しいメンバーズ サービスを、DeNAと共同で開発し、任天堂が中心となって運営することを明らかにした。これは、「これまで運用してきたクラブニンテンドーに替わりお客様と1対1でつながり、複数のデバイスを統合したサービスを提供する、任天堂の新しいプラットフォームの中核要素の一つになります」という。

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任天堂との提携は、DeNAの主力事業を成長させる最良のプラン

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 引き続き発言したDeNA守安氏は、DeNAサイドから見た今回の提携の背景及び狙いについて説明した。守安氏は、スマートフォンでのアプリゲームのマーケットは日々競争が激化しているとしたうえで、「大量に提供されるゲームの中で利用者に遊んで頂くためには、他のゲームとは異なる明確な差別化要素が必要になってくる」と説明。そのうえで、任天堂はゲームIPでもっとも世界から支持されている会社であり、「その任天堂さんと共同でスマートデバイス向けIPゲームの開発ができるというのは、DeNAの主力事業であるモバイルゲーム事業を成長させるうえで、考えられる戦略オプションの中でも最良のプランであると思っています」と業務提携のメリットを語った。

 岩田氏も言及した通り、任天堂とDeNAが出会ったのは、2010年6月だが、以降両社で協議を重ね、「議論が深まれば深まるほど、両社の強みが補完関係にあるということが分かってきました」という。また、両社の企業文化がまったく合わないかというとそんなことはなくて、両社には“絶妙な補完関係と信頼関係”があるという。「両社で共同チームを編成することにより、大きな化学反応がおき、利用者に新しい価値を提供できる作品を生み出せると確信しています」と守安氏。

 守安氏は、両社の業務提携を、“スマートデバイス向け任天堂IPゲームアプリの共同開発”、“任天堂 新メンバーサービスの共同開発”の2点であるとおさらいしつつ、両社で株式を持ち合う資本提携も同時に行うことを説明した。具体的には、DeNAが保有する自己株式のうち10%を任天堂が保持、一方、任天堂の保有する自己株式の1.24%をDeNAが保持するというもの。資本提携まで踏み込むのは、並々ならぬ決意の現れ。守安氏は、“短期のプロジェクトというよりは、中長期視点で大きな事業にしていくこと”、“今回発表した提携内容に留まらず、お互いの企業価値が向上する取り組みについては、積極的に検討していくこと”を、より強固に推進していきたいと考えているという。

 最後に、岩田氏がふたたび発言。両社が協業を始めるにあたっての抱負を語った。それは、以下のふたつ。岩田氏の並々ならぬ決意が見える“抱負”であると言えるだろう。

・スマートデバイスで成功しているコンテンツ供給者は、単一のヒットタイトルに依存している構造になっていることがほとんどだが、任天堂が同社のIPを活用して取り組む以上は、スマートデバイスで早期に複数のヒットタイトルを生み出せるようにしたい。

・従来のゲーム専用機のプラットフォームの定義がデバイス単位だったことに対し、世の中に広く普及しているスマートデバイスやPCを取り込み、ゲーム専用機とスマートデバイスという複数のデバイスを統合して、より多くのユーザーに任天堂の作るソフトをより的確に届けたい。いわば、任天堂のプラットフォームの再定義への取り組み。