キャラクター作りの秘訣を余すところなく開示

『ダンガンロンパ』の魅力的なキャラクター作りの秘訣をスパイク・チュンソフトの小高和剛氏が惜しげもなく明かす 根底にあるのは“愛”【GDC 2015】_04

 2015年3月2日~6日(現地時間)、サンフランシスコ・モスコーニセンターにて、ゲームクリエイターを対象とした世界最大規模のカンファレンス、GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2015が開催。GDC 2015もいよいよ後半。開催4日目の3月5日には、スパイク・チュンソフトの小高和剛氏による“My Ordinary Process for Crafting Extra-Ordinary Stories(日本のサブカルチャーでうけるキャラクターとシナリオの作りかた)”が行われた。小高氏と言えば、『ダンガンロンパ』シリーズのディレクターやシナリオライターとしておなじみ。そして、『ダンガンロンパ』シリーズといえば、ユニークなキャラクターが海外でも人気が高い。というわけでこのセッションでは、小高氏がいかにしてユニークなキャラクターを生み出しているかの秘訣が明らかにされた。

※本リポート記事では、一部『ダンガンロンパ』のネタバレにあたる箇所に言及している部分があります。作品を未プレイの方は、くれぐれもご注意ください。

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 講演は、「北米でプレイステーション Vitaが売れてない」という嘆きからスタートした。小高氏は、訪れたゲームショップでもミクロサイズの陳列しかされていないことが残念だった様子。そのうえで、「小規模の予算で少人数でワンアイデアで作り切れる。クリエイターの個性を活かすには打ってつけのハードです」と来場者にプレイステーション Vitaを猛プッシュ。さらに、「そうすれば『ダンガンロンパ』シリーズももっと売れるので……」と付け加えて来場者の笑いを誘った。

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▲『ダンガンロンパ』シリーズの概要が改めて紹介。関連グッズが900点も発売されていることも説明された。

 と、そんなこんなで会場が温まったところで講演は本題に。日本で絶大な人気を誇る『ダンガンロンパ』。どのような点が受けているかアンケートを取ったところ、“魅力的なキャラクター”、“期待を超えるストーリー”、“ゲームシステム”などが挙げられたという。小高氏がインタビューを受けるときも、「キャラクターとストーリーとゲームシステムをどういう順序で作っていますか?」と聞かれることが多いのだとか。それに対して小高氏は、何かを固めてからつぎに移るのではなくて、全体を流動的に作っているのだという。中でも、小高氏がゲーム作りのもっとも中心においているのが“魅力的なキャラクター”。プレイヤーは、ゲーム内のほとんどの出来事を、キャラクターを通して体験しているので、勢いキャラクターにかかる比重が大きくなるのだ。キャラクターどうしの会話や行動がストーリーになっていて、プレイヤーキャラクターの行動がゲームシステムになっていると小高氏は分析する。そのため「印象に残るゲームにするには、印象的なキャラクターが不可欠」というのだ。

 では、魅力的なキャラクターを作るにはどうすればいいのか? それは“主観的な愛”だと小高氏は言う。「キャラクター作りには正解も不正解もありません。何をもって決めるかといえば、それは“自分が好きか好きではないか”で決めるしかない」ときっぱり。そのため小高氏は、会議などでも「女の子が喜びそうだよね」といった伝聞や分析のたぐいは一切信用しないのだという。「けっきょくいちばん大事なのは、“自分が好きなキャラクターを生み出すこと”」と小高氏。

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 その上で小高氏は、毎回あるプロセスを使ってキャラクターを作っているという。まず用意するのはキャラクターの要素となるキーワード。これはたくさん集めるので、項目に分けるのだという。小高氏が実際に使っている項目は、“バックボーン”、“外見”、“性格”。小高氏はキャラクター作りにおいて、思いつく限りのキーワードを集めるという。そのうえで、自分のハートが“キュン”と来るような組み合わせを考えるらしい。

 ここで小高氏は、キャラクター作りの一例を紹介。まずは、“格闘家”、“筋肉ムキムキ”、“ストイック”と組み合わせてみる。だが、これは何か地味過ぎてつまらない。その段階で、最初から作り直すこともあるが、キーワードをさらに足すという方法もあるという。今回は、後者のやりかたを試してみるとして、見た目はあえて“セーラー服”にしてみた。どうせ女性にするんだったら、乙女キャラにしてみて、史上最強に強くてムキムキなんだけど、女子力が高い……ということでできあがったのが、大神さくらというわけ。

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▲(小高氏がヤクザ映画が好きなので)“ヤクザ”+(外見はかわいいほうがギャップがあっておもしろいので)“かわいい外見”+(かわいい外見から好戦的な性格でもバランスは取れそう)“アグレッシブ”ということで生まれたのが、『スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園』の九頭竜冬彦。

 ちなみに、“テレビで活躍しているようなアイドル”+“おしとやかな優等生タイプ”+“性格がよい”ということで生まれたのが、舞園さやか。「アクの強い登場キャラクターが多い『ダンガンロンパ』にあって、さやかは癒やしのような存在になってくれるのでは」と思ったのだという。

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 さて、ここから先はどうするのか……というと、“役割”が付け加わる。それは、主人公との関係性や立ち位置みたいなものだ。舞園さやかをサンプルに、どんなキャラクターを演じてくれればよいかを考えるとすると、外見もよくて性格もいいから、ずっとそばにいてほしい、だったら、このゲームのヒロインになってもらおうと考えたのだという。ヒロインになると、プレイヤーキャラといっしょに行動してもらう必要があるということで、探偵の“助手役”という立ち位置が加われる。それに、「ふたりに何かあったらいいな」ということで、ベタだが“幼なじみ”という属性も追加された。この役割が追加されることで、物語序盤の立ち位置が決まるのだという。このあたりまでが、“ゲーム発売前のキャラクター紹介などで書かれること”だ。

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 とはいえ、このままでは少し物足りない……ということで、さらなるステップがつけ加えられることになる。それまでの要素がキャラクターに寄ったものだとすれば、ここからは物語要素としての“出来事”が加えられることになるのだ。「ここからがさらに個人の好みが分かれるところです」と小高氏。それに加えて、作品全体の雰囲気にも影響してくるという。まさに、『ダンガンロンパ』を『ダンガンロンパ』たるゆえんとしている部分と言ってもいいのかもしれない。舞園さやかの場合、『ダンガンロンパ』という世界観を考慮して、主人公とヒロインの関係はどうあるべきか……ということを考えたときに小高氏が思いついたのは、“極限状態の中でより親密になる”という、誰もが期待するような展開ではなくて、“いままでプラス要素をいっぱい活かしてきた彼女だけに、マイナス要素に巻き込まれてほしい”ということ。そこで、ヒロインである舞園さやかが、最初の犠牲者になってしまうことを考えたというのだ。しかも彼女は誰かを殺そうとして、返り討ちにあって誰かに殺されてしまう。さらに、彼女の計画では、その罪を主人公になすりつけようとした……などと、思いっきりマイナス要素が追加されたのだという。「おかげで最悪のヒロインになったと思います(笑)」と小高氏。一方で、これらの項目が足されることで、前よりもずっと彼女に対する興味が湧いてきたという。

 とはいえ、たたマイナス要素を足せばいいというわけではない。それまでのキャラクター性と“出来事”のギャップがありすぎるために、“彼女がこの行動を起こすとは思えない”と思われてしまうからだ。いわゆるリアリティーの欠如だ。だが、「じつはそれでいい」と小高氏は言う。“出来事”の項目で選ぶキーワードは、キャラクターとギャップがあればあるほどいい。それはなぜか? 「ギャップからキャラクターのエピソードが生まれる」からだ。

 キャラクターと“出来事”のあいだに理由をつけてあげる。“じつは悪女だった”という理由をつけると簡単だが、さすがにそれは安直に過ぎる。そこで本作の“殺人をしても、犯人だとばれなければ外に出られる”という設定を活かして、“夢と仲間のために外に出たかった”というエピソードを考えたのだという。キャラクターと“出来事”のギャップをキャラクターのエピソードで埋める。ここからキャラクターの新しい魅力が生まれるのだ。“出来事”はむしろ、キャラクターとギャップがあったほうがいいとさえ言える。「まず、予想外の“出来事”でプレイヤーを驚かせ、そのギャップを埋めるためのエピソードでキャラクターに深みを出す。そうすることで、物語展開の意外性を作りつつ、キャラクター性にも深みが出せます。そういう意味では、“出来事”はとくに重要で、物語としての展開とキャラクターの魅力のためにも、できるだけ意外な出来事を作ったほうがいい」と小高氏は語る。

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 ただし、やりすぎには注意が必要だ。ここで小高氏は、大学時代に映画の勉強していたとき、教授によく言われていたセリフを引用する。いわく「いくら驚きの展開とはいえ、あまりやりすぎてしまうと、キャラクターから人間性が失われて、コマのようになってしまう」と。それに対して小高氏は、ちょっと違うと思っていると語る。正確には「あくまでユーザーに、キャラクターがコマのように見えなければいい」というのだ。予想外の出来事を作るためには、ある程度コマのほうにする必要がある。そこにちゃんとエピソードを設けてあげればいいという。そのために必要になってくるのが、“愛のあるエピソード”。「じつは悪女だったという、とって付けたエピソードではなくて、キャラクターの魅力を引き出すエピソードを考えてあげなければいけません」と小高氏。こうすることで、予想外の“出来事”と、キャラクターとしての魅力を両立させることができるのだという。

 さて、生命を吹き込むキャラクター作り。それにはこれまで語ってきたほかに、もうひとつ重要な要素があるという。それはキャラクターの“死”。言うまでもなく『ダンガンロンパ』では、キャラクターの“死”が大きな要素を占めるが、キャラクターへの喪失感をプレイヤーに感じてもらうために、小高氏らは“好感度イベント”を考えたのだという。これは、メインのキャラクターといっしょに過ごすことで好感度が上がり、過去のエピソードが聞けたりするというもの。さらに好感度がマックスになると、特殊スキルが手に入るといった、ゲームプレイ的なアドバンテージもある。ただし、プレイヤーはつぎ誰が死ぬかを知らない。なので、せっかく好感度を上げていたキャラクターが突然死んでしまうこともある。「むしろそれが狙い」と小高氏。せっかく好感度を上げていたのに死んでしまうという喪失感を、プレイヤーに強く感じてもらうためのシステムだというのだ。キャラが死んですべてが終わるというわけではなくて、聞きそびれたエピソードもあるので、そこでキャラクターに深みを持たせられるのだという。“好感度システム”は、キャラクターを中心に考えていたからこそのシステムというのだ。

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 さらに、小高氏は、『ダンガンロンパ』におけるキャラクターの“死”と関連して、処刑シーンの“おしおきムービー”にも相当注力したという。「ある意味この処刑シーンは、犯人役であるキャラクターの最後の見せ場でもあるので、毎回キャラクターに合った、おもしろい殺しかたにしようと思っています」(小高氏)とのこと。

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 こういった具合に、いろいろな要素をキャラクターに結びつけて考えていくのが、小高氏のやりかただという。アクションゲームでも、“動きがかっこいい”とか“使いやすそう”という理由だけではモーションを作ったりしない。キャラクターにさらなる魅力が足されるかどうかを重要視して、モーションを作る。冒頭でも触れたとおり、ゲームにとってキャラクターは重要。そのため小高氏は、意図的にできるだけキャラクターを中心にしてゲームを考えているのだという。

 そして、魅力的なキャラクターを作ろうと思ったら、けっきょくは“愛”! と小高氏は断言する。そして、「愛してないキャラクターのシナリオを書くなんて、そもそも面倒くさくてできません」と心情を吐露。そのため小高氏は、自分のゲームに登場するキャラをすべて主役級に愛するようにしているのだという。愛があるからこそ、エピソードを深く書けるし、結果としてそれが魅力的に見えるのだ。

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 ただし、キャラクターへの愛が深ければ深いほどいいわけでもないと、小高氏は語る。逆に広い愛が必要になるというのだ。いろいろなタイプのキャラクターを好きになっておかないと、当然のことだが登場人物が偏ってしまう。だからこそ小高氏は「自分の好きなものを広げていく」ことの重要性を強調する。「いろいろなマンガ、いろいろな映画、いろいろな小説、いろいろなアニメ、そしていろいろなゲームを遊んで、いろいろなゲームを好きになっておく必要があります」と小高氏。

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 で、最後は「そういう意味では、いまからでも遅くはありません。プレイステーション Vitaを買いましょう! そこから新しい愛が見つかって、新しいキャラクターが生まれるかもしれません」と、あくまでプレイステーション Vitaオチで講演を締めくくった。

 魅力的なキャラクター作りの難しさは洋の東西を問わずいっしょ。小高氏の『ダンガンロンパ』におけるユニークなキャラクター作りの方法論は、海外のクリエイターにとっても大いに参考になったのではないかと思われた。