三上真司氏が語るTango Gameworkのいままでとこれから

 ベセスダ・ソフトワークスより2022年3月25日発売されたPS5/PC向けタイトル『Ghostwire: Tokyo』(ゴーストワイヤー トウキョウ)。ほとんどの人間が突然消えてしまうという謎の大消失事件が起きた東京・渋谷を舞台に、主人公の暁人とその身に憑依したKKの“ふたり”が二心同体となって戦う、完全新作のアクションアドベンチャーである。

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 このゲームを制作したのは、三上真司氏率いるゲーム開発スタジオ・Tango Gameworksだ。

 2010年に三上氏が設立し、Zenimax Mediaの開発スタジオとしてベセスダ・ソフトワークスのタイトルを開発。2014年に1作目となるサバイバルホラー『サイコブレイク』を全世界同時発売し、2017年には続編となる『サイコブレイク2』を発表した。『Ghostwire: Tokyo』はそれに続くTango Gamework3作目のタイトルとなる。

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Tango Gameworksの処女作にして、三上氏が初代ディレクターを務めた『サイコブレイク』。刑事・セバスチャンがさまざまな事件に巻き込まれていき、クリーチャーや狂気に陥った人間たちと戦っていく。不条理かつ悪夢に満ちた世界で描かれる世界観と登場人物たち、突き詰めたサバイバルホラー要素で人気を博し、シリーズ化された。

 12年の時を経て世に放たれた『Ghostwire: Tokyo』は、Tango Gameworkと三上氏にとってどのような作品となったのか。三上氏本人に訊いてみた。そして話は、Tango Gameworkの“これから”へと展開していく。

PS5版『Ghostwire: Tokyo』をAmazon.co.jpで購入する PS5版『Ghostwire: Tokyo Deluxe Edition』(デジタル版)をPS Storeで購入する

三上真司(みかみしんじ)

Tango Gameworks代表/ゲームデザイナー。カプコン在籍時に『バイオハザード』シリーズなどを制作。2010年にTango Gameworksを設立し、Zenimax Mediaの開発スタジオとしてベセスダ・ソフトワークスのタイトルの開発に従事。2014年に発売された『サイコブレイク』ではディレクターを務めた。

『Ghostwire: Tokyo』木村雅人Pと木村憲司Dのインタビュー記事はこちら

10年に1本は記憶に残るゲームを作る。本作はそうなるかもしれない

――今回は発売を迎えた『Ghostwire: Tokyo』、そしてTango Gameworksについてもお聞かせください。『Ghostwire: Tokyo』ですが、代表の立場から見てどのようなゲームになったとお考えでしょうか?

三上『サイコブレイク』シリーズは、我々に期待が寄せられていたサバイバルホラーに挑戦し、そしてシリーズ化したタイトルです。『Ghostwire: Tokyo』ではホラーテイストを少しだけ引きずっていると感じる方もいるかもしれません。ただ、誤解してほしくないのは、『Ghostwire: Tokyo』はホラーゲームではありません。本作は箱庭型のアクションアドベンチャーゲームです。そう説明しても、「いや、『サイコブレイク』シリーズの後でしょ?」と思われるかもしれませんが、人のいなくなった東京を自由に探索しながら敵を倒していく、純粋なアクションです。日本の街って、歩くだけでもおもしろいんですよ。そこはうまく表現できていると思います。あと、独特の手の動きで戦うアクションもカッコいい。とくにコアを引き抜くアクションがすごく気持ちいいので、ぜひ皆さんにも体験してほしいところですね。野球で言うとセンターみたいな作品です(笑)。

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――センター……“守備範囲が広い”=“いろいろな人が楽しめる”ということでしょうか(笑)。そんな本作の中で、とくに魅力に感じているポイントはありますか?

三上やはり渋谷の街並みでしょうか。「ここは見たことあるぞ、ここはいい雰囲気だな」と、眺めながら散歩できる感じがたまらないんですよ。

――Tango Gameworksは“世界を「あっ」と言わせる”ゲームを目指すスタジオだと思うのですが、『Ghostwire: Tokyo』はいかがですか?

三上Tango Gameworksを設立してから10年以上が経ちます。粗削りではありますが、ようやくハッキリと個性的なタイトルができたと思います。Tango Gameworksじゃないと作れないと思わせるテイストを持った作品になりましたね。10年に1本はプレイヤーの記憶に強く残るゲームを作りたいと思っているのですが、本作がその1本になるかもしれないという自信はあります

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――日本らしい日本を舞台にしたゲームは、まさに日本のスタジオだからこそ作れるものですよね。

三上そう思っていましたが、開発中に侍をテーマにした某ゲームが海外のスタジオから出て、驚かされましたね。日本のスタジオでなぜこんなゲームができなかったのかという思いもありましたし、日本人のツボを抑えたうえで、しっかりと日本の雰囲気を表現していた。しかもヒットしました。「我々は日本のスタジオならではの『Ghostwire: Tokyo』を作ったけれどどうなるかな」と、正直不安になったこともありました(笑)。

――時代設定もゲームのシステムも違いますから(笑)。『Ghostwire: Tokyo』の開発にはどれくらい携わったのですか?

三上途中でちょこちょこと触るのではなく、実際にゲームとして遊べるようになった段階でプレイして、チェックして意見するだけ、という感じです。極力、何も具体的なことはしないようにしていました。ただ、「これは言わないでおこう」と思っていてもつい口を出してしまって、そこは反省しました。感覚的には“家族をにこやかに見守るおじいちゃん”でいたかったのですが、実際は“口うるさいカミナリ親父”というか(笑)。ちなみに、ゲームは3周プレイしました。

――3周……さすがですね。ちなみに、どういった部分で意見を出されたのでしょうか?

三上単純に、おもしろくないものには「おもしろくない」と言いましたね。僕は企画の段階で狙っている要素を把握しているので、ゲーム内に盛り込まれている要素が別の方向を向いていると感じた場合は、「ここは企画の意図と違うんじゃない?」とツッコミを入れていました。キムケンにはやさしく手を差し伸べたいのに、「言ってることとちゃうやん。何でこんなふうになってんの?」みたいな言いかたになってしまって(苦笑)。僕が答えと思うものを持っている場合もあるのですが、そこはグッとこらえてキムケンが自分で解決するように、何も言わずに任せるようにしていました。

――それは木村さんもキムケンさんも言っていましたね。本作はTango Gameworksとしても重要な作品であったと思いますが、キムケンさんにディレクターを任せられた理由は?

三上別の仕事を任せていたのですが、『Ghostwire: Tokyo』の進捗に合わせてディレクターを任せることにしました。キムケンは、企画力がバツグンにある一流のクリエイターだと思っています。情報も規模も増えて大型化したプロジェクトをまとめて、おもしろいものをしっかりとした形にするのは、なかなかたいへんなことなんです。『Ghostwire: Tokyo』はアートから始まった企画ですが、アートはものすごくいいけれど、ゲームとしてなかなか形にならなかった。それを形にしてくれたのがキムケンでした。それに彼はものすごくタフなんですよ。スタッフが自由に発言できるスタジオなので、ブレずにいろいろな意見をまとめるディレクターはタフな彼に合っていたと思います。

――意欲的でありながら、オードソックスな部分もきちんとあって、多くのプレイヤーが楽しめる作品になっていると思います。

三上ゲームに自信はあるのですが、新しいゲームを作って「これはどう受け止められるんだろう」とドキドキする感覚は、じつはTango Gameworksでは初めてかもしれません。『サイコブレイク』は慣れ親しんだサバイバルホラーだったので、ある程度は予想ができたというか……。アートを見た時点で「これは大事に育てよう」と決めたタイトルなので、どのように楽しんでもらえるか、こんなにドキドキしているのはひさしぶりで、若返ったような気すらしています(笑)。

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Tango Gameworkをクリエイターとしての腕と芯を成長させられる場所に

――Tango Gameworksの前身であるTangoの設立時には10名ほどしかいなかったそうですが、現在はどれくらいの規模になっているのでしょうか?

三上スタジオの人数を明確には言えないのですが、設立当初よりはかなり増えました。ここ数年は新卒の社員も採用していて、平均年齢もだんだんと若返りつつあります。新人をたくさん採用するというのは設立当初から僕の中にある方針だったのですが、少ない人数から始まったので、まずは地盤を固める必要がありました。ここ最近でようやく新卒を採用できるようになり、将来が有望なスタッフも現れています。ここからまた数年、スタッフたちのがんばりに期待できると思っています。

――三上さんの中でTango Gameworksを続けるモチベーションはどこにあるのでしょうか。

三上続けられているのは、まだ自分の理想に追いついていないからです。理想に追いついてしまったら、つまらなくないですか? 僕って飽き性なんですよ。これまでのゲームでも、続編の制作に関わったことは少ない。もし開発がパターン化して、同じようなことの延長線でゲームを作るスタジオになったら辞めてしまうかも(笑)。もちろん、理想にどんどん追いついていってはいますよ。

――その理想とは、具体的にどのようなものなのですか?

三上まずは、先ほど言ったように“10年に1本は名作を出す”ということです。つぎに“若手が自分たちの力で新しいゲームを作る”。そして“いいクリエイターを育てる”ということもあります。ゲームを作るスタジオではありますが、スタッフでありながらもゲーム作りが学べるゲームスクールのような側面も持たせていきたいんです。ボトムアップしていきながら、クリエイターとしての腕と芯を成長できる場所にしたい。

――ゲームスクールの側面を持つゲーム開発スタジオ。それはユニークですね。

三上一時期、少しのあいだですが教師になりたいと思ったこともあるので、人を育てるのが好きなのかもしれませんね(笑)。言ってしまうと、Tango Gameworksではまだ“三上”の名前が強いんです。そうではなく、キムケンなども含めてほかのクリエイターの名前がTango Gameworksの看板になってほしいんですね。

――ゲームを開発し続けなければならない環境で、その理想を具現化するのは難しくありませんか?

三上正直、大規模なチームの中で新人を育成するのはかなり難しい。数十人規模のゲーム開発チームをいくつか走らせるのが、もっとも効果的と考えています。近年は、商業的なことを考えると大規模チームで開発を進めるほかにありませんでした。しかし、ここ数年のあいだにゲームのサブスクリプションサービスなども登場し始めたおかげで、小規模のゲームも作れるようになってきたと感じています。

――市場という商業的な面を見ても、若手がチャレンジしやすい環境が整ってきた。

三上そうです。小規模なチームで経験を積んだ後に大きなプロジェクトに関わる、という流れが実現できます。そうすれば、さらにいいゲームが作れるようになりますし、プロジェクトもスムーズに進むようになりますから。

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――2月にはTango Gameworksとして初となるスマートフォン向けのゲームアプリ『ヒーローダイス』を発表されましたが、これもそういった施策の一環で始めたことですか?

三上若手スタッフの意見を汲み取ってスタートした企画ですね。じつは個人的にはスマートフォン向けのゲームをTango Gameworksで作る気はなかった。スマホ向けのゲームが嫌いというわけではないですし、おもしろければいいと思います。ただ、これも個人的な感情ではあるのですが、基本プレイ無料で課金要素を加えるという仕組みがあまり好きではなくて、企画にブレーキを掛けてしまっていた。でも、課金要素のあるゲームをたくさんプレイしていくうちに、僕の中にある抵抗感も薄れてきて、自分の考えかたや感覚をフラットにして前向きになったとき、若手スタッフから「これはメチャクチャおもしろくてチャンスがあるタイトルだ」という企画があがってきました。それが『ヒーローダイス』です。

――自分の考えかたが変わった。

三上僕はスタジオの代表ですから、商売的にもうかることにチャレンジすることは大事だと考えています。でも、ゲームとしておもしろいという可能性があるものにこそチャレンジする価値があると思います。おもしろいことは大前提で、課金をしなくともちゃんと楽しめるゲームになるという確信が持てたので、GOサインを出しました。

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Tango Gameworks初のスマートフォン用ゲームアプリ『ヒーローダイス』。スゴロクとカードを組み合わせた対戦型ゲームで、三上氏いわく「ほかにはないスマホゲーム」とのこと。2022年3月31日より、iOS/Android対応で配信予定!
『ヒーローダイス』公式サイト
『ヒーローダイス』公式YouTubeチャンネル

――ほかにもTango Gameworkで開発中のタイトルはありますか?

三上『サイコブレイク』のDLCと『サイコブレイク2』でディレクターを務めたジョン・ジョハナスが、ホラーとは真逆の完全新作を制作中です。すごくいいゲームなので、期待していてください。

――続報をお待ちしています。最後に、Tango Gameworksとしての今後の目標は?

三上まずは先ほど言った理想を達成することです。そして、いまのTango Gameworksが持つイメージを最終的には消せたらいいなと思っています。いまのところ、やはり“サバイバルホラーが得意なスタジオ”のような見られかたをされていて。もちろんファンの方々に、サバイバルホラーの開発には定評があるスタジオだと思っていただけるのはうれしいです。ただ、もっといろいろなゲームが作れるスタジオと思われたいんですよ。『Ghostwire: Tokyo』を皮切りに、これからどんどん目新しいゲームをリリースしていくので、ぜひ応援をお願いいたします。

『Ghostwire: Tokyo』木村雅人Pと木村憲司Dのインタビュー記事はこちら

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